新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1297、2012/7/3 12:55

【民事・連帯保証人から回収を図る場合における消滅時効の管理,保証人による主債務の時効援用の危険性・連帯保証の性格・東京地裁平成8年8月5日判決】

≪質問≫
 400万円の貸金について,連帯保証人に対してのみ訴訟を提起したところ,分割(毎月5万円ずつ,全80回=6年8か月間)で返済するという裁判上の和解が成立しました。主債務者に対しては,現実的に支払が期待できないので訴訟をしませんでしたが,この場合,もうこのまま何もしなくて大丈夫でしょうか。主債務者,連帯保証人の双方とも商事時効(5年)が適用される事案です。

≪回答≫
1.連帯保証人に対する消滅時効は訴え提起により中断され,消滅時効期間も各分割金の支払期限の翌日から10年間に伸長されましたので,消滅時効完成の心配は遠のいたといえます。
2.主債務者に対する貸金債権の消滅時効も今回の訴訟によって中断しましたが,主債務の消滅時効期間は5年間のままです。10年には伸びません。
 つまり,分割払いの途中で主債務の消滅時効が完成してしまいます。連帯保証人が主債務の消滅時効を援用する虞があるので,それに対する手当を検討する必要があります。
3.他、関連事例集を事務所法律相談事例集キーワード検索でお願いします。:1082番1020番922番765番218番52番参照。

≪解説≫

【消滅時効の制度の趣旨】
 本件のポイントは,連帯保証人に対して時効中断行為を行った場合における、主債務者に対する貸金返還請求権の消滅時効の成否ですが、消滅時効の趣旨をあらかじめ説明致します。
 
 消滅時効の制度が認められているかについては、いろいろな学説がありますが、一般的に@長期間続いた事実関係を法的に保護し法律関係の安定を維持するため、A長期間行使されない権利は法律上保護する必要がないということや(権利の上に眠るものは保護されない)、B期間の経過により証拠が無くなってしまう可能性があるのでむしろ債務者を保護する必要がある(例えば弁済の領収書の紛失)、ということからこのような制度が法律上存在すると理解すれば納得できると思います(時効の種類により以上の理由を折衷的に考えられています。)。一般の人から見ると権利があるのに期間の経過により消滅してしまうのはおかしいと思うかも知れませんが、私的紛争解決の理想は、単に権利があるかどうかということだけでなく、当事者に公平にそして、迅速、低廉に行い公正な法社会秩序を維持することであり(民法1条、民訴2条、)時効制度は私的紛争解決にとって必要不可欠なものです。ちなみに、刑事裁判における公訴時効(刑訴250条以下)、刑の時効(刑法31条、刑の言い渡しを受けたものの時効。)もほぼ同様の理由で認められています。

【時効の中断とは】
 時効期間の進行中,時効の基礎となる事実状態と相容れない事情が発生した場合は,もはや永続する事実関係を尊重して法律関係を安定させるなどの時効制度の趣旨が妥当しなくなるため,それまでに経過した時効期間を無意味なものとするというのが時効中断の制度です。
 民法は,時効の中断事由として,「請求」,「差押え・仮差押え・仮処分」,「承認」を挙げています(民法147条)。

【連帯保証人に対する裁判上の請求による主債務の時効中断効】
 訴訟提起をすることは,民法147条1号の「請求」としての時効中断事由にあたります。したがって,連帯保証人に対して訴訟提起をすれば,連帯保証人に対する保証債務履行請求権の消滅時効が中断することになります。これは、保証人の不従性(その権利の成立、存続、消滅、態様等が主たる債務と運命をともにすること。)に基づくもので保証債務の性質から当然に導かれます。すなわち、そういう意味で保証債務は主たる債務から独立した債務ではありません。
 さらに,連帯保証人に対する裁判上の請求は,主債務者に対する貸金返還請求権の消滅時効も中断させる効力を有しています(民法458条,434条)。
 本来は,時効中断の効力が生じるのは,時効中断事由が発生した当事者およびその承継人に限られます(相対効,民法148条)。民法の原則的な考え方である私的自治(自由主義のもと個人の私法上の法律関係については,個人が自由な意思に基づいて形成すべきとするもの)から導かれた規定です。
 この例外の一つとして,連帯保証人に対する裁判上の請求は,主債務者に対しても効力を生じるとされています(民法458条,434条)。民法434条は連帯債務者間における請求の絶対効に関する規定ですが,民法458条がこの規定を連帯保証について準用するとしています。

