都市計画決定までの流れ|都市計画法16条と17条の説明会

都市再開発法|都市計画法16条と17条の説明会への対応と対策|最高裁判所平成18年11月2日判決

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集

質問

再開発区域内の駅前建物を所有して建物賃貸業を営んでおります。数年前より駅前再開発の話がもちあがり、このたび市役所より、「都市計画法16条に基づく説明会」という案内が来ました。

これはどのようなものなのでしょうか、どのように対応すべきでしょうか。また、「都市計画法17条に基づく説明会」というものもあると聞きました。こちらについても併せて教えて下さい。

回答

1 再開発事業は、都市再開発法という法律によってすすめられますが、その前提として都市計画法に基づく「再開発促進区を定める都市計画決定」と、「市街地再開発事業の都市計画決定」の2つの都市計画決定を経る必要があります。御質問の説明会は、これらの都市計画決定に先立って行われる地域住民向けの公聴会、説明会です。都市計画をどのように策定しようとしているのか、資料つきで説明されます。「再開発促進区を定める都市計画決定」において、再開発促進区や高度利用地区が定められますが、計画案を作成するために、公聴会が開かれるのが一般的です。

2 その後、都市計画案が作成されると、都市計画案を2週間の縦覧に付して意見書を募集すると同時に、その趣旨や内容を説明する説明会が開催されることが一般的となっています。説明会の最後には、簡単な質疑応答の時間も設けられますが、正式な意見としては都市計画法17条2項の意見書を提出するのが良いでしょう。詳細については解説で説明します。

3 再開発事業に対して意見をお持ちの場合は、主張を文書にまとめて提出することをお勧め致します。御自身で文書をまとめることが難しいようであれば、経験のある法律事務所に御相談なさると良いでしょう。

4 再開発区域への参加辞退については、再開発組合への参加拒否・辞退についてを参照下さい。

5 再開発の都市計画決定を法的に争った場合の判断基準については、再開発の都市計画決定を法的に争った場合の判断基準を参照下さい。

解説

第1 市街地再開発事業

市街地再開発事業は、都市部の土地高度利用(国民経済の発展)や、建物の不燃化や耐震化など、公共目的を推進するために、建物の建て替えや明け渡しについて一括処理を可能とする権利変換という特例を認めた都市再開発法によるビルの建て替え手続です。

都市再開発法第1条(目的)
この法律は、市街地の計画的な再開発に関し必要な事項を定めることにより、都市における土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新とを図り、もつて公共の福祉に寄与することを目的とする。

木造家屋の密集区域を鉄骨鉄筋コンクリート造の建物などの耐震不燃建物に建て替えることにより、建物の不燃化と耐震性向上を図ることができ、都市の防災機能を向上させることができます。建物の防災機能が向上することにより、当該建物の所有者や賃借人だけでなく、当該建物の周りの建物の所有者や賃借人の安全性も向上することになります。

床面積の増大により人口過密地区を解消したり、上下水道の整備を促進できれば、伝染病の防疫など公衆衛生の向上に役立ちます。

商業区域においては、高層ビルの建設により床面積が増加すれば商業機能を高めることにより、土地の高度利用による国民経済の振興というメリットを享受することもできます。当該建物の商業機能が高まったことの相乗効果により、街の賑わいが増大すれば、当該建物の周りの建物の所有者や賃借人も商業機能が高まったメリットを享受することができます。

土地建物は私有財産ですが、特に市街地においては単独で存在しているものではなく、区域一帯の中で隣地と共に存在し利用されており、ひとつの建物が倒壊したり火災になってしまうと、延焼類焼などにより周りの住人にも被害を巻き込んでしまうおそれがありますし、区域一帯が商業ビジネスで発展しているときに一区画の地主だけが反対してビルの建て替えができないことになってしまうと区域全体の経済発展が阻害されてしまいます。

そこで、市街地の木造家屋密集地区を中心に、行政による「再開発促進区」の都市計画決定(有識者等による都市計画審議会の議決)などを条件として、区域一帯の一括建て替えを促進する都市再開発法の権利変換手続が整備されることになったのです。自分が所有・賃借している土地建物だからと言って、公益性のある周辺一帯の建て替え手続に反対し続けることはできない仕組みになっています。

