新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1661、2016/01/08 12:00 https://www.shinginza.com/qa-hanzai.htm

【刑事、罪証隠滅の現実的可能性、最決平成26年11月17日判時2245号124頁、無実弁護の方法】

否認事件における勾留

質問:
今日,警察署から電話がありまして,「私の夫が電車内で痴漢をして逮捕された」と言われました。ただし,私の夫は痴漢などしていない,と言っているようです。
 一応,私からは会社に連絡をして,「体調不良で暫く出社できない」とは伝えていますが,それもいつまで信じてもらえるか分かりませんし,休みが続けば解雇も十分にあり得ると思っています。
 今後,どのようにすれば良いのでしょうか。夫も,私も刑事事件など初めてですので,心配です。
 また,弁護士の知人に相談したところ,「もし,行為を否定しているのであれば,暫くは出てこられないと思う。」と言われましたが,本当でしょうか。

回答:

すぐに弁護士に面会をしてもらい,詳しい事情を聴くべきです。

 現在旦那様は逮捕され容疑を否認しているということなので,このままにしておくと10日以上(場合によっては20日以上)も勾留という身体拘束を受けることになってしまいます。そのため,勾留からの解放を目指す弁護活動を一刻も早く開始するべきなのです。

 勾留の要件は,刑事訴訟法上,@犯罪の嫌疑,A勾留の理由,B勾留の必要と規定されていますが,主に問題となるのは,A勾留の理由として挙げられている,「被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき」,「被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき」という要件です。

 これらのいずれかに該当する場合,勾留の理由が認められるのですが,確かに,これまでの裁判所の運用では,特に本件のようにご主人が犯行を否定しているような場合,かなり広くこれらの該当性を認めてきました。

 しかし,後述の最高裁による決定を受けて,かなり運用も変わってきた印象です。

 詳細は下記解説を参照いただければと思いますが,上記「相当な理由があるとき」を抽象的な危険性ではなく,具体的・現実的な可能性と解釈するようになってきています。

 そのため,単に否認しているからといって身柄の早期解放を諦めるのではなく,出来る限りの対応を採る必要があります。

 時間的な制限が極めて厳しいので,すぐにでも専門家にご相談ください。

 なお,本件に関連するものとして,本ホームページ事例集1536番1466番1430番1396番1371番1262番1142番1077番も併せてご参照ください。

解説:

1 今後の流れ

(1)電車内の「痴漢」の場合,疑われている犯罪としては,各都道府県のいわゆる迷惑防止条例(東京都の場合,「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」)か,あるいは強制わいせつ罪(刑法176条)が考えられるところです。

   両者は,基本的に(疑われている)行為態様によって区別されている(強制わいせつ罪の成立には,「被害者の反抗の抑圧」が要求されます。)ため,いずれの犯罪が疑われているか,という点については,実際に行為態様を確認しなければ判然としないところです。本人と面会して行為態様を確認するとともに、警察の担当者から逮捕容疑を確認して明らかにする必要があります。

   両者の区別等についての詳細は,本ホームページ事例集1323番をご参照ください。

   以下では,発生数の多い迷惑防止条例違反が疑われている場合を想定してご説明します。

(2)本件の場合,「今日逮捕された」という事ですので,今後ご主人は@逮捕,A検察官送致,B検察官による勾留請求,C裁判官による勾留決定,D勾留,E検察官による勾留延長請求,F裁判官による勾留延長決定,G勾留延長,H検察官による起訴・不起訴の決定,I正式に起訴された場合には裁判(判決)という流れをたどることになります。

   各段階の期間ですが,@逮捕からC検察官による勾留請求までが最大3日間,C勾留請求からD勾留は最大20日間,G勾留延長期間は最大10日間,となります。

   東京都の場合,@逮捕の翌日にB検察官により勾留請求され,その翌日にC裁判官により勾留決定されることが基本的な運用となっているようです。

(3)もちろん,この流れは最悪の場合を想定したものです。実際にはB検察官が勾留請求(ないしE勾留延長請求)をしない,C裁判官が勾留をしない決定(ないしF勾留延長をしない決定)をする,ということがありますし,またC及びFの裁判官による勾留延長決定については不服の申し立て(準抗告)が可能です。

