新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1751、2017/02/03 17:00 https://www.shinginza.com/qa-fudousan.htm

【民事、借地借家法32条、東京地方裁判所平成26年6月30日判決】

賃料増額請求手続


質問:親から賃貸物件を相続しました。借主は両親の知り合いの息子で、両親の代から貸していたため、改めて契約内容を確認すると相場より低い賃料で貸し出していることに気がつきました。借主に賃料を相場と同等の額まで増額したい旨を申し出たところ、契約書において「15年間賃料を増額しないという特約がある」ということを理由に増額を拒絶されました。そもそもこの特約は有効なのでしょうか。この特約の定める期間は来年いっぱいです。期間が経過した後にでも増額するにはどうしたらいいでしょうか。現在の借主とは何の関係もないので、増額に応じてもらえないのなら売却するか、今の建物を壊して新しい建物を建てて賃料アップを目指したいので早々に明け渡して欲しいです。



回答:
1 家賃を一定期間増額しないという約束は有効です(借地借家法32条1項但書)。約束の期間は、家賃の増額はできません。

2 この約束の期間経過後に、家賃金額が不相当に低い場合は、家賃の増額を請求することが可能です。通常は、賃貸人と賃借人とで協議して相当な家賃を定めることになりますが、賃借人が家賃の値上げに応じない場合は、賃貸人は相当な家賃への増額を請求できます。これを家賃増額請求権と言い、借地借家法第32条に賃貸人が家賃を増額請求できる要件が規定されています。

3 但し、賃借人が増額請求を認めない場合賃借人は自分が相当と考える金額を支払えば遅滞の責任を逃れると法定されています(借地借家法32条2項)。増額請求は賃貸人が相当な家賃を定めて賃借人に請求する権利ですから、賃貸人が定めた賃料が、相当かについては賃借人の考えも考慮する必要があるとして、この様な定めとなっています。そこで、賃貸人としては、自分の行った増額請求が相当なものであるか否かについて訴訟で確認する必要が生じます。
 なお、賃料増額請求に関しては、原則として訴訟の前に調停を申し立てることが定められていますからまずは調停を起こす必要があります。

4 賃料増額請求については、増額した家賃金額の相当性が問題となり、家賃についての不動産鑑定士の鑑定が必要になります。鑑定費用等は私的な鑑定で最低でも20万円以上、裁判所の鑑定人による鑑定の場合はそれ以上50万円近い金額が必要になる可能性があります。
これに対して家賃の増額が認められる金額は、相場よりは若干とは言えやすいものになる場合が多いと言えますから、裁判等の費用等を考慮して、どこまで手続きをとるか検討する必要があります。

5 将来的にこの建物を売却して売却益を得たいと考えておられるような場合には、当然利回りのよい物件のほうが高く売れる可能性がありますので、やはり賃料の増額は必須となります。あるいは、近いうちに更地にして新しい建物を建て、より高い賃料収入を得たいという意向があるのであれば、相手の立ち退きの問題が絡んできますので、立ち退き交渉をスムーズにすすめるという点で今回の増額交渉を利用していくという方法もあります。

6 不動産という資産を効率よく活用していくことは、賃貸業を続けるうえで最も重要なことです。今回のような増額交渉はもちろん、本物件を売却して他の物件に投資する場合、あるいは、本物件を更地にして新たに建物を建てて賃貸に出す場合など、ケースバイケースに応じた長期間に渡る交渉の代理ないしサポートをお考えの場合、賃貸契約書や周辺の地図、土地の図面、登記事項証明書などをご持参のうえ、お近くの法律事務所でご相談を受けられることをお勧めします。


解説:

1 賃料の増減請求権

 借家の賃料の増減は、借地借家法第32条1項の規定により、一定の条件のもとで、一方当事者から他方当事者に対して請求できるとされています。

借地借家法 第32条(借賃増減請求権)
第1項 建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。

 本条は、大家からの増額請求と借主からの減額請求について定めています。本邦の民法典は私的自治の原則を採用し、契約法においては、契約事由の原則が認められておりますが、土地や建物など、人の生活や仕事に重要な財産である不動産の賃貸借契約においては、地代や家賃が適正額であることが私権の社会性から要請されているのです。さらに建物や土地の賃貸借契約においては長期間の契約となることから初めに定めた賃料が期間の経過により世間相場からずれてきてしまうことが予測され、そのような事態を防ぐために、家賃の増額や減額を請求ができることにしています。

