新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1467、2013/08/28 15:23 https://www.shinginza.com/qa-hanzai-hosyaku.htm

【刑事、裁判員裁判事件における保釈請求の時期、最高裁平成24年10月26日第三小法廷決定】

質問:
 勤め人の息子が,深夜帰宅途中酩酊して通行人と些細なことから言い合いになり殴った上お詫び名目で現金を取った疑いで逮捕、勾留され,起訴されてしまいました。罪名は強盗致傷罪と聞かされています。現在息子は,拘置所で生活しております。息子は,行った行為についてはほぼ認め十分に反省しておりますので,親としては一刻も早く息子が拘置所から自宅に戻ってくることを望んでおります。どうしたらよいのでしょうか。



回答:
1. 勾留されている被疑者について起訴されると、保釈の請求をしない限り無罪あるいは執行猶予の判決の言い渡しがあるまで勾留が継続します。従って、保釈により身体の拘束を解くことが重要となってきます。保釈の際には,身元引受人や住居制限が不可欠ですが,それ以外にも様々な誓約や書面,保釈保証金の問題もあります。
2.  実際に判決での刑がどの程度になるのかは非常に重要な問題ですが,強盗致傷罪の場合,裁判員裁判となり公判前整理手続が行われることで起訴から判決まで数か月以上かかることが予想されますので,職場の関係もあり早期に保釈を求める必要があります。又、有罪であれば執行猶予の判決を求めるべく最大限の努力が必要です。一見、繁華街等でよく見かける事件の様に思われますが、強盗致傷罪は規定上無期又は6年以上の懲役刑という重罪で執行猶予が原則的に付かない犯罪(規定上3年以上の懲役刑には執行猶予は法律上付けられないので、事案により酌量減軽しても6年の半分で3年となり、執行猶予ぎりぎりの言い渡し刑となってしまいます。)といわれています。
3. おそらく、20日以上の勾留に引き続き起訴されていますので、すでに弁護人がいるとは思いますが、保釈が通らないようであれば、経験のある弁護人との協議も必要です。保釈と執行猶予は無関係ですが、ポイントとなる弁護人が行う被害者との示談方法、内容が、保釈にも、執行猶予にも大きく影響し密接に関係してくる場合があるからです。尚、このような重要事件では、保釈に関し証拠隠滅の危険性を裁判官に主張すると思われる検察官との事前面接、交渉(罪証隠滅の可能性をどう考えているかを具体的に確認)も考えるべきです。さらに、保釈請求却下に関しては検察官の却下意見書を謄写確認する必要があります。勿論、裁判官との面接も不可欠です(罪証隠滅の具体的可能性を確認し直ちに対応策を提案する)。保釈の対応策としては、@できれば家族全員の身元保証書、A謝罪文で犯行の態様、内容を認める。B示談書に罪証隠滅の可能性を払底する弁護人作成の誓約書(高額な違約金、保証人付き)と添付する。C弁護人が証拠隠滅等違法行為をさせないという保証書を作成する。D量刑にあまり影響がないと考えられる被害者と被告人の食い違いがある場合は、被告人の同意を得て是正し書面でなるべく早い段階から裁判所、検察官に提出する。このような事件では殴った回数など必ず食い違いが出てくるものです。E要は、検察官と、裁判官が罪証隠滅等に関し懸念している内容を直接確認して直ちに代替案を書面で提出することです。
4. 裁判員裁判等、関連事例集1430番、1153番、1064番、644番参照。

解説:

