新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1512、2014/05/09 00:00 https://www.shinginza.com/saikaihatsu.htm
【民事、都市再開発法の趣旨、最高裁判所昭和48年10月18日判決】

都市再開発法97条の損失補償について

質問:

当社は駅前ビルのテナント(店子)として、雑貨店を20年以上営んで来ました。このたび、駅前ビルを再開発で建て替えをすることになり退去を求められましたが、弁護士さんに相談し、都市再開発法第77条5項を根拠として、建替後の新建物への入居を選択しました。入居について大家側も了承してくれたのですが、新たな心配点があります。ビルの建替えに約4年掛かると聞いたのですが、その期間の補償はどうなるのでしょうか。建替え期間にも営業はできるのでしょうか。



回答:
1、 都市再開発法97条1項で、建替え期間に発生する借家人の損失は補償されますので御安心下さい。営業もできます。

2、 補償の対象は、建替え期間に発生する借家人の全ての損失です。引っ越し費用、仮営業所の契約費用、仮営業期間に見込まれる営業損失、その他の損失額です。その補償はすべての損害に対する完全補償です。

3、 都市再開発法97条1項の補償額は、原則として、当事者間の協議により決定されます。つまり、市街地再開発組合と、借家人の協議により決せられます。

4、 当事者間の協議がまとまらない場合は、支払う額については審査委員の過半数の同意を得、又は市街地再開発審査会の議決により決められます(都市再開発法 97条、96条、79条2項後段、57条4項 1号)。さらにその決められた内容に不服であれば、都道府県に設置された収用委員会に補償額を決めるための裁決を申請することができます(同法97条4項)。

5、 収用委員会の裁決に不服がある場合は、裁決書正本の送達を受けてから60日以内に、借家権の所在地の地方裁判所に裁決取消請求訴訟を提起することができます。

6、 損失補償の見積もりや、補償額の決定には複雑な法律問題がありますので、御心配な場合は弁護士に相談して一緒に手続きしてもらうと良いでしょう。

7、 都市再開発法関連事例集1490番1448番1455番参照。

解説:

1、 (補償の原則と、その趣旨)
都市再開発法97条1項で、建替え期間に発生する借家人の損失は補償されますので御安心下さい。勿論、営業することもできます。

都市再開発法97条第1項 施行者は、前条の規定による土地若しくは物件の引渡し又は物件の移転により同条第一項の土地の占有者及び物件に関し権利を有する者が通常受ける損失を補償しなければならない。

なぜ、このような規定があるかを理解するために、都市再開発法の2つの大きな考え方を学ぶ必要があります。

1つめは、都市再開発の促進による公共の福祉の増進です。都市再開発は、市街地の機能を高め、近隣住民の大きな利益になることなので、法律でこれを促進すべきだという考え方です。この手続きは、地主の利益のためでなく、また、借家人の利益のためでもなく、公共の利益の為に促進されるということです。条文も引用します。

都市再開発法第1条(目的)この法律は、市街地の計画的な再開発に関し必要な事項を定めることにより、都市における土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新とを図り、もつて公共の福祉に寄与することを目的とする。

つまり、土地の合理的かつ健全な高度利用をすることにより、国民全体の利益になるようにしましょう、ということです。高度利用というのは、例えば、規制緩和などにより容積率の割り増しが認められるようになった場合に、

国民全体の利益のために再開発を促進するので、都市再開発の場面では、借地借家法で認められるような借家人の保護規定は適用されない、ということです。都市再開発法に則った手続きによって建物の建替えは促進され、借家人は、借地借家法の権利を根拠にこれを拒否することはできません。建物賃借権に関して、民法の特則が借地借家法であり、そのまた特則が都市再開発法ということになります。

そして、もうひとつは、都市再開発手続きにおける当事者間の公平の原則です。公共の利益のために建物の建替えを含む市街地再開発は促進されますが、促進されるのは再開発だけであって、再開発によって当事者間の不公平を生じるべきではないという考え方があります。条文を引用します。