 私権の社会性については、民法1条各項が参考になりますので、条文を引用致します。これは私的自治や契約自由の原則に、自ずから内在する当然の制約であると考えることができます。権利といっても、社会生活上行使されるものであるから、無制約・無制限に行使することはできないということです。

民法第1条(基本原則)
第1項 私権は、公共の福祉に適合しなければならない。
第2項 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
第3項 権利の濫用は、これを許さない。


 賃料増減請求権は、形成権とされており、増減請求の通知到達によって即時に増額の効果を生じますが、増額された賃料を了解できない賃借人は自分が相当と考える金額を支払えば遅滞の責任を逃れると法定されています(借地借家法32条2項)。つまり、賃料増減請求権は、形成権ですが、相手方は相当と認める金額を弁済することもできるので、従来の家賃額を支払い続けても債務不履行(賃料滞納)の責任を問われない状態であるという、特殊な権利であるのです。賃借人が増額請求の金額を認めない場合は、賃料増額確認請求の裁判手続によることになりますが、民事調停法第24条の2(地代借賃増減請求事件の調停の前置)では、訴訟の前に調停を起こす必要があることが定められているため、まずは賃料増額の調停をすることになります。

借地借家法第32条第2項 建物の借賃の増額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、増額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃を支払うことをもって足りる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払った額に不足があるときは、その不足額に年一割の割合による支払期後の利息を付してこれを支払わなければならない。


 そして、賃料の増額については、同条1項但書において、一定の期間建物の賃料を増額しない旨の特約については有効と定めています。一方で、賃料を減額しない旨の特約については無効と考えられていますので、例えば契約書で「向こう5年間賃料を変更しない」という特約を定めていたような場合には、「増額変更しない」という意味では有効であり、「減額変更しない」という意味においては無効となります。

 今回のご相談のケースで相手方の主張する「増額しない旨の特約」は有効となりますので、所定の期間が経過するまでは、こちらから増額を請求することはできないということになります。ただし、定期借家契約(借地借家法第38条第1項に定める、期間の定めのある建物賃貸借において公正証書等の書面で契約した場合)においては、同条第7項で、増額しない旨の特約はもちろん、減額しない旨の特約も有効とされています。

【借地借家法】
(定期建物賃貸借)
第三十八条  期間の定めがある建物の賃貸借をする場合においては、公正証書による等書面によって契約をするときに限り、第三十条の規定にかかわらず、契約の更新がないこととする旨を定めることができる。この場合には、第二十九条第一項の規定を適用しない。
2 から 6(略) 
7  第三十二条の規定は、第一項の規定による建物の賃貸借において、借賃の改定に係る特約がある場合には、適用しない


2 増額請求するための要件

 次に増額請求する為の要件をみてみましょう。借地借家法第32条1項は増額の要件として、

・家賃が不相当に低額となったこと
・増額しない旨の特約がないこと

 の2点をあげています。そして、ここでいう「家賃が不相当に低額になった」と言えるか否かについては、@土地若しくは建物に対する租税その他の負担が増加したこと、A土地若しくは建物の価格が上昇その他の経済事情の変動、B近傍同種の建物の賃料との比較、以上3点から判断されることになります。これらの点については、不動産鑑定士による家賃の鑑定による相当な家賃を基準として、その算定の過程を見ながら判断されることになりますが、増額請求の相当性と更に増額請求が認められるとして具体的な相当家賃と言えるための賃料額という2段階による判断が行われることになります。

裁判例をご紹介致します。

 この裁判例では@について「本件各不動産に対する固定資産税及び都市計画税は,平成18年から平成24年の間に13万7000円から16万2300円に増加していることが認められる。」して、増額請求の相当性を肯定しています。また、Bについては、契約の特殊性があったとしても近傍同種の建物の賃料との比較からも家賃の相当性を判断すべきことを示しています。Aについては明記してはいませんが、経済事情の変動等は明らかという前提で、具体的には相当な賃料の算定の際に判断していると考えられます。

