新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1810、2018/03/29 11:12 https://www.shinginza.com/sakujyo.htm

【民事、ネット上の名誉毀損対応、プロバイダ責任制限法、事前手続きと訴訟手続きと方法】

ネット上の誹謗中傷発言への対応



質問:
 匿名掲示板上で,弊社を「犯罪者が多数在籍している悪徳違法業者」などと貶める悪質な投稿が散見されます。投稿を削除するにはどうすればよいでしょうか。
 また,投稿者に対して損害賠償請求を行うことは可能でしょうか。



回答:
1 匿名掲示板上の投稿により名誉を毀損された場合,人格権に基づく妨害排除請求として,サイト管理者に対して,当該投稿の削除を求めることが出来ます。
  削除請求の手順としては,まず任意での削除請求(削除依頼フォームへの入力やメール送信を通じた請求,送信防止措置依頼書の送付による請求)を行い,功を奏さない場合は法的な削除請求を行うことになります(仮処分,訴訟)。

2 次に,投稿者を特定した上で,当該投稿者に対して投稿を控えるよう忠告する通知書を送付したり,あるいは不法行為に基づく損害賠償請求(慰謝料請求)をすることが出来ます。
  前提として,発信者の特定をするためにサイト管理者及びプロバイダ業者に対して発信者情報開示請求を行う必要があります。
  実名サイトの場合,サイト管理者自体が発信者の個人情報を管理しているため,直接サイト管理者に対して,発信者情報(住所や氏名)の開示請求を行うことになります。テレコムサービス協会の発信者情報開示請求ガイドラインによる開示請求手続(発信者情報開示請求書の送付による任意開示請求)では原則として開示されず,訴訟提起が必要な場合がほとんどです。
  他方で,匿名サイトの場合は,サイト管理者は投稿者の個人情報を管理しておりませんので,まずはサイト管理者に対してIPアドレスとタイムスタンプの開示請求を行い,開示されたIPアドレスから判明したプロバイダ業者(経由プロバイダ)に対して,契約者の氏名・住所の開示請求を行うことになります。IPアドレスについては任意開示に応じてくれる管理者も一定程度存在しますが,住所や氏名といった個人情報については,やはり経由プロバイダが任意に開示する可能性が低く,開示請求訴訟を提起する必要があります。

3 発信者情報を特定できた場合,その者に対し,不法行為に基づく損害賠償請求訴訟の提起を検討することになります。損害賠償が認められるためには違法な書き込みで権利が侵害されていることが要件となります。また、認められ得る損害の費目としてとして,慰謝料,発信者特定に要した実費(弁護士費用含む),削除に要した実費(弁護士費用含む)等が挙げられます。

4 プロバイダ責任制限法関連事務所事例集1621番1573番1443番1376番1229番1219番1215番1170番1169番1106番1035番882番813番755番732番216番参照。


解説:

第1 投稿の削除請求

 1 名誉毀損の成立要件について

  (1) 前提として,インターネット上の投稿内容が名誉毀損と評価され得るものでないと,そもそも削除は認められません。
    名誉棄損とは,公然と事実を摘示することによって,相手の社会的評価を低下させることを意味します(刑法230条1項参照)。

    インターネット上の匿名掲示板は,不特定多数の人達が自由に投稿したり閲覧したりできるものですから,公然性は容易に認められるでしょう。

    問題は,事実の摘示といえるか,また投稿内容が相手の社会的評価の低下に繋がるか,といった点です。単なる意見の論評に止まるものは,これに該当しないことになります。

    「犯罪者が在籍している」「違法業者である」といった事実の摘示は,当該会社の社会的評価を低下させるものと考えられますので,本件投稿は名誉毀損の要件を満たすものと考えて良いでしょう。

  (2) なお,人格権としての名誉の保護と表現の自由の保障との調和を図る見地から,@公共の利害に関する事実に関するものであること(事実の公共性),A専ら公益を図る目的があること(目的の公益性),B真実であると証明されること(真実性の証明),の3要件を満たす場合は,違法性が阻却され,処罰されないこととされております(刑法230条の2第1項)。

