児童買春18歳未満の年齢の錯誤と無実の主張

刑事|児童買春禁止法|医師の行政処分

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参考条文

質問:

17歳の女性と援助交際(買春)をしたということで、警察で任意で取り調べをされています。その女性は20歳と言って、また外見も20歳以上と思っていました。しかし取り調べでは、刑事から罪を認めるようしつこく求められ、18歳未満と知りながら関係を持ったという内容の供述調書に署名・押印してしまいました。これから私はどうなってしまうのでしょうか。また私は、歯科医師ですので、歯科医師免許の取消処分とかも心配です。

回答:

1. あなたは性行為時に女性が18歳未満であることを認識していなかったということですので、児童買春の故意を欠き、児童買春は成立しません。

2. しかし、相手の女児は、警察に対しあなたに実際の年齢を打ち明けた旨の供述をしていると考えられますし女児の年齢を認識していた旨のあなたの自白調書が存在すること等に照らせば、このままでは最終的に罰金等の刑事処罰が下されてしまう可能性が高い状況にあるといえます。あなたは歯科医師ですので、有罪が確定してしまうと歯科医業停止等の行政処分の対象となり、今後の社会生活上重大な影響が及ぶことになるため、早急に弁護人を選任の上、無実主張の活動を開始すべきです。

3. 具体的には、弁護人にあなたの主張をまとめた詳細な供述調書を作成してもらい、弁護人の詳細な意見書や関連する証拠等と併せて捜査機関に提出し、また、捜査機関と密に協議することで、終局処分を決定する検察官に対して刑事裁判になっても無罪になる可能性があると判断させ、起訴を思い止まらせる必要があります。本件ではあなたに不利な内容の自白調書が作成されていますので、弁護人作成の供述調書や意見書では自白が内容虚偽のものであり、任意性(刑事訴訟法319条1項)も信用性も存在しないことを強力に主張する必要があります。

4. 直ちに刑事弁護、特に無実主張の経験のある弁護士に弁護人になってもらい、早急に対応されることをお勧めします。

5. 児童買春年齢認識に関する関連事例集参照。

解説:

1.(犯罪構成要件該当性)

あなたは児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反の嫌疑がかけられているようですが、以下に示すとおり、同法は18歳未満の者に対し、金銭等の対償を供与して性交等をすることを罰則をもって規制しており、法定刑は5年以下の懲役又は300万円以下の罰金とされています。

児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律

(定義)

第二条 この法律において「児童」とは、十八歳に満たない者をいう。

2 この法律において「児童買春」とは、次の各号に掲げる者に対し、対償を供与し、又はその供与の約束をして、当該児童に対し、性交等(性交若しくは性交類似行為をし、又は自己の性的好奇心を満たす目的で、児童の性器等(性器、肛門又は乳首をいう。以下同じ。)を触り、若しくは児童に自己の性器等を触らせることをいう。以下同じ。)をすることをいう。

一 児童

(児童買春)

第四条 児童買春をした者は、五年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。

本罪は、条文だけ読むと客観的に18歳未満の者と対償を供与して性交を行えば犯罪が成立するようにも見えます。しかし、本罪は故意犯といって、犯罪が成立するためには客観的構成要件に該当する事実(本件では、18歳未満の者に対償を供与して性交等を行うこと)の認識・認容(未必の故意、18歳未満であるかもしれないがそれでも行為するという心理状態)が必要な犯罪です(刑法38条)。あなたの場合、客観的に18歳未満の者に対償を供与して性交等を行ったことは間違いないようですが、主観的には18歳以上の女性と性交等をしていると思っていたわけですから、18歳未満の児童と性交等をしていることについて認識・認容していたとはいえません。したがって、あなたは児童買春の故意がなく、実際には犯罪が成立していないことになります。警察官からは、児童の年齢についての認識の有無に関係なく児童買春が成立するとの説明を受けているようですが、この説明は明らかに誤りといわざるを得ません。

