遺産分割調停で欠席者がいる場合の対応|調停に代わる審判

家事|調停に代わる審判が適する場面|家事事件手続法284条|遺産分割調停で他の法定相続人の出席が見込めない事案

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参照条文

質問

先日、私の父親が死亡しました。相続人は、長男である私と、次男の弟、長女の妹の三名です。

遺言が存在しないため、私が遺産分割協議の案を作成して弟妹に送ったのですが、次男は、私と折り合いが悪く、手紙を送っても返事がありません。長女は、私の案で構わないと言っていますが、遠方に住んでおり、脚が悪いため、調停等に出席することに余り積極的ではありません。

弁護士に相談したところ、弟妹が調停に出席してくれないと調停は成立しないから、遺産分割の審判にする必要があると言われました。

私としては、自分の体調も優れないので、一日も早くこの件を片付けたいのですが、もっと簡単な形で手続きを進めることはできないでしょうか。

回答

1 遺言などが無い場合、遺産分割は、相続人間が協議して決める必要があります。その協議がまとまらない場合には、家庭裁判所の遺産分割調停の中で、調停委員会の法的な助言を受けながら、進めることになります。

しかし、遺産分割調停は、あくまで当事者全員による話し合いの手続きですので、当事者となる法定相続人全員の出席がないと、原則として成立することはありません。

もし、当事者の中で調停での話し合いに納得できない人がいる、そもそも調停に出席しない人がいる、等の理由により、遺産分割調停が成立しない場合には、遺産分割調停は不成立により終了となり、遺産分割の審判を申し立てることになります。遺産分割審判では、最終的に裁判官が遺産分割の内容を決定することになりますが、審判の手続きには、相当程度の時間を要することになります。

2 一方で近年、実務上の運用として、遺産分割調停が成立しない場合でも、一定の要件が満たされる場合には、「調停に代わる審判」という手続きにより、調停終了と同時に裁判官に法的な解決内容を決定してもらうことが可能となっています。

「調停に代わる審判」は、当事者が遺産分割の内容に合意はしているが調停には出席できない場合や、そもそも賛否すら明らかにしないような場合に活用されています。本件でも、「調停に代わる審判」により、事案の迅速な解決が可能となる可能性があります。どのような手続きを選択すべきかなど、手続きの詳しい進め方は、弁護士に相談しながら検討すると良いでしょう。

3 「調停に代わる審判」に関連する事例集はこちらをご覧ください。

解説

1 遺産分割協議の進め方

(1)協議による話合い

遺産の処分について、遺言などが残されていない場合、遺産分割は、法定相続人間による協議により決める必要があります。その協議の実施の方法には決まりがないため自由に行うことができますが、基本的には、法定相続分などの法律上の決まりに基づきながら協議、話し合いで進められることになります。

相続人同士で遺産分割の方向性について意見の相違があり、話し合いで協議がまとまらない場合には、法的な解決手段によることになりますが、第一段階として、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることになります。

遺産分割調停では、調停委員と裁判官からなる調停委員が、当事者全員からその言い分を聞き、それに対する法的な観点からの助言を伝えつつ、合意点を探るように協議を進めることになります。

調停の結果、当事者間で遺産分割協議について合意ができれば、調停成立となり、調停で遺産分割の内容が決定します。この決定は、法的な拘束力を持ちますので、原則として後から覆すことはできません。

ただし、遺産分割調停は、あくまで当事者全員による話し合いの手続きであり、当事者の全員がその内容に合意しなければ成立しませんので、当事者の中に調停で示された合意に納得できない者が一人でも居たり、調停に欠席の当事者がいたりすると、原則として調停を成立させることができません。

その場合、遺産分割調停は不成立で終了することになります

(2)遺産分割の審判

遺産分割調停が不成立に終わった場合、遺産分割を解決するためには、家庭裁判所に遺産分割の審判を申し立てることになります。

遺産分割審判では、裁判所が当事者の主張を聞いた上で、遺産分割上の争点について法律上の判断を行い、最終的には遺産分割の内容を決定することになります。審判の手続きは、当事者が欠席しても進行することは可能ですので、最終的には何らかの法律上の解決が図られることにはなります。