都市再開発法74条(権利変換計画の決定の基準)
第1項 権利変換計画は、災害を防止し、衛生を向上し、その他居住条件を改善するとともに、施設建築物及び施設建築敷地の合理的利用を図るように定めなければならない。
第2項 権利変換計画は、関係権利者間の利害の衡平に十分の考慮を払つて定めなければならない。

つまり、権利変換計画を定める場合は、都市再開発の目的に沿った敷地の合理的利用を図る必要があるし、関係権利者間の衡平にも十分考慮して進める必要があるということです。公共の利益のために建物の建替えを促進するとしても、当事者間の権利関係は公平な条件で建て替えを行いましょう、ということです。

これらの基本的な考え方を念頭に、都市再開発法97条を解釈すれば、借家人が建替えに伴って一時的に退去を余儀なくされたとしても、「通常受ける損失」が補償されるので、建替え前後で経済的損失を生じないように最大限保護されると考えることができます。建物を建替えることについては強制されてしまいますが、建替え前後で経済的に変化の無いように考慮されると考えて良いでしょう。その基本的考えの底にあるのは憲法29条私有財産制です。近代市民法の柱である自由主義、個人主義を支える所有権絶対の原則です。たとえ借家権であっても財産権である以上国家はこの権利を奪うことができないのです。その例外が公共の福祉ですが(憲法12条、29条2項、民法1条)、その代償としてその権利を奪うことによる代償処置、すなわち補償が絶対不可欠です。憲法29条3項は私有財産制から当然の規定です。この規定がなくても補償は要求できることになるます。この条文の「正当な補償」とは「合理的に算出された相当額の補償」 すなわち完全補償(収用の前後を通じて被収用者の財産価値を等しくならしめるような補償 )を意味しますからその趣旨にのっとり都市再開発法97条、74条が存在します。最高裁判所昭和48年10月18日判決 参照。

2、 (補償の内容)

 補償の対象は、建替え期間に発生する借家人の全ての損失です。引っ越し費用、営業休止期間の損失、仮営業所の準備費用、仮営業期間に見込まれる営業損失、その他の損失額です。

 都市再開発法97条に関する判例は少なく、判例集に登載されたものも見当たりませんので、同様に借家人の立ち退きを要する土地収用法の手続きで認められている費目を見てみたいと思います。

移転費用(引っ越し費用)、、、『土地収用法第八十八条の二の細目等を定める政令17条1項 法77条の物件の移転料は、当該物件を通常妥当と認められる移転先に、通常妥当と認められる移転方法によって移転するのに要する費用とする。』要するに、建替えに際して、近隣の仮営業所に移転し、後日、新しい建物に戻ってくる場合の、通常の移転費用を見積もりして、この補償を受けることができます。

営業休止期間の損失、、、『土地収用法第八十八条の二の細目等を定める政令21条1項2号 休業を通常必要とする期間中の収益の減少額』例えば、会社の年間営業利益額から、1日あたりの営業利益額を算出し、これに、移転のためにどうしても休業しなければならない日数を掛けて休業期間の損失を計算します。

仮営業所の確保費用、、、『土地収用法第八十八条の二の細目等を定める政令21条2項1号 仮営業所を新たに確保し、かつ、使用するのに通常要する費用』これは、一時営業するための営業場所を新たに借りて営業を再開するに際して必要となった不動産業者の仲介手数料や、入居に際して大家に支払う礼金、仮営業所の設営費用などが考えられます。

仮営業期間に見込まれる営業損失、、、『土地収用法第八十八条の二の細目等を定める政令21条2項2号 仮営業所における営業であることによる収益の減少額』これは、仮営業所における営業であるために来客が減少して、収益が減少することによる損失額です。本件では駅前ビルで営業していたということですので、近隣には同等の立地条件がありませんので、近隣で仮営業所を確保できたとしても、必然的に収益が減少してしまうことになります。

 この、都市再開発法97条の損失補償の特徴は、物件の明け渡しを行う前に補償額の支払いが行われることです(都市再開発法97条3項)。借家人がスムーズに移転するためには、移転前に事前に移転費用などの支払いを受ける必要があるからです。そのため、補償額は、実損害額ではなく、「通常受ける損失」の額と規定されています。


3、 (補償の手続き)

