再開発における赤字事業への営業補償|用対連基準以外の適用の可否

都市再開発法|「通常受ける損失」(都市再開発法97条1項)の解釈|営業補償の計算方法|東京地方裁判所平成29年5月30日判決

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集

質問

再開発区域内のビルの一室を賃借して会社を経営しております。営業は好調とは言えず、この数年は収支均衡の状態で役員給与などを差し引くと赤字の年もあります。

先日、再開発事業に関する都市計画決定が告示され、いよいよ再開発準備組合から本組合に移行する時期に差し掛かっているようです。再開発に伴う立退きの補償についても、準備組合担当者から具体的提示を受けていますが、当方が赤字企業ということで営業補償は一切出ないという提示を受けてしまいました。

確かに法人税の申告でも赤字になっており、赤字であることは事実なのですが、役員給与などで調整して法人としての利益が出ないようにしているという側面もあります。

申告が赤字だと営業補償を求めることは一切できないのでしょうか。

回答

1 再開発事業の際の、損害補償は、都市再開発法97条で「権利を有する者が通常受ける損失を補償しなければならない」と通常生じる見込額の補償で足りることが定められ、具体的には土地収用法で規定されている公共用地の取得に伴う損失補償の際に使われている「用地対策連絡会基準」、いわゆる「用対連基準」をベースに計算されることが実務上の扱いです。そのため、直近の会計年度の損益計算書に基づいて営業補償の見積もりを行うことになり、法人税の申告書に含まれる損益計算書が使われるのが原則になります。ご相談の準備組合の担当者もこのような原則論から赤字のため営業補償はできないと説明したものと考えられます。

2 しかし、「用対連基準」により計算することは都市再開発法97条に具体的に法定されている手続では無く、法解釈の結果として実務上「用対連基準」を基準として運用されているに過ぎません。「通常受ける損害」が何かについては、一概に明らかとは言えませんから、実際に損害があるのであれば、再開発組合(準備組合)との交渉において、貴社の個別事情も最大限主張して納得のできる補償額が得られるよう努力すべきです。

3 都市再開発法97条に関する判例は少ないのですが、交通事故に関する判例から、税金の申告書に記載された損益計算書とは異なる営業損害を認めたものがいくつかありますので、御紹介致します。但し、交通事故の場合の損害賠償は実損害額が原則ですからそのまま適用されるということではありませんので注意が必要です。

解説

第1 権利変換手続の概要

市街地再開発事業は、都市部の土地高度利用(国民経済の発展)や、建物の不燃化や耐震化など、公共目的を推進するために、建物の建て替えや明け渡しについて一括処理を可能とする権利変換という特例を認めた都市再開発法によるビルの建て替え手続です。

都市再開発法第1条(目的)
この法律は、市街地の計画的な再開発に関し必要な事項を定めることにより、都市における土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新とを図り、もつて公共の福祉に寄与することを目的とする。

木造家屋を鉄骨鉄筋コンクリート造の建物などの不燃建物に建て替えることにより、建物の不燃化と耐震性向上を図ることができ、都市の防災機能を向上させることができます。建物の防災機能が向上することにより、当該建物の所有者や賃借人だけでなく、当該建物の周りの建物の所有者や賃借人の安全性も向上することになります。

商業区域においては、高層ビルの建設により床面積が増加すれば商業機能を高めることにより、土地の高度利用による国民経済の振興というメリットを享受することもできます。当該建物の商業機能が高まることにより、相乗効果により、当該建物の周りの建物の所有者や賃借人も商業機能の高まったメリットを享受することができます。

土地建物は私有財産ですが、特に市街地においては単独で存在しているものではなく、ひとつの建物が倒壊したり火災になってしまうと、周りの住人にも被害を巻き込んでしまうおそれがありますし、区域一帯が商業ビジネスで発展しているときに一区画の地主だけが反対してビルの建て替えができないことになってしまうと区域全体の経済発展が阻害されてしまいます。