ここで権利変換手続の概要を示します。

(1) 区域一帯の地権者5名以上で再開発組合の設立を準備する任意団体を設立する(市街地再開発勉強会、再開発協議会、再開発準備組合など)。

(2) 参加組合員予定者となる不動産デベロッパーなどと協力し、行政協議を経て、都市計画審議会が審議する「再開発促進区」「市街地再開発事業」の原案を取りまとめる。

(3) 都市計画の行政決定(公告)後に、再開発事業計画案と、再開発組合の定款など規約類を用意して、準備組合総会において、再開発組合設立認可申請を行う決議を行い、都道府県知事に対して本組合(市街地再開発組合)設立認可申請を行う。

(4) 設立認可申請書類一式の審査を経て、市区町村が事業計画の縦覧を2週間行い、意見書の提出を募集する。意見書の審査を経て、事業計画と組合設立の認可公告がなされる。

(5) 組合内において住戸選定会などを経て、権利変換計画の原案を作成し、2週間の縦覧を行い、意見書の提出を募集する。意見書の審査を経て、権利変換計画の認可申請を行う。

(6) 行政の審査を経て、権利変換計画認可公告がなされる。通常、権利変換期日は認可公告の1~2週間以内の期日が指定される。

第2 権利変換期日における権利の消長と明け渡し

再開発区域内の建物に関する占有権限(所有権、借家権)は、権利変換計画に従い、権利変換期日に全て消滅し、建物所有権は再開発組合(市街地再開発事業の施行者)に移行し、全ての占有者は、明け渡しに伴う転居費用など損失補償の提供を受けて、ビルの建て替え期間の立退きをすべきことが法定されています。

権利変換計画書には、従前建物の土地建物の特定と評価額が記載され、これに対応して割り当てられる(権利変換される)建て替え後の建物の面積と評価額と、敷地利用権の特定と評価額が記載されます。

権利変換の書式は都市再開発法施行規則別記様式第10を参照下さい。

権利変換期日に、建物所有権は従前大家から再開発組合に移転し、建物賃借権や使用貸借権は消滅することになります(都市再開発法87条2項)。

都市再開発法第87条(権利変換期日における権利の変換)
第1項 施行地区内の土地は、権利変換期日において、権利変換計画の定めるところに従い、新たに所有者となるべき者に帰属する。この場合において、従前の土地を目的とする所有権以外の権利は、この法律に別段の定めがあるものを除き、消滅する。
第2項 権利変換期日において、施行地区内の土地(指定宅地を除く。)に権原に基づき建築物を所有する者の当該建築物は、施行者に帰属し、当該建築物を目的とする所有権以外の権利は、この法律に別段の定めがあるものを除き、消滅する。ただし、第六十六条第七項の承認を受けないで新築された建築物及び施行地区外に移転すべき旨の第七十一条第一項の申出があつた建築物については、この限りでない。

建物所有権が再開発組合に移転し建物賃借権が消滅すると、従前所有者や賃借人は建物を占有し続ける法律上の根拠を失いますが、都市再開発法では、組合からの明け渡し請求を受けるまでは引き続き占有継続することができると規定されています(都市再開発法96条1項)。

組合からの明け渡し請求は、権利変換期日後に、30日以上の猶予をあけて通知する必要があります(都市再開発法96条2項)。これは通常、内容証明郵便で通知されます。実際の再開発手続においては、権利変換期日前から立ち退きが進行しているケースが多くなっています。