都市再開発法97条1項の補償額は、原則として、当事者間の協議により決定されます。つまり、市街地再開発組合と、借家人の協議により決せられます。

都市再開発法97条2項 前項の規定による損失の補償額については、施行者と前条第一項の土地の占有者又は物件に関し権利を有する者とが協議しなければならない。

 前記の損失補償の費目について、借家人の立場で損失の見積もりを行い、これを再開発組合側に提示する必要があります。特に、仮営業期間に見込まれる営業損失については、減少額を事前に見積もることは困難ですし、建替えに要する期間が通常3〜5年程度と長くなりますので、金額も大きくなる傾向があり、協議の困難が予想されます。

4、 (当事者の協議がまとまらない場合)

 当事者間の協議がまとまらない場合は、再開発組合は、審査委員(土地及び建物の権利関係又は評価について特別の知識経験を有し、かつ、公正な判断をすることができる者として総会で選任された専門家)の過半数の同意を得て補償額を定め、これを借家人に支払うか、または供託することになります(都市再開発法94条3項)。

 この補償額に不服があるときは、借家人は、都道府県に設置された収用委員会に補償額を決めるための裁決(土地収用法94条2項の規定による裁決)を申請することができます。

裁決申請書には、次の事項を記載します(土地収用法94条3項)。

一  裁決申請者の氏名及び住所
二  相手方の氏名及び住所
三  事業の種類
四  損失の事実
五  損失の補償の見積及びその内訳
六  協議の経過

 収用委員会は、各都道府県に設置される行政委員会で、『法律、経済又は行政に関してすぐれた経験と知識を有し、公共の福祉に関し公正な判断をすることができる者』のうちから、都道府県の議会の同意を得て、都道府県知事が7名を任命して組織されます(土地収用法52条3項)。このように、各都道府県に行政委員会として収用委員会が設置されるのは、各都道府県によって土地の利用状況が異なっており、開発の必要性についても各々独自性が認められるので、単に法律・経済・行政の専門家というだけでは足りず、各都道府県の実情に精通した専門家である必要があると考えられるためです。

なお、収用委員会の手続きを経たとしても、再開発事業の進行は停止されず、影響されません。時間稼ぎには一切なりません。

都市再開発法85条2項 前項の規定による裁決の申請は、事業の進行を停止しない。

5、 (収用委員会の採決に対する異議)

 収用委員会の裁決に不服がある場合は、裁決書正本の送達を受けてから60日以内に、借家権の所在地の地方裁判所に裁決取消請求訴訟を提起することができます。

土地収用法94条9項 前項の規定による裁決に対して不服がある者は、第百三十三条第二項の規定にかかわらず、裁決書の正本の送達を受けた日から六十日以内に、損失があつた土地の所在地の裁判所に対して訴えを提起しなければならない。

 土地収用法の補償に関して裁判所は、完全な補償が必要であるとの考え方を示しています。これは公共用地として民有地を収用する場合の判断基準ですが、民間同士で再開発事業を行う場合にも当事者間の衡平が必要と考えられますので、同様の考え方に基づいて法的主張を行うべきです。

最高裁判所昭和48年10月18日判決
「おもうに、土地収用法における損失の補償は、特定の公益上必要な事業のために土地が収用される場合、その収用によつて当該土地の所有者等が被る特別な犠牲の回復をはかることを目的とするものであるから、完全な補償、すなわち、収用の前後を通じて被収用者の財産価値を等しくならしめるような補償をなすべきであり、金銭をもつて補償する場合には、被収用者が近傍において被収用地と同等の代替地等を取得することをうるに足りる金額の補償を要するものというべく、土地収用法七二条(昭和四二年法律第七四号による改正前のもの。以下同じ。)は右のような趣旨を明らかにした規定と解すべきである。」

 この判例の考え方は、借家権者が、再開発事業で一時的に仮営業所に移転する場合の損失補償にも拡張することができるでしょう。つまり、再開発の前後を通じて、借家人の営業利益(損益計算書)が等しくなるように補償がなされるべきであると主張するのです。

6、 (最後に)

