新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1603、2015/05/15 12:00 https://www.shinginza.com/qa-hanzai.htm

【刑事、強制わいせつ事件と身柄解放手続・対策、最高裁一小決平成26年11月17日決定】 

痴漢行為で強制わいせつ罪の容疑が掛かった場合


質問:

警察から連絡があり、私の夫が電車の中で痴漢行為を働いてしまい、任意同行の上逮捕されてしまったとのことです。同様の行為は過去に2回ほどしてしまっていますが何とか不起訴処分にしてもらえました。今回は被疑事実としては強制わいせつということを告げられました。私の夫は今後どうなってしまうのでしょうか。
 強制わいせつという罪名は初めてですが、過去のこともあるので有罪になってしまうのでしょうか。子どもの小学校受験や、外せない仕事も控えています。早期に外に出ることはできないでしょうか。



回答
1 できるだけ早く被害者と示談をして、遅くとも起訴前に告訴取消をしてもらうことにより、有罪を免れることができます。
また、勾留決定前に示談をするか、あるいは勾留決定後であっても速やかに示談、告訴取消により勾留請求の阻止あるいは勾留決定に対する準抗告等の手続きにより早期の釈放が可能となります。

2 示談、告訴の取消ができない場合であっても、早期の釈放を実現するためには、検察官および裁判官に対して、勾留の要件を満たさないことを主張し、勾留請求しないことや勾留却下してもらえるよう働きかけることが必要です。そのためには検察官や裁判所に対して電車内の犯行であって今後罪障隠滅のおそれがないことや家庭・仕事の事情という特殊性があることを強く説明する必要があります。

  また、勾留を免れた場合も、最終的な刑事処分を避けるべく、被害者との示談交渉をして告訴を取り消してもらうことが必要となります。

3 いずれにしても予断を許さない状況にあることは変わりありませんので、一刻も早く経験のある弁護士に相談されることをお勧めします。

4 関連する事務所事例集論文499番595番600番738番819番906番1077番1102番1142番1312番

勾留の要件について557番906番1077番1142番1262番1580番参照。

解説:

第1 強制わいせつ罪について

1 電車内の痴漢行為は強制わいせつ罪といわゆる迷惑防止条例違反として検挙されます。強制わいせつ罪(刑法第176条)は、13歳以上の男女に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした場合に成立します。わいせつな行為を強要する手段としての暴行・脅迫は、被害者の反抗を著しく困難にする程度のものであることが必要とされています。この点が痴漢行為で問題となる「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」(いわゆる迷惑防止条例)違反との1つ目の違いです。

  東京都の迷惑防止条例を例にとると、第5条で「何人も、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であつて、次に掲げるものをしてはならない。」と定め、1号で「公共の場所又は公共の乗物において、衣服その他の身に着ける物の上から又は直接に人の身体に触れること」とされています。したがって、電車内において被害者を着衣の上からなでまわすなどの場合には迷惑防止条例違反となり、着衣の中にまで手をいれて女性の体に触る場合は強制わいせつ罪と判断されるケースが多いと思われます。特に、電車内の犯行であれば、被害者の言い分にしたがって警察署担当刑事、検察官が被疑事実を判断するのが現状です。

2 また、強制わいせつ罪は個人の性的自由が保護法益となっており、法定刑が6月以上10年以下であり、迷惑防止条例に比べてかなり重いです(東京都の迷惑防止条例の法定刑は6ヶ月以下の懲役又は50万円以下の罰金)。もっとも、強制わいせつ罪は重大な法益侵害行為ではありますが、被害者の名誉といった利益を考慮し、被害者による告訴がなければ公訴をすることができない親告罪とされています(180条1項)。この点が、市民生活の平穏確保を一時的な保護法益とする迷惑防止条例違反との決定的な違いということができます。従って、強制わいせつ罪で強制捜査をする場合は被害者が告訴していると考えられます。そして、告訴は起訴前であれば取り消すことができるとされていますので(刑訴法237条)、被害者と示談して告訴を取り消してもらえば起訴されることは無くなりますし、強制捜査もされないことになります。また、理論上は強制わいせつの告訴が取り消されても迷惑防止条例違反で起訴することは可能ですが、検察官としてもそのような告訴は控えるのが通例となっています。


