面会交流と間接強制の争い方

家事|間接強制金の相場と争い方|子供が面会交流を拒絶している中、元妻が間接強制を申立てた事案|東京高等裁判所平成29年2月8日決定他

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参照条文
  6. 参照判例
  7. 無料法律相談

質問

私は、現在12歳と15歳になる子どもの父親です。2年前に調停をして離婚をしました。その際、2人の子どもの親権者は私であること、月に1度母親に子ども達を会わせること等を定めています(経済的理由から父親である私が親権を得ることができました)。

面会交流については、調停から1年くらいの間はできていたのですが、その後はできていません。というのも、子ども達が元妻と会うことをひどく嫌がるようになってしまったのです。元妻にはその旨伝えて、分かってもらえたと思っていたのですが、先日、間接強制の申立てがなされた旨の通知を受けました。月一回の面会をさせない場合は、一回当たり100万円を支払え、という内容のようです。

確かに、面会をさせていないのですが、子ども達が拒否するので困っています。この後どうなるでしょうか。

回答

調停等で定められた面会交流が実施されていない場合、面会できていない方の親は、強制的に面会交流を実現する方法の1つとして、間接強制があります。ただし、面会交流において間接強制が認められるためには、事前の調停・判決で面会交流の内容が十分特定されている必要がありますし、本件のように子どもが拒否をしている場合、その内容や経緯、子どもの年齢によっては、間接強制が否定される可能性もあります。

また、月に1度の面会を定め、その不履行1回ごとに100万円を払えという申立てをされた、ということのようです。面会交流における間接強制金の相場は数万円といわれていることからすると、申し立ての金額は極めて高額ですが、30万円程度であれば認めた裁判例もあるため、義務者(あなた)の年収等の事情によっては、ある程度高額の金額の間接強制金が認められてしまう可能性は否定できません。

一般的に強制執行の申し立ては、必要な書類がそろっていれば認められますが、間接強制の場合は、債務者の審尋という手続きが行われ、反論の機会が与えられるため、上記の点について反論する必要があります。ただし、間接強制手続内での主張は制限されていますし、とるべき対応も多岐に亘る上、手続き自体は短い期間内で実施されるため、早急な対応が求められるところです。

また、子供たちが面会を拒否するということですが、そのような事実があるのであれば間接強制が認められたとしても別途面会についての調停を求めることもできます。

解説

1 面会交流の実現方法

(1)面会交流とは

離婚後、監護養育している親(通常は親権者)ではない親が、子ども達に会う(あるいは手紙等のコミュニケーションをとる)ことを、「面会交流」といいます(民法766条1項)。

この面会交流は、子どもの権利、ひいては、「子どものために適切な形で面会交流を求める権利」が監護養育をしていない親の権利であると考えられており、暴力等の会わせることが子どものため(「子の福祉」)にならない、といった事情がない限りは、面会交流をすることが前提とされています。

(2)取り決め方

面会交流については、どのような形で取り決めをしても問題ありませんから、基本的には書面にしておく必要もありませんし、その都度連絡を取って決めていくこともできます。

他方で、後の紛争化を回避するためには、養育費等と同様に、少なくとも大まかな内容は書面にしておくことが望ましいところです。ただし、調停か判決の形で定めていなければ、下記の執行はできません。養育費と異なり、金銭債務等ではないため、(執行受諾付を含む)公正証書で定めていてもいきなり強制執行はできないため(民事執行法22条1項5号)注意が必要です。

(3)実現方法

面会交流がうまく実施されなくなった場合(そして、両当事者間の任意での交渉が決裂した場合)ですが、①調停や判決において全く面会交流の内容を定めていないケースでは、まず面会交流の調停を申し立てる必要があります(調停前置主義。家事事件手続法257条)。なお、仮に調停が成立しない場合には、そのまま審判手続に移行することになります(家事事件手続法272条4項)。

また、②調停や判決で、ある程度の面会交流に関する定めをしているケース(例えば、「誠意をもって面会交流の実現に向けて努力する」等)は、下記のとおり強制執行手続はできないのですが、裁判所から実施を促す「履行勧告」手続であれば可能となっています。履行勧告とは、裁判所から調停等で定められた内容(この場合であれば、面会交流の実施)を履行するように連絡がなされる、というものですが、強制力はありません。

