新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1616、2015/07/03 12:00 https://www.shinginza.com/qa-hanzai.htm

【刑事、平成26年11月27日法律第126号、私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律、横浜地方裁判所平成27年6月12日判決】

リベンジポルノの刑事手続

質問:
31歳、会社員です。先日、元交際相手の女性に対し、断れば危害を加える旨の文言とともに復縁を迫る内容のメールを送付したところ、脅迫罪の容疑で逮捕されました。その他にも、その女性との性行為の様子を撮影した動画を不特定多数の人が閲覧可能なインターネット上の動画投稿サイトにアップロードしたり、当該動画の説明欄に女性の実名入りで日々売春行為を繰り返し行っている人物である旨の記載を行うなどしており、これらについても今後取調べを行う予定であると言われています。いずれも別れ話のもつれから感情的になって行ってしまったことですが、現在は冷静であり、取り返しのつかないことをしてしまい申し訳なかったと思っています。今後の刑事手続への対応方法等についてアドバイスを頂ければと思います。



回答:

1. あなたには、実体法上、少なくとも脅迫罪(刑法222条1項)、名誉毀損罪(刑法230条1項)、私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律(リベンジポルノ防止法)違反の3罪が成立していると考えられます。これらは併合罪の関係に立ち(刑法45条前段)、法定刑の上限は懲役4年6月となりますが(刑法47条前段)、本件が今後如何なる罪名の範囲で捜査・処分されるかについては、検察官の広範な裁量に委ねられているため(刑事訴訟法248条)、刑事手続の具体的な見通しについては、直接接見した上での詳細な事情聴取や捜査機関との協議、交渉によって明らかにしていく必要があります。

2. 名誉毀損罪及びリベンジポルノ防止法違反については、いずれも被害者の告訴がなければ公訴提起できない親告罪であるため(刑法232条1項、リベンジポルノ防止法3条4項)、弁護人を通じて被害者との間で示談を成立させ、告訴を行わない旨の合意を内容とする示談合意書(既に告訴されている場合であれば、告訴取消のための書面)を捜査機関に提出することができれば、起訴を回避することが可能となります。脅迫罪についても、示談の中で被害者の宥恕(刑事処罰を求めない意思表示)を得ることができれば、執行猶予中の犯行である等の特別な事情がない限り、通常は不起訴処分相当の事案と思われます。

3. 現在の被疑罪名である脅迫罪は、被疑者国選対象事件ではないため(刑事訴訟法37条の2第1項、刑法222条1項)、現状で示談交渉を開始するためには、直ちに私選弁護人を選任する必要があります。その上で名誉毀損罪及びリベンジポルノ防止法違反の事実についてもまとめて示談を行い、親告罪である余罪の立件を回避するとともに、脅迫罪についても不起訴処分を獲得することが、本件で目指すべき弁護活動の筋道になると思われます。

4. 身柄の関係では、逮捕から48時間以内に送検の手続きがとられた上(刑事訴訟法203条1項)、10日間ないし20日間の勾留(逮捕に引き続き行われる比較的長期の身柄拘束処分)がほぼ確実視される状況であると考えられます(刑事訴訟法208条1項・2項)。さらに、脅迫罪での勾留期間満了後は余罪である名誉毀損やリベンジポルノを被疑事実とする逮捕、勾留(それぞれにつき、最大で23日間)が行われる可能性が高く、本件で何ら必要な対応を行わず放置するとなると、被疑者段階だけでも身柄拘束期間が相当長期に及ぶ可能性が高いといえます。

5. もっとも、勾留後であっても被害者との示談が成立すれば、準抗告の申立て(刑事訴訟法429条1項2号)という手続きをとることによって勾留満期前の身柄解放を実現できる可能性があります。

6. 本件は示談の成否が刑事手続の帰趨を大きく左右するところ、事案の類型に照らして被害者の被害感情は熾烈を極めていることが多く、示談の成否が弁護士の腕に掛かってくる側面も否定できないため、弁護人の選任にあたっては、同種事案の弁護経験(事案の性質上インターネット上の動画等削除の提案が示談成否の鍵となりますから、示談の経験とインターネット動画等削除手続を迅速に行うことができる弁護人が必要です。被害者の連絡先が万が一不明でも以上の提案を行えば捜査機関は被害者保護のため示談交渉に協力的になるはずです。)のある弁護士を選ばれることを強くお勧めいたします。