    また,摘示した事実が真実であることの証明がない場合でも,「行為者がその事実を真実であると誤信し,その誤信したことについて,確実な資料,根拠に照らし相当の理由があるときは,犯罪の故意がなく,名誉毀損の罪は成立しない」というのが判例の立場です(参考裁判例@ 最大判昭和44年6月25日)。

    しかし本件では,公共性も公益性もないと判断される可能性が高く,違法性が阻却される事案ではありません。

 2 削除の手続きについて

  (1) 任意の削除請求

    まずは,削除依頼フォームへの入力やメール送信によって削除を求める方法が考えられます。これだけで削除に応じてもらえる場合も一定数ございます。

    また,サイト管理者によっては,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」といいます。)3条1項を根拠とする送信防止措置依頼書の送付を受けて,削除に応じるという場合もあります。

    プロバイダ責任制限法3条1項は,インターネット上の投稿により他人の権利が侵害された場合において,特定電気通信役務提供者(プロバイダ,サイトの管理者や開設者等)は,「権利を侵害した情報の不特定の者に対する送信を防止する措置を講ずることが技術的に可能」であれば,権利侵害によって生じた損害の賠償義務を負う可能性があることを規定しており,ここでいう「権利を侵害した情報の不特定の者に対する送信を防止する措置を講ずること」(すなわち削除)を求めるための書類が送信防止措置依頼書です。

    一般社団法人テレコムサービス協会(TELESA)のプロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会が,具体的な削除請求手続きに関するガイドラインを公表しており,送信防止措依頼書の雛形は以下のリンク先に掲載されております。

   (参考URL http://www.isplaw.jp/ )

    この送信防止措置依頼書に掲載場所(URL),掲載情報(投稿の内容),侵害情報(侵害された権利及びその理由)といった必要事項を記入してサイト管理者に送付することで,削除に応じてもらえる場合があります。

    プロバイダやサイト管理者は,当該情報の流通によって他人の権利が不当に侵害されていると信じるに足りる相当の理由があるときや,情報発信者に対して送信防止措置(削除)を行うことに同意するかどうかを照会した場合において,7日以内に発信者から異議がなかったときには,当該情報の削除等の措置を講じても発信者に対する損害賠償責任を負わないこととされており(プロバイダ責任制限法3条2項),権利侵害が明らかな場合や発信者への照会に対する応答が無い場合には,応じてもらいやすい傾向にあります。

  (2) 法的請求

    任意の開示に応じてもらえない場合あるいはその見込みがないことが初めから分かっているような場合は,裁判所に対して削除命令の仮処分申立てを行うことになります(民事保全法23条2項)。

    仮の地位を定める仮処分命令の申立ては,訴訟提起を待たずに仮の地位を裁判所に命じてもらうための手続きで,通常,削除命令が出れば,プロバイダやサイト管理者はそれに従うため,その後の本訴提起までは不要なことがほとんどです。

    仮処分命令の申立てを行う際は,被保全権利の存在(本件では人格権としての名誉権)と保全の必要性を申立書に記載すると共に,証拠によって疎明(裁判官が確からしいと判断する程度の立証で,訴訟で要求される証明よりは確信の程度が低くても良いとされています。)する必要があります(民事保全法13条)。そして,仮の地位を定める仮処分命令における保全の必要性は,「著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とする」ときに認められ(民事保全法23条2項),投稿を放置し続けることによる具体的弊害と一刻も早く投稿を削除すべき具体的状況を説得的に主張する必要があります。

    なお,削除の必要性が認められて裁判所が仮処分命令を出す際は,事前に担保金30万円程度を法務局に供託する必要がありますので,ある程度資金の準備が必要であることも念頭に置いておく必要があります。

第2 発信者情報開示請求及び発信者への損害賠償請求

1 発信者の特定(発信者情報開示請求)

(1) 概要

 投稿の削除をしたとしても,再度同様の投稿がなされる可能性があり,削除だけでは本質的な解決とならないことも想定されます。

 そこで,発信者を特定した上で,当該発信者に対して投稿を控えるよう忠告する通知書を送付したり,あるいは不法行為に基づく損害賠償請求(慰謝料請求)を行ったりすることが考えられます。

 この発信者を特定するための手続きが,プロバイダ責任制限法4条1項が規定する発信者情報開示請求の手続きとなります。同条項は,@権利侵害が明らかであること,A損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があること,の2つの要件を満たす場合に開示請求が出来ることとしております。

