高齢の親との面会が妨害されている場合の対処法|面会妨害禁止の仮処分決定

家事|両親との面会交流権、面会妨害禁止の仮処分|平成30年7月20日横浜地方裁判所決定

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参照条文
  6. 参照判例

質問

私には、90歳になる母親がいます。母は、もともと私の自宅のそばに住んでいましたが、2か月ほど前、私の兄が私に内緒で勝手に母を老人ホームに入れてしまいました。

しかも、入居した施設名も教えてもらえず、私は母親に面会することが一切できていない状況です。母は、数年前からアルツハイマー型認知症を患っており、最近は症状も重くなっていました。父から相続した預貯金等を持っていますが、兄に勝手に使われていないか心配です。何とか、母の様子を知り、面会を実現する方法はないでしょうか。

回答

1 母親がどこの老人ホームにいるかを知る方法としては、まず第一に母親の住民票の申請をすることが考えられます。子供であれば、事情を説明すれば母親の住民票を申請することはできます。まずは、従来の住所の住民票を申請してみてください。他の地域に転居していれば住民票の除票をとることが出来、そこには転居先が記載されているはずです。同様の方法として、本籍地の市役所で「戸籍の附票」をとることで住所を確認することが出来ます。

2 住民票が移転していない場合は、母親の住んでいた地域の地域包括支援センターに問い合わせると、どこの老人ホームに入所しているかわかることもあります。

3 以上の方法で不明の場合は、お兄様を相手方として、家庭裁判所に家族関係の調整の調停を申し立てることにより、家庭裁判所からお兄様に母親の所在を確認してもらうことが出来ます。

家庭裁判所の調停は、強制力はなく、従来の住所の住民票を親族が高齢の親を施設などに入居させて囲い込んでしまい、その様子を知ることが不可能となってしまう状況は、これまでも頻繁に問題となっていましたが、その状況を打開する法的な手段は考えられていませんでした。

しかし、近年、子が両親に面会する権利を保全するために、両親の居場所を知っている兄弟及び両親が入居している施設に対して、面会の妨害を禁止する命令が発令される事例がありました。

同事例で裁判所は、両親を施設に囲い込んでいた妹に対して、兄が両親に対する親族間の紛争調整の調停や、成年後見開始の審判申立をしたのに対して、妹が家庭裁判所の調査官による調査に応じなかったことなどを理由に、妹に対して兄が両親に面会することを妨害してはならない旨の仮処分の命令を発令しました。

4 本件でも、同事例のように、お兄さんが家庭裁判所の調査にも応じないような姿勢を見せる場合には、裁判所から面会妨害禁止の仮処分決定を得られることも考えられます。具体的な手続きについては、経験のある弁護士事務所に相談されることをお勧め致します。

解説

1 相談者に認められる権利について

成人した子が、高齢の両親に対して面会することを請求する場合、その法的な根拠については、明確に定められてはいません。

しかし、近年では、憲法13条後段の幸福追求権から導かれる基本的人権の一つである人格権の一種として、両親に面会する法的な権利が認められています。下記で引用する裁判例でも、「両親はいずれも高齢で要介護状態にあり、アルツハイマー型認知症を患っていることからすると、子が両親の状況を確認し、必要な扶養をするために、面会交流を希望することは当然であって、それが両親の意思に明確に反し両親の平穏な生活を侵害するなど、両親の権利を不当に侵害するものでない限り、債権者は両親に面会をする権利を有するものといえる。」として、両親への面会交流権を認めています。

したがって、本件のように、あなたのお兄さんや施設の職員が、あなたが両親と面会しようとすることを妨害しているのであれば、そのような妨害行為は、違法な行為と評価されることになります。

2 権利実現の方法について

そのような違法行為を是正する手段としては、裁判所に対して、相手方となるお兄さんや施設を相手方として、妨害を禁止する命令の発令を求める仮処分を申立てることが考えられます。

本来、第三者に対して自分の民事上の権利を実現する手段としては、相手方に対して民事訴訟を提起するのが原則ですが、民事訴訟(裁判)は、提起してから解決するまでに時間を要ることになります。

そのため、裁判が終わるのを待っていたのでは損害が大きくなってしまう場合や、権利を実現しても意味が無くなってしまうような場合には、裁判所に対して、仮に権利を実現させる処分を求めることができます。中でも、本件の両親との面会のように、直接的に権利の実現を達成させる仮処分は、「仮の地位を定める仮処分」に分類されます。

この仮の地位を定める仮処分は、暫定的なものではありますが、実質的に裁判で勝訴したのと同じ効果を与えることになります。そのため、裁判所が認める要件も厳しく、「争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするときに発することができる(民事保全法第23条2項)」とされています。

近年、この仮処分の手続きにおいて、本件と同様、高齢の両親を囲い込んでいた兄と面会をさせなかった施設に対して、面会の妨害を禁止する仮処分が認められた事例が存在します(平成30年7月20日横浜地方裁判所決定)。

以下では、いかなる事情のもとで、仮処分命令が発令されたのかについて説明致します。

3 面会妨害禁止の仮処分が認められる条件

(1) 面会の妨害行為

上記仮処分決定の事例では、もともと九州(妹の家の近く)の自宅に住んでいたアルツハイマーの両親が、妹の主導により、横浜の施設に入所させられました。その際、債権者に対し、事前に両親が退去する旨の連絡はなく、また、兄が、地域包括支援センターに問い合わせをしたところ、両親は施設に入所中であるが、妹から施設名を教えないように言われている旨の回答を受けており、妹が積極的に兄に対して居所を教えないようにしている事案でした。

