新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1779、2017/09/06 11:55 https://www.shinginza.com/qa-hanzai.htm

【刑事、否認事件の弁護活動、最判昭和51年10月28日】

否認事件において共犯者の自白調書が存在する場合



質問:
 私は,ホテルで清掃員をしている者です。先日,同僚が,複数回にわたってホテル内の客室から金品を持ち出したという窃盗の容疑で,警察に逮捕されました。
 その件で,私は3回ほど警察に呼ばれ,取調べを受けました。私は上記事件に一切関与していないのですが,どういうわけか,逮捕された同僚が私に指示されて窃盗を行ったという供述をしているらしく,警察は私の関与を疑っています。同僚とはいつも仲良く仕事をしていたので,何故そのような嘘を付くのか見当もつきません。同僚から,窃盗を計画しているような話は聞かされていませんでしたし,私が窃盗を指示した事実も一切ありません。
 取調べを担当している刑事は,最初から私のことを疑って掛かっており,終始高圧的な態度で話をしてきます。また,取調べは朝から夕方まで長時間に及び,途中で私が緊張でトイレに行きたくなっても,行かせてもらえないこともありました。そして,ポリグラフ検査なるものを実施し,「検査結果から,お前が嘘を付いていることが分かった」などと言って自白を迫ってきます。これまで作った調書は,私が犯罪を認める内容にはなっていないと思いますが,内容を正確に把握していないので,不安です。
 正直なところ,精神的に限界を感じています。このまま罪を認めてしまった方が楽になる気もして,自分に負けそうになります。私は冤罪を背負う事になってしまうのでしょうか。助けてください。



回答:

1 あなたは,ホテル内での窃盗に関して一切身に覚えが無いということですから,実行行為を行った事実も共謀を行った事実も存在せず,当然のことながら,何らの犯罪も成立しません。
  とはいえ,あなたが現在警察から被疑者として扱われていることは,ほぼ間違いないと思われます不本意かとは思いますが,しかるべき防御活動をしなければ,窃盗罪としての処罰を受ける危険性があり(罰金ないし態様によっては公判請求),謂れの無い前科が付いてしまう(すなわち冤罪)ことにもなりかねません。社会生活上重大な不利益を被ることのないよう,弁護人を早急に選任した上で,無実の主張を積極的に展開していく必要があります。

2 弁護人の活動は,概ね以下のとおりです。
  まず,窃盗を行ったとされる同僚(以下「実行犯」といいます。)が既に逮捕されていることから,あなたにも逮捕の危険性が相当程度あります。その危険性を可能な限り低くするために,出頭誓約書を捜査機関に提出し,逃亡のおそれを否定する事情を作り出しておくべきです。
  次に,あなたの担当刑事は,供述の任意性について疑念をいだかれるような方法(犯罪捜査規範168条)を用いていると思われ,あなたが意に反して自白をしてしまう危険がありますので,取調べの環境改善を目指すべく,弁護人から警察署に対して抗議の内容証明を送付することも検討して良いでしょう。
  その上で,あなたの主張を詳細にまとめた供述調書を作成し(弁面調書),弁護人の意見書や関連する証拠等と併せて捜査機関に提出することになります。捜査担当官の矛盾(共犯者の矛盾)を突くべく弁護人は積極的に捜査に協力し取り調べの内容を引き出すことが肝要です。黙秘権は逮捕を回避する方針を取る以上起訴前弁護ではあまり意味を成しません。

3 一方で,取調べを受けるあなたに心掛けていただきたい点としては,取調官から何を言われても,真実と異なる不利な調書(その最たるものが自白調書)を絶対に作らせないことです。万が一真実に反する内容の供述調書に署名・押印を求められても,あなたには調書の訂正を申し立てる権利(刑訴法198条4項),署名・押印を拒否する権利(刑訴法198条5項但書き)がありますので,焦らず冷静に対応をしてください。

