新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1583、2015/02/27 15:21

【民事、形式競売、形式的競売、最高裁平成8年10月31日判決民集50巻9号2563頁】

共有地の分割方法

質問: 私は現在,東京に夫と子供と住んでいるのですが,広島に土地を持っています。元々この土地は父と遠い親戚が2人で2分の1ずつ所有していたもので,今は2人とも亡くなって各人の相続人が相続しています。父の相続人は私1人だったのですが,遠い親戚の相続人は4人で,現在土地の登記名義人は私を含めた5人となっています。土地は広い宅地ですが家は建っていません。遠方ですし,処分してしまいたいのですが,大阪に住んでいる3人とは距離が離れていることもあって疎遠になっています。私は,どのようにしたらよいでしょうか。

回答:

1 土地をそのままにしておくと,除草費用や固定資産税がかかってきてしまいますので,利用しないのであれば,処分を考えるべきです。しかし,今回の土地のように,複数人で所有している場合,勝手に売却することはできません。

2 今回の土地のように複数人で所有している土地を処分する方法としては,@土地を実際に分割(分筆登記)する方法,A共有者全員で土地を売却して売却代金を分割する方法,B自分の持ち分を相手に売却する方法,C相手の持ち分をこちらが買い取る方法が考えられるところです。@とCについては,最終的に土地(の1部)をあなたが取得することになりますが,取得した土地はあなた一人の所有に変わりますので,売却や譲渡が自由にできることになります。

3 いずれの方法をとるべきか,については,当該土地の性質形状,値段,売却可能性,あなたの資力等によりますから一概には申し上げられません。少なくとも,まずは土地の査定が不可欠です。
  また,いずれの方法を採るにしても,別の共有者の同意が得られなかった場合,裁判(共有物分割訴訟)をすることになります。共有物分割訴訟においては,裁判官が当該土地の性質及び形状,共有者の数及び割合,土地の利用状況共有者の要望などを総合的に考慮して,上記@からCの分割方法を判断することになります。
  共有物分割訴訟は「形式的形成訴訟」という特殊な訴訟類型で,裁判官の判断(判決)は両当事者の主張に縛られない,という特色があります。

 各処分方法の利益・不利益,訴訟提起すべきか等,専門的な判断を要する事項が多々ありますので,早い段階で弁護士に相談されることをお勧めいたします。

4. 関連事例集1494番1372番1150番821番814番733番712番681番626番参照。

解説:

1 はじめに(処分方針について)

(1)土地は,所有しているだけで固定資産税がかかります。また,地域によっては除草の義務等の空き地の適正管理条例を定めた条例等が制定されていて,定期的に所有者の費用負担で除草等を求められることがあります。
   そのため,今回のケースのように「遠方に利用する予定のない土地」がある場合は,その処分を検討するのは当然のことです。
   もちろん,自分一人で所有している土地の場合,処分は自由ですが,今回のケースのように共有である土地の全てを処分するためには,共有者全員の同意が必要です(民法251条)。持分自体の処分も可能ですが、購入者は限定されてしまいます。共有者全員で処分するほうが高い金額で処分できますが,その場合共有者間での合意形成が簡単にできれば良いのですが,処分の方針に食い違い等があると,処分は容易ではありません。本来、物の所有というのは物を自由に利用したり処分することですから単独所有が原則で共有というのは変則的な権利です。また処分が容易ではない,ということはその土地の利用が難しくなる,ということですから,経済的な合理性も欠くことになってしまいます。そのため,民法は共有物の自由な分割を権利として認めているのです(民法256条)。

(2)そこで,以下では,共有地の処分方法についてまとめた上で,その実施までの流れを説明していきます。

2 処分方法

(1)現物分割
   まずは,土地を実際に分割(分筆登記)して各共有者がそれぞれ取得する,という現物分割という方法があります。民法258条2項(後述)の規定振りからすれば,この現物分割が共有物分割の原則的形態ということになります。
   もっとも,現物分割は上記のとおり土地の分筆をすることになりますから,当然各人の土地は小さいものとなります。利用可能性が小さい,あるいはない土地は売却できませんから,「分筆して処分が自由になったものの売却の当てがない,あるいは価値が著しく減少した土地」を所有するに至るだけの結果になりかねない,という危険があります。
   そのため,現物分割は@各人に分筆したとしても十分に価値を保つことができるほどの広さがある土地か,A今後もお互いがその土地を利用する可能性がある場合に採るべき方針ということになります。
   建築基準法では、建築確認を受けることができる敷地の最低面積を各自治体の都市計画において定めうると規定しています(建築基準法53条の2)。一般的に、敷地の最低面積は100〜200平米とされているところが多いようです。従って、現物分割の結果100平米を下回ってしまうような場合は、現物分割による解決は困難と言えます。

