新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1684、2016/05/13 12:00 https://www.shinginza.com/saikaihatsu.htm

【民事、都市再開発法、個人住居の明渡し損失補償について】

都市再開発法による個人住居の明渡し損失補償


質問:
 私は,都内に賃貸でワンルームマンション借りて一人暮らしをしています。この度,私の住んでいるマンションがある地域が,都市再開発法に基づく再開発の対象になることが決まりました。
 すると,再開発組合の担当者が,私に対してしきりに明け渡しを迫ってきます。現在の住居は駅に近く通勤にも便利で気に入っているため,私としては出ていきたくはありませんが,賃貸を開始する際に,一応再開発の対象になる可能性のある区域であることは書面で確認しています。
 私は,退去しなければならないのでしょうか。
 また,明け渡す際,金銭補償が受けられると聞いていますが,その金額に納得がいっていません。既に権利変換の期日というものが過ぎており,明け渡しの期限が一か月後に迫っていますが,今からでも交渉は可能なのでしょうか。

回答:
1 都市再開発法は,都市における土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新とを図ることを目的として,都市の再開発を円滑に進めることを定めた法律です。他方で、賃借人当の建物の権利者の保護についても規定を設けています。
 同法による再開発事業が認可された場合,現在賃借権を有して住んでいる住人には,権利変換手続を行うことで,再開発後の建物にも同程度の賃借権が認められるのが原則です。
 一方で,再開発の工事を行うために,事業の施工者は,現在の建物に住んでいる住人等に対して,30日以上の期限を定め,明け渡しを請求できる旨も定められています。
期限までに明け渡しをしなかった場合,再開発組合は,都道府県知事等に対して,行政代執行の手続きにより強制的な明け渡しの手続きをとることを請求することができます。また,再開発組合自らが司法手続きにより強制執行の手続きを執ることも認められています。断行の仮処分手続きが取られるのが通常です。

2 工事の為に建物を明け渡す場合,それによって生じる損害の補償を再開発組合から受けることができます。
  しかし,受けられる補償の金額は,法律上明確に定められておらず,基本的には再開発組合と当事者で個別に協議して決定するものとされています。
  この点,再開発組合は,補償の金額を低く抑える為,安価な金額を提示して交渉を勧めてきます。その為,当事者としては,自分にどれだけの損失があるかを,客観的資料に基づいて詳細に主張する必要があります。
  補償項目は,仮住居の賃料や設置物の移転費用等詳細に及びます。詳細は,下記の解説をご覧ください。

3 任意での明け渡しが行われなかった場合,施行者は,明け渡し期限の経過後,適正な保証金額を供託した上で,第1項の強制的な明け渡しの手続きを進めることが可能です。
  この場合,金額に不服がある権利者は,土地収用委員会に対して,補償額の採決を申請することで,金額を争うことになります。
  多くの場合,再開発組合が,明け渡し期限経過後ただちに強制的な明け渡しの手続きを執ることは無く,こちらが話し合いに応じれば,明け渡し期限が間近であっても補償金額を任意に交渉することは十分可能です。
  もっとも,余りに交渉を長引かせてしまえば,強制明け渡しの手続きを執られてしまう危険がありますので,再開発組合との交渉は,積極的かつ速やかに行うべきでしょう。

4 手慣れた再開発担当者を相手に補償金額の交渉をするのは,一般の方には非常に困難と思われます。経験のある弁護士等専門家への相談をお薦めします。1512番1649番等もご参照下さい。


解説:

1 都市再開発事業の流れ

 都市再開発法は,「都市における土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新とを図ること」を目的として,都市の再開発事業を円滑に進めることを定めた法律です(法1条)。

 同法に基づく再開発事業には,第1種及び第2種の二つの種類がありますが,第2種は公共性や防災上の緊急の必要性がある場合等の限定された場合に行われる事業ですので,以下では第1種再開発事業,その中でも特に一般的な再開発組合を施行者とする基本的な再開発事業の流れについて説明致します。

@ 準備組合の設立

 まず,施行者となる発起人(地権者,開発業者いわゆるデベロッパー等 )が,地域の再開発の機運の高まりに応じて,再開発の基本構想等を策定します。

 その上で,発起人らは,具体的な検討を行う為の組織(準備組合)を設立し,正式な事業計画を作成や他の権利者への説明会等を実施します。

 早ければ,この段階で入居者に対する明渡の依頼や,定期賃貸借への切り替えの打診が行われます。居住者の退去は補償費が削減でき組合側に有利だからです。勿論、法的にはこれに応じる義務はありません。