4 以上の活動により,最終的に目指すべきは,事件が送検されたタイミングで,担当の検察官に,証拠不十分で起訴を断念させることです。
  連日の取調べで疑われ続ける中で,無罪主張を貫くのには,精神的なタフさが求められます。弁護人というあなたの味方を就けなければ,到底精神が持たないでしょう。刑事弁護に精通した弁護士に早めに相談され,弁護人を選任されることをお勧めいたします。

5 無実主張の関連事例集1715番1661番1536番1533番1430番1414番1396番1371番1262番1142番1087番1077番1008番735番も併せてご参照ください。


解説:

第1 あなたが置かれている状況

 1 被疑者としての地位

   あなたは,警察から何度か呼ばれて取調べを受け,供述調書も作成しているということですので,刑事手続上の被疑者として扱われていると考えて良いでしょう(警察は犯罪の疑いがある場合、捜査を開始しますが、任意捜査として取り調べをされた場合、被疑者なのかあるいは被疑者以外のものとして事情を聴かれているのかは明らかになりません。しかし、取り調べが何度も行われ、しかも、長時間にわたりまたポリグラフ検査も行われているとなると被疑者となっていると考えてよいでしょう)。

   警察から疑われている内容は,ホテルの客室内で起きた数件の窃盗に関し,実行犯に指示を出したというものですので,窃盗罪(刑法235条)の共謀共同正犯(刑法60条)ないし教唆犯(刑法61条1項)ということで捜査の対象となっているとお考えください。

 2 刑事手続きの流れ

   現在あなたは警察署で取調べの対象となっていますが,逮捕等の身体拘束は受けていません(在宅事件)。しかし,実行犯が既に逮捕されており,警察はあなたが実行犯に犯行を指示したものと疑っていますので,あなたについても今後逮捕状を請求されて,身体拘束を受ける可能性も否定はできません。

   警察での必要な捜査が終了すると,事件は検察庁に送られ(刑訴法246条本文),担当の検察官が必要に応じて関係者の取調べ等を行い,証拠関係を検討して起訴するか否かを決することになります(刑訴法247条,248条)。

 3 証拠関係の状況

   あなたの犯行を立証するための証拠として,本件では,実行犯の供述(共犯者の自白)が挙げられます。その他,防犯カメラの映像,メールのやり取り,通話記録等の客観証拠も捜査機関が精査をしているはずですが,あなたは本件事件に一切関与していないということですから,基本的には共犯者の自白以外に証拠は存在しないはずです。

   では,共犯者の自白だけであなたを有罪とすることは可能でしょうか。この点,刑訴法319条2項は,「被告人は、公判廷における自白であると否とを問わず、その自白が自己に不利益な唯一の証拠である場合には、有罪とされない。」と規定しており(いわゆる補強法則),被告人自身の自白だけでは有罪とできないこととなっています。共犯者の自白にもこの補強法則が適用されるかという議論がありますが,判例はこれを否定しています(最判昭和51年10月28日)。共犯者は被告人本人との関係においては,被告人以外の第三者(証人と同視)といえ,反対尋問権(刑訴法311条3項)も保障されているので,補強証拠を要しない,ということのようです。これに対しては,共犯者が公判廷で黙秘権を使ったような場合,反対尋問権が事実上保障されないので,補強証拠を要求すべきとの見解も主張されています。

   本件では,理論的には,実行犯の供述のみによって,あなたの有罪を立証し得ることになります。

   ただし,検察官が実際に起訴するかどうかは別の話です。実行犯の供述の信用性に疑念を抱くような事情があれば,起訴は難しいと考えるでしょう。

 4 防御活動と弁護人の必要性

   検察官は,証拠関係を精査して,裁判で確実に有罪に出来ると判断した場合でなければ起訴しませんので,被疑者側でも有利な証拠を作成・収集して捜査機関に提出し,検察官をして,本件を起訴したとしても証拠不十分で無罪になるかもしれないと思わせる必要があります。

   検察官の立証の構造や実務的な相場感を把握していない状態で上記のような防御活動を行うことは不可能であり,ご自身だけで捜査機関と闘うのは現実的でありません。捜査機関と一緒に闘ってくれる弁護人の存在が必要不可欠であり,直ちに刑事弁護に精通した弁護士に相談の上,弁護人を選任すべき事案といえます。

