新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1763、2017/08/28 11:01 https://www.shinginza.com/sakujyo.htm

【民事  検索事業者に対する法的手続き 最高裁平成29年1月31日第三小法廷決定】

インターネット上の名誉棄損


質問:
都内に住む会社員・32歳です。インターネット上での謂れない誹謗中傷に悩んでいます。最近、検索エンジンで私の氏名をネット検索すると、私が強姦行為を行って逮捕された、刑務所に服役した、といった全くの事実無根の書き込みを掲載した、多数の海外サイトを含む電子掲示板のサイトが検索結果に表示されることに気付きました。また、検索サイトで私の氏名を入力すると、サジェスト機能により、「強姦魔」、「強姦」、「鬼畜」、「逮捕」、「刑務所」といった単語が検索候補として表示され、これらを選択して検索すると、誹謗中傷記事を含む電子掲示板のサイトが、氏名のみで検索した場合よりも上位に表示される状況となっています。個別のサイト管理者に対する自力での削除請求を試みたのですが、サイト管理者が削除に応じてくれなかったり、海外サイトのためにそもそも管理者と連絡が取れなかったりすることが殆どであり、検索事業者に対する検索結果やサジェスト表示の削除要請もしてはみたものの、何ら対応してもらえていません。私は近い将来、転職を考えており、このままでは転職活動や今後の社会生活に支障が生じるのではないかと、大変不安です。法的に何か良い対応方法はありますでしょうか。



回答:

1. 本件では、実際に書き込みを行った者に対する名誉毀損罪(刑法230条1項)での刑事告訴や、名誉権(憲法13条後段)の侵害による不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)等の対応も考えられるところですが、これらの対応では、インターネット上の権利侵害状態の回復はできません。あなたの権利侵害情報がインターネット上に表示されないようにするためには、個々の電子掲示板のサイト管理者や検索事業者に対する法的対応が必要となってきます。

2. 悪質な海外サイトの場合、個別のサイト管理者に対する投稿記事の削除を命じる裁判所の命令を取得しても、これが無視され、執行が奏功しないことも多いため、本件では個別のサイト管理者への削除請求と並行して、検索事業者に対する検索結果及びサジェスト表示の削除請求を検討する必要があります。本件は、名誉権(憲法13条後段)に基づく差止請求権としての削除請求を主張すべき事案と考えられ、選択すべき手続きとしては、削除を求める本訴提起に先立って速やかに暫定的な法律上の地位を認めてもらうための手続きである、仮処分命令の申立て(民事保全法23条2項)を行うべきでしょう。

3. 名誉権に基づく検索結果の削除の可否、サジェスト表示の削除の可否については、確立した最高裁判例が存在せず(「最高裁平成29年1月31日第三小法廷決定」の事案は、児童買春をしたとの被疑事実に基づき、過去に実際に逮捕され、罰金刑に処せられた者が、人格権としての更生を妨げられない権利に基づいて検索結果の削除を求めたものであって、行ってもいない犯罪行為を行ったかのような検索結果の表示の削除を、名誉権に基づいて請求すべき本件とは、異なります。)下級審レベルでは判断が分かれている状況となっていますが、いずれについても削除が認められた先例は存在しており、あなたの場合も、法的手続を踏むことによって検索結果の削除を実現できる可能性は十分に考えられるところでしょう。関連する裁判例の状況を踏まえた本件での削除の可否に関する見通しについて、解説で説明してありますので、ご参考になさって下さい。

4. 権利侵害状態の回復のためには、まずは、インターネット上の権利侵害状態について調査、把握した上、どこを相手方としてどのよう請求、手続きを執ることができるかについて検討し、実行することが必要です。仮処分命令の申立てを含め、削除を求める法的手続は相当に専門的であるため、実際上はインターネット関係の知識と経験が豊富な弁護士に依頼する必要があると思われます。まずは適任の専門家にご相談されることをお勧めいたします。

5. 関連事例集1754番1573番1443番1406番1376番1279番1270番1229番1219番1215番1170番1169番1106番1035番882番825番813番755番732番317番216番208番参照。

解説:

1.(はじめに)

  本件では、対応先の相手方に応じて、(1)誹謗中傷の書き込みを行った者に対する刑事告訴及び民事上の損害賠償請求、(2)誹謗中傷記事を掲載している電子掲示板を管理する個別サイトに対する削除請求、(3)検索事業者に対する検索結果及びサジェスト表示の削除請求、といった法的手段を執ることが考えられます。

