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No.1849、2018/10/09 20:07 https://www.shinginza.com/qa-hanzai.htm

【刑事、保釈、受訴裁判所の保釈決定が抗告審で取り消された場合 「証拠隠滅の恐れがある」具体的事実の指摘、最高裁判所平成26年11月18日決定】

保釈が取り消された場合の対策



質問:
 私の夫は詐欺で逮捕され、起訴されました。依頼した弁護士に保釈請求をしてもらい、一審の地方裁判所で保釈が認められましたが、検察官の不服申し立てにより高等裁判所で保釈が取り消されてしまいました。弁護士の説明では夫に「証拠隠滅の恐れがある」ことから、地方裁判所で一旦認められた保釈が取り消されたとのことです。夫の保釈が認められることはないのでしょうか。



回答:

1 最高裁に不服申立て(「特別抗告」といいます。)をすれば、保釈が認められる可能性もあります。

2 最高裁判所平成26年11月18日判決は、保釈が認められた原々審(地方裁判所)の決定に対する検察官の抗告について、「証拠隠滅の恐れがある」ことから取り消した原審(高等裁判所)について、保釈を認めた原々審の判断の不合理性を具体的に示していないとして、原審を取り消したものがあります。その結果、保釈が認められたものです。

3 当事務所保釈の関連事例集1721番1580番1533番1491番1467番1398番1119番1142番1026番1102番1008番848番735番644番598番等を併せてご参照ください。


解説:

第1 保釈とは何か

 保釈とは、保釈保証金の納付等を条件として,起訴された被告人に対する勾留の執行を停止して,その身柄拘束を解く裁判及びその執行をいいます(刑訴法93条,同法94条)。
起訴され被告人となった場合、裁判の際裁判所に出頭する必要があり、裁判所は被告人の出頭を確保するために被告人を勾留することが出来ます(刑訴法280条)。逮捕勾留中の被疑者が起訴されると、そのまま自動的に被告人の勾留に移行することになります。起訴された被告人は、捜査の対象ではなく裁判の当事者となりますから、本来は身柄を拘束されるべきものではありません。そこで、原則として保釈請求があれば保釈が認められることになっています。

 保釈の請求は、勾留されている被告人又はその弁護人,法定代理人,保佐人,配偶者,直系の親族若しくは兄弟姉妹ができます(刑訴法88条1項)。

第2 保釈制度の趣旨

 刑事裁判は、原則として被告人が裁判所に出頭しないと開廷することはできません(刑訴法286条)。そこで、起訴された被告人を法廷に出頭させることは裁判所の義務であり権限であるといえ、被告人の出頭を確保するもっとも有効な手段として被告人の身柄を裁判所の管理下に置く勾留が認められています(起訴前の被疑者の勾留とは異なります)。

 しかし、被告人が起訴されたからとって有罪が確定しているわけではありませんから、勾留されて自由を制限されるような事態は最小限に留められなくてはなりません。現在の刑事裁判は当事者主義といって、被告人と検察官を対等な当事者として扱う構造をとっていますから、一方当事者の被告人が身柄を拘束されるということは裁判の仕組みから言っても例外といえます。

 保釈制度は,被告人の裁判への出頭を確保するための勾留がやむを得ないとしても、被告人の自由を尊重してその執行を停止し、被告人が召喚を受けても出頭しなかったり,逃亡したりした場合等には保証金を没取することとして(刑訴法96条),被告人に経済的・精神的負担を与えて被告人の出頭を確保することにより,上記2つの要請を調和させる制度となります。

第3 保釈の種類権利保釈(刑訴法89条)と裁量保釈(刑訴法90条)

 1 権利保釈(刑訴法89条)

   権利保釈とは,保釈の請求(刑訴法88条)があったときは,一定の例外的場合を除いては,これを許さなければならない,という保釈をいいます(同法89条)。すでに説明したようにやむを得ず勾留が認められるとしても、保釈を原則とするのが刑事訴訟法の建前です。

