新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1591、2015/4/10 14:33 https://www.shinginza.com/qa-hanzai.htm

【刑事、少年事件、事後強盗致傷の可能性と弁護手続、福岡地判昭和62年2月9日】

事後強盗致傷罪の弁護活動

質問:
高校生の息子・16歳が事後強盗の容疑で現行犯逮捕され、昨日、10日間の勾留が決まりました。コンビニで成人向け図書を万引きし、店外に出た直後に引き止めようとした店員を振りほどいて逃走しようとした際、転倒させてしまったようです。転倒した店員のケガの状態は不明です。息子がこのような問題行動を起こすのは初めてのことで、大変動揺しています。息子が今後どうなってしまうのか、親として何かできることはないのか等々、相談に乗って頂けますでしょうか。

↓ 

回答:

1. 息子さんには現在、事後強盗罪(刑法238条)の嫌疑がかけられていますが、最終的に成立する罪名が如何なるものであるかは流動的であると考えられます。後に医師の診断書の取得等によって転倒したコンビニ店員の負傷の事実が明らかになった場合、より重い事後強盗致傷罪(刑法240条)に変更される可能性がある一方、息子さんの暴行の態様が軽微なものであることが判明した場合、比較的軽い窃盗罪(刑法235条)及び暴行罪(刑法208条)に変更される可能性もあり得ます。

2. 息子さんは、被害店舗であるコンビニから商品を窃取し、店員を転倒させていますので、被疑罪名如何に関わらず、店舗の商品管理者と店員の2名に対して、弁護人を通じて被害弁償と謝罪のための示談交渉を進める必要があります。その過程で転倒したコンビニ店員その他の従業員等から聴取した内容を証拠化する作業に加え、可能であれば被害店舗から犯行状況を記録した防犯カメラの映像(暴行の態様に関する最も客観的な証拠となります。)を適宜の方法で提供してもらうなど、弁護人の側でも可能な限りの証拠資料の収集に努め、息子さんの暴行の態様やコンビニ店員の負傷状況等について明らかにしていく必要があります。

3. 弁護人による収集証拠の検討の結果、事後強盗(致傷)の成立が認められない余地がある場合、息子さんの勾留は法律上の要件を欠いている可能性がありますので、速やかに勾留の裁判に対する準抗告の申立てを行い(刑事訴訟法429条1項2号)、身柄の早期釈放を目指すとともに(刑事訴訟法432条、426条2項)、検察官に対し、家庭裁判所への送致罪名の変更を要請して交渉すべきことになります。準抗告申立てにあたって主張すべき事項、提出すべき証拠については解説でまとめてありますので、ご参照ください。

4. 事後強盗(致傷)罪の成立が揺るぎない場合、逮捕に続き、10日間の勾留(刑事訴訟法208条1項)、証拠収集の遅延や困難等によりやむを得ない事由があると認められた場合、更に10日間の勾留期間延長(逮捕と合わせて最長23日間。刑事訴訟法208条2項)を経て事件が家庭裁判所に送致され、更に観護措置としての鑑別所送致(通常、4週間程度。少年法17条1項2号・3項・4項本文)を経てた上で家庭裁判所の審判が行われる、という流れが想定されます。また、審判の内容としては、事案の重大性から、少年院送致を含めた厳しい処分が予想されるところです。尚、手続きの過程で事後強盗致傷であっても事案により、鑑別所送致に対する異議の申し立ても考える必要があります。成人の場合同様の事案で保釈が認められる可能性があり少年法の趣旨は成人とは異なりますが観護措置の趣旨から可能性がないとは言い切れないからです。

5. もっとも、対応次第では少年院送致を回避できる可能性も十分見込まれると思います。少年審判においては非行事実の内容や示談の成否と同等以上に少年の要保護性が重視されるため、家裁送致後は家庭裁判所調査官と密に連絡、協議を行い、調査にも積極的に立会いを求める等して、家庭裁判所と問題意識を共有し、非行原因を的確に把握した上で、再非行抑止のための対応策を検討し、環境調整を行っていく作業が不可欠となります。

