新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1647、2015/10/23 14:21 https://www.shinginza.com/qa-hanzai.htm

【刑事、起訴前の弁護方法、書類送検の送致書に記載する捜査官の意見について、犯罪捜査規範195条、事件を認知せずという取り扱い、微罪処分との区別】

送致書に記載する捜査機関の意見について


質問:先日万引きで検挙されてしまいました。被害額は数千円です。在宅で取り調べを受けています。私選の弁護士さんを依頼しましたが、なかなか被害者との示談が進みません。早く示談できませんかとお願いしたら、「同種前歴があって微罪処分にできないし、起訴するかどうか決めるのは検事だから送検されてから検事に対して情状資料を提出すれば良いんだよ」と言われました。本当に、警察署への弁護活動は必要無いのでしょうか。



回答:

1、 前科前歴があるため微罪処分にならないことは間違いありません。微罪処分の条件は、各都道府県警ごとに検察庁から指定がされていますが、おおむね「前科前歴のないこと」という条件が定められており、同種前歴がある場合に微罪処分ができないことになります。ただし、被害届が出ていない段階では、微罪処分に類似する事実上の取扱い方法として、「事件として認知しない」という取扱い方法がありますので、被害届出の有無を確認し、届出がないような場合は、これを目指して警察に対して弁護活動をする意義はあります。この取り扱いは判例には現れませんから弁護人が自ら弁護活動の中で実際に経験し方針を決めなければいけません。

2、 被害届け出が出ているため微罪処分とはならず、警察官が書類送検する場合でも、その段階での弁護活動には意義があります。警察官が検察官に書類送検する場合の送致書には、犯罪捜査規範195条で犯罪の情状に関する意見を記載する決まりになっています。この時の記載には、公判請求するべきである、略式命令請求すべきである、不起訴処分とするべきであるという三種類があり、この意見を記載することができます。検察官は、法律上この意見に従う必要はありませんが、意見は尊重されますから「不起訴処分」又は「略式命令請求」の処分を得るために、警察段階の弁護活動も極めて大事であると言えます。書類送検前に示談が成立すれば、不起訴相当又は略式命令相当の意見を記載して貰えるかもしれません。

3、 警察官に対して、処分を軽減する意見の記載書を求める場合の説明の仕方に関する考え方は、検察官に不起訴処分(起訴猶予処分)を求める場合の考え方と基本的に同じです。つまり、刑訴法248条に従って、「犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としない」ことを詳細に説明することが必要です。

4、 このように、警察段階の弁護活動を軽視することはできません。当事務所の私見ですが、軽微な事件になればなるほど、送致書の意見が重視される傾向があると思います。警察段階の弁護活動に精通した弁護士にも相談して、追加で私選弁護人を依頼することも検討なさって下さい。被疑者段階の弁護人は3名までと決められていますので、従来の弁護士が1名であれば追加で2名まで選任することができます。

5、 微罪処分等関連事例集 1642番1630番1608番1508番等参照。


解説:

1、 国家公安委員会規則である犯罪捜査規範198条で、「捜査した事件について、犯罪事実が極めて軽微であり、かつ、検察官から送致の手続をとる必要がないとあらかじめ指定されたものについては、送致しないことができる。」と規定されています。このように警察段階で捜査が終わり検察に送致しない処分を微罪処分と言います。
微罪処分の要件は、各都道府県警ごとに検察庁から指定がされていますが、おおむね「前科前歴のないこと」という条件が定められており、同種前歴がある場合に微罪処分ができない決まりになっていることは間違いありません。

---指定の例
(1) 被害額がわずかで(おおむね20,000円の範囲内 ,かつ,犯情軽微であり, )盗品等の返還その他被害の回復が行われ,被害者が処罰を希望せず,かつ,被疑者に前科・前歴がなく,素行不良者でない者の偶発的犯行であって,再犯のおそれのない窃盗,詐欺又は横領事件及びこれに準ずべき事由がある盗品等に関する事件
(2) 得喪の目的たる財物が極めてわずかで,かつ,犯情軽微であり,共犯者のすべてについて再犯のおそれのない初犯者の賭(と)博事件
(3) 検事正が特に指示した特定罪種である暴行罪の事件で犯情軽微であり,被害者が宥(ゆう)恕(じょ)し又は処罰を希望せず,かつ,被疑者が前科・前歴なく,素行不良者でない者の偶発的犯行であって,凶器未使用の態様が軽微なもの
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ただし、微罪処分に類似する事実上の取扱い方法として、「事件として認知しない」という取扱い方法がありますので、これを目指して警察に対して弁護活動をする意義はあります。