 どうしてこのような例外規定があるのでしょうか。まず準用されている連帯債務について説明します。連帯債務も本来、各債務は別個独立のものであり(各連帯債務者が独自に債権者と契約するので。同一内容の弁済を目的として主観的共同があるだけです。)、各連帯債務者間に生じた事由は他の連帯債務に影響を及ぼさないのが原則です。民法440条は相対効の原則を規定していますが、これは当然のことを規定しています。請求に絶対効を認める理由は、連帯債務が、人的保証のために債権者が同一内容の弁済を目的として主観的共同(連帯)があるので(不真性連帯債務はここが異なる。)債権者の立場を強化したものです(他の絶対効は、同一内容の債務弁済を共同目的とする観点から規定してあります。)。次に、連帯保証について生じた事由は連帯保証人が主たる債務と連帯する主観的共同があるので、同じく債権者の立場強化の趣旨から絶対効を準用したものです。仮に、通常の保証人であると保証人への請求は、主たる債務も、保証債務も独立した債務ですから主観的共同がないので主たる債務に対して絶対効は認められません。

【主債務者に対する時効中断事由が連帯保証人に及ぼす効力と,連帯保証人に対する時効中断事由が主債務者に及ぼす効力との比較】
 少し話が逸れますが,連帯保証人に対する裁判上の請求が主債務の時効を中断する,という説明から敷衍して,主債務者に対する時効中断事由が連帯保証人に及ぼす効力と,連帯保証人に対する時効中断事由が主債務者に及ぼす効力とを比較してみたいと思います。相対効の例外とされる範囲が違うという比較です。
 まず,主債務者に時効中断が生じた場合ですが,この場合は,保証債務の時効も中断するとされています(民法457条1項)。保証債務の不従性から当然のことです。そのときの時効中断事由「請求」,「差押え・仮差押え・仮処分」,「承認」のいずれであったとしても同じです。
 これに対して,連帯保証人に対して時効中断が生じたとしても,そのことが常に主債務の消滅時効までも中断させるとは限りません。連帯保証人については,民法457条1項に相当するような時効中断効を正面から扱った規定はなく,前記のとおり,民法458条が連帯債務に関する民法434条(請求の絶対効)を準用する規定があるだけです。つまり,連帯保証人に対する「請求」には主債務者に対する時効中断効があります(手形債務に関する裁判例として最高裁昭和48年9月7日判決)が,「差押え・仮差押え・仮処分」,「承認」については連帯保証債務自体の時効は中断しても,主債務の時効は中断しないのです(大審院昭和12年11月2日判決等多数の裁判例)。
 これは、連帯保証債務自体は、主たる債務に対し不従性を有しますが、主たる債務から見ると、連帯保証人側と同一内容債務弁済の主観的共同関係があっても元々別個独立のものであり請求の絶対効自体が前述のように例外なので、原則に戻りそれ以上の効力、すなわち主たる債務に対して承認等の絶対効は認められないことになります。
 さらに敷衍すると,保証人が連帯保証人ではなく,単純保証人である場合には,民法458条が適用されないことから,保証人に対する「請求」ですらも主債務の時効中断効を有しません。つまり,相対効の原則どおりということになります。
 これらの違いは,実務においてもしばしば債権者の勘違いやうっかりミスを生じさせ易いところです。

