新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1629、2015/08/28 12:00
【民事、中絶による慰謝料,その他の損害賠償を請求できるか。刑事手続との関係。被害者が未成年の場合の犯罪と告訴、東京地方裁判所平成25年12月19日判決】

中絶による慰謝料、被害者が未成年の場合の犯罪と告訴


質問:私の娘は高校1年生の16歳ですが,インターネットの交流サイトで知り合った40歳の男と交際し何度も性交渉を重ねた挙句,娘は妊娠してしまったということでした。娘は,最初は産みたいという希望を持っていたようです。一方,その男性は,自分が責任を取るようなことはしないということであまりにも不誠実な対応でした。娘に子どもを育てる財力などあるはずもなく,親の支援にも限界がありますので,結局は,中絶という選択をするしかなくなってしまいました。娘は中絶したことによって,強い精神的ショックを受け,うつ病になってしまい,現在も通院を続けています。そもそも,16歳の娘と性行為をすることは犯罪のはずです。この男性に対して,どのような法的制裁を加えることができるか、またどのような請求ができるでしょうか。

回答
1 相手方男性は,そもそも16歳の女性との間で性交渉を避ける義務を負っていますし、また性交による懐胎を回避すべき義務、責任があったにもかかわらずこれを怠り,あなたの娘さんと性交渉を持って妊娠させ、更に人工妊娠中絶をさせたことによって肉体的精神的苦痛を与えたものですから,あなたの娘さんに対して不法行為に基づく損害賠償義務を負うことになります(民法709条)。実際の請求については,親権者であるあなたと配偶者において行うのが原則になります。裁判外の示談交渉もしくは,民事訴訟を起こすことによって損害賠償を求めることになるでしょう。

2 相手方に請求できる損害賠償の内容としては,@中絶費用・治療費,交通費などの実費(積極損害),A中絶手術によって生じた肉体的精神的苦痛を受けた際の慰謝料,といったものが対象になります。Aの慰謝料については,ケースバイケースですが,裁判例の内容等に照らすと,相手方男性の行為の悪質性,こちらの受けた肉体的・精神的苦痛の程度次第では,150万円程度が認められる可能性もあります。

3 また,18歳未満の未成年者と性行為をすることは,@青少年健全育成条例違反,A児童福祉法違反,B児童買春・児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(児童ポルノ法)違反となります。
  相手方の処罰を求める場合(民事上の交渉を有利に進めたい場合)には,警察に対して直ちに刑事告訴をする必要があるでしょう。その場合には,証拠をもって告訴状を警察に提出し,相談する必要があります。又、本犯罪の罪質上、刑事手続に過程における示談交渉も有力な方法と思われます。迅速で有利な解決になると思われます。
  以上,損害賠償請求の組み立て,刑事告訴に関してご本人で進めるのは難しいと考えられますので,これらの問題について精通した弁護士への相談をお勧めします。

4 中絶慰謝料に関する事例集としては1337番1290番1475番など参照下さい。本件で相手方に成立しうる犯罪に関する事例集としては,1604番を参照してください。


解説:

第1 現在の法的な地位についての説明

 1 母体保護法上の中絶手術について

議論の前提としてあなたの娘様が人工妊娠中絶をしたという点に関し,母体保護法の内容を簡単に説明していきます。

(1)人工妊娠中絶とは,「人工妊娠中絶とは、胎児が、母体外において、生命を保続することのできない時期に、人工的に、胎児及びその附属物を母体外に排出すること」(母体保護法2条)をいいます。

    本来,中絶行為は,堕胎罪として刑法上処罰の対象になります(刑法212条以下参照)。もっとも,現在は母体保護法に基づいて,医師による人工妊娠中絶が行われることが一般であり,同法に基づく限り,処罰の対象にはなりません。

(2)母体保護法14条は,医師による人工妊娠中絶が可能な場合として,以下の2通りを挙げています。
   
1 妊娠の継続又は分娩が身体的又は経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれのあるもの
2 暴行若しくは脅迫によつて又は抵抗若しくは拒絶することができない間に姦淫されて妊娠したもの

