財産開示手続の改正|離婚後の養育費・財産分与の支払いの確保

民事|強制執行における財産開示手続の改正(令和2年4月施行の民事執行法)|離婚後の養育費・財産分与の不払いを防止するための留意点

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参照条文

質問

私には、別居して1年の夫がいます。夫との間には小学生の子どもがおり、私と同居しています。夫は、住んでいる場所こそわかるものの、勤務先すらわかりません。夫も離婚を望んでいるので離婚したいのですが、養育費や財産分与をしっかりと払ってもらえるか心配です。

どのようにして離婚すればよいのでしょうか。また、仮に支払いがなかった場合、どうやって回収すればよいのでしょうか。

回答

1 養育費や財産分与の任意の支払が不安な場合、①(執行受諾文言付きの)公正証書を作成したうえでの離婚、②調停離婚、③裁判離婚(和解を含む)のいずれかの方法により、財産分与金や養育費を強制的に回収できるような文書を残す形で離婚することが望ましいところです。本件においては、離婚の合意ができているようなので、財産分与や養育費の金額が決まっていれば①、できておらず、協議が成立しないようであれば②・③ということになります。

ただ、上記のような強制執行ができる文書を作成して離婚ができたとしても、任意の支払いがない場合には、こちらから強制執行手続によって強制的に回収する必要が生じます。具体的な執行先としては、相手の所有する①預金債権や株式、②給与債権、③不動産が一般的なところですが、いずれにしても、申し立てる側で具体的な執行可能な財産特定をする必要があります。預金であれば金融機関名、給料であれば勤務先、不動産であれば登記簿上の所在地の特定が必要です。

2 執行先の調査の方法はいくつかありますが、民事執行法上の財産開示手続という方法があります。従来あまり使われていなかったのですが、令和2年4月施行の民事執行法の改正により、対象が拡大されて上記の(執行受諾文言付き)公正証書が含まれるようになり、また財産開示手続に理由なく出頭しなかったり、虚偽の事実を述べたりした債務者に対する罰則が強化されて刑事罰となったため、利用しやすくなりました。

また、本改正では、財産開示手続に加えて、第三者に対する情報取得手続も創設されました。これは、銀行や登記所等に、直接債務者の財産に関する情報を提供させるものですが、従来の方法では調査が難しかった勤務先について、市区町村や年金機構に対して情報提供を求めることができるようになった点が重要です。本件の場合も、勤務先の調査には、この手続きが使える可能性があります。

ただ、上記のとおり強制執行が可能な形での離婚が必要なだけではなく、条項にも工夫が必要なほか、先に財産開示手続を経ていなければならない等、注意が必要です。いずれにしても、離婚する前から弁護士に相談されることをお勧めいたします。

解説

1 離婚の方法について

前提として、離婚をする場合、協議離婚(民法763条)か裁判離婚(民法770条)を選択する必要があります。

当然、双方合意のもとで離婚届を作成し、離婚届だけを提出する形での協議離婚が一般的な形になりますが、本件のように、離婚後の養育費等の任意の支払いに疑義が残るようなケースでは、(暴力等の理由があって、離婚だけを先行させる強い必要があり、今なら相手の了解も取得できるような場合は除き)この形での離婚はお勧めできません。

そうすると、本件のようなケースでは、後述の執行によって財産確保が可能であるように、民事執行法22条の要件を充たす書面(これを債務名義といいます。)を作成したうえでの離婚が必要になる、ということになります。

具体的には、①財産分与額や養育費について定めたうえで、「債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述」を記載した公正証書(執行証書・民事執行法22条5号)を作成したうえで離婚届を提出する協議離婚、②調停による離婚(家事事件手続法268条1項・民事執行法22条7号)、③和解を含む裁判離婚(民法770条、民事訴訟法267条、民事執行法22条7号)のいずれか、です。

このうちのいずれを選択すべきかですが、本件について離婚自体については相手方と合意に至っているとのことですので、財産分与と養育費の金額について、相手方との間で協議が調っているようであれば、①の方法で公正証書を作成することになりますし、協議が成立しないようであれば、②の方法(②が不調に終われば③の方法)ということになります。