【確定判決等による時効中断の効果,民法174条の2による期間伸張】
 さて,話を戻しましょう。
 本件では,連帯保証人に対して訴訟を起こして,訴訟上の和解を成立させることができました。そこで,これによる連帯保証債務の消滅時効に対する効果を確認して行きます。
 時効中断効が生じる時点は裁判上の請求をした時,すなわち訴えの提起時(民事訴訟法147条)ですが,中断した時効期間が再び進行を開始する起算点は裁判が確定した時からとされています(民法157条2項)。
 本件は裁判上の和解の事案ですが,和解が調書に記載されると,その記載が確定判決と同一の効力を有するとされています(民事訴訟法267条)。そして,裁判上の和解は期日において直ちに調書に記載されるため,和解成立時をもって新たな時効期間が進行を開始します。
 また,本件における連帯保証債務履行請求権の消滅時効は,商事時効が適用される事案であることから元々の時効期間は5年でしたが,民法174条の2により10年間に伸張されます。

【連帯保証債務に対する民法174条の2による期間伸張が主債務にも及ぶか】
 いよいよ本件の肝ともいうべき論点に進みます。
 連帯保証人に対してだけ訴訟提起し,裁判上の和解を成立させた場合,民法174条の2に基づく時効期間伸張の効果は主債務にも及ぶでしょうか。つまり,主債務についても元々5年だった時効期間が10年に伸びるでしょうか。
 この点,裁判例は,民法174条の2は,当該判決の当事者間においてのみ効力を生じるものとして,主債務の時効期間は10年には伸びないと解しています(大審院昭和20年9月10日判決,東京高裁平成5年11月15日判決,東京地裁平成8年8月5日判決)。前述のように連帯保証人側に生じた事由は、相対効の原則から主たる債務者に及ばないのですから妥当な判断です。
 これに対して,主債務者に対して判決を取得するなどして主債務につき民法174条の2に基づく時効期間伸張の効果が生じた場合は,連帯保証債務の時効期間もこれに応じて10年に伸張すると解されています(最高裁昭和43年10月17日判決)が,これは保証債務の附従性から導かれる結論であって,前記一連の裁判例とは矛盾しません。連帯保証債務は主債務に対して附従性を有しますが,主債務は連帯保証債務に対して附従性を有しないからです。

【連帯保証人は主債務の消滅時効を援用できるか】
 このように,連帯保証債務の時効期間が10年に伸張したにもかかわらず,主債務の消滅時効期間が5年のままだと,主債務の消滅時効期間が先に完成する事態が生じうることとなります。
 ではそのような事態が生じたとき,連帯保証人は主債務の消滅時効を援用することができるでしょうか。民法145条は「時効は,当事者が援用しなければ,裁判所がこれによって裁判をすることができない。」として,当事者による援用を要件としていますが,ここにいう当事者に連帯保証人が含まれるかという問題です。
 時効援用権者の範囲について,判例は時効の援用によって「直接利益を受ける者」がそれにあたるという表現をしています。これだけだとピンとこないかと思いますが,連帯保証人については,主債務が時効により消滅すれば,保証債務の附従性によって連帯保証債務も消滅する関係にあることから,これにあたると解されています。
 したがって,連帯保証人としては,自己の連帯保証債務について時効完成していないときでも,主債務の時効期間が完成したときには,主債務の消滅時効を援用することによって附従性により連帯保証債務を消滅させ,支払を免れることができることになります。