  いずれの場合であっても,本人及び配偶者の同意が必要になります。ただし,配偶者(配偶者でない場合には相手方)の同意については,それが知れないときや同意を示すことができないときには本人の同意で足ります(母体保護法14条2項)。

  通常は,医師から相手方に同意書を書いてもらい,それを提出することを求められます。

  上記のうち,大多数の人工妊娠中絶は,1の「経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれのある」場合に行われることになります。本件も,性行為自体は同意していたので,上記1に該当することになります。

(3)次に,人工妊娠中絶手術を行うことのできる時期には限界があります。上記の人工妊娠中絶を行うことができるのは,「胎児が、母体外において、生命を保続することのできない時期」に限られ,その時期は妊娠22週未満とされています。それ以降は,母体外の生命保続は可能とされ,中絶はもはや法的に不可能になります。

  また,妊娠の周期によって,中絶手術の内容が異なり(妊娠12週目ころまでは初期中絶手術,それ以降は中期中絶手術),母体への負担も大きく異なりますし,中絶費用も差異が生じますので,後述の損害賠償の金額も異なってきます。

2 民事上の損害賠償請求について

  次に,人工妊娠中絶をした場合の民事的な法律関係(金銭面)を検討していきます。一般的に男女が合意の上の性交渉の結果女性が妊娠し、人工中絶手術に至ったからと言って直ちに不法行為、損害賠償とはならないと考えられます。一般論として性交渉自体は合意のある以上違法なものとは言えませんし、人工中絶手術も女性が了解して行う以上は違法とは言えません。しかし、人工中絶手術によって生じる精神的肉体的な不利益は女性だけが被るもので、それらの不利益について男性に何らの法的な責任がないという結論は正義公平に反することは明らかです。あなたの娘さんは,16歳で相手の男性は40歳ということで、みだりに性交渉を繰り返し、懐胎の後に人工妊娠中絶を行った結果,肉体的に大きな苦痛を被るとともに,大きな精神的苦痛を被ったものです。このような相手方男性の行為は,あなたの娘さんの身体及び精神的苦痛を与えた違法な行為として,不法行為(民法709条,710条)に該当することになります。

  中絶手術を行ったとき,一定の場合に不法行為に該当することは,裁判例も認めるところであり,東京地方裁判所平成25年12月19日判決は以下のように述べています。

「原告A1が16歳の未成年女子であること,原告A1と被告が知り合った経緯や互いの関係等を考慮すれば,原告A1が妊娠 した場合に,出産して養育することができないことは被告も承知していたもので,性交による懐胎を回避する責任は,成人男性である被告にあったというべきで あり,被告が原告Xと性交して懐胎させて堕胎に至らしめ,原告Xに肉体的精神的苦痛を与えた行為は,不法行為にあたるとするのが相当である。」

  本来,性行為をすることは,個人の自己決定権(憲法13条参照)に委ねられる事項であり,性行為(それに基づく結果である妊娠)を自由意思で行った以上,その結果中絶を行ったとしても,相手方男性には法的責任は発生しないという考え方もあります。妊娠の結果、人工中絶手術が予想され、それにより女性が精神的、肉体的な不利益を負うことは明らかなことで、不利益を負いたくなければ避妊の手段を講じることが容易である状況で避妊しないのは女性の自己責任と言えるからです。

  しかしながら,妊娠及び中絶という過程においては,女性の身体面に大きな負担を与えるとともに,中絶手術によって肉体的精神面に女性だけに大きな負担を課すことになることもまた事実です。この点,東京地判平成21年5月27日判決は,「共同して行った先行行為の結果,一方に心身の負担等の不利益が生ずる場合,他方は,その行為に基づく一方の不利益を軽減しあるいは解消するための行為を行うべき義務があり,その義務の不履行は不法行為法上の違法に該当するというべきである。」と述べています。