最後に、③面会交流の内容の特定がなされているケースですが、この場合、下記のとおり強制執行が可能です。具体的には、間接強制という手続(民事執行法172条)となります。

2 間接強制手続

(1)間接強制とは

上記の①から本件では、間接強制の手続の申立てがなされた、ということなのですが、間接強制とは、債務者(義務者)に対し、一定の期間内に債務を履行しないとき、債務の履行を確保するために相当と認める一定の額の金銭を債権者に支払うべき旨を命ずるもの(民事執行法172条1項)です。

本件でいうと、面会交流が実施されない限り、監護している親(あなた)から、面会交流を希望する親(相手方)に対して不実施一回について一定額を支払え、という内容の命令が裁判所からなされる、ということになります。

(2)問題点

従来は、この面会交流について、①そもそも間接強制手続を命じることができるか、②その場合、どの程度の内容が調停や判決において「特定」されている必要があるか、という問題があったのですが、平成25年に出された最高裁判所の決定等により、現在では、①面会交流においても、間接強制の方法が採り得る、②ただし、そのためには、あらかじめ強制執行手続に足りる程度、面会交流の内容・方法が特定されている必要がある。具体的には「面会交流の日時や頻度、各回の面会交流時間の長さ、子の引き渡しの方法」について、明確に特定している必要がある、という内容でほぼ固まっているといえます。

この点については、具体的な文例も含め、本ホームページ事例集『子どもとの面会交流の実現方法|元妻が面会を拒絶した場合』に詳細がありますので、ご参照下さい。

(3)間接強制の金額の相場

もう一点の問題として、間接強制が認められるとして、不履行(不実施)の際に支払いを命じる金額(間接強制金)をいくらにするべきか、という問題があります。

従前の一般的な相場としては、(不履行1回あたり)10万円以下が通常ですが、近時ではこれを大幅に超える金額を命じる裁判例が出てきています。

例えば、参考裁判例①は、月1回の面会交流を命じたうえで、不履行1回あたりの間接強制金を100万円としています。その後、この裁判例①の抗告審である参考裁判例②で、30万円に変更されていますが、それでも十分に高額である。高額になった主な原因として、裁判例①、②共に、義務者の資力(年収)が高かったことを挙げていますが、裁判例②は、それに加えて、今後、不履行が続くようであれば30万円からの増額を示唆しています。

本件においては、あなたの年収等が分からないため、具体的な金額の予想はできないところですが、100万円は上記の平成29年に出されている後述の裁判例③及びその抗告審である裁判例④でも、30万円の間接強制金が認められているため、これまでの相場を大きく超えた高額の間接強制金もあり得る、ということになります。

このように高額になっているのは、上記資力の関係のほか、そもそも月1回あるいは2か月に1回程度の面会交流において、その不履行の間接強制金が数万円だと、あえて間接強制金を支払って履行しない、という義務者が出てきてしまっている(現に上記裁判例でもそのような対応だったようです)ことが問題視されているのではないかと思われます。

3 間接強制の争い方

(1)審尋

この間接強制手続ですが、申し立てられた場合には、まず「審尋」といって意見を求められます(民事執行法172条3項)。裁判所によって異なりますが、東京では書面による審尋を行っているので、具体的に間接強制が認められるべきではない理由を記載した書面を提出することになります。

また、仮に間接強制が認められた場合には、執行抗告という形で異議の申し立てが可能です(民事執行法172条5項)。

(2)具体的な主張内容

具体的な主張の内容ですが、そもそも、「面会交流させるべきかどうか」という点については、上記のとおり面会交流の具体的内容を決める際(本件における離婚調停や、面会交流調停)に話し合われ、最終的には審判で決せられている以上、間接強制の手続の中では基本的に主張できるものではありません。

主張できる可能性があるのは、参考裁判例①でも言及されているとおり、当該面会交流調停あるいは審判確定後に新たに「面会交流させるべきではない」事情が生じた場合ですが、その場合でも、新たに「面会交流を拒否する調停」を起こすこともできるため(参考裁判例③参照)、必ずしも間接強制手続の中で主張できる、と考えない方が良いところです。

