離婚後に生まれた子の嫡出否認手続き

家事|離婚後出生し形式上推定される嫡出子ではあるが夫以外の子の地位|戸籍上の記載と訂正|平成19年5月7日民事局長通達|最高裁昭和55年3月27日判決|最高裁平成12年3月14日判決

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参考条文

質問:

私は、浮気相手の子を妊娠してしまいました。そのことが夫にばれて離婚したのですが、子どもが生まれるのは、離婚成立後300日以内です。そうすると、戸籍上の子どもの父親は元夫になると聞きました。なんとか父親が元夫と記載されないようにする方法はありませんか。

回答:

1 あなたの子供として出生届出を役所に届け出ると、子どもは元夫の子どもとして、夫が筆頭者となっている戸籍に記載されることになります。

2 その後、子どもの氏の変更により、子どもをあなたの戸籍に入れることは可能ですが、それでも父親として元夫の名が記載されています。

3 父親としての名前を抹消するには嫡出否認の裁判の判決が必要ですが、訂正することは可能です。また、元から記載させないという方法も、元夫の協力と裁判所、弁護士との協議で達成できる可能性も残されています。

4 離婚後の姓と嫡出否認に関する関連事例集参照。

解説:

1 (推定される嫡出子の趣旨)

現在の民法(法772条)では、離婚後300日以内に出生した子は、夫の子であると推定されます(嫡出推定)。離婚後に生まれた子の両親はすでに離婚していますが、嫡出子とは、法律上婚姻関係にある夫婦から生まれた子ですから、出生時に両親が結婚しているかどうかは最終的基準になりません。ただ、離婚後300日以内に生まれた子は、医学上婚姻中の懐胎は夫の子であるという蓋然性が高く、またその反証も困難であることが多いこと、誰の子でもない人が発生しないように、という観点などから、その総合的蓋然性に基づき嫡出子の地位を推定という形で認めています。あくまでも推定ですから、何らかの反証があればこの推定が破られる場合があるわけです。

この理屈は、婚姻中に生まれた子でも同様です。推定を破る(夫の子ではない)というのは、夫の子ではないという明白な根拠があればいいわけです。真実を明らかにしようとする立場からは、誰でもこの証拠を主張して、嫡出子の推定を破る法的手続きを行えるように思います。しかし、嫡出子かどうかは、財産的権利の争いと異なり、家庭内の問題であり、利害関係人は、夫婦、子であって、最終目的は当該家庭の平和、平穏であることは明らかです。従って、この推定には、強い効力があり、原則として、直接の利害関係人である夫のみしか嫡出否認の訴えを提起できませんし、提起期間の制限(出生を知ってから1年)も厳格です(民法774条、777条)。妻や子も嫡出否認を主張できません。当事者である妻や、子が否認の訴えを起こせないのはおかしいように思いますが、元々、嫡出子の身分というのは子供自身にとって有利な地位である、という考え方がありますし、家庭内の問題を早期に確定し事実上継続された家庭の平和・平穏を維持することを優先するという制度趣旨です。嫡出否認の提訴期間や主張権利者を限定させた方が、結果的に子の福祉、利益にもつながるという考えです。

江戸時代には全国民を対象にした戸籍はありませんでしたし、明治時代になっても、父親が不明で嫡出子の身分を取得できない子供は今よりずっと多数ありました。嫡出否認の諸規定は、民法制定当時の社会情勢に鑑みれば、子供の利益を考えた規定でした。参考後記最高裁平成12年3月14日判決、最高裁昭和55年3月27日判決参照。いわんや第三者は、何らかの利害関係があっても、これに介入し家庭の平和を侵すことは許されません。明治時代に定められた法律ですが、現代では、医学、科学技術が進歩し、DNA鑑定などが身近になっていますし、日本国憲法13条で個人の尊厳と幸福追求権が規定され、「父親が誰であるか知る権利」、というものも観念しうる時代となりましたので、夫のみの嫡出否認を認める同法は改正されるべきである、という議論も多いところです。

2 (戸籍訂正手続きの原則)

