新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1601、2015/05/08 12:00 https://www.shinginza.com/qa-sarakin.htm

【親族法、親権者の変更訂正基準、東京高裁昭和39年5月30日決定】

離婚後の親権者の変更

【問】8年前に前の夫と離婚をしました。前夫からのDVが離婚原因だったので,親権でもめて離婚が成立するのが遅くなるのを避けるため,当時6歳だった子どもの親権は前夫に渡し,私は子どもの監護権を取得して,新しい土地に子どもとともに移り、子どもを育ててきました。その後子どもが大きくなるについて親権がないことで日常生活に不便なことも出てきており,また,最近再婚を考える相手と出会い,今後のことを考えると子どもの親権を取り戻したいと思うようになりました。もちろん子ども自身も親権が私にうつることを希望しています。前夫にも連絡してみたのですが、最低限の父子面会が維持できるのであれば親権変更に反対しない、と言ってくれました。しかし、市役所の窓口に聞いたところ、親権は届出書を出すだけでは変更できないようです。親権を取り戻すにはどうしたらいいですか。取り戻すことはできますか。



【回答】
1 親権者は当事者(前夫と貴女)の話し合いで自由に変更することができません。親権者を変更する為には、家庭裁判所に対して、親権者変更の審判を申立てる必要があります(民法819条6項)。

2 どのような場合に親権者の変更の審判がされるのかについては、民法が協議離婚の際には両親の話し合いで自由に親権者を決めることができるとしているのに、親権者の変更については家庭裁判所の審判を必要としている理由から検討する必要があります。この点について,判例は,「家庭裁判所が、子の利益のため必要があると認める場合に、子の親族の請求により、親権者を父母のうち他の一方に変更する旨の裁判をなすものであり、家庭裁判所は、当事者の意思に拘束されることなく、子の福祉のため、後見的立場から、合目的的に裁量権を行使するもの」(最判昭和46,7.8)として,父母の意思ではなく,「子の福祉のため」に裁量権を行使して決定する,としています。

3 例えば,相手が親権を得て養育している場合に,こちらも子どもを育てる環境が整ったから引き取って育てたい,とか,離婚するときに将来の不安で子どもを渡してしまったがやはり考えが変わったので親権を得て子どもを引き取りたい,という理由で親権者の変更を申し立てたとしても,家庭裁判所に親権の変更を認めてもらうのは難しいと考えられています。

4 しかしながら,今回のご相談の場合には,監護権は貴女が有してお子さんと一緒に生活していること,新しい土地で生活を始められているので親権者である前夫が親権を行使する機会は少ないか,なかったであろうこと,また,14歳のお子さん本人が親権者が貴女に変わることを望んでおられるであろうことなどを考慮すると,親権者の変更が認められる可能性は十分に考えられますので,お近くの弁護士に相談されることをお勧めします(参考:東京高裁昭和39.5.30決定)

5 関連事例集829番790番580番511番参照。



【解説】

1 親権、親権者とは

 親権とは、父母が、未成年の子ども(但し、婚姻により成年擬制を受けた子を除く)に対し、当該子どもの利益のために、その監護、財産管理、教育、経済的な扶養等を行うことの権利義務の総称を指します。

 この親権を行使するものを親権者といいます(第820条)。婚姻中は父母が共同で親権を行使しますが、離婚の際には、どちらか一方を親権者と定める必要があります(第819条1項2項5項)。ご相談では離婚の際に親権は前の夫に渡したけれど、観護権を取得してお子さんと一緒に暮らしている、とのことですが、法律上は観護権ということは認められていません。しかし、家庭裁判所の離婚調停でも親権者と観護権者を分ける場合もあります。本来は法律では定められていないのですが、離婚を成立するための便宜的な方法として認められています。法律上は、親権者が実際に子どもを養育する「身上監護権」を貴女に委ねていることになります。従って、観護権を有しているからとってい絶対的なものではありませんから親権者の変更が必要になってくる場合が考えられます。

 なお、離婚後に親権者と定められた方が亡くなった場合には、もう片方の親権は復活せず、未成年後見人が選任されます。

(監護及び教育の権利義務)
第八百二十条 親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。

(離婚又は認知の場合の親権者)
第八百十九条 父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その一方を親権者と定めなければならない。
2 裁判上の離婚の場合には、裁判所は、父母の一方を親権者と定める。
3 子の出生前に父母が離婚した場合には、親権は、母が行う。ただし、子の出生後に、父母の協議で、父を親権者と定めることができる。
4 父が認知した子に対する親権は、父母の協議で父を親権者と定めたときに限り、父が行う。
5 第一項、第三項又は前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、父又は母の請求によって、協議に代わる審判をすることができる。
6 子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子の親族の請求によって、親権者を他の一方に変更することができる。
 