しかし、ここで注意しなければならないことは、刑事裁判においては、確定的故意の他に、未必の故意というものも、故意の一種として認定されて、刑事裁判で有罪となる根拠になり得ることになりますので、故意の認定について、確認が必要です。確定的故意というのは、刑罰法規の構成要件に該当する行為について、確信的に認識していることを意味します。例えば、殺人罪であれば、ピストルで心臓を打ち抜けば確実に相手が死亡するがあえてそのような行為を行う、という認識が殺人罪の確定的故意となります。これに対して、未必の故意というのは、刑罰法規の構成要件に該当する行為について、確定的に認識しているわけではないが、行為の結果発生について予見認識がありながら、あえて行為に及ぶ決意でも足りると解釈されています(大審院大正11年5月6日判決、最高裁昭和23年3月16日判決など)。犯罪事実の予見認識がある以上、刑罰法規という法規範に直面していることになり、刑法38条で故意を要求している趣旨に反しないからです。例えば、殺人罪であれば、毒薬を相手に飲ませる場合に、致死量かどうかを正確に計っていない場合でも、致死量に近い量の毒薬を相手に飲ませれば相手が死亡するかもしれないがそれでも構わないと思って行為すれば、殺人罪の未必の故意が成立するわけです。本件の場合では、18歳未満の保護すべき児童に対して、対価を与えて買春行為をするということが構成要件該当事実になりますので、18歳未満であるということを確定的に認識していなくても、「18歳未満かもしれない相手に対価を与えて買春行為をする」という認識があれば足りることになってしまうわけです。

2.(刑事手続等の見通し)

警察での取調べ、捜査が終了すると、事件は検察庁に送られた上(刑事訴訟法246条本文)、検察官において必要に応じて関係者の取調べ等を行い、証拠関係を検討して起訴するか否かの決定をすることになります(刑事訴訟法247条、248条)。あなたは警察で18歳未満の児童と知りながら性行等を行った旨の供述調書(いわゆる自白調書)を作成されたとのことですが、この供述調書はあなたが行為時に女性が18歳未満であると認識していたことを示す不利益な証拠となります。仮にその自白調書があなたに不利益な唯一の証拠であれば、刑事訴訟法上あなたを有罪とするには不十分ですので(刑事訴訟法319条2項)、検察官があなたを起訴することはないでしょう。しかし、実際にはその女児の容姿や供述(たとえば、関係を持った他の男性に対して発言した記憶と混同して「性交前に実は17歳であることを打ち明けた」といった内容の供述をしていることなどが考えられます。)等の他の証拠(補強証拠)と合わせて、刑事裁判であなたの有罪が認定され得る状況になってしまっている可能性が高いものと思われます。児童買春は、たとえ初犯であっても50万円程度の罰金刑が予想される犯罪ですので、あなたは何ら必要な活動をせずにいた場合、最終的に、具体的な事情に応じて略式起訴(刑事訴訟法461条以下)または公判請求(刑事訴訟法247条)され、前科が付く可能性が高いと思われます。

あなたは歯科医師ですので、罰金刑に処された場合、厚生労働大臣による歯科医業の停止等の行政処分が科されることとなります(歯科医師法7条2項各号、4条3号)。児童買春の場合、過去の行政処分例に照らすと、3月以上の歯科医業停止の処分を覚悟しなければならないのが通常です。さらに、行政処分が科されてしまうと処分内容が実名報道されるため、インターネット上のニュースサイトや電子掲示板等に不名誉な実名報道記事が公表、拡散され、あなたの今後の社会生活に重大な影響が及ぶ危険性が極めて高いのです。

内容虚偽の自白によってこのような取り返しのつかない事態に陥ることは絶対に避けなければなりません。そのためには検察官に本件を起訴させないことです。検察官は証拠上裁判で確実に有罪に出来ると判断した場合でなければ起訴しませんので、あなたの側でもあなたに有利な証拠を収集、作成するなどして捜査機関に提出し、検察官に本件を起訴したとしても証拠不十分で無罪になるかもしれないと思わせる必要があります。そのためには以下で述べるような活動が必須となります。いずれも速やかに弁護人を付けた上、その協力を得ることが不可欠でしょう。

3.(本件における対応)

