新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1696、2016/07/15 15:11

【家事、最高裁判所平成6年10月13日判決、仙台高裁平成5年7月29日判決

婚姻無効の訴えと「訴えの利益」

質問:半年前に夫が病気で倒れ入院をし、数日後に容態が急変し亡くなりました。夫とは知り合ってすぐに同居を始め、約10年間同居を続けていました。それまで何度か婚姻届を役所に提出しようという話も夫から出ましたが、相談者は前に一度結婚に失敗したこともあり、夫との婚姻届を出すことを躊躇していました。夫は倒れても意識がはっきりしていましたので、相談者との婚姻届を出そうと夫から言われました。私は了解をし、私の叔父叔母に証人になってもらうため夫の入院する病院に来てもらい、叔父叔母立会いのもとで婚姻届出書を作成しました。夫は、ペンを持つこともできなかったため私が代わりに婚姻届に署名捺印をしました。叔父叔母にも証人として署名捺印をしてもらい私が役所に行き、婚姻届の提出を済ませました。その数日後に夫の容態が急に悪化し亡くなりました。
 今日、相談者のもとに地元の家庭裁判所から訴状が届きました。内容をみると、婚姻無効の訴えと書いてあります。訴えたのは夫の叔母にあたる人で、夫が亡くなる直前に意識の無い状態で作成提出された婚姻届のため、無効になると書いてありました。
 夫には、子もなく、両親も早く亡くなり、兄弟姉妹もいません。亡夫の相続人は私だけです。夫の叔母が相続人でもないのに何故、婚姻無効の訴えを起してくるのか私にはわかりません。
 私は、婚姻無効の裁判でどのような対応をすればよいのでしょうか。



回答:

1 婚姻無効の訴えを亡夫の叔母から起されたとのことですが、たとえ、婚姻届出書に夫本人が署名捺印していなくても、あなたに代筆してもらって婚姻届出書を提出する意思があったのであれば婚姻無効の理由はないと考えられます。ご相談者様は、この点を本裁判で積極的に主張立証し、婚姻は無効ではないと家庭裁判所に判断してもらうことも考えられます。

2 亡夫の叔母はご相談者様とは3親等の姻族関係にありますが、亡夫の相続人にはあたりません。民事訴訟では、婚姻無効の訴えを起すのに「訴えの利益」が必要と考えられていますが、叔母に婚姻無効の訴えを提起する訴えの利益がないと考えられます。打っての利益がない場合は訴えは却下されます。この点は解説で説明します。

3 いずれにしても、亡夫の叔母からの婚姻無効確認の訴えについて、どのような主張立証をすればよいのか、お近くの法律事務所に一度相談されるほうがよいでしょう。

解説:

第1 ご相談者様は婚姻届出の時点で夫に意識がなかったことを理由に婚姻無効の訴えを亡夫の叔母から起されたとのことですが、原告である叔母は、夫に意識がなく、婚姻する意思もなかったということ立証する必要があります。しかし、ご相談の事情からは婚姻無効の理由はないと思えます。本邦の民法典は意思主義を採用しており、婚姻の届出に関して、民法968条の様な自筆書面を求める特則も存在しないからです。また、民法739条2項は、口頭による婚姻の届出も認めており、今回の手続で婚姻が有効に成立していると主張し得ることになります。ご相談者様は、この点を本裁判で積極的に主張立証し、婚姻は無効ではないと家庭裁判所に判断してもらうことも考えられます。

 しかし、婚姻無効の裁判はだれでも起こせるわけではありません。婚姻無効の裁判を起こせるのは、婚姻が無効となることにより法律的な利益がある場合に限定されます。亡夫の叔母はご相談者様とは3親等の姻族関係にあります。ただ、叔母は亡夫の子でも、直系尊属でも、兄弟姉妹でもないので、相続人にはあたりません。
そこで、亡夫の叔母には、ご相談者様と亡夫との婚姻無効訴えをするについて、訴えの利益があるのかどうか問題となり、訴えの利益がなければ裁判を起こしたこと自体が法律上は認めら得ないとして裁判は訴え却下ということで終了します。