以下では、上記の方法のいずれかを採用したうえで、離婚後に支払いがなかった場合の対応について、説明していきます。

2 財産分与・養育費の不払い

離婚後、定めた財産分与や養育費について、支払がなされなかった場合には、強制的に回収する手続を検討する必要があります。

上記の①ないし③の方法による離婚の場合、適切に条項等を定めた場合には、相手方が任意の履行(支払)をしなかった場合、新たな裁判をすることなく、強制執行手続に入ることができます。

ただし、執行文の付与は必要(民事執行法26条)ですし、強制執行の申立を裁判所にして、差押命令を受ける必要があります。執行文というのは、この書面で強制執行ができます、という証明書のようなもので公正証書であれば公証役場、離婚調停調書、離婚判決であれば裁判所に申請することが必要です。このあたりの手続きは、形式的なものですが、ご自分でするのであれば裁判所と相談しながら進める必要があります。

そこでようやく強制的な回収(「取り立て」といいます。)が可能になるのですが、問題になるのは、回収先です(実際には、強制執行が可能な財産がある場合に上記の手続きを検討するという順序になるでしょう)。

具体的に考えられる強制執行先としては、相手方の預金口座や株式等、勤務先からの給与、相手方名義の不動産といったものが一般的なところです。

預金口座等の場合は、残高がある場合はまとまって回収できるメリットがありますが、一度差押えた後の入金には差押の効果が及ばないため、再度の差押えが必要になります。

給与差押の場合は、給与の全額を差し押さえることができるわけではなく、4分の1(民事執行法152条1項2号)あるいは33万円を超える部分の全額(民事執行法施行令2条1項1号)のみと差押え可能な範囲は限定されていますが、一度申立てをすれば、その後の給与支払についても取り立ての対象とすることができます。

さらに、養育費の場合、4分の1ではなく2分の1まで差押えが可能ですし、将来発生する債権についても対象とすることができます。

また、給与差押えの場合、取り立てをおこなう先が勤務先であるため、勤務先に対して差押えの事実=未払いの事実が明らかになりますから、義務者である相手方にとってかなりのプレッシャーをかけることが可能になります。

ただし、当然給与を差し押さえる場合であれば勤務先の情報は必要ですし、預金口座等であれば支店まで特定する必要があります(最高裁判所の判例による裁判所の扱い)。不動産についても同様で、まずは場所がわからなければ差押えの対象とすることはできません。強制執行の申立の際には、強制執行先の情報が必要、ということになります。

3 財産開示手続

以上のとおり、仮に財産分与額や養育費の支払を適切な形で相手方に義務付けるような形で離婚を実現したとしても、強制的にそれらの金員を回収するためには、こちらで相手方の財産を探し当てる必要があります。

そのため、不払いが予想されるようなケースでは、別居(離婚)前に相手方の財産の調査(どの銀行に口座があるか、株等はやっているか、勤務先はどこか等)をすることが望ましいところですが、事前の把握が叶わなかった場合、何らかの手段で相手方の財産を調査する必要があります。

そこで検討するべきひとつの手段が、民事執行法196条以下に定める、財産開示手続になります。財産開示制度とは、「権利実現の実効性を確保する見地から、債権者が債務者の財産に関する情報を取得するための手続であり、債務者(開示義務者)が財産開示期日に裁判所に出頭し、債務者の財産状況を陳述する手続」(『財産開示手続を利用する方へ(裁判所ホームページ)』)です。

従来からある手続ですが、令和2年4月1日の改正民事執行法の施行によって、利用しやすくなりました。

そもそも、改正前の民事執行法では、この財産開示手続が可能な債務名義から、執行証書が除外されていたため、上記①の離婚(公正証書を作成したうえでの離婚)では使うことができませんでしたが、この改正で財産開示手続を採ることが可能なりました。