A 再開発組合の設立と事業計画の認可

 そして,必要な都市計画決定(主に容積率高さ制限の緩和の許可等。)や地権者同意が得られた段階(同意が一定数 、3分の2にならないと認可は受けられませんので地権者の勧誘は積極的に行われます。法14条 。さらに、賃借権者の一定数 すなわち一般的に80%以上の同意も求められますので定期賃借権の要請がなされます。)で,正式な再開発組合の設立及び事業計画について,都道府県知事の認可を受けます(法11条)。再開発組合には,正式な組合員となる地権者の他,デベロッパー,設計事務所,建設会社,その他各種のコンサルタント会社が事務局(または、参加組合人)として参加し,実際の手続面の進行や権利者との交渉を担当することになります。事実上、正式組合人は手続きにほとんど知識がなく事実上参加組合人、事務局が手続きを代行します。

B 権利変換

 事業計画の認可を受けた再開発組合は,続けて「権利変換」の計画を定めます(法73)。

 権利変換とは,単純に説明すると,再開発前に各権利者が有している権利を,再開発後の区域・建物に割り当てて変換する手続のことです。この権利変換の対象には,土地建物の所有権者だけでなく,建物を借りている人の権利(賃借権)も含みます(法77条5項)。つまり,再開発前のマンションに部屋を借りて居住していた住人は,権利変換により,再開発後に同じ程度の広さの部屋の賃借権を割り当てられ,そこに入居することが認められることになります。

 この際,権利変換による再入居を希望しない場合には,再開発組合にその旨を申し出ることで,適切な補償を受けてそのまま退去することもできます(法91条)。一般的には退去より、再入居の方が補償は高くなります。
権利変換計画が決定・認可され,実際に権利変換の期日が経過した場合,権利者の従前の権利は失われ,当該区域の建物の所有権等は再開発組合に帰属します。

C 入居者への明渡しの請求

 再開発組合は,権利変換期日後の一定の期日定め,現在建物に居住している者達に対して明渡しを請求することになります。入居者は,自分達の意思に関わらず,建物の明渡しを迫られることになりますので,再開発組合に対して明渡しにより生じる損失の補償を請求することが出来ます(法97条)。損失補償は、手続きの迅速性から権利変換前から交渉が開始されます。

 具体的な損失補償の金額については,法律上明確な定めが存在せず,当事者間の協議によって定めるものとされています(97条3項)。この際,法律上は,補償額について収用委員会や審査委員会の議決は必要がありません。再開発組合と入居者との間で協議が整えば,そのまま建物を明渡し,実際の工事が開始されることになります。

 再開発組合に請求できる損失補償に具体的にどのような内容が含まれるのかについては,第3項で説明致します。

2 強制的な明渡しの手続

ア 協議が整わない場合の手続き

 再開発組合は,権利変換期日の経過後,実際に建物を占有している権利者に対して,30日以上の間を空けて,建物の明渡しを請求することができます(法96条1項)。

 明渡しの期限までに,補償の金額について当事者間の協議が整わなかった場合,再開発組合は,審査委員の過半数の同意を得て定めた金額を支払わなければならないものとされていますが(法97条3項),居住者がその金額の受領を拒んだ場合,その金額を供託して強制的な明け渡しの手続きを進めることができます(法97条5項,92条)。

 強制的な明渡しの手続きについて,法律上は,市区町村長による行政代執行の手続きにより,強制的な明け渡しの手続きを行うことが可能とされています(法98条)。この場合,行政代執行にかかった費用については,明け渡し義務者=入居者が受けるべき補償金額の供託金から支出されてしまいます(法98条3項)。