事情の詳細をお聞きしていないので具体的な事情にもよってきますが、本件ではあなたが性交時に相手の女性が18歳未満であると認識していたことの証拠(あなたに不利な証拠)として、少なくとも、実際には17歳である女児の容姿を明らかにした捜査機関作成の写真や、女児の供述調書、そしてあなたの自白調書があると思われます。このうち、自白調書については「任意にされたものでない疑がある自白」は公判請求されても裁判では証拠とすることができないため(刑事訴訟法319条1項)、自白の任意性がないことを主張し、検察官を納得させることができれば、証拠としての価値はなくなることになります。仮に証拠能力が欠けるだけの事情がなくても、自白調書や女児の供述調書の信用性を(裁判になった場合にあなたが性交時に女性が18歳未満であることを知っていたということについて裁判官が合理的な疑いを差し挟む程度に)減殺するだけのあなたに有利な証拠を捜査機関に提出し、検察官を納得させることができれば、証拠不十分であなたは起訴されないことになります。以下、詳述します。

(1)自白の任意性

任意性に疑いのある自白は虚偽であることが多く、また、これを証拠とすることを認めると黙秘権を始めとする被疑者の権利が骨抜きになることから、かかる自白は証拠とすることができないとされています(刑事訴訟法319条1項)。典型的には利益誘導や偽計によって自白に至ったような場合や暴行脅迫その他の強制による自白のような場合です。本件では取調担当警察官から、児童の年齢を知っていたかどうかに拘わらず児童買春が成立するといった虚偽の説明や、罪を認めなければすぐにでも逮捕するといった脅迫ともとれる利益誘導を受けて、誘導されるがままに供述調書を作成させられたとのことですが、詳しい事情如何によっては自白調書が任意性を欠いている可能性があると思われます。仮に自白の任意性が欠けているとまではいえなくても、自白調書の信用性を減殺させる事情であることは間違いありません。

このことを検察官に主張する方法ですが、端的に言えば、あなたの方でも捜査機関と同じことをすればよいのです。すなわち、弁護人に虚偽の自白をするに至った経緯や取調担当警察官らとの会話の内容や取調べの様子等について事情を説明し、詳細な供述調書(いわゆる弁面調書)を作成してもらい、捜査機関に提出するのです。この弁面調書はあなたの自白調書が任意性を欠いていることを示す重要な証拠となります。弁面調書の信用性に影響するため、具体的かつ詳細な記載が求められます。また、供述の時期が早期であればあるほど記憶に誤り等が介在する可能性が低く、供述内容の信用性が高まるため、弁面調書を作成したら公証役場で確定日付を取得しておく必要があります。弁面調書の内容を裏付けたり記載内容の信用性を高めるような証拠等があれば、併せて捜査機関に提出すべきでしょう。

(2)自白の信用性

自白に信用性がないことを主張する方法についても、基本的には上記(1)で述べたことと同じです。実際には性交時に女性が18歳未満であることを認識していなかったわけですから、その女児と知り合った経緯や交際の態様、女児との具体的な会話の内容、あなたの内心、その他女児の年齢についての認識の有無と関連しそうな一切の事情を弁面調書に詳細かつ具体的に記載してもらう必要があります。

なお、児童買春の故意における18歳未満であることの認識は未必的な認識、すなわち「女性が18歳未満かもしれないがそれでもよい」という内心の状態があれば足りるので、女性が18歳未満であることの確定的な認識がなくても、18歳未満であるかもしれないことの認識の存在が認定されれば、児童買春の故意があるものとして有罪とすることが可能となります。したがって、弁面調書では女児が18歳以上であると思っていたというだけでは足りず、18歳以上であるという確定的な認識を有していたことを基礎づける具体的な事実の記載が必要となります。

また、弁面調書の記載内容となっている具体的な事実を基礎づけるあなたに有利な証拠があれば積極的に捜査機関に提出する必要があります。たとえば、女性と知り合った経緯や会話の内容を具体的に説明して18歳以上と思っていたことを説明する必要があります。女性が普通乗用自動車を運転する話をしていたり、18歳未満では出入りができない場所で知り合ったこと(知り合った出会い系サイトで登録の際免許証等による18歳以上であることの認証手続が必要となっている、というようなことでもあなたが女性が18歳以上であるという確定的な認識を有していたことを示す重要な事情です)、など証拠となる資料と一緒に弁面調書と併せて捜査機関に提出すべきでしょう。