 例外的場合は,刑訴法89条に列挙されています。各号を引用します。

 1号 被告人が死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。
 2号 被告人が前に死刑又は無期若しくは長期10年を超える懲役若しくは禁錮に当たる罪につき有罪の宣告を受けたことがあるとき。
 3号 被告人が常習として長期3年以上の懲役又は禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。
 4号 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
 5号 被告人が,被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏い怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由があるとき。
 6号 被告人の氏名又は住居が分からないとき。

上記1号、2号、6号に該当するかどうかは、ある程度明らかです。また5号は4号の場合の一場面と言えるでしょう。そのため、実際に該当するか否かが問題となるのは4号「被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。」と言えるかどうかになります。

 2 裁量保釈

   上記の権利保釈の例外事由がある場合でも,裁判所が,適当と認めるときは,職権で許すことができる保釈をいいます(刑訴法90条)。上記の権利保釈における例外的場合に当たるとしても,裁判所の裁量により許可され得るということで裁量保釈と呼ばれます。

第4 罪証隠滅の恐れ(刑訴法89条4号)

  保釈が問題となる「罪証隠滅の恐れ」の罪証とは、犯罪の成否および重要な情状に関する証拠のことを指します。実務上は「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるという理由により、保釈請求が却下されることが最も多いといえます。

  特に否認事件では,罪証隠滅のおそれが強いとされ,検察官請求の証拠調べが終了するまでは,保釈が認められないことが多いです。そのため,保釈を得るために否認をあきらめるという事態が生じているのですが,このような事態は真実の発見という刑事裁判の目的に反し、冤罪を生む危険性が存することはもちろん、ことの真否を問わず被告人にはいわゆる黙秘権が保障されていること(憲法38条1項,刑訴法198条2項)からすると,このような事態は深刻な問題があることは明らかといえます(いわゆる「人質司法」の問題)。

  従来の裁判所の扱いは、否認しているから罪証隠滅のおそれがあるなどと、抽象的な理由から保釈を認めなかったことは否定できません。しかし、このような判断は、無罪推定の大原則や被告人の裁判の当事者
としての立場からは認められるべきものではありません。

  特に、裁判員裁判においては裁判が開かれる前から事前の準備手続きの充実が必要とされていることから、第1回公判前から被告人の身柄を解放する必要性が指摘されています。

  こうした被告人の身柄拘束の解放の必要性という流れの中で、最高裁判所平成26年11月18日判決は、保釈を認めた原々審判を取り消した原審(高裁)に対して、原審の判断を取消し、保釈を認めた原々審判の判断を維持しました。次の第5で紹介します。

第5 最高裁判所平成26年11月18日決定

裁判所HP
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=84641
全文
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/641/084641_hanrei.pdf

 本件の事案は、共謀して詐欺行為が行われたという事案で、原々審(受訴裁判所)が保釈を許可し、原審(抗告審)が保釈を許可した決定を取り消したことに対し、被告人が最高裁判所に特別抗告をしたものです。

 判決は、抗告審の審査方法について、次のように述べています。

『抗告審は,原決定の当否を事後的に審査するものであり,被告人を保釈するかどうかの判断が現に審理を担当している裁判所の裁量に委ねられていること(刑訴法90条)に鑑みれば,抗告審としては,受訴裁判所の判断が,委ねられた裁量の範囲を逸脱していないかどうか,すなわち,不合理でないかどうかを審査すべきであり,受訴裁判所の判断を覆す場合には,その判断が不合理であることを具体的に示す必要があるというべきである。』