 又,行政代執行によらずとも,再開発組合は,通常の民事訴訟手続きにより明け渡し請求をすることも可能です(東京高裁平成11年7月22日判決。通常簡易迅速な断行の仮処分が行われます。)。同判決では,権利変換処分により,従前の権利関係は消滅し,再開発組合が区域内の建物の所有権を取得することになるため(法87条2項),権利実現の手段として当然に明け渡しの請求に民事訴訟手続きを用いることができるとしています。但し、最高裁判所平成14年7月9日宝塚市パチンコ条例事件判決では、行政庁が専ら行政上の義務履行を求める訴えは、裁判所法3条1項の「法律上の争訟」要件を欠き不適法と判示しています。再開発の場合は、組合側が権利変換処分通知という行政処分を契機として都再法の規定による所有権取得を主張していますので事例が違いますが、行政庁の私的権利と行政上の義務が併存する場合に法律上の争訟性をどのように考えるのか、最高裁判例は確定していません(令和4年9月時点)。このような行政処分と密接に関連している所有権と、私的自治の領域である契約などにより生じた所有権等では同一に考えられない可能性もあります。

 ひとたび強制的な明け渡しの手続きが進行してしまった場合には,手続きを止めることは不可能に近いと言えます。

イ 補償金額の交渉の期限について

 補償金額について協議が整わない場合に,再開発組合が供託する補償金額について審査をする審査委員とは,再開発組合が,都道府県知事の承認を受けて,土地及び建物の権利関係又は評価について特別の知識経験を有し,かつ,公正な判断をすることができる者を選任します(法43条)。一度審査委員によって補償金額の決議がなされてしまった場合には,それを変更するのは容易ではなく,下記第4項で述べる裁決の申請を行う必要があるでしょう。

 その為,補償の金額について再開発組合と任意の協議が可能なのは,原則として再開発組合の通告する明渡しの期限までということになります。

 しかし実際には,再開発組合は,裁決を望まず、強制的な明渡しの手続きを避けることを希望する傾向が強い為,明渡し期限の経過後であっても,ある程度は交渉を継続することは可能です。

3 具体的な補償金額の内容

(1)事業者による提案

 上で述べたとおり,再開発事業の為に現在の住居を明渡す際には,再開発組合には,入居者に対して適切な補償金を支払う義務が存在します。

 具体的な補償金額については,当事者間の協議で定めるものとされていますが,実際には,再開発組合側で提示する補償金額をベースとして交渉が進められることが多いでしょう。

 その際の算定方法の根拠としては,土地収用に関する基準(公共用地の取得に伴う損失補償基準及びその運用細則)が用いられることもありますがこれも一義的な算定方法を定めてものではありません。再開発組合は,不動産価値の査定会社や,損失補償を専門的に取り扱う補償査定会社に補償金額の査定を依頼して提案額を決定する為,ある程度公平な提案をしてくると言えます。

 しかし,これらの査定には,当事者毎の個別具体的な事情が反映されていない場合も多く,実際に事業者は,多数の権利者,入居者に対して補償金を支払う必要がありますので,当然,補償金額を有る程度低く見積もって提示して来るのが現状です。

 その為,適切な補償を受ける為には,入居者の側でも自分の受ける損失を正確に把握し,十分な金額の補償を受け取る必要があるといえます。

 当然,補償の金額は,各権利者との間で公平に為される必要があり,無闇な補償金の請求は決して認められるものではありませんが,再開発組合としても,きちんとした根拠や資料を提示した上で交渉を行えば,補償金額の見直しに応じてくれることも多く存在します。

 以下では,一般的に入居者の方において発生するであろう損失の内容について例示します。

 なお,この補償金額の算定において,入居時に再開発組合の「予定」があったことを認識していたか否かは,基本的に関係ありません。また,再開発による権利変換を希望せずに退去する場合の補償金額についても,基本的に以下で述べることが妥当しますが,権利変換を受けて新しい建物に再度入居する場合は,移転費用の補償が2回分発生するのに対し,退去する場合はその1回分の費用のみが補償の対象になる点は注意が必要です。

(2)補償の内容

ア 動産移転料

    建物明け渡しの際の動産搬出のための移転費用(いわゆる引っ越し代金)については,当然補償を請求することができます。

    この点,事業者による査定は,単に部屋の面積等から客観的に算出される費用を計上している場合が多いと言えます。

    動産移転費用は,荷物の量,内容,時期(特に2〜3月の繁忙期は費用が格段に高額になります。),移転距離当によって大きく左右されます。

    実際に,引っ越し業者に見積もりを依頼する等して,具体的な事情に応じた補償を受けられるよう計算する必要があります。

  イ 工作物移転料

    長期間居住していた場合には,部屋に設置した工作物等の移転・再設置に必要な費用も補償の対象とする必要があります。

    例えば,冷暖房設備,鍵,電話やインターネット回線等が代表的な例です。その他,取り外し困難な金庫等の付属物も補償の対象となりますが,元々の賃貸物件の用途との関係で,そもそも設置が認められていなかったものは補償の対象外となる可能性もあります。