(2)換価分割(代金分割)
   換価分割は,字義通り当該土地を売却(換価)して,その売却代金を分割する,という方法です。換価分割の場合は,土地の価値を下げずに金銭に変えることができる点,土地を手放すことができる点でメリットがあります。
   一方で,僻地や面積が小さい等の市場価値が低い土地の場合,売却まで時間がかかってしまう,あるいは売却ができないことが考えられます。その場合,いつまでも分割が実施されない,という事態が生じうることになります。
   そのため,換価分割を選択する前には,あらかじめ当該土地の市場価値や売却可能性を調査しておくことが必要不可欠です。
   共有物分割訴訟において換価分割が選択された場合は、判決で、「別紙物件目録記載の土地について競売を命じ、その売得金から競売手続き費用を控除した金額を」共有持分に従って分割するという命令が出ることになります。この競売は、債権者が弁済を受けるための、いわば実質的な競売ではないので、形式的競売(形式競売)と言います。

(3)代償分割
   代償分割は,共有者の1人(あるいは複数人)が代償金を支払い,持分を買い取る形で共有地を整理する方法です。つまり,あなた以外の共有者の誰か(あるいは複数名)があなたに代償金を支払ってあなたの持分を買い取るか,あなたが共有者3人に代償金を支払って持分を取得する,ということになります。
   他の共有者があなたに代償金を支払う方法は,土地を早く処分したい,というあなたの希望に最も合致するものです。もっとも,この場合土地が市場に出されることはありませんから,不当に低い金額での売却にならないように注意をする必要があります。一方で,他の共有者が代償金を支払うことになりますから,他の共有者の資力が必要になります。なお,共有物分割は,あなた1人だけが共有状態から抜けることも可能ですから,他の共有者3人にあなたの持分を買い取ってもらうことも可能です(共有者の資力という面からすると,そちらの方が買い取ってもらう可能性は高くなります)。
   一方,あなたが代償金を取得する方法は,土地を早く処分したい,というあなたの希望と矛盾するようですが,例えば売却の当てがあるような場合は,かえって早期の処分が可能になる上,売却による利益を受けることができるのです。
   もちろんこのメリットは,@売却の当てがあり,A売却代金が代償金を上回る場合に限って生じる上,あなたに代償金を支払うことができる資力が必要となってきます。

(4)小括
   本件では,土地が極めて広い等の特段の事情がない限り,現物分割ではなく換価分割,あるいは代償分割を目指すべきだと思われますが,具体的にどの方法によるかを決定するためには詳細な分析が必要です。
   いずれにしても,方針決定の際には,事前に当該土地の売却可能性,市場における査定価格,あなたと他の共有者たちの経済状況(資力)を調査しておく必要がある,ということです。

3 協議による処分

(1)続いて,具体的な分割までの流れですが,共有物の分割の場合,必ず最初に協議,すなわち話し合いから始める必要があります。これは,共有物分割訴訟(後述)の要件が,「共有物の分割について共有者間に協議が調わないとき」であるからです(民法258条1項)。つまり,いきなり訴訟を起こすことはできないことになります。

(2)協議による共有物分割方法に制限はありません。どのような処分でも協議さえ整えば(合意が形成できれば)可能です。
   そのため,基本的にはあなたがもっとも得する方法を提示して交渉していくことになりますが,協議が整わない場合は訴訟を提起することになること,訴訟における処分には裁判官の裁量が認められていること(後述)を念頭においておく必要があります。こちらから訴訟を提起したにもかかわらず,不意打ち的に自分の意図しない分割方法(たとえば現物分割)が判決で出されてしまうこともあり得ることを考えた上で,協議を進める必要があります。
   なお,協議の進め方は口頭でも書面でも問題ありませんが,上記のとおり協議の不調は訴訟要件ですから,協議の経過(協議があったこと,協議が不調に終わったこと)を書面で残しておくためにも,重要なやり取りは書面で残しておく方が確実です。