(1)現在では、ご質問の通り、夫以外の男性の子を妊娠しても、離婚成立後300日以内に出生した子は、出生届を提出すると夫の戸籍(夫が婚姻時の戸籍の筆頭者の場合)に入ります。この場合、離婚前の嫡出子と同じ地位にあるので、離婚後出生したとしても夫の戸籍に入ります。妻の戸籍に移すためには戸籍同一姓の原則から「氏の変更許可審判申立」が必要になります(婚姻中の氏を妻が継続使用したとしても夫の氏とは法的に異なります。)。

これを訂正するには、元夫が嫡出否認の訴を提起し、これが認められた裁判所の調書ないし審判書を提出すれば、後日訂正することができます。現在の戸籍法では嫡出否認の訴えの手続き中であったとしても、出生届出をして父親の戸籍に入ることになっていますから(戸籍法53条)、あくまで戸籍の訂正ということになります。

(2)なお、婚姻の解消又は取消し後300日以内に生まれた子のうち,医師の作成した「懐胎時期に関する証明書」が添付され,当該証明書の記載から,推定される懐胎の時期の最も早い日が婚姻の解消又は取消し後である場合には,前の夫を父としない出生の届出をすることができることとされています。戸籍上は離婚した妻の戸籍に入ることになります。すなわち未婚の母と同一の取扱いになります。平成19年5月7日法務省民事局長通達です。本来であれば、300日以内に出生した子は、推定される嫡出子ですから、離婚前の夫の戸籍に記載されて、それから嫡出否認の審判、判決により、戸籍上訂正して(訂正の表示が戸籍になされる。)離婚した妻の戸籍に記載されます。子の父親欄は、認知されるまで空白となります。しかし、このような手続きは、戸籍上子の地位変動に関して好ましくない表示になりますので、通達により前夫の嫡出子でないことが医学上明らかである場合は最初から本来の表示になるように変更しました。

(3)しかし、この嫡出否認、戸籍訂正という手続にはいくつかデメリットがあります。

①まず、嫡出否認の申立は、父とされた人物、本件では元夫が行わなければならないということです。夫がどの程度協力してくれるのかが問題になりえます。

②裁判所を経て、戸籍の記載が改められても、戸籍のような公文書は、抹消事項は線を引くだけですので、読み取ることが可能です。他人や身内に事情を知られたくない場合でも、何かがあったことは見れば判明してしまいます。

これらのデメリットを解消する方法と共に、嫡出否認について解説します。

3 (嫡出否認の手続き)

嫡出否認の訴えは、調停前置が適用される事件ですから(家事審判法18条)、まずは家庭裁判所に調停を申し立てることになります。この調停の申立権者は、戸籍上父とされた者、すなわち元夫です。この点、調停の申立手続は、申立書を記載し、戸籍謄本等の添付書類を取り寄せ、収入印紙や郵便切手を購入し(金額は3000円程度です)、裁判所に提出する、という作業が必要になります。それほど難しくはありませんが、やはりそれでも、やりたがらない方もいらっしゃるでしょう。

この点裁判所によると、妻側が申立書や必要書類を持参しても、元夫が、手続を行うこと自体を了承しているとの意思の確認ができれば、夫からの申立として受領してくれると言う取り扱いをしているようです。書類を作ったりするのは嫌だが、記載を抹消する気はあるので、事務作業をやってくれるのであれば協力する、という人もいるでしょうから、あきらめずに弁護士に相談してみましょう。

次に、調停では、双方を呼び出して事情を聞き、また、客観的な証拠を確認することになります。最近では、医師の診察により、懐胎(妊娠)した時期が、婚姻解消の日よりも後であることが証明され、そのような医師の診断書を提出するという方式も採用されていますが、このような診断が出ることはまれでしょうから、客観的な資料として、DNA鑑定を行うことになるでしょう。

DNA鑑定は、裁判所が指示する業者に依頼し、口の中の粘膜を採取して鑑定する方式を取り、費用は大体10万円程度かかるようです(胎児のDNA鑑定も可能。 )。この点について、推定される懐胎時期に、夫が長期の海外出張や、刑務所に服役、など、あきらかに妊娠の原因となる性交渉ができなかったと認められる客観的状況があれば、鑑定をしなくても嫡出の否認を認める、というのが裁判所の立場ですので、それ以外の場合は、原則として鑑定が必要になると考えて差し支えないでしょう。