第2 民事訴訟は、ある人の私法上の権利を保護することによって紛争を解決する目的があります。特定の人が特定の人に対し、例えば金銭を請求する給付訴訟のほかに、ある法律行為が有効か無効かの確認だけを求める訴えも提起できます。これを確認の訴えと言います。この確認の訴えを無制限に認めてしまうと、裁判の対象が広がりすぎて、裁判所の人手が足りなくなったり、時間・費用がむだになってしまいます。訴訟経済に反することになります。そこで、法律関係の確認を求めることが紛争の解決に役立つかどうかという観点から、確認の訴えは制限されています。ある法律関係を確認することが紛争の解決に役立つ場合、「確認の利益」があるといいます。確認の利益は訴えの適法要件であり、確認の利益を欠く訴えは訴えを却下されることになります。なお、婚姻無効は人事訴訟です(人事訴訟法2条)。人事訴訟法は、民事訴訟法の特例を定めている法律ですが、訴えの利益に関しては特に規定がないため、一般の民事訴訟と同じです。

 婚姻無効は、婚姻が有効か無効かを確認する訴訟ですから確認訴訟と呼ばれ、訴えの利益は確認の利益となります。確認の利益が認められるためには、ある法律関係を確認し、ある人の私法上の権利を保護することによって、紛争を解決することに資するかどうかによって判断されるものです。

第3 それでは、婚姻無効の訴えは、どのような場合に訴えの利益が認められるのでしょうか。最高裁判所昭和63年3月1日判決は養子縁組無効の訴えに関してですが、次のように、訴えの利益(判例では「訴えについて法律上の利益」と表現)の基準を示しています。

「養子縁組無効の訴えは縁組当事者以外の者もこれを提起することができるが、当該養子縁組が無効であることにより自己の身分関係に関する地位に直接影響を受けることのない者は右訴えにつき法律上の利益を有しないと解するのが相当である。」

この基準を婚姻無効の訴えにあてはめてみると、

・婚姻無効の訴えは婚姻当事者以外の者もこれを提起することができる。
・婚姻が無効であることにより自己の身分関係に関する地位に直接影響を受けることのない者は右訴えにつき法律上の利益を有しない。

と考えられ、婚姻が無効であることにより自己の身分関係に関する地位に直接影響を受けるかどうかが、婚姻無効の訴えの利益の判断基準と考えられます。

第4 具体的には、婚姻無効により、自己(原告)の相続分が変更する場合があります。

「第八百九十条  被相続人の配偶者は、常に相続人となる。この場合において、第八百八十七条又は前条の規定により相続人となるべき者があるときは、その者と同順位とする。」

887条は子の相続権、888条は直系尊属、兄弟姉妹の相続権を規定しています。

 配偶者は他の配偶者の相続人となり、他の相続人と同順位になります。婚姻の無効が認められれば、配偶者は相続人ではなくなり、その分、他の相続人の相続分が増えることになりますから、原告が亡くなった本人の相続人としての地位を有する場合は、婚姻の無効により、身分関係に関する地位に直接影響を受けるといえます。

 ご相談者様の場合、亡夫の叔母は、亡夫の子でも、直系尊属でも、兄弟姉妹でもないので、相続に関して身分関係に関する地位に直接影響を受ける立場にはない、といえるでしょう。

第5 それでは、亡夫のおばは、相続における「特別縁故者」にあたるとして、身分関係に関する地位に直接、影響を受ける立場にあたるのでしょうか。

特別縁故者については、民法958条の3で次のように規定されています。

「第九百五十八条の三  前条の場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。
2  前項の請求は、第九百五十八条の期間の満了後三箇月以内にしなければならない。」

ご相談者様の叔母は、この「特別縁故者」になりうる者であるとして、婚姻無効の訴えについて法律上の利益があると主張することが考えられます。この点について、最高裁判所平成6年10月13日判決は遺言無効確認の訴えの場合に、次のように判断しています。