第2 逮捕・勾留請求に対する対応

1 以上を踏まえた上で、これからの対応について述べます。
  まず、一刻も早く弁護士に依頼して接見(刑事訴訟法(以下、「法」といいます。)39条1項)に行ってもらい、事件についての状況を把握することが重要です。そして、旦那さんは逮捕されてから公訴提起まで最大23日間身柄を拘束される可能性がありますので、明確な弁護方針を立てる必要があります。

  特に、警察に逮捕されると48時間以内に検察庁に送致された後(刑訴法203条)、検察官は24時間以内に10日間の勾留請求をするかを判断し(刑訴法205条)、それを受けた裁判所は通常は当日ないしは翌日に勾留決定をするかの判断をすることになります(条文では「速やかに勾留状を発するか釈放を命じる」ことになっています(刑訴法207条)。被疑事実の重大性からして、何もしなければ勾留決定されてしまう可能性が極めて高いことから、早期の身柄解放を望むのであれば、弁護士による迅速な対応が必要となってくるのです。

2 そこでまずは、検察庁に送致されてしまうことは前提としつつ、捜査機関に対して、職場や報道機関への公表を避けてもらう上申をすることが、特に旦那さんのように家庭があり重要なポストにある被疑者にとってはこれらの組織への通知は今後の社会生活を送る上でも致命的となりかねないので、こうした措置を求めることは必須です。方法としては、上申書を作成して警察に差し入れることですが、弁護人が入っていれば比較的スムーズに受け取ってもらえます。これによって、懲戒処分といった最悪の事態を回避することができます(欠勤についての報告等は必要ですが。)。

  これができたとしても、長期の欠勤となってしまえば職場への影響は懸念されますので、安心はできません。次に検察庁への働きかけが重要となってきます。

3 警察は留置の必要があるときは逮捕から48時間以内に検察庁に送致しなければならず(法203条1項)、これを受けた検察官は上述したように24時間以内に勾留する場合には勾留請求をすることになります(法205条1項)。弁解の機会の後直ちに勾留請求ということもありうるので、検察庁に送致されると分かれば直ちに担当検事を聞きだして面談の機会及び勾留請求をしないよう働きかける上申書を提出すべきことになります。この場合に上申すべき内容としては、勾留を見据えてその要件に当てはまらないことを明記すべきです。

  勾留が認められるのは@勾留の理由と、A勾留の必要性という2つの要件を満たす場合です。@勾留の理由とは、法60条1項各号に定められたいずれかに該当することです。特に問題となるのが2号の罪障隠滅のおそれがあるかという要件で、これについては近時重要な決定が最高裁から出されているので後述します。次にA勾留の必要性とは、起訴の可能性(事案の軽重)、捜査の進展の程度、被疑者の個人的事情などから判断した勾留の相当性であり、一般的に、扶養家族がいる場合や、被疑者の心身の状態が悪い場合に認められやすいといわれています。本件でもまさに、旦那さんはあなたを含めた家族がおり、ましてやお子さんの受験を控えた大切な時期でもあります。こうした個別具体的な事情を可能な限り検察官に対して訴えることが大事です。

3 ただし、本件のような重大な法益違反を伴う強制わいせつ罪の場合には、旦那さんが本件行為自体を争わない場合であっても、実務上検察官は勾留請求する場合が多いのではないかと思われます。これも強制わいせつ罪の特殊性といえます。これまでの活動にもかかわらず残念ながら勾留請求されてしまった場合に、最終手段として裁判官に対して勾留却下の上申書を提出することが考えられます。裁判官は被疑者に対して勾留質問をして(法207条1項、61条)、勾留決定するか否かの判断をします。前述したように、東京地裁の場合には勾留請求のあった翌日に勾留質問をして裁判官が判断するのが通常ですので、その間にも接見をする等により、旦那さんにより有利な事情を収集し、上述した勾留の要件を満たさないことをより具体的・積極的に主張していくことが必要となってきます。