ただし、元夫とも入念に打ち合わせをし、協力を得て、裁判所に事前に説明したことで、双方の供述が信用できるとして、裁判所が鑑定を省略して審判を下した例もありますので、鑑定費用の捻出が難しい場合でも、弁護士に相談してみましょう。

さて、裁判所で嫡出を否認する審判が出れば、その書面を持参して、戸籍窓口で戸籍を書き換えてもらうことができます。しかしこれでは、デメリットの②であげた、抹消事項が記載として残ってしまうという不都合は解消できません。

4 (戸籍訂正の不都合の回避)

この点、出生届と同時に、嫡出を否認する審判書を提出すれば、最初から、元夫の戸籍に記載されることは無くなるのですが(父の欄は空欄になります。未婚の母と同一になる。)、子が現実に出生するまでは、嫡出否認の申立はできません。一方、子が生まれた場合、出生届は生後14日以内に提出することが義務付けられ(戸籍法49条)、嫡出否認を申し立てたとしてもこれをしなければならない、と法定されています(戸籍法53条)。そこで、14日以内に嫡出否認の審判書を入手すれば、最初から父の欄に元夫が記載されない届出を行うことができます

そこで、①出生前から夫の協力をとりつけ、事前に裁判所に相談する。②出生後直ちに、嫡出否認の調停を申し立てる(夫にやってもらうか、承諾をもらう)。③できるだけ早く期日を入れてもらい、直ちに審判(家事審判法23条 合意に相当する審判)を出してもらう。④審判書を持って直ちに出生の届出をする。

このような順序により、14日前後で、審判書を付した出生届が可能になる場合があります。なお、訴訟係属中であることの証明書(裁判所でもらえます)の提出をすれば、手続を保留してくれる(14日後でも通常の出生届として扱われる。)役所もあるようですので、市区町村にも事前に相談する価値はあるでしょう。

なお、この方法には以下のようなリスクがありますので、弁護士に相談せず独断で上記の方法を取ることなく、必ず専門家と相談して、対策を考えるようにしてください。

①審判書ができる期間が出生後14日を過ぎた場合、戸籍法に違反することになりますので、科料の制裁を受ける可能性はあります(実務上は、遅延の理由を説明させて受理する運用をしているようですが手続きは遵守する必要があります。)。

②出生届が出ない間は、子の戸籍が無いことになりますので、医療や検診の受信の点でデメリットが生じます。戸籍の記載にこだわって子の福祉をないがしろにすることは好ましくありません。

③父の欄が空欄にできたとしても、子の真の父親との関係では、認知請求等の別途の手続が必要になることは変わりありません。

5 (親子関係不存在確認調停、訴訟の検討)

離婚後300日以内に出生した子供であっても、夫婦が長期別居中、長期海外出張、受刑中などで子供の母親との性的交渉がなかった場合など、前夫が子供の親でないことが客観的に明白な場合で,前夫の子であるとの推定を受けない場合(推定の及ばない嫡出子である場合)は、家庭裁判所に親子関係不存在の調停を申し立てることができます(人事訴訟法2条2号「実親子関係の存否の確認の訴え」、家事審判法17条、18条)。判例を御紹介致します。

あ)離婚の届出に先立ち約2年半前から事実上の離婚をして別居し、全く交渉を絶って、夫婦の実体が失われていた場合に推定が及ばないとしたケース。最高裁昭和44年5月29日判決

い)妻が子を懐胎したと推認される時期に夫が出征していて未だ帰還していなかった場合に、推定が及ばないとしたケース。最高裁平成10年8月31日判決。

推定が及ばない嫡出子については、子供(親権者母親)の側から、戸籍上の父親を相手方として、親子関係不存在調停を申し立てて、親子関係不存在を確認の上、真実の父親からの認知を受けることができます(民法779条)。

以上

関連事例集

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※参照条文・判例

民法

(嫡出の推定)

第七百七十二条 妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。

2 婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。

(父を定めることを目的とする訴え)

第七百七十三条 第七百三十三条第一項の規定に違反して再婚をした女が出産した場合において、前条の規定によりその子の父を定めることができないときは、裁判所が、これを定める。

(嫡出の否認)