都市再開発法97条の損失補償について判例が少ないのは、大多数の借家人が正当な権利を十分に行使できていないことの裏返しであると推測されます。都市再開発法の再開発事業に直面した借家人の方は、是非、都市再開発法を研究し、御自分に認められるべき権利について理解を深めて頂きたいと思います。損失補償の見積もりや補償額の決定には複雑な法律問題がありますので、御心配な場合は弁護士に相談して一緒に手続きしてもらうと良いでしょう。

<参照条文>
※都市再開発法

(床面積が過小となる施設建築物の一部の処理)
(市街地再開発審査会)
第五十七条  地方公共団体が施行する市街地再開発事業ごとに、この法律及び施行規程で定める権限を行なわせるため、その地方公共団体に、市街地再開発審査会を置く。
2  施行地区を工区に分けたときは、市街地再開発審査会は、工区ごとに置くことができる。
3  市街地再開発審査会は、五人から二十人までの範囲内において、施行規程で定める数の委員をもつて組織する。
4  市街地再開発審査会の委員は、次の各号に掲げる者のうちから、地方公共団体の長が任命する。
一  土地及び建物の権利関係又は評価について特別の知識経験を有し、かつ、公正な判断をすることができる者
二  施行地区内の宅地について所有権又は借地権を有する者
5  前項第一号に掲げる者のうちから任命される委員の数は、三人以上でなければならない。




第七十九条  権利変換計画を第七十四条第一項の基準に適合させるため特別な必要があるときは、第七十七条第二項又は第三項の規定によれば床面積が過小となる施設建築物の一部の床面積を増して適正なものとすることができる。この場合においては、必要な限度において、これらの規定によれば床面積が大で余裕がある施設建築物の一部の床面積を減ずることができる。
2  前項の過小な床面積の基準は、政令で定める基準に従い、施行者が審査委員の過半数の同意を得、又は市街地再開発審査会の議決を経て定める。この場合において、市街地再開発審査会の議決は、第五十七条第四項第一号(第五十九条第二項において準用する場合を含む。)に掲げる委員の過半数を含む委員の過半数の賛成によつて決する。


(土地の明渡しに伴う損失補償)
第九十七条  施行者は、前条の規定による土地若しくは物件の引渡し又は物件の移転により同条第一項の土地の占有者及び物件に関し権利を有する者が通常受ける損失を補償しなければならない。
2  前項の規定による損失の補償額については、施行者と前条第一項の土地の占有者又は物件に関し権利を有する者とが協議しなければならない。
3  施行者は、前条第二項の明渡しの期限までに第一項の規定による補償額を支払わなければならない。この場合において、その期限までに前項の協議が成立していないときは、審査委員の過半数の同意を得、又は市街地再開発審査会の議決を経て定めた金額を支払わなければならないものとし、その議決については、第七十九条第二項後段の規定を準用する。
4  第二項の規定による協議が成立しないときは、施行者又は損失を受けた者は、収用委員会に土地収用法第九十四条第二項 の規定による補償額の裁決を申請することができる。
5  第八十五条第二項及び第三項、第九十一条第二項及び第三項、第九十二条並びに第九十三条の規定は、第二項の規定による損失の補償について準用する。

(価額についての裁決申請等)
第八十五条  第七十三条第一項第三号、第十一号又は第十二号の価額について第八十三条第三項の規定により同条第二項の意見書を採択しない旨の通知を受けた者は、その通知を受けた日から起算して三十日以内に、収用委員会にその価額の裁決を申請することができる。
2  前項の規定による裁決の申請は、事業の進行を停止しない。
3  土地収用法第九十四条第三項 から第八項 まで、第百三十三条及び第百三十四条の規定は、第一項の規定による収用委員会の裁決及びその裁決に不服がある場合の訴えについて準用する。この場合において必要な技術的読替えは、政令で定める。
4  第一項の規定による収用委員会の裁決及び前項の規定による訴えに対する裁判は、権利変換計画において与えられることと定められた施設建築敷地の共有持分又は施設建築物の一部等には影響を及ぼさないものとする。

