新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1379、2012/11/27 10:33 https://www.shinginza.com/qa-sarakin.htm

【債務整理・不動産,住宅ローンがある場合の対策・担保不動産収益執行の制度・最高裁平成21年7月3日判決】

質問:最近,転職したことにより収入が減り,今組んでいる住宅ローンが支払えなくなってしまいました。今後,債権者からどのような法的手段がなされることとなりますか。また,自分で住宅を失わないようにする方法はありますか。

回答:
1.不動産を有する債務者の債務整理方法,対策としては,@競売申立(民事執行法180条1号,188条),A担保不動産収益執行(民法371条,民事執行法180条2号,188条),B物上代位(民法372条,304条1項),C破産申立(破産法18条),対策として,@住宅資金貸付債権に関する特則付の個人再生手続申立(住宅資金貸付債権に関する特則につき民事再生法197条,199条,個人再生手続申立につき221条,239条),A任意売却,B抵当権消滅請求(民法379条,383条)があります。
2.尚,当事例集は81番の修正です。関連事例集論文1360番1342番1341番1282番1218番1146番1068番1020番938番843番841番804番802番717番562番515番510番463番455番426番374番323番226番65番34番9番参照。

解説:
以下,説明を分かりやすくするために,通常なされる保証会社等による抵当権設定ではなく,抵当権者と債権者が一致することを前提としてご説明します。

1 住宅ローンのような抵当権付の借入が返済できなかった場合,まずは,抵当権者から支払いの督促を受けるようになり,それでも支払えない場合には,抵当権者からの申し立てとしては, @競売申立(民事執行法180条1号,188条),A担保不動産収益執行,B物上代位による賃料差押え,が考えられます。また他の債権者からC破産申立などの法的手段がなされることもが考えられます。

(1) 競売申立(@)
  競売申立は,裁判所の強制競売で不動産を売却し,その売却額から債権者が債権を回収するための手段です(民事執行法180条1号,188条)。申立から競落まで,約1年くらいかかります。

(2) 担保不動産収益執行(A)
  担保不動産収益執行は,平成16年4月に新たに施行された制度で,対象となる不動産が,本件のように自宅用ではなく,他人に賃貸しているような場合,債権者である抵当権者が,優先的に賃料を取得し,自己の債権の弁済に充てる制度です(民法371条,民事執行法180条2号,188条)。

(3) 物上代位による賃料差押え(B)
  ア 物上代位による賃料差押えは,抵当権者が優先的に賃料を差し押さえる制度であり(民法372条,304条1項),A担保不動産収益執行の制度が施行される前から判例上認められていたものです(最高裁平成元年10月27日判決)。

  イ AもBも,抵当権者が不動産の賃料収入から債権を回収するという点では類似の方法ですが,Aは,特に,不動産が大規模のもので,全ての賃借人を把握することが困難な場合などに有用と考えられています。
  もっとも,賃借人としては,抵当権者がAを用いるかBを用いるかによって,有利不利に影響を受けるいわれはありません。この点に関し,後記の最高裁平成21年7月3日判決は,Aが用いられた場合の賃料債権と保証金返還債権との相殺につき,Bが用いられた場合と比べて賃借人に不利な判断をした原審の判断を否定しています。

  抵当権者の物上代位により賃料が差し押さえられた場合や賃貸建物が競売された場合,賃貸人である抵当権設定者は資力がないことから,賃借人が賃貸借契約に伴い賃貸人に対して保証金を支払っていた場合,賃貸借契約終了の際保証金が返還されないという危険性があります。そこで,賃借人としては対抗手段として家賃の支払いをせず,賃貸借終了の際保証金と未払い賃料の負債を相殺することが考えられます。

  しかし,担保不動産収益執行の場合,賃料債権者を担保権者とすると保証金返還請求権の債務者は所有者である賃貸人ですから,賃料債権と保証債務の当事者が異なることになり相殺ができないことになります。しかし,物上代位の場合は,賃料債権者は賃貸人で抵当権者が代位するに過ぎないことから,相殺は可能とされて来ました。
  この点について,後記の最高裁判所の判例は担保不動産収益執行の場合も賃料債権者は賃貸人であり,担保権者は賃料債権を行使する権限を与えられているに過ぎない,という理論構成をとり,物上代位による賃料債権の差押と同様に保証金債権と未払い賃料債務を相殺できるとしています(但し,抵当権設定登記前に保証金が支払われている場合に限られます。)。