   以下,具体的な弁護活動の内容を説明いたします。

第2 本件の弁護活動

 1 逮捕回避交渉

   あなたは現在,逮捕等の身体拘束を受けずに,在宅事件として捜査対象となっています。しかし,既に逮捕されている実行犯が,取調べにおいてあなたの関与を仄めかす発言をしていることから,警察としては,本件を共犯事件として捉え,口裏合わせ等の危険を排除するために,双方とも身体拘束をしたいと考える可能性が否定できません。そのため,早急に逮捕の必要性がないことを示しておく必要があります。

   逮捕の要件は,逮捕の理由すなわち「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」(刑訴法199条1項本文)が認められることを前提に,消極的要件として,逮捕の必要性も求められます(刑訴法199条2項但書き)。逮捕の必要性が認められない場合とは,「逃亡の虞がなく,かつ,罪証を隠滅する虞がない等明らかに逮捕の必要がないと認められるとき」とされていますが(刑訴規則143条の3),実務上はこの制限のハードルが低く,かなり緩やかに逮捕が認められているのが現状です。

   しかし,弁護人を通じて逮捕の必要性がないことを説得的に主張することにより,何もしない場合に比べて,相当程度逮捕の危険性を軽減させることができます。

   本件では,@共犯者の供述以外に証拠は存在せず,当該共犯者の供述の信用性にも重大な疑義が存在することから,逮捕の理由が存在しないとの主張を行い,併せて,A捜査機関からの出頭要請があれば必ず出頭すること,実行犯への接触を含め(接見禁止が付いていれば関係はありませんが),一切の罪証隠滅行為を行わないことを約束する誓約書を準備する等して,逮捕の必要性を否定する事情を作る活動をすることになります。

   なお,万が一逮捕されてしまった場合は,検察官による勾留請求を阻止する活動を直ちに開始することになります。勾留されてしまった場合は,勾留決定に対する準抗告の申立てを行います(刑訴法429条1項2号)。

 2 取調べの軟化に向けた交渉と不利な供述調書に署名させないこと

   本件では,担当の取調官の手法に看過出来ない違法性が認められるため,弁護人から警察署宛に抗議を行う内容証明を送付する等して,高圧的な取調べを軟化させるように交渉することが必要となります。精神的に疲弊した状態では,冷静な判断能力を失い,真実とは異なる不利な内容の供述調書に納得して署名してしまう危険性も出てきますので,とても重要な活動となります。

   一例ですが,内容証明には,@取調べを行うに当たって強制,拷問,脅迫その他供述の任意性について疑念をいだかれるような方法を用いてはならない旨定めた犯罪捜査規範168条1項,その他刑事訴訟法などの関連法規に明白に反すること,A取調べを担当している刑事を担当から外すよう要請すること,B今後も違法な取調べが続くのであれば,供述調書の任意性(信用性)を争うのみならず,国家賠償請求等の然るべき手段を考えざるを得ないこと等を記載することが考えられます。

   その他,随時電話でも,取調べの際の配慮を要請していくことになります。

   なお,実際に取調べを受けている最中に,高圧的な態度を取られる等,精神的に堪え難い苦痛を感じた際は,黙秘権を行使する他,弁護人との電話での打合せを希望することを伝えていただければと思います。弁護人から,直ちに抗議の電話を行うことも可能です。これを許さない警察官が大勢いらっしゃるのが現状ですが,逮捕等の身体拘束を受けていない状態での取調べは任意捜査の一環に過ぎず,身体の自由を奪うことは許されません。

   また,あなた自身,自白調書を巻かれないことも大変重要となってきます。否認していても,あの手この手の手法で(本件のポリグラフ検査がその一例です。)犯行への関与を認めるような内容の言質を取られ,不利な内容の供述調書に署名・押印してしまうことがままありますが,検察官による起訴を決定付けてしまいますので,絶対にそのような供述調書には署名しないようにしてください。万が一真実に反する内容の供述調書に署名・押印を求められても,あなたには調書の訂正を申し立てる権利(刑訴法198条4項),署名・押印を拒否する権利(刑訴法198条5項但書き)がありますので,焦らず冷静に対応をしてください。