7.  参考判例、横浜地裁平成27年6月12日判決

解説:

1.(罪名)

 はじめに、あなたが行った一連の行為につき成立する罪名について確認しておきます。

(1)脅迫罪(刑法222条1項)

 今回の逮捕にかかる被疑罪名となっている脅迫罪とは、「生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知」して人を脅迫した場合に成立する犯罪です。あなたの言う「復縁を断れば危害を加える旨の文言」が本罪の害悪の告知に当たるか否かについてはメールの具体的な内容をお聞きした上での法的検討が必要ですが、実際に裁判所が逮捕状を発付していることからすると、脅迫罪における害悪の告知と認めるに足りる内容である可能性が高いと考えられます。

 本罪の法定刑は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金とされています。

(2)名誉毀損罪(刑法230条1項)

 公然と事実を摘示して人の社会的評価を下げるに足りる行為(毀損行為)を行うことによって成立する犯罪です。ここで言う「公然」とは不特定又は多数人が認識できる状態を意味し(最判昭和36年10月13日)、今回のインターネット上の動画投稿サイトの動画説明欄への書き込みは公然性を優に充足するものと考えられます。また、被害者が日々売春行為を繰り返し行っている人物であるとの書き込みは、社会通念上、被害者の社会的評価を低下させるに足りる内容であると考えられるため、毀損行為についても問題なく認められてしまうところであると考えられます。

 法定刑は3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金とされています。なお、本罪は、通常起訴となった場合、公開の法廷での審理に伴って被害が拡大する可能性があることから(いわゆる二次被害の可能性)、検察官による起訴・不起訴の決定に被害者の意思を反映させる趣旨で、公訴提起には被害者の告訴が必要とされる親告罪とされています(刑法232条1項)。

(3)私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律違反

 本罪は、近年社会問題となっている、いわゆるリベンジポルノの防止を目的として、平成26年に制定された「私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律」(以下、「リベンジポルノ防止法」といいます。)によって規制されている犯罪です。本法は「第三者が撮影対象者を特定することができる方法で、電気通信回線を通じて私事性的画像記録を不特定又は多数の者に提供」する行為を犯罪として規制しており、被害者との性行為の様子を撮影した動画を、被害者の実名入りの動画説明を付した状態で、不特定多数の人が閲覧可能なインターネット上の動画投稿サイトにアップロードした行為は本罪違反に該当する典型例といえます(リベンジポルノ防止法3条1項、2項1項参照)。

 法定刑は3年以下の懲役又は50万円以下の罰金とされています。なお、本罪も名誉毀損罪と同様、公開法廷での審理に伴う二次被害の可能性がある犯罪類型であることから、名誉毀損罪と同様の趣旨から、親告罪とされています(リベンジポルノ防止法3条4項)。

(4)3罪の関係

 上記の3罪は併合罪の関係に立ち(刑法45条前段)、最大で懲役4年6月の刑の範囲内で処分が決定されることになります(刑法47条前段)。もっとも、これらのうちどの範囲で起訴をして審判を求めるかについては検察官に広範な訴追裁量が認められているため(刑事訴訟法248条)、理論上犯罪が成立するからといって必ずしもその全てが起訴されるとは限りません。後述するとおり、本件が今後如何なる罪名で捜査・処分されることになるのかの見通しについては、直接接見した上での詳細な事情聴取や捜査機関との協議、交渉によって明らかにしていく他ありません。

2.(刑事手続の状況)

(1)身柄関係

 あなたは現在、脅迫罪の被疑事実で逮捕されている状態ですが、逮捕から48時間以内に送検の手続きがとられた上(刑事訴訟法203条1項)、10日間ないし20日間の勾留(逮捕に引き続き行われる比較的長期の身柄拘束処分)がほぼ確実視される状況であると考えられます(刑事訴訟法208条1項・2項)。脅迫罪自体は法定刑が2年以下の懲役又は30万円以下の罰金という、それほど重い犯罪類型ではないものの、元交際相手に対するメールでの脅迫という事案の性質上、威迫や懇願等による罪証隠滅が疑われやすいこと、あなたの逮捕に先立って作成されていると考えられる被害者の供述調書等により、本件が名誉毀損やリベンジポルノ防止法違反も成立しうる複雑事案であることが記録上明らかであると考えられることからすると、本件は勾留の要件である逃亡のおそれ(刑事訴訟法207条1項、60条1項3号)や特に罪証隠滅のおそれ(刑事訴訟法207条1項、60条1項2号)、勾留の必要性(207条1項、87条1項)が容易に認められてしまう可能性が非常に高い事案といえます。