(4) 破産申立(C)
  抵当権を設定している金融機関は,抵当権が設定されている担保物件の換価が終わっても残債がある場合は,担保のない債権が残ることになり,債務者の一般財産に強制執行ができます。また,一般債権者として破産の申し立てをすることは法律上は可能です。ただ,実際金融機関は担保権を実行後の残債に基づいて破産の申し立てをするということは一般的には行われていません。担保のないものについては特に債務者の財産が明らかでない限りいわゆる不良債権として処理され破産手続きの申し立てをすることはありません。
  破産申立(破産法18条)は,非常事態ですが,申立後,破産管財人が裁判所より任命され(同法74条1項),管財人により,原則として全ての財産が売却され(同法184条1項),売却代金が公平に配当されます(同法193条)。かかる破産手続において,本件のような抵当権付不動産は,別除権付不動産として売却され,その売却代金が,優先的に担保権者の債権の回収に充てられます(同法184条2項〜4項)。

2 前記1の@ないしCの法的手段を採られてしまうと,不動産の所有者としては,現状のまま,不動産を所有し続けることは,事実上不可能と言えます。
  これに対し,不動産を所持しつつ,担保権者を始めとする他の債権者への債務を整理し現実的に支払い可能な返済計画にリスケジュールできる方法として@住宅資金貸付債権に関する特則付の個人再生を申し立てる方法があります。また,不動産を手放して処理する方法として,A任意売却とB抵当権消滅請求があります。

(1) 住宅資金貸付債権に関する特則付の個人再生手続申立(@)
  住宅資金貸付債権に関する特則付の個人再生手続申立は,収入が一定しているなど様々な条件がそろうことが必要ですが,かかる手続による再生計画(債権者への支払い方法)の認可が裁判所から下りると,住宅ローンをはじめとする債務返済のリスケジュールが認められ,住宅である不動産を失わない形で,無理のない返済をしていくことが可能となります(住宅資金貸付債権に関する特則につき民事再生法197条,199条,個人再生手続申立につき221条,239条)。

(2) 任意売却(A)
  任意売却は,競売手続によらず,抵当権者の同意を得て抵当権を抹消し,不動産を一般市場で売却する方法です。債務者が不動産の明け渡しに協力することで,場合によっては,競売による売却よりも,3〜4割高額で売却することができることもあります。

(3) 抵当権消滅請求(B)
  抵当権消滅請求は,従来の「滌除」という制度に代わり,平成16年4月に新たに施行された制度で,不動産を買受人に売却後,その買受人が抵当権者に対して,不動産の評価相当額の支払いを提示しつつ,抵当権の消滅を請求する制度です(民法379条,383条)。
  抵当権者がかかる請求を承諾し,その代金を買受人が支払うか供託すれば,抵当権は消滅します(同法386条)。一方,承諾したくない抵当権者が,消滅請求から2か月以内に競売申立をした場合には,通常の競売手続に移行することになります(同法385条,384条1号)。

3 家族とともに住む住宅を失うことは,極めて大きな損失ですので,債務の返済に滞ってしまった場合には,弁護士等に相談して,まずは住宅資金貸付債権に関する特則付の個人再生手続申立(前記2@)を検討して,なんとか住宅を手放さないで債務の整理ができないかを検討するといいでしょう。
  そして,かかる手続で,裁判所の認可を得るのが困難であるという場合には,任意売却(前記2A)や抵当権消滅請求(前記2B)の活用を検討して,手放すにしても少しでも高額で住宅が売却できるよう検討するとよろしいかと思われます。

