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No.1607、2015/05/29 12:00 https://www.shinginza.com/qa-sarakin.htm

【民事、連帯保証人の債務承認後の主たる債務の時効援用はできるか、大阪高裁平成5年10月4日決定、最高裁昭和41年4月20日判決】

保証人の時効主張

質問:
  私は,15年ほど前に,兄が銀行から借金をする際に連帯保証人になったところ,最近になって,その銀行から,連帯保証人として残債の支払を要請する旨の通知書が届きました。私は,銀行に連絡して,一定額は支払うので,残額は免除して欲しい旨お願いしました。
  しかし、後になって消滅時効期間が経過しているので支払う義務はないのではと疑問になりました。銀行に対し,連帯保証人として残債を支払わなければならないのでしょうか。
  なお,通知書によると,兄は借金をして1年ほどは返済を続けたようですが,それ以降は全く返済をしていないとのことです。兄は,借金をした直後に家出をして,現在に至るまで音信不通です。住民票も,家出した当時のまま,動いていません。
  また,今回の通知書が届くまで,銀行からは何ら連絡はありませんでした。私の住所は,連帯保証人になった時から現在に至るまで変更はないので,銀行が私に連絡を取れなかったということはないはずです。



回答:

1 銀行に対する債務の消滅時効の期間は,期限が到来してから5年間です(商法522条本文,商法5条,銀行法4条の2柱書)。

2 本件の事情からすると,15年前に借金をして1年間くらいしか返済していないことから5年の消滅時効期間が経過していること、銀行から主たる債務者であるお兄さんにもあなたにも,「請求」がなく、また、お兄さんやあなたから銀行に対して「承認」などしたこともないことから時効中断事由(民法147条)が生じている可能性は低く,時効期間は経過していると考えられます。

3 もっとも,あなたは,「銀行に連絡して,一定額は支払うので,残額は免除して欲しい旨お願いしました」とのことなので,この行為により,あなたの銀行に対する保証債務につき消滅時効を援用する権利(時効援用権。民法145条)は,喪失してしまったと判断される可能性が高いです。

4 しかしながら,あなたの銀行に対する保証債務についての時効援用権が喪失してしまったとしても,あなたは,お兄さんの銀行に対する主たる債務についても時効援用権を行使することができ,このことにより,主たる債務のみならず,保証債務も消滅する(民法457条1項)という結果を享受することができると判断される可能性が高いです。

5 弁護士等の法律専門家に具体的に相談されることをお勧めいたします。

解説:

1 保証について

保証人が債務の履行を請求された場合の消滅時効の問題については、保証債務についての消滅時効の検討のほかに、主たる債務についての消滅時効の検討が必要になります。保証債務は主たる債務に附従し、主たる債務が消滅すれば保証債務も消滅することになっているため主たる債務の消滅時効の完成と援用についての検討が必要になります。この点を理解するため、まず、保証債務の性質について説明します。

(1) 意義・性質

ア 意義

 保証人は,主たる債務者がその債務を履行しないときに,その履行をする責任を負います(民法446条1項)。この保証人の債務を保証債務と呼び主たる債務者の主債務と区別されます。

 そして,保証人が主たる債務者に代わって弁済等をしたときは,主たる債務者に対して求償することができます(民法459条,462条)。

イ 附従性

 主たる債務者に対する履行の請求その他の事由による時効の中断は,保証人に対しても,その効力を生じます(民法457条1項)。
また,保証人は,主たる債務者の債権による相殺をもって債権者に対抗することができます(同条2項)。

 以上のような保証の性質を,保証の附従性といいます。

ウ 催告・検索の抗弁権

 保証人は,催告の抗弁と検索の抗弁を有します。

(ア) まず,債権者が保証人に債務の履行を請求したときは,保証人は,まず主たる債務者に催告をすべき旨を請求することができます(民法452条)。この保証人の権利を催告の抗弁といいます。

(イ) また,債権者が主たる債務者に催告をした後であっても,保証人が主たる債務者に弁済をする資力があり,かつ,執行が容易であることを証明したときは,債権者は,まず主たる債務者の財産について執行をしなければなりません(民法453条)。この保証人の権利を検索の抗弁といいます。