 さらに、脅迫罪での勾留期間満了後は余罪である名誉毀損やリベンジポルノを被疑事実とする逮捕、勾留(それぞれにつき、最大で23日間)が行われる可能性が高く、本件で何ら必要な対応を行わず放置するとなると、被疑者段階だけでも身柄拘束期間が相当長期に及ぶ可能性が高いといえます。逆に、脅迫罪での勾留期間満了の時点でいったん脅迫罪で起訴して起訴後勾留(刑事訴訟法60条2項。公訴提起の日から2か月間。継続の必要があると認められる場合、さらに1か月ごとの勾留期間の更新が予定されます。)に移行させ、起訴後勾留中の取調べ等捜査の結果を踏まえて余罪である名誉毀損及びリベンジポルノとの関係で追起訴を行う、という流れも考えられます。
いずれにしても、脅迫罪での勾留期間満了時点で起訴される可能性がある以上、これを阻止するための活動は早急に開始する必要があります。

(2)刑事処分の見通し

 まず、余罪である名誉毀損及びリベンジポルノの事実で起訴されるかどうかは、その時点で被害者による告訴がなされているかどうかに拠ります。前述のとおり、両罪はいずれも告訴がなければ公訴提起することができない親告罪であるためです(刑事訴訟法230条)。しかし、このことは裏を返せば、被害者が捜査機関に対して告訴しない意思を表明し、あるいは既に告訴を行っていても公訴提起前に取り消せば(刑事訴訟法237条1項)、あなたは少なくとも名誉毀損及びリベンジポルノの事実で起訴されることはなくなるということです(立件前に告訴を行わない旨の合意ができれば、余罪について刑事事件としての立件自体を回避できることもままあります。)。このように被害者に告訴を思いとどまらせ、あるいは既にした告訴を取り消させるための方法はただ1つ、弁護人を通じて被害者に対して謝罪と被害弁償を行って示談を成立させ、告訴を行わない旨の合意を内容とする示談合意(既に告訴されている場合であれば、告訴取消のための書面)を締結することです。すなわち、名誉毀損及びリベンジポルノの事実で起訴されるかどうかは、被害者との示談の成否による、と言い換えることができるでしょう。

 次に、現在の被疑罪名である脅迫罪は非親告罪ではありますが、これについても余罪である名誉毀損及びリベンジポルノの関係を含めた示談が成立し、被害者の宥恕(刑事処罰を求めない意思表示)を得ることができれば、執行猶予中の犯行である等の特別な事情がなければ、通常は不起訴処分となり、起訴を回避できる可能性が飛躍的に高まります。終局処分については、示談の結果や内容等も踏まえて、弁護人に不起訴処分を求める内容の詳細な意見書を作成してもらい、検察官と交渉してもらう必要があるでしょう。

 仮に示談が成立しなかった場合、事件の具体的内容によっては上記3罪につき、いずれも公判請求され、懲役刑求刑される可能性も十分考えられるため、刑事手続の帰趨は示談の成否に大きく左右されるということができます。

3.(刑事手続における対応)

(1)示談交渉

 前述のとおり、本件であなたが起訴を回避するためには、被害女性との示談成立が不可欠となります。現在のあなたの被疑罪名は脅迫罪1罪であっても、実体法上、名誉毀損罪及びリベンジポルノ規制法違反が成立しており、いずれも今後捜査の対象となる可能性が高いことからすれば、これらの余罪も含めた示談合意を目指す必要があります。かかる示談交渉を進めるにあたっては弁護人の助力が必要不可欠となります。

 なお、現在の被疑罪名である脅迫罪は、被疑者国選対象事件ではないため(刑事訴訟法37条の2第1項、刑法222条1項)、現状で示談交渉を開始するためには、直ちに私選弁護人を選任する必要があります。前記のとおり、示談をせずにいた場合、勾留期間が満期を迎えたタイミングで起訴される可能性があること、仮に勾留期間満了の時点で処分保留となった場合であっても余罪で逮捕、勾留される可能性が高いことからすると、弁護人の選任は早いに越したことはありません。