 その上で,開示請求の相手方をどのように考えるかが問題となります。発信者は,通常インターネット通信事業者(経由プロバイダ)とプロバイダ契約を締結し,当該経由プロバイダを通じてインターネットに接続します。そして,インターネット上でコンテンツを提供しているサイト運営者等のサーバと通信を行う方法で掲示板等にアクセスしているのです。

 そのため,発信者を特定するためには,原則として,最初にサイト運営者(たとえば,●●という口コミ掲示板を運営している梶Z〇)に対して,発信者のIPアドレス(ウェブサイトに投稿をする際に,投稿を行うパソコンやスマートフォン1台1台に対して割り当てられる識別符号)とタイムスタンプ(Webサイトに記事の投稿をした時刻に関する記録)の開示を請求し,その情報をもとに,発信者が投稿時に利用した経由プロバイダ(インターネットへの接続サービスを提供する事業者)に対して発信者の氏名と住所の情報開示を請求する,という手順を踏む必要があります。

 例外的に,実名登録が必要とされるサイトの場合は,サイト管理者が発信者の氏名・住所等を管理している可能性が高く,その場合はサイト運営者に情報開示を求めれば足りることになります。ただし,本件は匿名サイトでの書き込みですので,2段階の開示要請を行う必要があります。

(2) 具体的手続き

   ア IPアドレス及びタイムスタンプの開示請求

 サイト運営者に対してIPアドレスとタイムスタンプの開示を請求 する方法ですが,削除の時と同様に,一般社団法人テレコムサービス協会(TELESA)が公表する発信者情報開示請求書の雛型を利用して,任意の開示を求める方法と,裁判所に仮処分命令の申立てを行う方法があります。

 ただし,プロバイダ責任制限法4条4項は,特定電気通信役務提供者が開示請求に応じないことにより当該開示の請求をした者に生じた損害については,「故意又は重大な過失がある場合でなければ,賠償の責めに任じない。」と規定し,余程の事情がない限り,開示請求に応じなくても損害賠償責任を負わないことが保証されています。これは,発信者情報開示請求の1つ目の要件である「権利侵害の明白性」は個々の事業者が容易に判断できることではなく(名誉棄損の成立要件と違法性阻却事由の要件の判断は簡単ではない。),裁判所からの命令を待って対応するという事業者の判断を尊重する趣旨の規定ということができます。

 そのため,発信者情報の任意開示に応じる事業者は少ないという前提があることは,念頭に置く必要があります。とはいえ,発信者の氏名・住所といった個人情報を直接開示するかどうかの判断を迫られる2段階目の開示請求の場合よりは,IPアドレスの開示の方が,任意開示に応じてもらえる可能性は若干高いということはできます。

 任意開示に応じてもらえない場合あるいは初めから見込みが薄いと考えられる場合は,裁判所に対し,開示命令の仮処分申立てを行うことになります。仮処分の要件は,削除の場合と基本的に同様ですが,時間の経過と共に保全の必要性が減退していってしまうことには留意が必要です。

 開示の仮処分命令が出れば,サイト運営者はその判断に従うのが通常で,別途本訴提起を行う必要性が低い点は,削除の場合と同様です。

   イ 経由プロバイダの特定と発信者情報消去禁止の仮処分命令申立て

 IPアドレスとタイムスタンプが判明したら,発信者が問題の投稿を行った際の経由プロバイダを特定します。たとえば,以下のリンク先でIPアドレスとタイムスタンプを入力することで,経由プロバイダを特定することができます。

    (参考URL:https://www.cman.jp/network/support/ip.html

 その上で,経由プロバイダに対して,投稿者の特定に必要なアクセスログの保全を申し入れます。というのも,経由プロバイダのアクセスログの記録は,一般的には3か月程度で自動的に消去されてしまうことが多いため,後述の発信者情報開示請求訴訟を提起したとしても,経由プロバイダ側で記録が消えてしまっていて開示不能な状態に陥るリスクが想定されるのです。それでは意味を為さないので,早急にアクセスログの保存を申し入れます。