  残念ながら、これまで実務上は勾留請求が却下される例はほとんどなかったようです。特に、強制わいせつ罪のように犯情が重い被疑事実の場合には、重罰を恐れ、逃亡のおそれや罪証隠滅のおそれが類型的に高い犯罪であると判断されていたことによるものと推測されます。もっとも、これも前述したように、近時実務上極めて重要な決定が最高裁で出されました。その内容は以下の通りです。

  本件と同じ電車内の痴漢行為についてのいわゆる迷惑防止条例の事案で被疑者と被害者の供述が真っ向から対立していたにもかかわらず、最一小決平成26・11・17は「被疑者は,前科前歴がない会社員であり,原決定によっても逃亡のおそれが否定されていることなどに照らせば,本件において勾留の必要性の判断を左右する要素は,罪証隠滅の現実的可能性の程度と考えられ,原々審が,勾留の理由があることを前提に勾留の必要性を否定したのは,この可能性が低いと判断したものと考えられる」と述べ、このような原々審の判断が「不合理であるとはいえない」として、原決定を取り消し、検察官の準抗告を棄却するという画期的な判断をしました。

  したがって、本件でも具体的な罪証隠滅の恐れがないことを積極的に主張すべきです。すなわち、本件は電車の中での犯行であり、今後旦那さんが被害者と出会う機会がないことを前面に押し出していくべきです。顔見知りならまだしも、偶然電車に乗り合わせた者による偶発的犯行であれば通常被害者に働きかけるといった行為をすることは考え難いでしょう。特に旦那さんが犯行を否定しているのでなければそのおそれがないことは尚更明白です。

  上記の被害者と顔見知りでなく罪障隠滅の現実的可能性が乏しいことに加え、旦那さんには家族があり子供が受験を控えていること、仕事についても重要な案件が控えていることも併せて主張することで、これほどの事情がありながらあえて勾留による身柄継続を図ること相当とはいえないということを主張できるでしょう。

4 以上のように、勾留請求段階に至ってしまった場合には、できる限りの事情を集めて、却下の上申をし、勾留質問がされる前に裁判官との面接も行うべきです。ここまでの弁護活動はやはり弁護士の積極的な弁護活動が必須です。

  繰り返しになりますが、従来、強制わいせつのような犯罪は勾留が認められるケースがほぼすべてでした。しかし、上記の判例が出て以降少なくとも個々の裁判官の意識の変化はうかがうことができ、弁護人の活動如何で却下される事案も増加する可能性はあり、その最高裁決定の実践が試されることになるでしょう。

  万が一、勾留請求が認められた場合には、さらに準抗告するという方法があります(前記関連事例集をご参考ください)。


第3 被害者と示談交渉について

  以上説明したように、勾留、起訴を避けるためには被害者との早期の示談の必要があります。しかし、電車内の痴漢行為の場合被害者と面識がないことから、氏名や連絡先を確認することか始めなくてはなりません。そこで、通常弁護人としては担当刑事や担当検察官に対して被害者と示談したい旨告げて連絡先を明らかにするよう要求します。これに対し検察官は被害者の意思を確認した上で被害者が了解すれば氏名や連絡先を明らかにします。しかし、被害者が示談等拒否しているとして弁護人に対しても被害者の連絡先を開示しない場合もあります。確かに、被害者本人がその開示を拒否しているのでしょうが、検察官や担当刑事の意図で被害者が示談を拒否するように導く場合もあります。捜査機関とすれは必要な捜査を済ませて被疑者を逮捕勾留する訳ですから、できれば起訴したいと考えることは当然ですから、できるだけ示談、告訴の取消という事態は避けようと、示談の申し出を拒否するよう被害者を説得まではしないとしても示談しない方向で示唆、説明をすることは事実のようです。

  このような場合、弁護人としてはあきらめずに、なんとか被害者に示談の方向で検討してもらうようにする必要があります。方法としては検察官を通じて、示談の概要を記載した手紙や被疑者本人並びに被害者の家族等のお詫びの手紙を被害者に渡してもらうという手段が有効的です。被害者とすれば示談によりどのような弁償が受けられるのか、本当に弁償されるのか、被疑者は反省しているのか、という点は気になると頃ですから、この点について被害者の方に納得してもらうような手紙等を作成する必要がります。このような手紙類を検察官が被害者に渡す、ということを拒否することは一般的にありません。
 