  相手方男性と女性の共同の先行行為(性行為)を行った以上,妊娠・中絶によって生じた女性の精神的心理的負担に関し,一定の場合,相手方男性はその負担を軽減ないし解消する必要があります。このように,女性の身体的・精神的苦痛という不法行為上の損害が生じており,かつ,それに直接影響する先行行為(性行為)を行い,当事者が妊娠を希望していない場合には,一定の場合には,相手方男性に懐胎を回避する義務(懐胎回避責任)が民法上要求されることになります。上記の判例によれば相手方男性も懐胎回避義務を有しており,これを怠って女性が妊娠し人口中絶をした場合、相手の男性には女性に対して人工中絶による不利益を軽減する行為をする義務がありこれを怠ることは不作為による不法行為であり、この何もしない行為は違法性を有する行為として,それに伴う損害賠償の支払義務が相手方男性に発生することになります。成人の男女間の避妊しない性行為は、男女の同意で行われる以上違法とは言えませんから、そのよう行為を不法行為と判断することはできません。そこで、中絶後の女性に対して女性が被っている負担を軽減する義務が法律上あると認めてその義務を果たさないことを違法な行為として不法行為の成立を認めているのです。

  さらに,本件では,被害を受けた女性は未成年者ですので,そもそも性行為自体が,法律上刑罰をもって禁止されることになります。ここでの違法性は,あくまで刑事罰を科すための,刑事上の違法性であり,直ちに民事上の違法性には直結するものではありません。ただ,あえて法律が未成年者との性行為が刑罰をもって一般的に禁止しているのは,未成年者との性行為は,未成年の健全な発達に悪影響を与えるという観点に基づく国家的制約であり,心理的に様々なものに影響を受けやすい未成年者には精神的苦痛の程度も大きい傾向にあると思われます。このように,未成年者が成人からの影響を受けやすい(望まない性交にも成人の求めに応じてしまう可能性)点にも着目した規定です。

  刑法上も禁止されていることの内実に鑑みると,被害者が未成年者であることは民事法上の違法性の高さにもある程度影響を与えるものであり,このような事情は,慰謝料金額の多寡にも影響を及ぼす事情の一つにはなり得るでしょう。また,後で述べるとおり,未成年では子供を養育できる可能性が高くない以上,懐胎回避責任が相手方男性にあると判断される大きな事情となります。

  以上,中絶に関してなぜ相手方男性に法的責任が発生するのかという点を検討してきました。相手方男性に不法行為が成立する場合には,相手方男性に損害賠償義務が生じることになります。その具体的内容については,後述します。

3 相手方に成立しうる犯罪

  あなたの娘さんは,16歳という年齢ですので,上で述べたとおり,相手方男性には以下のような犯罪が成立する可能性があります。未成年者との性行為を行った場合,いかなる犯罪が成立するかについて,詳しくは事例集1604番を参照して下さい。刑事罰に関する手続については,第2以下で詳述します。

(1)青少年健全育成条例違反

  例えば,東京都の場合,青少年健全育成条例によれば「何人も、青少年(18歳未満の者・同条例第2条1号)とみだらな性交又は性交類似行為を行つてはならない」(第18条の6)とされていることから,同条例違反の成立の余地があります。この場合,相手方男性は2年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金に処せられます(第24条の3)。

(2)児童福祉法違反

  「児童(18歳未満の者・同法4条)に淫行をさせる行為」を行った場合,児童福祉法違反として処罰の対象になります(児童福祉法34条1項6号)。その場合,10年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金となっており,上記条令違反よりも重い刑罰が科せられます。

  ここにいう「淫行をさせる行為」とは,上記条令違反との刑罰との均衡から「児童に対して事実上の影響力を行使すること」が必要とされています。例えば,上司と部下や先生と生徒といった上下の力関係があり,かつ,それを利用したような場合には児童福祉法違反が成立しうるところです。本件では見知らぬ男女間ですので,力関係の利用はないかもしれませんが,何らかの事実上の影響力(立場の利用)を利用して性行為をしたような場合には,同罪が成立するでしょう。

(3)児童買春・児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反

  性行為の際に金銭を供与したり,写真を撮影する等の行為を行っていた場合には,児童買春・児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反の可能性があります。

  児童(2条1項・18歳未満の者)等に対して対償を供与して性交等を行った場合には,児童買春として処罰されることになります(2条2項)。同法違反の場合,5年以下の懲役又は300万円以下の罰金という罰則を設けて禁止しています(4条)。

第2 人工妊娠中絶と損害賠償請求,その他の法的手段

 1 民事上の損害賠償請求の具体的方法(民法709条,710条)