(3) 連帯保証

 保証人が主たる債務者と連帯して債務を負担したとき(いわゆる連帯保証)は,保証人が催告の抗弁と検索の抗弁を有しません(民法454条)。
実社会における保証の多くは,この連帯保証といえるでしょう。

2 消滅時効について

(1) 意義・性質

ア 民法上の原則

 債権は,原則として,10年間行使しないときは,消滅し(消滅時効。民法167条1項),消滅時効は,権利を行使することができる時から進行する(同法166条1項)とされています。

 もっとも,時効は,当事者が援用しなければ(いわゆる時効援用権の行使),裁判所がこれによって裁判をすることはできません(民法145条)。「当時者」が援用できるとして、条文上、債務者が援用できるとは限定していませんし、時効制度、並びに補償制度の趣旨からも債務者の保証人や物上保証人も当事者として消滅時効を援用できるとされています。

イ 商事債権の特例

 商行為によって生じた債権については,消滅時効期間は,10年間ではなく,5年間とされています(商法522条本文)。

 そして,銀行の貸付債権は,商行為によって生じた債権に当たるため,時効期間は5年となります(商法5条,銀行法4条の2柱書)。

(2) 時効の中断

ア 時効は,「請求」や「承認」などにより中断し(民法147条),中断した時効は,その中断の事由が終了した時から,新たにその進行を始めます(同法157条)。

 「請求」は,債権者側の行為による中断事由であり,中断の効力を確定的に生じさせるためには,裁判上の請求をする必要があります(民法149条以下参照)。

 他方,「承認」は,債務者側の行為による中断事由であり,この具体例としては,支払猶予・免除の要請や一部弁済などが挙げられます。

イ 時効の中断は,その中断の事由が生じた当事者及びその承継人の間においてのみ,その効力を有します(同法148条)。

(3) 時効援用権の喪失

ア 時効期間(前記(1)参照)が経過する前の「承認」は,時効の中断事由となります(前記(2)参照)。

イ ご相談の場合は、時効期間が経過した(いわゆる「時効の完成」)のちに保証債務の履行を約束しているとのことですので、時効期間経過前の時効の中断には該当しません。しかし、時効期間完成後に「承認」に該当する行為があった場合,債務者は時効援用権を行使することができるのでしょうか。

 この点,最高裁昭和41年4月20日大法廷判決は,「債務者が,自己の負担する債務について時効が完成したのちに,債権者に対し債務の承認をした以上,時効完成の事実を知らなかつたときでも,爾後その債務についてその完成した消滅時効の援用をすることは許されないものと解するのが相当である。」とします(いわゆる時効援用権の喪失)。

 そして,同判決は,その理由につき,「時効の完成後,債務者が債務の承認をすることは,時効による債務消滅の主張と相容れない行為であり,相手方においても債務者はもはや時効の援用をしない趣旨であると考えるであろうから,その後においては債務者に時効の援用を認めないものと解するのが,信義則に照らし,相当であるからである。また,かく解しても,永続した社会秩序の維持を目的とする時効制度の存在理由に反するものでもない。」と述べます。

 そこで、ご相談の場合、保証債務の消滅時効については時効完成後に債務の承認があったとして、その援用は認められないことになります。

3 保証人による主たる債務の消滅時効の援用

(1) 時効期間経過前に保証人の「承認」行為があった場合

 時効期間経過前に保証人による「承認」に該当する行為があった場合でも,「承認」としての時効中断は,主たる債務者に対しては,その効力が及びません(民法148条,前記2(2)イ参照)。なお,これに対し,主たる債務者が承認をした場合については、主たる債務に対する保証債務の附従性から時効中断の効力が生じます(前記1(1)イ参照)。

 そして,主たる債務につき時効中断事由がなく時効期間が経過した場合,保証人は,(保証債務については時効を援用することができなくても,)主たる債務について当事者として主たる債務の消滅時効を援用することができるとされています(大審院昭和7年6月21日判決,最高裁平成7年9月8日判決)。消滅時効援用の結果主たる債務が消滅し保証債務附従性により,主たる債務のみならず,保証債務も消滅する(民法457条1項,前記1(1)イ参照)という結果を享受することができます。

(2) 時効期間経過後に保証人の「承認」行為があった場合

 ご相談の場合は、消滅時効期間経過後に保証人の「承認」行為があった場合、保証人は主たる債務の消滅時効を援用することができるか、という問題です。保証債務については信義則から消滅時効の援用を制限されことになっていますから、主たる債務の消滅時効も援用できないのでは、という疑問が生じます。