そこで、市街地の木造家屋密集地区を中心に、行政による「再開発促進区」の都市計画決定などを条件として、区域一帯の一括建て替えを促進する都市再開発法の権利変換手続が整備されることになったのです。

権利変換手続の概要を示します。

(1) 区域一帯の地権者5名以上で再開発組合の設立を準備する任意団体を設立する(市街地再開発勉強会、再開発協議会、再開発準備組合など)

(2) 参加組合員予定者となる不動産デベロッパーなどと協力し、行政協議を経て、都市計画審議会が審議する「再開発促進区」「市街地再開発事業」の原案を取りまとめる。

(3) 都市計画の行政決定後に、再開発事業計画案と、再開発組合の定款など規約類を用意して、準備組合総会において、再開発組合設立認可申請を行う決議を行い、都道府県知事に対して本組合設立認可申請を行う。

(4) 設立認可申請書類一式の審査を経て、市区町村が事業計画の縦覧を2週間行い、意見書の提出を募集する。意見書の審査を経て、事業計画と組合設立の認可公告がなされる。

(5) 組合内において住戸選定会などを経て、権利変換計画の原案を作成し、2週間の縦覧を行い、意見書の提出を募集する。意見書の審査を経て、権利変換計画の認可申請を行う。

(6) 行政の審査を経て、権利変換計画認可公告がなされる。通常、権利変換期日は認可公告の1~4週間後の期日が指定される。

第2 権利変換期日における権利の消長と明け渡し

再開発区域内の建物に関する借家権は、権利変換期日に全て消滅し、明け渡しに伴う損失補償の提供を受けて、ビルの建て替え期間の立退きをすべきことが法定されています。

都市再開発法第87条(権利変換期日における権利の変換)
第1項 施行地区内の土地は、権利変換期日において、権利変換計画の定めるところに従い、新たに所有者となるべき者に帰属する。この場合において、従前の土地を目的とする所有権以外の権利は、この法律に別段の定めがあるものを除き、消滅する。
第2項 権利変換期日において、施行地区内の土地(指定宅地を除く。)に権原に基づき建築物を所有する者の当該建築物は、施行者に帰属し、当該建築物を目的とする所有権以外の権利は、この法律に別段の定めがあるものを除き、消滅する。ただし、第六十六条第七項の承認を受けないで新築された建築物及び施行地区外に移転すべき旨の第七十一条第一項の申出があつた建築物については、この限りでない。

権利変換期日に、建物所有権は従前大家から再開発組合に移転し、建物賃借権は消滅することになります(都市再開発法87条2項)。

賃借人は、建物を占有し続ける法律上の根拠を失いますが、都市再開発法では、組合からの明け渡し請求を受けるまでは引き続き占有継続することができます(都市再開発法96条1項)。組合からの明け渡し請求は、30日以上の猶予をあけて通知する必要があります(都市再開発法96条2項)。

都市再開発法第96条(土地の明渡し)
第1項 施行者は、権利変換期日後第一種市街地再開発事業に係る工事のため必要があるときは、施行地区内の土地又は当該土地に存する物件を占有している者に対し、期限を定めて、土地の明渡しを求めることができる。ただし、第九十五条の規定により従前指定宅地であつた土地を占有している者又は当該土地に存する物件を占有している者に対しては、第百条第一項の規定による通知をするまでは、土地の明渡しを求めることができない。
第2項 前項の規定による明渡しの期限は、同項の請求をした日の翌日から起算して三十日を経過した後の日でなければならない。
第3項 第一項の規定による明渡しの請求があつた土地(従前指定宅地であつた土地を除く。)又は当該土地に存する物件を占有している者は、明渡しの期限までに、施行者に土地若しくは物件を引き渡し、又は物件を移転しなければならない。ただし、第九十一条第一項又は次条第三項の規定による支払がないときは、この限りでない。
第4項 第一項の規定による明渡しの請求があつた土地(従前指定宅地であつた土地に限る。)又は当該土地に存する物件を占有している者は、明渡しの期限までに、施行者に土地を引き渡し、又は物件を移転し、若しくは除却しなければならない。ただし、次条第三項の規定による支払がないときは、この限りでない。
第5項 第九十五条の規定により建築物を占有する者が施行者に当該建築物を引き渡す場合において、当該建築物に、第六十六条第七項の承認を受けないで改築、増築若しくは大修繕が行われ、又は物件が付加増置された部分があるときは、第八十七条第二項の規定により当該建築物の所有権を失つた者は、当該部分又は物件を除却して、これを取得することができる。
第6項 第一項に規定する処分については、行政手続法第三章の規定は、適用しない。

