新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1580、2015/01/19 18:13 https://www.shinginza.com/qa-hanzai-hosyaku.htm

【刑事、最高裁平成26年11月18日決定、最高裁平成26年11月17日決定】

否認事件における保釈請求

問題:
私の息子は,第三者と共謀して詐欺行為を行ったということで,詐欺罪で起訴されました。先日,第1回公判手続が終了したため,弁護人の先生に保釈請求をしてくれるようお願いしたのですが,息子が否認している以上,検察官申請の証拠調べが全て終了するまでは,保釈請求をしても許可されることはない,と言って取り合ってくれません。許可されることがない,とのことですが,本当にそうなのでしょうか?



回答:

1、 保釈は,「罪証隠滅のおそれ」が高いと,請求しても許可されません(刑訴法89条4項参照)。そして,本件では,息子さんが否認しており,かつ証拠調べは全て終了していないとのことですので,「罪証隠滅のおそれ」が高いと判断される可能性があります。しかし、「罪証隠滅のおそれ」が高いと言えるか否かは具体的に検討され、否認事件だから罪障隠滅のおそれが高いとは一概には言えません。弁護人としては否認事件であっても「罪証隠滅のおそれ」が高いとは言えない事情を裁判所に説明して保釈が認められように活動すべきです。例えば、具体的な方法として、証拠隠滅を行わないという誓約書を弁護人、身元引受人等と連名で作成しこれを検察庁、裁判所、関係者(関係者、共犯者、被害者には事件の内容により特に違約金を付けることも考える。)に事前に提出する方法もあります。詐欺事件の関係者と今後一切接触をしないという内容を具体的に記載する必要があります。

なお近時,最高裁には「罪証隠滅のおそれ」の有無を具体的に検討する傾向が見られることが指摘されています(最高裁平成26年11月18日決定、最高裁平成26年11月17日決定等)。いずれの事件も否認事件であり被告人にとって極めて重要な判例でしょう。

2、 関連事例集1533番1491番1467番1398番1119番1142番1026番1102番1008番848番735番644番598番538番参照。

解説:

1 保釈

(1) 意義

 保釈とは,保釈保証金の納付等を条件として,被告人に対する勾留の執行を停止して,その身柄拘束を解く裁判及びその執行をいいます(刑訴法93条,同法94条)。

 刑事裁判は、原則として被告人が裁判所に出頭しないと開廷することはできません(刑訴法286条)。そこで、起訴された被告人を法廷に出頭させることは裁判所の義務であり権限であるといえ、被告人の出頭を確保するもっとも有効な手段として被告人の身柄を裁判所の管理下に置く勾留が認められています(起訴前の被疑者の勾留とは異なります)。しかし、被告人が起訴されたからとって有罪が確定しているわけではありませんから、勾留されて自由を制限されるような事態は最小限に留められなくてはなりません。また刑事裁判は、対等な立場にいる検察官と被告人が主張立証を行うことにより真実を発見するという当事者主義の訴訟構造を基本理念としていますから、一方当事者である被告人が裁判所により拘束されて自由を奪われていることは、それ自体、被告人を取り調べの対象としていることになり、避けるべきことです。起訴の時点ですでに当該公訴事実に関する捜査、証拠収集は終了しているのですから適正、公正な裁判を侵害するような特別な事情がない限り身柄を解放する必要があります。また、裁判を行っていく上にも身柄を拘束されていたのでは十分な弁護活動ができないことになり不公平です。以上刑事訴訟法の理想から、被告人の身柄はできる限り不拘束であることが望ましいといえます。

 保釈制度は,被告人の裁判への出頭を確保するための勾留がやむを得ないとしても、被告人の自由を尊重してその執行を停止し、被告人が召喚を受けても出頭しなかったり,逃亡したりした場合等には保証金を没取することとして,被告人に経済的・精神的負担を与えて被告人の出頭を確保することにより,上記2つの要請を調和させる制度となります。