 3 あなたの言い分を伝える活動(弁面調書の作成)

   検察官に起訴を断念させるためには,自白調書を巻かれないということに加え,あなたの言い分をしっかりと捜査機関に提示する必要があります。具体的には,実行犯との関係性(上下主従関係の不存在),各事件発生日及びその前後の行動(実行犯との共謀の不存在,犯行時刻のアリバイ等)を具体的かつ詳細に記載した弁護人面前調書を作成することが考えられます。そして,実行犯とのやり取りの記録(メール,通話履歴等)が残っていれば,その中に不審(と捜査機関から疑われる)な点がないかを分析し,仮に誤解を招くようなやり取りの履歴が残っていれば,説得的な弁解を弁面調書に記載しておく必要があります。あなたの言い分に具体性,迫真性があればある程,嘘を付いているとは考え難いとして,信用性が高まりますので,その点を意識して作成することが肝要です。

   また,本件では,実行犯があなたに指図されたとの主張を行っているようですが,このような共犯者の引っ張り込みは確かによくあることです。しかし,検察官を納得させるためには,実行犯が何故そのような嘘を付いているのかというストーリーをこちらで用意した方が望ましいでしょう。犯行の直前に仲が悪くなった,実行犯があなたに恨みを抱いていた,あなたのことを妬んでいた,常にあなたに依存しているような人であった等,思い当たる点があれば,その点も弁面調書に記載しておくと良いでしょう。

   加えて,実行犯の供述に客観証拠やあなたの供述と矛盾する点があることが判明した場合は,実行犯の供述の信用性を弾劾することができますので,その点も弁面調書あるいは弁護人の意見書の形で伝える必要があるでしょう。ただし,実行犯がどのような供述をしているかを知る術はなく(起訴させていない以上,証拠の開示は原受けられません。),警察や検察の取調べから得た情報や弁護人の担当刑事,担当検察官とのやり取りから得た情報を基にする他ありません。

 4 検察官との交渉

   以上を前提に,検察官との交渉を行います。

   本件では,共犯者の自白以外に証拠と呼べるものが存在しないと考えられること,そして共犯者の供述の信用性には重大な疑義が存在すること,仮に起訴されても,全ての証拠を不同意とする予定であること等を伝え,検察官をして,起訴したとしても無罪となる可能性があると思わせることが目標です。

   弁面調書と併せて,弁護人の詳細な意見書も適宜作成し,検察官にこちらの言い分を分かってもらうように努めることになります。

第3 まとめ

   以上述べてきたとおり,本件では,適切な弁護活動を行うことで,起訴を断念させられる可能性が十分に見込めます。他方で,弁護人を選任せずに何もしないでいると,精神的に追い込まれ,自白調書を巻かれてしまう危険も否定できず,取り返しの付かない事態にもなりかねません。