このように、妹の意向が両親の入居している施設等の行為に影響し、債権者が現在両親に面会できない状態にあること、つまり妹が兄の面会を妨害していることは、妹に対する仮処分が発令させるための当然の条件になるものと思料されます。

(2) 家庭裁判所の手続きの拒否

上記仮処分決定では、債権者(面会を妨害されていた者)は、まず家庭裁判所に対して、親族間の紛争の調整の調停を申立てていました。しかし、同調停の進行に当たって、家庭裁判所の調査官が妨害していた妹に連絡をしたところ、調停には一切出席しないこと、調停には応じる考えはないことなどを電話で伝えており、結果調停に両親が出席することはありませんでした。

また、債権者(兄)は、家庭裁判所に対し、両親の成年後見開始の審判も申し立てをしました。しかし、妨害していた妹は、家庭裁判所調査官による親族調査の際に、親の所在については明らかにしたくないとの意向を示し、結局、両親の判断能力の程度を判定することができませんでした。

さらに、当該仮処分手続きの審尋期日の中でも、兄は、家庭裁判所調査官と両親が面会することで、妹に成年後見開始審判申立事件に協力することを求める旨の意向を示しましたが、妹は、家庭裁判所調査官の調査にも応じるつもりはない旨述べた。

本来、高齢の親がいれば、その財産の管理のために成年後見人が選任される必要があります。そして、親族間で争いがある場合には、弁護士などの客観的な立場の第三者が後見人に選任されることになります。

つまり、兄としては、当初、法律が想定している典型手続きである後見開始審判の申立をしたのですが、妹はこれを拒否しました、これにより、妹が法律上必要とされている制度への協力を拒否していることが確定し、妨害の度合いとしても非常に強いことが認められたことにます。 また兄としては、成年後見人の選任が妹の協力拒否により不可能である以上、仮処分の手続きによらなければ、両親の状況を知ることができない状況とも言えます。

このような状況においては、妹の妨害を禁止する仮処分を発令する必要性が非常に大きい(保全の必要性が存在する)ことが認められる可能性は高いです。

そのため、仮処分の申立を検討する場合には、まず前提として、代理人弁護士を通じた面会申し入れの連絡や、親族関係の調整調停や、後見開始の審判等を前置した方が良いと推測されます。これらの手続が不調に終わってしまったという事情が、後の仮処分手続きにおける疎明資料のひとつになるのです。

4 まとめ

以上のような前例を参考とし、仮処分命令の申立てを行えば、両親との面会を実現することは可能です。施設としても、裁判所の命令が出れば、それには従わざるを得ないと思われます。

高齢の親御さんと面会できずにいることは、精神的な負荷が非常に大きいだけでなく、将来の相続にも禍根を残すことが多いです。

状況を早急に改善するためには、弁護士へ相談してみることをお勧め致します。

以上

関連事例集

関連事例集は下記のサイト内検索で調べることができます。

Yahoo! JAPAN

参照条文
民事保全法

第23条(仮処分命令の必要性等)
第1項 係争物に関する仮処分命令は、その現状の変更により、債権者が権利を実行することができなくなるおそれがあるとき、又は権利を実行するのに著しい困難を生ずるおそれがあるときに発することができる。
第2項 仮の地位を定める仮処分命令は、争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするときに発することができる。
第3項 第20条第2項 の規定は、仮処分命令について準用する。
第4項 第2項の仮処分命令は、口頭弁論又は債務者が立ち会うことができる審尋の期日を経なければ、これを発することができない。ただし、その期日を経ることにより仮処分命令の申立ての目的を達することができない事情があるときは、この限りでない。

参照判例
平成30年 6月27日 横浜地裁 仮処分決定

2 被保全権利の存否について

債権者は、両親の子であるところ、前記認定事実のとおり、両親はいずれも高齢で要介護状態にあり、アルツハイマー型認知症を患っていることからすると、子が両親の状況を確認し、必要な扶養をするために、面会交流を希望することは当然であって、それが両親の意思に明確に反し両親の平穏な生活を侵害するなど、両親の権利を不当に侵害するものでない限り、債権者は両親に面会をする権利を有するものといえる。

そして、前記認定事実のほか、債務者提出の証拠及び本件に顕れた一切の事情を考慮しても、債権者が両親と面会することが両親の権利を不当に侵害するような事情は認められないことから、本件被保全権利は一応認められる。

3 保全の必要性について

前記認定事実によると、両親が現在入居している施設に入居するに当たり債務者が関与していること、債務者が債権者に両親に入居している施設名を明らかにしないための措置をとったこと、債権者が両親との面会に関連して、家庭裁判所に親族間の紛争調整調停を申し立てる方法をとってもなお、債務者は家庭裁判所調査官に対しても両親の所在を明らかにせず、調停への出頭を拒否したこと、本件審尋期日においても、債務者は、債権者と両親が面会することについて協力しない旨の意思を示したことが認められる。

これらの事情を総合すると、債務者の意向が両親の入居している施設等の行為に影響し、債権者が現在両親に面会できない状態にあるものといえる。また、債務者の従前からの態度を考慮すると、上記の状況が改善する可能性は乏しいものといえ、今後も、債務者の妨害行為により債権者の面会交流する権利が侵害されるおそれがあるものといえる。

なお、債務者は、両親の意向を尊重しているだけで、債務者が債権者と両親との面会を妨害している事実はないなどと主張するが、前記のとおり、債務者の行為が、債権者が両親と面会できない状況の作出に影響していることは否定できない。

以上によると、債権者が両親に面会することにつき、債務者の妨害を予防することが必要であることから、本件保全の必要性も認められる。

4 結論

よって、本件仮処分命令申立ては理由があるから、これを認容した原決定を認可することとし、主文のとおり決定する。