組合が明け渡しを求める場合は、事前に「権利を有する者が通常受ける損失」を補償する必要があります(都市再開発法97条1項、同96条3項)。

都市再開発法97条(土地の明渡しに伴う損失補償)
第1項 施行者は、前条の規定による土地若しくは物件の引渡し又は物件の移転により同条第一項の土地の占有者及び物件に関し権利を有する者が通常受ける損失を補償しなければならない。
第2項 前項の規定による損失の補償額については、施行者と前条第一項の土地の占有者又は物件に関し権利を有する者とが協議しなければならない。
第3項 施行者は、前条第二項の明渡しの期限までに第一項の規定による補償額を支払わなければならない。この場合において、その期限までに前項の協議が成立していないときは、審査委員の過半数の同意を得、又は市街地再開発審査会の議決を経て定めた金額を支払わなければならないものとし、その議決については、第七十九条第二項後段の規定を準用する。
第4項 第二項の規定による協議が成立しないときは、施行者又は損失を受けた者は、収用委員会に土地収用法第九十四条第二項の規定による補償額の裁決を申請することができる。
第5項 第八十五条第二項及び第三項、第九十一条第二項及び第三項、第九十二条並びに第九十三条の規定は、第二項の規定による損失の補償について準用する。

この補償額は、当事者の協議により定めることができますが、当事者の協議が調わない場合は、審査委員の過半数の同意を得た金額を支払って明け渡しを求めることができます。占有者がこの金額に同意せず、弁済手続に協力しない場合は、法務局に対する弁済供託をすることができます。

この明け渡しに伴う損失補償は、一般の民事事件で適用される民法415条や709条の損害賠償方法である「実損害」ではなく、都市再開発法97条で「権利を有する者が通常受ける損失を補償しなければならない」と定められています。

この補償金は、明け渡しの前に受領することができますが、明け渡し後に実損害との差額が発生しても、これを別途請求することはできない仕組みになっています。このように都市再開発法97条が実損害の弁償を求めず、損失の見込み額の補償で足りると定めているのは、再開発の建て替え手続を簡素化し、一括処理することにより建て替えのスピードアップを図る趣旨であると考えられます。

民法415条(債務不履行による損害賠償)
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。

民法709条(不法行為による損害賠償)
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

都市再開発法第97条(土地の明渡しに伴う損失補償)
第1項 施行者は、前条の規定による土地若しくは物件の引渡し又は物件の移転により同条第一項の土地の占有者及び物件に関し権利を有する者が通常受ける損失を補償しなければならない。

第3 用対連基準|「通常受ける損失」(都市再開発法97条1項)の解釈

都市再開発法97条の通常受ける損失は「通損補償」と言われ、土地収用法で規定されている公共用地の取得に伴う損失補償の際に使われている「用地対策連絡会基準」、いわゆる「用対連基準」をベースに計算されることが実務上多くなっています。

これは過去の明け渡し事例の統計調査などから様々な業種別の営業損害の実損害の調査に基づいて作成された基準となっていますが、例えば製造業、小売業、飲食業などの大分類の他、2~3種類の小分類に従って営業損害の掛け率が一覧表として作成されており、個別事情を反映しにくい性質があります。

「用対連基準」は、土地収用法に基づく損失補償の基準として定められた政令の一種(国土交通省訓令)である「公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱(昭和37年6月29日閣議決定)」に基づいて、中央省庁、公団、公社などの関係機関により設立された用地対策連絡協議会が細目を定めた「公共用地の取得に伴う損失補償基準(昭和37年10月12日用地対策連絡会決定)」のことを指します。