賃料増額確認請求事件、東京地方裁判所平成26年6月30日判決
『継続賃料の増額請求は,土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増加により,土地若しくは建物の価格の上昇その他の経済事情の変動により,又は近傍同種の建物の借賃に比較して賃料が不相当となったといえる場合に認められる。
 この点,証拠(甲10,11,鑑定人Eによる鑑定結果〔以下「本件鑑定結果」という。〕)及び弁論の全趣旨によると,本件建物の賃料は,本件各不動産の所在地及び本件建物の築年数と類似する建物の床面積当たりの賃料との比較において低廉であることが認められる。また,前掲証拠によると,本件各不動産に対する固定資産税及び都市計画税は,平成18年から平成24年の間に13万7000円から16万2300円に増加していることが認められる。
 本件賃貸借契約においては,本件修繕特約により,通常の建物賃貸借契約では賃貸人が負担すべき建物の修繕費等を賃借人である被告が負担するとされ,被告が本件建物にした増改築部分について本件賃貸借契約終了時に有益費償還請求権等一切の権利を放棄するとの合意(以下,修繕特約と併せて「本件各特約」という。)もされている(前提となる事実(1))ことから,本件各特約の存在を本件建物の適正賃料額の算出において考慮することは必要であるが,本件各特約の存在により,近傍建物との賃料の比較が増額請求の根拠となり得ないとまでは解されない。
 以上によれば,本件増額請求には,借地借家法32条1項に基づく賃料の増額請求を相当とする事由があるというべきである。
3 平成24年6月1日時点の適正継続賃料額
(1)平成24年6月1日時点における適正継続賃料を算出したものとして,本件鑑定結果のほか,原告が提出した不動産鑑定士F作成の鑑定評価書(甲11)及び被告の提出した不動産鑑定士G作成の意見書(乙4)が存在する。このうち,後者の意見書は,本件建物に対しD及び被告が行った増改築等の内容について客観的な裏付けの明示なく事実として取扱い,本件賃貸借契約を借地契約に近い契約であるとの考え方によっている点において相当ではなく,採用できない。
 そして,本件鑑定結果が裁判所の採用した鑑定人により行われたものであることからすれば,同鑑定結果に不動産鑑定士としての専門的判断における裁量を超えて不相当な部分が認められなければ,本件鑑定結果を基礎として,本件建物の適正賃料額を検討すべきである。
(2)不動産鑑定評価基準においては,差額配分法,利回り法,スライド法及び賃貸事例比較法の各手法による試算賃料を関連付けて継続賃料を算出するものとされている。本件鑑定結果は,本件賃貸借契約では本件各特約が締結されていることから,賃貸事例比較法に用いる規範性のある賃貸事例を発見することが困難であるとして,賃貸事例比較法を用いていないが,これは上記事情のもとでは相当であると解される。
 そして,本件鑑定結果は,賃貸人の必要諸経費において修繕費及び維持管理費を零とすることで本件各特約が合意されていることを考慮しながら,差額配分法による試算賃料を1か月21万5000円,利回り法による試算賃料を1か月15万2000円,スライド法による試算賃料を15万7000円と算出し,差額配分法による試算賃料は正規実質賃料と配分率の査定に十分注意したものであり有効性が高いとし,上記各試算賃料を順に3:1:1の割合により加重平均して,平成24年6月1日時点の適正賃料を1か月19万円と算出している。これらの方法は,従前から賃貸借関係にある当事者間における継続賃料を算定する手法として相当と解される。
 なお,本件賃貸借契約においては,敷金や保証金等の一時金は交付されておらず(甲5,本件鑑定結果),上記賃料額が支払賃料となる。
(3)被告は,前件鑑定が,賃借人負担による増築・改築が過去度々行われており,その結果,本件建物の現況数量が登記数量を大きく上回っていること,本件各特約が締結されていること,本件賃貸借契約の用途目的が居住用であるため,賃料の急上昇における支払原資を考慮してスライド法による試算賃料がより重視されるべきであるとして,スライド法による試算賃料月額14万円を重視し,差額配分法による試算賃料月額21万3000円を加味し,利回り法による試算賃料月額14万円を参考として,月額支払賃料を15万8000円と算定したのに対し,本件鑑定結果は,〔1〕規範性のある継続賃料事例を比較していない点,〔2〕本件賃貸借契約の特殊性を一切鑑みていない点において相当性を欠くと主張する。
 しかしながら,上記〔1〕については,本件各特約が締結されていることに照らし,鑑定手法として賃貸事例比較法を採用しないことは相当であると解され,また,その判断は前件鑑定においても同様である(甲5)。
 次に,上記〔2〕については,本件鑑定は,本件修繕特約の存在から賃貸人の必要経費について修繕費及び維持管理費を零としているのであり,本件賃貸借契約の特殊性を一切鑑みていないとの被告の主張は当たらない。また,被告は,昭和59年4月に行った大改築を含め,平成25年までに本件建物の修理や給湯器の取り換え,ガスコンロの修理等に多額の費用を支出したと主張するが,そのいずれについても支出の裏付けとなる資料は提出されておらず,被告の主張によったとしても,被告が平成18年6月以降に本件建物に対し,多額の資本を投下したとの事実は認められない。これらの事実に照らすと,本件鑑定結果が本件各特約を含む本件賃貸借契約の特殊性を考慮しない不相当なものであるとは解されず,被告の主張は採用できない。
(4)以上によれば,本件建物の平成24年6月1日時点の継続賃料額は,月額19万円と認めるのが相当である。』