以下ではこの財産開示手続について、具体的な内容と要件について説明します。

財産開示手続を申し立てる管轄裁判所は、債務者の所在地を管轄する地方裁判所(民事執行法19条)です。要件は次の通りとなります。

  1. ①執行分の付与等を受けた執行力のある債務名義の正本を有する者(一般先取特権を有する債権者も含まれますが、本稿では割愛します)であり、民事執行法29条から同法31条に定める執行開始要件を充たし、破産手続中等の強制執行を開始できない事情がないこと(民事執行法197条1項)
  2. ②「強制執行又は担保権の実行における配当等の手続(申立ての日より6箇月以上前に終了したものを除く。)において、申立人が金銭債権(被担保債権)の完全な弁済を得ることができなかったこと」(同項1号)あるいは「知れている財産に対する強制執行(担保権の実行)を実施しても、申立人が当該金銭債権(被担保債権)の完全な弁済を得られないこと」(同項2号)のいずれかに該当すること
  3. ③債務者が申立ての日前3年以内に財産開示期日においてその財産を開示した者でないこと(同条3項)

このうち、②の要件についてですが、「一度強制執行をしたもの十分な回収を得られなかったこと」か「不動産、預金債権や給与債権、その他動産について、不明であるか、完全な回収が不可能であること」を疎明することで充足されます。

また、③の要件については申立時に主張・立証する必要はなく、開示手続において相手方からその旨(3年以内に財産開示手続が実施されたこと)の主張をする必要があります。

財産開示手続の具体的な流れですが、要件を充たしている場合、裁判所は財産開示期日を指定し、また、相手方に対して、事前に財産目録の提出を求めることになります。この財産目録は、事前に閲覧が可能です(民事執行法201条)。

財産開示期日においては、①開示義務者による財産の陳述、②執行裁判所による開示義務者への質問、③申立人による開示義務者への質問が可能です(同法199条)。
また、期日において、裁判所は、開示義務者に対して宣誓(同法199条7項、民事訴訟法201条1項及び同2項)をさせることができます。

そして、開示義務者は、正当な理由なく財産開示期日に出頭しなかったり、宣誓を拒んだ場合、宣誓した後で陳述を拒み、あるいは虚偽の陳述をしたりした場合には、6月以下の懲役または50万円以下の罰金という罰則規定が設けられました(民事執行法213条1項5号及び6号)。改正前の罰則は過料であったため、前科にもなりませんでしたが、改正により懲役刑、罰金刑と強化されています。

4 第三者からの情報取得手続

以上が財産開示手続ですが、この手続きに関連し、この民事執行法改正によって新設された制度として、民事執行法204条以下の「第三者からの情報取得手続」があります。これは、上記財産開示手続とは異なり、第三者から、債務者の財産に関する情報を債務者以外の第三者から提供してもらう手続です。具体的には次の通りです。

  1. ①登記所に債務者の不動産に関する情報を提供させるもの(民事執行法205条)
  2. ②市区町村や日本年金機構あるいは厚生年金の実施機関に対して、債務者の給与債権に関する情報、つまり勤務先等を提供させるもの(民事執行法206条)
  3. ③銀行や証券会社等に対して、債務者の預金債権に関する情報(支店名・口座・残高)や債務者名義の株式や国債に関する情報(銘柄・数)を提供させるもの(民事執行法207条)

このうち、特に重要なのが②の給与債権に関する情報です。上記のとおり、本件のような養育費の回収のケースでは、給与債権の差押えが最も有効な手段の一つになるのですが、これまで勤務先の情報を得る手段が(基本的には)なかったためです。

これらの手続の管轄・要件は、基本的には財産開示手続と同様ですが、①不動産情報と②給与債権情報については、上記財産開示手続を先行しておこなうという財産開示手続の前置が要件となっています(民事執行法205条2項及び同法206条2項)。

また、②給与債権情報については、債務者に与えるダメージの大きさから、養育費など民事執行法151条の2第1項各号に掲げる義務に係る請求権か、人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の差押の場合に限定されています(民事執行法206条1項)。

そのため、本件のように、養育費のみならず財産分与も併せて請求する離婚の場合、公正証書や調停における調停条項、裁判における和解調書等において、養育費と財産分与を併せて「和解金」や「解決金」として規定した場合、この要件を充足しないことになる可能性が出てくるため、条項の記載方法には注意が必要です。