 親告罪である名誉毀損及びリベンジポルノとの関係では、捜査機関に対して告訴を行わないこと(既に告訴が行われているのであれば、当該告訴を取り消すこと)を示談合意に盛り込むことが最低限必要となります。また、慰謝料相当額の支払い(実態的被害の程度が大きい犯罪類型であることから、示談金の金額は比較的高額になる傾向があります。)やインターネット上にアップロードした動画や名誉毀損の書き込みの削除はもちろん、当該動画や書き込みが第三者によってインターネット上に拡散されているような場合であれば、それらの削除に要する経済的負担の補償についても協議すべきことになるでしょう(この場合、被害者側からすれば第一の要求は、インターネット上の動画、書き込みと思われますからこれを責任をもって削除することができるという提案をすれば自ずと示談、告訴取消の道は開けます。従って、インターネット上の動画等削除手続に詳しい弁護人であることも選任の条件となるでしょう。)。なお、名誉毀損及びリベンジポルノにかかる動画や書き込みは罪体に係る直接証拠であるため、捜査機関に罪証隠滅ととられないためにも、実際に削除を行うにあたっては,捜査機関と十分協議の上対応する必要があります。また、後述する身柄の早期釈放との関係では、被害者に対する接触等による罪証隠滅のおそれを低下させるため、被害者に対して連絡、接触等しないことを誓約する内容を示談合意に盛り込む必要があります。

(2)勾留の裁判に対する準抗告

 勾留後に被害者との示談が成立した場合、終局処分として不起訴処分の獲得を目指すことと並行して、身柄の早期釈放のための活動についても対応していく必要があります。具体的には、勾留の裁判に対する不服申立の手続きである準抗告の申立て(刑事訴訟法429条1項2号)を検討すべきことになります。この申立てが認められた場合、勾留の裁判が取り消され、検察官の勾留請求が却下される結果、あなたは身柄拘束を解かれることになります(刑事訴訟法432条、426条2項)。

 刑事訴訟法上、勾留が認められるためには、(1)被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があること(刑事訴訟法207条1項、60条1項柱書)、(2)被疑者に住所不定、罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由、逃亡すると疑うに足りる相当な理由のいずれかの事情があること(これらを合わせて、勾留の理由といいます。刑事訴訟法207条1項、60条1項各号)、(3)諸般の事情に照らして勾留の必要性があること(刑事訴訟法207条1項、87条1項)の3つの要件を充足する必要があるとされています。多くの場合、@罪証隠滅のおそれ又は逃亡のおそれの有無、A勾留の必要性の有無の2点が勾留判断のポイントとなります。あなたが逮捕に引き続いて勾留されたとすれば、これらの事由が裁判官によって認定されたことを意味します。

 しかし、勾留決定時に勾留の理由や勾留の必要性が存在したとしても、その後に被害者との示談が成立した場合、検察官が本件を不起訴処分とする可能性が高まっているわけですから、重罰を恐れて逃亡を図ったり罪証隠滅を行う動機は低下したといえますし、事件の当事者である被害者が十分な被害弁償を受けて加害者であるあなたを宥恕している以上、さらに身柄拘束を続けることは不相当といえます。この場合、実際に準抗告審を判断する裁判所(裁判官3名による合議体)によって左右される面もありますが、示談の成立によって勾留の要件が事後的に欠けた状態になっていると判断される可能性が高まっている状態であるといえます。

 もちろん、顔見知りであり、かつ容易に接触可能な元交際相手に対する犯行という事案の性質に照らせば、具体的事実関係の下において、罪証隠滅のおそれが劇的に低下したとは言い難く、勾留の必要性がなくなったとまではいえない、との判断も可能性として十分考えられるところです。しかし、仮に準抗告が棄却されたとしても、検察官に対して勾留延長請求や余罪での逮捕、勾留に対する牽制となりうる点で、申立て自体が無駄になるということはありません。示談成立の時点で勾留期間満了までに時間的間隔がある場合、積極的に準抗告の申立てを行うべきでしょう。

4.(最後に)

 以上がお聞きした限りの事情の下での一般論での説明になりますが、実際には事案の詳細や取調べ等捜査の状況を直接お聞きした上、具体的事情の下で成立する犯罪についての法的検討、予想される証拠関係や刑事手続の流れ、見通し等を踏まえて、対応を協議する必要があります。取調べへの対応方法の違い1つで示談の成否や刑事処分の見通し、身柄関係の見通しが大きく左右されることもあり、無用かつ重大な不利益を招くこともありますので、自分自身の首を絞める結果とならないためにも、可及的速やかに弁護士に接見に来てもらい、専門家のアドバイスを受けながら対応していくことが必要でしょう。