  さらには、弁護人として捜査機関と対立することは仕事上やむを得ないところですが、人間関係としては円満な関係を持つよう努力する必要があります。捜査機関も、弁護人の真摯な対応をみて示談ができるよう被害者に説明してくれるということも期待できますから、捜査機関と感情的に敵対するよな行動は弁護人としても注意する必要があります。そういう点で、対立が鮮明になる起訴後法廷での弁護活動と起訴前の弁護活動は異なることを認識すべきでしょう。

  また、示談できずに、勾留請求が却下されたとしても、検察官による最終的な処分がされたわけではありませんので、引き続き被害者との間で示談交渉を進めていくことが大事です。

  強制わいせつ罪は第1で述べたように親告罪ですので、起訴前に被害者が告訴を取消てくれれば不処分となります。金銭的な負担はかかりますが、しっかりと被害弁償をし、告訴取消の意思を示してもらうことが大事です。これも被害者の名誉を重視する強制わいせつ罪の特殊性からくるものといえます。

  前科があるとはいえ、以上述べてきたような弁護活動を実践すれば、早期の身柄解放及び社会復帰は実現不可能とはいえないでしょう。いずれにせよ、早急に経験のある弁護士事務所に相談されることをお勧めします。


<参照条文>

刑法

(強制わいせつ)
第176条  十三歳以上の男女に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、六月以上十年以下の懲役に処する。十三歳未満の男女に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。 
(平7法91・全改、平16法156・一部改正)

(親告罪)
第180条  第百七十六条から第百七十八条までの罪及びこれらの罪の未遂罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。 
2  前項の規定は、二人以上の者が現場において共同して犯した第百七十六条若しくは第百七十八条第一項の罪又はこれらの罪の未遂罪については、適用しない。 
(平7法91・全改、平16法156・一部改正)

刑事訴訟法

第39条 身体の拘束を受けている被告人又は被疑者は、弁護人又は弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者(弁護士でない者にあつては、第三十一条第二項の許可があつた後に限る。)と立会人なくして接見し、又は書類若しくは物の授受をすることができる。
A  前項の接見又は授受については、法令(裁判所の規則を含む。以下同じ。)で、被告人又は被疑者の逃亡、罪証の隠滅又は戒護に支障のある物の授受を防ぐため必要な措置を規定することができる。 
B  検察官、検察事務官又は司法警察職員(司法警察員及び司法巡査をいう。以下同じ。)は、捜査のため必要があるときは、公訴の提起前に限り、第一項の接見又は授受に関し、その日時、場所及び時間を指定することができる。但し、その指定は、被疑者が防禦の準備をする権利を不当に制限するようなものであつてはならない。 

第60条 裁判所は,被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で,左の各号の一にあたるときは,これを勾留することができる。
一 被告人が定まつた住居を有しないとき。
二 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
三 被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
A 勾留の期間は,公訴の提起があつた日から2箇月とする。特に継続の必要がある場合においては,具体的にその理由を附した決定で,1箇月ごとにこれを更新することができる。但し,第89条第2号,第3号,第4号又は第6号にあたる場合を除いては,更新は,1回に限るものとする。
B 30万円(刑法,暴力行為等処罰に関する法律(大正15年法律第60号)及び経済関係罰則の整備に関する法律(昭和19年法律第4号)の罪以外の罪については,当分の間,2万円)以下の罰金,拘留又は科料に当たる事件については,被告人が定まつた住居を有しない場合に限り,第1項の規定を適用する。

第203条 司法警察員は、逮捕状により被疑者を逮捕したとき、又は逮捕状により逮捕された被疑者を受け取つたときは、直ちに犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告げた上、弁解の機会を与え、留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し、留置の必要があると思料するときは被疑者が身体を拘束された時から四十八時間以内に書類及び証拠物とともにこれを検察官に送致する手続をしなければならない。 
A  前項の場合において、被疑者に弁護人の有無を尋ね、弁護人があるときは、弁護人を選任することができる旨は、これを告げることを要しない。 
B  司法警察員は、第三十七条の二第一項に規定する事件について第一項の規定により弁護人を選任することができる旨を告げるに当たつては、被疑者に対し、引き続き勾留を請求された場合において貧困その他の事由により自ら弁護人を選任することができないときは裁判官に対して弁護人の選任を請求することができる旨並びに裁判官に対して弁護人の選任を請求するには資力申告書を提出しなければならない旨及びその資力が基準額以上であるときは、あらかじめ、弁護士会(第三十七条の三第二項の規定により第三十一条の二第一項の申出をすべき弁護士会をいう。)に弁護人の選任の申出をしていなければならない旨を教示しなければならない。 
C  第一項の時間の制限内に送致の手続をしないときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない。 
(平16法62・一部改正)