5 まとめ

以上が、財産開示手続及び第三者からの情報取得手続の概略ですが、財産の調査は上記の他にもあります。

例えば携帯電話番号が分かれば、ケースによっては弁護士会照会(弁護士法23条の2)によって、弁護士であれば携帯電話に紐づいている口座を調査することが可能ですし、銀行口座であれば、相手方の住居地あるいは勤務地近くの銀行の支店をとりあえず差し押さえてみる、あるいは弁護士会照会をする(みずほ、三菱UFJ、三井住友銀行とゆうちょ銀行に限定されますが、債務名義をもっていれば、口座についての情報を照会請求で取得できます。)ということもあり得るところです。

その他にも事案によって採り得るべき手段は出てきますから、財産開示手続及び第三者からの情報取得手続を用いるべき事案かどうかは検討が必要になります。

そもそも、上記のとおり、前提となるのは適切な形での離婚の実現です。そのため離婚前のこのタイミングでお近くの弁護士へのご相談をお勧めいたします。

以上

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参照条文

民事執行法

(債務名義)
第二十二条 強制執行は、次に掲げるもの(以下「債務名義」という。)により行う。
一 確定判決
二 仮執行の宣言を付した判決
三 抗告によらなければ不服を申し立てることができない裁判(確定しなければその効力を生じない裁判にあつては、確定したものに限る。)
三の二 仮執行の宣言を付した損害賠償命令
三の三 仮執行の宣言を付した届出債権支払命令
四 仮執行の宣言を付した支払督促
四の二 訴訟費用、和解の費用若しくは非訟事件(他の法令の規定により非訟事件手続法(平成二十三年法律第五十一号)の規定を準用することとされる事件を含む。)、家事事件若しくは国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律(平成二十五年法律第四十八号)第二十九条に規定する子の返還に関する事件の手続の費用の負担の額を定める裁判所書記官の処分又は第四十二条第四項に規定する執行費用及び返還すべき金銭の額を定める裁判所書記官の処分(後者の処分にあつては、確定したものに限る。)
五 金銭の一定の額の支払又はその他の代替物若しくは有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求について公証人が作成した公正証書で、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されているもの(以下「執行証書」という。)
六 確定した執行判決のある外国裁判所の判決(家事事件における裁判を含む。第二十四条において同じ。)
六の二 確定した執行決定のある仲裁判断
七 確定判決と同一の効力を有するもの(第三号に掲げる裁判を除く。)

(管轄)
第百九十六条 この節の規定による債務者の財産の開示に関する手続(以下「財産開示手続」という。)については、債務者の普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所が、執行裁判所として管轄する。

(実施決定)
第百九十七条 執行裁判所は、次の各号のいずれかに該当するときは、執行力のある債務名義の正本を有する金銭債権の債権者の申立てにより、債務者について、財産開示手続を実施する旨の決定をしなければならない。ただし、当該執行力のある債務名義の正本に基づく強制執行を開始することができないときは、この限りでない。
一 強制執行又は担保権の実行における配当等の手続(申立ての日より六月以上前に終了したものを除く。)において、申立人が当該金銭債権の完全な弁済を得ることができなかつたとき。
二 知れている財産に対する強制執行を実施しても、申立人が当該金銭債権の完全な弁済を得られないことの疎明があつたとき。
2 執行裁判所は、次の各号のいずれかに該当するときは、債務者の財産について一般の先取特権を有することを証する文書を提出した債権者の申立てにより、当該債務者について、財産開示手続を実施する旨の決定をしなければならない。
一 強制執行又は担保権の実行における配当等の手続(申立ての日より六月以上前に終了したものを除く。)において、申立人が当該先取特権の被担保債権の完全な弁済を得ることができなかつたとき。
二 知れている財産に対する担保権の実行を実施しても、申立人が前号の被担保債権の完全な弁済を得られないことの疎明があつたとき。
3 前二項の規定にかかわらず、債務者(債務者に法定代理人がある場合にあつては当該法定代理人、債務者が法人である場合にあつてはその代表者。第一号において同じ。)が前二項の申立ての日前三年以内に財産開示期日(財産を開示すべき期日をいう。以下同じ。)においてその財産について陳述をしたものであるときは、財産開示手続を実施する旨の決定をすることができない。ただし、次の各号に掲げる事由のいずれかがある場合は、この限りでない。
一 債務者が当該財産開示期日において一部の財産を開示しなかつたとき。
二 債務者が当該財産開示期日の後に新たに財産を取得したとき。
三 当該財産開示期日の後に債務者と使用者との雇用関係が終了したとき。
4 第一項又は第二項の決定がされたときは、当該決定(同項の決定にあつては、当該決定及び同項の文書の写し)を債務者に送達しなければならない。
5 第一項又は第二項の申立てについての裁判に対しては、執行抗告をすることができる。
6 第一項又は第二項の決定は、確定しなければその効力を生じない。