2 親権者の変更 

 民法は、当事者の話し合いで親権者を変更することを認めていません(第819条6項)。家庭裁判所に、子どもの親族が家庭裁判所に請求し、家庭裁判所が「子の利益のため必要があると認めるとき」に親権者の変更をすることができるのです。協議離婚の際は、親権者を決めるのは両親ですから、変更ができない理由は何か明らかにしておく必要があります。その理由をきらかにすることによってどのような場合に親権者の変更の審判がなされるのか明らかになるからです。前述の判例(最判昭和46.6.30)によれば、親の都合だけで親権者を変えることにより子どもの養育環境を簡単に変えてしまう(子どもは親権者と同居することが多い)ことは子の福祉の点から適さないことが、親権者の変更を裁判所の審判事由として理由とされています。このような点から親権者の変更を認めるか否かは家庭裁判所において慎重に判断されることになります。「子の福祉」というのは、子供の成育環境として望ましい状態かどうか、という観点からの判断となります。子供が精神的に安定して教育を受けることができているかどうか、ストレスによる暴力・暴言・チック症状などの不都合が現れていないかどうかがポイントになります。

 このように子供の成育環境を検討する必要があることから裁判所は、親権者の変更が申し立てられると、家庭調査官が実際に家に出向いてお子さんと面談を行い、親権者を変更した場合の養育環境や経済状況、現在の親権者の意向や現在の養育環境、経済状況、お子さんの年齢、性別、生活や学校関係等多岐にわたる事情を把握したうえで、お子さんの意向(12,3歳以上の場合には)も尊重しながら検討していきます。

 先にあげた最高裁の判例は、争点となっているのは裁判の公開という憲法判断に関する点ですが、親権者の変更は「当事者の意思に拘束されることなく、子の福祉のため、後見的立場から、合目的的に裁量権を行使するものであつて、その審判の性質は本質的に非訟事件の裁判であるから、公開の法廷における対審および判決によつてする必要はない。」と親権者の変更に関しての判断基準を示しています。

親権者変更申立却下審判の再抗告申立事件
最高裁 昭四六(ク)五二号
昭四六・七・八第一小法廷決定
〔抗告人〕 NT(仮名)
〔相手方〕 MK(仮名)
       主   文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
       理   由
 抗告代理人矢野伊吉の特別抗告理由第一点について。
 所論は、要するに、原審が、男子である抗告人と女子である相手方に対し、その性別の故に異なつた取扱いをしたとして、原決定を憲法二四条に違反するというのであるが、記録ならびに原決定を精査しても、原審がそのような差別をしたことについては、これを認めるに足りる資料はない。したがつて、所論はその前提を欠くことが明らかであり、論旨は、ひつきよう、違憲に名をかりて、原審の認定判断に関して単なる法令違背を主張するに帰し、採用することができない。
 同第二ないし第四点について。
 家事審判法九条一項乙類七号に規定する親権者の変更の審判は、民法八一九条六項を承けて、家庭裁判所が、子の利益のため必要があると認める場合に、子の親族の請求により、親権者を父母のうち他の一方に変更する旨の裁判をなすものであり、家庭裁判所は、当事者の意思に拘束されることなく、子の福祉のため、後見的立場から、合目的的に裁量権を行使するものであつて、その審判の性質は本質的に非訟事件の裁判であるから、公開の法廷における対審および判決によつてする必要はない。このことは,当裁判所の累次の大法廷決定の趣旨に照らして明らかである(昭和三六年(ク)第四一九号同四〇年六月三〇日大法廷決定、民集一九巻四号一〇八九頁、昭和三七年(ク)第二四三号同四〇年六月三〇日大法廷決定、民集同号一一一四頁、昭和三九年(ク)第一一四号同四一年三月二日大法廷決定、民集二〇巻三号三六〇頁参照)。したがつて、公開の法廷における口頭弁論に基づかないでなされた原決定に憲法三二条、八二条違反の違法はない。論旨は、これと異なる独自の見解に立脚して原決定を非難するに帰し、採用することができない。
 よつて、民訴法八九条を適用して、主文のとおり決定する。 
(裁判長裁判官 大隅健一郎 裁判官 藤林益三 下田武三 岸盛一)