<参照判例>

最高裁平成元年10月27日判決
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人・・・の上告理由について
抵当権の目的不動産が賃貸された場合においては,抵当権者は,民法372条,304条の規定の趣旨に従い,目的不動産の賃借人が供託した賃料の還付請求権についても抵当権を行使することができるものと解するのが相当である。けだし,民法372条によって先取特権に関する同法304条の規定が抵当権にも準用されているところ,抵当権は,目的物に対する占有を抵当権設定者の下にとどめ,設定者が目的物を自ら使用し又は第三者に使用させることを許す性質の担保権であるが,抵当権のこのような性質は先取特権と異なるものではないし,抵当権設定者が目的物を第三者に使用させることによって対価を取得した場合に,右対価について抵当権を行使することができるものと解したとしても,抵当権設定者の目的物に対する使用を妨げることにはならないから,前記規定に反してまで目的物の賃料について抵当権を行使することができないと解すべき理由はなく,また賃料が供託された場合には,賃料債権に準ずるものとして供託金還付請求権について抵当権を行使することができるものというべきだからである。
そして,目的不動産について抵当権を実行しうる場合であっても,物上代位の目的となる金銭その他の物について抵当権を行使することができることは,当裁判所の判例の趣旨とするところであり(最高裁判所昭和42年(オ)第342号同45年7月16日第一小法廷判決・民集24巻7号965頁参照),目的不動産に対して抵当権が実行されている場合でも,右実行の結果抵当権が消滅するまでは,賃料債権ないしこれに代わる供託金還付請求権に対しても抵当権を行使することができるものというべきである。
したがって,これと同旨の原判決は,正当として是認することができ,原判決に所論の違法はない。論旨は,採用することができない。
よって,民訴法(旧法:筆者注)401条,95条,89条に従い,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