 (1)請求の法的根拠

  上記のとおり,あなたの娘さんは人工妊娠中絶によって肉体的精神的苦痛を被ったことによる損害賠償請求が可能です。その法的根拠については,上でも述べたとおりですが,相手方が性交によって解体を回避する義務を怠る加害行為によって,被害者であるあなたの娘さんを懐胎・堕胎に陥らせ肉体的精神的苦痛という損害を与えた点になります。

  上で述べた東京地方裁判所平成25年12月19日判決は,人工妊娠中絶をさせたことによる相手方男性の責任について,以下のとおり述べています。

「次に,原告Xの堕胎についての被告の責任を検討するに,原告Xが16歳の未成年女子であること,原告Xと被告が知り合った経緯や互いの関係等を考慮すれば,原告Xが妊娠した場合に,出産して養育することができないことは被告も承知していたもので,性交による懐胎を回避する責任は,成人男性である被告にあったというべきであり,被告が原告Xと性交して懐胎させて堕胎に至らしめ,原告Xに肉体的精神的苦痛を与えた行為は,不法行為にあたるとするのが相当である。」

  上記のとおり,妊娠(懐胎)・堕胎により女性には精神的・心理的にも負担を被ることになるのですから,一定の場合には懐胎を回避する責任が生じることになります。ただし,懐胎を回避する責任は男女互いにあるわけですから,懐胎回避の責任原因がどちらに主にあったのかを決することになります。この点は,男女の知り合った経緯,被害者の属性,性行為当時の状況,事後的な状況といった事情を総合判断することになります。

  相手方男性には,性行為当時に懐胎後に養育を予定する意思がなかったこと,被害女性が未成年者であり養育できない状況にあったことを承知していたことから,懐胎回避責任が認められ,これを怠った以上男性には中絶手術後の女性の負担を軽減すべき義務が生じ,これを怠り女性から金銭的精神的な助けを求められているにもかかわらずなにもしない男性には、不法行為上の違法性が認められることになります。
 
  本件でも,相手方男性はあなたの娘さんが未成年であることを当然知っており,妊娠が発覚した後も責任を取る意思がなかったということですので,懐胎を回避する責任は主に男性側にありますので,性行為を行うこと自体の違法性、避妊義務を果たさないことの違法性並びに中絶手術後に何ら援助等しないことの違法性いずれをとっても中絶に関する不法行為責任が相手方に発生することになります。

(2)請求できる損害について

  では,人工妊娠中絶に至ってしまったことによる損害としてはどのようなものが賠償対象になるのでしょうか。賠償できる損害は,相手方男性の加害行為(性交による懐胎を回避する義務違反)によって,社会通念上生じるのが相当と認められる損害に限られます(相当因果関係の原則,民法416条類推適用)。

   ア 治療費(中絶費用),交通費などの実費

     中絶手術に関して,実際に支出した実費相当の費用については,相当因果関係のある損害として認められます。この点に関しては,領収書などの証拠を必ず保管しておく必要があります。
     実費関係費用については,上記参考判例も相当因果関係のある損害として認めているところです。

「証拠(甲4から6(枝番号含む。),A)及び弁論の全趣旨によれば,原告Xの妊娠堕胎に伴う治療費及び交通費として,父Aは,第2の3(3)ア及びウの費用,合計22万1629円を負担したことが認められる。」

   イ 慰謝料

     また,中絶手術によって受けた精神的苦痛については,慰謝料という形で請求が可能です(民法710条)。慰謝料の実際の金額については金銭的な評価が難しいところであり,裁判所の判断に委ねられるところですが,概ね相手方男性の態度,被害者であるあなたの娘が受けた不利益,苦痛の大きさ,交渉の経過などの事情を総合的に考慮して決せられます。これらの事情について,裏付けとなる資料があれば保管ないし収集しておく必要がありますし,適切な法的主張を行っておく必要があるでしょう。