 勾留されている被告人又はその弁護人,法定代理人,保佐人,配偶者,直系の親族若しくは兄弟姉妹は,保釈の請求をすることができます(同法88条1項)。

(2) 種類

保釈には,権利保釈(刑訴法89条)と裁量保釈(同法90条)があります。

ア 権利保釈

(ア) 権利保釈とは,保釈の請求(刑訴法88条)があったときは,一定の例外的場合を除いては,これを許さなければならない,という保釈をいいます(同法89条)。やむを得ず勾留が認められるとしても、保釈を原則とするのが刑事訴訟法の建前です。

(イ) 例外的場合は,以下のとおりです。
@ 被告人が死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。
A 被告人が前に死刑又は無期若しくは長期10年を超える懲役若しくは禁錮に当たる罪につき有罪の宣告を受けたことがあるとき。
B 被告人が常習として長期3年以上の懲役又は禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。
C 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
D 被告人が,被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏い怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由があるとき。
E 被告人の氏名又は住居が分からないとき。
上記@ないしB及びEは,該当性の判断はある程度明らかですから,実際に該当するか否かが問題となるのは上記Cとなります(上記Dは,上記Cの一場面といえるでしょう。)。

イ 裁量保釈

 上記の権利保釈の例外事由がある場合でも,裁判所が,適当と認めるときは,職権で許すことができる保釈をいいます(刑訴法90条)。権利保釈(上記ア)における例外的場合に当たるとしても,裁判所の裁量により許可され得るということで裁量保釈と呼ばれます。

2 「罪証隠滅のおそれ」の有無の判断

(1) 問題点

 実務上は「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」(以下「罪証隠滅のおそれ」といいます。)があるという理由により,保釈請求が却下されることが最も多いといえます。

 そして,特に否認事件では,罪証隠滅のおそれが強いとされ,検察官請求の証拠調べが終了するまでは,保釈が認められないことが多いです。そのため,保釈を得るために否認をあきらめるという事態が生じているのですが,このような事態は真実の発見という刑事裁判の目的に反し、冤罪を生む危険性が存することはもちろん、ことの真否を問わず被告人にはいわゆる黙秘権が保障されていること(憲法38条1項,刑訴法198条2項)からすると,このような事態は深刻な問題があることは明らかといえます(いわゆる「人質司法」の問題)。

 また、裁判員裁判においては裁判が開かれる前から事前の準備手続きの充実が必要とされていることから、第1回公判前から被告人の身柄を解放する必要性が指摘されています。

 このような流れを受けて、近年,裁判所は「人質司法」から脱却しつつあるのではないかと思われる判例が出ており,その1つが最高裁平成26年11月18日決定となります。

(2) 最高裁平成26年11月18日決定

 最高裁平成26年11月18日決定は,共謀して詐欺行為が行われたという事案で,原々審(受訴裁判所)が保釈を許可し,原審(抗告審)がその保釈を許可した原々審の決定を取り消したという状況において,以下のように述べました。

 まず,「抗告審は,原決定の当否を事後的に審査するものであり,被告人を保釈するかどうかの判断が現に審理を担当している裁判所の裁量に委ねられていること(刑訴法90条)に鑑みれば,抗告審としては,受訴裁判所の判断が,委ねられた裁量の範囲を逸脱していないかどうか,すなわち,不合理でないかどうかを審査すべきであり,受訴裁判所の判断を覆す場合には,その判断が不合理であることを具体的に示す必要があるというべきである。」

として一般的な規範を示しました。

同決定は,その上で,具体的事案について,

「原決定は,これまでの公判審理の経過及び罪証隠滅のおそれの程度を勘案してなされたとみられる原々審の判断が不合理であることを具体的に示していない。本件の審理経過等に鑑みると,保証金額を300万円とし,共犯者その他の関係者との接触禁止等の条件を付した上で被告人の保釈を許可した原々審の判断が不合理であるとはいえないのであって,このように不合理とはいえない原々決定を,裁量の範囲を超えたものとして取り消し,保釈請求を却下した原決定には,刑訴法90条,426条の解釈適用を誤った違法があり,これが決定に影響を及ぼし,原決定を取り消さなければ著しく正義に反するものと認められる。」