 として、受訴裁判所が不合理であるかどうかを具体的に指摘する必要があると判断しています。そして、本件事案について、

『原決定は,これまでの公判審理の経過及び罪証隠滅のおそれの程度を勘案してなされたとみられる原々審の判断が不合理であることを具体的に示していない。本件の審理経過等に鑑みると,保証金額を300万円とし,共犯者その他の関係者との接触禁止等の条件を付した上で被告人の保釈を許可した原々審の判断が不合理であるとはいえないのであって,このように不合理とはいえない原々決定を,裁量の範囲を超えたものとして取り消し,保釈請求を却下した原決定には,刑訴法90条,426条の解釈適用を誤った違法があり,これが決定に影響を及ぼし,原決定を取り消さなければ著しく正義に反するものと認められる。』

 として、原審の判断が、保釈許可決定を出した受訴裁判所の決定について、その判断の不合理性を具体的に示していないものとして、原審判決を取り消し、原々審(受訴裁判所)の保釈許可決定を維持しました。

 この最高裁判所の決定は、「罪証隠滅の恐れ」について個別具体的に判断する必要があるとした決定として評価されています。そもそも被告人の出頭確保は、一審裁判所の責任であり、一審裁判所が自己の責任で保釈を認めているにもかかわらず、抗告審である高裁が保釈決定を取り消すというのは、本来は避けるべき判断といえます。この点は抗告審の訴訟構造をどう取られるかという学問的な議論にもなるのでしょうが、最高裁の決定が指摘するように「受訴裁判所の判断が,委ねられた裁量の範囲を逸脱していないかどうか,すなわち,不合理でないかどうかを審査すべきであり,受訴裁判所の判断を覆す場合には,その判断が不合理であることを具体的に示す必要があるというべきである。」といえます。

 この決定を限定的に解釈すれば、保釈決定に対する抗告審のレベルでは、原審裁判所の判断を覆して保釈を取り消すには「罪証隠滅の恐れ」について具体的に検討する必要があるといっているに過ぎないとも考えられます。しかし、保釈決定をする裁判所からすれば具体的に、「罪証隠滅の恐れ」が考えられなければ保釈しても高裁で覆ることはないことから、最初の保釈決定の段階における保釈の積極判断に繋がる裁判例であったと評価することができます。

第6 終わりに

 ご相談者様のご主人の保釈請求が公判審理をしている地方裁判所で認められたが、検察官の抗告があり高等裁判所で却下された、とのことですが、最高裁判所に特別抗告をすれば、上記最高裁判例のように保釈が認められる可能性もあります。特別抗告は最高裁判所を管轄とする特別の抗告で、刑訴法433条に規定があります。手続き的なことは弁護人に相談されるとよいでしょう。また、現在の弁護人で保釈が認められるか不安であれば専門の弁護士に一度相談してみるのもよいでしょう。

≪参照条文≫
憲法
〔自白強要の禁止と自白の証拠能力の限界〕
第38条 何人も,自己に不利益な供述を強要されない。
A 強制,拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は,これを証拠とすることができない。
B 何人も,自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には,有罪とされ,又は刑罰を科せられない。