     下記の判例では,被害者の受けた苦痛やその後の苦労の大きさなどに鑑み,150万円の慰謝料が認められています。本件でも,同様の事情があれば,同額程度の慰謝料を認める余地があると思われます。被害者が未成年であれば,子どもの養育可能性が小さいことから男性の責任が大きく,また,被害者が未成年であることは犯罪行為であり,上記のとおり違法性の高さ,未成年者の精神的苦痛の大きさにも影響を与える事情であることに鑑みると,比較的多額の慰謝料が望める可能性があります。この点,参考判例は以下のように述べています。

「そして,証拠(甲10,A)によれば,原告Xは,手術の翌日に退院したものの,子宮外妊娠であったことから2回目の手術をしており,また,手術や体調不良による欠席にて進級できずに転校に至っていること,父Aは父子で生活していたこと等が認められ,これら事情を考慮し,慰謝料(イ及びエ)は,原告Xの慰謝料として150万円を認めるのが相当である。」

   ウ 弁護士費用

     不法行為に基づく損害賠償請求においては,全体の損害額の10%程度が相当因果関係のある損害として賠償の対象になります。

     参考判例でも,10%の弁護士費用の賠償が認められています。

「そして,弁護士費用は,上記22万1629円及び150万円の合計172万1629円の1割に相当する17万円をもって相当とする。」

  エ その他請求しうる損害

  参考判例では触れられていませんがその他の損害として,休業損害(精神的苦痛によって勤務できないことによる減収分の損害)や,PTSDなどの疾患にかかり,それが後遺症と評価できるような場合には後遺症慰謝料などが,損害賠償の対象になり得るところです。

  どのような損害を組み立てて,請求することが可能かどうかについては,弁護士へ相談することをお勧めします。

(3)実際の請求について

   本件の請求主体はあなたの娘さんですが,未成年者ですので実際には法定代理人親権者である両親が,代理人として相手方男性と交渉をする必要があります。その際には,内容証明という形でこちらの主張内容を明らかにしておく必要があるでしょう。

   相手が誠実に交渉に応じれば,裁判外の示談による解決を目指すことができますが,交渉に応じないか,条件が不十分である場合には,裁判などの法的手続に移行する必要があるでしょう。この場合,請求を裏付ける証拠を持って適切な主張立証活動を行う必要がありますので,弁護士への相談を強くお勧めします。

(4)刑事告訴について

    上で述べたとおり,相手方男性には各種の犯罪が成立し得るところです。上記の示談交渉を有利に進めたい場合や,相手に処罰を持って社会的に償ってほしいという場合には,捜査機関(警察,検察)への刑事告訴を行うことも有用です。

    刑事告訴については,所轄の警察署の相談窓口にて告訴状を提出することによって行います。証拠があれば,添付資料として併せ提出すべきです。ただ,警察はある程度の期間が空くと刑事事件として受理してくれない可能性もあるので,告訴を行う場合には速やかにこれを行う必要があるでしょう。

   前記、民事上の損害賠償請求の交渉、訴え提起の前に刑事上の手続きを行うことも一つの方法です。実務的に、被害者が、16歳ですと交際の期間から1回限りの偶然的犯行ではありませんから、青少年育成防止条例又は、何らかの対価を支払っていれば児童買春防止法違反で逮捕、身柄拘束が行われます。身柄拘束の解放、懲役、罰金等の刑事罰を回避しようとすれば、罪質上被害者との示談は不可欠となり相手方の立場により有利な示談交渉が可能になると予想されます。また、民事上の請求は、第一審だけでも少なくとも半年以上の期間が必要になり、事案上お嬢様の精神的負担も予想されることから当事者間の迅速な解決には刑事手続過程における示談が望ましいと思われます。金額的にも先例にとらわれない有利な解決が可能となるでしょう。この場合は、法的専門家による告訴手続、また、告訴の前の刑事手続に移行する旨の内容証明により一気に解決に持ち込めるかもしれません。一度お近くの法律事務所にご相談ください。

<参照条文>
民法
第五章 不法行為

(不法行為による損害賠償)
第七百九条  故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

(財産以外の損害の賠償)
第七百十条  他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。

母体保護法
第一章 総則

(この法律の目的)
第一条  この法律は、不妊手術及び人工妊娠中絶に関する事項を定めること等により、母性の生命健康を保護することを目的とする。

(定義)
第二条  この法律で不妊手術とは、生殖腺を除去することなしに、生殖を不能にする手術で厚生労働省令をもつて定めるものをいう。
2  この法律で人工妊娠中絶とは、胎児が、母体外において、生命を保続することのできない時期に、人工的に、胎児及びその附属物を母体外に排出することをいう。