【本件へのあてはめ】
 本件においては,連帯保証人に対してのみ訴訟提起し,裁判上の和解がされました。これにより,連帯保証人に対してだけでなく,主債務者に対する関係でも消滅時効は中断し,いずれについても和解日の翌日を1日目と数える新たな時効期間が進行を開始しましたが,連帯保証債務の消滅時効期間は民法174条の2によって10年に伸張されたものの,主債務の消滅時効期間は相変わらず5年のままとなっています。
 ところが,本件和解の内容は,毎月5万円ずつ,全80回6年8か月間にわたる分割払いとなっています。そうすると,単純に考えて61回目以降の分割金については,それらの支払日が来るよりも先に主債務の消滅時効期間が完成してしまうことになります。すなわち,連帯保証人としては,主債務の消滅時効期間が完成し次第これを援用することで,61回目以降の分割金の合計100万円の支払を免れることができてしまいます。
 時効の利益をあらかじめ放棄することはできないので(民法146条),和解をした連帯保証人に対して主債務の消滅時効を援用しないように約束させることはできません。お寄せいただいたご事情によれば,主債務者に対しては現実的に支払が期待できないから訴訟対象から外したとのことですが,主債務者との連絡はつくのか,行方不明なのか,それとも連絡を拒否されているだけなのか,住所は遠方なのかなど,具体的な事情を伺ったうえで,主債務の時効中断に向けた対策を検討する必要があります。
 主債務者と連絡が取れて,時効中断事由としての債務承認をしてもらうことに協力が得られそうであればその方法が最も簡便でしょう。ご自身で連絡が可能な場合でも,抜かりのない債務承認書を作成するために一度は弁護士に相談することをお勧めします。債務承認を得ることが難しい場合は,裁判上の請求による方法を選択せざるを得ないかと思います。
 弁護士にご相談なさる際は,連帯保証人に対して起こした訴訟の記録一式をお持ちになると良いでしょう。

≪参照法令≫

【民法】
(時効の援用)
第百四十五条  時効は、当事者が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。
(時効の利益の放棄)
第百四十六条  時効の利益は、あらかじめ放棄することができない。
(時効の中断事由)
第百四十七条  時効は、次に掲げる事由によって中断する。
一  請求
二  差押え、仮差押え又は仮処分
三  承認
(時効の中断の効力が及ぶ者の範囲)
第百四十八条  前条の規定による時効の中断は、その中断の事由が生じた当事者及びその承継人の間においてのみ、その効力を有する。
(中断後の時効の進行)
第百五十七条  中断した時効は、その中断の事由が終了した時から、新たにその進行を始める。
2  裁判上の請求によって中断した時効は、裁判が確定した時から、新たにその進行を始める。
(消滅時効の進行等)
第百六十六条  消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する。
2  略
(債権等の消滅時効)
第百六十七条  債権は、十年間行使しないときは、消滅する。
2  略
(判決で確定した権利の消滅時効)
第百七十四条の二  確定判決によって確定した権利については、十年より短い時効期間の定めがあるものであっても、その時効期間は、十年とする。裁判上の和解、調停その他確定判決と同一の効力を有するものによって確定した権利についても、同様とする。
2  前項の規定は、確定の時に弁済期の到来していない債権については、適用しない。
(連帯債務者の一人に対する履行の請求)
第四百三十四条  連帯債務者の一人に対する履行の請求は、他の連帯債務者に対しても、その効力を生ずる。
(相対的効力の原則)
第四百四十条  第四百三十四条から前条までに規定する場合を除き、連帯債務者の一人について生じた事由は、他の連帯債務者に対してその効力を生じない。
(主たる債務者について生じた事由の効力)
第四百五十七条  主たる債務者に対する履行の請求その他の事由による時効の中断は、保証人に対しても、その効力を生ずる。
2  略
(連帯保証人について生じた事由の効力)
第四百五十八条  第四百三十四条から第四百四十条までの規定は、主たる債務者が保証人と連帯して債務を負担する場合について準用する。

【商法】
(商事消滅時効)
第五百二十二条  商行為によって生じた債権は、この法律に別段の定めがある場合を除き、五年間行使しないときは、時効によって消滅する。ただし、他の法令に五年間より短い時効期間の定めがあるときは、その定めるところによる。

【民事訴訟法】
(時効中断等の効力発生の時期)
第百四十七条  時効の中断又は法律上の期間の遵守のために必要な裁判上の請求は、訴えを提起した時又は第百四十三条第二項(第百四十四条第三項及び第百四十五条第三項において準用する場合を含む。)の書面を裁判所に提出した時に、その効力を生ずる。
(和解調書等の効力)
第二百六十七条  和解又は請求の放棄若しくは認諾を調書に記載したときは、その記載は、確定判決と同一の効力を有する。

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