(補償金等)
第九十一条  施行者は、施行地区内の宅地若しくは建築物又はこれらに関する権利を有する者で、この法律の規定により、権利変換期日において当該権利を失い、かつ、当該権利に対応して、施設建築敷地若しくはその共有持分、施設建築物の一部等又は施設建築物の一部についての借家権を与えられないものに対し、その補償として、権利変換期日までに、第八十条第一項の規定により算定した相当の価額に同項に規定する三十日の期間を経過した日から権利変換計画の認可の公告の日までの物価の変動に応ずる修正率を乗じて得た額に、当該権利変換計画の認可の公告の日から補償金を支払う日までの期間につき年六パーセントの割合により算定した利息相当額を付してこれを支払わなければならない。この場合において、その修正率は、政令で定める方法によつて算定するものとする。
2  収用委員会は、前項の規定による補償を受けるべき者に対し第八十五条第一項の規定による裁決をする場合において、その裁決で定められた価額が前項に規定する相当の価額として施行者が支払つた額を超えるときは、次に掲げる額の合計額を支払うべき旨の裁決をあわせてしなければならない。
一  その差額につき第八十条第一項に規定する三十日を経過した日から権利変換計画の認可の公告の日までの前項に規定する物価の変動に応ずる修正率を乗じて得た額及び権利変換計画の認可の公告の日から権利変換期日までの間の同項に規定する利息相当額
二  前号の額につき権利変換期日後その支払いを完了する日までの日数に応じ年十四・五パーセントの割合による過怠金
3  土地収用法第九十四条第十項 から第十二項 までの規定は、前項の裁決に関し、第八十五条第三項の規定による訴えの提起がなかつた場合に準用する。

(補償金等の供託)
第九十二条  施行者は、次の各号の一に該当する場合においては、前条に規定する補償金(利息相当額を含む。)及び過怠金(以下「補償金等」という。)の支払に代えてこれを供託することができる。
一  補償金等を受けるべき者がその受領を拒んだとき、又は補償金等を受領することができないとき。
二  施行者が過失がなくて補償金等を受けるべき者を確知することができないとき。
三  施行者が収用委員会の裁決した補償金等の額に対して不服があるとき。
四  施行者が差押え又は仮差押えにより補償金等の払渡しを禁じられたとき。
2  前項第三号の場合において、補償金等を受けるべき者の請求があるときは、施行者は、自己の見積り金額を払い渡し、裁決による補償金等の額との差額を供託しなければならない。
3  施行者は、第七十三条第四項の場合においては、権利変換計画において存するものとされた権利に係る補償金等(併存し得ない二以上の権利が存するものとされた場合においては、それらの権利に対する補償金等のうち最高額のもの)の支払に代えてこれを供託しなければならない。
4  施行者は、先取特権、質権若しくは抵当権又は仮登記若しくは買戻しの特約の登記に係る権利の目的物について補償金等を支払うときは、これらの権利者のすべてから供託しなくてもよい旨の申出があつたときを除き、その補償金等を供託しなければならない。
5  前四項の規定による供託は、施行地区内の土地の所在地の供託所にしなければならない。
6  施行者は、第一項から第四項までの規定による供託をしたときは、遅滞なく、その旨を補償金等を取得すべき者(その供託が第三項の規定によるものであるときは、争いの当事者)に通知しなければならない。