現在では、国土交通省の「公共用地の取得に伴う損失補償基準」も策定され、ほぼ同じ内容となっております。

【参考】
国土交通省の公共用地の取得に伴う損失補償基準
国土交通省の公共用地の取得に伴う損失補償基準の運用方針
国土交通省損失補償取扱要領

前記公共用地の取得に伴う損失補償基準の営業補償に関する項目を引用します。

第3節 営業補償
(営業廃止の補償)
第47条 土地等の取得又は土地等の使用に伴い通常営業の継続が不能となると認められるときは、次の各号に掲げる額を補償するものとする。
一 免許を受けた営業等の営業の権利等が資産とは独立に取引される慣習があるものについては、その正常な取引価格
二 機械器具等の資産、商品、仕掛品等の売却損その他資本に関して通常生ずる損失額
三 従業員を解雇するため必要となる解雇予告手当相当額、転業が相当と認められる場合において従業員を継続して雇用する必要があるときにおける転業に通常必要とする期間中の休業手当相当額その他労働に関して通常生ずる損失額
四 転業に通常必要とする期間中の従前の収益相当額(個人営業の場合においては、従前の所得相当額)
第2項 前項の場合において、解雇する従業員に対しては第68条の規定による離職者補償を行うものとし、事業主に対する退職手当補償は行わないものとする。

(営業休止の補償)
第48条 土地等の取得又は土地等の使用に伴い通常営業を一時休止する必要があると認められるときは、次の各号に掲げる額を補償するものとする。
一 通常休業を必要とする期間中の営業用資産に対する公租公課等の固定的な経費及び従業員に対する休業手当相当額
二 通常休業を必要とする期間中の収益減(個人営業の場合においては、所得減)
三 休業することにより、又は店舗等の位置を変更することにより、一時的に得意を喪失することによって通常生ずる損失額(前号に掲げるものを除く。)
四 店舗等の移転の際における商品、仕掛品等の減損、移転広告費その他店舗等の移転に伴い通常生ずる損失額
第2項 営業を休止することなく仮営業所を設置して営業を継続することが必要かつ相当であると認められるときは、仮営業所の設置の費用、仮営業であるための収益減(個人営業の場合においては、所得減)等並びに前項第3号及び第4号に掲げる額を補償するものとする。

(営業規模縮小の補償)
第49条 土地等の取得又は土地等の使用に伴い通常営業の規模を縮小しなければならないと認められるときは、次の各号に掲げる額を補償するものとする。
一 営業の規模の縮小に伴う固定資産の売却損、解雇予告手当相当額その他資本及び労働の過剰遊休化により通常生ずる損失額
二 営業の規模の縮小に伴い経営効率が客観的に低下すると認められるときは、これにより通常生ずる損失額
第2項 前項の場合において、解雇する従業員に対しては第68条の規定による離職者補償を行うものとし、事業主に対する退職手当補償は行わないものとする。

都市再開発に伴って、権利変換期日後に、営業者が立ち退きをする場合、次のような経過を辿り、補償額も計算されることになります。

(1) 権利変換期日後の退去(転居費用、営業休止補償)

(2) 約4年間の工事期間中の営業(一時減収する得意先喪失の補償)

(3) 建物再築後の再入居(転居費用、営業休止補償)

(4) 再入居後の営業再開に伴う減収補償(一時減収する得意先喪失の補償)

転居費用は移転実費であり、営業休止補償は、移転のために必要な休業日数に、1日あたりの営業利益を乗算した補償額となります。移転に伴って生ずる「商品、仕掛品等の減損」や「移転広告費」や「移転通知費」や「開店祝費」なども補償されます。

【参考】 用対連細則27別表第4、建物移転工法別補償期間表

得意先喪失補償額は、次の算式により計算されます。

得意先喪失補償額=従前の1か月の売上高×限界利益率×売上減少率

ここで、限界利益率は、限界利益を売上高で割り算した数値で、収入に伴って変動する変動費率を控除した数値となります。具体的には、固定費と利益を加算した限界利益を売上高で割り算した数値となります。