として,原決定を取り消しました。

(3) 私見

ア 上記最高裁決定は,保釈請求を却下した原決定を取り消したものであり,被告人の身柄を解放する方向での結論といえます。

イ もっとも,このことだけを捉えて,裁判所が身柄解放に積極的になったと直ちに判断することはできません。

すなわち,上記最高裁決定は,

@ 「受訴裁判所の判断を覆す場合には,その判断が不合理であることを具体的に示す必要がある」との一般論を示し,これを具体的事案に当てはめたに過ぎません(受訴裁判所が勾留請求を却下した場合でも,上記最高裁決定の一般論は当てはまります)。

 公判を担当している裁判所が被告人の出頭については責任があるわけですから、その裁判所が保釈を認めている以上その意見を尊重するのは当然のことで、保釈決定を取り消す判断をするには決定が不合理な理由を具体的に示す必要がある、とする判断は当然のことと言えますし、これにより公判を担当する裁判所が、検察官により抗告されるのではないかという危惧が亡くなり、保釈決定の判断をすることが多くなることは予想されます。

A 第1回公判手続後の保釈請求について判断したに過ぎない(第1回公判手続前の保釈請求については何ら判断したものではない)ため、保釈が広く認められるか否かは不明である、

ともいえるわけです。

ウ もっとも,上記最高裁決定の評価については,同決定が出る前日に,最高裁平成26年11月17日決定が出されていることを加味して考える必要があると考えます。

同決定は,被疑者の勾留請求に関し、否認事件においても、罪障隠滅の可能性について具体的な検討を要求しています。

最高裁平成26年11月17日決定
「被疑者は,前科前歴がない会社員であり,原決定によっても逃亡のおそれが否定されていることなどに照らせば,本件において勾留の必要性の判断を左右する要素は,罪証隠滅の現実的可能性の程度と考えられ,原々審が,勾留の理由があることを前提に勾留の必要性を否定したのは,この可能性が低いと判断したものと考えられる。本件事案の性質に加え,本件が京都市内の中心部を走る朝の通勤通学時間帯の地下鉄車両内で発生したもので,被疑者が被害少女に接触する可能性が高いことを示すような具体的な事情がうかがわれないことからすると,原々審の上記判断が不合理であるとはいえないところ,原決定の説示をみても,被害少女に対する現実的な働きかけの可能性もあるというのみで,その可能性の程度について原々審と異なる判断をした理由が何ら示されていない。
そうすると,勾留の必要性を否定した原々審の裁判を取り消して,勾留を認めた原決定には,刑訴法60条1項,426条の解釈適用を誤った違法があり,これが決定に影響を及ぼし,原決定を取り消さなければ著しく正義に反するものと認められる。」

として,原決定を取り消しました。

 同決定は,特に一般論を示しておらず(上記イ@参照),また起訴前の段階の身柄解放手続について判断を下したものです(上記イA参照)。

 同決定が「被疑者は,前科前歴がない会社員であり,原決定によっても逃亡のおそれが否定されていることなどに照らせば,本件において勾留の必要性の判断を左右する要素は,罪証隠滅の現実的可能性の程度と考えられる」とした上で,「本件が京都市内の中心部を走る朝の通勤通学時間帯の地下鉄車両内で発生したもので,被疑者が被害少女に接触する可能性が高いことを示すような具体的な事情がうかがわれない」等,当てはめについて具体的に検討している点は,注目すべきことといえるでしょう。本件が,いわゆる電車内の痴漢の事案であり,かつ,被疑者と被害少女の供述が真っ向から対立していた状況であったことに鑑みると,なおさらのことといえます。

最高裁平成26年11月18日決定は,このような最高裁平成26年11月17日決定の翌日に出されていることも併せて考えるならば,裁判所は身柄解放に積極的になりつつある(いわゆる人質司法から脱却しつつある)といえるのではないでしょうか。個別事案について,保釈の可否について現在の担当弁護士の意見に疑問がある場合は,経験のある他の弁護士にもご相談なさってみると良いでしょう。

<参照条文>
憲法
〔自白強要の禁止と自白の証拠能力の限界〕
第38条 何人も,自己に不利益な供述を強要されない。
A 強制,拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は,これを証拠とすることができない。
B 何人も,自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には,有罪とされ,又は刑罰を科せられない。