 任意に応じてもらえない場合は,ここでも仮処分の申立てが必要となります(発信者情報消去禁止仮処分命令の申立て)。

   ウ 発信者情報開示請求訴訟の提起

 最後に,経由プロバイダに対して,契約者の住所・氏名を開示させるために,裁判所に発信者情報開示請求訴訟の提起を行います。

 住所・氏名は重要な個人情報ですので,開示させるには必ず訴訟提起が必要とされております。

 当該訴訟において開示決定が出れば,ようやく発信者の特定に必要な住所・氏名を明らかにすることができるのです。

 ただし,ここで明らかとなるのは,あくまでも経由プロバイダの契約者情報であり,契約者ではない者が投稿を行った可能性を否定できないケースでは,実際の投稿者の特定のために,さらに追加の調査が必要となる場合があります。たとえば,インターネットカフェで行われた投稿は,インターネットカフェの利用者履歴を開示してもらえない限り,発信者の特定は難しいでしょう。

   エ 小括

 このように,発信者情報の開示は,原則として裁判所に何度も申立てを行うことが必要であり,非常に手間が掛かる手続きです。また,特定自体非常に困難な場合もあります。ITに精通した弁護士に一任してしまうことをお勧めいたします。

2 発信者への損害賠償請求

(1) 任意の交渉

 発信者の情報が判明したら,次に検討するのが発信者への損害賠償請求です。まずは,内容証明郵便等の記録が残る形式で,損害賠償を求める通知書を送付し,任意での話し合いを求めます。

 発信者側から反応が無ければ,訴訟提起を検討します。

(2) 損害賠償請求訴訟

 インターネット上で行われた名誉棄損を理由として損害賠償請求訴訟を提起する場合に考え得る損害費目は,@慰謝料A発信者の特定に要した調査費用(弁護士費用含む),B削除に要した費用(弁護士費用),C本訴の弁護士費用等が考えられます。
このうち,@については,事案によって変動しますが,100万円未満であることが多いです。

 AとBについては,要した費用が不相当に高額等の事情が無い限りは,投稿と因果関係のある損害として,弁護士費用も含めて認められる傾向にあります(参考裁判例AB)。

 Cについては,これまでの裁判例が,不法行為の場合は,損害額の1割程度を弁護士費用相当額として認める運用であったことを受け,同様に1割程度を損害として認定する傾向にあります。

(3) 小括

 以上のように,慰謝料については必ずしも十分とは言い難い金額の認定に止まることが多いですが,調査費用や削除費用については別途損害として認定される可能性があり,ある程度の費用回収はできるところです。ただ,全体としてみれば,十分な金額が手元に残らない可能性は念頭に置いておく必要があります。

 それでも,実際の投稿者に対して損害賠償請求を行うことで,再度の悪質な投稿の抑止力になる側面もあり,また,社会的にも,不正に対して法的な手続きによって毅然として立ち向かう風潮があれば,情報発信の慎重さを形成させる効果もあると考えます。
 
第3 まとめ

 以上のとおり,インターネット上の違法な投稿を巡る問題は非常に複雑で,解決にも手間が掛かることが分かると思います。誹謗中傷にお困りの方は,一度経験のある弁護士にご相談されることをお勧めいたします。

 以上


【参照条文】
特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(プロバイダ責任制限法)
第3条(損害賠償責任の制限)
第1項 特定電気通信による情報の流通により他人の権利が侵害されたときは、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(以下この項において「関係役務提供者」という。)は、これによって生じた損害については、権利を侵害した情報の不特定の者に対する送信を防止する措置を講ずることが技術的に可能な場合であって、次の各号のいずれかに該当するときでなければ、賠償の責めに任じない。ただし、当該関係役務提供者が当該権利を侵害した情報の発信者である場合は、この限りでない。
一号 当該関係役務提供者が当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知っていたとき。
二号 当該関係役務提供者が、当該特定電気通信による情報の流通を知っていた場合であって、当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるとき。
第2項 特定電気通信役務提供者は、特定電気通信による情報の送信を防止する措置を講じた場合において、当該措置により送信を防止された情報の発信者に生じた損害については、当該措置が当該情報の不特定の者に対する送信を防止するために必要な限度において行われたものである場合であって、次の各号のいずれかに該当するときは、賠償の責めに任じない。
一号 当該特定電気通信役務提供者が当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が不当に侵害されていると信じるに足りる相当の理由があったとき。
二号 特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者から、当該権利を侵害したとする情報(以下この号及び第四条において「侵害情報」という。)、侵害されたとする権利及び権利が侵害されたとする理由(以下この号において「侵害情報等」という。)を示して当該特定電気通信役務提供者に対し侵害情報の送信を防止する措置(以下この号において「送信防止措置」という。)を講ずるよう申出があった場合に、当該特定電気通信役務提供者が、当該侵害情報の発信者に対し当該侵害情報等を示して当該送信防止措置を講ずることに同意するかどうかを照会した場合において、当該発信者が当該照会を受けた日から七日を経過しても当該発信者から当該送信防止措置を講ずることに同意しない旨の申出がなかったとき。