   これらの場合(勾留や延長の決定に対しては準抗告が認められた場合),その時点で身体拘束は解かれることになります。

   もっとも,(まだ旦那様の主張ははっきりしませんが)本件のように犯行を否定している場合は,C検察官による勾留請求(ほとんどの場合E勾留延長請求も含む)は通常なされ,これに対するC裁判官の勾留決定(及びF勾留延長決定)もなされてしまうことがこれまで圧倒的に多い状況でした。

   犯行を否定すること(否認すること)と,勾留が認められてしまうことの関連については後述いたします。

(4)ただ,近年において,いわゆる「痴漢」事件の場合,裁判所が勾留を認めないケースが増えてきましたし,後述の最高裁判例では,痴漢の否認事件において勾留を認めない決定がなされています。

   そこで,以下では,ご主人が痴漢をしていないこと,否認をすることを前提として,主に勾留に関する対応をご説明いたします。

2 勾留の要件

(1)勾留が認められるための要件は,刑事訴訟法60条1項に規定があります。具体的には,@「被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合」(同条本文)で,A「被告人が定まつた住居を有しないとき」,「被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき」,「被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき」のいずれかに該当すること(同条1項各号)となります。

   これらの要件は,それぞれ@犯罪の嫌疑,A勾留の理由,と言われていますが,この犯罪の嫌疑と勾留の理由に加えて,B「勾留の必要」も要件であると考えられています。B「勾留の必要」とは,刑事訴訟法87条1項から導かれたもので,勾留という意に反する身体拘束をする以上,身体拘束によって生じる不利益と,身体拘束をする利益とが均衡していなければならない(身体拘束される不利益が身体拘束する利益を大きく超えてはいけない),というものです。

(2)これらの要件を充足する場合に,勾留が認められることになります。以下,各要件について若干の説明をいたします。


 ア まず,@犯罪の嫌疑があることについてですが,あくまでも「疑うに足りる相当な理由」ですから,刑事処分に相当する,つまり「有罪」になるかどうか,というかなり緩い制限となります。

   第1審で無罪判決が出て,検察官により控訴された場合の勾留における,犯罪の嫌疑の要件該当性が争われた事案でも,犯罪の嫌疑の要件を充足している,と判断された判例もあります(最決平成19年9月28日最高裁判所刑事判例集61巻9号843頁)ので,「疑うに足りる相当な理由」を認定するハードルが低いことは明白です。

   例えば,本件で,ご主人が犯行を否定していたとしても,「被害者」による被害申告によってその場で逮捕されているような場合には,通常「疑うに足りる相当な理由」がある,と判断されてしまう可能性が高い,ということになります。

   逆にいえば,犯罪の嫌疑があるということと,犯罪の成立すなわち有罪の認定とは直ちに関係がない,ということになりますので,仮に勾留が認められてしまったとしても,有罪認定を受けた訳ではない,ということになります。


 イ 続いて,A勾留の理由があること,ですが,通常この要件の該当性が問題となります。そのうち「定まった住居」の有無は(基本的には)一義的に定まるものですから,「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」と「被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由」の有無が問題となるのです。

   これらの各要件は,通常「罪証隠滅のおそれ」,「逃亡のおそれ」と記載されています。「おそれ」とは,「虞」と書くもので,実際,旧刑事訴訟法はこれらの要件に「虞」という文言を使用していました。

そして,「虞」とは,「よくないことが起こるかもしれないという心配や懸念」を意味します。

   すなわち,これまでは「罪証を隠滅するかもしれない」あるいは「逃亡するかもしれない」という心配があれば,これらの各要件を充足していると判断されていた,ということになります。

   本件のような否認事件の場合,勾留が認められる傾向にありますが,これは,裁判所が「罪を認めないということは,罪を認めて反省している人に比べて,罪を免れるために,証人に接触したり,逃亡したりするおそれがある」と考えることによります。