刑事訴訟法
〔勾留の理由〕
第60条 裁判所は,被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で,左の各号の一にあたるときは,これを勾留することができる。
一 被告人が定まつた住居を有しないとき。
二 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
三 被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
A 勾留の期間は,公訴の提起があつた日から2箇月とする。特に継続の必要がある場合においては,具体的にその理由を附した決定で,1箇月ごとにこれを更新することができる。但し,第89条第2号,第3号,第4号又は第6号にあたる場合を除いては,更新は,1回に限るものとする。
B 30万円(刑法,暴力行為等処罰に関する法律(大正15年法律第60号)及び経済関係罰則の整備に関する法律(昭和19年法律第4号)の罪以外の罪については,当分の間,2万円)以下の罰金,拘留又は科料に当たる事件については,被告人が定まつた住居を有しない場合に限り,第1項の規定を適用する。
〔保釈の請求〕
第88条 勾留されている被告人又はその弁護人,法定代理人,保佐人,配偶者,直系の親族若しくは兄弟姉妹は,保釈の請求をすることができる。
A 第82条第3項の規定は,前項の請求についてこれを準用する。
〔当然保釈・保釈を許さない場合〕
第89条 保釈の請求があつたときは,次の場合を除いては,これを許さなければならない。
一 被告人が死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。
二 被告人が前に死刑又は無期若しくは長期10年を超える懲役若しくは禁錮に当たる罪につき有罪の宣告を受けたことがあるとき。
三 被告人が常習として長期3年以上の懲役又は禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。
四 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
五 被告人が,被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏い怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由があるとき。
六 被告人の氏名又は住居が分からないとき。
〔職権保釈〕
第90条 裁判所は,適当と認めるときは,職権で保釈を許すことができる。
〔保証金額及び保釈の条件〕
第93条 保釈を許す場合には,保証金額を定めなければならない。
A 保証金額は,犯罪の性質及び情状,証拠の証明力並びに被告人の性格及び資産を考慮して,被告人の出頭を保証するに足りる相当な金額でなければならない。
B 保釈を許す場合には,被告人の住居を制限しその他適当と認める条件を附することができる。
〔保証金・保証書〕
第94条 保釈を許す決定は,保証金の納付があつた後でなければ,これを執行することができない。
A 裁判所は,保釈請求者でない者に保証金を納めることを許すことができる。
B 裁判所は,有価証券又は裁判所の適当と認める被告人以外の者の差し出した保証書を以て保証金に代えることを許すことができる。
〔被疑者の任意出頭供述録取〕
第198条 検察官,検察事務官又は司法警察職員は,犯罪の捜査をするについて必要があるときは,被疑者の出頭を求め,これを取り調べることができる。但し,被疑者は,逮捕又は勾留されている場合を除いては,出頭を拒み,又は出頭後,何時でも退去することができる。
A 前項の取調に際しては,被疑者に対し,あらかじめ,自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げなければならない。
B 被疑者の供述は,これを調書に録取することができる。
C 前項の調書は,これを被疑者に閲覧させ,又は読み聞かせて,誤がないかどうかを問い,被疑者が増減変更の申立をしたときは,その供述を調書に記載しなければならない。
D 被疑者が,調書に誤のないことを申し立てたときは,これに署名押印することを求めることができる。但し,これを拒絶した場合は,この限りでない。
〔上告理由のない場合の原判決破棄の判決〕
第411条 上告裁判所は,第405条各号に規定する事由がない場合であつても,左の事由があつて原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認めるときは,判決で原判決を破棄することができる。
一 判決に影響を及ぼすべき法令の違反があること。
二 刑の量定が甚しく不当であること。
三 判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認があること。
四 再審の請求をすることができる場合にあたる事由があること。
五 判決があつた後に刑の廃止若しくは変更又は大赦があつたこと。
〔抗告申告書の差出〕
第423条 抗告をするには,申立書を原裁判所に差し出さなければならない。
A 原裁判所は,抗告を理由があるものと認めるときは,決定を更正しなければならない。抗告の全部又は一部を理由がないと認めるときは,申立書を受け取つた日から3日以内に意見書を添えて,これを抗告裁判所に送付しなければならない。
〔抗告に対する決定〕
第426条 抗告の手続がその規定に違反したとき,又は抗告が理由のないときは,決定で抗告を棄却しなければならない。
A 抗告が理由のあるときは,決定で原決定を取り消し,必要がある場合には,更に裁判をしなければならない。
〔準用規定〕
第432条 第424条,第426条及び第427条の規定は,第429条及び第430条の請求があつた場合にこれを準用する。
〔最高裁判所に対する特別抗告〕
第433条 この法律により不服を申し立てることができない決定又は命令に対しては,第405条に規定する事由があることを理由とする場合に限り,最高裁判所に特に抗告をすることができる。
A 前項の抗告の提起期間は,5日とする。
〔準用規定〕
第434条 第423条,第424条及び第426条の規定は,この法律に特別の定のある場合を除いては,前条第1項の抗告についてこれを準用する。

