新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1331、2012/8/31 14:12 https://www.shinginza.com/qa-hanzai.htm

【刑事事件・身体拘束・強制わいせつ・準強制わいせつ・勾留請求却下・準抗告】

質問:私は,会社に勤める30代男性です。私は旅先で女性と意気投合し,ホテルのロビーで一緒にお酒を飲んでいました。女性は外国人旅行者だったのですが,英語での会話がはずみ,色々な話をしているうちに時間が経って,女性はだんだん眠そうになり,ロビーで眠ってしまいました。夜も遅くなっていたので,私も部屋に戻ろうと思いましたが,寝ている女性を置いて戻るわけにもいかず,女性を部屋まで送ることにしました。ところが,女性はかなり酔いが回っているようで,1人で歩けないような状態でした。部屋の前でも,鍵がうまく開けられず,私が鍵を開けて部屋に入りました。女性がそんな状態だったので,私は,室内に入り,女性に腰を下ろさせました。恥ずかしいことですが,そのとき性的欲求が強く沸き起こり,それを抑えられなかった私は,女性にキスをし,抱きしめ,服の中に手を入れて胸や臀部を直接触ってしまいました。女性は当初いやがる様子はありませんでしたが,突如大声を出し,ちょうど部屋の前を通りかかった男性宿泊客が入ってきて,女性の身体を触っていた私は取り押さえられました。その後,警察に引き渡され,私は逮捕されました。女性はすでに帰国したようです。職場の関係もあるので,できるだけ早く外に出たいのですが,どうしたらよいのでしょうか。

回答:
1 できるだけ早く外に出たいのであれば,弁護士を弁護人に選任し,勾留請求をしないよう検察官と交渉してもらうことが第一です。検察官に勾留請求されてしまった場合は,勾留質問の際に勾留の理由や必要のないことを弁護人に主張してもらうことが必要です。それでも,勾留が認められてしまった場合は,勾留決定に対する準抗告の申し立てを弁護人に依頼することになります。
2 逮捕の期間は短期間(最長で逮捕時から72時間)ですが,その後,勾留という長期の身体拘束が続く可能性が高いです。勾留については,逮捕後72時間以内にまず検察官が請求をするかどうか決め,それを受けて裁判所が勾留するかどうか決定します。勾留期間は10日以内で,さらに10日以内の延長がありえます。
2 強制わいせつ事案で逮捕されると,実務上,そのほとんどのケースで勾留がなされています。もっとも,個別の事案の特殊性が考慮され,検察官や裁判所の判断の結論が異なってくるケースはあります。たとえば被害者が国外に行ってしまった本件のような場合,罪証隠滅のおそれがないとして,勾留の判断に影響を及ぼすことは考えられます。
3 逮捕から勾留までは極めて時間が限られているため,早急に弁護士にご相談され,迅速な対応を進めていくべきでしょう。
4 関連する事務所事例集論文499番595番600番738番819番906番1077番1142番1262番1312番参照。
5 示談合意書について参考となる当事務所事例集論文として47番156番198番249番538番1031番1063番1115番1142番1199番1312番1318番があります。

解説:
1(刑事事件における身体拘束)
  刑事事件の被疑者として逮捕された場合,引き続いて勾留(10日間)並びに勾留期間の延長(最長で10日間)がなされる可能性があります。そして,その期間満了時に,検察庁が起訴をするかどうかを決定します。起訴された場合,引き続いて裁判所が裁判への被告人の出頭を確保するため勾留することになります(被告人となると保釈により釈放されることができます)。
  この身体拘束の流れについて,解説します。まず,手続の面でいうと,勾留については,警察官から送致を受けた検察官が勾留請求をするかどうか決め(刑事訴訟法205条1項),それを受けて裁判官が勾留をするか勾留請求を却下するかを決定し(同法207条1項・60条1項),その決定に不服があれば,裁判所に準抗告を申し立てることができることになっています(同法429条1項2号)。勾留期間延長についても同様です(同法208条2項前段,429条1項2号)。次に,時間的な面でいうと,逮捕後,72時間以内に検察官による勾留請求がされる必要があり(同法205条2項),裁判所が勾留の決定をした場合,その勾留期間は勾留請求から10日間以内(同法208条1項),勾留期間延長がされた場合は,さらに10日間以内で身体拘束が続きます(同条2項)。  ここでは,あなたが最も気になさっている,身体拘束からの解放という点にしぼって解説します。