審判の内容に不服がある当事者は、審判に対して抗告を行い、高等裁判所で再度判断を仰ぐことができます。

しかし、遺産分割の審判は、その審理に時間を要することも多く、調停を不成立で終了させて審判に移行する際には、ある程度時間を要することを覚悟せざるを得ない場面も多いところです。

2 「調停に代わる審判」について

(1)「調停に代わる審判」の手続

一方で、近年、実務上の運用として、遺産分割調停が成立しない場合でも、一定の要件が満たされる場合には、「調停に代わる審判」という手続きにより、調停終了と同時に裁判官に法的な解決内容を決定してもらうことが可能となっています。

「調停に代わる審判」の制度自体は、家事審判法の時代から存在しておりましたが、同法に代わって平成25年に施行された家事事件手続法(家事法)によりその対象範囲が拡大されたこともあり、近年、その利用件数も拡大しています。遺産分割事件も、家事審判法では対象外でしたが、家事事件手続法では、その対象に含まれています。

調停に代わる審判に関する条文は、下記のとおりです。

家事事件手続法第284条
(調停に代わる審判の対象及び要件)

第1項 家庭裁判所は、調停が成立しない場合において相当と認めるときは、当事者双方のために衡平に考慮し、一切の事情を考慮して、職権で、事件の解決のため必要な審判(以下「調停に代わる審判」という。)をすることができる。ただし、第二百七十七条第一項に規定する事項についての家事調停の手続においては、この限りでない。
第2項 家事調停の手続が調停委員会で行われている場合において、調停に代わる審判をするときは、家庭裁判所は、その調停委員会を組織する家事調停委員の意見を聴かなければならない。
第3項 家庭裁判所は、調停に代わる審判において、当事者に対し、子の引渡し又は金銭の支払その他の財産上の給付その他の給付を命ずることができる。

同条2項に記載されているとおり、調停に代わる審判は、調停を担当していた調停委員の意見も踏まえて、調停が係属している裁判所が判断をすることになりますので、調停の経緯も踏まえた判断が可能となります。そして、その決定については、通常の審判と同じ効力が認められているため(家事法287条)、迅速かつ終局的な解決を希望する当事者にとっては、調停を不成立にして、通常の審判に持ち込むよりも、時間的、心理的、経済的なメリットが大きい手続きであると言えます。

「調停に代わる審判」は、あくまで裁判所の判断で職権に基づき実施される手続きであり、当事者に申立ての権利があるものではありませんが、調停の中で調停委員に対して上申を行うことは可能です。

一方で、「調停に代わる審判」は、その内容について不満がある当事者による異議を申立て権が保障されており、異議の申立てがあった場合には、事件は通常の審判手続きに移行することになります(家事法286条)。

そのため、「調停に代わる審判」を実施すべきか否かは、実際の状況を踏まえて判断されることになります。一般的には、当事者から異議の申し立てはなされないであろうという状況が要件となるでしょう。例えば、争いのある点が些細な部分だったり、感情的に話し合いでは納得できないが裁判所の判断であれば従うことが予想される場合などが考えられます。

以下、本件で、「調停に代わる審判」による解決が見込めるかについて解説します。

(2)本件での調停に代わる審判の可能性

ア まず、本件では、妹さんが、あなたの案に概ね合意しているが遠方に住んでおり調停等に出席できない、という状況とのことですが、このような状況は、まさに「調停に代わる審判」が適する場面であると言えます。

調停に代わる審判には、当事者が出席する必要がないため、予定されている審判の内容につき合意していることが判っていれば、「調停に代わる審判」を実施して早期に解決することが可能です。従前このような場合には、「書面による受諾」という方法が用いられてきましたが、この方法は欠席者の印鑑証明書等が必要であったところ、「調停に代わる審判」ではそのような手間も省けます。

このようなケースでは、当事者から裁判所に対して、「調停に代わる審判」に付して欲しい旨の上申書や意見書を提出すれば、受け入れられるケースが多いです。

イ また、今回の次男のように、当事者の一人が遺産分割協議に関する意見を明確にせず、調停期日に欠席しているような場合にも、「調停に代わる審判」が適する場合があります。もし、欠席していた者が異議を申立なければ、「調停に代わる審判」がそのまま審判と同じ効力を持ちますので、迅速な解決が達成できることになります。