   しかし,最近はこの傾向が変わってきました。そもそも,現行の刑事訴訟法の表現である「疑うに足りる相当な理由」は「おそれ(かもしれないという心配)」とは異なります。字義からしても,明らかに「おそれ」の方が,抽象度が高いものです。

   そのため,「疑うに足りる相当な理由」に関するこれまでの裁判所(ひいては検察官)の運用について批判がなされており,また近年は,実際に勾留を容易に認めない傾向に運用が変わってきている,という印象でした。

   この点を明確にした最高裁決定があります。

   最決平成26年11月17日判時2245号124頁の事案は,本件と同様,被疑者が迷惑防止条例において否認していた場合の勾留の適法性,具体的には「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」の有無について争われました。

   この決定では,「罪証隠滅の現実的可能性」を要求した上で,「本件事案の性質に加え,本件が京都市内の中心部を走る朝の通勤通学時間帯の地下鉄車両内で発生したもので,被疑者が被害少女に接触する可能性が高いことを示すような具体的な事情がうかがわれないこと」と判示しました。

   ここで重要なのは,「現実的可能性」を要求したことです。つまり,罪証隠滅の漠然とした「おそれ」では足りず,ある程度「現実的」すなわち事実に則した具体的な罪証隠滅の可能性の存在が必要だ,としたことです。

   この最高裁判所の決定は,上記現行の刑事訴訟法における勾留の要件である「罪証隠滅を疑うに足りる相当な理由」をその本来の字義どおりに解釈したものでありますが,これまでの勾留に関する裁判所の運用からすると,かなり踏み込んだ決定であるといえます。

   この決定と本件との関係については,後述します。


 ウ 最後にB勾留の必要性ですが,B勾留の必要性とは,利益と不利益の考慮,ということになるので,具体的な事件に存在している勾留による利益(捜査の便宜や,証拠隠滅,逃亡の回避)と勾留による不利益(会社に行けないこと,小さい子ども等の保護するべき家族がいること等)を挙げて,相対的に判断されます。

   そのため,たとえば,A勾留の理由で挙げた「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」が小さいような場合には,勾留することによって得られる利益が小さくなり,相対的に勾留によって生じる不利益の方が大きくなるため,勾留の必要性がない,と判断されることになります。

   現に,上記で挙げた最高裁決定は罪証隠滅について判断したものですが,A勾留の理由ではなく,B勾留の必要性がないとして検察官による勾留請求を却下したものです。

   また,例えば勾留が続くと勤務先を解雇されるという不利益や,家族を扶養できない,保護できないという不利益は,そのままは「逃亡すると疑うに足りる相当な理由」がないことにもつながります。

   したがって,A勾留の理由(特に「逃亡すると疑うに足りる相当な理由」)とB勾留の必要は,判断枠組みこそ異なるものの,主張するべき事実はある程度共通する,ということになります。


3 否認事件における勾留の具体的な争い方

(1)採るべき各手続

 ア 以上を前提として,本件において弁護士が身柄解放に向けて採るべき対応を説明していきます。

 イ まず,逮捕後,すぐにご主人と面会できるのは,弁護士だけです。そのため,弁護士は一刻も早く身柄拘束をされている警察署に行き,面会(接見)をした上で,ご主人から逮捕されるまでの経緯や,意向(行為を否認するのかどうか等)を確認することが必要です。

   また,その際には,自らは無罪であるが,逃亡も罪証隠滅をせず,取調べには応じる,という内容の裁判所及び検察庁宛の誓約書を書いてもらうことも必要です。他にも,本件のように通勤中の犯罪が疑われているのであれば,疑いが晴れるまで通勤ルートを変更する旨の誓約をすることも考えられるところです。

   更に,同居している(であろう)あなたにも,ご主人の身元引受人となる旨の誓約書を書いてもらうことも重要です。

   なお,勤務先についてですが,当面はあなたのした病欠の通知で問題有りませんが,万が一身体拘束期間が長引くようであれば,無罪を主張していることを説明した上で配慮(あるいは協力)を求める事も考えられるところです(この点は勤務先によっても異なります)。