(期日指定及び期日の呼出し)
第百九十八条 執行裁判所は、前条第一項又は第二項の決定が確定したときは、財産開示期日を指定しなければならない。
2 財産開示期日には、次に掲げる者を呼び出さなければならない。
一 申立人
二 債務者(債務者に法定代理人がある場合にあつては当該法定代理人、債務者が法人である場合にあつてはその代表者)

(財産開示期日)
第百九十九条 開示義務者(前条第二項第二号に掲げる者をいう。以下同じ。)は、財産開示期日に出頭し、債務者の財産(第百三十一条第一号又は第二号に掲げる動産を除く。)について陳述しなければならない。
2 前項の陳述においては、陳述の対象となる財産について、第二章第二節の規定による強制執行又は前章の規定による担保権の実行の申立てをするのに必要となる事項その他申立人に開示する必要があるものとして最高裁判所規則で定める事項を明示しなければならない。
3 執行裁判所は、財産開示期日において、開示義務者に対し質問を発することができる。
4 申立人は、財産開示期日に出頭し、債務者の財産の状況を明らかにするため、執行裁判所の許可を得て開示義務者に対し質問を発することができる。
5 執行裁判所は、申立人が出頭しないときであつても、財産開示期日における手続を実施することができる。
6 財産開示期日における手続は、公開しない。
7 民事訴訟法第百九十五条及び第二百六条の規定は前各項の規定による手続について、同法第二百一条第一項及び第二項の規定は開示義務者について準用する。

(陳述義務の一部の免除)
第二百条 財産開示期日において債務者の財産の一部を開示した開示義務者は、申立人の同意がある場合又は当該開示によつて第百九十七条第一項の金銭債権若しくは同条第二項各号の被担保債権の完全な弁済に支障がなくなつたことが明らかである場合において、執行裁判所の許可を受けたときは、前条第一項の規定にかかわらず、その余の財産について陳述することを要しない。
2 前項の許可の申立てについての裁判に対しては、執行抗告をすることができる。

(財産開示事件の記録の閲覧等の制限)
第二百一条 財産開示事件の記録中財産開示期日に関する部分についての第十七条の規定による請求は、次に掲げる者に限り、することができる。
一 申立人
二 債務者に対する金銭債権について執行力のある債務名義の正本を有する債権者
三 債務者の財産について一般の先取特権を有することを証する文書を提出した債権者
四 債務者又は開示義務者

(財産開示事件に関する情報の目的外利用の制限)
第二百二条 申立人は、財産開示手続において得られた債務者の財産又は債務に関する情報を、当該債務者に対する債権をその本旨に従つて行使する目的以外の目的のために利用し、又は提供してはならない。
2 前条第二号又は第三号に掲げる者であつて、財産開示事件の記録中の財産開示期日に関する部分の情報を得たものは、当該情報を当該財産開示事件の債務者に対する債権をその本旨に従つて行使する目的以外の目的のために利用し、又は提供してはならない。

(強制執行及び担保権の実行の規定の準用)
第二百三条 第三十九条及び第四十条の規定は執行力のある債務名義の正本に基づく財産開示手続について、第四十二条(第二項を除く。)の規定は財産開示手続について、第百八十二条及び第百八十三条の規定は一般の先取特権に基づく財産開示手続について準用する。