最高裁平成21年7月3日判決
主文
原判決のうち,上告人敗訴部分を破棄する。
前項の部分につき,被上告人の控訴を棄却する。
控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。
理由
上告代理人・・・ほかの上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について
1 本件は,建物についての担保不動産収益執行の開始決定に伴い管理人に選任された被上告人が,上記建物の一部を賃料月額700万円(ほかに消費税相当額35万円)で賃借している上告人に対し,平成18年7月分から平成19年3月分までの9か月分の賃料合計6300万円及び平成18年7月分の賃料700万円に対する遅延損害金の支払を求める事案である。上告人は,上記賃貸借に係る保証金返還債権を自働債権とする相殺の抗弁を主張するなどして,被上告人の請求を争っている。
2 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1) 第1審判決別紙物件目録記載2の建物(以下「本件建物」という。)の過半数の共有持分を有するA株式会社(以下「A」という。)は,平成9年11月20日,上告人との間で,本件建物の1区画を次の約定で上告人に賃貸する契約を締結し,同区画を上告人に引き渡した。
ア 期間 20年間
イ 賃料 月額700万円(ほかに消費税相当額35万円)
毎月末日までに翌月分を支払う。
ウ 保証金 3億1500万円(以下「本件保証金」という。)
賃貸開始日から10年が経過した後である11年目から10年間にわたり均等に分割して返還する。
エ 敷金 1億3500万円
上記区画の明渡し時に返還する。
(2) Aは,上記契約の締結に際し,上告人から,本件保証金及び敷金として合計4億5000万円を受領した。
(3) Aは,平成10年2月27日,本件建物の他の共有持分権者と共に,Bのために,本件建物につき,債務者をA,債権額を5億5000万円とする抵当権(以下「本件抵当権」という。)を設定し,その旨の登記をした。
(4) Aは,平成11年6月22日,上告人との間で,Aが他の債権者から仮差押え,仮処分,強制執行,競売又は滞納処分による差押えを受けたときは,本件保証金等の返還につき当然に期限の利益を喪失する旨合意した。
(5) Aは,平成18年2月14日,本件建物の同社持分につき甲府市から滞納処分による差押えを受けたことにより,本件保証金の返還につき期限の利益を喪失した。
(6) 本件建物については,平成18年5月19日,本件抵当権に基づく担保不動産収益執行の開始決定(以下「本件開始決定」という。)があり,被上告人がその管理人に選任され,同月23日,本件開始決定に基づく差押えの登記がされ,そのころ,上告人に対する本件開始決定の送達がされた。
(7) 上告人は,平成18年7月から平成19年2月までの間,毎月末日までに,各翌月分である平成18年8月分から平成19年3月分までの8か月分の賃料の一部弁済として各367万5000円の合計2940万円(消費税相当額140万円を含む額)を被上告人に支払った(以下,これらの弁済を「本件弁済」と総称する。)。
(8) 上告人は,Aに対し,平成18年7月5日,本件保証金返還残債権2億9295万円を自働債権とし,平成18年7月分の賃料債権735万円(消費税相当額35万円を含む額)を受働債権として,対当額で相殺する旨の意思表示をし,さらに,平成19年4月2日,本件保証金返還残債権2億8560万円を自働債権とし,平成18年8月分から平成19年3月分までの8か月分の賃料残債権各367万5000円の合計2940万円(消費税相当額140万円を含む額)を受働債権として,対当額で相殺する旨の意思表示をした(以下,これらの相殺を「本件相殺」と総称し,その受働債権とされた賃料債権を「本件賃料債権」と総称する。)。
3 原審は,上記事実関係の下において,次のとおり判断して,平成18年7月分の賃料700万円(以下,いずれも消費税相当額を含まない額である。)及び平成18年8月分から平成19年3月分までの8か月分の賃料の本件弁済後の残額2800万円の合計3500万円並びに平成18年7月分の賃料700万円に対する遅延損害金の支払を求める限度で被上告人の請求を認容した。
(1) 本件相殺の自働債権とされた本件保証金返還残債権はAに対するものであるのに対し,本件開始決定の効力が生じた後に発生した支分債権である本件賃料債権は,その管理収益権を有する管理人である被上告人に帰属するものであって,民法505条1項所定の相殺適状にあったとはいえないから,本件相殺は効力を生じない。
(2) 仮にそうでないとしても,本件相殺の意思表示の相手方となるのは本件賃料債権について管理収益権を有する被上告人のみであり,管理収益権を有しないAに対する相殺の意思表示をもって民法506条1項所定の相手方に対する意思表示があったとはいえないから,本件相殺は効力を生じない。
4 しかしながら,原審の上記判断はいずれも是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1) 担保不動産収益執行は,担保不動産から生ずる賃料等の収益を被担保債権の優先弁済に充てることを目的として設けられた不動産担保権の実行手続の一つであり,執行裁判所が,担保不動産収益執行の開始決定により担保不動産を差し押さえて所有者から管理収益権を奪い,これを執行裁判所の選任した管理人にゆだねることをその内容としている(民事執行法188条,93条1項,95条1項)。管理人が担保不動産の管理収益権を取得するため,担保不動産の収益に係る給付の目的物は,所有者ではなく管理人が受領権限を有することになり,本件のように担保不動産の所有者が賃貸借契約を締結していた場合は,賃借人は,所有者ではなく管理人に対して賃料を支払う義務を負うことになるが(同法188条,93条1項),このような規律がされたのは,担保不動産から生ずる収益を確実に被担保債権の優先弁済に充てるためであり,管理人に担保不動産の処分権限まで与えるものではない(同法188条,95条2項)。
このような担保不動産収益執行の趣旨及び管理人の権限にかんがみると,管理人が取得するのは,賃料債権等の担保不動産の収益に係る給付を求める権利(以下「賃料債権等」という。)自体ではなく,その権利を行使する権限にとどまり,賃料債権等は,担保不動産収益執行の開始決定が効力を生じた後も,所有者に帰属しているものと解するのが相当であり,このことは,担保不動産収益執行の開始決定が効力を生じた後に弁済期の到来する賃料債権等についても変わるところはない。
そうすると,担保不動産収益執行の開始決定の効力が生じた後も,担保不動産の所有者は賃料債権等を受働債権とする相殺の意思表示を受領する資格を失うものではないというべきであるから(最高裁昭和37年(オ)第743号同40年7月20日第三小法廷判決・裁判集民事79号893頁参照),本件において,本件建物の共有持分権者であり賃貸人であるAは,本件開始決定の効力が生じた後も,本件賃料債権の債権者として本件相殺の意思表示を受領する資格を有していたというべきである。
(2) そこで,次に,抵当権に基づく担保不動産収益執行の開始決定の効力が生じた後において,担保不動産の賃借人が,抵当権設定登記の前に取得した賃貸人に対する債権を自働債権とし,賃料債権を受働債権とする相殺をもって管理人に対抗することができるかという点について検討する。被担保債権について不履行があったときは抵当権の効力は担保不動産の収益に及ぶが,そのことは抵当権設定登記によって公示されていると解される。そうすると,賃借人が抵当権設定登記の前に取得した賃貸人に対する債権については,賃料債権と相殺することに対する賃借人の期待が抵当権の効力に優先して保護されるべきであるから(最高裁平成11年(受)第1345号同13年3月13日第三小法廷判決・民集55巻2号363頁参照),担保不動産の賃借人は,抵当権に基づく担保不動産収益執行の開始決定の効力が生じた後においても,抵当権設定登記の前に取得した賃貸人に対する債権を自働債権とし,賃料債権を受働債権とする相殺をもって管理人に対抗することができるというべきである。本件において,上告人は,Aに対する本件保証金返還債権を本件抵当権設定登記の前に取得したものであり,本件相殺の意思表示がされた時点で自働債権である上告人のAに対する本件保証金返還残債権と受働債権であるAの上告人に対する本件賃料債権は相殺適状にあったものであるから,上告人は本件相殺をもって管理人である被上告人に対抗することができるというべきである。
(3) 以上によれば,被上告人の請求に係る平成18年7月分から平成19年3月分までの9か月分の賃料債権6300万円は,本件弁済によりその一部が消滅し,その残額3500万円は本件相殺により本件保証金返還残債権と対当額で消滅したことになる。
5 以上と異なる原審の判断には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決のうち上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして,被上告人の請求を棄却した第1審判決は結論において正当であるから,上記部分につき被上告人の控訴を棄却することとする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