「本件遺言が無効である場合に、被上告人政明らが民法九五八条の三第一項所定の特別縁故者として相続財産の分与を受ける可能性があるとしても、右の特別縁故者として相続財産の分与を受ける権利は、家庭裁判所における審判によって形成される権利にすぎず、被上告人○○らは、右の審判前に相続財産に対し私法上の権利を有するものではなく、本件遺言の無効確認を求める法律上の利益を有するとはいえないからである。」

 この判断基準によると、婚姻無効の訴えでも同様のことが言え、叔母が特別縁故者として財産分与を受ける可能性があるとしても、婚姻無効の訴えについて法律上の利益はないと判断しています。

第6 また、叔母は民法877条2項の扶養の規定を根拠に、婚姻無効の訴えについて法律上の利益があると主張することが考えられます。

「第八百七十七条  直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。
2  家庭裁判所は、特別の事情があるときは、前項に規定する場合のほか、三親等内の親族間においても扶養の義務を負わせることができる。
3  前項の規定による審判があった後事情に変更を生じたときは、家庭裁判所は、その審判を取り消すことができる。」

 特別な事情があるときは、3親等内の親族に家庭裁判所が扶養義務を負わせることができるという規定です。叔母は3親等内の姻族であり、叔母が将来扶養義務を負わせられる可能性があることを理由に、身分関係に関する地位に影響することを理由に婚姻無効確認の訴えについて法律上の利益があると主張することが考えられます。

 この点、最高裁判所の判例は見当たらず、仙台高裁平成5年7月29日判決では、婚姻無効確認の訴えの控訴審で「控訴人は、亡○○と被控訴人の婚姻が有効である限り、被控訴人とは姻族一親等の身分関係を有し、民法八七七条二項に基づき、家庭裁判所によって、被控訴人の扶養を命ぜられることが有り得る地位にあるが、この身分的地位は、本件婚姻が無効であると、失われることになる。そうすると、控訴人は、本件婚姻が無効であることにより、自己の身分関係に関する地位に直接影響を受けるものというべきである。したがって、この限りでは、控訴人は、本件婚姻無効確認の訴えにつき、訴えの利益を有するものである」として、将来の扶養義務を根拠に訴えの利益を肯定しています。

 ご相談者様の場合は、叔母と3親等の姻族関係にありますので、仙台高裁判決を基準にすると、叔母に訴えの利益が認められる可能性があります。

第7 もし、ご相談者様が、今後、亡夫の叔母と親族関係を続ける気持ちがないのであれば、民法728条に規定する姻族関係終了の意思表示(市役所に対する姻族関係終了届け)をすることが考えられます。
「第七百二十八条  姻族関係は、離婚によって終了する。
2  夫婦の一方が死亡した場合において、生存配偶者が姻族関係を終了させる意思を表示したときも、前項と同様とする。」

 これによって、亡夫の叔母との親族関係も無くなり、将来の扶養関係ということもなくなりますから叔母には訴えの利益がないことになります。

 訴えの利益は訴訟継続の前提となる訴訟要件となりますので、これが欠ける場合は、訴訟物に対する審判(本案判決)ではなく、訴訟条件が欠けていることについての却下判決(訴訟判決)を得ることができます。訴訟要件の有無は、訴訟経済の観点から公益性の高い論点とされ、裁判所が当事者の申し立てを待たず積極的に調査すべき職権探知事項とされていますが、実務上は当事者(つまり被告側)の主張立証が無いとなかなか裁判所が動いてくれませんので、訴えの利益についても主体的に訴訟活動を遂行していく必要があります。

姻族関係終了の意思表示は、その旨を役所に届ける必要があります。届出のやり方や届出用紙の取寄せについてはお近くの市区役所等に問い合わせるとよいでしょう。

「戸籍法第九十六条  民法第七百二十八条第二項 の規定によつて姻族関係を終了させる意思を表示しようとする者は、死亡した配偶者の氏名、本籍及び死亡の年月日を届書に記載して、その旨を届け出なければならない。」
第8 まとめ

 ご相談者様の亡夫の叔母から、婚姻無効の訴えを起された場合、積極的に婚姻が有効であることを主張し徹底的に争うことも考えられますが、亡夫の叔母に婚姻無効の訴えを起せる資格があるのか、訴えの利益の問題もあります。