(管轄)
第二百四条 この節の規定による債務者の財産に係る情報の取得に関する手続(以下「第三者からの情報取得手続」という。)については、債務者の普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所が、この普通裁判籍がないときはこの節の規定により情報の提供を命じられるべき者の所在地を管轄する地方裁判所が、執行裁判所として管轄する。

(債務者の不動産に係る情報の取得)
第二百五条 執行裁判所は、次の各号のいずれかに該当するときは、それぞれ当該各号に定める者の申立てにより、法務省令で定める登記所に対し、債務者が所有権の登記名義人である土地又は建物その他これらに準ずるものとして法務省令で定めるものに対する強制執行又は担保権の実行の申立てをするのに必要となる事項として最高裁判所規則で定めるものについて情報の提供をすべき旨を命じなければならない。ただし、第一号に掲げる場合において、同号に規定する執行力のある債務名義の正本に基づく強制執行を開始することができないときは、この限りでない。 一 第百九十七条第一項各号のいずれかに該当する場合
執行力のある債務名義の正本を有する金銭債権の債権者
二 第百九十七条第二項各号のいずれかに該当する場合
債務者の財産について一般の先取特権を有することを証する文書を提出した債権者
2 前項の申立ては、財産開示期日における手続が実施された場合(当該財産開示期日に係る財産開示手続において第二百条第一項の許可がされたときを除く。)において、当該財産開示期日から三年以内に限り、することができる。
3 第一項の申立てを認容する決定がされたときは、当該決定(同項第二号に掲げる場合にあつては、当該決定及び同号に規定する文書の写し)を債務者に送達しなければならない。
4 第一項の申立てについての裁判に対しては、執行抗告をすることができる。
5 第一項の申立てを認容する決定は、確定しなければその効力を生じない。

(債務者の給与債権に係る情報の取得)
第二百六条 執行裁判所は、第百九十七条第一項各号のいずれかに該当するときは、第百五十一条の二第一項各号に掲げる義務に係る請求権又は人の生命若しくは身体の侵害による損害賠償請求権について執行力のある債務名義の正本を有する債権者の申立てにより、次の各号に掲げる者であつて最高裁判所規則で定めるところにより当該債権者が選択したものに対し、それぞれ当該各号に定める事項について情報の提供をすべき旨を命じなければならない。ただし、当該執行力のある債務名義の正本に基づく強制執行を開始することができないときは、この限りでない。
一 市町村(特別区を含む。以下この号において同じ。)
債務者が支払を受ける地方税法(昭和二十五年法律第二百二十六号)第三百十七条の二第一項ただし書に規定する給与に係る債権に対する強制執行又は担保権の実行の申立てをするのに必要となる事項として最高裁判所規則で定めるもの(当該市町村が債務者の市町村民税(特別区民税を含む。)に係る事務に関して知り得たものに限る。)
二 日本年金機構、国家公務員共済組合、国家公務員共済組合連合会、地方公務員共済組合、全国市町村職員共済組合連合会又は日本私立学校振興・共済事業団
債務者(厚生年金保険の被保険者であるものに限る。以下この号において同じ。)が支払を受ける厚生年金保険法(昭和二十九年法律第百十五号)第三条第一項第三号に規定する報酬又は同項第四号に規定する賞与に係る債権に対する強制執行又は担保権の実行の申立てをするのに必要となる事項として最高裁判所規則で定めるもの(情報の提供を命じられた者が債務者の厚生年金保険に係る事務に関して知り得たものに限る。)
2 前条第二項から第五項までの規定は、前項の申立て及び当該申立てについての裁判について準用する。