<参照条文>

民法
(物上代位)
第304条 先取特権は,その目的物の売却,賃貸,滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても,行使することができる。ただし,先取特権者は,その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない。
2 債務者が先取特権の目的物につき設定した物権の対価についても,前項と同様とする。
(抵当権の効力の及ぶ範囲)
第371条 抵当権は,その担保する債権について不履行があったときは,その後に生じた抵当不動産の果実に及ぶ。
(留置権等の規定の準用)
第372条 第296条,第304条及び第351条の規定は,抵当権について準用する。
(抵当権消滅請求)
第379条 抵当不動産の第三取得者は,第383条の定めるところにより,抵当権消滅請求をすることができる。
(抵当権消滅請求の手続)
第383条 抵当不動産の第三取得者は,抵当権消滅請求をするときは,登記をした各債権者に対し,次に掲げる書面を送付しなければならない。
一 取得の原因及び年月日,譲渡人及び取得者の氏名及び住所並びに抵当不動産の性質,所在及び代価その他取得者の負担を記載した書面
二 抵当不動産に関する登記事項証明書(現に効力を有する登記事項のすべてを証明したものに限る。)
三 債権者が2箇月以内に抵当権を実行して競売の申立てをしないときは,抵当不動産の第三取得者が第1号に規定する代価又は特に指定した金額を債権の順位に従って弁済し又は供託すべき旨を記載した書面
(債権者のみなし承諾)
第384条 次に掲げる場合には,前条各号に掲げる書面の送付を受けた債権者は,抵当不動産の第三取得者が同条第3号に掲げる書面に記載したところにより提供した同号の代価又は金額を承諾したものとみなす。
一 その債権者が前条各号に掲げる書面の送付を受けた後2箇月以内に抵当権を実行して競売の申立てをしないとき。
二 その債権者が前号の申立てを取り下げたとき。
三 第1号の申立てを却下する旨の決定が確定したとき。
四 第1号の申立てに基づく競売の手続を取り消す旨の決定(民事執行法第188条において準用する同法第63条第3項若しくは第68条の3第3項の規定又は同法第183条第1項第5号の謄本が提出された場合における同条第2項の規定による決定を除く。)が確定したとき。
(競売の申立ての通知)
第385条 第383条各号に掲げる書面の送付を受けた債権者は,前条第1号の申立てをするときは,同号の期間内に,債務者及び抵当不動産の譲渡人にその旨を通知しなければならない。
(抵当権消滅請求の効果)
第386条 登記をしたすべての債権者が抵当不動産の第三取得者の提供した代価又は金額を承諾し,かつ,抵当不動産の第三取得者がその承諾を得た代価又は金額を払い渡し又は供託したときは,抵当権は,消滅する。