ア まず,時効期間経過前の「承認」行為は時効中断の問題となること(前記2(2)参照),さらにこの「承認」行為が保証人によってなされた場合,保証人は主たる債務について消滅時効を援用することができること(前記(1)参照)は,前記のとおりです。

イ では,時効期間経過後に保証人により「承認」に該当する行為がなされた場合は,どうなるのでしょうか。

(ア) まず,時効期間経過後の「承認」行為は,時効援用権の喪失の問題となります(前記2(3)参照)。

(イ) では,この「承認」行為が保証人によってなされた場合,保証人は主たる債務について消滅時効を援用することができることはできるのでしょうか。

 この点,大阪高裁平成5年10月4日決定は,以下のように判示して,肯定に解します。

「一般的に消滅時効が完成した後に債務者が自己の負担する債務を承認した場合,債権者ももはや債務者において時効の援用をしない趣旨であると考えるのが通常であるから,その後は債務者に時効の援用を認めないのが信義則に照らし相当である。しかし,本件のように主債務について時効が完成した後に保証人が保証債務を承認した場合に主債務の時効消滅を主張しうるかどうかは別の問題である。
本来保証人としてはその保証債務を履行した場合主債務者に対して求償することができるのに,主債務の時効が完成し主債務者がこれを援用してその債務を免れた場合には求償の途を絶たれることになり,保証債務は主債務が消滅した場合これに付従して消滅する性質の債務である(尤も,時効消滅の場合その援用が相対的であるから,保証人において援用しない限り保証人に対する請求は可能である。)ことを考えると,保証人は主債務の時効消滅後に自己の保証債務を承認したとしても,改めて主債務の消滅時効を援用することができると解するのが相当である。」

(ウ) 上記大阪高裁決定によればご相談の場合、既に金融機関にその支払いを約束していたとしても主たる債務の消滅時効を援用して保証債務も消滅していることを主張し支払いを拒否できることになります。

 この裁判例は,時効期間経過後の「承認」行為を時効援用権の喪失の問題と捉えつつ,この「承認」行為が保証人によってなされた場合,保証人は主たる債務について消滅時効を援用することができるとしていますが、時効完成後の債務の承認があった場合、信義則を理由に時効の援用を制限する判例の立場(時効援用権の喪失につき最高裁昭和41年4月20日大法廷判決,保証人による「承認」行為につき大審院昭和7年6月21日判決,最高裁平成7年9月8日判決)からすると、支払いを約束しながら支払いを拒否するというのは信義に反することは同様のようにも考えられますが、主たる債務の消滅を理由として支払いを拒否するのは、保証債務の附従性からして信義に反することではないと考え、整合性を保っていると考えることができます。

 また,結論を導き出すにおいて,保証人の主たる債務者に対する求償権確保の観点から検討されている点は,説得的といえるのではないでしょうか。連帯保証人は、あくまで保証人であり本来自らの債務ではないのですから、保証人として弁済する以上その求償権を理論的に確実なものにする必要があります。従って、援用権を認めないと求償に対し主たる債務所の時効援用による遡及的主たる債務の消滅の結果、保証人は、架空の主たる債務を保証人として弁済したことになり求償の前提がなくなり求償が不可能となるわけです。さらに、主たる債務と、連帯保証人の債務は、本来別個独立の債務ですから、保証人が、自らの債務に時効完成後債務の承認をしても、利害関係人として主たる債務の援用権がある以上、主たる債務の時効援用に何ら影響はないと考えるのが理論的です。