<参照判例>
最高裁平成26年11月17日決定
主文
原決定を取り消す。
本件準抗告を棄却する。
理由
本件抗告の趣意は,事実誤認,単なる法令違反の主張であって,刑訴法433条の抗告理由に当たらない。
しかし,所論に鑑み,職権により調査する。
本件被疑事実の要旨は,「被疑者は,平成26年11月5日午前8時12分頃から午前8時16分頃までの間,京都市営地下鉄烏丸線の五条駅から烏丸御池駅の間を走行中の車両内で,当時13歳の女子中学生に対し,右手で右太腿付近及び股間をスカートの上から触った」というものである。
原々審は,勾留の必要性がないとして勾留請求を却下した。これに対し,原決定は,「被疑者と被害少女の供述が真っ向から対立しており,被害少女の被害状況についての供述内容が極めて重要であること,被害少女に対する現実的な働きかけの可能性もあることからすると,被疑者が被害少女に働きかけるなどして,罪体について罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があると認められる」とし,勾留の必要性を肯定した。
被疑者は,前科前歴がない会社員であり,原決定によっても逃亡のおそれが否定されていることなどに照らせば,本件において勾留の必要性の判断を左右する要素は,罪証隠滅の現実的可能性の程度と考えられ,原々審が,勾留の理由があることを前提に勾留の必要性を否定したのは,この可能性が低いと判断したものと考えられる。本件事案の性質に加え,本件が京都市内の中心部を走る朝の通勤通学時間帯の地下鉄車両内で発生したもので,被疑者が被害少女に接触する可能性が高いことを示すような具体的な事情がうかがわれないことからすると,原々審の上記判断が不合理であるとはいえないところ,原決定の説示をみても,被害少女に対する現実的な働きかけの可能性もあるというのみで,その可能性の程度について原々審と異なる判断をした理由が何ら示されていない。
そうすると,勾留の必要性を否定した原々審の裁判を取り消して,勾留を認めた原決定には,刑訴法60条1項,426条の解釈適用を誤った違法があり,これが決定に影響を及ぼし,原決定を取り消さなければ著しく正義に反するものと認められる。
よって,刑訴法411条1号を準用して原決定を取り消し,同法434条,426条2項により更に裁判をすると,上記のとおり本件について勾留請求を却下した原々審の裁判に誤りがあるとはいえないから,本件準抗告は,同法432条,426条1項により棄却を免れず,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。

