新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1732、2017/01/18 14:12 https://www.shinginza.com/qa-hanzai.htm

【刑事、一部の執行猶予制度、行橋簡易裁判所平成27年7月7日判決】

クレプトマニア(窃盗症)と再度の執行猶予


質問:

私の妻が,執行猶予期間中に再度窃盗事件を起こしてしまいました。スーパーで合計5000円程度の食料品を万引きして、現行犯で逮捕されたということです。 また,前の窃盗事件は,2年前に起こしたもので同様の万引き事件であり,懲役刑1年6月と執行猶予期間は3年でした。妻は,万引きを繰り返してしまうところが あり,いわゆる窃盗症(クレプトマニア)かもしれません。担当の検察官は,執行猶予中の犯行であり,公判請求(正式起訴)せざるを得ないということでした。妻 は刑務所に入ってしまうのでしょうか。家族として,出来る限りのことはしたいと思っています。


回答:

1 執行猶予中に再度万引きを繰り返したということですから、担当検察官の説明の通り公判請求は免れないと考えられます。公判請求された場合、刑務所に行か ないようにするためには今回の窃盗について,再度の執行猶予となる必要があります。しかし,再度の執行猶予は,「情状に特に酌量すべき」ことが必要とされてお り,実務上は極めて例外的な場合にしか認められません。

2 あなたの妻は「窃盗症」(クレプトマニア)の可能性があるとのことですから、それに対する通院治療等が再度の執行猶予の要件である「情状に特に酌量すべ き」ことに該当する旨主張して再度の執行猶予判決を得るべく弁護活動をすることが考えられます。クレプトマニアは,物を盗みたいという欲求・衝動を制御できな い,コントロールできない疾病のことをいいます。クレプトマニアが原因ということであれば,その治療のために専門的病院への入通院を具体的に実行することによ り,再度の執行猶予における特に酌量すべき情状に該当する場合もあります。

  ただ,その前提として,専門的病院における診断及び通院が必須となりますので,起訴後に裁判所に保釈を認めてもらう必要があります。保釈請求の際にも裁 判官に対して,具体的な通院計画に加え,被害店舗との示談交渉,家族などの身元引受人をそろえる,常習性は今後の治療によって改善できるなど,保釈の必要性・ 相当性に関する事情を詳細に主張し,何とか裁量保釈を認めてもらう必要があります。

3 保釈を認めてもらった後は,上記専門的病院での診断結果を踏まえ,その診断内容及び保釈中の治療経過を裁判所に詳細に主張することになります。治療に対 する真摯な取り組みなどの事情を十分に理解してもらえれば,社会内による更生が可能であるとして,再度の執行猶予が付く可能性も出てくるでしょう。

  ただ,上記のとおり,再度の執行猶予は極めて例外的な場合しか認められませんので,専門的知見を有する弁護士への相談を強くお勧めします。

4 その他,クレプトマニア(窃盗症)に関する事例集としては、1541 番などを参照してください。再度の執行猶予に関して1619 番1446番1040 番参照。


解説:

1 再度の執行猶予について

(1)あなたの妻は,スーパーで食料品を万引きしたということですので,窃盗罪(刑法235条)により10年以下の懲役刑か50万円以下の罰金刑に処せられ ることとなります。

  そして,執行猶予中の犯罪であり,検察官からも公判請求すると説明されているということですので,今後,公訴を提起され、被告人として刑事裁判が係属す ることとなるでしょう。公判請求された場合,通常は罰金ではなく,懲役刑を求められることとなります。

  ここで問題なのが,あなたの妻が,現在執行猶予期間中というところです。執行猶予とは,懲役刑を下すものの,一定の執行猶予期間の間その刑を執行しない という制度です。執行猶予期間中,特に問題なく過ごせていれば,刑の効果は消滅することとなります(刑法25条,27条等)。執本人が反省していることなどを 考慮し実刑を下す必要がない場合であって,社会内で更生が可能でありかつ相当といえる場合に,恩恵として刑の執行を猶予するというところに趣旨があります。

 ただ,今回のように,執行猶予期間中に,さらに犯罪を犯し,かつ,禁固以上の刑に処せられたときには執行猶予は取り消さなければならないとされています (刑法26条1号)。罰金刑の場合には執行猶予の取消は任意的ですが,懲役刑の場合には必ず取り消さなければならないとされており,選択の余地はありません。