微罪処分というのは、警察署において正式に事件として認知した後に、一定の条件を満たす場合に捜査書類一式を検察官に送致しない手続きですが、事件として正式に認知する前の段階、つまり、正式に被害届が受理される前の段階で捜査を中止し、「事件を認知せず、または認知できず」という取扱いがなされることもあります。警察署の捜査の段階がどの段階にあるのか良く調べて、正式な事件認知の前段階であると分った場合は、被害者との示談書一式を添えて、被害者とのトラブルは全て解決済みであるので、事件としての認知を差し控えた方が加害者の更生に役立つと主張して、正式認知を回避してもらう可能性があるのです。被害届け出が正式に受理されていないようであれば、弁護士がこれについて努力すべきと言えるでしょう。


2、 被害届け出が受理されている場合は、微罪処分にできず、書類送検することになります。書類送検に際しては犯罪捜査規範195条で、犯罪の情状に関する意見を送致書に記載する決まりになっています。犯罪捜査規範というのは、警察法12条に基づき、独立行政委員会である国家公安委員会(内閣府外局)が規則という法形式で発令した行政命令であり、警察官の職務執行にあたり遵守すべきとされる法規範です。

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犯罪捜査規範第195条(送致書及び送付書)事件を送致又は送付するに当たつては、犯罪の事実及び情状等に関する意見を付した送致書又は送付書を作成し、関係書類及び証拠物を添付するものとする。
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この時に、公判請求するべきである、略式命令請求すべきである、不起訴処分とするべきである、という意見を送致書、送付書に記載することができますので、検察官による「不起訴処分」又は「略式命令請求」の処分を得るために、警察段階の弁護活動も極めて大事であると言えます。書類送検前に示談が成立すれば、不起訴相当又は略式命令相当の意見を記載して貰えるかもしれません。また、弁護人としては示談が成立していない場合でも、示談成立に向けてどのような態度で示談交渉に臨んでいるかを担当の警察官に説明することが有効です。たとえば現在の被害弁償金の提示額を示し、これはすでに弁護士に預託しているので何時でも弁済可能な状態であることなどを説明します。警察官に対して、被疑者にとって有利な個別事情を詳細に説明する必要があります。

具体的に言えば、被疑者が刑罰法規違反行為をしてしまったことには、事件当時、被疑者がどのような状況に置かれていて、どのような精神状態にあったために事件が起きてしまったのかということを説明する必要があります。万引き事案は経済犯ではありますが、近年、経済的に困窮したために生活必需品を窃取するという行為態様よりも、社会生活上のストレスが重くなって、判断能力が低下してしまったり、ストレスを軽減させるためのやむを得ない手段として行われる事例が多くなっています。そこで、万引きが発生してしまった原因を分析し、被疑者の社会生活上のストレスの状況を説明したり、被疑者が精神疾患の状況におかれていたのであればこれがどの程度の疾患で、治療の状況はどうなっているか、詳細に説明する必要があります。精神疾患について医師の診断書があれば提出すべきでしょう。原因と結果が明確になれば、それぞれの対策を行うことで再犯の防止が明確になるというわけです。

3、 弁護人が警察官に対して、送致書に記載する意見に関して、できるだけ軽い処分にするような意見の記載を要望する場合の警察官に対する説明の仕方は検察官に不起訴処分(起訴猶予処分)を求める場合の説明の仕方と基本的に同じです。つまり、検察官の起訴裁量を定めた刑訴法248条の条件を詳細に説明することになります。