都市再開発法第96条(土地の明渡し)
第1項 施行者は、権利変換期日後第一種市街地再開発事業に係る工事のため必要があるときは、施行地区内の土地又は当該土地に存する物件を占有している者に対し、期限を定めて、土地の明渡しを求めることができる。ただし、第九十五条の規定により従前指定宅地であつた土地を占有している者又は当該土地に存する物件を占有している者に対しては、第百条第一項の規定による通知をするまでは、土地の明渡しを求めることができない。
第2項 前項の規定による明渡しの期限は、同項の請求をした日の翌日から起算して三十日を経過した後の日でなければならない。
第3項 第一項の規定による明渡しの請求があつた土地(従前指定宅地であつた土地を除く。)又は当該土地に存する物件を占有している者は、明渡しの期限までに、施行者に土地若しくは物件を引き渡し、又は物件を移転しなければならない。ただし、第九十一条第一項又は次条第三項の規定による支払がないときは、この限りでない。
第4項 第一項の規定による明渡しの請求があつた土地(従前指定宅地であつた土地に限る。)又は当該土地に存する物件を占有している者は、明渡しの期限までに、施行者に土地を引き渡し、又は物件を移転し、若しくは除却しなければならない。ただし、次条第三項の規定による支払がないときは、この限りでない。
第5項 第九十五条の規定により建築物を占有する者が施行者に当該建築物を引き渡す場合において、当該建築物に、第六十六条第七項の承認を受けないで改築、増築若しくは大修繕が行われ、又は物件が付加増置された部分があるときは、第八十七条第二項の規定により当該建築物の所有権を失つた者は、当該部分又は物件を除却して、これを取得することができる。
第6項 第一項に規定する処分については、行政手続法第三章の規定は、適用しない。

組合が明け渡しを求める場合は、事前に「権利を有する者が通常受ける損失」を補償する必要があります(都市再開発法97条1項、同96条3項)。

都市再開発法97条(土地の明渡しに伴う損失補償)
第1項 施行者は、前条の規定による土地若しくは物件の引渡し又は物件の移転により同条第一項の土地の占有者及び物件に関し権利を有する者が通常受ける損失を補償しなければならない。
第2項 前項の規定による損失の補償額については、施行者と前条第一項の土地の占有者又は物件に関し権利を有する者とが協議しなければならない。
第3項 施行者は、前条第二項の明渡しの期限までに第一項の規定による補償額を支払わなければならない。この場合において、その期限までに前項の協議が成立していないときは、審査委員の過半数の同意を得、又は市街地再開発審査会の議決を経て定めた金額を支払わなければならないものとし、その議決については、第七十九条第二項後段の規定を準用する。
第4項 第二項の規定による協議が成立しないときは、施行者又は損失を受けた者は、収用委員会に土地収用法第九十四条第二項の規定による補償額の裁決を申請することができる。
第5項 第八十五条第二項及び第三項、第九十一条第二項及び第三項、第九十二条並びに第九十三条の規定は、第二項の規定による損失の補償について準用する。

この通常損害補償額は、当事者の協議により定めることができますが、当事者の協議が調わない場合は、審査委員の過半数の同意を得た金額を支払って明け渡しを求めることができます。

占有者がこの金額に同意せず、弁済手続に協力しない(組合提示額を受領拒否する)場合は、法務局に対する弁済供託をすることができます。法務局に供託されると、法的には被供託者に弁済したのと同じ効力を有することになりますので(民法494条)、組合は、民事保全法に基づき占有者に対して明け渡しを求める仮処分を申し立てて、強制執行により明け渡しを実現することができます。

第3 都市再開発事業を進めるための前提条件

このように、ある程度強制力を伴う形で区域一帯の建て替えを認める都市再開発法の手続を進めるために、都市再開発法では、種々の前提条件を定めています。

本来、自己所有物であれば、土地であっても、建物であっても、どのように使うか、どのように建て替えるか、全て自由に決められる筈です。それを強制的に建て替えてしまうということは、私的自治、私有財産制、所有権絶対の原則の例外となる手続ですので、公益目的などの厳格な条件が定められています。以下に主な条件を列挙して御説明致します。

1 再開発促進区を定める都市計画決定

再開発事業は、木造可燃建物が密集している地区等において都市の防災機能と高度利用を図るために施行されますので、各都道府県の都市計画審議会の議決を経て、再開発促進区を定める都市計画決定(都市計画法10条の2第1項1号)を得る必要があります。

再開発促進区を定める都市計画決定を得るための条件として、次のような建物の建築面積の合計がおおむね3分の2以上であることが求められています(都市再開発法3条2号)。要するに、老朽化した建物が多く、不燃建物が少なかったり、敷地利用度が低かったりして、区域一帯を一括して建て替える必要性の高い区域について、都市計画決定をすることができる仕組みになっています。