<参照条文>
民法
(基本原則)
第1条 私権は,公共の福祉に適合しなければならない。
2 権利の行使及び義務の履行は,信義に従い誠実に行わなければならない。
3 権利の濫用は,これを許さない。
(時効の援用)
第145条 時効は,当事者が援用しなければ,裁判所がこれによって裁判をすることができない。
(時効の中断事由)
第147条 時効は,次に掲げる事由によって中断する。
一 請求
二 差押え,仮差押え又は仮処分
三 承認
(時効の中断の効力が及ぶ者の範囲)
第148条 前条の規定による時効の中断は,その中断の事由が生じた当事者及びその承継人の間においてのみ,その効力を有する。
(中断後の時効の進行)
第157条 中断した時効は,その中断の事由が終了した時から,新たにその進行を始める。
2 裁判上の請求によって中断した時効は,裁判が確定した時から,新たにその進行を始める。
(消滅時効の進行等)
第166条 消滅時効は,権利を行使することができる時から進行する。
2 前項の規定は,始期付権利又は停止条件付権利の目的物を占有する第三者のために,その占有の開始の時から取得時効が進行することを妨げない。ただし,権利者は,その時効を中断するため,いつでも占有者の承認を求めることができる。
(債権等の消滅時効)
第167条 債権は,10年間行使しないときは,消滅する。
2 債権又は所有権以外の財産権は,20年間行使しないときは,消滅する。
(保証人の責任等)
第446条 保証人は,主たる債務者がその債務を履行しないときに,その履行をする責任を負う。
2 保証契約は,書面でしなければ,その効力を生じない。
3 保証契約がその内容を記録した電磁的記録(電子的方式,磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって,電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。)によってされたときは,その保証契約は,書面によってされたものとみなして,前項の規定を適用する。
(催告の抗弁)
第452条 債権者が保証人に債務の履行を請求したときは,保証人は,まず主たる債務者に催告をすべき旨を請求することができる。ただし,主たる債務者が破産手続開始の決定を受けたとき,又はその行方が知れないときは,この限りでない。
(検索の抗弁)
第453条 債権者が前条の規定に従い主たる債務者に催告をした後であっても,保証人が主たる債務者に弁済をする資力があり,かつ,執行が容易であることを証明したときは,債権者は,まず主たる債務者の財産について執行をしなければならない。
(連帯保証の場合の特則)
第454条 保証人は,主たる債務者と連帯して債務を負担したときは,前2条の権利を有しない。
(催告の抗弁及び検索の抗弁の効果)
第455条 第452条又は第453条の規定により保証人の請求又は証明があったにもかかわらず,債権者が催告又は執行をすることを怠ったために主たる債務者から全部の弁済を得られなかったときは,保証人は,債権者が直ちに催告又は執行をすれば弁済を得ることができた限度において,その義務を免れる。
(主たる債務者について生じた事由の効力)
第457条 主たる債務者に対する履行の請求その他の事由による時効の中断は,保証人に対しても,その効力を生ずる。
2 保証人は,主たる債務者の債権による相殺をもって債権者に対抗することができる。
(委託を受けた保証人の求償権)
第459条 保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において,過失なく債権者に弁済をすべき旨の裁判の言渡しを受け,又は主たる債務者に代わって弁済をし,その他自己の財産をもって債務を消滅させるべき行為をしたときは,その保証人は,主たる債務者に対して求償権を有する。
2 第442条第2項の規定は,前項の場合について準用する。
(委託を受けない保証人の求償権)
第462条 主たる債務者の委託を受けないで保証をした者が弁済をし,その他自己の財産をもって主たる債務者にその債務を免れさせたときは,主たる債務者は,その当時利益を受けた限度において償還をしなければならない。
2 主たる債務者の意思に反して保証をした者は,主たる債務者が現に利益を受けている限度においてのみ求償権を有する。この場合において,主たる債務者が求償の日以前に相殺の原因を有していたことを主張するときは,保証人は,債権者に対し,その相殺によって消滅すべきであった債務の履行を請求することができる。

商法
(商事消滅時効)
第522条 商行為によって生じた債権は,この法律に別段の定めがある場合を除き,5年間行使しないときは,時効によって消滅する。ただし,他の法令に5年間より短い時効期間の定めがあるときは,その定めるところによる。

会社法
(商行為)
第5条 会社(外国会社を含む。次条第1項,第8条及び第9条において同じ。)がその事業としてする行為及びその事業のためにする行為は,商行為とする。

銀行法
(銀行の機関)
第4条の2 銀行は,株式会社であつて次に掲げる機関を置くものでなければならない。
一 取締役会
二 監査役会又は委員会(会社法第2条第12号(定義)に規定する委員会をいう。第52条の18第2項第2号において同じ。)
三 会計監査人