6. そのためには、事件直後から少年審判まで一貫して活動し、相談してもらえる弁護人・付添人の存在が非常に大きいものとなりますので、少年事件の経験のある弁護士に事件後なるべく早期の段階でご相談されることをお勧めいたします。

7. 関連事例集1572番1544番1459番1432番1424番1402番1336番1220番1113番1087番1039番777番716番714番649番461番403番291番245番244番161番参照。


解説:

1.(罪名について)

 息子さんの被疑罪名となっている事後強盗罪とは、「窃盗」犯が「財物を得てこれを取り返されることを防ぎ、逮捕を免れ、又は罪跡を隠滅するため」に「暴行又は脅迫」を行った場合に成立する犯罪です(刑法238条)。息子さんは商品の成人向け図書を会計することなく店外に持ち出しているようですが、かかる行為はコンビニの商品管理者の意思に反してその占有を奪取するものであり、「窃盗」に該当することは争いようがなく、また、逃走目的で店員を振り払おうとしたということであれば、「逮捕を免れ」る目的の存在を否定することは困難といえるでしょう。もっとも、息子さんに実際に成立している罪名が如何なるものであるかは流動的であり、逮捕時の罪名が後に変更されることは珍しいことではありません。本件では主として以下の各点を確認する必要があるでしょう。

(1)店員に対する暴行の態様

 事後強盗罪が成立するためには、「暴行」は相手方の反抗を抑圧するに足りる程度のものであることが必要となり(大判昭和19年2月8日)、これに至らない程度の暴行の場合、窃盗罪(刑法235条)と暴行罪(刑法208条)(店員が負傷している場合であれば傷害罪(刑法204条))が成立するに止まることになります。事後強盗罪は強盗として論じられるのですから、暴行または脅迫も強盗罪と同様に相手方の反抗を抑圧する程度であることが必要とされます。また、逮捕を免れる際にある程度の暴行等が行われることが多いでしょうから、すべての暴行が事後強盗に当たるわけではアリアません。どの程度の暴行があれば事後強盗が成立するのかについては、逮捕される具体的な状況において判断する必要があります。事後強盗罪の成否は息子さんの罪責の軽重や刑事手続の帰趨を大きく左右しますので、息子さんの行った暴行の態様がどのようなものであったかについては、息子さんからの事情聴取、後述する示談交渉の際の被害者からの聴取、さらに可能であれば被害店舗から犯行時の防犯カメラの映像を確認させてもらう等の方法で出来る限り早期に把握する必要があるでしょう。

 裁判例の中には、万引き犯人が逮捕を試みたコンビニ店員の襟元付近を掴んだ上押し返すなどして逃走を図ろうとし、数分の間激しいもみ合い状況となった事案において、事後強盗(致傷)罪における「暴行」に該当しないと判断したものもありますが(福岡地判昭和62年2月9日)、息子さんの行為の「暴行」該当性は、結局のところ、把握できる限りでの具体的事情を基に検討せざるを得ないところだと思います。

(2)店員の負傷の有無、程度

 息子さんの場合、現行犯逮捕の時点で転倒したコンビニ店員の負傷の有無、程度を示す証拠資料が存在していなかった可能性があり、後に医師の診断書の取得等によって負傷の事実が明らかになった際に罪名が事後強盗致傷罪(刑法240条)に変更される可能性があります。事後強盗致傷罪とは、事後強盗の機会に人を負傷させた場合に成立する犯罪であり、法定刑は無期又は6年以上の懲役とされる重罪です(成人の場合、裁判人裁判対象事件となり(裁判員の参加する刑事裁判に関する法律2条1項)、被害者との示談が成立しなければ実刑となる可能性が非常に高い犯罪類型となります。)。

 息子さんが未だ20歳に満たない「少年」であり(少年法2条1項)、少年の健全育成を期する観点から成人事件の場合とは異なる手続、処分が予定されているとしても(少年法1条)、非行事実の重大性は息子さんへの処分結果に大きく影響するため、店員の負傷の有無、程度についても、捜査機関との折衝や示談交渉の過程で出来るだけ早期に把握しておくべき事情といえます。