そうすると、まずこの間接強制手続の中で、上記の新たな事情のほかに義務者側が主張できるのは、上記のとおり間接強制が認められるための要件である、面会交流の方法や内容等について特定がされていない、というものが考えられるところです。

本件では、面会交流調停を個別に(離婚調停とは別に)おこなったわけではないようなので、間接強制が認められる程度には特定されていない、ということも考えられます。

(3)子どもが拒否している事情の主張

(3) それに加えて問題になるのが、本件のように、子どもが拒否をしていることを理由とする主張です。

子どもが面会交流を拒否している、という事実は、上記のとおり実体的な主張(「面会交流させるべきではない」という主張)でもあり得るので、強制執行の手続では主張できず、別途面会させないという調停を求める必要があるとも考えられます。しかし、「子どもが拒否している以上、金銭支払いによるプレッシャーを受けたとしても、実施が出来ず、間接強制はそもそも不可能である」という主張でもあるので、間接強制の場面でも主張できることになります。

このような主張がなされたのが、参考裁判例③と、その抗告審である同④です。

裁判例③では、この主張については、面会交流を決める審判及びその抗告審は「未成年者の心情等を踏まえた上で決定されているといえる。そうだとすると、未成年者が債権者との面会交流を拒否していることは、間接強制を妨げる事情とはならない」として、「また、仮に、債務者らが、未成年者の心情等について、抗告審決定二の決定時と異なる状況が生じたと主張しているとすると、このような事情は、抗告審決定二に係る面会交流を禁止し、又は面会交流についての新たな条項を定めるための調停や審判を申し立てる理由となり得ても、間接強制決定をすることを妨げる理由となるものではない」としています。これは、上記のとおり、子どもの拒否は、間接強制に関する主張ではなく、面会交流を決める調停・審判の中で主張されるべきである、という趣旨だと思われます。

そしてさらに、「付言するに、仮に、未成年者が、債権者との面会交流を頑なに拒否しているというのであれば、条理上当然にその未成年者の気持ちをほぐし、未成年者が債権者との面会交流を受入れるに至る働きかけをする必要がある」と判示しています。

これは、未成年者が、監護親の影響(監護していない親の悪口を言う等)を受けて面会交流を拒否するようになることがままある、というケースを念頭に置いて、子どもが面会交流を拒否するということの責任も、監護親は負うべき、と判断しているものです。

この裁判例③からすると、本件のあなたのような主張は、間接強制手続を回避する主張としては期待できない、ということになりそうです。

しかし、その抗告審である裁判例④は、子どもの年齢が15歳であり、拒否の意思の表明が明確かつ強固なものである上、その意思が自らの体験に基づいて形成されたものであることから、尊重するべきであるとしたうえで、幼児等ではない子どもの場合は監護親の意思のみで、面会交流を実現できるわけではない以上、それを無視することはかえって子の福祉に反することになるため、履行不能である(そもそも実施は不可能である)、として間接強制を認めませんでした。

この裁判例④からすると、本件でも、子どもの年齢や子どもが面会交流を拒否するに至った経緯(自らの体験によるものかどうか)によっては、仮に実体的には「面会交流が認められるべき」という判断になったとしても、間接強制を回避することができる可能性がある、ということになります。

4 まとめ

いずれにしても、本件においてどのような対応ができるか、については、上記の裁判例等を踏まえて具体的な事情を聞かないと判断ができません。上記のとおり、思いもよらない高額な間接強制金が科される可能性もあり、また間接強制の手続においては、基本的に返答は短い期間内にすることが求められるため、すぐに弁護士にご相談されることをお勧めします。

以上

関連事例集

その他の事例集は下記のサイト内検索で調べることができます。

Yahoo! JAPAN

参照条文
民法

(離婚後の子の監護に関する事項の定め等)
第766条 父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。
2 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、同項の事項を定める。
3 家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前2項の規定による定めを変更し、その他子の監護について相当な処分を命ずることができる。
4 前3項の規定によっては、監護の範囲外では、父母の権利義務に変更を生じない。