第4条(発信者情報の開示請求等)
第1項 特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、次の各号のいずれにも該当するときに限り、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(以下「開示関係役務提供者」という。)に対し、当該開示関係役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報(氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう。以下同じ。)の開示を請求することができる。
一号 侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき。
二号 当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき。
第2項 開示関係役務提供者は、前項の規定による開示の請求を受けたときは、当該開示の請求に係る侵害情報の発信者と連絡することができない場合その他特別の事情がある場合を除き、開示するかどうかについて当該発信者の意見を聴かなければならない。
第3項 第一項の規定により発信者情報の開示を受けた者は、当該発信者情報をみだりに用いて、不当に当該発信者の名誉又は生活の平穏を害する行為をしてはならない。
第4項 開示関係役務提供者は、第一項の規定による開示の請求に応じないことにより当該開示の請求をした者に生じた損害については、故意又は重大な過失がある場合でなければ、賠償の責めに任じない。ただし、当該開示関係役務提供者が当該開示の請求に係る侵害情報の発信者である場合は、この限りでない。


※刑法

第230条(名誉毀き損)
第1項 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀き 損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
第2項 死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。


【参照裁判例】


@最大判昭和44年6月25日

以下抜粋

「しかし,刑法二三〇条ノ二の規定は、人格権としての個人の名誉の保護と、憲法二一条による正当な言論の保障との調和をはかつたものというべきであり、これら両者間の調和と均衡を考慮するならば、たとい刑法二三〇条ノ二第一項にいう事実が真実であることの証明がない場合でも、行為者がその事実を真実であると誤信し、その誤信したことについて、確実な資料、根拠に照らし相当の理由があるときは、犯罪の故意がなく、名誉毀損の罪は成立しないものと解するのが相当である。これと異なり、右のような誤信があつたとしても、およそ事実が真実であることの証明がない以上名誉毀損の罪責を免れることがないとした当裁判所の前記判例(昭和三三年(あ)第二六九八号同三四年五月七日第一小法廷判決、刑集一三巻五号六四一頁)は、これを変更すべきものと認める。したがつて、原判決の前記判断は法令の解釈適用を誤つたものといわなければならない。」


A東京地判平成24年1月31日

以下抜粋
 
「(6)本件書込は、EA社について語るスレッド内で行われたものであり、一連のものと認められること、原告の風貌等に言及されていること、実名まで触れられていることなどから、EA社や被告会社の従業員が見れば、上記スレッドに記載されている者が原告であることは明らかである。そして、「何度か夜にオールバックのチビおやじが紙袋持って女子トイレに入ったの見たぞ」「AR!おめえのやった事は犯罪だぞ」などの本件書込は原告が盗撮という犯罪行為をしていることをうかがわせる記載であるので、原告の社会的評価を低下させたことは明らかである。したがって、被告Bfの原告に対する本件書込による不法行為は成立する。
 他方、被告Bfの業務時間になされた本件書込のうち、番号四九九及び番号五〇七の記載のみでは原告に対する不法行為は成立せず、犯罪行為を指摘した番号五〇三及び番号五〇四の際、被告Bfは休暇中であって、被告会社の職務執行の際に行われておらず、かつ、被告会社が貸与した携帯から書き込まれたものではなく、被告Bf個人の所有する本件携帯により本件書込がなされているものであるから、被告会社に対する使用者責任は生じない。
(7)そこで、原告の慰謝料を検討すると、本件書込の犯罪事実の摘示の程度などを中心として勘案すると、一〇〇万円が相当である。それを超える精神的苦痛は原告には認められない。したがって、弁護士費用は請求慰謝料認定額の一割程度の一〇万円が相当である。
 なお、本件訴訟が「2ちゃんねる」の違法な書き込みについての犯人の特定のため、上記のとおり、原告が弁護士を介して、漸く被告Bfに辿り着いた経緯に照らすと、被告Bfの特定のための調査費用六三万円も被告Bfに対する不法行為の損害として被告Bfが負担すべきである。」