4 ご相談のケースでは

 今回のご相談のケースでは、貴女が離婚後、監護権を持って実際にお子さんを養育していたこと、新たな土地で貴女と二人で8年間生活をしてきて基盤を作られていること、お子さんの年齢が14歳で貴女が親権者であることを望んでいること等を考慮しますと、親権者を変更することでお子さんの養育環境、経済状況に大きな変化が生じる、あるいは負担が生じると考えられることは少なく、親権の変更が認められる可能性は大きいと推測されます。

 いずれにしても、親権者を変更するには家庭裁判所の申し立てを行い、家庭調査官の面談の他、親権を変更することが子どもの福祉に適っていることを証明するため、裁判所の求める資料を適宜提出していく必要がありますので、お近くの弁護士に相談されることをお勧めします。

 最後に、8年間同居してきた母親に対する親権者変更を認めた裁判例を御紹介致しますので、参考になさって下さい。この例は、従来の親権者が親権変更に同意していない事例でしたが、長期間安定して継続されてきた事実上の生活関係を重視する判断となっています。

※変更の理由となった事情は次のとおりです。

1 現在の親権者は大分市に居住しているのに対し、未成年者等は八年近く東京に居住し、それぞれ通学して、ほぼ安定した生活を営んでいること
2 現在の親権者は親権者としての活動は事実上不可能ないし著しく困難な状態に在ること
3 未成年者らはここ数年来いずれも同居している母親の氏である「小林」を事実上使用し、母親の夫を父として慕っていること
4 今後も現在の親権者と生活を共にする意思は全くないこと。
5 未成年者が、生活上の不便を理由に親権者を母親にに変更することを希望していること
6 母親及びその夫は学歴収入その他の生活環境の点において、また未成年者らに対する愛情の点において決して現在の親権者に劣るものでないこと


親権者変更審判に対する即時抗告事件
東京高裁 昭三九(ラ)二〇一号
昭三九・五・三〇決定
〔抗告人〕 三富弘(仮名)
〔相手方〕 小林幸子(仮名)
       主   文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
       理   由
 抗告人は「原決定はこれを取り消し、本件を東京家庭裁判所に差し戻す」との裁判を求め、その理由として別紙抗告理由書記載のとおり主張した。
 本件記録に綴られている家庭裁判所調査官小林能子作成の相手方小林幸子、事件本人三富やす、参考人小林哲也に対する調査報告書(記録第四二丁)及び家事審判官の相手方小林幸子、事件本人三富福子に対する各審問調書(記録第一〇丁及び同第三八丁)の各記載を綜合すると、抗告人は現在大分市に居住しているのに対し、事件本人である未成年者等は八年近く東京に居住し、それぞれ通学して、ほぼ安定した生活を営んでおり、抗告人の親権者としての活動は事実上不可能ないし著しく困難な状態に在ること、未成年者らはここ数年来いずれも相手方の氏である「小林」を使用し、相手方の夫小林哲也を父として慕い、今後抗告人と生活を共にする意思は全くなく、抗告人が親権者であることはなにかと生活に不便であるから親権者を相手方に変更することを希望していること及び相手方及びその夫は学歴収入その他の生活環境の点において、また未成年者らに対する愛情の点において決して抗告人に劣るものでないこと等の諸事実を十分に認めることができる。親権は未成年者の利益のために行使さるべきものであり、上記認定の諸般の事情のもとにおいては、未成年者の意思を尊重し、その生活に不便が生じないように親権者を定めることが、未成年者の福祉にそうものと考えられるから、本件においては未成年者である福子及びやすの親権者を抗告人から相手方に変更するのを相当とし、右と同旨の原審判は正当というべきである。抗告人は原審判は相手方がなした虚偽作為の申立をそのまま誤信してなしたものであると主張するが、相手方のなした本件申立の実情が虚偽作為のものであると認むべき証拠は本件記録上これを見出すことができないから、抗告人の右主張はこれを採用しえない。
 よつて、本件抗告は理由がないから、これを棄却することとし抗告費用は抗告人の負担として主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 村松俊夫 裁判官 杉山孝 裁判官 菅本宣太郎)



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