(3)女児の供述の信用性

本件では、女児があなたに実際の年齢を打ち明けた旨の供述をしていることが推測されます。まずはその供述の詳細を可能な限り把握する必要があります。捜査機関の事件記録は起訴前の閲覧が認められておらず、捜査機関も捜査上の秘密等を理由に詳細についてまでは教えてくれないことが多いので、弁護人に捜査機関に対して密に連絡を取ってもらったり女児の供述内容を明らかにするよう求める意見書を提出してもらう等して対応する必要があります。捜査機関から聴き取ることができた女児の供述内容に女児の供述の信用性を低下させるような事情が含まれていた場合(たとえば、供述内容そのものが曖昧であったり、不合理であったり、記憶違いの可能性を伺わせるような事情が含まれていた場合、具体的には、女児が複数の男性と関係があるようであれば記憶も混乱しあいまいであるという推定が働くでしょう。)、後から女児の供述を変更される(捜査機関によって女児の供述調書を作り直される)ことのないよう、弁護人作成の意見書等に聴き取った内容をそのまま記載した上、それに対するあなたの主張を詳細に記載して反論する必要があります。女性の供述内容の合理性やその一貫性、供述に至る経緯、動かし難い事実との整合性、記憶違いの可能性を示す事実の有無、虚偽の供述をする動機の有無等あらゆる角度から女児の供述の信用性を慎重に吟味する必要があります。上記の作業を繰り返すことによって自ずと真実が見えてくるはずです。

4.(最後に)

以上の対応はあくまで一般論であり、具体的にいかなる主張をどのようにすべきか(あるいはすべきでないのか)については、個別の事情によるとしか言いようがありません。捜査機関が有している証拠の把握、証拠関係を踏まえた刑事手続及び処分の見通し、具体的事情の下で行うべき主張の取捨選択、主張の方法・時期の選択等、いずれも法的見地からの検討・分析が不可欠ですし、捜査機関から情報を引き出すためには交渉力と経験が必要でしょう。刑事弁護、特に無実主張の経験のある弁護士に相談し、早急に対応されることをお勧めします。

以上

関連事例集

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※参照条文

児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律

(定義)

第二条 この法律において「児童」とは、十八歳に満たない者をいう。

2 この法律において「児童買春」とは、次の各号に掲げる者に対し、対償を供与し、又はその供与の約束をして、当該児童に対し、性交等(性交若しくは性交類似行為をし、又は自己の性的好奇心を満たす目的で、児童の性器等(性器、肛門又は乳首をいう。以下同じ。)を触り、若しくは児童に自己の性器等を触らせることをいう。以下同じ。)をすることをいう。

一 児童

(児童買春)

第四条 児童買春をした者は、五年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。

刑事訴訟法

第二百四十六条 司法警察員は、犯罪の捜査をしたときは、この法律に特別の定のある場合を除いては、速やかに書類及び証拠物とともに事件を検察官に送致しなければならない。但し、検察官が指定した事件については、この限りでない。

第二百四十七条 公訴は、検察官がこれを行う。

第二百四十八条 犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。

第三百十九条 強制、拷問又は脅迫による自白、不当に長く抑留又は拘禁された後の自白その他任意にされたものでない疑のある自白は、これを証拠とすることができない。

○2 被告人は、公判廷における自白であると否とを問わず、その自白が自己に不利益な唯一の証拠である場合には、有罪とされない。

○3 前二項の自白には、起訴された犯罪について有罪であることを自認する場合を含む。

第四百六十一条 簡易裁判所は、検察官の請求により、その管轄に属する事件について、公判前、略式命令で、百万円以下の罰金又は科料を科することができる。この場合には、刑の執行猶予をし、没収を科し、その他付随の処分をすることができる。

歯科医師法

第四条 次の各号のいずれかに該当する者には、免許を与えないことがある。

三 罰金以上の刑に処せられた者

第七条

2 歯科医師が第四条各号のいずれかに該当し、又は歯科医師としての品位を損するような行為のあつたときは、厚生労働大臣は、次に掲げる処分をすることができる。

一 戒告

二 三年以内の歯科医業の停止

三 免許の取消し

4 厚生労働大臣は、前三項に規定する処分をなすに当つては、あらかじめ医道審議会の意見を聴かなければならない。