(債務者の預貯金債権等に係る情報の取得)
第二百七条 執行裁判所は、第百九十七条第一項各号のいずれかに該当するときは、執行力のある債務名義の正本を有する金銭債権の債権者の申立てにより、次の各号に掲げる者であつて最高裁判所規則で定めるところにより当該債権者が選択したものに対し、それぞれ当該各号に定める事項について情報の提供をすべき旨を命じなければならない。ただし、当該執行力のある債務名義の正本に基づく強制執行を開始することができないときは、この限りでない。
一 銀行等(銀行、信用金庫、信用金庫連合会、労働金庫、労働金庫連合会、信用協同組合、信用協同組合連合会、農業協同組合、農業協同組合連合会、漁業協同組合、漁業協同組合連合会、水産加工業協同組合、水産加工業協同組合連合会、農林中央金庫、株式会社商工組合中央金庫又は独立行政法人郵便貯金簡易生命保険管理・郵便局ネットワーク支援機構をいう。以下この号において同じ。)
債務者の当該銀行等に対する預貯金債権(民法第四百六十六条の五第一項に規定する預貯金債権をいう。)に対する強制執行又は担保権の実行の申立てをするのに必要となる事項として最高裁判所規則で定めるもの
二 振替機関等(社債、株式等の振替に関する法律第二条第五項に規定する振替機関等をいう。以下この号において同じ。)
債務者の有する振替社債等(同法第二百七十九条に規定する振替社債等であつて、当該振替機関等の備える振替口座簿における債務者の口座に記載され、又は記録されたものに限る。)に関する強制執行又は担保権の実行の申立てをするのに必要となる事項として最高裁判所規則で定めるもの
2 執行裁判所は、第百九十七条第二項各号のいずれかに該当するときは、債務者の財産について一般の先取特権を有することを証する文書を提出した債権者の申立てにより、前項各号に掲げる者であつて最高裁判所規則で定めるところにより当該債権者が選択したものに対し、それぞれ当該各号に定める事項について情報の提供をすべき旨を命じなければならない。
3 前二項の申立てを却下する裁判に対しては、執行抗告をすることができる。

(情報の提供の方法等)
第二百八条 第二百五条第一項、第二百六条第一項又は前条第一項若しくは第二項の申立てを認容する決定により命じられた情報の提供は、執行裁判所に対し、書面でしなければならない。
2 前項の情報の提供がされたときは、執行裁判所は、最高裁判所規則で定めるところにより、申立人に同項の書面の写しを送付し、かつ、債務者に対し、同項に規定する決定に基づいてその財産に関する情報の提供がされた旨を通知しなければならない。

(第三者からの情報取得手続に係る事件の記録の閲覧等の制限)
第二百九条 第二百五条又は第二百七条の規定による第三者からの情報取得手続に係る事件の記録中前条第一項の情報の提供に関する部分についての第十七条の規定による請求は、次に掲げる者に限り、することができる。
一 申立人
二 債務者に対する金銭債権について執行力のある債務名義の正本を有する債権者
三 債務者の財産について一般の先取特権を有することを証する文書を提出した債権者
四 債務者
五 当該情報の提供をした者
2 第二百六条の規定による第三者からの情報取得手続に係る事件の記録中前条第一項の情報の提供に関する部分についての第十七条の規定による請求は、次に掲げる者に限り、することができる。
一 申立人
二 債務者に対する第百五十一条の二第一項各号に掲げる義務に係る請求権又は人の生命若しくは身体の侵害による損害賠償請求権について執行力のある債務名義の正本を有する債権者
三 債務者
四 当該情報の提供をした者

(第三者からの情報取得手続に係る事件に関する情報の目的外利用の制限)
第二百十条 申立人は、第三者からの情報取得手続において得られた債務者の財産に関する情報を、当該債務者に対する債権をその本旨に従つて行使する目的以外の目的のために利用し、又は提供してはならない。
2 前条第一項第二号若しくは第三号又は第二項第二号に掲げる者であつて、第三者からの情報取得手続に係る事件の記録中の第二百八条第一項の情報の提供に関する部分の情報を得たものは、当該情報を当該事件の債務者に対する債権をその本旨に従つて行使する目的以外の目的のために利用し、又は提供してはならない。

(強制執行及び担保権の実行の規定の準用)
第二百十一条 第三十九条及び第四十条の規定は執行力のある債務名義の正本に基づく第三者からの情報取得手続について、第四十二条(第二項を除く。)の規定は第三者からの情報取得手続について、第百八十二条及び第百八十三条の規定は一般の先取特権に基づく第三者からの情報取得手続について、それぞれ準用する。