<参照判例>
最高裁昭和41年4月20日大法廷判決
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人・・・の上告理由第一点について。
論旨は,要するに,上告人が本件債務の承認をしなかつたことを認めうる事情ないし証拠があるのに,原判決が,なんら首肯するに足りる事情の存在について判示することなく,上告人は,該債務が時効によつて消滅したのち,これを承認したと認定したのは,違法であるというにある。
しかしながら,原審の右認定は,原判決挙示の証拠により肯認しえないことはなく,所論引用の判例は本件に適切でない。したがつて,原判決に所論の違法はなく,論旨は,ひつきよう,原審の適法にした証拠の判断および事実の認定を非難するに帰するから,採用できない。
同第二点について。
論旨は,要するに,原判決が,上告人は商人であり本件債務の承認をした事実を前提として,上告人は同債務について時効の利益を放棄したものと推定するのが相当であるとしたのは,経験則に違背して事実を推定したものであり,この点で原判決は破棄を免れないというにある。
案ずるに,債務者は,消滅時効が完成したのちに債務の承認をする場合には,その時効完成の事実を知つているのはむしろ異例で,知らないのが通常であるといえるから,債務者が商人の場合でも,消滅時効完成後に当該債務の承認をした事実から右承認は時効が完成したことを知つてされたものであると推定することは許されないものと解するのが相当である。したがつて,右と見解を異にする当裁判所の判例(昭和35年6月23日言渡第一小法廷判決・・・参照)は,これを変更すべきものと認める。しからば,原判決が,上告人は商人であり,本件債務について時効が完成したのちその承認をした事実を確定したうえ,これを前提として,上告人は本件債務について時効の完成したことを知りながら右承認をし,右債務について時効の利益を放棄したものと推定したのは,経験則に反する推定をしたものというべきである。しかしながら,債務者が,自己の負担する債務について時効が完成したのちに,債権者に対し債務の承認をした以上,時効完成の事実を知らなかつたときでも,爾後その債務についてその完成した消滅時効の援用をすることは許されないものと解するのが相当である。けだし,時効の完成後,債務者が債務の承認をすることは,時効による債務消滅の主張と相容れない行為であり,相手方においても債務者はもはや時効の援用をしない趣旨であると考えるであろうから,その後においては債務者に時効の援用を認めないものと解するのが,信義則に照らし,相当であるからである。また,かく解しても,永続した社会秩序の維持を目的とする時効制度の存在理由に反するものでもない。そして,この見地に立ては,前記のように,上告人は本件債務について時効が完成したのちこれを承認したというのであるから,もはや右債務について右時効の援用をすることは許されないといわざるをえない。しからば,原判決が上告人の消滅時効の抗弁を排斥したのは,結局,正当であることに帰するから,論旨は,採用できない。
同第三点について。
論旨は,要するに,所論一引用の上告人の主張は,本件当事者間に和解契約が成立し,本件公正証書に表示された債務は消滅し,右公正証書に基づく強制執行は許されないという趣旨であるのに,原審が右主張についてなんら釈明することなく,また,これについて判断しなかつたのは,審理不尽,判断遺脱の違法を犯したものであるというにある。
しかし,上告人が原審で前記所論一引用のような主張をしていることは記録上明らかであるが,原審における本件口頭弁論の全趣旨をしんしやくしても,右主張が右論旨主張のような趣旨であるとは到底解しえないから,原審の手続に所論の違法はないというべきである。論旨は,ひつきよう,原審で主張しない事実を前提として原判決を攻撃するに帰するから,採用できない。
よつて,民訴法401条,396条,384条,95条,89条に従い,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

