金融機関に対する消滅時効の援用と個人信用情報の抹消請求

民事|ブラックリスト|信用情報の本人開示手続|事故情報の抹消

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参考条文

質問:

新居購入のため住宅ローンを組もうとしたのですが,事故情報があるということでローンが組めませんでした。事故情報とは何なのでしょうか。住宅ローンを組めるようにするためにはどうしたらいいのでしょうか。

実は、私は,今から10年前に消費者金融を営む株式会社1社から,50万円を借りたことがあります。最初2,3回は分割で返済していたのですが,その後返済を怠ってしまい返済するのを忘れてしましました。その後,手紙も色々届いていたのですが,封を切らないまま放置してしまっていました。それが最近になって,その会社から残金の一括返済を求める通知が自宅に届きました。残元金44万円と利息と遅延損害金を払えという内容でした。今回これまで開けていなかった手紙を読み返してみると,今から7年前に期限の利益を喪失したということが記載されていました。

回答:

1 金融機関の言う事故情報とは,借金やクレジットカードの返済が遅延していることの情報です。

2 住宅ローンを組めるようにするためには,あなたが定期的な収入のある職業に就くことが最低の条件であることは言うまでもありません。しかし,収入面にさほど問題が無くても,事故情報があるという理由で住宅ローンが組めない場合があります。

3 10年前に借り入れたお金を2,3回しか返していないとすると履行遅滞となり、分割払いによる返済の場合も一括で返済しなくてはならいことになっていますから、信用情報機関に事故情報として記載されています。しかし、返済期限から5年以上経過している本件では,あなたの消費者金融会社に対する債務は消滅時効にかかっていると考えられ,その場合には返済をしなくても事故情報の抹消の手続をとることが可能です。あなた自ら事故情報の抹消の手続を取ることも不可能ではありませんが,事故情報を管理している会社の現在の運用を確認することを前提に,消費者金融を営む株式会社双方との交渉が必要となります。そのため,弁護士などの代理人を通じて手続をしてもらった方がスムーズに行くことが多いでしょう。お近くの法律事務所等にご相談されることをお薦めいたします。

4 なお、債権回収会社が絡んできた場合も,手続的には大きな違いはありません。もっとも,事故情報の抹消の手続をとるためには,消費者金融のみならず,債権回収会社との交渉も必要になることが多いです。そのため,弁護士などの代理人を通じて手続をしてもらった方がよいでしょう。

5 時効援用に関する関連事例集参照。

解説:

1 事故情報について

(1)金融機関における事故とは,借金やクレジットカードの返済において,支払いが遅延していることを示し、それに関する情報が事故情報です。こうした事故情報は,後述する信用情報機関を通じて,加盟する金融機関で共有されております。

この事故情報があると,金融機関側の融資に対する審査が非常に厳しくなると言われております。このため,事故情報のことを,俗に「ブラックリスト」と呼ぶ場合があります。

(2)信用情報機関とは,個人信用情報の収集及び提供を行う機関のことです。我が国においては、個人に関する信用情報機関として,全国銀行個人信用情報センター,株式会社シー・アイ・シー、株式会社日本信用情報機構があります(なお,事業者に関する信用情報機関として株式会社ジェイビックがあります)。

信用情報の主なものは,個人を特定するための情報,個人の属性情報,加盟会社の当該信用情報の使用履歴です。事故情報は,個人の属性情報のうちの,延滞などの金融事故に関わる情報に位置づけられます。

以下,個人に関する信用情報機関の概略を説明します。

ア 全国銀行個人信用情報センター(略称「KSC」):http://www.zenginkyo.or.jp/pcic/

KSCは、全国銀行協会(全銀協)が運営する信用情報機関です。

会員には、一般会員(全銀協に正会員として加盟している銀行)と特別会員(一般会員以外の銀行または法令によって銀行と同視される金融機関、政府関係金融機関またはこれに準じるもの、信用保証協会、個人に関する与信業務を営む法人で信用保証協会以外の会員の推薦を受けたもの)がいます。なお,銀行子会社などの銀行系クレジットカード会社のうち,三井住友カード,ジェーシービー・クレディセゾン(セゾンUC),三菱UFJニコスら一部の大手カード会社は2009年に登録機関から脱退し,情報を抹消しています。