第七百七十四条 第七百七十二条の場合において、夫は、子が嫡出であることを否認することができる。

(嫡出否認の訴え)

第七百七十五条 前条の規定による否認権は、子又は親権を行う母に対する嫡出否認の訴えによって行う。親権を行う母がないときは、家庭裁判所は、特別代理人を選任しなければならない。

(嫡出の承認)

第七百七十六条 夫は、子の出生後において、その嫡出であることを承認したときは、その否認権を失う。

(嫡出否認の訴えの出訴期間)

第七百七十七条 嫡出否認の訴えは、夫が子の出生を知った時から一年以内に提起しなければならない。

第七百七十八条 夫が成年被後見人であるときは、前条の期間は、後見開始の審判の取消しがあった後夫が子の出生を知った時から起算する。

戸籍法

第四十九条 出生の届出は、十四日以内(国外で出生があつたときは、三箇月以内)にこれをしなければならない。

○2 届書には、次の事項を記載しなければならない。

一 子の男女の別及び嫡出子又は嫡出でない子の別

二 出生の年月日時分及び場所

三 父母の氏名及び本籍、父又は母が外国人であるときは、その氏名及び国籍

四 その他法務省令で定める事項

○3 医師、助産師又はその他の者が出産に立ち会つた場合には、医師、助産師、その他の者の順序に従つてそのうちの一人が法務省令・厚生労働省令の定めるところによつて作成する出生証明書を届書に添付しなければならない。ただし、やむを得ない事由があるときは、この限りでない。

第五十条 子の名には、常用平易な文字を用いなければならない。

○2 常用平易な文字の範囲は、法務省令でこれを定める。

第五十一条 出生の届出は、出生地でこれをすることができる。

○2 汽車その他の交通機関(船舶を除く。以下同じ。)の中で出生があつたときは母がその交通機関から降りた地で、航海日誌を備えない船舶の中で出生があつたときはその船舶が最初に入港した地で、出生の届出をすることができる。

第五十二条 嫡出子出生の届出は、父又は母がこれをし、子の出生前に父母が離婚をした場合には、母がこれをしなければならない。

○2 嫡出でない子の出生の届出は、母がこれをしなければならない。

○3 前二項の規定によつて届出をすべき者が届出をすることができない場合には、左の者は、その順序に従つて、届出をしなければならない。

第一 同居者

第二 出産に立ち会つた医師、助産師又はその他の者

○4 第一項又は第二項の規定によつて届出をすべき者が届出をすることができない場合には、その者以外の法定代理人も、届出をすることができる。

第五十三条 嫡出子否認の訴を提起したときであつても、出生の届出をしなければならない。

第九章 罰則

第百三十二条 戸籍の記載又は記録を要しない事項について虚偽の届出をした者は、一年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。外国人に関する事項について虚偽の届出をした者も、同様とする。

第百三十三条 偽りその他不正の手段により、第十条若しくは第十条の二に規定する戸籍謄本等、第十二条の二に規定する除籍謄本等又は第百二十条第一項に規定する書面の交付を受けた者は、三十万円以下の罰金に処する。

第百三十四条 偽りその他不正の手段により、第四十八条第二項(第百十七条において準用する場合を含む。)の規定による閲覧をし、又は同項の規定による証明書の交付を受けた者は、十万円以下の過料に処する。

第百三十五条 正当な理由がなくて期間内にすべき届出又は申請をしない者は、五万円以下の過料に処する。

第百三十六条 市町村長が、第四十四条第一項又は第二項(これらの規定を第百十七条において準用する場合を含む。)の規定によつて、期間を定めて届出又は申請の催告をした場合に、正当な理由がなくてその期間内に届出又は申請をしない者は、十万円以下の過料に処する。

家事審判法

第三章 調停

第一節 通則

第十七条 家庭裁判所は、人事に関する訴訟事件その他一般に家庭に関する事件について調停を行う。但し、第九条第一項甲類に規定する審判事件については、この限りでない。

第十八条 前条の規定により調停を行うことができる事件について訴を提起しようとする者は、まず家庭裁判所に調停の申立をしなければならない。

○2 前項の事件について調停の申立をすることなく訴を提起した場合には、裁判所は、その事件を家庭裁判所の調停に付しなければならない。但し、裁判所が事件を調停に付することを適当でないと認めるときは、この限りでない。