2.(刑事手続の現状と見通しについて)

(1)身柄関係

 少年事件の身柄関係は、通常、逮捕に続き、10日間の勾留(刑事訴訟法208条1項)、証拠収集の遅延や困難等によりやむを得ない事由があると認められた場合、更に10日間の勾留期間延長(逮捕と合わせて最長23日間。刑事訴訟法208条2項)を経て事件が家庭裁判所に送致され、更に観護措置としての鑑別所送致(通常、4週間程度が予想されます。少年法17条1項2号・3項・4項本文)を経てた上で家庭裁判所の審判が行われる、という流れが想定されます。

 息子さんは現在、事後強盗罪の被疑者として勾留されている状態ですが、これは身柄拘束の是非を判断する裁判官が息子さんが勾留の要件を満たしていると認めたことを意味します。勾留の要件としては、刑事訴訟法上、@被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があること(刑事訴訟法207条1項、60条1項柱書)、A被疑者に住所不定、罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由、逃亡すると疑うに足りる相当な理由のいずれかの事情があること(刑事訴訟法207条1項、60条1項各号)、B諸般の事情に照らして勾留の必要性があること(刑事訴訟法87条1項)の3つが定められており、加えて、息子さんが20歳未満の少年であることから、C勾留状を発することについての「やむを得ない場合」(勾留によらなければ捜査の遂行上重大な支障を来すと認められる場合)に該当すること(少年法48条1項)が必要とされています。

 本件では@については、防犯カメラの映像や被害者であるコンビニ店員の供述、息子さん自身の供述等からすれば十分充足していると考えられ、Aについても、被害店舗に容易にアクセス可能であること等に照らせば、被害者に対する威迫、懇願等の手段で罪証隠滅が図られるおそれがあると判断されるのが一般的であり、逃亡のおそれについても、犯行時に実際に逃亡を試みていること等からすれば、逃亡を疑うに足りる相当な理由があると判断されるのが通常と思われます。

 もっとも、B、Cについては、息子さんの行った暴行の態様(事後強盗の成否)や被害者の負傷の有無、程度に大きく左右されうるところでしょう。実際の成立罪名が窃盗罪、暴行罪のみの場合、成人事件であれば重くても罰金刑相当の比較的軽微な事案といえ、かかる軽微な事案で10日間(勾留延長の決定があった場合、合計で20日間)の身柄拘束を行う必要性は乏しいといえますし(B)、「少年の非行・罪質」は「やむを得ない場合」(C)該当性の判断の直接的な考慮要素にも位置付けられるので(横浜地方裁判所昭和36年7月12日決定)、かかる場合、実際には勾留の要件を欠いているにもかかわらず勾留されてしまっている可能性も十分考えられるところです。勾留要件を満たしていない可能性があると考えられる場合、速やかに勾留の裁判に対する準抗告の申立て(勾留決定に対する不服申立ての手続き。刑事訴訟法429条1項2号)を行い、息子さんの身柄の早期釈放を求めるべきことになります(刑事訴訟法432条、426条2項)。逆に、事後強盗(致傷)罪の成立が揺るぎなく、勾留決定を覆すことが困難と考えられる場合、勾留延長による身柄拘束期間の長期化を回避するため、早期の家裁送致を要請すべきことになるでしょう。

 なお、少年法は鑑別所送致にあたって「審判を行うため必要があるとき」という要件を設けていますが(少年法17条1項本文)、逃亡のおそれや罪証隠滅のおそれ(勾留の理由と同様の事情)があれば認められてしまうため、勾留の要件を満たしている場合、家裁送致後に観護措置(鑑別所送致)決定が出される可能性が極めて高いと思われます。