民事執行法
(不動産担保権の実行の方法)
第180条 不動産(登記することができない土地の定着物を除き,第43条第2項の規定により不動産とみなされるものを含む。以下この章において同じ。)を目的とする担保権(以下この章において「不動産担保権」という。)の実行は,次に掲げる方法であつて債権者が選択したものにより行う。
一 担保不動産競売(競売による不動産担保権の実行をいう。以下この章において同じ。)の方法
二 担保不動産収益執行(不動産から生ずる収益を被担保債権の弁済に充てる方法による不動産担保権の実行をいう。以下この章において同じ。)の方法
(不動産執行の規定の準用)
第188条 第44条の規定は不動産担保権の実行について,前章第2節第1款第2目(第81条を除く。)の規定は担保不動産競売について,同款第3目の規定は担保不動産収益執行について準用する。

破産法
(破産手続開始の申立て)
第18条 債権者又は債務者は,破産手続開始の申立てをすることができる。
2 債権者が破産手続開始の申立てをするときは,その有する債権の存在及び破産手続開始の原因となる事実を疎明しなければならない。
(破産管財人の選任)
第74条 破産管財人は,裁判所が選任する。
2 法人は,破産管財人となることができる。
(換価の方法)
第184条 第78条第2項第1号及び第2号に掲げる財産の換価は,これらの規定により任意売却をする場合を除き,民事執行法その他強制執行の手続に関する法令の規定によってする。
2 破産管財人は,民事執行法その他強制執行の手続に関する法令の規定により,別除権の目的である財産の換価をすることができる。この場合においては,別除権者は,その換価を拒むことができない。
3 前2項の場合には,民事執行法第63条及び第129条(これらの規定を同法その他強制執行の手続に関する法令において準用する場合を含む。)の規定は,適用しない。
4 第2項の場合において,別除権者が受けるべき金額がまだ確定していないときは,破産管財人は,代金を別に寄託しなければならない。この場合においては,別除権は,寄託された代金につき存する。
(配当の方法等)
第193条 破産債権者は,この章の定めるところに従い,破産財団から,配当を受けることができる。
2 破産債権者は,破産管財人がその職務を行う場所において配当を受けなければならない。ただし,破産管財人と破産債権者との合意により別段の定めをすることを妨げない。
3 破産管財人は,配当をしたときは,その配当をした金額を破産債権者表に記載しなければならない。