   早急に弁護人を選任することをお勧めいたします。

以上



【参照判例】

詐欺、同未遂被告事件
最高裁昭和五一年(あ)第七六五号
同年一〇月二八日第一小法廷判決
上告申立人 被告人
被告人 応野丙雨
弁護人 森山喜六 外一名


       主   文

本件上告を棄却する。


       理   由

 弁護人森山喜六の上告趣意第一点は、憲法三八条三項違反を主張するが、当裁判所大法廷判決(昭和二三年(れ)第一一二号同年七月一四日・刑集二巻八号八七六頁、昭和二三年(れ)第一六七号同年七月一九日・刑集二巻八号九五二頁、昭和二九年(あ)第一〇五六号同三三年五月二八日・刑集一二巻八号一七一八頁)の趣旨に徴すると、共犯者二名以上の自白によつて被告人を有罪と認定しても憲法三八条三項に違反しないことが明らかであるから、共犯者三名の自白によつて本件の被告人を有罪と認定したことは、違憲ではない。のみならず、原判決がその基礎とした第一審判決の証拠の標目によると、共犯者らの自白のみによつて被告人の犯罪事実を認定したものでないことも、明らかである。所論は、これを採用することができない。同弁護人のその余の上告趣意は、単なる法令違反、事実誤認の主張であつて、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。
 弁護人内堀正治の上告趣意第二点は、判例違反を主張するが、所論引用の判例は本件とは事案を異にし適切でなく、同第四点は、憲法三一条違反を主張するが、その実質は単なる法令違反、事実誤認の主張であり、その余の上告趣意は、事実誤認、単なる法令違反の主張であつて、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。
 よつて刑訴法四〇八条により、主文のとおり判決する。
 この判決は、弁護人森山喜六の上告趣意第一点に関する裁判官下田武三、同岸盛一、同岸上康夫、同団藤重光の各補足意見があるほか、裁判官全員一致の意見によるものである。
 裁判官下田武三の補足意見は,次のとおりである。
 わたくしは、当裁判所の昭和四九年(あ)第三二一号同五一年二月一九日第一小法廷判決(刑集三〇巻一号二五頁)に付した意見において、共犯者の自白も憲法三八条三項にいう「本人の自白」に含ましめ、その証明力を制限的に評価することを相当とすべき旨の見解を述べたのであるが、本件の場合には、共犯者が三人おり、その三人が別個、独立に行つた自白の内容が一致するというのであるから、その三人の自白は互いに補強し合つて強い証明力を有するに至つたものと認めて差し支えなく、したがつてこれを証拠として被告人を有罪としても、憲法三八条三項に違反することにはならないものと考えるのである。そして、その理由の詳細については、団藤裁判官の補足意見に同調する。 
 裁判官岸盛一、同岸上康夫の補足意見は、次のとおりである。
 共犯者の自白が憲法三八条三項にいう「本人の自白」に含まれないと解すべきことについては、当裁判所の昭和四九年(あ)第三二一号同五一年二月一九日第一小法廷判決(刑集三〇巻一号二五頁)の多数意見において述べたとおりであつて、その見解は今日においても改める必要を認めない。そして、この見解によるときは、被告人の自白がなく、共犯者一名の自白しかない場合であつても、被告人を有罪とすることが許されるのであるから、本件のように、被告人の自白がなく、共犯者二名以上の自白がある場合には、右の共犯者らの自白を証拠として被告人を有罪としても、憲法三八条三項に違反するものでないことは、いうまでもない。
 そもそも憲法三八条三項が「本人の自白」を唯一の証拠として有罪とすることを禁止し、補強証拠の存在を必要としているのは、自白の偏重により誤判を招くことを防止する趣旨なのであるから、本人とは独立した共犯者の自白があつて、それにより本人の自白の信用性が認められるならば、本人を有罪としても、憲法の趣旨にすこしも反するものではない。共犯者の自白が相互に補強証拠となりうるのは、この意味において、むしろ当然のことなのである。