(2)保護処分

 少年法は、「少年の健全な育成を期し、非行のある少年に対して性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行うとともに、少年の刑事事件について特別の措置を講ずる」ことを目的として(少年法1条)、成人事件とは異なる特殊な手続きを設けています(少年法40条)。少年は成人と異なり、未だ人格的に発展途上であり、意思決定能力も未熟であるため、成人と同じく一律に刑罰を科すよりも、個々の少年の特性に応じた特別な処遇によって更生・矯正を施すことで再非行の防止を図り、社会復帰を実現させることが合理的であるという考え方が背景にあります。かかる観点から、少年事件は捜査後、全ての事件が家庭裁判所に送致されることとなっており(全件送致主義。少年法41条、42条)、送致を受けた家庭裁判所は、必要に応じて、鑑別所送致等の観護措置(少年法17条1項2号)等によって事件及び少年について調査を行った上(少年法8条、9条)、少年審判において少年に対する「保護処分」と呼ばれる処分の決定をすることになります(少年法24条1項各号)。

 保護処分には大きく分けて@保護観察所の保護観察に付する処分、A児童自立支援施設又は児童養護施設に送致する処分、B少年院に送致する処分の3種類がありますが、処分の決定にあたっては、非行事実の有無、内容のみならず、「要保護性」の有無、程度が審理されることになります。要保護性とは、@再非行可能性(少年の性格や環境に照らして、再び犯行に陥る危険性があること)、A矯正可能性(保護処分により再非行を防止できる可能性)、B保護相当性(保護処分を行うことが少年の健全育成のために最も有効かつ適切であること)という3つの要素からなる概念と理解されており、審判においてはこれらの有無、程度が非行事実や示談の成否と同等以上に重視されることになります。

 本件は、被疑罪名の重大さに照らして、最も重い少年院送致も十分想定されるところです。したがって、少年院送致の回避をより確実にするためには、被害店舗及び被害者に対して早急に謝罪と被害弁償の申入れを行い、示談を成立させるべきことはもちろん、さらに、要保護性の解消に向けた努力を十分に尽くす必要があるといえます。

3.(本件における対応)

(1)示談交渉

 息子さんは、成立罪名の如何に拘わらず、被害店舗であるコンビニから商品を窃取し、店員に暴行を加えて転倒させていますので、店舗の商品管理者と店員の2名に対して被害弁償と謝罪のための示談交渉を進める必要があります。ただし、示談の成立は少年に対する保護処分の選択・決定を大きく左右する事情ではありますが、少年事件の場合、成人事件とは異なり、少年の健全育成(少年法1条)の観点から、要保護性の有無・程度が審判対象となるため、保護処分の軽減を最大限に図るためには、審判において、示談成立を少年本人及び親の真摯な反省等、要保護性の解消と結び付けて主張する必要があります。そのためには、示談交渉の過程で被害店舗や被害者から聴き取った事情や被害者の心情等を刑事手続の早い段階から少年に伝え、内省を促すとともに更生に向けた道標を示せるよう、適切に指導・働きかけを行っていくことが不可欠といえます。

 また、前述のとおり、本件では身柄解放の可否や見込まれる保護処分の軽重と関連して、暴行の態様や被害者の負傷状況の確認が重要となってきます。示談交渉の過程で被害者その他の従業員等から聴取した内容を証拠化する作業に加え、可能であれば被害店舗から犯行状況を記録した防犯カメラの映像(暴行の態様に関する最も客観的な証拠となります。)を適宜の方法で提供してもらうなど、可能な限りの証拠資料の収集に努めるべきでしょう。

 被害者との示談交渉、少年審判における判断のポイントを踏まえた適切な指導・働きかけ、少年に有利な証拠の収集等を全てこなすためには、実際には弁護人ないし付添人として活動してくれる弁護士の存在が不可欠であると思われます。

 弁護人による収集証拠の検討の結果、事後強盗(致傷)の成立が認められない余地がある場合、速やかに勾留の裁判に対する準抗告の申立てを行い、息子さんの身柄の早期釈放を目指すとともに、検察官に対し、家庭裁判所への送致罪名の変更(事後強盗(致傷)から窃盗及び暴行(または傷害)への変更)を要請して交渉すべきことになります。