2(強制わいせつ事案での身体拘束)
  前項で述べた勾留については,定まった住居がないか,罪証隠滅のおそれがあるか,逃亡のおそれがある場合で,勾留の必要性がある場合に認められます(刑事訴訟法60条1項,同法87条1項)。そのため,身体拘束が続くかどうかについては,事案の軽重や具体的態様,事実に対する認否の態度等によっても異なってきます。
  一般的にいって,否認している場合には罪証隠滅や逃亡のおそれがあるとして勾留されるケースが多いですが,否認していても事案によっては勾留されずに釈放されたケースもあります(もっとも,本件においては,男性宿泊客という目撃者がいることもあり,事実について否認するという方針にはならないでしょうが。)。
  また,強制わいせつ事案(本件は,女性の酩酊ないし泥酔状態に乗じたわいせつ行為であり,準強制わいせつに該当するところ(刑法178条1項),同犯罪の扱いは,「強制わいせつ(同法176条)の例による。」とされています。)では,実務上,そのほとんどのケースで勾留がなされています(なお,準強制わいせつは親告罪であり(同法180条),起訴される前に告訴取消しがなされれば(刑事訴訟法237条1項),訴訟追行条件が欠けるため,釈放となり不起訴となります。そのため,勾留期間満期・勾留延長期間満期までに被害者に謝罪し,示談して,被害者の宥恕をとりつけて告訴取消しをしてもらう必要がありますが,ここでの本題からはそれるため,詳細は割愛します。)。

3(個別の事案の特殊性と身体拘束)
 (1) 一般的にみると,前項で述べたとおりの見通しではありますが,個別の事案の特殊性が考慮され,検察官や裁判所の判断の結論が異なってくるケースはあります。
  たとえば,本件の場合,被害者がすでに帰国してしまったことは,罪証隠滅との観点からすればあなたに有利にはたらく事情となります。被害者の住所を知らなかったり,目撃者の住所・氏名を知らなかったりすれば,同様の理由から,あなたに有利にはたらく事情となります。また,ホテルの廊下にある監視カメラの映像等も客観的証拠たりえますので,やはり同様の理由で,その映像の存在があなたに有利にはたらく事情となりえます。  さらには,あなたが反省して罪を認める心境になっていれば,それも主観的な罪証隠滅のおそれがないとして,有利にはたらく一事情となります。なお,被害者との示談が見込まれるのであれば,被害者が,被疑者に対する宥恕の意思から告訴を取り消すことも想定され,そうなれば訴訟追行条件自体がなくなり,不起訴・釈放となるため,やはり罪証隠滅を行う主観的契機がないといいうる事情の1つとなります。
  また,身元引受をしてくれる同居の家族や,扶養すべき家族等がいること,定職についていることは,やはり逃亡のおそれなしとする一事情となります。
  さらには,勾留され身体拘束が続くと失職のおそれがあることや,扶養すべき家族の存在,試験日程の存在,病気の罹患などは,それぞれ勾留性の必要がないとする事情となりえます。

 (2)実務上,強制わいせつの事案で,検察官からなされた勾留請求について裁判所で却下された例もあります。勾留請求に対する裁判に具体的は理由が付されないため,裁判所との事実上のやりとり等を参考にした推測とはなります,が@本事例と同様被害者が外国人で,帰国してしまったこと(帰国した外国人の住所,連絡先は不明なので証拠隠滅の可能性は考えらない。)やA被害者と示談交渉ができる運びとなっていたこと(交渉の経過も詳細に明示する),B被疑者に身元引受をする家族がいたこと,C事実を認めていたこと,D勤務先で要職にあったことなどが考慮されたものと思われます。

