メンズエステ店での性犯罪容疑について

刑事|強制性交等罪の構成要件である「暴行」の認定|わいせつ行為への同意を誤信した場合の刑事責任|メンズエステ店で口腔性交を試みた事案

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参照条文

質問

私は、東京都内に住む会社員です。先日、いわゆるメンズエステ(客が裸になり、薄暗い個室で女性従業員にオイルマッサージを受ける形式)のお店でサービスを受けた際、気分が盛り上がり、女性スタッフに抱きつき、胸を揉むなどの行為をしてしまいました。女性スタッフは、最初に「やめてください」などと言っていたのですが、私が「口でやってよ」などと頼み、スタッフの眼前に男性器を出し、頭を軽く支えるようにすると、口での行為(フェラチオ行為)に応じてくれました。

私としては、類似店舗では同種行為も問題なかったですし、女性は「やめてください」と言ってはいたものの、終始笑顔で特段に強い抵抗を示すような様子もなかったため、行為を拒絶しようとしていたということはないと思います。少なくとも、私は女性も同意していると確信していました。しかし、友人から似たようなケースで逮捕されることもあるとの噂を聞き不安になりました。

私が今後逮捕されてしまうことなどはあるのでしょうか。

回答

1 本件でのあなたの行為は、強制性交罪(刑法176条)に該当する可能性があります。そのため、女性スタッフの方が、警察に被害届や告訴状を提出した場合、受理されて刑事事件となり、逮捕という事態になることも考えられます。

本件では、あなたの行為が強制性交罪となるのかについては、その要件である「暴行」に該当するか否かという点、そして仮に暴行に該当するとしても、あなたが「被害者が同意していると誤信していた(犯罪の行為を有していなかった)」と認められるかという点が問題となります。

この点、従前の刑事事件の手続きや検察庁、裁判所の判断の傾向としては、多少の頭を抑える等の行為は、通常の同意の上での性行為でも見られる範囲の行為として、「暴行」とまでは認定できないとの判断になることが多かったのですが、近年、性犯罪の厳罰化を求める傾向が強く、国会においても、刑法の性犯罪規定の暴行・脅迫要件の緩和・撤廃が議論されている現状を受け、本件のような軽く頭を抑える程度の暴行でも、その状況等を鑑みて「暴行」として認定されてしまうことが多くなっています。

また、「故意(刑法38条1項)」の点についても、本件類似の事例について、入店時に性的なサービスをしない旨の注意書を取り交わしていたこと、被疑者と被害者が初対面の客と従業員であること、被害者から積極的に性交等を求める行為がなかったことなどの点から、被害者の同意があったと被告人が誤信するとは到底考えがたいと判断し、故意を認定した例も存在します。

同意があったという内容については、理論的に厳格に解するのが一般的ですから捜査機関に対する錯誤の主張も難しい面があります。すなわち同意とは、真意で、自由、明確な意思による同意を意味すると通常解釈されているからです。そのため、自分では安心と判断していても、突如として強制性交罪の容疑による逮捕などの不利益を受けてしまうケースが多数存在しています。

2 仮に逮捕等に至ってしまった場合に無罪を主張する準備としては、あなたの記憶が鮮明なうちに当時の行為状況を書面化しておく等の対応が考えられます。

一方で、逮捕等の不利益を避けるためには、こちらから被害者に対して連絡を取り、警察に告訴される前に、示談を成立させるという選択肢もあります。もちろん、示談の申し入れをすることによって有罪の嫌疑が深まってしまう危険は存在しますので、事件に関する正確な見通しを立てた上で、慎重に対応を検討する必要があります。

まずは、同種事案の経験のある弁護士に速やかに相談し、事件の見通しを聞いた上で、適切かつ安全な対応を取ることをお勧め致します。お近くの法律事務所に至急ご相談ください。

3 被害者の同意に関連する事例集はこちらをご覧ください。

解説

1 強制性交罪の成否

(1) 強制性交罪の構成要件

本件でのあなたの行為は、強制性交罪(刑法177条)に該当する可能性がございます。

強制性交罪が成立する基本的な要件は、①「暴行又は脅迫」を用いて、②「性交等」をすること、です。

②について、本件では、女性にいわゆる口腔性交をしてもらったとのことですが、強制性交罪における「性交等」には、口腔性交も含まれます。

問題は、①の「暴行又は脅迫を用いた」といえるか否かです。法律上、「暴行」とは、「人の身体に対する違法な有形力の行使」を意味します。そして、強制性交罪が成立するための要件としての暴行に求められる程度は、「被害者の反抗を著しく困難にする程度」のものであれば成立するとされています。これは、強盗罪の場合(被害者の反抗を抑圧するに足る程度)に比べると、比較的緩やかな要件であると言えます。