B東京地判平成28年2月9日

以下抜粋

「4 争点〔3〕(損害)について
(1)慰謝料
 原告は不動産業を営む者であるところ,本件スレッドのタイトルや投稿内容(乙1)からすると,その閲覧者の多くは不動産投資に関係する者であると合理的に推測されるのであって,本件各記事は,原告と実生活において現に関係を有し,又は今後何らかの関係を有するかもしれない者によって閲覧されていることになる。また,本件各記事の内容自体をみても,特に本件記事1及び本件記事2は,「キチガイ」などの極めて侮蔑的な表現を用いて原告の名誉を毀損するものである。これらのことからすると,本件スレッドに本件各記事が投稿されたことによる原告の精神的苦痛は,相応のものであるとはいえる。
 他方で,本件各記事以外の本件スレッドの記事も本件各記事同様に原告又はその他の特定の人物を特段の根拠も示すことなく誹謗中傷するようなものが多くを占めていることなどからすると(乙1),そもそも本件スレッドに投稿された記事の内容に対する信頼性は低いものというべきであって,その意味において,本件各記事が原告の社会的評価を低下させた程度は大きなものとはいい難い。また,原告自身も,本件ブログや他人のブログにおいて,他人を殊更に非難し,揶揄するような記事を好んで掲載するなどしていることからすると(乙13の1の1等),通常人と比して,侮蔑的な表現により被る精神的苦痛の程度は小さいものとみるべきである。
 これらの事情のほか,本件各記事の内容,件数,頻度等を考慮すると,本件各記事の投稿による原告の慰謝料は,被告Aとの関係で20万円,被告Bとの関係で10万円,被告Cとの関係で5万円をもって相当と認める。
 なお,原告は被告Bによる本件吹聴行為を主張するが,その事実を認めるに足りる証拠はない(仮に被告Bが原告主張に係る事実を第三者に述べた事実が認められたとしても,名誉毀損の故意又は過失を認めるに足りる証拠はない。)。
(2)特定費用及び削除費用
 匿名で投稿された本件各記事の投稿者を特定することは,本件各記事による名誉毀損について投稿者に対して損害賠償請求をする前提となるものであることから,それに要した費用は,それが合理的なものである限り,本件各記事の投稿と相当因果関係のある損害であるといえる。また,本件各記事が本件スレッド上に掲載されている限り,原告に対する権利侵害が継続することになるのであるから,権利侵害状態を排除するために本件各記事の削除に要した費用についても,同様に,本件各記事の投稿と相当因果関係のある損害であるといえる。本件においては,原告がこれらのための弁護士費用として支払った金額が不相当であることをうかがわせる事情はないから,原告が現実に支払った金額全額が損害となる(なお,本件各記事の削除のための弁護士費用については,本件各記事以外の記事を含めた合計42件の記事の削除のために要した費用を本件記事1ないし3の各件数で按分した金額をもって本件記事1ないし3の投稿による損害であると認める。)。
 すなわち,特定費用としては,前提となる事実(3)アのとおり,被告A及び被告Bとの関係では各31万5000円,被告Cとの関係では52万5000円,削除費用としては,前提となる事実(3)イのとおり本件各記事を含む合計42件の記事について77万7000円であったから,被告Aとの関係では38万8500円(77万7000円×21記事/42記事),被告Bとの関係では7万4000円(77万7000円×4記事/42記事),被告Cとの関係では5万5500円(77万7000円×3記事/42記事)が,それぞれ損害となる。
(3)小計
 上記(1),(2)の金額を合計すると,被告Aについて90万3500円,被告Bについて48万9000円,被告Cについて63万0500円である。」


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