刑事訴訟法
〔勾留の理由〕
第60条 裁判所は,被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で,左の各号の一にあたるときは,これを勾留することができる。
一 被告人が定まつた住居を有しないとき。
二 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
三 被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
A 勾留の期間は,公訴の提起があつた日から2箇月とする。特に継続の必要がある場合においては,具体的にその理由を附した決定で,1箇月ごとにこれを更新することができる。但し,第89条第2号,第3号,第4号又は第6号にあたる場合を除いては,更新は,1回に限るものとする。
B 30万円(刑法,暴力行為等処罰に関する法律(大正15年法律第60号)及び経済関係罰則の整備に関する法律(昭和19年法律第4号)の罪以外の罪については,当分の間,2万円)以下の罰金,拘留又は科料に当たる事件については,被告人が定まつた住居を有しない場合に限り,第1項の規定を適用する。
〔保釈の請求〕
第88条 勾留されている被告人又はその弁護人,法定代理人,保佐人,配偶者,直系の親族若しくは兄弟姉妹は,保釈の請求をすることができる。
A 第82条第3項の規定は,前項の請求についてこれを準用する。
〔当然保釈・保釈を許さない場合〕
第89条 保釈の請求があつたときは,次の場合を除いては,これを許さなければならない。
一 被告人が死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。
二 被告人が前に死刑又は無期若しくは長期10年を超える懲役若しくは禁錮に当たる罪につき有罪の宣告を受けたことがあるとき。
三 被告人が常習として長期3年以上の懲役又は禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。
四 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
五 被告人が,被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏い怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由があるとき。
六 被告人の氏名又は住居が分からないとき。
〔職権保釈〕
第90条 裁判所は,適当と認めるときは,職権で保釈を許すことができる。
〔保証金額及び保釈の条件〕
第93条 保釈を許す場合には,保証金額を定めなければならない。
A 保証金額は,犯罪の性質及び情状,証拠の証明力並びに被告人の性格及び資産を考慮して,被告人の出頭を保証するに足りる相当な金額でなければならない。
B 保釈を許す場合には,被告人の住居を制限しその他適当と認める条件を附することができる。
〔保証金・保証書〕
第94条 保釈を許す決定は,保証金の納付があつた後でなければ,これを執行することができない。
A 裁判所は,保釈請求者でない者に保証金を納めることを許すことができる。
B 裁判所は,有価証券又は裁判所の適当と認める被告人以外の者の差し出した保証書を以て保証金に代えることを許すことができる。
〔被疑者の任意出頭供述録取〕
第198条 検察官,検察事務官又は司法警察職員は,犯罪の捜査をするについて必要があるときは,被疑者の出頭を求め,これを取り調べることができる。但し,被疑者は,逮捕又は勾留されている場合を除いては,出頭を拒み,又は出頭後,何時でも退去することができる。
A 前項の取調に際しては,被疑者に対し,あらかじめ,自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げなければならない。
B 被疑者の供述は,これを調書に録取することができる。
C 前項の調書は,これを被疑者に閲覧させ,又は読み聞かせて,誤がないかどうかを問い,被疑者が増減変更の申立をしたときは,その供述を調書に記載しなければならない。
D 被疑者が,調書に誤のないことを申し立てたときは,これに署名押印することを求めることができる。但し,これを拒絶した場合は,この限りでない。
〔上告理由のない場合の原判決破棄の判決〕
第411条 上告裁判所は,第405条各号に規定する事由がない場合であつても,左の事由があつて原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認めるときは,判決で原判決を破棄することができる。
一 判決に影響を及ぼすべき法令の違反があること。
二 刑の量定が甚しく不当であること。
三 判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認があること。
四 再審の請求をすることができる場合にあたる事由があること。
五 判決があつた後に刑の廃止若しくは変更又は大赦があつたこと。
〔抗告申告書の差出〕
第423条 抗告をするには,申立書を原裁判所に差し出さなければならない。
A 原裁判所は,抗告を理由があるものと認めるときは,決定を更正しなければならない。抗告の全部又は一部を理由がないと認めるときは,申立書を受け取つた日から3日以内に意見書を添えて,これを抗告裁判所に送付しなければならない。
〔抗告に対する決定〕
第426条 抗告の手続がその規定に違反したとき,又は抗告が理由のないときは,決定で抗告を棄却しなければならない。
A 抗告が理由のあるときは,決定で原決定を取り消し,必要がある場合には,更に裁判をしなければならない。
〔準用規定〕
第432条 第424条,第426条及び第427条の規定は,第429条及び第430条の請求があつた場合にこれを準用する。
〔最高裁判所に対する特別抗告〕
第433条 この法律により不服を申し立てることができない決定又は命令に対しては,第405条に規定する事由があることを理由とする場合に限り,最高裁判所に特に抗告をすることができる。
A 前項の抗告の提起期間は,5日とする。
〔準用規定〕
第434条 第423条,第424条及び第426条の規定は,この法律に特別の定のある場合を除いては,前条第1項の抗告についてこれを準用する。


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