 そして,執行猶予が取り消された場合,前の刑の懲役刑と,今回公判請求された窃盗罪分の懲役刑とを合わせて実刑に処せられることになります。今回でいえ ば,前の窃盗罪の1年6月分と今回の懲役刑分の合算した期間を服役することになり,非常に長期の服役をせざるを得ないこととなります。

(2)では,今回は実刑以外の選択肢はないのでしょうか。法律は,今回のような場合を想定し,「再度の執行猶予」制度を設けています。

  具体的には,今回の窃盗罪について「1年以下の懲役」刑を下す場合で,かつ,「情状に特に酌量すべき」事情があるような場合には,再度の執行猶予を付け ることができます(刑法25条2項 保護観察付の執行猶予期間中の場合は、再度の施行猶予は認められません)。なお,再度の執行猶予を付ける場合,必ず保護観 察を付けなければならないものとされています。

  では,「情状に特に酌量すべき事情」とはいかなる場合をいうのでしょうか。この点,再度の執行猶予については,実務上ほとんど認められることがなく,極 めて厳しい要件判断がなされているのが通常です。

  裁判所が恩恵として執行を猶予したのに,それに背き,再度犯罪を犯したのですから,最初の執行猶予をつけたときよりもさらに厳しく,特に酌量すべき情状 のあることが必要とされています。具体的には犯罪の情状が特に軽微で,実刑を課す必要が乏しく,かつ,更生の見込みが大きいことが必要とされています。

  認められるかは具体的な事案によりけりですが,考慮すべき事情としては,犯行態様の悪質性,結果の重大性といった犯罪事実に関する情状(犯情)を基本に しつつ,被告人の属性・環境・再犯のおそれ,犯罪後の事情(示談など)を加味して決せられることとされています。

  例えば,被害店舗に対する示談結果が考慮されることとなります。さらに,あなたの奥さんは本件のようなことを繰り返してしまう窃盗症(いわゆるクレプト マニア)である可能性があるとのことですが,この点についての治療行為が再度の執行猶予を付ける有利な事情にならないかが検討課題となります。具体的には,2 以下で検討していきます。

(3)なお,再度の執行猶予がつけられない場合であっても,近時施行された一部執行猶予制度の活用も考えられます(刑法27条の2)。

  「前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その刑の全部の執行を猶予された者」については,「犯情の軽重及び犯人の境遇その他の情状を考慮して、 再び犯罪をすることを防ぐために必要であり、かつ、相当であると認められるとき」には,一年以上五年以下の期間,その刑の一部の執行を猶予することができると されています。

 本制度によれば,実刑判決となった場合であっても,一部について服役し,残部については執行猶予とすることができ,早期の社会復帰が可能です。再度の執行 猶予の要件よりは緩和されており,より柔軟な主張が可能と考えられますが,弁護人を通じて裁判所に対して積極的に適用を求めていくことが必要でしょう。

2 クレプトマニア(窃盗症)と責任能力,再度の執行猶予の関係

(1)クレプトマニアの判断基準

  次に,再度の執行猶予を求めるにあたって,あなたの妻がいわゆる窃盗症(クレプトマニア)であることが「情状に特に酌量すべき」事情に該当しないかを検 討していきます。

  クレプトマニア(窃盗症)とは,物を盗みたいという衝動・欲求を制御できず,コントロールできなくなる病気のことをいいます。

  その判断としては,アメリカの精神疾患の診断基準「DSM-W-TR(2000年)」をもとに判断されることが通常です。

A 個人的に用いるのでもなく、またはその金銭的価値のためでもなく、物を盗もうとする衝動に抵抗できなくなることが繰り返される。
B 窃盗におよぶ直前の緊張の高まり。
C 窃盗を犯すときの快感、満足、または解放感。
D 盗みは怒りまたは報復を表現するためのものでもなく、妄想または幻覚に反応したものでもない
E 盗みは、行為障害、躁病エピソード、または反社会性人格障害ではうまく説明されない。

  といった5つの考慮要素により判断されます。ただ,上記基準はあくまで考慮要素ですので,具体的なクレプトマニアの認定については,その専門的判断が可能 な医師の診断が必要不可決になります。この診断は,身体拘束がされている中では中々に困難といえるため,何とか保釈を認めてもらう必要があります。