 この事件では、月額家賃15万8千円を、家主側が月額24万8千円に増額する旨の増額通知を行い、賃借人が了承しなかったことから調停が申し立てられ、これも不調となったので確認請求訴訟が提起され、鑑定が行われ、最終的に月額19万円の判決が示されました。

 判例は判断の具体例として、不動産鑑定士など鑑定人による鑑定結果をもとにして、としていますので、Bの賃料の比較については、所在地、築年数が類似する建物の床面積辺りの賃料で判断し、@の租税の増加においては、過去6年間で約1.18倍に膨れ上がったことをもって、租税の増加によって賃料が不相当となったと判断していることがわかります。判例は具体的な基準を明示しているわけではありませんが、この事例では2割の増額を認めていることになりますので、従来家賃と相場との乖離が2割以上に至っている場合には裁判でも増額請求が認められる可能性が高いと考えることができるでしょう。

 さらに、本判例では、「本件賃貸借契約においては,本件修繕特約により,通常の建物賃貸借契約では賃貸人が負担すべき建物の修繕費等を賃借人である被告が負担するとされ,被告が本件建物にした増改築部分について本件賃貸借契約終了時に有益費償還請求権等一切の権利を放棄するとの合意(以下,修繕特約と併せて「本件各特約」という。)もされている(前提となる事実(1))ことから,本件各特約の存在を本件建物の適正賃料額の算出において考慮することは必要であるが,本件各特約の存在により,近傍建物との賃料の比較が増額請求の根拠となり得ないとまでは解されない。」として、仮に賃借人に特別な負担を課す特約があったとしても、不相当となった賃料についての増額請求は相当であると判断しています。


3 増額協議、調停、裁判

 賃料の増額請求は形成権なので、相手方にその意思表示が到達すると将来に向かって相当額に賃料が増額される法的効果を生じます。後日、増額請求したことが証明できるように、念のため内容証明郵便で請求されておかれるとよいでしょう。しかし、意思表示到達と同時に増額の効果が生じるとはいえ、賃借人が了承しない場合は調停、あるいは裁判が必要となります。賃借人は借地借家法32条2項で裁判が確定するまで自分が相当だと考える家賃を支払えば遅滞の責任を負わない規定がありますので、賃料増額請求権を行使しただけでは、ほとんどのケースで増額した賃料を受け取ることは難しいと言わざるを得ません。

 ご相談のケースの場合には、周辺相場と比べてかなり低い賃料であることから増額する金額も大きくなるものと推測できます。大家からの請求に賃借人がすんなりと応じる可能性は低いと予想されますので、次の調停に向けて準備をしておく必要があります。なお、賃借人が増額の賃料を支払わない場合でも、すぐに訴訟を起こすことはできません。民事調停法24条の2の規定により、再度裁判所での話し合いである調停を経たうえで、それでも合意形成に至らない場合に訴訟を提起することができます。これを調停前置主義といいます。但し、増額請求後に交渉等が十分行われたというような事情があり、調停が成立しない見込みが高い場合は、調停を経ずに訴訟を提起しても同条2項により裁判所の判断で訴訟が始まる場合もあります。賃貸人、賃借人双方に弁護士が代理人となって家賃について協議を経ている場合は、調停を省略して訴訟を提起することも可能です(但し、裁判所が調停成立の可能性があると判断すれば調停に付されることになります)。


民事調停法第24条の2(地代借賃増減請求事件の調停の前置)
第1項 借地借家法 (平成三年法律第九十号)第十一条 の地代若しくは土地の借賃の額の増減の請求又は同法第三十二条 の建物の借賃の額の増減の請求に関する事件について訴えを提起しようとする者は、まず調停の申立てをしなければならない。
第2項 前項の事件について調停の申立てをすることなく訴えを提起した場合には、受訴裁判所は、その事件を調停に付さなければならない。ただし、受訴裁判所が事件を調停に付することを適当でないと認めるときは、この限りでない。