 第二章 不妊手術

第三条  医師は、次の各号の一に該当する者に対して、本人の同意及び配偶者(届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様な事情にある者を含む。以下同じ。)があるときはその同意を得て、不妊手術を行うことができる。ただし、未成年者については、この限りでない。
一  妊娠又は分娩が、母体の生命に危険を及ぼすおそれのあるもの
二  現に数人の子を有し、かつ、分娩ごとに、母体の健康度を著しく低下するおそれのあるもの
2  前項各号に掲げる場合には、その配偶者についても同項の規定による不妊手術を行うことができる。
3  第一項の同意は、配偶者が知れないとき又はその意思を表示することができないときは本人の同意だけで足りる。

第三章 母性保護

(医師の認定による人工妊娠中絶)
第十四条  都道府県の区域を単位として設立された公益社団法人たる医師会の指定する医師(以下「指定医師」という。)は、次の各号の一に該当する者に対して、本人及び配偶者の同意を得て、人工妊娠中絶を行うことができる。
一  妊娠の継続又は分娩が身体的又は経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれのあるもの
二  暴行若しくは脅迫によつて又は抵抗若しくは拒絶することができない間に姦淫されて妊娠したもの
2  前項の同意は、配偶者が知れないとき若しくはその意思を表示することができないとき又は妊娠後に配偶者がなくなつたときには本人の同意だけで足りる。

<参照判例>
東京地方裁判所平成25年12月19日判決

主文

 1 被告は,原告に対し,189万1629円及びこれに対する平成25年1月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2 原告のその余の請求を棄却する。
 3 訴訟費用は,これを3分し,その1を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。
 4 この判決は仮に執行することができる。

