「旧富士見産婦人科病院の医師の行政処分等について」
平成17年3月2日 医道審議会医道分科会


旧富士見産婦人科病院の医師の行政処分等について

1.  はじめに
 本日、当分科会において、厚生労働大臣からの諮問を受け、旧富士見産婦人科病院の医師の行政処分について審議し、答申を行った。
 本事案は、刑事責任を問われなかった医療行為に係る医師の行政処分について審議した最初の事案であり、様々な論点があったことを踏まえ、本事案に係る当分科会の考え方をまとめたものである。
 なお、これまでの経緯、諮問の内容等については、別紙の通りである。

2.  答申を行うに当たっての考え方
(1)  審議に当たっては、医療に対する国民の信頼を確保し、適切な医療が提供されることを期するという行政処分の趣旨を踏まえ、諮問された医師が適切な医療を行っていたかどうかという観点から検討を行った。
(2)  諮問は、現存する資料を基に、事実確認が可能と考えられるものについて行われたが、諮問された医師の医療行為は、医師等の資格のない者による検査の結果を基に、慎重な検討なく、子宮、卵巣という重要な臓器についての摘出手術が行われたこと等が認定でき、医事に関する不正があったというべきである。
(3)  良質かつ適切な医療を行うという医師に期待される役割や、本事件を契機に我が国の医療に対する信頼が大きく失われたことを踏まえれば、このような医療行為を行った医師に対しては、厳重な処分を行うべきものである。
(4)  他方、諮問された医師については、以下の点が認められた。 (1)  不適切な医療行為への関与の程度は、医師によって異なること
(2)  傷害罪については不起訴とされていること
(3)  医師の中には、自宅の競売等により損害の一部を賠償した医師や、他院に就職後も本事案により転職を余儀なくされた医師もいること

(5)  また、答申に当たっては、以下の事情についても議論を行った。 (1)  諮問された事案の発生から既に20年以上経過していること。現在すでに医業を実施していない医師がいるとともに、現時点でこれらの医師により本事案と同様の医療行為が行われることは考え難い。他方、医師法上の行政処分については時効等の規定はない。
(2)  平成11年の民事裁判の第一審判決後、控訴しなかった医師について、当時、旧厚生省が医道審議会に諮問しないとした経緯があるが、その後他の医師により最高裁判所まで争われ民事判決が確定したという事情の変化もある。


3.  答申の内容
 当分科会においては、以上のような考え方に基づき、医師免許制度への信頼を確保し、適切な医療の提供を期するという行政処分の趣旨を踏まえ、各医師の責任の程度や関与の内容等も勘案し、次の通りの行政処分が相当との結論に至ったものである。  医師  免許取消  1名
 医師  医業停止2年  2名
 医師  医業停止6月  1名
 医師  戒告  1名


4.  今後の対応
 今後の行政処分に当たっては、今回の調査や議論の経験を活かし、適切に実施していくことが必要である。
 そのためには、任意の事情聴取のみでは調査等に一定の限界があると考えられ、厚生労働省に報告聴取の権限を付与することについて検討されるべきである。また、迅速かつ適切に行政処分等を行っていく重要性・必要性を踏まえれば、そのための組織体制の充実についても検討されるべきである。
 他方、刑事判決によることなく行政処分を行うには、明確な事実認定を独自に行う必要があるなど、一定の制約があることにも留意が必要である。特に本件においても、事案の発生から20年以上が経過し、事実確認を行うための調査に困難があったことを踏まえると、原則として事案の発生後一定期間(診療録の保存期間を踏まえると5年)以内のものを対象としていくことが適当と考えられる。
 以上のとおり、適切な行政処分を行うとともに、現在検討されている行政処分を受けた医師に対する再教育を行うこと等により、引き続き、医師の資質の向上に努めていくべきである。


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(別紙)
これまでの経緯・諮問の内容等

(1)  本事案は、旧芙蓉会富士見産婦人科病院において、昭和49年から55年の間に、医師等の資格のない同病院の理事長の検査、診断等に基づき、同病院の院長及び医師5名(うち1名は既に死亡)が、手術の適応が認められないのに患者の子宮、卵巣の摘出を行ったなどとして、元患者らが損害賠償を求め、昨年7月に医師側敗訴の民事判決が最高裁判所で確定しているものである。
 刑事事件としては、平成2年、院長について非資格者に診療の補助行為を行わせたとして保健婦助産婦看護婦法(当時)違反の刑事罰が確定しているが、院長及び各医師は傷害罪について不起訴とされた。
 行政においては、昭和56年、院長について保健婦助産婦看護婦法違反として医業停止6月の行政処分が行われたが、院長及び各医師の医療行為を理由とした行政処分はこれまで行われていない。


(2)  平成16年7月の民事判決の確定後、同月の医道審議会医道分科会において、民事判決の内容や論点の整理を行うべきであるとの意見が出され、同年12月の医道分科会において、民事判決の内容等を基に議論した結果、「処分の対象となり得るので、更に調査を行うことが適当」との結論となった。
 その後、関係資料や各医師に対する任意聴取等の調査、行政手続法に基づく聴聞手続が行われ、本日、厚生労働大臣から医道審議会に諮問が行われた。


(3)  民事判決においては、計60事例について損害賠償請求が認められているが、諮問については、そのうち9事例を基に行われた。その理由として、「(1)民事判決の判決文のみからではなく、診療録等の原資料から事実が確認できるもの、及び(2)医師等の資格のない者による検査の結果を基に慎重な検討なく手術が行われたものや、挙児を希望しているにもかかわらず慎重な検討なく子宮の摘出手術が行われたものなど、明らかに不適切な医療行為であると考えられるもの、を対象とした。また、民事判決では、種々の状況から同病院に不適切な診療システムが存在したとしているが、明確に事実認定できる個々の事例を対象とした。また、事実認定は民事裁判に提出された資料など現存する資料を基に事実が確認できるものについて行った(刑事事件の捜査の際に用いられた資料については既に保存年限を過ぎており既に廃棄されている)。」旨の説明があった。
 明確な事実認定に基づいて行政処分を行うことが必要であるとの考えから、この諮問を基に審議が行われた。(このことは、諮問の対象とならなかった事例等に対する裁判所の判断を否定するということではない。)


(4)  なお、審議に当たっては、同病院の元患者からの厳重な行政処分を求めるとの意見についても、紹介がなされた。

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