刑訴法248条 犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。

それぞれの項目別に見ていきます。これらの事情を、弁護人の「上申書」「意見書」という形で、警察署宛にも提出するべきです。

犯人の性格、、、これは被疑者の経歴や生い立ちを簡単に説明し、普段の生活態度から現れる性格や気質を説明します。善良な市民である、真面目な性格である、などということを説明します。

犯人の年齢及び境遇、、、これは被疑者の社会生活上の地位などを記載します。どのような社会生活を送っているか説明します。勤続○年の会社員で、○○の肩書で、○○の業務を行っている、などと説明します。中間管理職で、残業時間が増えていて疲労していた。職場の特殊な事情で、仕事が集中していたこと、逆に天災などで急に円滑な業務ができなくなり困っていた事などを説明します。離婚問題など家庭環境に異変があって精神的に疲弊していた事情があれば、詳細に説明します。


犯罪の軽重、、、これは同じ罪名の中でも、被害額が少ないことを説明します。被害弁償がなされているかどうかも説明します。万引きであれば、被害品の買い取りが完了しているかどうか。被害店舗の方針で示談できなくても、買い取りだけは出来る場合もあります。被害回復がなされているかどうかは重要なポイントになります。

犯罪の犯情、、、これは計画的な行為ではなく、ストレスなどによる瞬間的な出来心の犯罪行為であることなど、動機を中心に説明します。当初から予定されていた計画的犯行ではなく,精神安定剤や飲酒による相乗効果から偶発的・衝動的に行ってしまったものであり,動機についてそこまで悪質性が高いわけではない、などと記載します。被害者のストレスの原因や内容を説明し、それが犯罪行為につながってしまった因果関係を説明します。また、事件後に、被疑者がストレスを軽減するための工夫に取り組んでおり、どのような形で実効性をあげているかということを説明します。

犯罪後の情況、、、これは、検挙後に申し訳ないことをしてしまったと反省していることを説明します。反省しているので、被害者に対して謝罪申し入れを行い、被害弁償のための提案を行っていることなどを説明します。示談が成立しているのであれば示談書の内容を報告し、また、被害者からの被害届取下げ書や、被害者からの処罰を求めない宥恕(罪を許すこと)の上申書を添付したりします。被疑者のストレスを改善し、精神疾患を改善させるためにどのような努力を継続しているか説明します。同居家族や、遠方でも家族親族が協力してくれるのであれば、家族親族の監督がどのようにしておこなわれて、どのような効果が期待できるのか、説明します。再犯の可能性が無くなっていることを詳細に説明します。家族(両親、祖父母等)の身元引受書が必要になります。


4、 以上のようにたとえ検察官に事件が送致され、検察官が処分について判断を下すとしても警察官の意見を軽く見ることはできませんから警察段階の弁護活動を軽視することはできません。

当事務所の私見ですが、略式命令事件など、軽微な事件になればなるほど、送致書の意見が検察段階で重視される傾向があると思います。特に逮捕を経ない在宅事件の場合は、事件から送検までの期間が比較的長期間になりますので、調書を取るなどして長時間被疑者と向き合った捜査官の意見を、検察官としても無視できないと考えられるからです。

確かに、刑罰法規の構成要件該当行為があるかどうか、犯罪事実の立証が証拠によって不足していないかどうか(公判維持可能かどうか)、法律問題を検討して起訴するかどうかを最終的に決めるのは検察官の権限にはなりますが、検察官が検討する捜査資料を作成するのは警察署の捜査官ですし、送致書に記載される意見も検察官の参考に供されるのですから、書類送検前の弁護活動も極めて重要であると言えるでしょう。弁護士は法曹(法律専門家)だから基本的に法曹資格を有しない警察官とは協議しないという態度で居ては、捜査官の真意を理解することもできませんし、捜査官と弁護人の間の信頼関係も構築できません。被疑者の弁護人と訴追側の捜査官の間に信頼関係があるということは不思議に思われるかもしれませんが、弁護人も警察署の捜査官も、当該事件の事案の真相を究明して事件の再発防止策を被疑者及び関係者に提示して、結果として社会全体の治安の向上を目的として働いていることに変わりは無いわけです。同じ目的に働いているという認識において、部分的に信頼関係が形成されることになります。初めから対立的な態度では、良い結果は期待できません。