第1 保釈について
1 保釈
 逮捕、勾留により身体拘束がされた犯人が起訴された場合,一定額の保釈金を担保とすることで,身体拘束から解放される制度が保釈です(刑事訴訟法(以下「法」といいます。)88条,93条)。
 保釈には,権利保釈(法89条)と裁量保釈(法90条)があります。法89条各号に該当しない場合には,保釈請求をすると保釈が必ず許可されます。これを権利保釈といいます。他方,法89条各号の一つ以上に該当する場合であっても,裁判所が適当と認めるときには,保釈が許可されます。これを裁量保釈といいます。
 強盗致傷罪は、6年以上の懲役が法定刑ですから法89条1号に該当するため権利保釈は認められないことになり、裁量保釈を請求することになります。
2 裁判員裁判における保釈
(1)裁判員裁判の事案における保釈の重要性
 裁判員裁判となる事件は,基本的には,重大な事件に限られます(裁判員の参加する刑事裁判に関する法律第2条1項各号)。ご相談にある強盗致傷罪も同罪の法定刑が無期又は6年以上の懲役です(刑法240条前段)ので裁判員裁判の対象事件となります。
 裁判員裁判の対象事件の場合,必ず公判前整理手続が行われ検察官と弁護人双方の主張立証が整理されます。この手続は,簡単な事件であっても3〜4か月程度かかり,複雑な事件の場合1年以上かかることもあります。起訴時に被告人の身体が拘束されている場合,何もしなければ,公判までの長期間そのまま身体が拘束された状態が続きます。したがって,裁判員裁判の事案においては早急に保釈を許可してもらい,身体拘束を解いてもらう必要性が高いといえます。
(2)裁判員裁判における保釈の判断枠組み
裁判員裁判の対象となる事件は,通常法89条1号の要件に該当するので,権利保釈は認められません。したがって,ご相談の事案においては,裁量保釈が認められるかの判断がされます。
 そして,裁判員裁判となる事件は重大事件であるが故に,一般論として裁量保釈も認められにくい傾向にあります。
 しかし、公判前整理手続きにおいては、被告人と弁護人との十分な打ち合わせが必要になり、刑事訴訟における当事者主義という基本原則を考慮すれば、被告人が保釈され検察官と対等な立場で公判前整理手続きに参加する必要があります。裁判員裁判こそ被告人が保釈されている必要があるといえます。