民事再生法
(抵当権の実行手続の中止命令等)
第197条 裁判所は,再生手続開始の申立てがあった場合において,住宅資金特別条項を定めた再生計画の認可の見込みがあると認めるときは,再生債務者の申立てにより,相当の期間を定めて,住宅又は再生債務者が有する住宅の敷地に設定されている前条第3号に規定する抵当権の実行手続の中止を命ずることができる。
2 第31条第2項から第6項までの規定は,前項の規定による中止の命令について準用する。
3 裁判所は,再生債務者が再生手続開始後に住宅資金貸付債権の一部を弁済しなければ住宅資金貸付契約の定めにより当該住宅資金貸付債権の全部又は一部について期限の利益を喪失することとなる場合において,住宅資金特別条項を定めた再生計画の認可の見込みがあると認めるときは,再生計画認可の決定が確定する前でも,再生債務者の申立てにより,その弁済をすることを許可することができる。
(住宅資金特別条項の内容)
第199条 住宅資金特別条項においては,次項又は第3項に規定する場合を除き,次の各号に掲げる債権について,それぞれ当該各号に定める内容を定める。
一 再生計画認可の決定の確定時までに弁済期が到来する住宅資金貸付債権の元本(再生債務者が期限の利益を喪失しなかったとすれば弁済期が到来しないものを除く。)及びこれに対する再生計画認可の決定の確定後の住宅約定利息(住宅資金貸付契約において定められた約定利率による利息をいう。以下この条において同じ。)並びに再生計画認可の決定の確定時までに生ずる住宅資金貸付債権の利息及び不履行による損害賠償 その全額を,再生計画(住宅資金特別条項を除く。)で定める弁済期間(当該期間が5年を超える場合にあっては,再生計画認可の決定の確定から5年。第3項において「一般弁済期間」という。)内に支払うこと。
二 再生計画認可の決定の確定時までに弁済期が到来しない住宅資金貸付債権の元本(再生債務者が期限の利益を喪失しなかったとすれば弁済期が到来しないものを含む。)及びこれに対する再生計画認可の決定の確定後の住宅約定利息 住宅資金貸付契約における債務の不履行がない場合についての弁済の時期及び額に関する約定に従って支払うこと。
2 前項の規定による住宅資金特別条項を定めた再生計画の認可の見込みがない場合には,住宅資金特別条項において,住宅資金貸付債権に係る債務の弁済期を住宅資金貸付契約において定められた最終の弁済期(以下この項及び第4項において「約定最終弁済期」という。)から後の日に定めることができる。この場合における権利の変更の内容は,次に掲げる要件のすべてを具備するものでなければならない。
一 次に掲げる債権について,その全額を支払うものであること。
イ 住宅資金貸付債権の元本及びこれに対する再生計画認可の決定の確定後の住宅約定利息
ロ 再生計画認可の決定の確定時までに生ずる住宅資金貸付債権の利息及び不履行による損害賠償
二 住宅資金特別条項による変更後の最終の弁済期が約定最終弁済期から10年を超えず,かつ,住宅資金特別条項による変更後の最終の弁済期における再生債務者の年齢が70歳を超えないものであること。
三 第1号イに掲げる債権については,一定の基準により住宅資金貸付契約における弁済期と弁済期との間隔及び各弁済期における弁済額が定められている場合には,当該基準におおむね沿うものであること。
3 前項の規定による住宅資金特別条項を定めた再生計画の認可の見込みがない場合には,一般弁済期間の範囲内で定める期間(以下この項において「元本猶予期間」という。)中は,住宅資金貸付債権の元本の一部及び住宅資金貸付債権の元本に対する元本猶予期間中の住宅約定利息のみを支払うものとすることができる。この場合における権利の変更の内容は,次に掲げる要件のすべてを具備するものでなければならない。
一 前項第1号及び第2号に掲げる要件があること。
二 前項第1号イに掲げる債権についての元本猶予期間を経過した後の弁済期及び弁済額の定めについては,一定の基準により住宅資金貸付契約における弁済期と弁済期との間隔及び各弁済期における弁済額が定められている場合には,当該基準におおむね沿うものであること。
4 住宅資金特別条項によって権利の変更を受ける者の同意がある場合には,前3項の規定にかかわらず,約定最終弁済期から10年を超えて住宅資金貸付債権に係る債務の期限を猶予することその他前3項に規定する変更以外の変更をすることを内容とする住宅資金特別条項を定めることができる。
5 住宅資金特別条項によって権利の変更を受ける者と他の再生債権者との間については第155条第1項の規定を,住宅資金特別条項については同条第3項の規定を,住宅資金特別条項によって権利の変更を受ける者については第160条及び第165条第2項の規定を適用しない。
(手続開始の要件等)
第221条 個人である債務者のうち,将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがあり,かつ,再生債権の総額(住宅資金貸付債権の額,別除権の行使によって弁済を受けることができると見込まれる再生債権の額及び再生手続開始前の罰金等の額を除く。)が5000万円を超えないものは,この節に規定する特則の適用を受ける再生手続(以下「小規模個人再生」という。)を行うことを求めることができる。