イ 株式会社シー・アイ・シー(略称「CIC」):http://www.cic.co.jp/

CICは、1984年に(社)日本割賦協会(現:日本クレジット協会)と(株)日本信用情報センター、(社)全国信販協会の信用情報機関を一本化して設立された株式会社です。

加盟会社には,各クレジットカード発行企業(含む信販会社)と、信用保証会社、自動車や機械等のローン・リース会社、小売店などと、一部の消費者金融会社・銀行・労働金庫などがいます。1999年頃から,三洋信販など消費者金融専業会社も加盟するようになりました。また,2008年頃からは,保証会社を伴わずに住宅ローンなどの直接融資を提供する預金取扱金融機関(ソニー銀行・イオン銀行など)が加盟しています。さらに、2010年の改正割賦販売法の施行により銀行本体で発行を行うクレジットカード(三菱東京UFJ-VISA等)の支払見込可能額調査において相互に情報共有を行う必要が生じた為、銀行系クレジットカード会社についても,クレジットカードなど商品を限定してCICに登録を行うようになりました。

ウ 日本信用情報機構(略称「JICC」):http://www.jicc.co.jp/

JICCとは,信用情報の収集・登録・管理・提供などの事業を行っている個人信用情報機関です。これは、クレジット会社やローン会社などの貸金業者系の信用情報機関で、消費者信用産業の健全な発展と消費者の信用力を支える信用情報機関として、信用情報のプライバシー保護と利用のバランスを図りながら多様な発展を遂げており、現在では日本で唯一全業態を網羅する国内最大規模の信用情報機関として基盤を確立しています。

加盟会社には、信販会社、消費者金融会社、流通系・銀行系・メーカー系カード会社、金融機関、保証会社、リース会社など幅広い業種が含まれます。

(3)個人信用情報の本人開示手続

住宅ローンの審査が通らなかったということですから、あなたの場合、事故情報が登録されている可能性が高いと言えます。

そこで確認のためまずは,これらの各機関に連絡をとり,個人信用情報の本人開示手続を行い,開示報告書を取得するべきです。あなたは情報の本人ですから当然どのような情報が記載されているのかについて知る権利が認めらています。従って、信用情報機関は本人からの開示請求を拒否することはできず、本人あるいは代理人が電話連絡をすれば手続きについて教えてくれ、開示してくれます。

2 住宅ローンを組む際への事故情報の影響

(1)クレジットカードやローンなどの審査に影響する情報

クレジットカードやローンなどの審査は、申込み時の属性、返済履歴に問題があった場合、審査が通らないケースが多いと言われております。このうち,審査の判断に大きく影響を与える信用情報としては,

・本人都合による支払遅延や代位弁済歴

・事故情報,異動情報(返済日から61日以上、または3ヶ月以上の支払遅延の情報)

・直近3ヶ月 から1年程におけるクレジットカード,ショッピングクレジットやノンバンク(消費者金融を含む),金融機関による融資(ローン)の申込履歴

・消費者金融(無担保借入)の記録(借入額が申告年収と比べて多い場合、または申込時に書いた借入(申告)額と信用情報機関に登録されている借入額が大きく異なる(虚偽申告の虞)ある場合)。

などがあるとされています。

このような情報は真実であればやむを得ないと言えますが、誤っているのであれば、抹消を請求する必要があります。支払いの遅滞があったことは事実ですからそれが記載されていることは間違いとは言えません。しかし、遅滞の事実はあったが消滅時効期間5年を経過している場合、消滅時効を援用すると債務がないことになるのですから、事故情報の抹消を請求できるか検討が必要になります。

(2)事故情報の抹消の手順

ア 信用情報機関に対する運用の確認

本件では,後述「イ」で述べるように消滅時効の援用によって,支払遅滞状況を解消できる可能性が高いです。このように支払遅滞状況が解消された場合,事故情報が抹消されるかの確認を,まずは信用情報機関に確認しておくべきでしょう。