(陳述等拒絶の罪)
第二百十三条 次の各号のいずれかに該当する者は、六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
一 売却基準価額の決定に関し、執行裁判所の呼出しを受けた審尋の期日において、正当な理由なく、出頭せず、若しくは陳述を拒み、又は虚偽の陳述をした者
二 第五十七条第二項(第百二十一条(第百八十九条(第百九十五条の規定によりその例によることとされる場合を含む。)において準用する場合を含む。)及び第百八十八条(第百九十五条の規定によりその例によることとされる場合を含む。)において準用する場合を含む。)の規定による執行官の質問又は文書の提出の要求に対し、正当な理由なく、陳述をせず、若しくは文書の提示を拒み、又は虚偽の陳述をし、若しくは虚偽の記載をした文書を提示した者
三 第六十五条の二(第百八十八条(第百九十五条の規定によりその例によることとされる場合を含む。)において準用する場合を含む。)の規定により陳述すべき事項について虚偽の陳述をした者
四 第百六十八条第二項の規定による執行官の質問又は文書の提出の要求に対し、正当な理由なく、陳述をせず、若しくは文書の提示を拒み、又は虚偽の陳述をし、若しくは虚偽の記載をした文書を提示した債務者又は同項に規定する不動産等を占有する第三者
五 執行裁判所の呼出しを受けた財産開示期日において、正当な理由なく、出頭せず、又は宣誓を拒んだ開示義務者
六 第百九十九条第七項において準用する民事訴訟法第二百一条第一項の規定により財産開示期日において宣誓した開示義務者であつて、正当な理由なく第百九十九条第一項から第四項までの規定により陳述すべき事項について陳述をせず、又は虚偽の陳述をしたもの
2 不動産(登記することができない土地の定着物を除く。以下この項において同じ。)の占有者であつて、その占有の権原を差押債権者、仮差押債権者又は第五十九条第一項(第百八十八条(第百九十五条の規定によりその例によることとされる場合を含む。)において準用する場合を含む。)の規定により消滅する権利を有する者に対抗することができないものが、正当な理由なく、第六十四条の二第五項(第百八十八条(第百九十五条の規定によりその例によることとされる場合を含む。)において準用する場合を含む。)の規定による不動産の立入りを拒み、又は妨げたときは、三十万円以下の罰金に処する。

民事執行規則

(財産目録)
第百八十三条 執行裁判所は、法第百九十八条第一項の規定により財産開示期日を指定するときは、当該財産開示期日以前の日を法第百九十九条第一項に規定する開示義務者が財産目録を執行裁判所に提出すべき期限として定め、これを当該開示義務者に通知しなければならない。
2 前項の開示義務者は、財産開示期日における陳述の対象となる債務者の財産を、財産目録に記載しなければならない。この場合においては、法第百九十九条第二項の規定を準用する。
3 第一項の開示義務者は、同項の期限までに、執行裁判所に財産目録を提出しなければならない。

(財産開示期日における陳述において明示すべき事項)
第百八十四条 法第百九十九条第二項(前条第二項後段において準用する場合を含む。)の最高裁判所規則で定める事項は、次に掲げる事項とする。
一 第二章第二節第三款から第五款まで、第八款及び第九款の規定による強制執行の申立てをするのに必要となる事項
二 第百七十五条から第百七十七条の二まで、第百八十条の二及び第百八十条の三の規定による担保権の実行の申立てをするのに必要となる事項
三 債務者の財産が動産である場合にあつては、その所在場所ごとに、主要な品目、その数量及び価格(他から購入した動産にあつては購入時期及び購入価格を含む。)

(開示義務者の宣誓)
第百八十五条 執行裁判所が法第百九十九条第七項において準用する民事訴訟法第二百一条第一項の規定により開示義務者に宣誓をさせる場合には、裁判長は、宣誓の前に、開示義務者に対して、宣誓の趣旨及び法第二百六条第一項第二号の規定の内容を説明しなければならない。
2 民事訴訟規則第百十二条第一項から第四項までの規定は、開示義務者の宣誓について準用する。