 ウ 逮捕後,検察官に事件が送致された後は,検察官に対して勾留の請求をしないことを求める意見を提出し,交渉することになります。

   しかし,本件のような否認事件の場合,基本的に検察官は勾留を請求するため,意見が奏功することはあまりありません。

 エ 検察官による勾留請求がなされてしまった場合には,裁判官に対して,勾留請求を却下することを求める意見を提出した上で,交渉をすることになります。主張するべき内容は後述いたしますが,基本的には各手続で共通,ということになります。

 オ 仮に,裁判官により勾留請求を認める決定がなされた場合は,不服申立て手段として,準抗告をすることが考えられます(刑事訴訟法429条1項2号)。また,準抗告と並行して,勾留の理由の開示を求める手続(勾留理由開示請求:刑事訴訟法82条)を採ることも考えられるところです。

 エ その後,勾留延長の場面に関しても,上記同様の意見提出や不服申立て手続きをすることになります。

   なお,上記のとおり,東京では逮捕の翌日に検察官送致,その日のうちに検察官による勾留請求,翌日の午前中には裁判官による勾留の判断,という流れをたどる(地方では,勾留請求と同日に勾留判断がなされるところも多い)ため,本当に短い時間で資料集め,各意見の提出,交渉をしなければなりません。そのため,身柄拘束を伴う刑事事件は,初動をいかに早くするか,が重要になります。

(2)主張内容

 ア 犯罪の嫌疑に関する主張

   本件のような否認事件の場合,犯罪の嫌疑に関しては,当然これを否定することになります。

   ただし,上記のとおりこの要件はかなり広く充足が認められているため,「勝負所」は後述の勾留の理由の不存在,ということになります。

   犯罪の嫌疑に関する主張で重要なのは,主張を変遷させないことです。そのため,本人としては,やっていない旨だけ告げた上で,その他の事項について黙秘を通し,主張は弁護人からの書面や上申書による,ということも検討するべきです。

 イ 勾留の理由に関する主張

   まず,「被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき」という要件に関する主張ですが,上記の最高裁決定に従い,「(具体的な)現実的可能性」がないことを示すことが必要です。

   本件のような通勤途中の痴漢事件の場合,基本的に「罪証」とは被害者(あるいは目撃者)の証言です。上記のとおりこれまでは,「否認している以上,被害者に接触して証言を有利なものとするように働きかけるおそれ」があると容易に勾留が認められてきましたが,このような抽象的なおそれでは要件を充足しない,現実にはそのような接触は考えられない,という主張が重要です。

   具体的に挙げるべき事情としては,ご主人が被害者とされている人の情報を知らない,という点がまず考えられるところです。名前も知らず,逮捕時に初めて会ったような人に,現実的に接触などできない,という主張になります。

   上記最高裁決定では,通勤電車で会った(名前も知らない)被害者に被疑者が接触して働きかけるという現実的な可能性はない,という旨判断しています。

   他にも,既に被害者や目撃者の取調べが終了しており,供述が確保されているため,その場合,働きかけをしても証言が変わらないので罪証隠滅という結果を生じさせる可能性はない

   次に,「被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由」がない,という主張ですが,疑われている罪が軽いこと,定職があり,同居し,生活を共にする家族がいること,持ち家に住んでいる事等が,一般的に主張するべき有利な事情となります。

 ウ 勾留の必要に関する主張

   上記のとおり,勾留の必要については,事件ごとの事情から相対的に判断されます。

   罪証隠滅や逃亡の可能性が低い旨の主張は,そのまま勾留によって捜査機関が得られる利益の小ささを示すことになりますから,勾留の必要に関するこちらからの主張としては,いかに勾留という身体拘束によって生じる不利益が大きいか,ということになります。

   本件のような場合においては,やはり身体拘束が続くと,勤務先解雇の可能性が高い,ということが挙げられると思います。

 エ 小括

   いずれにしても,主張は一般化できるものではなく,事件や家庭環境,生活環境,前科前歴等によって異なるため,まずは一刻も早く事情を聞き,柔軟に対応していく必要があるところです。