(物上代位)
第九十三条  前条第四項の先取特権、質権又は抵当権を有する者は、同項の規定により供託された補償金等に対してその権利を行うことができる。

※土地収用法
(前三条による損失の補償の裁決手続)
第九十四条  前三条の規定による損失の補償は、起業者と損失を受けた者(前条第一項に規定する工事をすることを必要とする者を含む。以下この条において同じ。)とが協議して定めなければならない。
2  前項の規定による協議が成立しないときは、起業者又は損失を受けた者は、収用委員会の裁決を申請することができる。
3  前項の規定による裁決を申請しようとする者は、国土交通省令で定める様式に従い、左に掲げる事項を記載した裁決申請書を収用委員会に提出しなければならない。
一  裁決申請者の氏名及び住所
二  相手方の氏名及び住所
三  事業の種類
四  損失の事実
五  損失の補償の見積及びその内訳
六  協議の経過
4  第十九条の規定は、前項の規定による裁決申請書の欠陥の補正について準用する。この場合において、「前条」とあるのは「第九十四条第三項」と、「事業認定申請書」とあるのは「裁決申請書」と、「国土交通大臣又は都道府県知事」とあるのは「収用委員会」と読み替えるものとする。
5  収用委員会は、第三項の規定による裁決申請書を受理したときは、前項において準用する第十九条第二項の規定により裁決申請書を却下する場合を除くの外、第三項の規定による裁決申請者及び裁決申請書に記載されている相手方にあらかじめ審理の期日及び場所を通知した上で、審理を開始しなければならない。
6  第五十条及び第五章第二節(第六十三条第一項を除く。)の規定は、収用委員会が前項の規定によつて審理をする場合に準用する。この場合において、第五十条、第六十一条第一項、第六十三条第二項から第五項まで、第六十四条第二項及び第六十六条第三項中「起業者、土地所有者及び関係人」とあり、及び第五十条第二項中「収用し、又は使用しようとする土地の全部又は一部について起業者と土地所有者及び関係人の全員」とあるのは「裁決申請者及びその相手方」と、同条第二項及び第三項中「第四十八条第一項各号又は前条第一項各号に掲げるすべての事項」とあるのは「損失の補償及び補償をすべき時期」と、同条第五項中「権利取得裁決又は明渡裁決」とあるのは「第九十四条第八項の規定による裁決」と、第六十三条第三項中「前二項」とあるのは「前項」と、同条第四項中「第四十条第一項の規定による裁決申請書の添付書類により、若しくは第四十三条第一項の規定による意見書により申し立てた事項又は第一項若しくは第二項」とあるのは「第九十四条第三項の規定による裁決申請書により申し立てた事項又は第二項」と、第六十五条第一項第一号中「起業者、土地所有者若しくは関係人」とあるのは「裁決申請者若しくはその相手方」と、第六十五条の二第一項、第二項及び第七項中「土地所有者又は関係人」とあるのは「裁決申請者又はその相手方(これらの者のうち起業者である者を除く。)」と読み替えるものとする。
7  収用委員会は、第二項の規定による裁決の申請がこの法律の規定に違反するときは、裁決をもつて申請を却下しなければならない。
8  収用委員会は、前項の規定によつて申請を却下する場合を除くの外、損失の補償及び補償をすべき時期について裁決しなければならない。この場合において、収用委員会は、損失の補償については、裁決申請者及びその相手方が裁決申請書又は第六項において準用する第六十三条第二項の規定による意見書若しくは第六項において準用する第六十五条第一項第一号の規定に基いて提出する意見書によつて申し立てた範囲をこえて裁決してはならない。
9  前項の規定による裁決に対して不服がある者は、第百三十三条第二項の規定にかかわらず、裁決書の正本の送達を受けた日から六十日以内に、損失があつた土地の所在地の裁判所に対して訴えを提起しなければならない。
10  前項の規定による訴えの提起がなかつたときは、第八項の規定によつてされた裁決は、強制執行に関しては、民事執行法 (昭和五十四年法律第四号)第二十二条第五号 に掲げる債務名義とみなす。
11  前項の規定による債務名義についての執行文の付与は、収用委員会の会長が行う。民事執行法第二十九条 後段の執行文及び文書の謄本の送達も、同様とする。
12  前項の規定による執行文付与に関する異議についての裁判は、収用委員会の所在地を管轄する地方裁判所においてする。

(移転料の補償)
第七十七条  収用し、又は使用する土地に物件があるときは、その物件の移転料を補償して、これを移転させなければならない。この場合において、物件が分割されることとなり、その全部を移転しなければ従来利用していた目的に供することが著しく困難となるときは、その所有者は、その物件の全部の移転料を請求することができる。

(通常受ける損失の補償)
第八十八条  第七十一条、第七十二条、第七十四条、第七十五条、第七十七条、第八十条及び第八十条の二に規定する損失の補償の外、離作料、営業上の損失、建物の移転による賃貸料の損失その他土地を収用し、又は使用することに因つて土地所有者又は関係人が通常受ける損失は、補償しなければならない。