刑事訴訟法第1条 この法律は、刑事事件につき、公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障とを全うしつつ、事案の真相を明らかにし、刑罰法令を適正且つ迅速に適用実現することを目的とする。

この条文の趣旨は刑事訴訟法の解釈原理として重要です。刑事訴訟法の解釈は、手続き規定の特質から適正、公平、迅速、低廉という矛盾する4つの利益の要請に配慮し、被疑者の財産、人身の自由と法社会秩序維持という公共の福祉の大きな利益対立を調和し行うことになります。

弁護人と捜査官の間で、真相究明と再発防止について信頼関係が構築された場合は、捜査官から弁護人に対して、捜査官が疑問に思っていることや、真相究明に必要な追加資料の提出を相談・要請されることがあります。例えば、捜査官から弁護人に対して「精神疾患が原因であれば、どのような精神疾患なのか、治療状況はどうなっているのか、資料を提出して下さい」と言われることもあります。そのような場合は、弁護人が被疑者の主治医に面会に行って、被疑者の病状や治療状況について診断書を作成して貰い、これを警察署に提出することができます。病気を説明するための、医学書の抜粋や、治療薬の添付文書の抜粋を提出することもあります。

このようにして、犯罪行為に至る経緯が詳細に理解できた場合、捜査官としても再発の心配は少ないのではないかと考えるに至ることがあります。そうなれば、送致書の意見も被疑者にとって軽い処分となることが期待できるでしょう。

御心配の場合は警察段階の弁護活動に精通した弁護士にも相談して、追加で私選弁護人を依頼することも検討なさって下さい。被疑者段階の弁護人は3名までと決められていますので(刑訴法35条、刑事訴訟規則27条)、従来の弁護士が1名であれば追加で2名まで選任することができます。


刑訴法第35条 裁判所は、裁判所の規則の定めるところにより、被告人又は被疑者の弁護人の数を制限することができる。但し、被告人の弁護人については、特別の事情のあるときに限る。

刑事訴訟規則第27条(被疑者の弁護人の数の制限・法第三十五条)
第1項 被疑者の弁護人の数は、各被疑者について三人を超えることができない。但し、当該被疑事件を取り扱う検察官又は司法警察員の所属の官公署の所在地を管轄する地方裁判所又は簡易裁判所が特別の事情があるものと認めて許可をした場合は、この限りでない。
第2項 前項但書の許可は、弁護人を選任することができる者又はその依頼により弁護人となろうとする者の請求により、これをする。
第3項 第一項但書の許可は、許可すべき弁護人の数を指定してこれをしなければならない。

<参考条文>
※警察法
第12条(規則の制定)国家公安委員会は、その所掌事務について、法律、政令又は内閣府令の特別の委任に基づいて、国家公安委員会規則を制定することができる。

※犯罪捜査規範(国家公安委員会規則)
(微罪処分ができる場合)
第百九十八条  捜査した事件について、犯罪事実が極めて軽微であり、かつ、検察官から送致の手続をとる必要がないとあらかじめ指定されたものについては、送致しないことができる。
(微罪処分の報告)
第百九十九条  前条の規定により送致しない事件については、その処理年月日、被疑者の氏名、年齢、職業及び住居、罪名並びに犯罪事実の要旨を一月ごとに一括して、微罪処分事件報告書(別記様式第十九号)により検察官に報告しなければならない。
(微罪処分の際の処置)
第二百条  第百九十八条(微罪処分ができる場合)の規定により事件を送致しない場合には、次の各号に掲げる処置をとるものとする。
一  被疑者に対し、厳重に訓戒を加えて、将来を戒めること。
二  親権者、雇主その他被疑者を監督する地位にある者又はこれらの者に代わるべき者を呼び出し、将来の監督につき必要な注意を与えて、その請書を徴すること。
三  被疑者に対し、被害者に対する被害の回復、謝罪その他適当な方法を講ずるよう諭すこと。

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