第205条 検察官は、第二百三条の規定により送致された被疑者を受け取つたときは、弁解の機会を与え、留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し、留置の必要があると思料するときは被疑者を受け取つた時から二十四時間以内に裁判官に被疑者の勾留を請求しなければならない。 
A  前項の時間の制限は、被疑者が身体を拘束された時から七十二時間を超えることができない。 
B  前二項の時間の制限内に公訴を提起したときは、勾留の請求をすることを要しない。 
C  第一項及び第二項の時間の制限内に勾留の請求又は公訴の提起をしないときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない。 
D  前条第二項の規定は、検察官が、第三十七条の二第一項に規定する事件以外の事件について逮捕され、第二百三条の規定により同項に規定する事件について送致された被疑者に対し、第一項の規定により弁解の機会を与える場合についてこれを準用する。ただし、被疑者に弁護人があるときは、この限りでない。 
(平16法62・一部改正)


<参照判例>
平成26年(し)第578号 勾留請求却下の裁判に対する準抗告の決定に対す
る特別抗告事件
平成26年11月17日 第一小法廷決定
主 文
原決定を取り消す。
本件準抗告を棄却する。
理 由
本件抗告の趣意は,事実誤認,単なる法令違反の主張であって,刑訴法433条
の抗告理由に当たらない。
しかし,所論に鑑み,職権により調査する。
本件被疑事実の要旨は,「被疑者は,平成26年11月5日午前8時12分頃か
ら午前8時16分頃までの間,京都市営地下鉄烏丸線の五条駅から烏丸御池駅の間を走行中の車両内で,当時13歳の女子中学生に対し,右手で右太腿付近及び股間をスカートの上から触った」というものである。
原々審は,勾留の必要性がないとして勾留請求を却下した。これに対し,原決定
は,「被疑者と被害少女の供述が真っ向から対立しており,被害少女の被害状況についての供述内容が極めて重要であること,被害少女に対する現実的な働きかけの可能性もあることからすると,被疑者が被害少女に働きかけるなどして,罪体について罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があると認められる」とし,勾留の必要性を肯定した。
被疑者は,前科前歴がない会社員であり,原決定によっても逃亡のおそれが否定
されていることなどに照らせば,本件において勾留の必要性の判断を左右する要素は,罪証隠滅の現実的可能性の程度と考えられ,原々審が,勾留の理由があることを前提に勾留の必要性を否定したのは,この可能性が低いと判断したものと考えられる。本件事案の性質に加え,本件が京都市内の中心部を走る朝の通勤通学時間帯の地下鉄車両内で発生したもので,被疑者が被害少女に接触する可能性が高いことを示すような具体的な事情がうかがわれないことからすると,原々審の上記判断が不合理であるとはいえないところ,原決定の説示をみても,被害少女に対する現実的な働きかけの可能性もあるというのみで,その可能性の程度について原々審と異なる判断をした理由が何ら示されていない。
そうすると,勾留の必要性を否定した原々審の裁判を取り消して,勾留を認めた
原決定には,刑訴法60条1項,426条の解釈適用を誤った違法があり,これが決定に影響を及ぼし,原決定を取り消さなければ著しく正義に反するものと認められる。
よって,刑訴法411条1号を準用して原決定を取り消し,同法434条,42
6条2項により更に裁判をすると,上記のとおり本件について勾留請求を却下した原々審の裁判に誤りがあるとはいえないから,本件準抗告は,同法432条,426条1項により棄却を免れず,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 櫻井龍子 裁判官 金築誠志 裁判官 白木 勇 裁判官 山浦善樹 裁判官 池上政幸)

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