  ウ 移転先の住居に関する費用

    新しく部屋を賃貸するのに必要な費用についても補償の対象となります。

    まず,補償が必要となる経費の標目を検討すると,入居の際に必要となる権利金(礼金等)については,全額を補償の対象とすべきです,一方,敷金については,基本的に契約終了時に返金されるものであるため,全額を補償の対象とすることが難しい場合もありますが,少なくとも現行の敷金との差額は,補償の対象とすべきでしょう。

    また,保証人を立てる為の保証委託料といった契約に必要な費用についても,もれなく計上する必要があります。

    そして最も重要なのが,現在家賃と移転先の家賃との差額の補償です。これが補償の対象となるのは当然ですが,通常,補償の協議をする際は具体的な移転先が決まっていないのが通常ですので,移転先の家賃については,同条件の賃貸物件を探して新規契約した場合の金額を推定して計算することになります。

    この点について,事業者の査定は,過去数年の範囲の同種条件物件の賃貸事例等をもとにして,面積当たりの標準家賃を設定し,標準家賃に基づいて,同じ程度の部屋面積を新規に賃貸する場合の家賃額(及び権利金)を算定しています。

    しかし,これらの査定は賃料に関連する個別の細かい条件が反映されたものとは言い難く,入居者自身が現在の物件に有している利点(勤務先へのアクセス等)も考慮されていません。

    そして何より,実際に移転先を選定する当時の入居可能物件の状況を一切反映したものでは無いため,現実的には標準家賃額で入居可能な物件が一切見つからない場合もあります。

    その為,補償を受ける側としては,実際に入居可能な物件を調査し,現在の物件と同等の生活状況を保持するために具体的に必要な費用を自己で見積もってから,補償金額の交渉にあたるべきでしょう。

    なお,家賃等の補償の期間については,再開発工事の予定工期の範囲で一括して受領することが可能であり,工期が予定より伸びた場合には,改めて工期延長による超過分を請求することができるとの取扱いが一般的です。

  エ 雑費

    その他,明け渡しの際には,不動産社に支払う仲介手数料,住所変更等の手続きや通知の費用等の種々の雑費が発生しますので,これらの漏れなく形状する必要があります。

    引っ越し先の選定及び実際の引っ越し作業を行う際には,ある程度お仕事を休む必要もございますので,その分の休業損害も補償の対象となります。休業損害の査定にあたっては,ご自身の収入をベースとして実損額での計上を原則とすべきでしょう。通常1ヶ月から2ヶ月が必要と思われます。

  オ 弁護士費用等

    上記のような補償金額の算定,交渉は,一般の方には非常に馴染みの薄い行為ですから,弁護士を代理人に選任して,事業者との交渉にあたってもらうことも考えられます。

    その場合の弁護士費用については,原則自己負担となりますが,事業者の査定に不相当の部分がある場合等には,代理人選任に要する費用も必要経費として補償の対象となることが考えられます。

4 補償金額に対する裁決

  補償金額について,交渉の結果,不幸にも協議がまとまらなかった場合,上記第2項で述べた通り,再開発組合は,補償金額について審査委員の同意を得た上で一方的に供託をすることができます。

  これに不満のある権利者は,補償の金額について,土地収用法上の手続きに従って,各都道府県の収用委員会に対して,裁決の申請を行うことが可能です(法97条4項)。

  もっとも,収用委員会の裁決は,補償金額の算定については非常に抑制的です。

 加えて,法律上,収用委員会の裁決により定められた金額が再開発組合の供託した補償金額よりも高い場合(再開発組合が補償金額を低く見積もっていた場合)は,その差額につき年14.6%の罰金的な過怠金が課せられている(法97条5項,91条2項)ことから,再開発組合は,交渉の最終段階では,裁決で見込まれる補償金額よりは高い金額を提示してくるのが通常です。

  その為,一般的には,実際情収用委員会の裁決により補償金額の改善を狙うのは困難であると考えられます。実際、収用委員会の採決を経た例は明らかになっておらず公的な土地収用等と公共性の弱い再開発の補償がどのように異なるか詳細に検討する必要があります。