(2)クレプトマニアと責任能力

  このクレプトマニアに罹患していることにより,およそ行動の制御ができないような場合には,そもそも責任能力がないとされる場合もあります。ただし,一 般的日常生活が可能な状態であれば,責任能力まで否定されるケースは非常に稀でしょう。いずれにせよ,医師による判断が重要な指標となります。

  この点,クレプトマニアと責任能力に関して,行橋簡易裁判所平成27年7月7日判決は,窃盗の被告人がクレプトマニアであることは医師の複数の診断から 認定できるとしているものの,被告人が日常生活を送れていること,また,万引きという犯行態様からして「商品獲得という万引きの目的実現に向けた合理的な行 動」をとれているとして,「被告人が摂食障害及び窃盗癖の精神障害に罹患していたとしても,それが被告人の本件犯行時の衝動制御能力に及ぼす障害,そして行動 制御能力 に及ぼす影響は軽微なものであったと認められるのであって,被告人の刑事責任を大幅に軽減しなければならないような行動制御能力の低下があったとまでは認められない」とし て,責任能力自体は肯定しています。

  ただ,クレプトマニアにより行動の制御がおよそ困難である,と医師が診断したような場合には,責任能力自体を弁護人としては争うべきでしょう。

(3)クレプトマニア診断のための保釈の必要性

  上記のとおり,クレプトマニアに関する専門的診断・治療を行える医師の協力が必要不可欠となりますが,それは勾留による身体拘束がされている中では限界 があります。すなわち,診断のため,保釈を認めてもらう必要があるでしょう。裁判所に対しては,クレプトマニアに関する診断および治療の必要性を,弁護人を通 じて説得的に主張・立証し,裁判所に保釈を認めてもらうことが必要不可欠といえます。

  ただし,本件では,執行猶予期間中に同種の窃盗罪を行っている関係で,「三  被告人が常習として長期三年以上の懲役又は禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。」(刑事訴訟法89条3号)の権利保釈の除外事由に該当すると判断される可能性が非常 に大きいといえますので,常習性がないこと,治療により常習性は緩和されるなどの主張も行っておくべきです。

  ただ,権利保釈が認められない場合であっても,裁判所の職権による保釈(裁量保釈)を認めてもらうことは可能であり(刑事訴訟法90条),実務上はむし ろ裁量保釈のケースがほとんどであるといえます。

  裁量保釈が認められるためには,保釈の必要性及び相当性が必要であり,上記クレプトマニアに関する治療内容(具体的な病院の選定などをしており,治療計 画を明確に示す)を裁判所に詳細にアピールする必要があります。

  また,保釈の必要性・相当性を支える事情として,被害店舗との示談交渉が成立しておりこれ以上の証拠隠滅の可能性は一切ないこと,同居している家族が被 告人の身元を引き受け治療に最大限協力をしていくこと,などの事情を裁判所に詳細に主張する必要があります。

(3)クレプトマニアと再度の執行猶予

  次に,クレプトマニアと再度の執行猶予の要件への影響について検討していきます。この点については,上述の行橋簡易裁判所平成27年7月7日判決は,ク レプトマニア(窃盗癖)であると被告人を認定した上で,その治療経過を踏まえ,再度の執行猶予を付ける判断をしています。具体的な理由としては,以下の通りで す。

「被告人は,前記のとおり,本件犯行時,被告人は摂食障害及び窃盗癖に罹患しており,その精神症状によって衝動制御の障害による影響が窺われるところ,前回の 裁判の際は,被告人が前記精神障害の可能性があるとは考えていなかったため,再犯防止の為の有効な手 立てが講じられなかったが,本件発覚後は被告人の妹が被告人に専門家の診察を受けさせたり,入院手続を予約したりするなど,協力して再犯防止に取り組んで いること,被告人は,本件犯行を素直に認め,本件を契機として精神疾患治療の必要性を自覚し,専門的治療に専念する旨誓っており,今後も前記のとおり,6か月間の入院治療 が予定されているとともに,保釈後は自助グループでのミーティングに参加するなど,再発防止に向けて真摯に取り組んでおり,更生への強い意欲が認められるこ と,被告人の妹が被告人の前記受診等に協力してきたものであるが,今後も被告人の治療に協力していく旨述べて一層の監督を誓っているほか,被告人の夫も被告人 の治療に協力していく旨誓っており、家族の更生への支援が期待できる状況にあることなど,前回の裁判時と比較すると,再犯防止のための環境や監護体制が整った ということができる」