家事事件手続法

(調停前置主義)
第257条 第二百四十四条の規定により調停を行うことができる事件について訴えを提起しようとする者は、まず家庭裁判所に家事調停の申立てをしなければならない。
2 前項の事件について家事調停の申立てをすることなく訴えを提起した場合には、裁判所は、職権で、事件を家事調停に付さなければならない。ただし、裁判所が事件を調停に付することが相当でないと認めるときは、この限りでない。
3 裁判所は、前項の規定により事件を調停に付する場合においては、事件を管轄権を有する家庭裁判所に処理させなければならない。ただし、家事調停事件を処理するために特に必要があると認めるときは、事件を管轄権を有する家庭裁判所以外の家庭裁判所に処理させることができる。

(調停の不成立の場合の事件の終了)
第272条 調停委員会は、当事者間に合意(第二百七十七条第一項第一号の合意を含む。)が成立する見込みがない場合又は成立した合意が相当でないと認める場合には、調停が成立しないものとして、家事調停事件を終了させることができる。ただし、家庭裁判所が第二百八十四条第一項の規定による調停に代わる審判をしたときは、この限りでない。
2 前項の規定により家事調停事件が終了したときは、家庭裁判所は、当事者に対し、その旨を通知しなければならない。
3 当事者が前項の規定による通知を受けた日から二週間以内に家事調停の申立てがあった事件について訴えを提起したときは、家事調停の申立ての時に、その訴えの提起があったものとみなす。
4 第一項の規定により別表第二に掲げる事項についての調停事件が終了した場合には、家事調停の申立ての時に、当該事項についての家事審判の申立てがあったものとみなす。

民事執行法

(債務名義)
第22条 強制執行は、次に掲げるもの(以下「債務名義」という。)により行う。
一 確定判決
二 仮執行の宣言を付した判決
三 抗告によらなければ不服を申し立てることができない裁判(確定しなければその効力を生じない裁判にあつては、確定したものに限る。)
三の二 仮執行の宣言を付した損害賠償命令
四 仮執行の宣言を付した支払督促
四の二 訴訟費用、和解の費用若しくは非訟事件(他の法令の規定により非訟事件手続法(平成二十三年法律第五十一号)の規定を準用することとされる事件を含む。)若しくは家事事件の手続の費用の負担の額を定める裁判所書記官の処分又は第四十二条第四項に規定する執行費用及び返還すべき金銭の額を定める裁判所書記官の処分(後者の処分にあつては、確定したものに限る。)
五 金銭の一定の額の支払又はその他の代替物若しくは有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求について公証人が作成した公正証書で、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されているもの(以下「執行証書」という。)
六 確定した執行判決のある外国裁判所の判決
六の二 確定した執行決定のある仲裁判断
七 確定判決と同一の効力を有するもの(第三号に掲げる裁判を除く。)

(間接強制)
第172条 作為又は不作為を目的とする債務で前条第一項の強制執行ができないものについての強制執行は、執行裁判所が、債務者に対し、遅延の期間に応じ、又は相当と認める一定の期間内に履行しないときは直ちに、債務の履行を確保するために相当と認める一定の額の金銭を債権者に支払うべき旨を命ずる方法により行う。
2 事情の変更があつたときは、執行裁判所は、申立てにより、前項の規定による決定を変更することができる。
3 執行裁判所は、前二項の規定による決定をする場合には、申立ての相手方を審尋しなければならない。
4 第一項の規定により命じられた金銭の支払があつた場合において、債務不履行により生じた損害の額が支払額を超えるときは、債権者は、その超える額について損害賠償の請求をすることを妨げられない。
5 第一項の強制執行の申立て又は第二項の申立てについての裁判に対しては、執行抗告をすることができる。
6 前条第二項の規定は、第一項の執行裁判所について準用する。

参考判例
①東京家庭裁判所平成28年10月4日決定判例時報2323号135頁

「1 東京高等裁判所平成28年(ラ)第142号面会交流審判に対する抗告事件(原審:東京家庭裁判所平成26年(家)第10152号面会交流申立事件)の執行力ある決定正本に基づき、債務者は、債権者に対し、別紙のとおり、未成年者と面会交流をさせなければならない。

