軽微な当て逃げ事故でも出頭すべきか

刑事|当て逃げ事故で成立する犯罪|警察による逮捕の可能性および回避する方法|出頭により捜査を誘発するか

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参照条文

質問

先日、都内で自動車を運転中に、路肩に停めてあった車と私の車のドアミラーが接触してしまいました。そのときは、たいして強くぶつかっていないと思いそのまま停車することなく走行を続けてしましましたが、降車後に確認したところ私のドアミラーが折れてしまっていたため、相手の車も同じように破損してしまったかもしれません。

私の行為は、処分なしになるのでしょうか。今後、警察が来ていきなり逮捕される可能性はあるのでしょうか。警察はどこまで調べるものでしょうか。私は、どのように対応したら良いでしょうか。

回答

運転する自動車を他人の車に接触させて破損した場合、法律上は「交通事故」を起こしたものと分類されます。

交通事故を起こした運転者は、直ちに車両等の運転を停止して、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない義務(危険防止措置義務違反)、及び警察官に当該交通事故について報告しなければならない義務(報告義務違反)が存在します。

そのため、本件でのあなたの行動には、これらの義務に違反する道路交通法違反として刑事処罰の対象となる可能性があります。

仮に道路交通法違反が成立する場合でも、今回のような軽微な事故であれば、逮捕にまで至る可能性はそこまで高くはないと思われます。

ただし、事故による被害の程度によっては、警察の捜査によりあなたが逮捕されてしまう危険性も否定できません。

このような危険性を払拭するためには、自ら警察に出頭し、今からでも事故を報告することが考えられます。場合によっては、弁護士を出頭に同行させた上で、事故の被害者に対して修理費用等を賠償して示談をする意思がある旨を警察伝えておいた方が良いでしょう。

軽微な物損事故について自ら警察に出頭した場合でも、特に被害届が出ていないような場合、警察としてはことさら捜査を進めることは普通はありませんから、ご不安を早期に、解消するためにも、一度弁護士に相談してみることをお勧め致します。

解説

1 本件で成立しうる犯罪について

(1) 危険防止措置義務違反

道路交通法67条2項では、「車両等の交通による人の死傷若しくは物の損壊」を「交通事故」と定義しています。従って、自動車を運転して他人の車に接触させて破損させてしまった場合、法律上は「交通事故」を起こしたものと分類されます。

そして、交通事故を起こした運転者は、直ちに車両等の運転を停止して、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならないとされています(道路交通法72条1項前段)。これは、いわゆる「危険防止措置義務」と呼ばれる運転者の義務です。たとえば、物損事故の場合、破損して飛び散ったミラーの破片等が後続の事故を発生させる危険も考えられるため、これら破片を片付ける等の措置を採る必要があります。

仮にこの義務に違反した場合には、道路交通法117条の5第1項により、一年以下の懲役または十万円以下の罰金の刑に処される可能性があります。

本件では、停車していた車両に接触して破損させながら、現場に停車せずに走り去ってしまっているとのことですので、危険防止措置義務違反の罪が成立してしまう可能性が考えられます。

(2) 報告義務違反

さらに、交通事故を起こした場合には、警察官に当該交通事故について報告しなければならない義務(報告義務違反)が存在します(道路交通法72条1項後段)。

具体的には、「当該交通事故が発生した日時及び場所、当該交通事故における死傷者の数及び負傷者の負傷の程度並びに損壊した物及びその損壊の程度、当該交通事故に係る車両等の積載物並びに当該交通事故について講じた措置」について、報告する必要があります。

本件では、警察への連絡を一切していないとのことですので、報告義務違反として刑事処罰の対象となる可能性があります。

報告義務違反に対する処罰の法定刑は、三か月以下の懲役または五万円以下の罰金となります(道路交通法119条1項)。

(3) 救護義務違反罪

なお、仮に本件での車両の接触により、負傷者が発生していた場合には、道路交通法の救護義務違反(いわゆる「ひき逃げ」)に該当する危険性もあります(道路交通法117条1項前段)。

救護義務違反に対する刑罰は、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金ですが、その死傷が当該運転者の運転に起因するものであるときは、十年以下の懲役又は百万円以下の罰金という重い罪となってしまいます(道路交通法117条)。