  加えて,補償金額の相当性に関わらず,再開発組合側は,供託をした上で明渡しの手続を受けることが可能です。

  適切な補償金額の見通しを付けた上で,再開発組合との交渉に臨み,裁決の申請まで求めるかを見極める必要があるでしょう。

5 まとめ

  手慣れた再開発担当者を相手に保証金額の交渉をするのは,一般の方には非常に困難と思われます。実際に,非常に低廉な金額で,明渡しに同意してしまった例も数多く見受けられるところです。

  住居に関する補償は,生活上も最も重要な損失補償となります。経験のある弁護士等専門家への相談をお薦めします。当事務所事例集1512番1649番等もご参照下さい。


【参照条文】
≪都市再開発法≫
(目的)
第一条  この法律は、市街地の計画的な再開発に関し必要な事項を定めることにより、都市における土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新とを図り、もつて公共の福祉に寄与することを目的とする。
(認可)
第十一条  第一種市街地再開発事業の施行区域内の宅地について所有権又は借地権を有する者は、五人以上共同して、定款及び事業計画を定め、国土交通省令で定めるところにより、都道府県知事の認可を受けて組合を設立することができる。
2  前項に規定する者は、事業計画の決定に先立つて組合を設立する必要がある場合においては、同項の規定にかかわらず、五人以上共同して、定款及び事業基本方針を定め、国土交通省令で定めるところにより、都道府県知事の認可を受けて組合を設立することができる。
3  前項の規定により設立された組合は、国土交通省令で定めるところにより、都道府県知事の認可を受けて事業計画を定めるものとする。
4  第七条の九第二項の規定は前三項の規定による認可に、同条第三項の規定は第一項又は第二項の規定による認可について準用する。この場合において、同条第二項中「施行地区となるべき区域」とあるのは、「施行地区となるべき区域(第十一条第三項の規定による認可の申請にあつては、施行地区)」と読み替えるものとする。
5  組合が施行する第一種市街地再開発事業については、第一項又は第三項の規定による認可をもつて都市計画法第五十九条第四項 の規定による認可とみなす。第七条の九第四項ただし書の規定は、この場合について準用する。

(宅地の所有者及び借地権者の同意)
第十四条  第十一条第一項又は第二項の規定による認可を申請しようとする者は、組合の設立について、施行地区となるべき区域内の宅地について所有権を有するすべての者及びその区域内の宅地について借地権を有するすべての者のそれぞれの三分の二以上の同意を得なければならない。この場合においては、同意した者が所有するその区域内の宅地の地積と同意した者のその区域内の借地の地積との合計が、その区域内の宅地の総地積と借地の総地積との合計の三分の二以上でなければならない。
2  第七条の二第五項の規定は、前項の規定により同意を得る場合について準用する。



(審査委員)
第四十三条  組合に、この法律及び定款で定める権限を行なわせるため、審査委員三人以上を置く。
2  審査委員は、土地及び建物の権利関係又は評価について特別の知識経験を有し、かつ、公正な判断をすることができる者のうちから総会で選任する。
3  前二項に規定するもののほか、審査委員に関し必要な事項は、政令で定める。
(施設建築物の一部等)
第七十七条  権利変換計画においては、第七十一条第一項の申出をした者を除き、施行地区内に借地権を有する者及び施行地区内の土地に権原に基づき建築物を所有する者に対しては、施設建築物の一部等が与えられるように定めなければならない。組合の定款により施設建築物の一部等が与えられるように定められた参加組合員又は特定事業参加者に対しても、同様とする。
2  前項前段に規定する者に対して与えられる施設建築物の一部等は、それらの者が権利を有する施行地区内の土地又は建築物の位置、地積又は床面積、環境及び利用状況とそれらの者に与えられる施設建築物の一部の位置、床面積及び環境とを総合的に勘案して、それらの者の相互間に不均衡が生じないように、かつ、その価額と従前の価額との間に著しい差額が生じないように定めなければならない。この場合において、二以上の施設建築敷地があるときは、その施設建築物の一部は、特別の事情がない限り、それらの者の権利に係る土地の所有者に前条第一項及び第二項の規定により与えられることと定められる施設建築敷地に建築される施設建築物の一部としなければならない。
3  宅地の所有者である者に対しては、その者に与えられる施設建築敷地に第八十八条第一項の規定により地上権が設定されることによる損失の補償として施設建築物の一部等が与えられるように定めなければならない。
4  権利変換計画においては、第一項又は前項の規定により与えられるように定められる施設建築物の一部等以外の部分は、施行者に帰属するように定めなければならない。
5  権利変換計画においては、第七十一条第三項の申出をした者を除き、施行地区内の土地に権原に基づき建築物を所有する者から当該建築物について借家権の設定を受けている者(その者がさらに借家権を設定しているときは、その借家権の設定を受けた者)に対しては、第一項の規定により当該建築物の所有者に与えられることとなる施設建築物の一部について、借家権が与えられるように定めなければならない。ただし、当該建築物の所有者が第七十一条第一項の申出をしたときは、前項の規定により施行者に帰属することとなる施設建築物の一部について、借家権が与えられるように定めなければならない。
律第四号)又は民事保全法 (平成元年法律第九十一号)の特例その他必要な事項を、その補償金等の裁判所以外の配当手続を実施すべき機関への払渡し及びその払渡しがあつた場合における滞納処分に関しては、政令で国税徴収法 (昭和三十四年法律第百四十七号)の特例その他必要な事項を定めることができる。
     第四款 土地の明渡し