大阪高裁平成5年10月4日決定
主文
一 原決定及び大阪地方裁判所が同裁判所平成4年(ヨ)第558号不動産仮差押命令申立事件について平成4年3月4日にした仮差押決定を取り消す。
二 Xの本件仮差押命令申立を却下する。
三 申立費用は,原審及び当審ともXの負担とする。
理由
第一 Yは,主文同旨の裁判を求め,抗告の理由を別紙(一)のとおり述べた。Xは,「一 本件抗告を棄却する。二 抗告費用はYの負担とする。」との裁判を求め,抗告理由に対する答弁及び主張を別紙(二),(三),(四)のとおり述べた。
第二 事案の概要は,原決定記載のとおり(原決定2枚目表3行目から4枚目裏5行目まで,ただし,原決定3枚目表10行目「条件に」の次に「差押時に遡って」を加え,同4枚目表1行目の「消滅時効が」から同2行目の末尾までを「主債務が消滅時効の完成により消滅しているので,これを援用する。したがって,Yの連帯保証債務も消滅した。」と改める。)であるから,これを引用する。
第三 争点に対する判断
一 当裁判所も,本件争点のうち,連帯保証契約の存否(争点1)については,X主張のとおり同契約の成立を認めるのが相当であり,時効中断の有無(争点2)については,本件貸金(主債務)について5年の消滅時効期間が経過し,Xのした物上保証人の担保物件に対する競売申立による時効中断は認められず,消滅時効が完成したものと判断する。その理由は,原決定6枚目表5行目の末尾に,「また,当審参考人Aの陳述中にも右の主張に符合する部分があるが,その内容が暖昧であり,右同様信用することができない。」を,同7枚目表4行目の次に改行して「5 以上によれば,本件貸金(主債務)については昭和63年10月28日の経過により消滅時効が完成しているので,Yはこれを援用してその連帯保証債務の履行を免れ得ることとなる。」をそれぞれ加えるほか,原決定理由説示のとおり(原決定4枚目裏7行目から7枚目表4行目まで)であるから,これを引用する。
二 Xは,Yは消滅時効完成後本件貸金について連帯保証債務を承認したので,信義則上時効を援用することは許されないと主張する(争点3)ので,判断する。
まず,(証拠〔省略〕)によれば,本件仮差押決定の正本がYに送達された後である平成4年4月7日X大阪支店の担当者であるBがYの自宅を訪問して,本件貸金について連帯保証人として弁済するよう求めたところ,Yは,連帯保証債務の存在自体は争わず,「500万円を弁済するのでその余の債務を免除してほしい。」旨申し出たことが認められる。これによれば,Yは消滅時効完成後に連帯保証債務を承認したと見ることができる。Yは,右申出は連帯保証債務を承認したものではなく,本件仮差押を解放して貰うため示談の打診をしたに過ぎないと主張するが,Yの示談の打診が本件貸金についてYの連帯保証債務を承認した上でされたことはその経過に照らして否定し難いところであるから,Yの主張は採用できない。
ところで,一般的に消滅時効が完成した後に債務者が自己の負担する債務を承認した場合,債権者ももはや債務者において時効の援用をしない趣旨であると考えるのが通常であるから,その後は債務者に時効の援用を認めないのが信義則に照らし相当である。しかし,本件のように主債務について時効が完成した後に保証人が保証債務を承認した場合に主債務の時効消滅を主張しうるかどうかは別の問題である。
本来保証人としてはその保証債務を履行した場合主債務者に対して求償することができるのに,主債務の時効が完成し主債務者がこれを援用してその債務を免れた場合には求償の途を絶たれることになり,保証債務は主債務が消滅した場合これに付従して消滅する性質の債務である(尤も,時効消滅の場合その援用が相対的であるから,保証人において援用しない限り保証人に対する請求は可能である。)ことを考えると,保証人は主債務の時効消滅後に自己の保証債務を承認したとしても,改めて主債務の消滅時効を援用することができると解するのが相当である。したがって,本件の場合,Yは,前記債務承認後であっても主債務についての消滅時効を援用できることとなる。(証拠〔省略〕)によれば,主債務者である甲興産は平成4年11月9日Xに到達した内容証明郵便によって前記消滅時効を援用したことが認められ,これにより同会社が既に確定的にその債務を免れているから,YがXとの示談交渉の過程でした債務承認を理由に保証債務の履行を強制されることはない。
以上のとおりであって,Yによる主債務の消滅時効の援用が信義則に反するとのXの主張は理由がない。
三 よって,本件仮差押命令の申立は請求債権を欠き失当であるから,原決定及び仮差押決定を取消した上,本件仮差押命令の申立を却下し,申立費用は原審及び当審ともXに負担させることとして,主文のとおり決定する。