都市再開発法3条2号
一 耐火建築物でない建物(木造建築物など)
二 地階を除く階数が2以下であるもの
三 政令で定める耐用年限の3分の2を経過しているもの(鉄筋コンクリート住宅の耐用年限は47年なので築32年以上で条件を満たします)
四 災害その他の理由により前号と同程度の機能低下を生じているもの
五 建築面積が当該区域に係る高度利用地区、都市再生特別地区などに定められた建築物の建築面積の最低限度の4分の3に満たないもの
六 建築物の容積率が、当該区域に係る高度利用地区、都市再生特別地区などに定められた容積率の最高限度の3分の1未満であるもの

また、具体的な数値要件ではありませんが、当該区域内に十分な公共施設がないこと、当該区域内の土地の利用が細分化されていること等により、当該区域内の土地の利用状況が著しく不健全であること(都市再開発法3条3号)や、当該区域内の土地の高度利用を図ることが、当該都市の機能の更新に貢献すること(都市再開発法3条4号)も、必要な条件として定められています(都市再開発法7条1項)。

再開発促進区を定める都市計画の他、「高度利用地区」、「都市再生特別地区」、「特定用途誘導地区」、「特定地区計画等区域」でも再開発事業を行うことができます。

高度利用地区は、用途地域内の市街地における土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新とを図るため、建築物の容積率の最高限度及び最低限度、建築物の建蔽率の最高限度、建築物の建築面積の最低限度並びに壁面の位置の制限を定める地区(都市計画法9条19項)です。

都市再生特別地区は、都市再生緊急整備地域のうち、都市の再生に貢献し、土地の合理的かつ健全な高度利用を図る特別の用途、容積、高さ、配列等の建築物の建築を誘導する必要があると認められる区域(都市再生特別措置法36条)について定めることができるとされています。

2 市街地再開発事業を定める都市計画決定

都市計画区域内で、都市計画法12条1項4号の市街地再開発事業の都市計画決定をすることができます。

これには、「公共施設の配置および規模」「建築物の整備」「建築敷地の整備」の項目が含まれており、公共施設には、区画道路や、公園、広場、街路などが指定され、建築物については、「建築面積」「延面積」「容積対象面積」「主要用途」「建築物の高さの限度」などが定められ、建築敷地の整備については、「建築敷地面積」「整備計画」などが定められます。

容積対象面積の概要が定められますので、容積対象面積を建築敷地面積で除算することにより、「計画容積率」を計算することができます。

3 市街地再開発組合設立条件

都市再開発法11条1項または3項により、市街地再開発組合を設立するときは、「区域内地権者が5名以上」が共同して、市区町村長に設立認可申請を行うことができます。

この時、都市再開発法14条で、次の条件を満たす必要があります。

都市再開発法14条
・施行区域内の宅地について所有権を有する者の3分の2以上の人数の同意
・施行区域内の宅地について借地権を有する者の3分の2以上の人数の同意
・施行区域内の宅地の所有権者と借地権者を有する者の面積の合計で3分の2以上の同意

つまり、前記の再開発促進区および市街地再開発事業を定める都市計画の条件を満たした上で、区域内地権者の人数と面積で、3分の2以上の同意と、5名以上の賛同で再開発組合の設立認可申請ができることになります。

第4 都市計画決定に先立って行われる説明会

1 都市計画法16条に基づく説明会

このように市街地再開発事業を遂行するための前提条件として、再開発促進区や高度利用地区を定める都市計画決定が必要となりますが、この都市計画の案は、一般に、区域内地権者の集まりである、「再開発勉強会」や「再開発協議会」や「再開発準備組合」と、区役所や市役所の再開発担当部署が事前協議を行って、区域内地権者の意見を集約して、作成していくことが多くなっています。

再開発促進区や高度利用地区の都市計画決定は、一般に容積率の緩和措置や、建築物の絶対高さ規制の緩和などが認められますので、地権者にとって有利な行政処分である側面もありますが、同時に「建築物の建築面積の最低限度」や「建築物の延べ面積の敷地面積に対する割合の最低限度」が定められることになります。

この最低建築面積は、一般に現状の各地権者の所有区画(借地区画)よりも大きな面積が指定されることが多くなっており、事実上、区域内の全ての建物が「再建築不可」つまり「既存不適格物件」になってしまうことになります。現在の小さな建物を同じ高さと容積率で建て替えようとしても建築確認が下りないことになってしまうのです。