 共犯者の自白のみによつて被告人を有罪とすることを認めず、補強証拠の存在を必要としている外国法制もあるが、それは、憲法三八条三項の趣旨とは異なり、共犯者による無実の他人の巻きこみを防止することに主眼があるのであるから、そのような法制のもとでは、たとえ二名以上の共犯者の自白があるときでも、右の危険を排除することのできるような独立の補強証拠がない限り、被告人を有罪とすることが許されないと解するのが、自然な帰結であろう。しかし、右のような法制のもとにおける法理を憲法三八条三項の解釈に持ち込むことは、その本来の趣旨にそわないばかりでなく、自白した共犯者らは相互に自白が補強されて有罪とされるのに、被告人は自白していないため処罰を免れるという不均衡をもたらすことともなり、妥当ではない。われわれが、共犯者の自白は「本人の自白」に含まれないとする従来の当裁判所の判例の立場をとりながら、自由心証主義の合理的な運用により誤りのない事実認定を期するという解釈方法を選ぶのも、このような点を考慮したからにほかならないのである。
 裁判官団藤重光の補足意見は、次のとおりである。
 わたくしは、当裁判所の昭和四九年(あ)第三二一号同五一年二月一九日第一小法廷判決(刑集三〇巻一号二五頁)におけるわたくしの反対意見の中で述べたとおり、共犯者の自白も憲法三八条三項にいわゆる「本人の自白」に含まれ補強証拠を要すると解する者である。問題は、共犯者の自白が相互に補強証拠となるかどうかである。
 おもうに、一人の被告人のばあいには、その者の自白がいくつあつても、それらが相互に補強証拠となりうるものでないことは、あまりにも当然である。これに反して、共犯者の自白は、いうまでもなく、各別の主体による別個・独立のものである。二人以上の者の自白が一致するときは、たといそれが共犯者のものであろうとも、誤判の危険はうすらぐことになるから、相互に補強証拠となりうるものといわなければならない。ことに、本人も共犯者もともに自白しているようなばあいには、共犯者の自白が本人の自白を補強するものと考えて、本人を有罪とすることができるものというべきである。ただ、本件のように、本人の自白がないばあいに、共犯者二人以上の自白だけで本人の有罪をみとめてよいかどうかについては、右の見地以外に、さらに他の観点からも考察を加えなければならない。けだし、共犯者の自白に補強証拠を必要とすることは、アメリカ合衆国の諸州の法制にみられるところであるが(たとえば、一九七〇年ニュー・ヨーク州刑訴法六〇・二二条一項参照)、そこでは、二人の共犯者の証言があつても、なお、補強証拠を要するものと解されているからである。しかし、こうした法制の背景には、イギリスにおける同様の実務慣行以来の歴史的な沿革があるのであつて、その主眼は、共犯者による誤つた他人の巻きこみを防止することに置かれている。だから、このばあいに補強証拠が必要とされるのは、一般のばあいのように罪体についてではなく、被告人と犯罪との結びつきの点についてなのである。このような法制は、それなりに合理性をもつものというべきであろうが、こうした沿革をもたないわが国の法制において、憲法三八条三項の解釈としてそのままの結論を導くことは困難だといわなければならない。わたくしが、共犯者の自白も「本人の自白」に含まれ補強証拠を必要とするものと解するのは、英米法制を参照しながら、可能なかぎりで、これに近い取扱いをわが憲法三八条三項の解釈論にも持ちこもうとする意図をもつものであるが、そこには一定の限界がある(団藤・「共犯者の自白」斉藤金作博士還暦祝賀・現代の共犯理論・昭和三九年・六九三頁以下、ことに七〇一ー七〇三頁参照)。わたくしは、二人以上の共犯者の自白は相互に補強し合うものであつて、否認している本人をこれによつて有罪とすることは、憲法三八条三項に反するものではないと解するのである。
 なるほど、所論のいうとおり、検挙された者が自分に有利な扱いをしてもらうために、捜査官の誘導や暗示に迎合して、他の者を渦中に巻きこむような、心にもない供述をする危険がないとはいえないであろう。だからこそ、わたくしは、共犯者の自白も「本人の自白」に含まれると解するのである。しかし、だからといつて、共犯者の自白が相互に補強証拠にならないとまでいうのは、行きすぎである。二人以上の共犯者の自白があるばあいにも、所論のいうような事態がないとはいえないが、それは事実認定にあたつての自由心証の問題として、また、極端なばあいには捜査官の違法な誘導等による自白という観点から証拠能力の問題として、解決されるべきことである。
 本件では、共犯者三名のほぼ一致した自白があつて、これによつて被告人の犯罪事実を認めるのに足りるのであり、しかも、共犯者らの自白だけによつて被告人の犯罪事実が認定されたのではないのであるから、いずれにしても論旨は理由がないというべきである。わたくしは、多数意見が従来の大法廷判決の趣旨を援用している点には賛成しがたいが、その点を除いては、多数意見に同調する。
(裁判長裁判官 岸上康夫 裁判官 下田武三 裁判官 岸盛一 裁判官 団藤重光)