救護義務違反は、前記の危険防止措置義務違反、報告義務違反と比較しても非常に重い罪であり、警察の捜査により逮捕されてしまう危険性は非常に高いです。仮に、車の周りに人が居たなどの事情があり、人が負傷している可能性が高い場合には、至急対処する必要があります。

2 今後予想される捜査の流れと対処方法について

(1) 捜査の流れ、逮捕の可能性

もし、相手の車両の持ち主などが警察に被害の申告をしていた場合、ドライブレコーダーや周辺の防犯カメラ映像の捜査が実施され、あなたが上記法律違反の被疑者として捜査の対象となる可能性は考えられます。

捜査の方法としては、あなたを警察署に任意で呼び出して事情聴取を行う場合もあれば、逮捕令状が発令されて警察が突然あなたを逮捕するという場合もあります。

自動車のミラーが破損した程度の事故の報告義務違反であれば、任意での事情聴取により捜査が進む可能性も高いかと思われますが、相手車両の被害の程度によっては、逮捕状が出ている可能性も否定はできません。特に、万が一負傷者が出ている場合の救護義務違反の場合は、ほぼ確実に逮捕されてしまうことになります。

(2) 刑事処分を回避する方法

逮捕等に至る可能性を回避するためには、警察が逮捕令状を取得する前に自ら警察署に出頭し、任意捜査に応じる旨を申し出ておくことが考えられます。自ら出頭した被疑者については、逃亡や証拠隠滅のおそれが小さいと客観的に認められるため、逮捕等に至る可能性は小さくなります。

その際には、可能であれば弁護士を出頭に同行させ、弁護士から逃亡や証拠隠滅をしない旨を客観的に補償してもらうと良いでしょう。

また、本件のような事件の処分を決めるに際しては、被害者との示談が成立するか否かが最も大きな影響を及ぼします。被害者に対して損壊の修理代を支払う等の内容で示談が成立すれば、刑事処分を回避できる可能性は飛躍的に高まります。そのため、出頭の際に、示談の意思があることを警察官に対して申し出ることも必要です。

その際には、単にその意思を申し出るだけでなく、具体的な準備をしていることを客観的に示すことも必要です。任意保険で賠償可能なのであればその資料を持参するか、又は弁護士に一定の示談金を預託し、預かり証等を証明書として提出することも考えられます。

(3) 出頭により捜査を誘発するか

なお、中には、「警察が事故について把握していない(被害者が特に被害申告をしていない)ような場合に、出頭することによってかえって警察による事件捜査を誘発してしまう(藪をつついて蛇を出す)ことになるのではないか」と心配される方も居られます。

しかし、基本的にその心配はございません。出頭した際に、特に被害申告が出ていなければ、警察としても積極的に事件捜査に乗り出すことは基本的に余りしません。その場合は、「仮に後に被害者から申告があった場合には、きちんと被害弁償等の対応を致します。」と伝えておけば足ります。特にその後も被害申告がされなかった場合は、特に事件としては認知されずそのまま手続き終了となります。

また出頭した時点で警察が事故について認識していなかった場合には、法律上「自首」という扱いになり、刑の減軽の規定の対象となります(刑法第42条1項)。

さらに場合によっては、弁護士より、当事者の名前を秘匿したまま、事故の日時や場所等から、被害届け出の有無について警察官に確認することも可能です。どこまで被害届出の状況を教えてくれるかは警察次第ではありますが、交渉によりある程度の情報を聞き出すことは可能です。

そのため、もし交通事故を起こしてしまったという不安があるのであれば、状況の確認のためにも速やかに弁護士等に依頼することをお勧め致します。

3 まとめ

あなたのような状況ですと、最悪の場合、突然警察が家に来て逮捕されてしまう危険性も否定できません。ご不安を早期に解消するためにも、一度弁護士に相談してみることをお勧め致します。