第八十八条の二  第七十一条、第七十二条、第七十四条、第七十五条、第七十七条、第八十条、第八十条の二及び前条の規定の適用に関し必要な事項の細目は、政令で定める。

(設置)
第五十一条  この法律に基く権限を行うため、都道府県知事の所轄の下に、収用委員会を設置する。
2  収用委員会は、独立してその職権を行う。

(組織及び委員)
第五十二条  収用委員会は、委員七人をもつて組織する。
2  収用委員会には、就任の順位を定めて、二人以上の予備委員を置かなければならない。
3  委員及び予備委員は、法律、経済又は行政に関してすぐれた経験と知識を有し、公共の福祉に関し公正な判断をすることができる者のうちから、都道府県の議会の同意を得て、都道府県知事が任命する。

※土地収用法第八十八条の二の細目等を定める政令
(移転料)
第十七条  法第七十七条(法第百三十八条第一項において準用する場合を含む。)の物件(立木を除く。次項において同じ。)の移転料は、当該物件を通常妥当と認められる移転先に、通常妥当と認められる移転方法によって移転するのに要する費用とする。
2  物件の移転に伴い建築基準法 (昭和二十五年法律第二百一号)その他の法令の規定に基づき必要となる当該物件の改善に要する費用は、前項の費用には含まれないものとする。

(営業の廃止に伴う損失の補償)
第二十条  土地等の収用又は使用に伴い、営業(農業及び漁業を含む。以下同じ。)の継続が通常不能となるものと認められるときは、次に掲げる額を補償するものとする。
一  独立した資産として取引される慣習のある営業の権利その他の営業に関する無形の資産については、その正常な取引価格
二  機械器具、農具、漁具、商品、仕掛品等の売却損その他資産に関して通常生ずる損失額
三  従業員を解雇するため必要となる解雇予告手当(労働基準法 (昭和二十二年法律第四十九号)第二十条 の規定により使用者が支払うべき平均賃金をいう。)相当額、転業が相当であり、かつ、従業員を継続して雇用する必要があるものと認められる場合における転業に通常必要とする期間中の休業手当(同法第二十六条 の規定により使用者が支払うべき手当をいう。次条第一項第一号において同じ。)相当額その他労働に関して通常生ずる損失額
四  転業に通常必要とする期間中の従前の収益(個人営業の場合においては、従前の所得。次条において同じ。)相当額

(営業の休止等に伴う損失の補償)
第二十一条  土地等の収用又は使用に伴い、営業の全部又は一部を通常一時休止する必要があるものと認められるときは、次に掲げる額を補償するものとする。
一  休業を通常必要とする期間中の営業用資産に対する公租公課その他の当該期間中においても発生する固定的な経費及び従業員に対する休業手当相当額
二  休業を通常必要とする期間中の収益の減少額
三  休業することにより、又は営業を行う場所を変更することにより、一時的に顧客を喪失することによって通常生ずる損失額(前号に掲げるものを除く。)
四  営業を行う場所の移転に伴う輸送の際における商品、仕掛品等の減損、移転広告費その他移転に伴い通常生ずる損失額
2  土地等の収用又は使用に伴い、営業を休止することなく仮営業所において営業を継続することが通常必要かつ相当であるものと認められるときは、次に掲げる額を補償するものとする。
一  仮営業所を新たに確保し、かつ、使用するのに通常要する費用
二  仮営業所における営業であることによる収益の減少額
三  営業を行う場所を変更することにより、一時的に顧客を喪失することによって通常生ずる損失額(前号に掲げるものを除く。)
四  前項第四号に掲げる額

(営業の規模の縮小に伴う損失の補償)
第二十二条  土地等の収用又は使用に伴い、営業の規模を通常縮小しなければならないものと認められるときは、次に掲げる額を補償するものとする。
一  第二十条第二号及び第三号に掲げる額(営業の規模の縮小に伴い通常生ずるものに限る。)
二  営業の規模の縮小に伴い経営効率が客観的に低下するものと認められるときは、これにより通常生ずる損失額

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