新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1504、2014/04/15 00:00
[民事,消滅時効,保証連帯,商法511条2項,最判昭和43年11月15日,最判平成11年11月9日,大審院明治44年5月23日判決]

連帯保証人が複数いる場合における主債務者の破産免責後の時効管理

質問:
当社は婦人服の企画製造卸売業を営んでいます。2年半ほど前,商品の売掛金がある取引先のブティック(個人事業主P)が破産し免責決定が出てしまいました。主債務者本人の親族を中心に複数名の連帯保証人を取っていて,1年ほど前,そのうちの1人である代表者の息子Qに対して訴訟を起こし,分割払いの和解をしました。その後,当初は請求を諦めていた別の連帯保証人Rに実は資力がありそうなことが判明したので,そちらからも支払ってもらいたいと思って請求書を送りました。ところが,その連帯保証人は時効を援用して支払を拒否してきました。もう請求はできないのでしょうか。



回答:
1.その連帯保証人Rによる消滅時効の援用には理由がなく,貴社は依然として連帯保証債務の履行請求が可能と考えられます。

2.一般的に連帯保証人の消滅時効の主張には、@主たる債務の消滅時効の援用とA連帯債務そのもの援用が考えられます。本件では主たる債務は破産手続きにより免責されているということですが免責の効力が及ぶ主債務については,もはや消滅時効を援用することができないとするのが最高裁判例です。したがって,Rは,Pの主債務の消滅時効を援用することはできません。

3.連帯保証人が複数いる場合,各連帯保証人の債務の消滅時効は個別に進行するのが原則ですが,本件では,商法511条2項が適用されてQに対する訴訟提起による時効中断効がRにも及びます。したがって,Rの連帯保証債務の消滅時効は未だ完成しておらず,Rの消滅時効の主張は認められません。

4.Rの支払拒絶の態度は,単なる勘違いに起因するものかもしれませんが,弁護士が代理人として内容証明を送ってその主張に理由がないことを説明し,速やかに支払をするよう請求することで,債権回収に向けた強い意志を伝えるべきです。

5.Rの資産の種類や状況,貴社の有する債権の額などによっては,民事保全の手続をとることが得策といえる場合もあります。いずれにしても一度弁護士にご相談しておくことが適当な事案だと思われます。

6.関連事例集1297番1082番1020番922番765番218番52番参照。

解説:
【本件債権の消滅時効期間】
 貴社が主債務者Pに対して有していた商品の売掛金債権の消滅時効期間は,「生産者、卸売商人又は小売商人が売却した産物又は商品の代価に係る債権」として2年間です(民法173条1号)。

 貴社とPとの取引は商法上の絶対的商行為であり,貴社とPの双方とも商法上の商人であると解されることから,貴社とPとの間に生じた債権の消滅時効に関して一般的には商事消滅時効5年に服しますが(商法522条本文),貴社のPに対する債権が上記民法173条1号に該当することから,5年よりも短い2年の消滅時効期間を定めた同規定が優先して適用されることになります(商法522条但書)。

 これに照らして,あなたのRに対する保証債務履行請求権(「本件債権」といいます。)の消滅時効期間もこれと同様の2年間であると考えて債権管理にあたることが適当といえます。

【連帯保証人Rの消滅時効の主張の分析】
 連帯保証人は,自己の連帯保証債務の消滅時効を援用できることは勿論,主債務の消滅時効を援用することもできると解されています(大審院昭和7年6月21日判決)。本件におけるRは,いずれの債務の消滅時効を援用する趣旨かを明らかにしていないようですので,一応,両方について検討することにします。

【免責の効力が及ぶ主債務についての消滅時効援用の可否】
 まず,主債務者Pの主債務の消滅時効の援用の可否についてですが,本件において,Pは既に破産して免責決定を受けているため,連帯保証人Rが主債務の消滅時効を援用しうる余地はありません。

 連帯保証人が自然債務として存続している主債務の消滅時効を援用することができるかについては,最高裁がこれを否定する判断をしています(最高裁平成11年11月9日判決)。

 理由としては,免責の効力が及んだ主債務について,その後も消滅時効期間の進行を観念することができないからとしています。すなわち,免責決定の効力を受ける債権は,債権者において訴えをもって履行を請求しその強制的実現を図ることができなくなり,この債権については,民法166条1項に定める「権利を行使することができる時」を起算点とする消滅時効の進行を観念することができないとするものです。