 裁判でどのような主張・立証を行うのか、一度お近くの法律事務所に相談されるとよいでしょう。

≪参照判例≫
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=52188
養子縁組無効確認請求事件
裁判年月日 ?昭和63年3月1日
法廷名 ?最高裁判所第三小法廷
裁判種別 ?判決

http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=62696
遺言無効確認等
裁判年月日 ?平成6年10月13日
法廷名 ?最高裁判所第一小法廷
裁判種別 ?判決

仙台高等裁判所平成5年7月29日判決 婚姻無効確認請求事件
については、判タイムス 854号279頁、判例時報 1514号90頁


≪参照条文≫
【民法】
(親族の範囲)
第七百二十五条  次に掲げる者は、親族とする。
一  六親等内の血族
二  配偶者
三  三親等内の姻族

(離婚等による姻族関係の終了)
第七百二十八条  姻族関係は、離婚によって終了する。
2  夫婦の一方が死亡した場合において、生存配偶者が姻族関係を終了させる意思を表示したときも、前項と同様とする。
(婚姻の無効)
第七百四十二条  婚姻は、次に掲げる場合に限り、無効とする。
一  人違いその他の事由によって当事者間に婚姻をする意思がないとき。
二  当事者が婚姻の届出をしないとき。ただし、その届出が第七百三十九条第二項に定める方式を欠くだけであるときは、婚姻は、そのためにその効力を妨げられない。
(子及びその代襲者等の相続権)
第八百八十七条  被相続人の子は、相続人となる。
2  被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。
3  前項の規定は、代襲者が、相続の開始以前に死亡し、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その代襲相続権を失った場合について準用する。
(直系尊属及び兄弟姉妹の相続権)
第八百八十九条  次に掲げる者は、第八百八十七条の規定により相続人となるべき者がない場合には、次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。
一  被相続人の直系尊属。ただし、親等の異なる者の間では、その近い者を先にする。
二  被相続人の兄弟姉妹
2  第八百八十七条第二項の規定は、前項第二号の場合について準用する。
(配偶者の相続権)
第八百九十条  被相続人の配偶者は、常に相続人となる。この場合において、第八百八十七条又は前条の規定により相続人となるべき者があるときは、その者と同順位とする。

(扶養義務者)
第八百七十七条  直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。
2  家庭裁判所は、特別の事情があるときは、前項に規定する場合のほか、三親等内の親族間においても扶養の義務を負わせることができる。
3  前項の規定による審判があった後事情に変更を生じたときは、家庭裁判所は、その審判を取り消すことができる。

(特別縁故者に対する相続財産の分与)
第九百五十八条の三  前条の場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。
2  前項の請求は、第九百五十八条の期間の満了後三箇月以内にしなければならない。

人事訴訟法
第二条  この法律において「人事訴訟」とは、次に掲げる訴えその他の身分関係の形成又は存否の確認を目的とする訴え(以下「人事に関する訴え」という。)に係る訴訟をいう。
一  婚姻の無効及び取消しの訴え、離婚の訴え、協議上の離婚の無効及び取消しの訴え並びに婚姻関係の存否の確認の訴え
二  嫡出否認の訴え、認知の訴え、認知の無効及び取消しの訴え、民法 (明治二十九年法律第八十九号)第七百七十三条 の規定により父を定めることを目的とする訴え並びに実親子関係の存否の確認の訴え
三  養子縁組の無効及び取消しの訴え、離縁の訴え、協議上の離縁の無効及び取消しの訴え並びに養親子関係の存否の確認の訴え

※人事訴訟法2条は「人事訴訟」の定義についての規定で、具体的手続きについては4条以下に規定されている。

戸籍法
第九十五条  民法第七百五十一条第一項 の規定によつて婚姻前の氏に復しようとする者は、その旨を届け出なければならない。
戸籍法
第九十六条  民法第七百二十八条第二項 の規定によつて姻族関係を終了させる意思を表示しようとする者は、死亡した配偶者の氏名、本籍及び死亡の年月日を届書に記載して、その旨を届け出なければならない。


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