(2)勾留の裁判に対する準抗告

 弁護人による収集証拠の検討の結果、事後強盗(致傷)の成立が認められない余地がある場合、前述のとおり、息子さんの勾留は法律上の要件を欠いている可能性がありますので、速やかに勾留の裁判に対する準抗告の申立てを行い、身柄の早期釈放を目指す必要があります。準抗告の申立てにあたっては、@息子さんに罪証隠滅のおそれがないこと(刑事訴訟法207条1項、60条1項2号)、A息子さんに逃亡のおそれがないこと(刑事訴訟法207条1項、60条1項3号)、B勾留の必要性がないこと(刑事訴訟法207条1項、87条1項)、C勾留状を発することについての「やむを得ない場合」が存在しないこと(少年法48条1項)を主張すべきことになりますが、具体的には以下のような事情が主張の中心となってくると考えられます。

・暴行の態様が軽微であり、事後強盗(致傷)が成立する事案ではないこと(犯行状況の映像記録、被害者からの聴取内容の記録等)
・息子さんが今後被害店舗への立ち入りや被害者への接触を一切行わないことを誓約していること(誓約書等)
・既に捜査機関によって必要な証拠が確保されていること
・息子さんが捜査機関の取調べに対して真摯に供述する等捜査に協力的な姿勢をとっていること
・息子さんや家族が被害店舗及び被害者に対する謝罪と被害弁償を行う意思があり、弁護人を介した示談の申入れを行っていること(謝罪文、示談状況報告書等)
・適切な身元引受人が存在すること(両親の身元引受書等)
・息子さんに非行歴がないこと
・学校への出席日数の不足や定期試験を受験できないこと等により退学等の重大な不利益が想定されること

(3)環境調整

 少年審判においては非行事実の内容と同等以上に少年の要保護性が重視されます。仮に本件が事後強盗(致傷)罪が適用されるべき事案である場合、被害者らと示談が成立していても、息子さんの更生に向けた環境調整が不十分と判断されると、要保護性が高いと判断され、少年院送致とされる可能性も十分に考えられるため、事件の帰趨を左右する重要な活動といっても過言ではなく、抜かりなく対応する必要があるところです。

 少年事件は個々の事件の個性が強く、少年や家庭の抱える問題点も事案によって全く異なるため、環境調整の内容を一般論として類型化することは困難ですし、環境調整は非行に至ってしまった原因から逆算して考えていかなければ少年の更生の上で無意味なものとなったり、かえって有害なものとなりかねないため、一般化して論じること自体無意味ともいえます。弁護人・付添人としてはご両親と十分に協議し、ご両親とともに息子さんとの面会を繰り返し、息子さんの成育歴、家族関係、家庭環境、生活環境、交友関係等を正確に把握した上、非行の原因となった息子さん自身の特性や問題点、息子さんを取り巻く家庭生活上、環境上の問題点等を早期の段階から明らかにしていく中で、それらを解消して再非行を防ぐための効果的な対応策を検討していく必要があります。

 特に、非行の原因と再非行防止のための対応策について、家庭裁判所との間に認識のずれがあると、要保護性の判断に影響し、思いもよらない重い保護処分が下されることもあるため、家裁送致後は、弁護人・付添人ご両親ともども家庭裁判所調査官(少年の要保護性の有無・内容についての社会調査を担当する行動科学の専門家)と密に連絡、協議を行い、調査にも積極的に立会いを求める等して、家庭裁判所と問題意識を共有しておく必要があります。

 このような活動が出来るのは息子さんの弁護人・付添人となる弁護士だけであり、息子さんに対する保護処分の軽減(少年院送致の回避等)をより確実なものとするためには、事件直後から少年審判を見据えて活動してくれる弁護人・付添人の存在が重要となっています。

 なお、少年が高校生の場合、刑事事件から派生して学校による退学勧告や退学処分等の問題が生じるケースが珍しくありません。高等学校と警察との間では、生徒による非行があった場合の相互連絡協定が締結されている場合が多く、弁護人の活動として情報提供自粛を要請することは可能であるものの、事後強盗といった重大事案になってくると、配慮要請にも限界があると言わざるを得ないところです。学校への対応の詳細については別稿に譲りますが、少年審判や環境調整との関係では、学校に通っていない(学校という居場所がない)ことは一般的に大きなマイナスと評価され得る事情となります。退学問題となった場合、在学、退学、転校等、いずれの選択肢をとるにせよ、審判に大きく影響することに加え、何よりも少年自身の人生に大きく関わる事柄であるため、弁護人・付添人とも十分に協議の上、後悔のない決断をされることをお勧めいたします。

