未成年によるチケット詐欺事案での初期対応|少年事件

刑事・少年事件|未成年によるSNS上でのチケット詐欺と弁護活動|全件送致の例外としての事件認知の回避

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参照条文

質問

娘は、都内の私立高校に通う16歳の高校1年生です。本日、娘から、先月インターネットSNS上で、アイドルのコンサートチケットを当日に会場で譲ると言って他人にお金を前払いで振り込ませ、実際には会場に行かずチケットを渡さない、という行為をしてしまったと告白されました。相手の方は激怒し、SNSのダイレクトメッセージで警察に相談に行くと言ってきました。娘が慌ててお金を返金すると申し出ましたが、返事がありません。

娘は、匿名でSNSをやっていたのですが、今後、娘が警察の捜査を受けることになるのでしょうか。その場合、学校は退学になってしまうでしょうか。

回答

1 娘様が当該チケットを所持していないあるいは、当日までに取得できる見込みもないにもかかわらず、譲渡可能であるかのごとく相手をだまして代金を受領していたということで、刑法上の詐欺罪(刑法第246条)に該当します。仮に、詐欺罪で警察が捜査し、銀行口座やSNSのアカウント情報等から容疑が固まれば、例え18歳未満であっても、逮捕等の身柄拘束を受ける可能性があります。

少年事件の場合、全件送致主義により、捜査機関の捜査が終了した後は事件が全て家庭裁判所に送致されます。家庭裁判所は、処分としては、少年審判が行われる可能性が高く、審判による処分結果としては、被害金額や件数によって、少年院送致等の処分が下される可能性もあります。これらの過程において、捜査機関や家庭裁判所が学校に通報連絡を行う場合もあります。

2 一方で、詐欺事件のように被害者がいる犯罪の場合、早期に被害者との間で示談が成立していれば、例え捜査を受けることとなっても、逮捕等の身体拘束を回避できる場合や、少年審判の開始事態を回避できる場合があります。また、捜査が本格的に開始する前に迅速に被害者と示談が成立し被害届の取り下げをして貰えれば、刑事事件化自体を防ぎ、全件送致主義の例外として警察段階で事件を終了させることができる場合もあります。

3 いずれにせよ、今後の不利益を避けるためには、迅速な対応が必要な事案と考えられます。まずは、弁護士に詳しい状況を相談されることをお勧め致します。

4 その他関連する事例集はこちらをご覧ください。

解説

1 本件で成立する犯罪と予想される捜査手続き

娘様がしてしまった行為は、刑法上の詐欺罪(刑法第246条)に該当する可能性が高いといえます。

詐欺罪とは、人を欺いて財物を交付させたり、財産上不法の利益を得たりする行為に適用されます。

本件では、実際には譲る気が無いチケットを譲ると虚偽の事実を伝えて、自分の銀行口座にお金を振り込ませていますので、人を欺いて財産上不法の利益を得たことに該当します。但し、実際にチケットを持っていて、何らかの事情で当日手渡せなかったということであれば、相手をだましたことにはなりませんから詐欺罪は成立しません。その点の事実関係を確認する必要があります。

本件では詐欺罪が成立するため、仮に被害者が警察に被害を訴え出れば被害届が受理され、刑事事件としての捜査が開始される可能性は高いでしょう。

娘様は18歳未満ですので、法律上は「少年」に該当しますが、警察の捜査手続きの段階では、少年であっても成人とほぼ同じ手続きの流れで捜査を受けることになります。

警察としては、まず被害者から聴取した事実をもとに、振込先の銀行口座やSNSのアカウント情報等の捜査を行います。捜査に要する期間は警察によって異なりますが、場合によっては数か月程度を要する場合もあります。

ある程度裏付けの捜査が進んだ段階で、被疑者である娘様に警察から接触があるものと思われます。まずは、任意での呼び出しという形で事情聴取が行われる場合もありますが、詐欺罪は、法定刑が十年以下の懲役という比較的重い犯罪であり、また知能犯でもあることから形式的に証拠隠滅のおそれが認定されやすいため、未成年であっても、任意での聴取を挟まずにいきなり逮捕状が発令されるという可能性も高いと言えます。

警察は、ある程度事件捜査が終了した段階(逮捕された場合は、法定の期間制限(48時間以内)を経過した段階)で、事件を検察官に送致します。

送致を受けた検察官は、犯罪の嫌疑がない場合を除き、原則として全ての事件を家庭裁判所に送致します。これを、全件送致主義といいます(少年法42条)。

この点、成人の刑事事件では、起訴便宜主義が採用されていますので、例えば示談が成立した場合などには、検察官の判断で事件に裁判所を関与させることなく、不起訴処分とすることができます。