しかし、異議の申し立てには、理由は不要ですし、申し立てがあれば調停に代わる審判の効力はなくなり、調停が不成立になったことになります。相手方が異議を申立てることが確実であるような場合には、「調停に代わる審判」を諦め、速やかに調停を不成立とし、審判に移行した方が早いといえます。

一方で、「調停に代わる審判」には、その判断理由を付する必要がありますので、欠席していた当事者にも、裁判所がそのように判断をした理由がある程度伝われば、欠席当事者としても裁判所の判断理由を読んで納得し、異議申立てを諦めるということもあります。このような場合には、裁判所にある程度理由を付した「調停に代わる審判書」を出して貰えるよう、調停において十分な資料の提出や法的に予想される争点についての主張を尽くした上で、「調停に代わる審判」に付する旨の上申を行うと良いでしょう。

3 まとめ

遺産分割協議は、法的な問題はもちろん、当事者の感情などにも配慮した上で、手続きを選択・進行することが、結果として依頼者の利益となる場合も多いと言えます。

どのような方針で手続きを進めるべきか、弁護士に相談されながら検討することをお勧めいたします。

以上

関連事例集

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参照条文
家事事件手続法

第三章 調停に代わる審判
(調停に代わる審判の対象及び要件)
第二百八十四条 家庭裁判所は、調停が成立しない場合において相当と認めるときは、当事者双方のために衡平に考慮し、一切の事情を考慮して、職権で、事件の解決のため必要な審判(以下「調停に代わる審判」という。)をすることができる。ただし、第二百七十七条第一項に規定する事項についての家事調停の手続においては、この限りでない。
2 家事調停の手続が調停委員会で行われている場合において、調停に代わる審判をするときは、家庭裁判所は、その調停委員会を組織する家事調停委員の意見を聴かなければならない。
3 家庭裁判所は、調停に代わる審判において、当事者に対し、子の引渡し又は金銭の支払その他の財産上の給付その他の給付を命ずることができる。

(調停に代わる審判の特則)
第二百八十五条 家事調停の申立ての取下げは、第二百七十三条第一項の規定にかかわらず、調停に代わる審判がされた後は、することができない。
2 調停に代わる審判の告知は、公示送達の方法によっては、することができない。
3 調停に代わる審判を告知することができないときは、家庭裁判所は、これを取り消さなければならない。

(異議の申立て等)
第二百八十六条 当事者は、調停に代わる審判に対し、家庭裁判所に異議を申し立てることができる。
2 第二百七十九条第二項から第四項までの規定は、前項の規定による異議の申立てについて準用する。
3 家庭裁判所は、第一項の規定による異議の申立てが不適法であるときは、これを却下しなければならない。
4 異議の申立人は、前項の規定により異議の申立てを却下する審判に対し、即時抗告をすることができる。
5 適法な異議の申立てがあったときは、調停に代わる審判は、その効力を失う。この場合においては、家庭裁判所は、当事者に対し、その旨を通知しなければならない。
6 当事者が前項の規定による通知を受けた日から二週間以内に家事調停の申立てがあった事件について訴えを提起したときは、家事調停の申立ての時に、その訴えの提起があったものとみなす。
7 第五項の規定により別表第二に掲げる事項についての調停に代わる審判が効力を失った場合には、家事調停の申立ての時に、当該事項についての家事審判の申立てがあったものとみなす。
8 当事者が、申立てに係る家事調停(離婚又は離縁についての家事調停を除く。)の手続において、調停に代わる審判に服する旨の共同の申出をしたときは、第一項の規定は、適用しない。
9 前項の共同の申出は、書面でしなければならない。
10 当事者は、調停に代わる審判の告知前に限り、第八項の共同の申出を撤回することができる。この場合においては、相手方の同意を得ることを要しない。

(調停に代わる審判の効力)
第二百八十七条 前条第一項の規定による異議の申立てがないとき、又は異議の申立てを却下する審判が確定したときは、別表第二に掲げる事項についての調停に代わる審判は確定した第三十九条の規定による審判と同一の効力を、その余の調停に代わる審判は確定判決と同一の効力を有する。