2 債務者が、本決定の送達日以降、前項の義務を履行しないときは、債務者は、債権者に対し、不履行1回につき100万円の割合による金員を支払え。」

「1 一件記録によれば次の事実が認められる。

(1)債権者と債務者は、平成12年6月■日に、婚姻し、平成15年■月■、未成年者が誕生した。

(2)債権者と債務者は、平成23年に別居した。

(3)債権者は、平成23年6月3日、■から帰国し、その後、未成年者と同居していた。

(4)債務者は、平成23年7月15日、未成年者を通っていた小学校から連れ帰り、以後、同居し、未成年者は転校した。

(5)債権者は、平成23年9月12日、未成年者を通っていた小学校から連れ出したが、警察が介入し、未成年者は債務者に引き渡された。

債務者は転居し、未成年者を転校させて、現住所を明らかにしていない。債権者は、同日後、未成年者との面会交流をしていない。

(6)債権者は、平成24年9月21日、未成年者との面会交流を求めて調停の申立てをしたが(当庁平成24年(家イ)第7868号)、平成26年10月22日、不成立となり、審判に移行した。この間、債務者は、試行面会及び未成年者の調査に応じず、面会が未成年者の福祉に反するとしてこれを拒み、その理由として、債権者による育児放棄、連れ去りの危険及び未成年者による面会の拒否を主張し、間接強制になじまない旨主張した。

当庁は、平成27年12月11日、債務者の前記の主張をいずれも退け、審判をしたが、当事者双方が即時抗告したところ、東京高等裁判所は、平成28年4月14日、債務者の前記主張をいずれも退け、別紙の面会を認める旨決定し、同決定が同月18日確定した(以下、同決定を「確定決定」という。)。

(7)債務者が、確定決定に従わず、その第1回面会交流に応じなかったため、債権者は、次回の面会につき履行勧告の申立てをしたが、債務者は確定決定に従わなかったため、債権者は本件申立てをした。

(8)当裁判所が民事執行法172条3項により、債務者の申述を求めたところ、債務者は面会交流を拒絶する旨述べ、その理由としては、債権者によるネグレクト及び未成年者の連れ去り並びに未成年者の拒否を挙げる。また、間接強制を認めるべきでない理由として、未成年者の拒否をいい、その意思を尊重すべき旨及びそれを前提とする監護者の限界を主張する。

(9)債務者の平成27年の年収は給与収入合計2640万円である。

2 債務者が間接強制について述べる点は、未成年者の年齢及びその意思(面会の拒否)並びにそれを前提とする監護親の限界をいうものであるが、年齢については、要は、債務者が確定決定に従わず、面会交流に応じない間にも、未成年者は成長を続けているということであり、乙4記載の未成年者の面会の拒否についても、前記確定決定が当時提出された未成年者の手紙によって意思を認定し得ないとした事情が改められたとは認められず、債務者の主張は採用し難い。

また、債務者が面会交流をさせられない事情として主張する点は、前記のほか、既に確定決定で退けられたことの繰り返しであり、理由がない。

3 そうすると、債務者は債権者に対し、速やかに未成年者との面会を認めるべき義務があることは明らかであるところ、本件の経緯等にかんがみると、もはや任意の履行を期待することは困難な状況にあることから、間接強制の方法によって実現を図る必要及び理由があり、債務者の資力その他を考慮し、民事執行法172条1項により、間接強制の方法として主文のとおり定めるのが相当である。」

②東京高等裁判所平成29年2月8日決定(上記①の抗告審)
判例タイムズ1445号132頁

「1 原決定を次のとおり変更する。

(1)東京高等裁判所平成■年(ラ)第■号面会交流審判に対する抗告事件(原審:東京家庭裁判所平成■年(家)第■面会交流申立事件)の執行力ある決定正本に基づき、抗告人は、相手方に対し、別紙のとおり、未成年者との面会交流をさせなければならない。

(2)抗告人が、原決定の送達日以降、前項の義務を履行しないときは、抗告人は、相手方に対し、不履行1回につき30万円の割合による金員を支払え。

2 抗告費用は各自の負担とする。」

「 そして、一件記録によれば、相手方との面会交流を拒否する未成年者の意向には抗告人の影響が相当程度及んでいることが認められるから、抗告人は自ら積極的にその言動を改善し、未成年者に適切な働き掛けを行って、相手方と未成年者との面会交流を実現すべきであるが、従前の経緯や抗告人の原審及び当審における主張からすると、抗告人に対し少額の間接強制金の支払を命ずるだけではそれが困難であると解されること、抗告人が年額2640万円の収入を得ていること、その他本件に現れた一切の事情を考慮すると、本件における間接強制金を不履行1回につき30万円と定めるのが相当である(原決定は、本件における間接強制金を不履行1回につき100万円と定めたが、相手方の原決定前の不履行の態様等に照らして、そのような判断にも理由のないものではないものの、その金額は、上記事情を考慮しても余りにも過大であり相当でない。)。