 詳しくは当事例集1020番で論じていますので,気になる方はこちらも合わせてご参照ください。

【主債務者の免責後,複数の連帯保証人間相互の関係――原則と例外】
 主債務者が破産して免責を受けた後はもはや主債務の消滅時効を観念する余地がないため,主債務の消滅時効を中断させることで連帯保証債務の消滅時効も中断させる(民法457条1項)という時効管理を行うことはできなくなります。連帯保証債務自体の消滅時効に注意を払わなければならないということです。

 連帯保証自体の消滅時効について問題となるのは、連帯保証人を複数取っていた場合,共同連帯保証人のうちの1人に対してした請求(裁判上の請求)が他の連帯保証人らに対してもその効力が生じるかという点です。

 本件では,共同連帯保証人の1人であるQに対して訴訟を起こして和解成立に至っているため,Qの貴社に対する連帯保証債務の消滅時効には中断が生じていますが,一方,Rの貴社に対する連帯保証債務については固有の時効中断事由が見当たらないため,Qに対する時効中断事由がRにも及ぶといえない限り,Rは自己の連帯保証債務の消滅時効を援用できてしまうことになるため,上記の点が問題となります。

 この点,連帯債務者間の1人に対して生じた効力が他の連帯債務者にも及ぶ(=絶対効がある)場合については,民法434条から439条までに限定列挙されていて,それ以外については相対効の原則が採用されています(民法440条)。ところが,共同連帯保証人相互間の関係についてこうした規定が置かれていないため,共同連帯保証人相互間の関係についても上記の規定を類推してよいか問題となり、類推適用ができるということになれば民法434条の類推適用により履行の請求による時効中断は他の連帯保証人にも効力が生じることになります。

 連帯債務者の関係と連帯保証人が数人いる場合の保証人同士の関係が同視できるとすれば類推適用は可能ですのでその点の検討が必要になります。思うに,連帯保証契約は,連帯保証人が債権者に対し,主債務者と連帯して債務の履行をすることを約束する契約です。連帯保証人が複数いる場合というのは,こうした契約が単に複数存在するだけです。そのような契約が複数あるだけであるにもかかわらず,個別の連帯保証契約における各連帯保証人の間に,1個の契約上の債務者同士である連帯債務者間と同じだけの法律関係を自動的に生じさせるとするのは,意思主義の観点から妥当でないと考えます。

 これに対して,保証人同士が連帯して保証債務を負う(いわゆる「保証連帯」の関係を生じさせる)という合意がある場合や,明文上の規定(例えば商法511条2項のように各保証人連帯して負担することが規定されている場合)がある場合であれば,共同連帯保証人間に連帯債務者間と同様の法律関係を生じさせることに何も問題はないでしょう。

 判例もこれと同旨に解しています。最判昭和43年11月15日は,共同保証人の1人に対してした債務の免除が他の保証人に対しても効果を及ぼすかという点が問題になった事案において,複数の連帯保証人が存する場合であっても,いわゆる保証連帯の特約があった場合,または商法511条2項に該当する場合でなければ,各保証人間に連帯債務ないしこれに準ずる法律関係は生じないと解するのが相当であるから,連帯保証人の一人に対し債務の免除がなされても,それは他の連帯保証人に効果を及ぼすものではないと判示しました。

 この判例は,商法511条2項が連帯保証人同士にも保証連帯の関係を生じさせる規定であることを示したものと評価できます。

 そもそも511条2項の趣旨は、主たる債務、及び、保証行為が商行為であれば営利性、連続性が強く、このような取引関係に参加した者同士では、債権者の立場を強くして商取引決済の迅速性を早めようとするものです。従って、文言上は主たる債務と保証人間の連帯関係を規定していますが、商行為に関係した本来別個の保証人間でも連帯関係が生じると(民法456条の分別の利益を有しない。)解釈上考えることができます。大審院明治44年5月23日判決も同趣旨です。以上から、連帯債務の時効中断の絶対効(連帯債務の主観的共同関係に基づき絶対効の効力を認め債権者の権利を強化している。)を商行為に関係した保証人間にも類推することが認められます。