事実及び理由

第1 請求
 被告は,原告に対し,600万1599円及びこれに対する平成25年1月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 1 本件は,原告が被告との性交渉により妊娠して堕胎し,精神的苦痛等を受けたとして,不法行為責任に基づく損害賠償請求を求める事案である。
 2 前提となる事実(争いがない事実及び証拠により認められる事実)
  (1) 原告X(以下「原告X」という。)は,平成8年○月生まれで,懐胎当時16歳の高校1年生であり,A(以下「父A」という。)は,同女の親権者父である。
 被告は,昭和59年○月生まれで,原告Xの懐胎当時28歳であった。
  (2) 被告は,原告Xと,平成23年10月ころインターネットの交流サイトを通じて知り合い,同女が中学3年生で15歳であることを知っていた。
  (3) 被告は,平成24年11月初めころ,自宅において,また,同年12月中旬ころラブホテルにおいて,原告Xと性交渉をもった。
  (4) 原告Xは,平成25年1月22日,妊娠7週1日(出産予定日同年9月9日)と診断され,同月25日人工妊娠中絶手術を受けたが,子宮外妊娠をしていて,同年2月5日,再手術を受けた。(甲1から3,A)
 3 原告の主張
  (1) 被告は,平成24年11月初めころ,原告XをJR池袋駅東口付近に呼び出し,甘言を弄して被告の自宅に引き入れて性交渉におよび,交通費と称して3000円を交付した。
 また,被告は,同年12月中旬ころ,原告Xを誘い,池袋のラブホテルにおいて性交渉におよび,交通費と称して3000円を交付した。
 被告の上記行為は,児童買春・児童ポルノ禁止法違反に該当する違法行為である。
  (2)ア 被告は,平成23年にも,未成年児童との性交により児童を妊娠させ,東京都条例違反行為で逮捕された。
   イ 被告は,自らの性向を逮捕により知悉しながら,原告Xとの淫行におよび,望まない妊娠に至らしめて2度の人工妊娠中絶手術を受けさせ,傷害を負わせた。
   ウ 原告Xは16歳で,性交渉による結果の招来について判断に乏しく,被告は,このような者と性交渉を繰り返せば懐胎することを予見できた。
  (3) 被告の上記不法行為により,原告X及び父Aは以下の損害を被った。
   ア 治療費 17万2239円
 (内訳)
 共立習志野台病院 8650円
 千葉西総合病院 13万4070円
 医薬品 520円
 入院雑費 2万8999円
   イ 入通院慰謝料 28万円
   ウ 交通費 4万9360円
 (内訳)
 タクシー利用料 2840円
 高速道路代(所沢―京葉原木インター間) 4100円
 ガソリン代7日間分
 (往復120km,1リットル145円) 1万2180円
 祖母の見舞交通費(いわき湯本―薬園台) 3万0240円
   エ 慰謝料
 原告X 300万円
 父A 200万円
   オ 弁護士費用 50万円
  (4) よって,原告は,不法行為に基づく損害賠償金600万1599円及びこれに対する手術を受けた日である平成25年1月25日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
 4 被告の認否反論
  (1) 3(1)のうち,被告が原告Xを呼び出し,甘言を弄して部屋に引き入れたことは否認し,その余は認める。
 被告と原告Xとは,1年間程度メール等で交流し,合意の下で関係を持った。原告Xは16歳の高校生で性交渉を経験済みであったから,性交渉による結果を十分認識した上で男女関係を持っており,被告のみが責任を負う理由はない。
  (2)ア 3(2)アのうち,被告の前科は,否認する。
 被告は,未成年者に性的行為を第三者にさせていたことで児童福祉法違反の前科がある。なお,被告は18歳未満の者と性交渉して示談したことはあるが,刑事事件にはなっていない。
   イ 3(2)イウにつき,原告Xの妊娠及び手術は知らない。原告Xの妊娠が被告との性交渉によることを否認する。原告Xは,被告と性交渉を結ぶ前から性交経験があり,被告以外の者との性交渉が原因であると考えられる。
  (3) 損害は否認し争う。
第3 当裁判所の判断
 1 前記前提となる事実のとおり,原告Xと被告が性交渉をもったことは当事者間に争いがなく,その時期からして,原告Xの妊娠は,被告との性交渉による可能性があるところ,被告が主張する他の男性との性交渉については,時期及び相手が特定されていない。
 そして,証拠(甲10,A)によれば,原告Xは,父Aに生理がこないことを相談したものの,相手が誰かを語らず,父Aが原告Xを離婚した妻の元へ連れて行き,元妻が原告Xから事情を聞いて被告が特定された経緯が認められ,これを踏まえると,原告Xにおいて,妊娠の心当たりがある相手は被告であったと認められる。
 よって,原告Xの妊娠は,被告との性交渉によるものと推認する。
 2 次に,原告Xの堕胎についての被告の責任を検討するに,原告Xが16歳の未成年女子であること,原告Xと被告が知り合った経緯や互いの関係等を考慮すれば,原告Xが妊娠した場合に,出産して養育することができないことは被告も承知していたもので,性交による懐胎を回避する責任は,成人男性である被告にあったというべきであり,被告が原告Xと性交して懐胎させて堕胎に至らしめ,原告Xに肉体的精神的苦痛を与えた行為は,不法行為にあたるとするのが相当である。
 3 証拠(甲4から6(枝番号含む。),A)及び弁論の全趣旨によれば,原告Xの妊娠堕胎に伴う治療費及び交通費として,父Aは,第2の3(3)ア及びウの費用,合計22万1629円を負担したことが認められる。
 そして,証拠(甲10,A)によれば,原告Xは,手術の翌日に退院したものの,子宮外妊娠であったことから2回目の手術をしており,また,手術や体調不良による欠席にて進級できずに転校に至っていること,父Aは父子で生活していたこと等が認められ,これら事情を考慮し,慰謝料(イ及びエ)は,原告Xの慰謝料として150万円を認めるのが相当である。
 そして,弁護士費用は,上記22万1629円及び150万円の合計172万1629円の1割に相当する17万円をもって相当とする。
 すると,被告が負担すべき損害賠償の合計額は189万1629円となり,これに原告Xが手術を受けた日である平成25年1月25日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で原告の請求には理由がある。
 3 以上によれば,原告の請求は主文の限度で理由があるので,主文のとおり判決する。
 (裁判官 今井和桂子)


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