  あなたが強姦行為を行って逮捕され、刑務所に服役した、との電子掲示板上の書き込みは、あなたの社会的評価を低下させるに十分なものであり、書き込みを行った者には刑法上の名誉毀損罪(刑法230条1項)が成立するとともに、あなたの名誉権(憲法13条後段)を侵害したことによる民事上の不法行為(民法709条)が成立しているものと考えられます。あなたとしては、名誉毀損罪での刑事告訴(刑事訴訟法230条)を行うことができ、民事上も書き込みを行ったに対して不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)を行うことができます。相手方が不明ということであれば、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(プロバイダ責任制限法)に基づく発信者情報の開示請求等により相手方を特定することも考えられます(本手続の詳細について本稿では立ち入りません。)。

  もっとも、海外サイトの場合、プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示の手続きが奏功しないことが多く、書き込みを行った者が多数に及ぶ場合、その一人一人を特定することは現実的に困難ですし、仮に加害者が刑事罰を受け、加害者に対する損害賠償請求が認められたとしても、インターネット上の権利侵害状態が改善するわけではありません。インターネット上の権利侵害情報を削除するためには、以下で述べるように、個別のサイト管理者や検索事業者に対する法的対応が必要となってきます。

2.(個別サイトに対する削除請求)

  上記のとおり、あなたは各電子掲示板上の誹謗中傷の投稿記事により、名誉権(憲法13条後段)を違法に侵害されているものということができます。そして、名誉は生命、身体とともに極めて重大な保護法益であり、人格権としての名誉権は、物権の場合と同様に排他性を有する権利というべきものであると考えられていることから、名誉権を侵害されている者は、名誉権に基づく妨害排除請求権ないし妨害排除請求権として、現に行われている侵害行為を排除し、または将来生ずべき侵害を予防するため、侵害行為の差止めを求めることが可能とされています(最高裁昭和61年6月11日大法廷判決)。インターネット上の電子掲示板における投稿記事について、かかる差止請求権を根拠に削除を請求することの可否については、東京地裁平成15年6月25日判決が「本件各発言の送信が継続し、本件各発言が不特定多数の者の閲覧し得る状態に置かれる限り、原告の精神的苦痛が継続し、増大するものと考えられること、本件各発言を削除しても、その内容等に照らし、本件発信者や管理者である被告に格別の不利益が生ずるとはいえないことなどの諸事情に照らすと、原告は、被告に対し、人格権としての名誉権等に基づき、本件各発言すべての削除を求めることができるものというべきである。」と述べて、これを認めています。

  あなたの場合、個別のサイト管理者に対する任意での削除要請が奏功していないということですので、裁判所を通した法的手続を検討すべきことになりますが、権利侵害記事の削除を求める権利を民事訴訟によって実現しようとしても、判決を取得して削除を実現するまでの間に当該記事によってあなたの社会的評価が著しく毀損されるなど、回復し難い損害を被るおそれが考えられることからすると、本訴提起に先立って速やかに暫定的な法律上の地位を認めてもらうための手続きである、仮処分命令の申立て(民事保全法23条2項)という手続きを選択し、裁判所による仮処分命令の発令により、各権利侵害記事の削除を実現していくことになるでしょう。個別サイトへの削除を求める仮処分申立ての具体的な手続きについては、当事務所事例集NO.1406にて詳述してありますので、ご参照頂ければと思います。

  ただし、海外サイトの場合、せっかく仮処分命令を取得したとしても、これを無視するサイトも多く、執行が困難なケースも多々見受けられます。また、相手方とすべきサイト管理者が多数に及ぶ場合、それぞれに対して個別に申し立てを行うことが物理的、経済的に困難である場合も考えられるでしょう。そのような場合、後述するように、検索事業者に対して、権利侵害記事を掲載している各電子掲示板のサイトを検索結果から削除するよう請求する方法を検討すべきことになります。

3.(検索結果の削除請求)

 インターネット上のサイトへのアクセスは、その大部分が検索エンジンを経由したものですので、権利侵害情報を掲載したサイトが検索結果に表示されないようにしてもらうことができれば、実際上は個別のサイトを削除したのと同様の効果を得られることになります。あなたの場合、検索事業者に対する任意での削除要請に対応してもらえていないということですので、裁判所に対して、検索事業者を相手方として、検索結果の削除を求める仮処分命令の申立てを行うことが考えられます(民事保全法23条2項)。