(占有の継続)
第九十五条  権利変換期日において、第八十七条の規定により失つた権利に基づき施行地区内の土地又は建築物を占有していた者及びその承継人は、次条第一項の規定により施行者が通知した明渡しの期限までは、従前の用法に従い、その占有を継続することができる。ただし、第六十六条の規定の適用を妨げない。
(土地の明渡し)
第九十六条  施行者は、権利変換期日後第一種市街地再開発事業に係る工事のため必要があるときは、施行地区内の土地又は当該土地にある物件を占有している者に対し、期限を定めて、土地の明渡しを求めることができる。
2  前項の規定による明渡しの期限は、同項の請求をした日の翌日から起算して三十日を経過した後の日でなければならない。
3  第一項の規定による明渡しの請求があつた土地又は当該土地にある物件を占有している者は、明渡しの期限までに、施行者に土地若しくは物件を引き渡し、又は物件を移転しなければならない。ただし、第九十一条第一項又は次条第三項の規定による支払がないときは、この限りでない。
4  前条の規定により建築物を占有する者が施行者に当該建築物を引き渡す場合において、当該建築物に、第六十六条第七項の承認を受けないで改築、増築若しくは大修繕が行われ、又は物件が付加増置された部分があるときは、第八十七条第二項の規定により当該建築物の所有権を失つた者は、当該部分又は物件を除却して、これを取得することができる。
5  第一項に規定する処分については、行政手続法第三章 の規定は、適用しない。
(土地の明渡しに伴う損失補償)
第九十七条  施行者は、前条の規定による土地若しくは物件の引渡し又は物件の移転により同条第一項の土地の占有者及び物件に関し権利を有する者が通常受ける損失を補償しなければならない。
2  前項の規定による損失の補償額については、施行者と前条第一項の土地の占有者又は物件に関し権利を有する者とが協議しなければならない。
3  施行者は、前条第二項の明渡しの期限までに第一項の規定による補償額を支払わなければならない。この場合において、その期限までに前項の協議が成立していないときは、審査委員の過半数の同意を得、又は市街地再開発審査会の議決を経て定めた金額を支払わなければならないものとし、その議決については、第七十九条第二項後段の規定を準用する。
4  第二項の規定による協議が成立しないときは、施行者又は損失を受けた者は、収用委員会に土地収用法第九十四条第二項 の規定による補償額の裁決を申請することができる。
5  第八十五条第二項及び第三項、第九十一条第二項及び第三項、第九十二条並びに第九十三条の規定は、第二項の規定による損失の補償について準用する。
(土地若しくは物件の引渡し又は物件の移転の代行及び代執行)
第九十八条  第九十六条第三項の場合において次の各号の一に該当するときは、市町村長は、施行者の請求により、土地若しくは物件を引き渡し、又は物件を移転すべき者に代わつて、土地若しくは物件を引き渡し、又は物件を移転しなければならない。
一  土地若しくは物件を引き渡し、又は物件を移転すべき者がその責めに帰することができない理由によりその義務を履行することができないとき。
二  施行者が過失がなくて土地若しくは物件を引き渡し、又は物件を移転すべき者を確知することができないとき。
2  第九十六条第三項の場合において土地若しくは物件を引き渡し、又は物件を移転すべき者がその義務を履行しないとき、履行しても十分でないとき、又は履行しても明渡しの期限までに完了する見込みがないときは、都道府県知事等は、施行者の請求により、行政代執行法 (昭和二十三年法律第四十三号)の定めるところに従い、自ら義務者のなすべき行為をし、又は第三者をしてこれをさせることができる。
3  前項の場合において、都道府県知事等は、義務者及び施行者にあらかじめ通知した上で、当該代執行に要した費用に充てるため、その費用の額の範囲内で、義務者が施行者から受けるべき前条第一項の補償金を義務者に代わつて受けることができる。
4  施行者が前項の規定に基づき補償金の全部又は一部を都道府県知事等に支払つた場合においては、この法律の適用については、施行者が都道府県知事等に支払つた金額の限度において、前条第一項の補償金を支払つたものとみなす。
(費用の徴収)
第九十九条  市町村長は、前条第一項の規定により土地若しくは物件を引き渡し、又は物件を移転するに要した費用を第九十六条第三項の規定により土地若しくは物件を引き渡し、又は物件を移転すべき者から徴収するものとする。
2  前条第三項及び第四項の規定は、市町村長が前項の規定によつて費用を徴収する場合に準用する。
3  市町村長は、第一項に規定する費用を前項において準用する前条第三項の規定によつて徴収することができないとき、又は徴収することが適当でないと認めるときは、第一項に規定する者に対し、あらかじめ、納付すべき金額、納付の期限及び場所を通知して、これを納付させるものとする。
4  市町村長は、前項の規定によつて通知を受けた者が同項の規定によつて通知された期限を経過しても同項の規定により納付すべき金額を完納しないときは、督促状によつて納付すべき期限を指定して督促しなければならない。
5  前項の規定による督促を受けた者がその指定の期限までに第三項の規定により納付すべき金額を納付しないときは、市町村長は、国税滞納処分の例によつて、これを徴収することができる。この場合における徴収金の先取特権の順位は、国税及び地方税に次ぐものとする。