4.(終わりに)

 息子さんはこれまで何ら問題行動を起こしたことがなく、逮捕・勾留されるのも初めてであり、かつ現在の被疑罪名も事後強盗という重いものですので、ご両親もさることながら、息子さん自身の動揺、不安も相当なものではないかと推察いたします。刑事手続の現状や見通しを正確に理解した上、取調べ等捜査に適切に対応していくとともに、事件直後から少年審判を見据えて非行原因や再非行防止のための対応策を含め、内省を深めていくことが示談交渉や捜査機関、家庭裁判所との折衝以上に重要であり、そのためには事件直後から少年審判まで一貫して活動し、相談してもらえる弁護人・付添人の存在が非常に大きいものとなります。早期に弁護士にご相談されることをお勧めいたします。


≪参照条文≫
刑法
(傷害)
第二百四条  人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
(暴行)
第二百八条  暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、二年以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
(窃盗)
第二百三十五条  他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
(事後強盗)
第二百三十八条  窃盗が、財物を得てこれを取り返されることを防ぎ、逮捕を免れ、又は罪跡を隠滅するために、暴行又は脅迫をしたときは、強盗として論ずる。
(強盗致死傷)
第二百四十条  強盗が、人を負傷させたときは無期又は六年以上の懲役に処し、死亡させたときは死刑又は無期懲役に処する。

刑事訴訟法
第六十条  裁判所は、被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で、左の各号の一にあたるときは、これを勾留することができる。
一  被告人が定まつた住居を有しないとき。
二  被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
三  被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
第八十七条  勾留の理由又は勾留の必要がなくなつたときは、裁判所は、検察官、勾留されている被告人若しくはその弁護人、法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族若しくは兄弟姉妹の請求により、又は職権で、決定を以て勾留を取り消さなければならない。
第二百三条  司法警察員は、逮捕状により被疑者を逮捕したとき、又は逮捕状により逮捕された被疑者を受け取つたときは、直ちに犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告げた上、弁解の機会を与え、留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し、留置の必要があると思料するときは被疑者が身体を拘束された時から四十八時間以内に書類及び証拠物とともにこれを検察官に送致する手続をしなければならない。
第二百七条  前三条の規定による勾留の請求を受けた裁判官は、その処分に関し裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。但し、保釈については、この限りでない。
第二百八条  前条の規定により被疑者を勾留した事件につき、勾留の請求をした日から十日以内に公訴を提起しないときは、検察官は、直ちに被疑者を釈放しなければならない。
○2  裁判官は、やむを得ない事由があると認めるときは、検察官の請求により、前項の期間を延長することができる。この期間の延長は、通じて十日を超えることができない。
第四百二十六条  抗告の手続がその規定に違反したとき、又は抗告が理由のないときは、決定で抗告を棄却しなければならない。
○2  抗告が理由のあるときは、決定で原決定を取り消し、必要がある場合には、更に裁判をしなければならない。
第四百二十九条  裁判官が左の裁判をした場合において、不服がある者は、簡易裁判所の裁判官がした裁判に対しては管轄地方裁判所に、その他の裁判官がした裁判に対してはその裁判官所属の裁判所にその裁判の取消又は変更を請求することができる。
二  勾留、保釈、押収又は押収物の還付に関する裁判
第四百三十二条  第四百二十四条、第四百二十六条及び第四百二十七条の規定は、第四百二十九条及び第四百三十条の請求があつた場合にこれを準用する。