売上減少率は、過去の様々な収用事例において、営業所の移転に伴って実際に減少した売上高の統計などを参考として基準となる表が作成されていますが、ほとんどの業種で、50%から200%、つまり、半月分から2ヶ月分の補償に留まっています。この表によれば、喫茶店の場合は170%、つまり1.7ヶ月分の補償となっています。

【参考】 国土交通省損失補償取扱要領の第16条売上減少率表

実際に計算してみると驚くほど少額の補償となってしまうことが多いものです。最新決算書で営業利益が出ていない場合は、営業補償もゼロと計算されてしまいます。建て替え期間に生ずる損害について客観的な基準に基づいて算出されますが、個別の営業における特殊事情は考慮されないことになります。また、2回転居して営業が継続できるだろうかという心理的不安に対する補償は一切ありません。

この基準に従って算出された提示を受けている場合、収用委員会の裁決も、裁判所の裁決取消訴訟も困難であると言えますが、これらの基準は一般的な事例について様々な実例調査に基づいて作成された基準に過ぎませんので、貴社の事例について実損害が大幅に基準と異なるということであれば、損益計算書や貸借対照表などの資料を用意して、裁決申請や取消訴訟も検討すべきでしょう。

都市再開発法97条では「通常生じる損失」を補償せよとは規定していますが、「用対連基準で補償しなさい」と規定しているわけではありません。用対連基準とは異なる計算方法で補償額を算出しても何ら問題はありません。再開発組合(準備組合)との交渉では、貴社の個別事情も最大限主張して納得のできる補償額が得られるよう努力すべきです。

用対連基準に一定の合理性を認めた下級審判例がありますので御紹介致します。

東京地方裁判所平成29年5月30日判決 東京都市計画△西地区第一種市街地再開発事業に係る損失補償事件

ところで、用対連基準33条及び用対連細則17条-2にも家賃減収補償に係る規定が設けられているところ、用対連基準等は、公共事業の用地取得に係る補償について、公正妥当を期するため、補償基準の適正化と統一を図ることを目的として、閣議決定あるいは閣議了解がされた「公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱」及び「公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱の施行について」を受けて、用地対策連絡協議会が策定したものであり、かかる用対連基準等の規定はその制定経過等に照らして、所有者が通常受けるであろう損失に対する補償の基準として合理的なものということができる。そして、本件補償基準等は、補償契約締結前の1年間における家賃収入額を12で除した額とするか否かにおいて用対連基準等とその算定方法に差異があるものの、補償契約締結時を基準として「従前の建物の家賃」を定めるものであるという基本的な考え方に変わりはなく、本件補償基準等により定められた家賃減収補償の内容は、特段の事情がない限り、合理的なものというべきである。

第4 税務申告と異なる営業補償

都市再開発法97条に関する判例は少ないのですが、交通事故に関する判例から、税務申告書に記載された損益計算書とは異なる所得額に基づいて営業損害(逸失利益)を認めたものがいくつかありますので、御紹介致します。

これらの交通事故に関する裁判例は、民法709条の実損害の賠償額を算定する場合の判断ですが、税務申告上の所得とは別に、実際の収入状況を資料などから認定することができれば、それに基づいて損害額を算定する判断となっています。税務申告と民事損害賠償訴訟では手続の目的が異なりますので、必ずしも両者の金額を完全に一致させる必要は無いと考えられるのです。この考え方は、都市再開発法97条の「通損補償」を算定する場面でも応用することができるでしょう。

勿論、過去の税務申告に誤りがあるのであれば、税務署に法人税の修正申告をして、その修正申告された損益計算書に基づいて営業利益を主張することも考えられますし、個別具体的な事情を主張して、税務申告書に記載されたものとは異なる事情があったと主張していくことも考えられます。

御心配であれば、経験のある弁護士事務所に御相談なさると良いでしょう。

以上

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