 (3)逮捕されてから勾留請求,勾留質問まで,延べ3−4日(東京の場合,午後に逮捕されると勾留質問が勾留請求の翌日ですから4日間が予定されます。)しかありませんから本当に時間との戦いになります。まずは,@接見,A弁護方針決定,B勾留請求阻止,却下の意見書準備,Cそのための示談金用意,被疑者,家族謝罪文作成,身元引き受け書等作成,D検察官交渉,E裁判官交渉,F警察署,検察官に対する被害者連絡先開示の要請,G被害者側との接触,以上の事項を迅速に行う必要があり,最も重要なのは,被害者側との接触であり,具体的には,滞在先のホテルに行き事情を説明して被害者側との交渉を始めることです。

4(最後に)
  以上のとおりで,早期身体拘束解放のためには,勾留の理由や必要性について一般的な見通しを念頭に置きつつ,個別事案に即して具体的な主張をし,まずは検察官に勾留請求しないよう働きかけることが肝要です。勾留請求しなくても捜査に悪影響のないことを具体的に説明するとともに被害者との示談交渉を進め被害届や告訴を取り下げてもらうように弁護人は活動することになります。
  本件では,被害者が外国に帰国してしまっているということですので,事実上,公判における証人尋問が困難な状態になっています。捜査担当検事を説得して,被害者との連絡を取り,被害弁償金を提示して示談成立させ,告訴取り下げをさせて,不起訴処分とすべき事案であることを主張すべきです。
  逮捕から勾留までは極めて時間が限られているため,早急に弁護士にご相談され,迅速な対応を進めていくべきでしょう。

≪参照条文≫

刑法
(強制わいせつ)
第百七十六条 十三歳以上の男女に対し,暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は,六月以上十年以下の懲役に処する。十三歳未満の男女に対し,わいせつな行為をした者も,同様とする。
(準強制わいせつ及び準強姦)
第百七十八条 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ,又は心神を喪失させ,若しくは抗拒不能にさせて,わいせつな行為をした者は,第百七十六条の例による。
2 女子の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ,又は心神を喪失させ,若しくは抗拒不能にさせて,姦淫した者は,前条の例による。
(親告罪)
第百八十条 第百七十六条から第百七十八条までの罪及びこれらの罪の未遂罪は,告訴がなければ公訴を提起することができない。
2 前項の規定は,二人以上の者が現場において共同して犯した第百七十六条若しくは第百七十八条第一項の罪又はこれらの罪の未遂罪については,適用しない。