(3)今回のケースでは,あなたと他の共有者3名の仲が良くない,という点が気になります。あらかじめ訴訟になることも想定しながら,慎重に協議を進める必要があります。

4 訴訟による処分

(1)共有物分割訴訟

 ア 協議が整わなかった場合は,裁判手続に移行することになります。
なお,当事者(代理人を含む)間での協議が不調に終わった場合,訴訟の他に民事調停という手続も考えられるところです。民事調停の場では,調停委員という第三者を入れた話し合いが行われることになります。
   もっとも,調停はあくまでも話し合いですから,それまでの話し合い(協議)が十分になされたにも関わらず不調に終わったような場合では,調停による解決は望めませんから,結局訴訟に移行せざるを得なくなり,無駄に時間だけがかかってしまう,という結論になりやすいところです。また,訴訟に移行後も,和解という形で話し合い自体は可能です。
そのため,基本的には協議が不調の場合には訴訟に移行し,調停に付するのは「話し合いが十分に行われておらず,調停委員の説得により比較的容易に協議が調うことが見込まれる」ようなケースに限定されると考えられます。

 イ 共有物分割訴訟は,通常の訴訟とは異なる「形式的形成訴訟」であると解釈されています。「形式的形成訴訟」とは,訴訟の形態を取っておきながら,裁判所に後見的な役割を認める訴訟類型の一つで,@当事者の主張に裁判所の判断が拘束されない(弁論主義の適用がない),A裁判所は請求の棄却ができない,B控訴した場合,不利益変更禁止の原則が適用されないという特徴を有しています。
   訴訟においては権利があるか否かという点を裁判所が判断するのですが、共有物分割の場合の分割請求の権利は、分割することの請求権でしかなく、どのように分割するか、その内容については法令では決まっていないため裁判所が後見的な立場からどのように分割したら良いのかを決める必要があるためです。特に重要なのは@です。これはあなたと他の共有者の主張に裁判所の判断が縛られない,ということですから,例えばあなたと他の共有者が共に代償分割を求めていても,理論的には裁判所は現物分割を命じる(判決する)ことができる,ということになります。
   したがって,通常の訴訟に比しても「不意打ち的な判決」が出されやすい類型ということになります。
   もっとも,裁判所も勝手に判断する訳ではないので,訴訟の進行や互いの主張によりある程度の予想は可能です。

(2)管轄
   訴訟を起こす場合,その管轄は相手方である共有者の住所地(民事訴訟法4条1項)か,不動産の所在地(同法5条12号)となります。そのため,今回のケースでは,共有者の住所地である大阪か土地のある広島ということになります。
   このように遠方の土地の場合,裁判も遠方で行う必要が出てきます。遠方の裁判をあなた自身で進めていくことはやはり現実的ではないので,この点でも代理人をつけて訴訟を行うことが推奨されるところです。

(3)判断要素

 ア 上記のとおり,裁判所は当事者の主張に縛られずに分割方法の判断が可能です。
   この判断に関して民法は,258条2項で「共有物の現物を分割することができないとき,又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは,裁判所は,その競売を命ずることができる。」と定めるのみで,その他の分割方法についての規定はありません。
   この規定からは,現物分割が競売による換価分割に優先することしか明らかになりません。そのため,裁判所における分割方法の判断要素は,これまでの裁判例から解釈していくことになります。

 イ 具体的には,最高裁平成8年10月31日判決民集50巻9号2563頁が重要です。この判例は,代償分割,特に特定の1人が共有地を取得することになる全面的価格賠償という分割方法の可否について「当該共有物の性質及び形状,共有関係の発生原因,共有者の数及び持分の割合,共有物の利用状況及び分割された場合の経済的価値,分割方法についての共有者の希望及びその合理性の有無等の事情を総合的に考慮し,当該共有物を共有者のうちの特定の者に取得させるのが相当であると認められ,かつ,その価格が適正に評価され,当該共有物を取得する者に支払能力があって,他の共有者にはその持分の価格を取得させることとしても共有者間の実質的公平を害しないと認められる特段の事情が存するときは,共有物を共有者のうちの一人の単独所有又は数人の共有とし,これらの者から他の共有者に対して持分の価格を賠償させる方法による分割をすることも許される」と判断したものです。
   ここで重要なのは,@分割方法を判断するにあたっては「共有物の性質及び形状,共有関係の発生原因,共有者の数及び持分の割合,共有物の利用状況及び分割された場合の経済的価値,分割方法についての共有者の希望及びその合理性の有無等の事情を総合的に考慮」すること,A「共有者間の実質的公平を害しないと認められる特段の事情」を要求することです。
   上記のとおり,これらはあくまでも全面的価格賠償の可否についての判断ですが,その他の分割方法についても参考になります。