なお、そもそも抗告人は確定決定に基づき本件義務を履行しなければならないものであるし、仮に抗告人の本件義務が今後再び履行されず、その不履行が続くようであれば、民事執行法172条2項により間接強制金が増額変更される可能性があるから、抗告人は、それらのことも念頭に置いて、本件義務を履行しなければならない。」

③大阪家庭裁判所平成29年1月27日決定判例時報2355号55頁

「一 債務者らは、債権者と債務者ら間の大阪高等裁判所平成二四年(ラ)第××号子の監護に関する処分(面会交流)審判に対する抗告事件(原審・大阪家庭裁判所平成二四年(家)第××号)において平成二五年××月××日に決定された執行力ある決定正本及び大阪高等裁判所平成二七年(ラ)第××号子の監護に関する処分(面会交流)申立却下審判に対する抗告事件(原審・大阪家庭裁判所平成二七年(家)第××号)において平成二七年××月××日に決定された執行力ある決定正本に基づき、この決定が確定した日の属する月の後、最初に到来する偶数月(ただし、この決定が確定した月が偶数月の場合には、その次の偶数月)から、別紙二面会交流の要領のとおり(ただし、別紙二の第一項については、別紙三のとおりとする。)、債権者を、同人と債務者A間の長女である未成年者Dと面会交流させなければならない。

二 債務者らが、本決定が確定した日以降、前項の義務を履行しないときは、債務者らは、債権者に対し、不履行一回につき三〇万円を連帯して支払え。」

「第三 当裁判所の判断

一 面会交流について審判ないし決定がなされた場合において、審判ないし決定に係る面会交流の日時又は頻度、各回の面会交流時間の長さ、子の引渡し方法等が具体的に定められているなど監護親がすべき給付の特定に欠けるところがないといえるときは、間接強制を許さない旨の合意が存在するなどの特段の事情がない限り、上記審判ないし決定に基づき監護親に対して間接強制決定をすることができると解される。

これを本件について見ると、抗告審決定二により変更された抗告審決定一の内容は、監護親たる債務者がすべき給付の特定に欠けるところがないと認められるから、特段の事情がない限り、間接強制決定をすることができるというべきところ、本件においては、この特段の事情を認めることはできない。

二 この点、債務者らは、抗告審決定二については、未成年者が頑なに債権者との面会交流を拒否していることから、債務者らに不可能を強いるものであり、債務者らとしては履行不能の状況で、債権者の間接強制が成立する余地がない等と主張している。しかし、一件記録によれば、抗告審決定二は、「未成年者が債権者との面会交流を嫌がる発言をしているとしても、それは、未成年者を現に監護養育している債務者らの面会交流に対する強い拒否的態度に影響されている部分が多分にあると推認し」た上で決定されていることが認められるところ、これによれば、抗告審決定二は、未成年者の心情等を踏まえた上で決定されているといえる。そうだとすると、未成年者が債権者との面会交流を拒否していることは、間接強制を妨げる事情とはならないというべきであり、抗告審決定二が、債務者らに対し、不可能を強いるものであるなどとは到底いえず、債務者らの主張は失当である。なお、付言するに、仮に、未成年者が、債権者との面会交流を頑なに拒否しているというのであれば、条理上当然にその未成年者の気持ちをほぐし、未成年者が債権者との面会交流を受入れるに至る働きかけをする必要があると解されるところ、債務者らがかかる働きかけをしたことを窺わせる形跡はない。また、仮に、債務者らが、未成年者の心情等について、抗告審決定二の決定時と異なる状況が生じたと主張しているとすると、このような事情は、抗告審決定二に係る面会交流を禁止し、又は面会交流についての新たな条項を定めるための調停や審判を申し立てる理由となり得ても、間接強制決定をすることを妨げる理由となるものではない(したがって、本件を決定するにあたって、未成年者の意思を再確認する必要性はない。)。