  すなわち,この事案では被告人は保釈がなされた後,クレプトマニアの診療を行ってくれる医師のもとで,クレプトマニアと診断され6カ月の治療が必要である と診断がなされた上,家族の協力の下で入院治療を行うこと,さらには自助グループへの参加を通じて更生への強い意欲を持っていることなどが考慮されました。

  そのうえで,同裁判例は「被告人のために酌むことのできる事情を特に考慮するならば,被告人に対しては,直ちに服役させるよりは,刑の執行を猶予し,保 護観察のもと,社会内で更生する最後の機会を与えるのが相当」と結論付け,再度の執行猶予を認めています。

(4)具体的な弁護活動

ア このように,クレプトマニアと診断された場合には,専門的な医師の協力のもとで入通院治療を行うこととなり,その点は裁判所においても再度の執行猶予に おける「情状に特に酌量すべきもの」の認定に大きな影響を与えることになります。

   ただ,上記裁判例も認定しているとおり,クレプトマニアの認定・入通院治療においては専門的治療機関の協力,その大前提として家族の協力が必要不可欠 となります。そして,再度の執行猶予は極めて例外的な手続であることから,弁護人を通じて裁判所を説得できるだけの十分な主張を行う必要があります。

   逮捕勾留中に起訴された場合は、裁判が終わるまで勾留が継続しますから,通院の前提としては,保釈が必要不可欠になります。上記の通り,裁判所も常習 性については非常に気になるところでしょうから,保釈の必要性・相当性に関しては,裁判官面談の上,できうる限りの主張を行うことが必要となります。クレプト マニアである疑いがあると考えられる理由、保釈後に診察治療を受ける専門的病院への予約など通院計画を立てるととともに,家族の身元引受人として十分な資格、 環境を持っていること,等の有利な事実を主張していくことになるでしょう。
 イ 保釈を認めてもらった後は,上記専門的病院での診断結果を踏まえ,その診断内容及び保釈中の治療経過を,公判期日において,裁判所に詳細に主張すること になります。治療に対する真摯な取り組みなどの事情を十分に理解してもらえれば,「情状に特に酌量すべきもの」があるとして,再度の執行猶予が付く可能性が出 てくるでしょう。

  再度の執行猶予についてご検討の場合には,上記クレプトマニア等に関して専門的経験・知見を有する弁護士に相談されることを強くお勧めします。

<参照条文>
刑法
第四章 刑の執行猶予
(刑の全部の執行猶予)
第二十五条  次に掲げる者が三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金の言渡しを受けたときは、情状により、裁判が確定した日から一年以上五年以下の期間、その刑の全部の執 行を猶予することができる。
一  前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
二  前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
2  前に禁錮以上の刑に処せられたことがあってもその刑の全部の執行を猶予された者が一年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがあるときも、前項と 同様とする。ただし、次条第一項の規定により保護観察に付せられ、その期間内に更に罪を犯した者については、この限りでない。

(刑の全部の執行猶予中の保護観察)
第二十五条の二  前条第一項の場合においては猶予の期間中保護観察に付することができ、同条第二項の場合においては猶予の期間中保護観察に付する。
2  前項の規定により付せられた保護観察は、行政官庁の処分によって仮に解除することができる。
3  前項の規定により保護観察を仮に解除されたときは、前条第二項ただし書及び第二十六条の二第二号の規定の適用については、その処分を取り消されるまでの間は、保護観察に 付せられなかったものとみなす。

(刑の全部の執行猶予の必要的取消し)
第二十六条  次に掲げる場合においては、刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消さなければならない。ただし、第三号の場合において、猶予の言渡しを受けた者が第二十五条第一項第二号に 掲げる者であるとき、又は次条第三号に該当するときは、この限りでない。
一  猶予の期間内に更に罪を犯して禁錮以上の刑に処せられ、その刑の全部について執行猶予の言渡しがないとき。
二  猶予の言渡し前に犯した他の罪について禁錮以上の刑に処せられ、その刑の全部について執行猶予の言渡しがないとき。
三  猶予の言渡し前に他の罪について禁錮以上の刑に処せられたことが発覚したとき。