この点、仮に刑事裁判となった場合には、具体的な行為の態様のほか、時間的・場所的な状況、被害者の年齢や精神状態等の諸般の事情を考慮して客観的に判断されることになります。例えば、被害者の体を抑えつけたりして抵抗を防いでいれば、暴行に該当すると判断されることが多いと言えます。一方、本件のように、女性の体に対して強い有形力行使していない場合でも、暴行があったと言えるかは問題となります。

従来の刑事事件の実務傾向からすると、多少の頭を抑える等の行為は、通常の同意の上での性行為でも見られる範囲の行為として、「暴行」とまでは認定できないとの判断になり、検察官も「嫌疑不十分」として起訴しないという判断もありました。

しかし、近年、性犯罪の厳罰化を求める傾向が強く、国会においても、刑法の性犯罪規定の暴行・脅迫要件の緩和・撤廃が議論され、刑法の更なる見直し等も予定されています。上記のような傾向を受け、刑事手続きにおける検察官の判断、裁判所の認定としても、行為態様自体に加えて実際の状況等も重視し、暴行を幅広く認定する傾向が強くなっています。

そのような傾向からすると、本件のように、薄暗い密室で関係性の薄い男性と二人きりという状況ですと、やはり女性として男性に対して恐怖感を感じるであろうという推定がはたらき、たとえ強い抵抗を被害者が明示的に示していなかったとしても、強制性交罪における「暴行」が認定されてしまう危険性は、やはり否定できません。

暴行の該当性を否定するためには、仮に今後警察の捜査が及んできてしまった場合に備えて、当時の被害者とのやり取りや言動の詳細を記録しておく必要があるでしょう。

(2) 被害者の同意の誤信について

また、強制性交罪が犯罪として処罰の対象となるには、当然、被疑者に罪を犯す「故意」が必要となります。そのため、あなたが「被害者も同意していた」と信じて行為に及んだと認めてもらえれば、無罪となります。

この点、従前の刑事事件の実務では、実際の行為態様を見て、それほど強い暴行の態様でなければ、被疑者による「被害者の同意を誤信していた」という弁明を排斥できない、故意は認められない、という嫌疑不十分の判断がされる傾向が強くありました。

しかし、こちらも前述のように国会の議論の方向性もあり、例え強度の暴行がなくとも、客観的な状況からして被疑者の誤信を否定するような例も出ております。

近時の裁判例では、本件類似の事例について、入店時に性的なサービスをしない旨の注意書を取り交わしていたこと、被疑者と被害者が初対面の客と従業員であること、被害者から積極的に性交等を求める行為がなかったことなどの点から、被害者の同意があったと被告人が誤信するとは到底考えがたいと判断し、故意を認定した例も存在します。

2 本件の対応について

上記の状況からすると、本件で強制性交罪が成立してしまうという危険性を完全に払しょくすることは困難かと存じます。

そこで、警察の捜査を受けてしまうことに備えた対応ですが、無罪を主張する場合には、詳細な弁明ができるように、あなたの記憶が鮮明なうちに当時の行為状況を書面化しておく等の対応が考えられます。

もっとも、無罪の主張については、やはり実際に警察の捜査が開始され、被害者が被害状況についていかなる供述をしているかを把握できないと対応が難しい側面はあります。

そのため、仮に強制性交罪が成立する危険性が相当程度高い状況であれば、こちらから被害者に対して連絡を取り、警察に告訴される前に、示談を成立させるという選択肢もあります。

現在、強制性交罪は親告罪(被害者からの告訴がなければ処罰できない犯罪)ではありませんが、実際に被害者による被害申告が為されなければ捜査自体が開始されませんし、仮に告訴されてしまっている場合でも、示談により告訴が取り下げられれば、不起訴処分となる可能性が非常に高いため、早い段階で被害者に接触し、示談の申し入れをすることは、逮捕や処罰の危険を避けることに繋がります。

もちろん、示談の申し入れをすることによって有罪の嫌疑が深まってしまう危険は存在しますし、ご本人による被害者への接触は、二次被害や証拠隠滅男行為とみなされて却って逮捕を誘引してしまう結果ともなりかねません。

そのような危険を避けるためには、同種事案の経験の多い弁護士に相談し、事件に関する正確な見通しを立てた上で、慎重に示談の申し入れを進める必要が大きいでしょう。

3 まとめ

本件のような事例は、相手方からのクレームへの対応が遅れると、突然の逮捕、処罰に繋がり易い事案です。相手がクレームしてきている場合は、貴方の認識とは異なり何らかの不満や誤解があるということです。相手の認識を軽視せず真摯な対応が必要です。

一方で、迅速な対応ができれば、示談成立により不起訴処分となる可能性も比較的高い事案です。

同種事案の経験のある弁護士に速やかに相談し、事件の見通しを聞いた上で、適切かつ安全な対応を取ることをお勧め致します。

以上

関連事例集

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参照条文
刑法

(強制性交等)
第百七十七条 十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛こう門性交又は口腔くう性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。十三歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。