 特に、本件は被害者との示談の成否が刑事手続の帰趨を大きく左右するところ、事案の類型に照らして被害者の被害感情は熾烈を極めていることが多く、限られた勾留期間中に示談を成立させられるか否かは弁護士の経験に掛かっている部分も相当程度あるように思います。そのため、弁護人を選任するにあたっては、同種事案の弁護経験のある弁護士を選ばれることを強くお勧めいたします。

≪参照条文≫
刑法
(併合罪)
第四十五条  確定裁判を経ていない二個以上の罪を併合罪とする。ある罪について禁錮以上の刑に処する確定裁判があったときは、その罪とその裁判が確定する前に犯した罪とに限り、併合罪とする。
(有期の懲役及び禁錮の加重)
第四十七条  併合罪のうちの二個以上の罪について有期の懲役又は禁錮に処するときは、その最も重い罪について定めた刑の長期にその二分の一を加えたものを長期とする。ただし、それぞれの罪について定めた刑の長期の合計を超えることはできない。
(脅迫)
第二百二十二条  生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、二年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
2  親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者も、前項と同様とする。
(名誉毀損)
第二百三十条  公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
(親告罪)
第二百三十二条  この章の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。

私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律
(定義)
第二条  この法律において「私事性的画像記録」とは、次の各号のいずれかに掲げる人の姿態が撮影された画像(撮影の対象とされた者(以下「撮影対象者」という。)において、撮影をした者、撮影対象者及び撮影対象者から提供を受けた者以外の者(次条第一項において「第三者」という。)が閲覧することを認識した上で、任意に撮影を承諾し又は撮影をしたものを除く。次項において同じ。)に係る電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。同項において同じ。)その他の記録をいう。
一  性交又は性交類似行為に係る人の姿態
二  他人が人の性器等(性器、肛門又は乳首をいう。以下この号及び次号において同じ。)を触る行為又は人が他人の性器等を触る行為に係る人の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
三  衣服の全部又は一部を着けない人の姿態であって、殊更に人の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの
2  この法律において「私事性的画像記録物」とは、写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物であって、前項各号のいずれかに掲げる人の姿態が撮影された画像を記録したものをいう。
(私事性的画像記録提供等)
第三条  第三者が撮影対象者を特定することができる方法で、電気通信回線を通じて私事性的画像記録を不特定又は多数の者に提供した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
2  前項の方法で、私事性的画像記録物を不特定若しくは多数の者に提供し、又は公然と陳列した者も、同項と同様とする。
3  前二項の行為をさせる目的で、電気通信回線を通じて私事性的画像記録を提供し、又は私事性的画像記録物を提供した者は、一年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
4  前三項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
5  第一項から第三項までの罪は、刑法(明治四十年法律第四十五号)第三条の例に従う。