このように不利益処分の側面もある都市計画決定となりますので、事前に住民に対して都市計画の原案の説明と、これに対する意見を募る仕組みになっており、その手続が都市計画法16条の公聴会なのです。

都市計画法第16条(公聴会の開催等)
1項 都道府県又は市町村は、次項の規定による場合を除くほか、都市計画の案を作成しようとする場合において必要があると認めるときは、公聴会の開催等住民の意見を反映させるために必要な措置を講ずるものとする。
2項 都市計画に定める地区計画等の案は、意見の提出方法その他の政令で定める事項について条例で定めるところにより、その案に係る区域内の土地の所有者その他政令で定める利害関係を有する者の意見を求めて作成するものとする。
3項 市町村は、前項の条例において、住民又は利害関係人から地区計画等に関する都市計画の決定若しくは変更又は地区計画等の案の内容となるべき事項を申し出る方法を定めることができる。

この公聴会・説明会では、地区計画の原案についての区域内地権者の意見を提出することができることになっています。どのような地区計画を定めるべきか、どのような再開発事業を行うべきか、地権者の意見を届けることになります。

2 都市計画法17条に基づく説明会

このようにして、都市計画の原案に対する意見集約が図られた後で、都市計画案が決定され、各市区町村に設置された都市計画審議会に付議されることになりますが、それに先立って、都市計画案は2週間の縦覧(区役所などで公開され一般の閲覧に供されること)され、縦覧期間の末日までに意見書を提出することができる仕組みになっています。

また、この都市計画案の趣旨や内容を説明する説明会が開催されることが一般的となっています。説明会の最後には、簡単な質疑応答の時間も設けられますが、正式な意見としては都市計画法17条2項の意見書を提出するのが良いでしょう。

都市計画法第17条(都市計画の案の縦覧等)
1項 都道府県又は市町村は、都市計画を決定しようとするときは、あらかじめ、国土交通省令で定めるところにより、その旨を公告し、当該都市計画の案を、当該都市計画を決定しようとする理由を記載した書面を添えて、当該公告の日から二週間公衆の縦覧に供しなければならない。
2項 前項の規定による公告があつたときは、関係市町村の住民及び利害関係人は、同項の縦覧期間満了の日までに、縦覧に供された都市計画の案について、都道府県の作成に係るものにあつては都道府県に、市町村の作成に係るものにあつては市町村に、意見書を提出することができる。
3項 特定街区に関する都市計画の案については、政令で定める利害関係を有する者の同意を得なければならない。
4項 遊休土地転換利用促進地区に関する都市計画の案については、当該遊休土地転換利用促進地区内の土地に関する所有権又は地上権その他の政令で定める使用若しくは収益を目的とする権利を有する者の意見を聴かなければならない。
5項 都市計画事業の施行予定者を定める都市計画の案については、当該施行予定者の同意を得なければならない。ただし、第十二条の三第二項の規定の適用がある事項については、この限りでない。

この意見書では、都市計画案の個々の事項について、区域内住民としての意見を述べることになります。

この地区計画や市街地再開発事業の都市計画案の段階では、「事業計画」つまり資金計画は一切明らかにされていませんが、市街地再開発準備組合の定期レポートなどで、事業計画の概要が示されていることもあります。区域内地権者の意見を集約していくためには、大概どのような再開発事業になるのか、アウトラインを示す必要があるからです。

この事業計画において、既存地権者に与えられる権利床の面積が少なすぎる見込みになっている場合は、権利変換比率が少なすぎて従前地権者の不利益が大きいことも、主張すべきです。前記の都市計画決定は、再開発事業の事業計画を直接定めるものではありませんが、再開発事業を行う前提となる都市計画案ですから、事業計画と密接不可分なものだからです。

予想される事業計画に問題があると考えるのであれば当然それについても主張していくべきでしょう。

3 行政裁量について

都市計画法に基づく都市計画案の策定は、土木工学、環境工学、都市工学などの複合的な知見や行政経験をもとに立案される政策的、技術的な行為であり、機械的に法令を適用するような杓子定規な仕事とは性質を異にする行為になります。

そのため行政当局には広範な裁量が与えられ、裁量の範囲内で公共の福祉を最大限図るべき事が期待されていますが、いわゆる「行政行為の当・不当の問題」の範囲内の事項については、行政当局の裁量権の行使が妥当であったかどうか好ましいかどうかを観念することは出来ても、それは原則として司法権の審査の対象にはならないとされています。