刑事訴訟法
第六十条 裁判所は,被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で,左の各号の一にあたるときは,これを勾留することができる。
一 被告人が定まつた住居を有しないとき。
二 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
三 被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
2 勾留の期間は,公訴の提起があつた日から二箇月とする。特に継続の必要がある場合においては,具体的にその理由を附した決定で,一箇月ごとにこれを更新することができる。但し,第八十九条第一号,第三号,第四号又は第六号にあたる場合を除いては,更新は,一回に限るものとする。
3 三十万円(刑法 ,暴力行為等処罰に関する法律(大正十五年法律第六十号)及び経済関係罰則の整備に関する法律(昭和十九年法律第四号)の罪以外の罪については,当分の間,二万円)以下の罰金,拘留又は科料に当たる事件については,被告人が定まつた住居を有しない場合に限り,第一項の規定を適用する。
第八十七条 勾留の理由又は勾留の必要がなくなつたときは,裁判所は,検察官,勾留されている被告人若しくはその弁護人,法定代理人,保佐人,配偶者,直系の親族若しくは兄弟姉妹の請求により,又は職権で,決定を以て勾留を取り消さなければならない。
2 第八十二条第三項の規定は,前項の請求についてこれを準用する。
第二百五条 検察官は,第二百三条の規定により送致された被疑者を受け取つたときは,弁解の機会を与え,留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し,留置の必要があると思料するときは被疑者を受け取つた時から二十四時間以内に裁判官に被疑者の勾留を請求しなければならない。
2 前項の時間の制限は,被疑者が身体を拘束された時から七十二時間を超えることができない。
3 前二項の時間の制限内に公訴を提起したときは,勾留の請求をすることを要しない。4 第一項及び第二項の時間の制限内に勾留の請求又は公訴の提起をしないときは,直ちに被疑者を釈放しなければならない。
5 前条第二項の規定は,検察官が,第三十七条の二第一項に規定する事件以外の事件について逮捕され,第二百三条の規定により同項に規定する事件について送致された被疑者に対し,第一項の規定により弁解の機会を与える場合についてこれを準用する。ただし,被疑者に弁護人があるときは,この限りでない。
第二百七条 前三条の規定による勾留の請求を受けた裁判官は,その処分に関し裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。但し,保釈については,この限りでない。
2 前項の裁判官は,第三十七条の二第一項に規定する事件について勾留を請求された被疑者に被疑事件を告げる際に,被疑者に対し,弁護人を選任することができる旨及び貧困その他の事由により自ら弁護人を選任することができないときは弁護人の選任を請求することができる旨を告げなければならない。ただし,被疑者に弁護人があるときは,この限りでない。
3 前項の規定により弁護人の選任を請求することができる旨を告げるに当たつては,弁護人の選任を請求するには資力申告書を提出しなければならない旨及びその資力が基準額以上であるときは,あらかじめ,弁護士会(第三十七条の三第二項の規定により第三十一条の二第一項の申出をすべき弁護士会をいう。)に弁護人の選任の申出をしていなければならない旨を教示しなければならない。
4 裁判官は,第一項の勾留の請求を受けたときは,速やかに勾留状を発しなければならない。ただし,勾留の理由がないと認めるとき,及び前条第二項の規定により勾留状を発することができないときは,勾留状を発しないで,直ちに被疑者の釈放を命じなければならない。
第二百八条 前条の規定により被疑者を勾留した事件につき,勾留の請求をした日から十日以内に公訴を提起しないときは,検察官は,直ちに被疑者を釈放しなければならない。2 裁判官は,やむを得ない事由があると認めるときは,検察官の請求により,前項の期間を延長することができる。この期間の延長は,通じて十日を超えることができない。
第二百三十七条 告訴は,公訴の提起があるまでこれを取り消すことができる。
2 告訴の取消をした者は,更に告訴をすることができない。
3 前二項の規定は,請求を待つて受理すべき事件についての請求についてこれを準用する。
第四百二十九条 裁判官が左の裁判をした場合において,不服がある者は,簡易裁判所の裁判官がした裁判に対しては管轄地方裁判所に,その他の裁判官がした裁判に対してはその裁判官所属の裁判所にその裁判の取消又は変更を請求することができる。
一 忌避の申立を却下する裁判
二 勾留,保釈,押収又は押収物の還付に関する裁判
三 鑑定のため留置を命ずる裁判
四 証人,鑑定人,通訳人又は翻訳人に対して過料又は費用の賠償を命ずる裁判
五 身体の検査を受ける者に対して過料又は費用の賠償を命ずる裁判
2 第四百二十条第三項の規定は,前項の請求についてこれを準用する。
3 第一項の請求を受けた地方裁判所又は家庭裁判所は,合議体で決定をしなければならない。
4 第一項第四号又は第五号の裁判の取消又は変更の請求は,その裁判のあつた日から三日以内にこれをしなければならない。
5 前項の請求期間内及びその請求があつたときは,裁判の執行は,停止される。

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