 調停では、当事者、裁判官のほか、第三者である調停委員も交えて話し合いが行われます。この場で双方から賃料に関する資料が提出され、それらの資料を基にして新たな賃料が提案されます。この提案された賃料に双方が納得すれば、合意が成立し、以後の賃料が決まります。もし、この提案された賃料で調停が成立する見込みがないような場合には、裁判所が「調停に代わる決定」をして賃料を決める場合もあります。決定された賃料に当事者双方に異議がなければ、そのまま賃料が決まりますし、異議がある場合には、異議申し立てをすることもできます。この異議申し立てにより訴訟提起ができるようになります。訴訟になれば、不動産鑑定士による不動産鑑定を行い、その結果に基づいて和解あるいは判決が出されますが、裁判所に公平に判断してもらうためにも、できるだけ賃料に関する資料を提出されておかれるとよいでしょう。不動産鑑定士の鑑定費用は訴訟費用となりますので、本案判決時に裁判所が原告と被告がどのような割合で負担すべきか判断されることになりますが、鑑定費が高額(30万円以上)となる場合もありますので、出来る限り正式鑑定前に和解成立させることが原告と被告双方にとってメリットとなることが多いでしょう。


3 裁判になった場合の家賃について

 増額請求に対して相手が話し合いに応じず、裁判になった場合、裁判所が決める賃料額は不動産鑑定士など鑑定人が作成する鑑定書に基づき相当とされる金額が判示されることになりますが、賃借人は裁判が確定するまでは自分が相当と考える賃料を支払うことで足りるとされています(第32条2項)。この賃借人の提供する賃料について、賃貸人である貴方が受け取らないような場合には、賃借人は法務局に弁済供託をすることができます。賃借人は賃料を供託することにより家賃を支払ったのと同様の効果が得られますので、支払遅滞による遅延損害金や解除権の発生を止めることができます。しかし、同条2項但し書きにおいて、裁判が確定して、賃借人が相当と考える額が裁判で決まった額に不足している場合には、その不足額について、年1割の利息を支払期限以降について支払わなければならないとされていますので、増額請求をし、裁判で増額請求が認められれば、増額請求した時点から増額後の賃料を後から受け取れるようになるのです。このためにも先の増額請求は内容証明郵便で行っておく必要があるといえるでしょう。

 賃借人が賃料増額請求を受けた場合に供託すべき金額は従前の賃料額に賃借人自身が相当と考える家賃額とされていますので、極端に言えば従来賃料額を供託することも可能です。この供託された家賃については、家賃の一部として受領する旨を明らかにして受領すれば(供託金の還付請求)、裁判確定後でなくても賃料を受け取ることができ、かつ、引き続き増額請求をすることができますが、万が一、家賃の一部として受領する旨を明確にせずに供託金を受領してしまうと、賃借人の考える増額後の賃料を貴方が認めたことになってしまう可能性がありますので注意が必要です。

 【借地借家法】
(借賃増減請求権)
第三十二条 1(略)2  建物の借賃の増額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、増額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃を支払うことをもって足りる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払った額に不足があるときは、その不足額に年一割の割合による支払期後の利息を付してこれを支払わなければならない。
3(略)


4 最後に

 以上のとおり、家賃の増額については、周辺の賃料相場との差異が大きければ、調停・裁判になっても認められる可能性は高いといえます。しかし、仮に増額請求が認められたとしても、増額後の賃料を今の賃借人が支払っていけるのか否かが大家としては一番の問題ですので、賃借人が増額賃料を支払い続けることが厳しい経済状況であることが交渉や裁判などから判明した場合には、増額請求ではなく、そもそも賃貸借契約を解除して出て行ってもらい、新たに賃料を支払っていける賃借人を募集する、という方向に方針転換されるということもあるでしょう。

 いずれにしても法律事務所では、増額請求に関する交渉、調停、裁判はもちろんですが、持続的に適正な家賃収入を確保する資産運用のお手伝いをすることもできますので、一度お近くの弁護士事務所に御相談されることをお勧めします。

法律相談事例集データベースのページに戻る

法律相談ページに戻る(電話03−3248−5791で簡単な無料法律相談を受付しております)

トップページに戻る