例外的に、行政裁量の行使が司法審査の対象となるのは、当該裁量権の行使にあたって、重要な事実誤認があること等により重要な事実の基礎を欠くこととなる場合、又は、事実に対する評価が明らかに合理性を欠くこと、判断の過程において考慮すべき事情を考慮しないこと等によりその内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限り、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法となるとすべきものと解釈されています。

従って、都市計画案に対する意見書においては、「期待されるべき行政裁量の行使」の側面と、「著しい裁量権の逸脱」の2つの側面から、市民としての意見を述べるべきことになります。前者は裁量権の行使をより妥当なものにするように促す主張であり、後者は違法な裁量権の行使なので是正すべきことを主張することになります。

参考判例を御紹介致します。

最高裁判所平成18年11月2日判決「小田急線連続立体交差事業認可処分取消、事業認可処分取消請求事件」

『都市計画法は、都市計画について、健康で文化的な都市生活及び機能的な都市活動を確保すべきこと等の基本理念の下で(2条)、都市施設の整備に関する事項で当該都市の健全な発展と秩序ある整備を図るため必要なものを一体的かつ総合的に定めなければならず、当該都市について公害防止計画が定められているときは当該公害防止計画に適合したものでなければならないとし(13条1項柱書き)、都市施設について、土地利用、交通等の現状及び将来の見通しを勘案して、適切な規模で必要な位置に配置することにより、円滑な都市活動を確保し、良好な都市環境を保持するように定めることとしているところ(同項5号)、このような基準に従って都市施設の規模、配置等に関する事項を定めるに当たっては、当該都市施設に関する諸般の事情を総合的に考慮した上で、政策的、技術的な見地から判断することが不可欠であるといわざるを得ない。そうすると、このような判断は、これを決定する行政庁の広範な裁量にゆだねられているというべきであって、裁判所が都市施設に関する都市計画の決定又は変更の内容の適否を審査するに当たっては、当該決定又は変更が裁量権の行使としてされたことを前提として、その基礎とされた重要な事実に誤認があること等により重要な事実の基礎を欠くこととなる場合、又は、事実に対する評価が明らかに合理性を欠くこと、判断の過程において考慮すべき事情を考慮しないこと等によりその内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限り、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法となるとすべきものと解するのが相当である。』

4 手続の概要

以上の手続を順番に箇条書きすると次のようになります。

①再開発勉強会、再開発協議会、再開発準備組合で区域内住民の意見集約

②行政協議(継続的な協議)

③行政当局が都市計画の原案を作成する準備

④都市計画法16条の公聴会(説明会)

⑤行政当局が都市計画の原案を作成

⑥都市計画案を2週間の縦覧に付して意見書を募集すると同時に都市計画法17条の説明会を開催

⑦都市計画審議会決議

⑧行政決定(告示、発効)

一般的に、この16条説明会で示される原案と、17条説明会で示される都市計画案は、わずかな定性的な表記の違いはあっても、容積率や高さや面積などの数値にはほとんど差異が見られないことが多くなっていますが、行政当局から見ても無視できないような重大な事実誤認などが見つかれば適宜修正されていくことになります。

そのため、意見書では、主張を裏付ける資料を適宜添付して、行政当局の自発的な修正が行われるように促していくことになります。

第5 まとめ

一般に、第一種市街地再開発事業では、容積率や高さ制限の緩和や、行政からの補助金等を活用して、区域内地権者の金銭的負担なく区域一帯の建物を建て替えることができることが多くなっていますが、他方、権利変換で与えられる区分所有建物の面積が従来の床面積よりも減少してしまったり、毎月発生する管理費と修繕積立金の負担が過大になってしまうケースなどもあり、従前土地建物の権利内容によっては再開発に参加しない方が有利になると考えられる場合もあります。

そのような場合には、都市計画法16条と17条の説明会に際し、地権者としての意見を書面にまとめてはっきりと行政に届出すべきですし、同時に再開発準備組合とも意見交換して自分達の主張を伝えておく必要があるでしょう。

主張方法や交渉方法が分からない場合などには、経験のある法律事務所に御相談なさると良いでしょう。

以上

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