刑事訴訟法
第三十七条の二  死刑又は無期若しくは長期三年を超える懲役若しくは禁錮に当たる事件について被疑者に対して勾留状が発せられている場合において、被疑者が貧困その他の事由により弁護人を選任することができないときは、裁判官は、その請求により、被疑者のため弁護人を付さなければならない。ただし、被疑者以外の者が選任した弁護人がある場合又は被疑者が釈放された場合は、この限りでない。
第六十条  裁判所は、被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で、左の各号の一にあたるときは、これを勾留することができる。
一  被告人が定まつた住居を有しないとき。
二  被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
三  被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
○2  勾留の期間は、公訴の提起があつた日から二箇月とする。特に継続の必要がある場合においては、具体的にその理由を附した決定で、一箇月ごとにこれを更新することができる。但し、第八十九条第一号、第三号、第四号又は第六号にあたる場合を除いては、更新は、一回に限るものとする。
第八十七条  勾留の理由又は勾留の必要がなくなつたときは、裁判所は、検察官、勾留されている被告人若しくはその弁護人、法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族若しくは兄弟姉妹の請求により、又は職権で、決定を以て勾留を取り消さなければならない。
第二百三条  司法警察員は、逮捕状により被疑者を逮捕したとき、又は逮捕状により逮捕された被疑者を受け取つたときは、直ちに犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告げた上、弁解の機会を与え、留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し、留置の必要があると思料するときは被疑者が身体を拘束された時から四十八時間以内に書類及び証拠物とともにこれを検察官に送致する手続をしなければならない。
第二百七条  前三条の規定による勾留の請求を受けた裁判官は、その処分に関し裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。但し、保釈については、この限りでない。
第二百八条  前条の規定により被疑者を勾留した事件につき、勾留の請求をした日から十日以内に公訴を提起しないときは、検察官は、直ちに被疑者を釈放しなければならない。
○2  裁判官は、やむを得ない事由があると認めるときは、検察官の請求により、前項の期間を延長することができる。この期間の延長は、通じて十日を超えることができない。
第二百三十条  犯罪により害を被つた者は、告訴をすることができる。
第二百三十七条  告訴は、公訴の提起があるまでこれを取り消すことができる。
○2  告訴の取消をした者は、更に告訴をすることができない。
第二百四十七条  公訴は、検察官がこれを行う。
第二百四十八条  犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。
第四百二十六条  抗告の手続がその規定に違反したとき、又は抗告が理由のないときは、決定で抗告を棄却しなければならない。
○2  抗告が理由のあるときは、決定で原決定を取り消し、必要がある場合には、更に裁判をしなければならない。
第四百二十九条  裁判官が左の裁判をした場合において、不服がある者は、簡易裁判所の裁判官がした裁判に対しては管轄地方裁判所に、その他の裁判官がした裁判に対してはその裁判官所属の裁判所にその裁判の取消又は変更を請求することができる。
二  勾留、保釈、押収又は押収物の還付に関する裁判
第四百三十二条  第四百二十四条、第四百二十六条及び第四百二十七条の規定は、第四百二十九条及び第四百三十条の請求があつた場合にこれを準用する。


≪参考判例≫

横浜地方裁判所平成27年6月12日第1刑事部判決


脅迫,わいせつ電磁的記録記録媒体陳列,私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律違反事件



       主   文

被告人を懲役2年6月に処する。
未決勾留日数中30日をその刑に算入する。
この裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予する。
被告人をその猶予の期間中保護観察に付する。
横浜地方検察庁で保管中のパーソナルコンピュータ1式(同庁平成27年領第861号符号6)を没収する。