  検索事業者に対する検索結果の削除請求に関しては、最高裁が「事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合」に限って、URL等情報を検索結果から削除することを求めることができる、とする厳格な判断基準を示したことが記憶に新しいところです(最高裁平成29年1月31日第三小法廷決定)。しかし、最高裁の事案は、児童買春をしたとの被疑事実に基づき、過去に実際に逮捕され、罰金刑に処せられた者が、人格権としての更生を妨げられない権利に基づいて検索結果の削除を求めたものであって、行ってもいない犯罪行為を行ったかのような検索結果の表示の削除を、名誉権に基づいて請求すべき本件とは、事案も法的な判断枠組も異なります。

  名誉権に基づく検索結果の削除請求(表示の差止請求)については、大阪高裁平成27年2月18日判決(氏名で検索すると、かつて女性への盗撮によって逮捕されたとの事実を含む検索結果が表示されることから、かかる事実の表示およびかかる事実が表示されているウェブサイトへのリンクの表示を削除するよう求められた事案について判断したもの)における判断枠組が参考になります。本判決は、原審(京都地裁平成26年8月7日判決)が「被告が本件検索結果の表示によって摘示する事実は、検索ワードである原告の氏名が含まれている複数のウェブサイトの存在及び所在(URL)並びに当該サイトの記載内容の一部という事実であって、被告がスニペット部分の表示に含まれている本件逮捕事実自体を摘示しているとはいえない」として、検索事業者による名誉毀損を否定したのに対し、「本件検索結果に係るスニペット部分に記載された本件逮捕事実は、一般公衆に、そこに記載された本件逮捕事実があるとの印象を与えるものであるから、被控訴人がその事実を摘示したものではないとしても、被控訴人がインターネット上に本件検索結果を表示することにより広く一般公衆の閲覧に供したものであり、かつ、控訴人の社会的評価を低下させる事実であるから、本件検索結果に係るスニペット部分にある本件逮捕事実の表示は、原則として、控訴人の名誉を毀損するものであって違法であると評価される。」、「その提供すべき検索サービスの内容を決めるのは被控訴人であり、被控訴人は、スニペットの表示方法如何によっては、人の社会的評価を低下させる事実が表示される可能性があることをも予見した上で現行のシステムを採用したものと推認されることからすると、本件検索結果は、被控訴人の意思に基づいて表示されたものというべきである」として、スニペットの表示については検索事業者によるものであるとした上で、名誉毀損を認めました。もっとも、検索結果上の事実の摘示については、公共の利害に関する事実に係る行為であること、当該検索結果の提供には、一般公衆が、当該逮捕事実のような公共の利害に関する事実の情報にアクセスしやすくするという公益目的が認められること、摘示されている事実が真実であることから、違法性が阻却され、名誉権侵害による不法行為は成立しないとして、検索結果の削除は認めませんでした。

  本判決は、検索結果のうちスニペット部分について、その表示により、検索事業者が名誉権を侵害していると判断される場合があることを示しており、この点については、上記最高裁が「検索結果の提供は検索事業者自身による表現行為という側面を有する」としていることと整合的といえます。もっとも、検索結果のうちURL情報や当該サイトへのリンクの表示について、名誉毀損の成立を否定している点については、検索結果として表示されるURL情報やリンクの表示についても、これらを一度クリックしさえすれば権利侵害情報に行きつけること、検索者が検索結果として表示されたそれらの情報をクリックして当該サイトを閲覧するであろうことが当然に予定されていることからすれば、検索事業者による権利侵害情報の表示として、スニペット部分と同様に名誉毀損を認めるべきではないか、との疑問も残るところです。上記最高裁も、事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には、検索事業者に対し、「当該URL等情報を検索結果から削除することを求めることができる」と解するのが相当であるとして、スニペット部分に止まらないURL等情報の削除が認められる余地を残しており、削除を求めることが出来る検索結果情報の範囲については、今後の最高裁の判断が待たれるところでしょう。