4 不起訴に向けた活動について

  もちろん,勾留が解かれただけでは,事件自体は解決していません。刑事処分を受けて,前科がつかないようにする必要があります。具体的には,検察官による不起訴処分を目指すことになります。

  本件のような電車内における痴漢の否認事件の場合,こちらから積極的に証拠収集をおこなう,ということは難しいところ(別途目撃者を捜す等は考えられます)ですので,検察官の立証が不十分であることを説得的に検察官に説明していくことが求められます。そのためには本人から詳細な事実関係を聞き取り書面化しておく必要があります。その事実関係を捜査機関に明らかにして、相手方捜査機関の反論を誘発して、矛盾を突くという高度な方法がありますが、これはまず弁護人が捜査機関との信頼関係を作り、捜査機関の手持ち証拠を引き出せる状況形成、渡り合う経験が必要となりますので緻密な弁護手続、方法を弁護人と何度も協議する必要があります。上記事務所関連事例集参照。

  なお,全く別のアプローチとして,否認をしたまま示談交渉を行い,不起訴処分を目指すという方法も,事件によって考えられるところですが,当然示談をすることで犯行を認めないようにしながら,かつ被害者とされる人との和解と宥恕を目指さなければならないため,困難を伴うことになります。

 被疑者としては、現在確保している証拠で無実の判決を勝ち取れる可能性がどの程度あるかを弁護人の意見を聞いて最終的に判断し、罪を認め起訴猶予を目標とする方法に変更する勇気も必要とされる場面があります。いくら無実と叫んでも、公判で主張が通る現実的可能性がなければすべてを失う危険もあるからです(刑事処分と職場の懲戒処分)。弁護人としても、証拠収集に全力を挙げ早期にその点を判断する必要があります。被疑者が無実を主張する以上全て公判で争うという方針は結果的に被疑者の起訴猶予による不処分の利益を奪うことになりかねないからです。どのような状況でも被疑者の最大限の利益を守る責任が弁護人には求められると思います。

  いずれにしても,専門家にご相談ください。

【参考判例】
最決平成26年11月17日判時2245号124頁
「本件被疑事実の要旨は,「被疑者は,平成26年11月5日午前8時12分頃から午前8時16分頃までの間,京都市営地下鉄烏丸線の五条駅から烏丸御池駅の間を走行中の車両内で,当時13歳の女子中学生に対し,右手で右太腿付近及び股間をスカートの上から触った」というものである。
 原々審は,勾留の必要性がないとして勾留請求を却下した。これに対し,原決定は,「被疑者と被害少女の供述が真っ向から対立しており,被害少女の被害状況についての供述内容が極めて重要であること,被害少女に対する現実的な働きかけの可能性もあることからすると,被疑者が被害少女に働きかけるなどして,罪体について罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があると認められる」とし,勾留の必要性を肯定した。
 被疑者は,前科前歴がない会社員であり,原決定によっても逃亡のおそれが否定されていることなどに照らせば,本件において勾留の必要性の判断を左右する要素は,罪証隠滅の現実的可能性の程度と考えられ,原々審が,勾留の理由があることを前提に勾留の必要性を否定したのは,この可能性が低いと判断したものと考えられる。本件事案の性質に加え,本件が京都市内の中心部を走る朝の通勤通学時間帯の地下鉄車両内で発生したもので,被疑者が被害少女に接触する可能性が高いことを示すような具体的な事情がうかがわれないことからすると、原々審の上記判断が不合理であるとはいえないところ,原決定の説示をみても,被害少女に対する現実的な働きかけの可能性もあるというのみで,その可能性の程度について原々審と異なる判断をした理由が何ら示されていない。
 そうすると,勾留の必要性を否定した原々審の裁判を取消して,勾留を認めた原決定には,刑訴法60条1項,426条の解釈適用を誤った違法があり,これが決定に影響を及ぼし,原決定を取り消さなければ著しく正義に反するものと認められる。 
 よって,刑訴法411条1号を準用して原決定を取り消し,同法434条,426条2項により更に裁判をすると,上記のとおり本件について勾留請求を却下した原々審の裁判に誤りがあるとはいえないから,本件準抗告は,同法432条,426条1項により棄却を免れず,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。」