【参考判例】
(東京高裁平成11年7月22日判決)
ところで、権利変換処分があったときは、施行者が権利変換期日において施行地区内の建物の所有権を取得し、借家権その他の建物を目的とする所有権以外の権利は、原則として、消滅する(法八七条二項)。そして、施行者は、市街地再開発事業の工事のため必要があるときは、施行地区内の建物の占有者に対し、期限を定めて、土地の明渡しを求めることができ(法九六条一項)、この請求を受けた占有者は、明渡しの期限までに、施行者に建物を引き渡さなければならない(同条三項)。占有者がその義務を履行しないときは、都道府県知事は、施行者の請求により、行政代執行法の定めに従い、代執行をすることができる(法九八条二項)。これは、市街地再開発事業の推進を図るという公共の利益を実現するため、市街地再開発事業について認可、監督等の権限を有する都道府県知事に、民事訴訟手続による債務名義を得ることなく、簡易迅速に占有者を退去させる権限を認めたものである。したがって、代執行をするかどうかは、第三者である都道府県知事の判断に委ねられており、施行者自ら代執行をすることはできない。
 施行者は、市街地再開発事業の実施主体であるが、権利変換処分により施行地区内の建物の所有権という私法上の権利を取得するという面では、私法上の権利の主体でもある。控訴人は、施行者は建物の所有権を取得しているが、所有権に基づく明渡請求をすることは許されないと主張する。そうすると、施行者は、自ら代執行をすることはできないから、自己の権利を実現するには、第三者である都道府県知事による代執行を待つしか方法がないことになる。これは、所有者が自らの判断と責任で自己の権利を実現することを認めないということを意味する。本来所有権は、その行使につき他人の制肘を受けないことをもって、その本質的要素とするものであるから、控訴人の主張は、封建制を克服して成立した近代私法の体系に合致しないものであって、採用することができない。
 したがって、法が都道府県知事に代執行の権限を認めているからといって、これが、施行者が所有者として自らの判断により所有者に基づく明渡請求をすることまで否定する趣旨であると解することはできない。

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