  あなたの場合、電子掲示板上の書き込みは公共の利害に関する事実とは言い難く、公益目的も否定されやすい上、あなたが強姦行為を行って逮捕され、服役したという書き込みの内容は真実に反するものであることから、少なくとも、名誉権侵害の違法性が阻却されることを理由に削除が認められないといった事態は考えにくいといえます。検索事業者に対して検索結果の削除を求めた仮処分命令申立ての場面においては、検索結果の一部の削除を命じた仮処分命令が検索事業者に受け入れられ、削除が実現するに至ったケースも存在することから(東京地裁平成26年10月9日決定。なお、決定書は非公表。)、ご相談のケースでも、法的手続を踏むことによって検索結果の削除を実現できる可能性は十分に考えられるところでしょう。

  なお、検索事業者に対する検索結果の削除を求める仮処分申立ての手続きの流れについては、当事務所事例集1754番にて解説してありますので、ご参照下さい。

4.(サジェスト表示の削除請求)
 検索事業者に対するサジェスト表示の削除(差止め)請求の可否については、本稿執筆時点で確立した最高裁判例が存在せず、下級審レベルでは判断が分かれている状況となっています。例えば、検索サイトのサジェスト機能により、氏名を入力するとあたかも犯罪行為を行ったかのように連想させるような単語が表示されることから、これらの表示の差止め等が求められた事案において、仮処分命令の申立てに対して、これを認容し、サジェストの表示をしてはならないとする仮処分命令が発令された後(東京地裁平成24年3月19日決定)、続く本案において、第一審も原告のサジェスト表示の削除請求を認容したものの(東京地裁平成25年4月15日判決)、控訴審ではこれを認めない判決が出される(東京高裁平成26年1月15日判決)といった状況となっています。

 これらはいずれも、サジェストによって問題の記事が閲覧しやすい状況が作り出されていること、またはサジェスト表示それ自体が権利侵害であると認めているものの、差止めの可否の判断に際しての利益衡量の考え方の点で差異が生じているようですが、いずれも本稿執筆時点で判例集未搭載であるため、内容に立ち入った検討は困難となっています。

 私見ではありますが、一私人の氏名と共に「強姦魔」、「強姦」、「鬼畜」、「逮捕」、「刑務所」といった単語がサジェスト表示された場合、当該人物は強姦行為を行ったことで逮捕、服役したことがあり、強姦魔や鬼畜との評価を受けている、と捉えるのが、一般人の普通の注意と読み方を基準とした場合の捉え方(最高裁昭和31年7月20日判決参照)であると思われ、このようなサジェスト表示を目にした者に与える影響の重大性に照らせば、サジェスト表示それ自体による名誉権の侵害を認めることが実態に合っていると考えられるでしょう。また、サジェストは、検索しようとする単語と関連性の深い単語を候補表示することで検索の利便性を高めることを目的とした一機能に過ぎず、サジェスト表示の削除が認められたとしても検索それ自体が不可能となるわけではないことからすれば、サジェスト表示の削除は検索結果の削除の可否に関する判断基準よりも緩やかな基準で判断されるべきであるように思われます。

 サジェスト表示に対する削除請求の可否やその判断基準については、最高裁の判断が待たれるところですが、現に削除が認められた先例が複数見られることからも、本件でもサジェスト表示の削除が認められる可能性は十分見込まれるように思われます。

 手続選択については、迅速な権利救済の見地から、サジェスト表示の削除を求める仮処分命令の申立てを行うべきことになるでしょう(民事保全法23条2項)。

5.(最後に)

 検索事業者に対する削除請求の可否やその対象範囲については、未だ判例が確立していない分野であり、見通しが不透明な部分が多いといえます。しかしながら、権利侵害状態の回復のためには、インターネット上の権利侵害状態について調査、把握した上、どこを相手方としてどのよう請求、手続きを執ることができるかについて検討し、実行することが必要です。場合によっては、主要な権利侵害サイトの管理者に対する請求と並行して、検索事業者に対する削除請求の手続きを進めていくことも考えられるでしょう。

 本稿で紹介した手続きは、いずれも相当に専門的であるため、実際上はインターネット関係の知識と経験が豊富な弁護士に依頼しなければ解決困難であると思われます。まずは適任の専門家にご相談されることをお勧めいたします。


≪参照条文≫
日本国憲法
第十三条  すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

民法
(不法行為による損害賠償)
第七百九条  故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

民事保全法
(仮処分命令の必要性等)
第二十三条  
2  仮の地位を定める仮処分命令は、争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするときに発することができる。

刑法
(名誉毀損)
第二百三十条  公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。

刑事訴訟法
第二百三十条  犯罪により害を被つた者は、告訴をすることができる。



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