(刑の全部の執行猶予の裁量的取消し)
第二十六条の二  次に掲げる場合においては、刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消すことができる。
一  猶予の期間内に更に罪を犯し、罰金に処せられたとき。
二  第二十五条の二第一項の規定により保護観察に付せられた者が遵守すべき事項を遵守せず、その情状が重いとき。
三  猶予の言渡し前に他の罪について禁錮以上の刑に処せられ、その刑の全部の執行を猶予されたことが発覚したとき。

(刑の全部の執行猶予の取消しの場合における他の刑の執行猶予の取消し)
第二十六条の三  前二条の規定により禁錮以上の刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消したときは、執行猶予中の他の禁錮以上の刑についても、その猶予の言渡しを取り消さなければならない。

(刑の全部の執行猶予の猶予期間経過の効果)
第二十七条  刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消されることなくその猶予の期間を経過したときは、刑の言渡しは、効力を失う。

(刑の一部の執行猶予)
第二十七条の二  次に掲げる者が三年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受けた場合において、犯情の軽重及び犯人の境遇その他の情状を考慮して、再び犯罪をすることを防ぐために必要であり、か つ、相当であると認められるときは、一年以上五年以下の期間、その刑の一部の執行を猶予することができる。
一  前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
二  前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その刑の全部の執行を猶予された者
三  前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
2  前項の規定によりその一部の執行を猶予された刑については、そのうち執行が猶予されなかった部分の期間を執行し、当該部分の期間の執行を終わった日又はその執行を受ける ことがなくなった日から、その猶予の期間を起算する。
3  前項の規定にかかわらず、その刑のうち執行が猶予されなかった部分の期間の執行を終わり、又はその執行を受けることがなくなった時において他に執行すべき懲役又は禁錮が あるときは、第一項の規定による猶予の期間は、その執行すべき懲役若しくは禁錮の執行を終わった日又はその執行を受けることがなくなった日から起算する。

(刑の一部の執行猶予中の保護観察)
第二十七条の三  前条第一項の場合においては、猶予の期間中保護観察に付することができる。
2  前項の規定により付せられた保護観察は、行政官庁の処分によって仮に解除することができる。
3  前項の規定により保護観察を仮に解除されたときは、第二十七条の五第二号の規定の適用については、その処分を取り消されるまでの間は、保護観察に付せられなかったものと みなす。

(刑の一部の執行猶予の必要的取消し)
第二十七条の四  次に掲げる場合においては、刑の一部の執行猶予の言渡しを取り消さなければならない。ただし、第三号の場合において、猶予の言渡しを受けた者が第二十七条の二第一項第三 号に掲げる者であるときは、この限りでない。
一  猶予の言渡し後に更に罪を犯し、禁錮以上の刑に処せられたとき。
二  猶予の言渡し前に犯した他の罪について禁錮以上の刑に処せられたとき。
三  猶予の言渡し前に他の罪について禁錮以上の刑に処せられ、その刑の全部について執行猶予の言渡しがないことが発覚したとき。

(刑の一部の執行猶予の裁量的取消し)
第二十七条の五  次に掲げる場合においては、刑の一部の執行猶予の言渡しを取り消すことができる。
一  猶予の言渡し後に更に罪を犯し、罰金に処せられたとき。
二  第二十七条の三第一項の規定により保護観察に付せられた者が遵守すべき事項を遵守しなかったとき。

(刑の一部の執行猶予の取消しの場合における他の刑の執行猶予の取消し)
第二十七条の六  前二条の規定により刑の一部の執行猶予の言渡しを取り消したときは、執行猶予中の他の禁錮以上の刑についても、その猶予の言渡しを取り消さなければならない。

(刑の一部の執行猶予の猶予期間経過の効果)
第二十七条の七  刑の一部の執行猶予の言渡しを取り消されることなくその猶予の期間を経過したときは、その懲役又は禁錮を執行が猶予されなかった部分の期間を刑期とする懲役又は禁錮に減 軽する。この場合においては、当該部分の期間の執行を終わった日又はその執行を受けることがなくなった日において、刑の執行を受け終わったものとする。

第三十六章 窃盗及び強盗の罪

(窃盗)
第二百三十五条  他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

刑事訴訟法

第八十九条  保釈の請求があつたときは、次の場合を除いては、これを許さなければならない。
一  被告人が死刑又は無期若しくは短期一年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。
二  被告人が前に死刑又は無期若しくは長期十年を超える懲役若しくは禁錮に当たる罪につき有罪の宣告を受けたことがあるとき。
三  被告人が常習として長期三年以上の懲役又は禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。
四  被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
五  被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させる行為をすると疑うに足り る相当な理由があるとき。
六  被告人の氏名又は住居が分からないとき。