しかし、少年の刑事事件の場合には、検察官が自分の判断で事件を終了させることはできず、たとえ捜査中に被害者と示談が成立したとしても、検察官は、家庭裁判所に事件を送致します。これは、少年法が、単に犯罪の処罰のみを目的としておらず、少年の健全育成や更生を念頭においているためです。捜査機関による事件捜査だけでは、少年が事件を起こした背景にある心理的な問題や背景が把握できないため、それをよく調査したうえで、その少年にとって最も適切な措置を家庭裁判所が決めることとされているのです。

事件送致を受けた家庭裁判所では、家庭裁判所の調査官と呼ばれる職種の方が、非行少年の社会生活や家庭生活の面などを調査します。家庭裁判所の裁判官は、そのような調査記録と事件の記録を併せて検討し、少年に対して、少年審判を行うか否かを決めることになります。仮に少年審判が行われる場合、裁判官が、少年に対する処分を決定することになります。少年審判による処分の種類としては、少年院送致や保護観察処分等があります。

本件のような詐欺事案の場合、成人の場合は、法定刑が10年以下懲役という比較的厳しい処罰が規定されている犯罪です。そのため、例え過去の前歴や補導歴がなくとも、少年審判がなされる可能性は高いです。初犯であれば、よほど事件数が多いような場合を除いて少年院に送致される可能性は低いと思われますが、被害金額や件数が大きい場合には、保護観察処分などを受ける可能性は高いです。

上記の警察捜査や家庭裁判所の調査の過程では、必要に応じて、少年が通学する学校に通報連絡を行う場合もあります。

2 必要な弁護活動

(1) 示談による逮捕回避、処分の軽減

以上のとおり、本件では、特に何の弁護活動を行わなかった場合、娘様が逮捕されてしまうという可能性も相当程度存在する事案です。

このような不利益を回避するためには、やはり被害者との間で示談を成立させることが、最も重要な弁護活動となります。

逮捕される前に示談が成立していれば、被疑者の身柄を拘束する必要性はなくなるため、逮捕を回避できる可能性が大きく高まります。また、仮に即座の示談成立には至らずとも、弁護人を選任して、示談の具体的な協議申し入れをしているという状況であれば、やはり逮捕を回避できる可能性は大きいです。

最終的な家庭裁判所による処分としても、示談が成立していれば、少年審判として不処分(保護観察などの保護処分を実施しない)という結論になる可能性も高まりますし、少年審判自体が不開始となることも考えられます。

(2) 事件認知の回避(全件送致主義の例外)

また、仮に警察による本格的な捜査が開始する前に示談が成立し、被害者からもそれ以上に捜査を継続することを希望しない旨の意思表明がされた場合には、そもそも警察が「事件として認知する前に解決した」ということで、事件を検察庁に送致させずに終了させることができる場合もあります。

上述のように、少年法上は全件送致主義が規定されており、少年の刑事事件については全件につき家庭裁判所の調査が実施されるのが原則であるため、あくまで例外的な取扱いとはなりますが、警察としても、被害者が納得している事件にまで有限な捜査資源を投入することは避けたいという側面もあり、また事件捜査には被害者による協力も不可欠であるため、捜査の初期段階であれば、警察との交渉により、便宜上、「事件としての認知無し」との扱いを受けることができる場合もあります。

このように捜査を早期に終結させることができれば、娘様が通学する学校への通報連絡などを回避できる可能性も高まりますので、実生活への悪影響を回避するためには、捜査の早期終結を図る必要性は大きいでしょう。

いずれにせよ、娘様に不利益が生じることを回避するためには、一刻も早く被害者との間で示談を成立させることが有益と考えられます。

なお、本件では、被害者とはSNSのダイレクトメッセージでやり取りをされていたとのことでしたので、弁護人からも同じ手段で連絡を取ることが考えられます。今のところ、被害者からの連絡は途絶えてしまったとのことですが、きちんとした被害弁償の準備をした上で弁護人から適切な内容で連絡を試みれば、何らかの協議が実施できることが殆どです。

同種事件の示談について経験の豊富な弁護士に直ち相談されることをお勧め致します。

3 まとめ

本件のようなケースでは、一手の対応の遅れにより、逮捕による身体拘束、報道、重い処罰等、回避できたはずの無用な不利益を被ってしまうことが多いです。回復困難な損害を受けないためにも、詳細な事案を説明した上で弁護士に取るべき対応を相談されることをお勧めいたします。

以上

関連事例集

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参照条文

刑法

(詐欺)
第二百四十六条 人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。第二条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。

少年法

(検察官の送致)
第四十二条 検察官は、少年の被疑事件について捜査を遂げた結果、犯罪の嫌疑があるものと思料するときは、第四十五条第五号本文に規定する場合を除いて、これを家庭裁判所に送致しなければならない。犯罪の嫌疑がない場合でも、家庭裁判所の審判に付すべき事由があると思料するときは、同様である。
2 前項の場合においては、刑事訴訟法の規定に基づく裁判官による被疑者についての弁護人の選任は、その効力を失う。