第十九条 第十七条の規定により調停を行うことができる事件に係る訴訟が係属している場合には、裁判所は、何時でも、職権でその事件を家庭裁判所の調停に付することができる。

○2 前項の規定により事件を調停に付した場合において、調停が成立し又は第二十三条若しくは第二十四条第一項の規定による審判が確定したときは、訴の取下があつたものとみなす。

第二十条 第十二条の規定は、調停手続にこれを準用する。

第二十一条 調停において当事者間に合意が成立し、これを調書に記載したときは、調停が成立したものとし、その記載は、確定判決と同一の効力を有する。但し、第九条第一項乙類に掲げる事項については、確定した審判と同一の効力を有する。

○2 前項の規定は、第二十三条に掲げる事件については、これを適用しない。

第二十二条 調停委員会の組織は、家事審判官一人及び家事調停委員二人以上とする。

○2 調停委員会を組織する家事調停委員は、家庭裁判所が各事件について指定する。

第二十三条 婚姻又は養子縁組の無効又は取消しに関する事件の調停委員会の調停において、当事者間に合意が成立し無効又は取消しの原因の有無について争いがない場合には、家庭裁判所は、必要な事実を調査した上、当該調停委員会を組織する家事調停委員の意見を聴き、正当と認めるときは、婚姻又は縁組の無効又は取消しに関し、当該合意に相当する審判をすることができる。

○2 前項の規定は、協議上の離婚若しくは離縁の無効若しくは取消し、認知、認知の無効若しくは取消し、民法第七百七十三条 の規定により父を定めること、嫡出否認又は身分関係の存否の確定に関する事件の調停委員会の調停について準用する。

第二十四条 家庭裁判所は、調停委員会の調停が成立しない場合において相当と認めるときは、当該調停委員会を組織する家事調停委員の意見を聴き、当事者双方のため衡平に考慮し、一切の事情を見て、職権で、当事者双方の申立ての趣旨に反しない限度で、事件の解決のため離婚、離縁その他必要な審判をすることができる。この審判においては、金銭の支払その他財産上の給付を命ずることができる。

第二十五条 第二十三条又は前条第一項の規定による審判に対しては、最高裁判所の定めるところにより、家庭裁判所に対し異議の申立をすることができる。その期間は、これを二週間とする。

○2 前項の期間内に異議の申立があつたときは、同項の審判は、その効力を失う。

○3 第一項の期間内に異議の申立がないときは、同項の審判は、確定判決と同一の効力を有する。

第二十五条の二 家庭裁判所は、調停又は第二十四条第一項の規定による審判で定められた義務の履行について、第十五条の五から第十五条の七までの規定の例により、これらの規定に掲げる措置をすることができる。

第二十六条 第九条第一項乙類に規定する審判事件について調停が成立しない場合には、調停の申立の時に、審判の申立があつたものとみなす。

○2 第十七条の規定により調停を行うことができる事件について調停が成立せず、且つ、その事件について第二十三条若しくは第二十四条第一項の規定による審判をせず、又は第二十五条第二項の規定により審判が効力を失つた場合において、当事者がその旨の通知を受けた日から二週間以内に訴を提起したときは、調停の申立の時に、その訴の提起があつたものとみなす。

人事訴訟法第2条(定義)

この法律において「人事訴訟」とは、次に掲げる訴えその他の身分関係の形成又は存否の確認を目的とする訴え(以下「人事に関する訴え」という。)に係る訴訟をいう。

一 婚姻の無効及び取消しの訴え、離婚の訴え、協議上の離婚の無効及び取消しの訴え並びに婚姻関係の存否の確認の訴え

二 嫡出否認の訴え、認知の訴え、認知の無効及び取消しの訴え、民法 (明治二十九年法律第八十九号)第七百七十三条 の規定により父を定めることを目的とする訴え並びに実親子関係の存否の確認の訴え