第九十条  裁判所は、適当と認めるときは、職権で保釈を許すことができる。


<参考判例>

窃盗被告事件、行橋簡易裁判所平成27年(ろ)第3号
平成27年7月7日判決

『本件は,被告人がスーパーマーケットで食料品等を万引きした事案である。
 被告人は,本件被害品を購入するだけの現金を持ち合わせていながら,日常生活のストレス等から本件犯行に及んだことが認められ,その身勝手で自己中心的な犯 行動機に酌むべき事情はない。
 また,被告人は,被害店舗の買物カートに買い物かごを置き,その買い物かごの中に持参したエコバッグと保冷バッグを置いて被害店舗内を回り,本件被害品 を一旦エコバッグや保冷バッグの上に置いた後,周りの状況を窺いながら,本件被害品をエコバッグや保冷バッグの中に隠し入れ,その後,買い物かごに入れた 商品のみレジで精算するなど,手慣れた犯行である。本件被害品の数は合計28点,販売価格も7554円にも及び,万引き事案としては多数,多額であって, 犯情は悪質である。
 加えて,被告人には,平成24年と平成25年に,いずれも窃盗(万引き)の前歴が1件ずつあるほか,その後正式裁判を受け,食料品等の窃盗(万引き)に より,平成26年12月に懲役1年,3年間執行猶予に処せられ,その執行猶予期間中であるにもかかわらず,同判決宣告から1か月余りで本件犯行に及んだも のであって,被告人には万引きの常習性が認められる。
 以上によれば,被告人の刑事責任は到底軽視することができず,検察官が主張するように実刑を科すことも十分考えられる。
 もっとも,本件被害品は被害者に還付されるとともに,被告人が本件被害品を買い取る形で被害弁償が済んでおり,この限度で違法性の事後的低減と評し得る こと,本件被害者においてもこれ以上謝罪金等を請求するつもりはない旨表明していること,被告人には,幼少ないし学齢期の子供2名がいて,母親として子供 の養育等生活維持の面で欠かせない存在であること,被告人は,前記のとおり,本件犯行時,被告人は摂食障害及び窃盗癖に罹患しており,その精神症状によっ て衝動制御の障害による影響が窺われるところ,前回の裁判の際は,被告人が前記精神障害の可能性があるとは考えていなかったため,再犯防止の為の有効な手 立てが講じられなかったが,本件発覚後は被告人の妹が被告人に専門家の診察を受けさせたり,入院手続を予約したりするなど,協力して再犯防止に取り組んで いること,被告人は,本件犯行を素直に認め,本件を契機として精神疾患治療の必要性を自覚し,専門的治療に専念する旨誓っており,今後も前記のとおり,6 か月間の入院治療が予定されているとともに,保釈後は自助グループでのミーティングに参加するなど,再発防止に向けて真摯に取り組んでおり,更生への強い 意欲が認められること,被告人の妹が被告人の前記受診等に協力してきたものであるが,今後も被告人の治療に協力していく旨述べて一層の監督を誓っているほ か,被告人の夫も被告人の治療に協力していく旨誓っており、家族の更生への支援が期待できる状況にあることなど,前回の裁判時と比較すると,再犯防止のた めの環境や監護体制が整ったということができること,被告人は,本件により保釈されるまで一定期間身柄を拘束され,改めて本件犯行の重大性を身をもって体 験している状況が窺われ,事実上反省の機会があったことなどの被告人のために酌むことのできる事情も認められる。
 以上の被告人のために酌むことのできる事情を特に考慮するならば,被告人に対しては,直ちに服役させるよりは,刑の執行を猶予し,保護観察のもと,社会内で 更生する最後の機会を与えるのが相当と判断した。 
 なお,検察官は,矯正施設においても摂食障害の治療が可能であるとして,摂食障害の克服は受刑の中でこそ有効になし得る旨主張するが,矯正施設において は,本来,受刑を通じての矯正教育を主たる目的とするものであって,治療はその限りで行われるものと考えられるから,被告人が置かれた現時点での環境等を 特に考慮するならば,被告人に対して,再度刑の執行猶予を付し,被告人にその治療に専念させることが被告人の更生により資するものと判断した。』


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