(4)判決

 ア 実際の裁判実務においては,あなたと他の共有者が希望せず,分筆によるある程度土地の価値の低下を主張することができれば,現物分割という判断を回避することが可能である印象です。当該土地が現在利用されておらず,また特段広いというわけでもなければ,分筆は一般的に価格の低下を生じさせますから,主張としてはそれで足りると思われます。裁判所が後見的に判断するとしても裁判所が測量等することはありません。土地の現物分割には土地の測量、分筆が必要になりますから、原告被告の一人から現物分割の主張がない限りは、現物分割はないと考えられます。現物分割を希望する場合は、測量図に基づいて具体的に分割方法を主張する必要があります。

 イ 代償分割については,当事者の希望と,資力が重要です。つまり,他の共有者が買い取りを拒否しているような場合,裁判所に買い取りを認めさせるには少なくとも他の共有者の資力が十分あることを主張することが必要です。もっとも,それだけでは十分ではありません。他の共有者の買取拒否を排斥して「共有者間の実質的公平を害しない特段の事情」の存在が認定されるためには,他の共有者に代償金を出させても買い取らせるべき事情が要求される可能性が高いといえます。
   なお,こちらが買い取る形での代償分割については,あなたの資力と買い取り価格(代償金額)を適正に設定できるか,という点が重要です。あなたの資力が十分であれば,後は買い取り価格(代償金額)の適正な設定です。不動産の価格査定については,不動産業者による無料でできる簡易なものから,数十万円程度かかる不動産鑑定士による不動産鑑定まで様々なものがありますが,ケースによって使い分ける必要があります。

 ウ 現物分割は避けるべきであり,また他の共有者に買い取らせることができない,かつこちらの資力は十分ではないということになると,現実的になってくるのは,換価分割ということになります。ただ,判決における換価分割は,すなわち民法258条2項の競売を意味します。競売による売却は,通常の売却と比較してある程度の減価がなされることが一般的ですから,協議による換価分割(民間の不動産会社等を通じて市場に売却する場合)と比して利益が少なくなる恐れが出てきます。そのため,訴訟の進行中,判決による換価分割が見込まれるような場合には,相手方である他の共有者達に共同での任意売却を持ちかける,ということも考える必要が出てくることもあります。
   もっとも,競売の場合は最後まで公的手続による処分になりますから,公正性が担保されます。そのため,感情的な対立が大きく,互いに信用ができない,というようなケースでは,ある程度の減価を見込んでも換価分割を目指す,ということもあり得るところです。
   なお,民法258条2項の規定から,裁判上の和解において競売による換価分割の合意ができるか,という点には疑問が残ります。実際は担当裁判官ごとの判断によって決せられているようです。

5 まとめ

  以上のとおり,共有物の分割については,その方法や流れが多岐に亘ります。専門的な知識が必要な訴訟に発展することも多く,協議の段階から訴訟を見据えて交渉する必要がありますから,早い段階で弁護士を付けられることをお勧めいたします。

以上

【参照条文】
民法
(共有物の使用)
第二百四十九条  各共有者は,共有物の全部について,その持分に応じた使用をすることができる。
(共有物の変更)
第二百五十一条  各共有者は,他の共有者の同意を得なければ,共有物に変更を加えることができない。
(共有物の管理)
第二百五十二条  共有物の管理に関する事項は,前条の場合を除き,各共有者の持分の価格に従い,その過半数で決する。ただし,保存行為は,各共有者がすることができる。
(共有物の分割請求)
第二百五十六条  各共有者は,いつでも共有物の分割を請求することができる。ただし,五年を超えない期間内は分割をしない旨の契約をすることを妨げない。
2  前項ただし書の契約は,更新することができる。ただし,その期間は,更新の時から五年を超えることができない。
(裁判による共有物の分割)
第二百五十八条  共有物の分割について共有者間に協議が調わないときは,その分割を裁判所に請求することができる。
2  前項の場合において,共有物の現物を分割することができないとき,又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは,裁判所は,その競売を命ずることができる。

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