       理   由

【罪となるべき事実】
 被告人は,
第1 元交際相手であるA(当時19歳)の裸体等が撮影された画像データを保管していたものであるが,Aに自慰行為を見せるよう要求したところ,Aがこれを断ったことなどに立腹し,Aを脅迫しようと考え,別表1記載のとおり,平成26年8月18日午前7時31分頃から同月19日午前2時23分頃までの間,前後5回にわたり,被告人方において,自己のパーソナルコンピュータ(横浜地方検察庁平成27年領第861号符号6)を操作してインターネットアプリケーション「B」を用い,Aの携帯電話機に宛てて,「しなかったので写真ばらまきます後悔させてやる」「脅しだとおもっとればいいよばら撒かれてからきずいてもおそいで」などと記載したメッセージを順次送信し,いずれもその頃,Aに前記メッセージを閲読させてその内容を了知させ,もってAの名誉に危害を加える旨を告知して脅迫し
第2 同年12月13日午後11時9分頃,前記被告人方において,判示第1のパーソナルコンピュータを用いてインターネットを利用し,Aの陰部を露骨に撮影したわいせつな画像データ1点を,C社が管理するアメリカ合衆国内に設置されたサーバコンピュータに送信して記憶・蔵置させ,不特定多数のインターネット利用者に対し,同画像の閲覧が可能な状態を設定し,もってわいせつな電磁的記録に係る記録媒体を公然と陳列し
第3 平成27年1月2日午前11時43分頃から同日午後1時40分頃までの間,10回にわたり,前記被告人方において,判示第1のパーソナルコンピュータを用いてインターネットを利用し,Aの顔を撮影した画像データやAの氏名等が記載された「合格通知書」と題する書面を撮影した画像データなどとともに,Aの顔や陰部を撮影した画像データ及びAが被告人の陰茎を口淫する場面を撮影した画像データ等10点を,C社が管理するアメリカ合衆国内に設置されたサーバコンピュータに送信して記憶・蔵置させ、不特定多数のインターネット利用者に対し,同画像の閲覧が可能な状態を設定し,もって第三者が撮影対象者を特定することができる方法で,性交又は性交類似行為に係る人の姿態及び衣服の全部又は一部を着けない人の姿態であって,殊更に人の性的な部位が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するものである私事性的画像記録物を公然と陳列し
第4 Aの裸体等が撮影された画像データを保管していることを利用し,さらにAを脅迫しようと考え,別表2記載のとおり,同年2月3日午前11時16分頃から同月7日午後8時44分頃までの間,前後7回にわたり,前記被告人方及びその周辺において,判示第1のパーソナルコンピュータ又は被告人の携帯電話機を操作してインターネットアプリケーション「B」を用い,Aの携帯電話機に宛てて,「マンションにビラまくかな〜」「マンションより学校かいいかい?(笑)」「パパの会社にするかな?」「殺してシマウマえに死んでくれ」「えw今流行のストーカー殺人www」などと記載したメッセージを順次送信し,いずれもその頃,Aに前記メッセージを閲読させてその内容を了知させ,もってAの生命,身体,名誉等に危害を加える旨を告知して脅迫し
たものである。
【証拠の標目】
(省略)
【法令の適用】
 被告人の判示第1,第4の各所為は各包括していずれも刑法222条1項に,判示第2の所為は同法175条1項前段に,判示第3の所為は包括して私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律3条2項,2条1項1号,3号にそれぞれ該当するところ,各所定刑中いずれも懲役刑を選択し,以上は刑法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により最も重い判示第3の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役2年6月に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中30日をその刑に算入し,情状により同法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予し,なお同法25条の2第1項前段を適用して被告人をその猶予の期間中保護観察に付し,横浜地方検察庁で保管中のパーソナルコンピュータ1式(同庁平成27年領第861号符号6)は判示各犯行の用に供した物で被告人以外の者に属しないから,同法19条1項2号,2項本文を適用してこれを没収し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。 
【量刑の理由】
 各犯行の動機は,被告人が自慰行為をみせるよう被害者に要求して拒絶され,被告人が立腹して各犯行に及んだというもので,悪質ではあるが,その背景には,弁護人の指摘するような,元妻との間の離婚裁判上の書類作成の便宜について被害者が言葉を濁した事情もあり,被告人に同情の余地が全くないわけではない。他方で,各犯行は,平成26年8月から平成27年2月に至るまで,断続的ではあるが,長期にわたり敢行されており,本件によって被害者が被った精神的苦痛や,人格の尊厳を害された程度は大きいものというべく,被害結果は重大である。
 しかしながら,被告人は,捜査の当初段階及び第1回公判においては,脅迫の点を否定したが,第2回公判では,脅迫の点を含めて各犯行を全て認め,反省する姿勢を示し始めていること,今後,被害者には一切連絡しない旨約束し,現時点において,本件のプライベートポルノに関連する電子機器類の所有権放棄に応じていること,これまで被告人には懲役前科がないことなど,被告人のために酌量できる事情もある。
 以上によれば,当裁判所としては,被告人の刑の執行を猶予するものの,上記のような動機に照らし,被告人が,被害者の抱く恐怖心を被告人として容易に理解できないという認知のゆがみを有している点を重視して,被告人に対し,認知のゆがみを解消するプログラムを受けさせ,今後の更生及び再犯防止に資することを専門機関に期待して,被告人を保護観察に付することとする。
 よって,主文のとおり判決する。
(求刑 懲役3年)
平成27年6月12日
横浜地方裁判所第1刑事部
裁判官 樋上慎二

別表1
番号 送信日時(平成26年) 文言
1 8月18日午前7時13分頃 しなかったので写真ばらまきます後悔させてやる
2 8月18日午前8時55分頃 ばらまこっと
3 8月19日午前1時19分頃 いつまで待っても返事来ず
                ばらまけってことやな
4 8月19日午前1時38分頃 脅しだとおもっとればいいよ
                ばら撒かれてからきずいてもおそいで
5 8月19日午前2時23分頃 朝にはさわぎになってるわい
別表2
番号 送信日時(平成27年)  文言
1 2月3日午前11時16分頃 マンションにビラまくかな〜
2 2月5日午後2時44分頃  マンションより学校かいいかい?(笑)
3 2月5日午後6時24分頃  パパの会社にするかな?
4 2月5日午後7時13分頃  卒業式でばらまこかww
5 2月6日午前0時12分頃  Dにも送るね
6 2月7日午後6時55分頃  殺してシマウマえに死んでくれ
7 2月7日午後8時44分頃  えw今流行のストーカー殺人www


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