以上

関連事例集

参照条文
道路交通法

(危険防止の措置)
第六十七条 警察官は、車両等の運転者が第六十四条第一項、第六十五条第一項、第六十六条、第七十一条の四第三項から第六項まで又は第八十五条第五項から第七項(第二号を除く。)までの規定に違反して車両等を運転していると認めるときは、当該車両等を停止させ、及び当該車両等の運転者に対し、第九十二条第一項の運転免許証又は第百七条の二の国際運転免許証若しくは外国運転免許証の提示を求めることができる。
2 前項に定めるもののほか、警察官は、車両等の運転者が車両等の運転に関しこの法律(第六十四条第一項、第六十五条第一項、第六十六条、第七十一条の四第三項から第六項まで及び第八十五条第五項から第七項(第二号を除く。)までを除く。)若しくはこの法律に基づく命令の規定若しくはこの法律の規定に基づく処分に違反し、又は車両等の交通による人の死傷若しくは物の損壊(以下「交通事故」という。)を起こした場合において、当該車両等の運転者に引き続き当該車両等を運転させることができるかどうかを確認するため必要があると認めるときは、当該車両等の運転者に対し、第九十二条第一項の運転免許証又は第百七条の二の国際運転免許証若しくは外国運転免許証の提示を求めることができる。
3 車両等に乗車し、又は乗車しようとしている者が第六十五条第一項の規定に違反して車両等を運転するおそれがあると認められるときは、警察官は、次項の規定による措置に関し、その者が身体に保有しているアルコールの程度について調査するため、政令で定めるところにより、その者の呼気の検査をすることができる。
4 前三項の場合において、当該車両等の運転者が第六十四条第一項、第六十五条第一項、第六十六条、第七十一条の四第三項から第六項まで又は第八十五条第五項から第七項(第二号を除く。)までの規定に違反して車両等を運転するおそれがあるときは、警察官は、その者が正常な運転ができる状態になるまで車両等の運転をしてはならない旨を指示する等道路における交通の危険を防止するため必要な応急の措置をとることができる。
(罰則 第一項については第百十九条第一項第八号 第三項については第百十八条の二)

(交通事故の場合の措置)
第七十二条 交通事故があつたときは、当該交通事故に係る車両等の運転者その他の乗務員(以下この節において「運転者等」という。)は、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない。この場合において、当該車両等の運転者(運転者が死亡し、又は負傷したためやむを得ないときは、その他の乗務員。以下次項において同じ。)は、警察官が現場にいるときは当該警察官に、警察官が現場にいないときは直ちに最寄りの警察署(派出所又は駐在所を含む。以下次項において同じ。)の警察官に当該交通事故が発生した日時及び場所、当該交通事故における死傷者の数及び負傷者の負傷の程度並びに損壊した物及びその損壊の程度、当該交通事故に係る車両等の積載物並びに当該交通事故について講じた措置を報告しなければならない。
2 前項後段の規定により報告を受けたもよりの警察署の警察官は、負傷者を救護し、又は道路における危険を防止するため必要があると認めるときは、当該報告をした運転者に対し、警察官が現場に到着するまで現場を去つてはならない旨を命ずることができる。
3 前二項の場合において、現場にある警察官は、当該車両等の運転者等に対し、負傷者を救護し、又は道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図るため必要な指示をすることができる。
4 緊急自動車若しくは傷病者を運搬中の車両又は乗合自動車、トロリーバス若しくは路面電車で当該業務に従事中のものの運転者は、当該業務のため引き続き当該車両等を運転する必要があるときは、第一項の規定にかかわらず、その他の乗務員に第一項前段に規定する措置を講じさせ、又は同項後段に規定する報告をさせて、当該車両等の運転を継続することができる。
(罰則 第一項前段については第百十七条第一項、同条第二項、第百十七条の五第一号 第一項後段については第百十九条第一項第十号 第二項については第百二十条第一項第十一号の二)

第百十七条 車両等(軽車両を除く。以下この項において同じ。)の運転者が、当該車両等の交通による人の死傷があつた場合において、第七十二条(交通事故の場合の措置)第一項前段の規定に違反したときは、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
2 前項の場合において、同項の人の死傷が当該運転者の運転に起因するものであるときは、十年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。

第百十七条の五 次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。
一 第七十二条(交通事故の場合の措置)第一項前段の規定に違反した者(第百十七条の規定に該当する者を除く。)
二 第五十一条の二(違法駐車に対する措置)第十項の規定に違反して車輪止め装置を破損し、又は取り除いた者
三 第百八条の三の三(講習通知事務の委託)第二項、第百八条の七(秘密保持義務等)第一項、第百八条の十八(秘密保持義務)又は第百八条の三十一(都道府県交通安全活動推進センター)第五項の規定に違反した者

第百十九条(略) 次の各号のいずれかに該当する者は、三月以下の懲役又は五万円以下の罰金に処する。
十 第七十二条(交通事故の場合の措置)第一項後段に規定する報告をしなかつた者