第2 保釈が認められやすくなるポイント
1 保釈が認められない主な原因
 裁判員裁判においては,重大事件であるがゆえに裁判所や検察官は証拠隠滅のおそれ(特に被害者や目撃者への接触)を重視します。したがって,被告人及び弁護人としては,この点に対して十分な対策を講じる必要があります。
2 原因に対する対応策
(1) 誓約書等の提出
ア 内容及び効果
 証拠隠滅のおそれに対する対応として,まず,被告人に,被害者(及び目撃者)に接触しない旨の誓約書の作成及び提出が挙げられます。これには,単純に被害者等に接触しないという誓約のみにとどまらず,万が一違反して接触した場合における制裁を大きくすることにより,誓約の実効性が確保され,誓約を遵守する現実性が高まるといえるでしょう。
 誓約書での誓約は,示談のための弁護人を介しての接触は除かれるべきですが,弁護人から被告人へ被害者の情報を開示しない旨の別個の誓約書を提出することで,被告人が直接被害者に対して連絡することを防ぐこととなるでしょう。勿論高額な違約金、複数の保証人も付ける必要があります。
イ 誓約書等提出による保釈請求の時期
 これらの誓約書は,弁護士に依頼すればすぐにでも用意できるものです。そこで誓約書等の提出による保釈請求の時期としては,起訴された直後に,これらの誓約書を提出することで保釈請求をすることが考えられます。
(2) 示談(弁護人として必要不可欠です。)
ア 内容及び効果
 被告人が罪を認める場合には,示談を行う必要がありますが,示談が成立したことも被害者に接触し働きかけを行わない要素として評価されています。強盗致傷に限らず、個人法益を侵害する犯罪では、示談に始まり示談に終わるといっても過言ではありません。刑事弁護人として必要不可欠な活動です。内容、方法、手続き、代替案等弁護人の経験と洞察が事件の方向性を決めると思われます。
 また,示談は刑を軽くすることを目的とし,それに必要な書面を作成することが通常ですが,重大事件の場合には,被告人が保釈されることに同意する書面を作成することも一つの有効な手段でしょう。
イ 示談書等提出による保釈請求の時期
 以上から示談の成立が期待できる場合は、示談の成立を待って保釈請求をする方が良いでしょう。なお,刑事訴訟法に手続規定がありませんので起訴前には保釈請求をすることはできませんが,起訴前に既に示談が成立した場合には,その時点で勾留取消請求の手続をとることが考えられます。これについては,事例集1430等が参考となります。
(3) 訴訟の進行
ア 内容及び効果
起訴事実に争いが無い場合は,裁判をする裁判官に対して罪を認めていく必要があります。これは,一般の事件では,初回の公判期日における罪状認否での罪状を認めることに該当しますが,裁判員裁判においては,公判期日の前に公判前整理手続が必ず行われ(裁判員の参加する刑事裁判に関する法律49条),同手続期日における認否にあたります。
 公判前整理手続においては,検察官が主張立証計画を裁判所や弁護人に提示した上で,それを受けて弁護人は主張立証計画を提示します。公判前整理手続後において,新たな主張をすることは法律上制限されませんが,新たな証拠請求をすることが制限される(法316条の32)ことにより事実上新たな主張が制限されますから,基本的には,公判前整理手続における主張が公判期日での主張にあたるといえます。したがって,公判前整理手続で罪を認めるということは事実上公判でも罪を認めることになります。
 少し特殊な事案ですが,最高裁平成24年10月26日第三小法廷決定が参考になります。同決定における事案は,強制わいせつでの起訴(本件)ですが,同事件の起訴に先立ち,同種の5件の強制わいせつ事件でも起訴(前件)されており,本件は,前件の犯行期間中に行われたこと,前件の公判において,犯行をすべて認め,検察官の請求証拠も全て同意,取調べが終了していることを参考として,本件について,公訴事実を争わない主張の予定であること等をもって,保釈を認めています。前件といえども,本件が前件の一環としてなされたというような場合には,前件の訴訟の進行を本件においても考慮してよいという点において,妥当な決定といえるでしょう。
イ 訴訟の進行による保釈請求の時期
 保釈が認められるために公判前整理手続きにおいて起訴事実を認めるとすると,保釈請求は公判前整理手続期日の終了直後と考えられますが,以下に述べるとおり,同期日前に保釈請求することは何ら差し支えありません。
 通常,期日の数日前までには,期日で陳述する主張書面を提出します(法316条の17)。厳密に考えると,自白の主張書面を提出したといっても期日での供述に拘束があるため,期日が終わるまでは,自白の効力は小さいとも考えられます。もっとも,期日の数日前の書面を出した段階においても,裁判所は弁護人等を信頼し,自白の主張を維持するものと考えてくれる場合があります。なお,前述の最高裁平成24年10月26日決定では,「本件公訴事実を争わない予定」であっても,前件の審理等を考慮して保釈を認めています。
 したがって,保釈請求をする時点としては,公判前期日終了後よりも,期日数日前の主張書面を提出した直後に請求することも視野に入れるべきでしょう。
 なお、起訴事実を争う場合は、ほとんどの場合、保釈請求が認められないのが現状の刑事実務の実態です。裁判が確定するまで無罪推定を受けると言う大原則に反して事実上裁判が終わるまで勾留され身柄を拘束されているのが現実です。このような実態は人質司法として非難されており、日本の刑事司法が文明国家のそれではないと言われても仕方ないでしょう。刑事弁護人としての立場からは、この様な現状については保釈請求書や準抗告申立書などの各書面において強く抗議し、少しずつでも改めていくよう努力を続けるべきと考えていますが、現状の実務の対応としては、上記のような対応により早期の保釈を実現することが適正な弁護活動と考えています。
3 その他
 保釈が認められる前提として,身元引受人の存在と公判までの住居場所が必要不可欠となりますので,保釈請求までには,これらについては必ず準備する必要があります。
 その他保釈の要素としては,様々な事情が挙げられます。どの要素を強調していくかは,事案によりますが,なるべく多くの事情を記載していく必要があるでしょう。

第3 保釈請求か準抗告か
1 再保釈請求と準抗告の違い
 以上のとおり,保釈請求をすべき時期は複数の時点があります。そして,保釈請求は,一度却下されたとしても何度でも請求できますので,何度も保釈を求めていく場合があります。
 ここで,保釈請求が一度却下された場合に,再び保釈を求める場合に,再度の保釈請求をすべきか,保釈却下決定に対する不服申立(準抗告)をすべきかの検討が必要になります。
(1)再度の保釈請求
 再保釈請求の場合は,保釈請求と同じ手続が行われます。具体的には,次のとおりの手続となります。保釈請求に対する決定は,第1回公判前においては,通常,判決を下す裁判官以外の裁判官が行います(法280条)。保釈請求を行った後,裁判官は,検察官に意見を聴いた上で(法92条),保釈を許可するか否かを判断することになります。この過程で弁護人は裁判官に直接面談を求め保釈を許可するよう説得する機会があります(一部の裁判所では,裁判官面談が行われていないようです。)。検察官の意見がでるには,一日以上かかることが多いですので,許可または却下の決定は,保釈請求の翌日以降となる可能性が高いです。
(2)準抗告
準抗告は,保釈請求却下に対する不服申立手続です。不服申立手続である準抗告の判断は,複数の裁判官が合議することで行い(法429条1項2号),準抗告が棄却される場合でも保釈請求却下に比べ裁判所が重視する理由が書かれることになります。準抗告を申し立てた場合,弁護人の裁判官面談はありますが(認めない裁判所もあります。),裁判所としては,必ずしも検察官の意見を聞く必要がありません。これにより,準抗告の判断は,申立の当日になされる可能性も十分にあります。