大阪地裁平成4年10月21日決定(前掲大阪高裁平成5年10月4日決定の原審)
主文
一,XとY間の大阪地方裁判所平成4年(ヨ)第558号不動産仮差押命令申立事件につき,同裁判所が平成4年3月4日になした仮差押決定は,これを認可する。
二,訴訟費用はYの負担とする。
理由
第一,申立て
一,Yの保全異議の申立て
1. 主文第1項記載の仮差押決定(以下「本件仮差押決定」という。)を取り消す。
2. Xの本件仮差押命令申立てを却下する。
3. 訴訟費用はXの負担とする。
二,保全異議の申立てに対するXの答弁
主文と同旨
第二,事案の概要
一,前提事実
1. Xは,申立外甲興産との間の昭和57年3月20日付の銀行取引約定書(以下「本件約定書」という。)に基づき,同日,甲興産に対し,左記約定で金2000万円を貸し渡した(以下「本件貸金」という。・・・)。

(一) 返済期限昭和62年3月26日
(二) 利息年9.5パーセント
(三) 遅延損害金年14パーセント
(四) 手形交換所の取引停止処分を受けた時は,当然に期限の利益を喪失する。
2. その後甲興産は,昭和58年10月28日,銀行取引停止処分を受けたので,本件貸金につき期限の利益を喪失し,Xは,甲興産に対し,本件貸金残元本金1219万7016円及び本件貸金に対する昭和58年4月27日から平成3年11月12日までの利息と遅延損害金合計金1846万1110円を有する(証拠〔省略〕)。
二,Xの主張
1. Xは,Yが本件約定書(証拠〔省略〕)及び本件貸付にあたって作成された金銭消費貸借契約証書(証拠〔省略〕)において,本件貸金につき,甲興産と連帯して保証する旨を約したので,Yに対し,本件貸金につき甲興産に対して有する元利金債権と同額の連帯保証債務履行請求権を有するとして,本件仮差押命令申立てをした。
2. 本件貸金につき,昭和58年10月28日以降5年の消滅時効が進行したとしても,Xは,昭和62年5月27日,本件貸金の物上保証人である申立外Aの担保物件につき,競売申立てをなし,同年7月13日に競売開始決定がなされ,その決定正本が主Yである甲興産に送達されているので,民法155条により消滅時効は中断し,その中断の効果は連帯保証人であるYにも及んでいる(民法457条1項)。仮に,甲興産に対する競売開始決定正本の送達の効力が時効完成後の平成元年7月21日に生じたとしても,時効期間内に差押えがなされれば,その後に主Yに対して右決定正本の送達がなされることを条件に主Yに対する関係でも時効中断の効力が生ずると解すべきである。
3. 仮に消滅時効が完成したとしても,その後Yは,平成4年4月ころ,Xの担当者に対し,本件貸金につき,金500万円の弁済とその余の債務の免除を提案するなどして,その連帯保証債務を承認しており,信義則上時効を援用することは許されない。
三,Yの主張
1. Yは,本件約定書や金銭消費貸借契約証書に連帯保証人として署名したことはなく,また本件約定書のYの印影部分には2本の斜線が記載され,抹消されているなど,本件貸金につき,Xとの間で連帯保証契約を締結したことはない。
2. 仮に連帯保証契約の存在が認められるとしても,本件貸金については,期限の利益を喪失した昭和58年10月28日の翌日から5年を経過した昭和63年10月28日の経過により消滅時効が完成し,Yに対する連帯保証債務履行請求権は時効により消滅しているので,これを援用する。
3. 本件貸金の物上保証人である申立外Aの担保物件につき,競売開始決定がなされたとしても,時効完成後の平成元年7月21日に至って甲興産に対する右決定正本の送達の効力が生じているので,時効は中断されていない。
4. Yは,平成4年4月,Xの担当者に対し,本件仮差押えの解放を受けるため示談の打診をしたことはあるが,本件貸金の連帯保証債務を承認したことはなく,消滅時効を援用したとしても,信義則に反するものではない。
四,争点
1. Yは,本件貸金につき,Xとの間で連帯保証契約を締結したことがあるか。
2. 本件貸金の消滅時効につき,中断の効力が生じたか。
3. Yは,消滅時効完成後,連帯保証債務を承認したことにより,信義則上時効を援用することが許されないか。
第三,争点に対する判断
一,争点1(連帯保証契約の存否)について
1. 本件約定書及び金銭消費貸借契約証書のY名義の印影が,Yの実印によるものであることはYも争わない。(なお本件約定書の連帯保証人欄のY名義の印影が抹消されているが,審尋の全趣旨によると,これは実印ではなく,認印が誤って押捺されたため,これを抹消して改めて欄外にYの実印が押捺されたものと認められる。)