2 小規模個人再生を行うことを求める旨の申述は,再生手続開始の申立ての際(債権者が再生手続開始の申立てをした場合にあっては,再生手続開始の決定があるまで)にしなければならない。
3 前項の申述をするには,次に掲げる事項を記載した書面(以下「債権者一覧表」という。)を提出しなければならない。
一 再生債権者の氏名又は名称並びに各再生債権の額及び原因
二 別除権者については,その別除権の目的である財産及び別除権の行使によって弁済を受けることができないと見込まれる再生債権の額(以下「担保不足見込額」という。)
三 住宅資金貸付債権については,その旨
四 住宅資金特別条項を定めた再生計画案を提出する意思があるときは,その旨
五 その他最高裁判所規則で定める事項
4 再生債務者は,債権者一覧表に各再生債権についての再生債権の額及び担保不足見込額を記載するに当たっては,当該額の全部又は一部につき異議を述べることがある旨をも記載することができる。
5 第1項に規定する再生債権の総額の算定及び債権者一覧表への再生債権の額の記載に関しては,第87条第1項第1号から第3号までに掲げる再生債権は,当該各号に掲げる債権の区分に従い,それぞれ当該各号に定める金額の債権として取り扱うものとする。
6 再生債務者は,第2項の申述をするときは,当該申述が第1項又は第3項に規定する要件に該当しないことが明らかになった場合においても再生手続の開始を求める意思があるか否かを明らかにしなければならない。ただし,債権者が再生手続開始の申立てをした場合については,この限りでない。
7 裁判所は,第2項の申述が前項本文に規定する要件に該当しないことが明らかであると認めるときは,再生手続開始の決定前に限り,再生事件を通常の再生手続により行う旨の決定をする。ただし,再生債務者が前項本文の規定により再生手続の開始を求める意思がない旨を明らかにしていたときは,裁判所は,再生手続開始の申立てを棄却しなければならない。
(手続開始の要件等)
第239条 第221条第1項に規定する債務者のうち,給与又はこれに類する定期的な収入を得る見込みがある者であって,かつ,その額の変動の幅が小さいと見込まれるものは,この節に規定する特則の適用を受ける再生手続(以下「給与所得者等再生」という。)を行うことを求めることができる。
2 給与所得者等再生を行うことを求める旨の申述は,再生手続開始の申立ての際(債権者が再生手続開始の申立てをした場合にあっては,再生手続開始の決定があるまで)にしなければならない。
3 再生債務者は,前項の申述をするときは,当該申述が第221条第1項又は第244条において準用する第221条第3項に規定する要件に該当しないことが明らかになった場合に通常の再生手続による手続の開始を求める意思があるか否か及び第5項各号のいずれかに該当する事由があることが明らかになった場合に小規模個人再生による手続の開始を求める意思があるか否かを明らかにしなければならない。ただし,債権者が再生手続開始の申立てをした場合については,この限りでない。
4 裁判所は,第2項の申述が前項本文に規定する要件に該当しないことが明らかであると認めるときは,再生手続開始の決定前に限り,再生事件を通常の再生手続により行う旨の決定をする。ただし,再生債務者が前項本文の規定により通常の再生手続による手続の開始を求める意思がない旨を明らかにしていたときは,裁判所は,再生手続開始の申立てを棄却しなければならない。
5 前項に規定する場合のほか,裁判所は,第2項の申述があった場合において,次の各号のいずれかに該当する事由があることが明らかであると認めるときは,再生手続開始の決定前に限り,再生事件を小規模個人再生により行う旨の決定をする。ただし,再生債務者が第3項本文の規定により小規模個人再生による手続の開始を求める意思がない旨を明らかにしていたときは,裁判所は,再生手続開始の申立てを棄却しなければならない。
一 再生債務者が,給与又はこれに類する定期的な収入を得る見込みがある者に該当しないか,又はその額の変動の幅が小さいと見込まれる者に該当しないこと。
二 再生債務者について次のイからハまでに掲げる事由のいずれかがある場合において,それぞれイからハまでに定める日から7年以内に当該申述がされたこと。
イ 給与所得者等再生における再生計画が遂行されたこと 当該再生計画認可の決定の確定の日
ロ 第235条第1項(第244条において準用する場合を含む。)に規定する免責の決定が確定したこと 当該免責の決定に係る再生計画認可の決定の確定の日
ハ 破産法第252条第1項に規定する免責許可の決定が確定したこと 当該決定の確定の日

法律相談事例集データベースのページに戻る

法律相談ページに戻る(電話03−3248−5791で簡単な無料法律相談を受付しております)

トップページに戻る