2 再保釈請求か準抗告か
理論的には,準抗告は,保釈請求に対する却下決定に対する不服申立ですので,却下決定時点における事情を考慮して判断し,その後の事情は考慮すべきでないとも考えられます。もっとも,実務的には,その後の事情も考慮した上で判断がされる場合もあります。特に,保釈請求却下後に公判前整理期日が行われ,同期日において被告人が事実を認めることを表明したことをもって準抗告の判断要素になることは十分にあります。
そして,準抗告を取る場合,再保釈請求に比べ,検察官の意見を省略する分,早急に判断がされることが想定されます。このことから一刻も早い身体拘束からの解放のためには,準抗告の手続を取ることが妥当でしょう。もっとも,保釈請求却下から長時間経過したような場合には,再度の保釈請求も検討すべきでしょう。
なお,どちらの手続を取るにせよ,元の(却下された)保釈請求の際に出された検察官の意見書は,事件記録として保管されますので,検察官の意見書を閲覧謄写した上で,再保釈請求又は準抗告の際の主張の参考とすべきでしょう。
準抗告棄却に対しては,特別抗告が申し立てられ,最高裁判所の裁判官に判断を受けることができます。もっとも,特別抗告で判断が覆る可能性は非常に低く,準抗告審での判断を尊重するとの見解もあるため,特別抗告を行うか否かは慎重に検討すべきです。

第4 保釈が認められた場合の処理(保証金の納付と身柄の解放)
 裁判員裁判においては,保釈が認められた場合の保釈保証金は多額になる傾向にあります。保釈保証金については,親族等が用意するほか,日本保釈支援協会という組織からの貸し出しも考えられます。もっとも,同協会からの貸し出しの場合,保釈決定が午後に出ると,翌日の午前入金となり,その分,被告人の身体の開放が遅れてしまいます。
 保釈決定がなされた当日中に裁判所に保釈保証金を納めれば,当日中には,解放される可能性が非常に高いですので,一刻も早い身体拘束からの解放を希望する場合,親族間等で準備する必要があるでしょう。
 保釈が認められた場合,裁判所に保釈金を納め,その証明書(保管金受領書)を保釈を認めた部又は係属部へ持っていくことで,裁判所から検察庁へ保釈の指示の連絡がされ,その数時間後には,被告人が拘置所から解放されるという流れとなります。具体的な解放の時間については,直接拘置所に問い合わせれば答えていただけます。
 なお,被告人は拘置所で解放されますので,ご親族の方等が迎えに行き,その際,自宅への電車賃を用意したり,拘置所内で購入したものを入れるバッグ等を用意していくとよいでしょう。

第5 最後に
 以上から,保釈については,どのような証類を作成し,いつ保釈請求をした上で,一度保釈請求が認められなかったとしても,再度の保釈請求の方法,時期等について,非常に難しい問題があります。
 刑事であれば,通常弁護士がついているはずですが,これらの点について,積極的に質問をしていくべきでしょう。

≪参考条文≫
刑法第236条(強盗)
1 暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、強盗の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
刑法第240条(強盗致傷)
 強盗が、人を負傷させたときは無期又は六年以上の懲役に処し、死亡させたときは死刑又は無期懲役に処する。