2012年9月現在,当事務所で確認したところによりますと

JICC:支払遅滞状況が消滅時効援用によって解消された場合,債権者からの事故情報の削除要請があってから一両日中に事故情報が抹消されるという運用

CIC :消滅時効援用により「貸倒」登録されて、そこから5年間その情報が掲載されるという運用が原則であるが,直ちに時効の援用によって事故情報が抹消される場合がある

という異なる扱いがなされていることが確認されております。

当事務所で扱ったケースでは,CICについても直ちに時効の援用によって事故情報が抹消されましたが,このケースは「お支払の状況」に関する項目(項目番号22以下)が空欄でした。CICの説明によれば,このような場合には直ちに時効援用によって事故情報を抹消していることが通常とのことでしたが,どのような場合にこのような事象が生じるのかは明らかでありません。

分割払いの支払いが遅れ、期限の利益を喪失したことが事実であれば、履行遅滞ですから事故として扱われること自体はいたしかたありません。また、消滅時効の援用と言っても、時効の中断がないか本来は検討が必要な事柄ですから直ちに抹消が請求できるかは疑問が残ります。ただし、時効中断の事由がない、すなわち、途中で支払いがあったり、あるいは裁判手続きをしたなどということが記録上明らかではない場合は、消滅時効が完成している可能性が高い訳ですから、金融機関や信用情報機関も事故情報の抹消に応じてくれるものと考えられます。

イ 消滅時効の援用

事故情報を抹消するためには,事故情報の原因となった法律関係をまずは清算する必要があります。

本件では、10年前に借り入れて、2,3回しか返していないということですから10年近く前に期限の利益を喪失したと考えられ既に返済期限から10年近くが経過していることになります。

消費者金融を営む株式会社からの借入について,消滅時効の期間は5年間で、期限の利益を喪失した場合にはその時から期間は進行します(商法第522条,会社法第5条)。但し、消滅時効により債務が消滅するには援用が必要とされています(民法第145条)。そこで、消滅時効を援用する意思表示(民法第145条)を消費者金融会社に配達証明付内容証明郵便によって通知すれば,あなたの消費者金融会社に対する債務は消滅します。なお、債権回収会社から請求を受けている場合,法的には債権回収会社は消費者金融会社から取立の委任を受けているだけですので,手続としては同様です。ただし,債権管理業務は,全て債権回収会社に一任されていることになりますので,配達証明付内容証明郵便は債権回収会社にも送付しておくべきでしょう。

ウ 消費者金融会社(債権回収会社)との交渉

事故情報の抹消手続は,事故情報の登録を行った会社から,該当する信用情報機関に問い合わせて行ってもらうものとされていますので,事故情報の登録を行った会社すなわち消費者金融会社にかかる手続を行ってもらうため交渉をする必要があります。

債権回収会社から請求を受けている場合にも,手続を行うのは事故情報登録をした消費者金融会社になります。そのため,本来は消費者金融会社と交渉をすれば足りそうです。ただし,実務的には,債権管理についてはすべて債権回収会社に一任しているとして,当該消費者金融会社との交渉が進まないことも多いと思われますので,基本的には,債権回収会社と交渉して債権回収会社を通じて当該消費者金融会社と交渉してもらうことになると思われます。

(3) 再度の個人信用情報の本人開示手続

再び開示報告書を取得し,事故情報が記載されていなければ手続は完了です。

3 終わりに

以上,手続の概略を述べてきましたが,このような手続はあなた個人でも可能です。ただし,時効の援用それ自体法律問題であり,予期せぬ事態が生じることもありえます。また、本来は事故に当たらないのに事故情報が記載されている場合もあるので、その点弁護士に確認してもらった方が良い場合もあるでしょう(たとえば、そもそも債務が無いのに支払いがないとされてしまった場合等)。

以上

関連事例集

Yahoo! JAPAN

※参照条文

■ 民法

(時効の援用)

第145条 時効は、当事者が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。

■ 商法

(商事消滅時効)

第522条 商行為によって生じた債権は、この法律に別段の定めがある場合を除き、5年間行使しないときは、時効によって消滅する。ただし、他の法令に5年間より短い時効期間の定めがあるときは、その定めるところによる。

■ 会社法

(商行為)

第5条 会社(外国会社を含む。次条第一項、第八条及び第九条において同じ。)がその事業としてする行為及びその事業のためにする行為は、商行為とする。