三 以上によれば、抗告審決定一及び抗告審決定二に基づく間接強制決定を否定する特段の事情があるとはいえない。

よって、本件間接強制の申立てはこれを認めるべきである。

そして、債務の不履行に際して債務者らが債権者に対して支払うべき間接強制金については、本件に現れた一切の事情に照らすと、一回の不履行につき三〇万円とするのが相当である。」

④大阪高等裁判所平成29年4月28日決定 判例時報2355号52頁

(③の抗告審)

「(1)面会交流を命じる審判に基づき監護親に間接強制決定をすることができるためには、審判において、面会交流の日時又は頻度、各回の面会交流時間の長さ、子の引渡しの方法等が具体的に定められているなど監護親がすべき給付が特定されている必要があるが(最高裁判所平成二四年(許)第四八号同二五年三月二八日第一小法廷決定・民集六七巻三号八六四頁参照)、抗告審決定二により変更された抗告審決定一に定められた相手方を未成年者と面会交流させる抗告人らの義務(以下「本件債務」という。)については、抗告人らが履行すべき給付の特定に欠けるところはない。しかるに、抗告人らは、未成年者が相手方との面会交流を拒否していることから、本件債務については履行不能の状態にあり、間接強制をすることは許されない旨主張する。

(2)そこで、検討するに、上記決定の事案においては、離婚した夫婦間で月一回の子との面会交流を認めた審判に基づく間接強制について、義務者である母親において、子が面会交流を拒絶する意思を示しているとして間接強制決定が許されないと主張したのに対し、上記決定は、「子の面会交流に関する審判は、子の心情等を踏まえた上でされているといえる。したがって、監護親に対し非監護親が子と面会交流をすることを許さなければならないと命ずる審判がされた場合、子が非監護親との面会交流を拒絶する意思を示していることは、これをもって、上記審判時とは異なる状況が生じたといえるときは上記審判に係る面会交流を禁止し、又は面会交流についての新たな条項を定めるための調停や審判を申し立てる理由となり得ることなどは格別、上記審判に基づく間接強制決定をすることを妨げる理由となるものではない。」と説示した。

しかし、上記事案における子は平成一八年××月生まれであり、上記決定当時は満七歳に達していないのに対し、本件の未成年者は平成一三年××月××日生まれであり、平成二九年××月××日(当時満一五歳三か月)に行われた前記家庭裁判所調査官による意向調査において、相手方との面会交流を拒否する意思を明確に表明し、その拒否の程度も強固である。そして、そのような意思は未成年者自身の体験に基づいて形成されたもので、素直な心情の吐露と認められるから、その意思は尊重すべきである(なお、相手方は、未成年者の意思は、頑なに面会交流を拒否する抗告人らの影響を受けており、本心とは評価できないと主張する。しかし、仮に未成年者が面会交流に消極的な抗告人らの意向を聞いているとしても、上記意向調査の結果によれば、未成年者はそれも踏まえて自らの意思で面会交流を拒否していると認められるから、未成年者の意思を本心でないとか、抗告人らの影響を受けたものとしてこれを軽視することは相当でない。)。

また、間接強制をするためには、債務者の意思のみによって債務を履行することができる場合であることが必要であるが、幼児のような場合であれば、子を面会交流場所に連れて行き非監護親に引き渡すことは監護親の意思のみでできるが、未成年者のような年齢の場合は子の協力が不可欠である上、未成年者は相手方との面会交流を拒否する意思を強固に形成しているところ、未成年者は平成二九年××月より高等学校に進学しており、その精神的成熟度を考慮すれば、抗告人らにおいて未成年者に相手方との面会交流を強いることは未成年者の判断能力ひいてはその人格を否定することになり、却って未成年者の福祉に反するということができる。したがって、本件債務は債務者らの意思のみによって履行することはできず履行不能というべきである。

加えて、前記認定のとおり、抗告人らは相手方と未成年者の面会交流の拒否を求めて調停申立てをしているところ、その帰趨を待つ余裕がないほど喫緊に面会交流を実施しなければ未成年者の福祉に反するような事情があるとも認められない。

(3)以上によれば、抗告人らの本件債務の不履行に対して間接強制決定をするのは相当でない。」

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