刑事訴訟法第88条
1 勾留されている被告人又はその弁護人、法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族若しくは兄弟姉妹は、保釈の請求をすることができる。
2 第八十二条第三項の規定は、前項の請求についてこれを準用する。
刑事訴訟法第89条
保釈の請求があつたときは、次の場合を除いては、これを許さなければならない。
一 被告人が死刑又は無期若しくは短期一年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。
二 被告人が前に死刑又は無期若しくは長期十年を超える懲役若しくは禁錮に当たる罪につき有罪の宣告を受けたことがあるとき。
三 被告人が常習として長期三年以上の懲役又は禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。
四 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
五 被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由があるとき。
六 被告人の氏名又は住居が分からないとき。
刑事訴訟法第90条  
裁判所は、適当と認めるときは、職権で保釈を許すことができる。
刑事訴訟法第92条
1 裁判所は、保釈を許す決定又は保釈の請求を却下する決定をするには、検察官の意見を聴かなければならない。
2 検察官の請求による場合を除いて、勾留を取り消す決定をするときも、前項と同様である。但し、急速を要する場合は、この限りでない。
刑事訴訟法第93条
1 保釈を許す場合には、保証金額を定めなければならない。
2 保証金額は、犯罪の性質及び情状、証拠の証明力並びに被告人の性格及び資産を考慮して、被告人の出頭を保証するに足りる相当な金額でなければならない。
3 保釈を許す場合には、被告人の住居を制限しその他適当と認める条件を附することができる。
刑事訴訟法第280条
1 公訴の提起があつた後第一回の公判期日までは、勾留に関する処分は、裁判官がこれを行う。
2 第百九十九条若しくは第二百十条の規定により逮捕され、又は現行犯人として逮捕された被疑者でまだ勾留されていないものについて第二百四条又は第二百五条の時間の制限内に公訴の提起があつた場合には、裁判官は、速やかに、被告事件を告げ、これに関する陳述を聴き、勾留状を発しないときは、直ちにその釈放を命じなければならない。
3 前二項の裁判官は、その処分に関し、裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。
刑事訴訟法第316条の17
1 被告人又は弁護人は、第三百十六条の十三第一項の書面の送付を受け、かつ、第三百十六条の十四及び第三百十六条の十五第一項の規定による開示をすべき証拠の開示を受けた場合において、その証明予定事実その他の公判期日においてすることを予定している事実上及び法律上の主張があるときは、裁判所及び検察官に対し、これを明らかにしなければならない。この場合においては、第三百十六条の十三第一項後段の規定を準用する。
2 被告人又は弁護人は、前項の証明予定事実があるときは、これを証明するために用いる証拠の取調べを請求しなければならない。この場合においては、第三百十六条の十三第三項の規定を準用する。
3 裁判所は、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴いた上で、第一項の主張を明らかにすべき期限及び前項の請求の期限を定めることができる。
刑事訴訟法第316条の32
1 公判前整理手続又は期日間整理手続に付された事件については、検察官及び被告人又は弁護人は、第二百九十八条第一項の規定にかかわらず、やむを得ない事由によつて公判前整理手続又は期日間整理手続において請求することができなかつたものを除き、当該公判前整理手続又は期日間整理手続が終わつた後には、証拠調べを請求することができない。
2 前項の規定は、裁判所が、必要と認めるときに、職権で証拠調べをすることを妨げるものではない。
刑事訴訟法第429条
1 裁判官が左の裁判をした場合において、不服がある者は、簡易裁判所の裁判官がした裁判に対しては管轄地方裁判所に、その他の裁判官がした裁判に対してはその裁判官所属の裁判所にその裁判の取消又は変更を請求することができる。
一 忌避の申立を却下する裁判
二 勾留、保釈、押収又は押収物の還付に関する裁判
三 鑑定のため留置を命ずる裁判
四 証人、鑑定人、通訳人又は翻訳人に対して過料又は費用の賠償を命ずる裁判
五 身体の検査を受ける者に対して過料又は費用の賠償を命ずる裁判
2 第四百二十条第三項の規定は、前項の請求についてこれを準用する。
3 第一項の請求を受けた地方裁判所又は家庭裁判所は、合議体で決定をしなければならない。
4 第一項第四号又は第五号の裁判の取消又は変更の請求は、その裁判のあつた日から三日以内にこれをしなければならない。
5 前項の請求期間内及びその請求があつたときは、裁判の執行は、停止される。