少年法
(この法律の目的)
第一条  この法律は、少年の健全な育成を期し、非行のある少年に対して性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行うとともに、少年の刑事事件について特別の措置を講ずることを目的とする。
(少年、成人、保護者)
第二条  この法律で「少年」とは、二十歳に満たない者をいい、「成人」とは、満二十歳以上の者をいう。
2  この法律で「保護者」とは、少年に対して法律上監護教育の義務ある者及び少年を現に監護する者をいう。
(事件の調査)
第八条  家庭裁判所は、第六条第一項の通告又は前条第一項の報告により、審判に付すべき少年があると思料するときは、事件について調査しなければならない。検察官、司法警察員、警察官、都道府県知事又は児童相談所長から家庭裁判所の審判に付すべき少年事件の送致を受けたときも、同様とする。
2  家庭裁判所は、家庭裁判所調査官に命じて、少年、保護者又は参考人の取調その他の必要な調査を行わせることができる。
(調査の方針)
第九条  前条の調査は、なるべく、少年、保護者又は関係人の行状、経歴、素質、環境等について、医学、心理学、教育学、社会学その他の専門的智識特に少年鑑別所の鑑別の結果を活用して、これを行うように努めなければならない。
(観護の措置)
第十七条  家庭裁判所は、審判を行うため必要があるときは、決定をもつて、次に掲げる観護の措置をとることができる。
一  家庭裁判所調査官の観護に付すること。
二  少年鑑別所に送致すること。
2  同行された少年については、観護の措置は、遅くとも、到着のときから二十四時間以内に、これを行わなければならない。検察官又は司法警察員から勾留又は逮捕された少年の送致を受けたときも、同様である。
3  第一項第二号の措置においては、少年鑑別所に収容する期間は、二週間を超えることができない。ただし、特に継続の必要があるときは、決定をもつて、これを更新することができる。
4  前項ただし書の規定による更新は、一回を超えて行うことができない。ただし、第三条第一項第一号に掲げる少年に係る死刑、懲役又は禁錮に当たる罪の事件でその非行事実(犯行の動機、態様及び結果その他の当該犯罪に密接に関連する重要な事実を含む。以下同じ。)の認定に関し証人尋問、鑑定若しくは検証を行うことを決定したもの又はこれを行つたものについて、少年を収容しなければ審判に著しい支障が生じるおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある場合には、その更新は、更に二回を限度として、行うことができる。
(保護処分の決定)
第二十四条  家庭裁判所は、前条の場合を除いて、審判を開始した事件につき、決定をもつて、次に掲げる保護処分をしなければならない。ただし、決定の時に十四歳に満たない少年に係る事件については、特に必要と認める場合に限り、第三号の保護処分をすることができる。
一  保護観察所の保護観察に付すること。
二  児童自立支援施設又は児童養護施設に送致すること。
三  少年院に送致すること。
(司法警察員の送致)
第四十一条  司法警察員は、少年の被疑事件について捜査を遂げた結果、罰金以下の刑にあたる犯罪の嫌疑があるものと思料するときは、これを家庭裁判所に送致しなければならない。犯罪の嫌疑がない場合でも、家庭裁判所の審判に付すべき事由があると思料するときは、同様である。
(検察官の送致)
第四十二条  検察官は、少年の被疑事件について捜査を遂げた結果、犯罪の嫌疑があるものと思料するときは、第四十五条第五号本文に規定する場合を除いて、これを家庭裁判所に送致しなければならない。犯罪の嫌疑がない場合でも、家庭裁判所の審判に付すべき事由があると思料するときは、同様である。
(勾留)
第四十八条  勾留状は、やむを得ない場合でなければ、少年に対して、これを発することはできない。
2  少年を勾留する場合には、少年鑑別所にこれを拘禁することができる。
3  本人が満二十歳に達した後でも、引き続き前項の規定によることができる。

裁判員の参加する刑事裁判に関する法律
(対象事件及び合議体の構成)
第二条  地方裁判所は、次に掲げる事件については、次条の決定があった場合を除き、この法律の定めるところにより裁判員の参加する合議体が構成された後は、裁判所法第二十六条 の規定にかかわらず、裁判員の参加する合議体でこれを取り扱う。
一  死刑又は無期の懲役若しくは禁錮に当たる罪に係る事件
二  裁判所法第二十六条第二項第二号 に掲げる事件であって、故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪に係るもの(前号に該当するものを除く。)



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