三 養子縁組の無効及び取消しの訴え、離縁の訴え、協議上の離縁の無効及び取消しの訴え並びに養親子関係の存否の確認の訴え

≪判例参照≫

最高裁昭和55年3月27日判決

判旨抜粋

「民法七七二条により嫡出の推定を受ける子につき夫がその嫡出子であることを否認するためにはどのような訴訟手続によるべきものとするかは、立法政策に属する事項であり、同法七七四条、七七五条、七七七条がこれにつき専ら嫡出否認の訴によるべきものとし、かつ、右訴につき一年の出訴期間を定めたことは、身分関係の法的安定を保持する上から十分な合理性をもつ制度であつて、憲法一三条に違反するものではなく、また、所論の憲法一四条等違反の問題を生ずるものでもないことは、当裁判所の判例の趣旨に徴して明らかである(昭和二八年(オ)第三八九号同三〇年七月二〇日大法廷判決・民集九巻九号一一二二頁、昭和五四年(オ)第一四九号同五四年六月二一日第一小法廷判決参照)。論旨は,採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。」

最高裁平成12年3月14日判決

判旨抜粋

「二 第一審は、本件訴えを却下したが、原審は、本件訴えの適法性につき次のとおり判断し、第一審判決を取消して事件を第一審に差し戻す旨の判決をした。

1 民法上嫡出の推定を受ける子に対し、父がその嫡出性を否定するためには、同法の規定にのっとり嫡出否認の訴えによることを原則とするが、嫡出推定及び嫡出否認の制度の基盤である家族共同体の実体が既に失われ、身分関係の安定も有名無実となった場合には、同法七七七条所定の期間が経過した後においても、父は、父子間の自然的血縁関係の存在に疑問を抱くべき事実を知った後相当の期間内であれば、例外的に親子関係不存在確認の訴えを提起することができるものと解するのが相当である。

2 本件においては、被上告人と花子との婚姻関係は消滅しているのであるから、被上告人と上告人をめぐる家族共同体の実体が失われていることは明らかである。また、被上告人が上告人との間に自然的血縁関係がないのではないかとの疑いを高めたのは、平成七年一月二二日に花子からその旨の電話を受けた時であり、被上告人は、その後速やかに本件訴えを提起している。

3 したがって、本件においては、被上告人は、上告人に対し、親子関係不存在確認の訴えを提起し得るものと解すべきであり、本件訴えは適法といえる。

三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。

民法七七二条により嫡出の推定を受ける子につき夫がその嫡出であることを否認するためには、専ら嫡出否認の訴えによるべきものとし、かつ、右訴えにつき一年の出訴期間を定めたことは、身分関係の法的安定を保持する上から十分な合理性を有するものということができる(最高裁昭和五四年(オ)第一三三一号同五五年三月二七日第一小法廷判決・裁判集民事一二九号三五三頁参照)。そして、夫と妻との婚姻関係が終了してその家庭が崩壊しているとの事情があっても、子の身分関係の法的安定を保持する必要が当然になくなるものではないから、右の事情が存在することの一事をもって、嫡出否認の訴えを提起し得る期間の経過後に、親子関係不存在確認の訴えをもって夫と子との間の父子関係の存否を争うことはできないものと解するのが相当である。

もっとも、民法七七二条二項所定の期間内に妻が出産した子について、妻が右子を懐胎すべき時期に、既に夫婦が事実上の離婚をして夫婦の実態が失われ、又は遠隔地に居住して、夫婦間に性的関係を持つ機会がなかったことが明らかであるなどの事情が存在する場合には、右子は実質的には民法七七二条の推定を受けない嫡出子に当たるということができるから、同法七七四条以下の規定にかかわらず、夫は右子との間の父子関係の存否を争うことができると解するのが相当である(最高裁昭和四三年(オ)第一一八四号同四四年五月二九日第一小法廷判決・民集二三巻六号一〇六四頁、最高裁平成七年(オ)第二一七八号同一〇年八月三一日第二小法廷判決・裁判集民事一八九号四九七頁参照)。しかしながら、本件においては、右のような事情は認められず、他に本件訴えの適法性を肯定すべき事情も認められない。

そうすると、本件訴えは不適法なものであるといわざるを得ず、これと異なる原審の判断には法令の解釈適用を誤った違法があり、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。この点をいう論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、以上に説示したところによれば、本件訴えは却下すべきものであるから、右と結論を同じくする第一審判決は正当であって、被上告人の控訴はこれを棄却すべきものである。

よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。」