裁判員の参加する刑事裁判に関する法律第2条
(対象事件及び合議体の構成)
1 地方裁判所は、次に掲げる事件については、次条の決定があった場合を除き、この法律の定めるところにより裁判員の参加する合議体が構成された後は、裁判所法第二十六条の規定にかかわらず、裁判員の参加する合議体でこれを取り扱う。
一  死刑又は無期の懲役若しくは禁錮に当たる罪に係る事件
二  裁判所法第二十六条第二項第二号に掲げる事件であって、故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪に係るもの(前号に該当するものを除く。)
2  前項の合議体の裁判官の員数は三人、裁判員の員数は六人とし、裁判官のうち一人を裁判長とする。ただし、次項の決定があったときは、裁判官の員数は一人、裁判員の員数は四人とし、裁判官を裁判長とする。
3  第一項の規定により同項の合議体で取り扱うべき事件(以下「対象事件」という。)のうち、公判前整理手続による争点及び証拠の整理において公訴事実について争いがないと認められ、事件の内容その他の事情を考慮して適当と認められるものについては、裁判所は、裁判官一人及び裁判員四人から成る合議体を構成して審理及び裁判をする旨の決定をすることができる。
4  裁判所は、前項の決定をするには、公判前整理手続において、検察官、被告人及び弁護人に異議のないことを確認しなければならない。
5  第三項の決定は、第二十七条第一項に規定する裁判員等選任手続の期日までにしなければならない。
6  地方裁判所は、第三項の決定があったときは、裁判所法第二十六条第二項の規定にかかわらず、当該決定の時から第三項に規定する合議体が構成されるまでの間、一人の裁判官で事件を取り扱う。
7  裁判所は、被告人の主張、審理の状況その他の事情を考慮して、事件を第三項に規定する合議体で取り扱うことが適当でないと認めたときは、決定で、同項の決定を取り消すことができる。
裁判員の参加する刑事裁判に関する法律第49条
(公判前整理手続) 
裁判所は、対象事件については、第一回の公判期日前に、これを公判前整理手続に付さなければならない。

≪参考判例≫
保釈許可の裁判に対する準抗告の決定に対する特別抗告事件
最高裁判所第三小法廷平成24年(し)第534号
平成24年10月26日決定
主   文
原決定を取り消す。
本件準抗告を棄却する。
理   由
 本件抗告の趣意は,憲法違反をいう点を含め,実質は単なる法令違反の主張であって,刑訴法433条の抗告理由に当たらない。
 しかし,所論に鑑み,職権により調査する。
 本件公訴事実の要旨は,「被告人が,平成22年10月,路上で,当時12歳の女児に対し,いきなりその背後から抱きつき,着衣の上から左乳房を右手で触って押さえつけるなどのわいせつな行為をした」というものである。一件記録によれば,被告人には刑訴法89条3号及び4号に該当する事由があると認められ,常習性も強い事案であると考えられるが,被告人は,本件公訴事実について捜査段階から認める供述をしており,弁護人も本件公訴事実を争わない予定であるとしていること,被告人は,本件の起訴に先立ち,平成22年7月から平成24年5月までの本件と同種の5件の強制わいせつ事件(以下「先行事件」という。)でも起訴されているところ,本件は,それらの事件の間に行われた事案であること,被告人は,先行事件の公判で,先行事件全てにつき公訴事実を認めており,検察官請求証拠についても全て同意をして,その取調べが終了していること,本件の原々審が被告人の保釈を許可したのと同日付けで,先行事件の公判裁判所も先行事件につき保証金額を各75万円(合計375万円)と定めて被告人の保釈を許可する決定をしていること(なお,各保釈許可決定に対する検察官の抗告はいずれも棄却され,確定している。),被告人に対する追起訴は今後予定されていないこと,被告人の両親らが被告人の身柄を引き受け,公判期日への出頭確保及び日常生活の監督を誓約していること,被告人は,釈放後は本件犯行場所からは離れた父親の単身赴任先に母親と共に転居し,両親と同居して生活する予定であること,被告人は,現在勾留先で受けている臨床心理士のカウンセリングを釈放後も受け続ける意向を示していること,これまでに前科前歴がないこと等の事情がある。
 以上のような本件事案の性質や証拠関係、先行事件の審理経過,被告人の身上等に照らすと,保証金額を75万円とし,本件の被害者及びその関係者との接触禁止などの条件を付した上で被告人の保釈を許可した原々審の裁判は,その裁量の範囲を逸脱したものとはいえず,不当ともいえないから,これを取消して保釈請求を却下した原決定には,刑訴法90条の解釈適用を誤った違法があり,これが決定に影響を及ぼし,原決定を取り消さなければ著しく正義に反するものと認められる。 
 よって,刑訴法411条1号を準用して原決定を取り消し,同法434条,426条2項により更に裁判すると,上記のとおり本件については保釈を許可した原々審の裁判に誤りはないから,本件準抗告は,同法432条,426条1項により棄却を免れず,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 田原睦夫 裁判官 岡部喜代子 裁判官 大谷剛彦 裁判官 寺田逸郎 裁判官 大橋正春)


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