【本件へのあてはめ】
 本件は,主債務者Pの貴社に対する債務が商行為によって生じたものであることが明らかです。そうすると,商法511条2項の規定により,QとRとの間には保証連帯の関係が生じることになり,Qに対する裁判上の請求による効果がRに対しても及ぶこととなります(民法434条)。つまり,Qに対する訴訟による時効中断がRにも及んでいたことになり,Rの消滅時効期間はまだ完成していませんから,Rの消滅時効の主張は誤りだといえます。

 冒頭の回答で示したとおり,Rに対して,改めて請求をすることができますが,Rが一度は支払を拒絶してきたことに鑑み,弁護士名で内容証明を送るか,民事保全を行うか,弁護士に具体的な対策を相談することをお勧めします。

【余談として,商法511条2項の適用がない場合の検討】
 本件では,商法511条2項の適用があるため,共同連帯保証人相互に保証連帯の関係が認められることとなりますが,仮に,商法511条2項の適用がない事案だった場合には消滅時効の主張が通ってしまう可能性があったといえます。

 判例上も,商法511条2項の適用がある場合のほかとして,保証連帯の特約があることを要求していますから,そういう特約があったことの立証責任を債権者側が負っていると解されます。この立証責任を果たすためには,単に一枚の契約書に連帯保証人が連署していただけでは不安であり,対策として,保証連帯の関係にあることを契約条項として明記しておくべきでしょう。

 連帯保証人を複数確保することは債権保全の観点からは理想的ですが,そうした事前対処を万全にするためにも,契約書作成の際には弁護士に見せてチェックを受けてはいかがでしょうか。

≪参照法令≫
【民法】
(二年の短期消滅時効)
第百七十三条  次に掲げる債権は、二年間行使しないときは、消滅する。
一  生産者、卸売商人又は小売商人が売却した産物又は商品の代価に係る債権
二  略
三  略

(連帯債務者の一人に対する履行の請求)
第四百三十四条  連帯債務者の一人に対する履行の請求は、他の連帯債務者に対しても、その効力を生ずる。

(数人の保証人がある場合)
第四百五十六条  数人の保証人がある場合には、それらの保証人が各別の行為により債務を負担したときであっても、第四百二十七条の規定を適用する。
(主たる債務者について生じた事由の効力)
第四百五十七条  主たる債務者に対する履行の請求その他の事由による時効の中断は、保証人に対しても、その効力を生ずる。
2  保証人は、主たる債務者の債権による相殺をもって債権者に対抗することができる。
(連帯保証人について生じた事由の効力)
第四百五十八条  第四百三十四条から第四百四十条までの規定は、主たる債務者が保証人と連帯して債務を負担する場合について準用する。


(共同保証人間の求償権)
第四百六十五条  第四百四十二条から第四百四十四条までの規定は、数人の保証人がある場合において、そのうちの一人の保証人が、主たる債務が不可分であるため又は各保証人が全額を弁済すべき旨の特約があるため、その全額又は自己の負担部分を超える額を弁済したときについて準用する。
2  第四百六十二条の規定は、前項に規定する場合を除き、互いに連帯しない保証人の一人が全額又は自己の負担部分を超える額を弁済したときについて準用する。

【商法】
(多数当事者間の債務の連帯)
第五百十一条  略
2  保証人がある場合において、債務が主たる債務者の商行為によって生じたものであるとき、又は保証が商行為であるときは、主たる債務者及び保証人が各別の行為によって債務を負担したときであっても、その債務は、各自が連帯して負担する。

(商事消滅時効)
第五百二十二条  商行為によって生じた債権は、この法律に別段の定めがある場合を除き、五年間行使しないときは、時効によって消滅する。ただし、他の法令に五年間より短い時効期間の定めがあるときは、その定めるところによる。

≪参照判例≫
【最高裁判所昭和43年11月15日第二小法廷判決(要点抜粋)】
「複数の連帯保証人が存する場合であつても、右の保証人が連帯して保証債務を負担する旨特約した場合(いわゆる保証連帯の場合)、または商法五一一条二項に該当する場合でなければ、各保証人間に連帯債務ないしこれに準ずる法律関係は生じないと解するのが相当であるから、連帯保証人の一人に対し債務の免除がなされても,それは他の連帯保証人に効果を及ぼすものではない」。


法律相談事例集データベースのページに戻る

法律相談ページに戻る(電話03−3248−5791で簡単な無料法律相談を受付しております)

トップページに戻る