2. (証拠〔省略〕)によると,Xの担当者は,昭和57年3月16日,Yの自宅に電話をかけて保証意思の確認をしていることが認められる。
3. (証拠〔省略〕)によると,甲興産が昭和58年5月以降毎月の約定返済金の支払いを怠っていたので,Xの担当者は,Yに対し,同年9月5日付督促状(証拠〔省略〕)を発送したところ,YからXの担当者に対し,同月9日,「よく事情が分からぬうちに保証人になった。甲興産に資産があるので,それで回収すればよい。」旨の電話連絡をし,またYは,同月13日,X大阪支店を訪れ,「甲興産の代表者の所在は知らない。甲興産に資産があるはずであり,現在これを調査中である。」と言い,特に連帯保証人となっていることを否定するような発言はなかったことが認められる。
4. (証拠〔省略〕)によると,X大阪支店の行員である申立外Bが平成4年4月7日,Y方を訪問して代位弁済を求めたところ,Yが金500万円の弁済を申し出るなど,連帯保証債務を否定するような発言はなかったことが認められる。
5. 右事情に照らすと,本件約定書及び金銭消費貸借契約証書の各連帯保証人欄のY名義の署名が,Yによるものとは認められないとしても,本件貸付がなされた当時,Yは,甲興産を連帯保証する意思を有していたというべきであり,これに基づいて右各書面が作成されたということができる。
 6. Yは,甲興産の代表者であった申立外Cから同社の親会社であった申立外乙会社の中小企業金融公庫からの借入の保証を依頼されたときに印章を預けたことがあり,その際に冒用されたと主張し,これを裏付ける供述をするが,前掲疎明資料に照らしてにわかに信用することができない。
7. よって,Yは,本件貸金につき,Xとの間で連帯保証契約を締結したというべきである。
二,争点二(時効の中断の有無)について
1. 本件貸金は商事債権であるから,期限の利益を喪失した昭和58年10月28日の翌日から5年の消滅時効が進行し,昭和63年10月28日の経過をもって完成することになる。
2. 本件疎明資料(証拠〔省略〕)によると,Xは,昭和62年7月11日,本件貸金の物上保証人である申立外Aの担保物件につき,競売申立てをなし〔・・・〕,そのころ競売開始決定がなされ,その決定正本は,公示送達の方法で甲興産に送達され,その効力は平成元年7月21日に生じたことが認められる。
3. そうすると,競売開始決定の正本は,時効完成後に主Yである甲興産に送達されているので,本件貸金の消滅時効は,中断されることなく,完成しているというべきである。
4. なおXは,甲興産に対する競売開始決定正本の送達の効力が時効完成後の平成元年7月21日に生じたとしても,時効期間内に差押えがなされれば,その後に主Yに対して右決定正本の送達がなされることを条件に主Yに対する関係でも時効中断の効力が生ずると解すべきであると主張するが,これは,民法155条の明文に反する解釈であるから,右主張は採用することができない。
三,争点3(時効完成後の債務承認)について
 1. (証拠〔省略〕)によると,Bは,本件仮差押決定の正本がYに送達された後である平成4年4月7日,Yの自宅を訪問し,同人に対して本件貸金につき,連帯保証人として弁済をするように求めたところ,Yは,金500万円の弁済とその余の債務の免除を申し出たこと,その後Yは,右Bに対し,同月21日,電話で「すべてについて弁護士に依頼したので,私がこれまで話したことはなかったことにしてもらいたい。」と述べたことが認められる。
2. Yの右4月7日の言動は,本件貸金の連帯保証債務を認めたうえでの示談の提案と理解され,時効による債務消滅の主張と相容れない行為であり,またXにおいても,右言動からYがもはや時効を援用しないものと考えるのであって,このような場合時効の援用を認めないのが信義則に照らして相当というべきである。
3. Yは,連帯保証債務を承認したことはなく,ただ本件仮差押えを解放してもらうため,示談を打診したのみであると主張するが,参考人Bの供述に照らし,にわかに信用することができない。
四,以上によると,Xの本件仮差押命令申立ては理由があるので,本件仮差押決定を認可し,訴訟費用の負担につき,民事保全法7条,民事訴訟法89条を適用して,主文のとおり決定する。

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