最高裁平成26年11月18日決定
主文
原決定を取り消す。
原々決定に対する抗告を棄却する。
理由
1 本件抗告の趣意は,憲法違反をいう点を含め,実質は単なる法令違反,事実誤認の主張であって,刑訴法433条の抗告理由に当たらない。
2 しかし,所論に鑑み,職権により調査すると,被告人の保釈を許可した原々決定を取り消して保釈請求を却下した原決定には,刑訴法90条,426条の解釈適用を誤った違法があり,取消しを免れない。その理由は,以下のとおりである。
(1) 本件公訴事実の要旨は,「被告人は,家庭用電気製品の販売等を目的とする会社の取締役であった者であるが,LED照明の製造会社やその販売会社の代表者ら4名と共謀の上,上記販売会社との間で売買基本契約を締結していた被害会社から仕入代金の先払い名目で金銭をだまし取ろうと考え,真実は,被告人が取締役を務める会社がLED照明の注文を受けた事実も,上記製造会社においてLED照明を製造して納品する意思もなく,かつ,被害会社から支払われる金銭は上記販売会社の借入金の返済等に充てる意思であるのにその情を秘し,上記販売会社の代表取締役が,被害会社の担当者に対し,「近いうちに被告人の会社から発注書が出る。受け取った前渡金は,全額,当社から製造会社に支払われ,製造費に充てることになる」旨うそを言い,さらに,被告人が,上記担当者に対し,「大型電球の注文があったので,上記製造会社の製品を納品することにした。その販売窓口が被害会社になったと聞いたので,注文書を持参した」旨うそを言い,LED照明7600点(販売価格2億3000万円余り)の注文書を交付するなどして,上記担当者及び被害会社の代表取締役らをして,被害会社がその注文を受け,上記販売会社に仕入注文をして購入代金の一部を先払いすれば,上記製造会社がその資金で上記LED照明を製造して納品するものと誤信させて,上記販売会社に対し上記LED照明の仕入注文をさせ,よって,その購入代金の先払い分及び残金として,2回にわたり,合計2億3000万円余りを上記販売会社名義の普通預金口座に振込入金させた」というものである。
(2) 原々審は,最重要証人である被害会社の担当者に対する主尋問が終了した段階(第10回公判期日が終了した段階)で,保証金額を300万円とし,共犯者その他の関係者との接触禁止等の条件を付した上で被告人の保釈を許可した。原々審が刑訴法423条2項後段に基づいて原審に送付した意見書によれば,原々審は,被告人と共犯者らとの主張の相違ないし対立状況,被告人の関係者に対する影響力,被害会社担当者の主尋問における供述状況等に照らせば,被告人がこれらの者に対し実効性のある罪証隠滅行為に及ぶ現実的可能性は高いとはいえないこと,本件における被告人の立場は,複数回の架空発注のうちの1件に発注会社の担当者として関与したにとどまること,被告人に対する勾留は既に相当期間に及んでおり,前述のような現実的でない罪証隠滅のおそれを理由にこれ以上身柄拘束を継続することは不相当であること等を考慮して保釈を許可したものと理解される。
(3) これに対し,原決定は,「被告人は,共謀も欺罔行為も争っているのであるから,共犯者らと通謀し,あるいは関係者らに働き掛けるなどして,罪証隠滅に出る可能性は決して低いものではない。そうすると,罪証隠滅のおそれは相当に強度というほかなく,被告人には刑訴法89条4号に該当する事由があると認められる。また,その罪証隠滅のおそれが相当に強度であることに鑑みれば,多数の証人予定者が残存する中にあって,未だ被害者1名の尋問さえも終了していない現段階において,被告人を保釈することは,原審の裁量の幅を相当大きく認めるとしても,その範囲を超えたものというほかない」として,保釈を認めた原々決定を取り消した。
(4) そこで検討すると,抗告審は,原決定の当否を事後的に審査するものであり,被告人を保釈するかどうかの判断が現に審理を担当している裁判所の裁量に委ねられていること(刑訴法90条)に鑑みれば,抗告審としては,受訴裁判所の判断が,委ねられた裁量の範囲を逸脱していないかどうか,すなわち,不合理でないかどうかを審査すべきであり,受訴裁判所の判断を覆す場合には,その判断が不合理であることを具体的に示す必要があるというべきである。
(5) しかるに,原決定は,これまでの公判審理の経過及び罪証隠滅のおそれの程度を勘案してなされたとみられる原々審の判断が不合理であることを具体的に示していない。本件の審理経過等に鑑みると,保証金額を300万円とし,共犯者その他の関係者との接触禁止等の条件を付した上で被告人の保釈を許可した原々審の判断が不合理であるとはいえないのであって,このように不合理とはいえない原々決定を,裁量の範囲を超えたものとして取り消し,保釈請求を却下した原決定には,刑訴法90条,426条の解釈適用を誤った違法があり,これが決定に影響を及ぼし,原決定を取り消さなければ著しく正義に反するものと認められる。
3 よって,刑訴法411条1号を準用して原決定を取り消し,同法434条,426条2項により更に裁判すると,上記のとおり,本件については保釈を許可した原々決定に誤りがあるとはいえないから,それに対する抗告は,同条1項により棄却を免れず,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。

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