【参照条文】
刑事訴訟法
第六十条  裁判所は、被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で、左の各号の一にあたるときは、これを勾留することができる。
一  被告人が定まつた住居を有しないとき。
二  被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
三  被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
2  勾留の期間は、公訴の提起があつた日から二箇月とする。特に継続の必要がある場合においては、具体的にその理由を附した決定で、一箇月ごとにこれを更新することができる。但し、第八十九条第一号、第三号、第四号又は第六号にあたる場合を除いては、更新は、一回に限るものとする。
3  三十万円(刑法 、暴力行為等処罰に関する法律(大正十五年法律第六十号)及び経済関係罰則の整備に関する法律(昭和十九年法律第四号)の罪以外の罪については、当分の間、二万円)以下の罰金、拘留又は科料に当たる事件については、被告人が定まつた住居を有しない場合に限り、第一項の規定を適用する。
第八十二条 勾留されている被告人は、裁判所に勾留の理由の開示を請求することができる。
2  勾留されている被告人の弁護人、法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族、兄弟姉妹その他利害関係人も、前項の請求をすることができる。
3  前二項の請求は、保釈、勾留の執行停止若しくは勾留の取消があつたとき、又は勾留状の効力が消滅したときは、その効力を失う。
第八十七条 勾留の理由又は勾留の必要がなくなつたときは、裁判所は、検察官、勾留されている被告人若しくはその弁護人、法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族若しくは兄弟姉妹の請求により、又は職権で、決定を以て勾留を取り消さなければならない。
2  第八十二条第三項の規定は、前項の請求についてこれを準用する。
第二百七条  前三条の規定による勾留の請求を受けた裁判官は、その処分に関し裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。但し、保釈については、この限りでない。
2  前項の裁判官は、第三十七条の二第一項に規定する事件について勾留を請求された被疑者に被疑事件を告げる際に、被疑者に対し、弁護人を選任することができる旨及び貧困その他の事由により自ら弁護人を選任することができないときは弁護人の選任を請求することができる旨を告げなければならない。ただし、被疑者に弁護人があるときは、この限りでない。
3  前項の規定により弁護人の選任を請求することができる旨を告げるに当たつては、弁護人の選任を請求するには資力申告書を提出しなければならない旨及びその資力が基準額以上であるときは、あらかじめ、弁護士会(第三十七条の三第二項の規定により第三十一条の二第一項の申出をすべき弁護士会をいう。)に弁護人の選任の申出をしていなければならない旨を教示しなければならない。
4  裁判官は、第一項の勾留の請求を受けたときは、速やかに勾留状を発しなければならない。ただし、勾留の理由がないと認めるとき、及び前条第二項の規定により勾留状を発することができないときは、勾留状を発しないで、直ちに被疑者の釈放を命じなければならない。
第四百二十九条 裁判官が左の裁判をした場合において、不服がある者は、簡易裁判所の裁判官がした裁判に対しては管轄地方裁判所に、その他の裁判官がした裁判に対してはその裁判官所属の裁判所にその裁判の取消又は変更を請求することができる。
一  忌避の申立を却下する裁判
二  勾留、保釈、押収又は押収物の還付に関する裁判
三  鑑定のため留置を命ずる裁判
四  証人、鑑定人、通訳人又は翻訳人に対して過料又は費用の賠償を命ずる裁判
五  身体の検査を受ける者に対して過料又は費用の賠償を命ずる裁判
2  第四百二十条第三項の規定は、前項の請求についてこれを準用する。
3  第一項の請求を受けた地方裁判所又は家庭裁判所は、合議体で決定をしなければならない。
4  第一項第四号又は第五号の裁判の取消又は変更の請求は、その裁判のあつた日から三日以内にこれをしなければならない。
5  前項の請求期間内及びその請求があつたときは、裁判の執行は、停止される。

法律相談事例集データベースのページに戻る

法律相談ページに戻る(電話03−3248−5791で簡単な無料法律相談を受付しております)

トップページに戻る