【参照条文】

●刑法

(共同正犯)
第六十条  二人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする。

(教唆)
第六十一条  人を教唆して犯罪を実行させた者には、正犯の刑を科する。
2  教唆者を教唆した者についても、前項と同様とする。

(窃盗)
第二百三十五条  他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。


●刑事訴訟法

第百九十八条  検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、被疑者の出頭を求め、これを取り調べることができる。但し、被疑者は、逮捕又は勾留されている場合を除いては、出頭を拒み、又は出頭後、何時でも退去することができる。
○2  前項の取調に際しては、被疑者に対し、あらかじめ、自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げなければならない。
○3  被疑者の供述は、これを調書に録取することができる。
○4  前項の調書は、これを被疑者に閲覧させ、又は読み聞かせて、誤がないかどうかを問い、被疑者が増減変更の申立をしたときは、その供述を調書に記載しなければならない。
○5  被疑者が、調書に誤のないことを申し立てたときは、これに署名押印することを求めることができる。但し、これを拒絶した場合は、この限りでない。

第百九十九条  検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、裁判官のあらかじめ発する逮捕状により、これを逮捕することができる。ただし、三十万円(刑法 、暴力行為等処罰に関する法律及び経済関係罰則の整備に関する法律の罪以外の罪については、当分の間、二万円)以下の罰金、拘留又は科料に当たる罪については、被疑者が定まつた住居を有しない場合又は正当な理由がなく前条の規定による出頭の求めに応じない場合に限る。
○2  裁判官は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があると認めるときは、検察官又は司法警察員(警察官たる司法警察員については、国家公安委員会又は都道府県公安委員会が指定する警部以上の者に限る。以下本条において同じ。)の請求により、前項の逮捕状を発する。但し、明らかに逮捕の必要がないと認めるときは、この限りでない。
○3  検察官又は司法警察員は、第一項の逮捕状を請求する場合において、同一の犯罪事実についてその被疑者に対し前に逮捕状の請求又はその発付があつたときは、その旨を裁判所に通知しなければならない。

第二百四十六条  司法警察員は、犯罪の捜査をしたときは、この法律に特別の定のある場合を除いては、速やかに書類及び証拠物とともに事件を検察官に送致しなければならない。但し、検察官が指定した事件については、この限りでない。

第二百四十七条  公訴は、検察官がこれを行う。

第二百四十八条  犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。

第三百十九条  強制、拷問又は脅迫による自白、不当に長く抑留又は拘禁された後の自白その他任意にされたものでない疑のある自白は、これを証拠とすることができない。
○2  被告人は、公判廷における自白であると否とを問わず、その自白が自己に不利益な唯一の証拠である場合には、有罪とされない。
○3  前二項の自白には、起訴された犯罪について有罪であることを自認する場合を含む。


●刑事訴訟規則

(明らかに逮捕の必要がない場合)
第百四十三条の三 逮捕状の請求を受けた裁判官は、逮捕の理由があると認める場合においても、被疑者の年齢及び境遇並びに犯罪の軽重及び態様その他諸般の事情に照らし、被疑者が逃亡する虞がなく、かつ、罪証を隠滅する虞がない等明らかに逮捕の必要がないと認めるときは、逮捕状の請求を却下しなければならない。


●犯罪捜査規範

(任意性の確保)
第百六十八条  取調べを行うに当たつては、強制、拷問、脅迫その他供述の任意性について疑念をいだかれるような方法を用いてはならない。
2  取調べを行うに当たつては、自己が期待し、又は希望する供述を相手方に示唆する等の方法により、みだりに供述を誘導し、供述の代償として利益を供与すべきことを約束し、その他供述の真実性を失わせるおそれのある方法を用いてはならない。
3  取調べは、やむを得ない理由がある場合のほか、深夜に又は長時間にわたり行うことを避けなければならない。



法律相談事例集データベースのページに戻る

法律相談ページに戻る(電話03−3248−5791で簡単な無料法律相談を受付しております)

トップページに戻る