新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1269、2012/5/15 15:28 https://www.shinginza.com/qa-souzoku.htm

【相続・特定の相続人に「特定財産を相続させる」という遺言の効力発生前に当該相続人が死亡した場合相続人の子は特定財産を相続又は,代襲相続することができるか・最高裁平成23年2月22日判決】

質問:2011年4月1日,私の母が亡くなりました。母の遺産は,母が住んでいた都内の土地及び建物(時価4000万円相当)と1000万円の預金のみです。2005年10月に父は既に死亡しており,残された遺族は私(既婚,子供なし)と妹A(既婚,長男B)の2人ということになります。なお,母は,父の死亡の事実を受け,2006年3月に自筆で遺言を作成しました。その内容は,「今私が住んでいる土地と建物及び預金は,全てAに相続させる」という内容のものでした。その後,2009年3月,妹Aは母より先に亡くなり,現在に至ります。母が亡くなった後,妹の長男Bから連絡があり,「祖母が書いた遺言に従えば,私がAを代襲して全て相続できるはずである。今後の手続に協力して欲しい」と言われました。妹の長男Bの話は正しいのでしょうか。母が一度遺言を作成している以上,私は母の遺産を全く相続することができないのでしょうか。

回答:
1.本件遺言は,遺言作成者である母よりも遺産を相続すると指定されているAが先に死亡しているため,Aの相続人であるBに相続させるという特段の事情がない限り,原則として無効となります。
2.遺言が無効となったことから,法定相続となり,あなたとAの代襲相続人であるBがそれぞれ1/2の相続分を有することになります。
3.関連事務所事例集論文1130番731番参照。

1(総論)
(1)遺言が存在しない場合の原則論
   本件について理解するにはまず,遺言がない場合,法定相続だとどのようになるのか理解しておく必要がありますので,簡単に説明します。
本件において母の法定相続人は,子であるあなたと孫のBの2名で,それぞれ1/2ずつの法定相続分を有しています(民法887条1項及び2項,901条1項)。なお,Bによる相続を,特に代襲相続といいます。
   従って,本件において遺言が存在しない場合は,あなたとBが,(4000万円+1000万円)×1/2=2500万円をそれぞれ相続できることになります。

(2)遺言による(1)の原則の修正
   有効な遺言が存在している場合,遺言者により,遺留分規定に反しない限りで相続財産が処分されたことになるため(民法908条,民法964条,1028条以下。なお,民法1031条は遺贈及び贈与を遺留分減殺の対象として明記していますが,後記3のとおり本件遺言が遺産分割方法の指定である場合も,遺留分減殺の対象となると解されています),上記(1)の相続分に修正が加えられることになります。
   本件の遺言では,遺産の受取人と指定されているAが遺言をした母より先に死亡しているため遺言の効力が問題となりますが,仮に有効な遺言でAの相続人であるBが母親の遺産も相続するという遺言として有効と認められると,あなたは自身の遺留分である(4000万円+1000万円)×1/2×1/2=1250万円分相当の相続分しか有しないことになります。
   遺言が無効となれば,(1)の原則に戻って処理されることになります。

2 本件の問題点について
  本件は,母が「Aに相続財産の全てを相続させる」という内容の遺言を残しているにもかかわらず,母の死亡時に既にAが死亡している点が特徴です。そして,遺言者の死亡以前に受遺者が死亡した場合,遺言は効力を生じないと民法994条1項で規定されていることから,相続財産のすべてを相続させるという内容の遺言も無効となるのでは,という疑問が生じます。
  また当該規定の適用はなく,遺言が無効と扱われないとしても遺言書の文言解釈として,あくまで「相続させる」遺言を受けたのはAであり,その効力はBに及ばないのではないか(遺言はAに相続させるということで,Bに相続させるということでないのでは),という点が問題になります。

3 問題点に関する解釈論
(1)「相続させる」旨の遺言の法的性質
ア まず,「相続させる」という内容の遺言が,遺贈(単独行為という意思表示による法律行為により権利移転が生じるので相続が発生しその後遺贈する義務を相続した相続人から受贈者に権利が移転する。)なのか遺産分割方法の指定(死亡を原因とする包括承継である相続に関して遺産分割の一つの態様を明らかにしたものであり権利移転の原因は意思表示ではないので,被相続人から直接当該相続人に権利移転が生じる。)なのかという法的性質を明らかにする必要があります。なぜなら,同じ権利移転であっても相続と法律行為では各々の法的性質が異なるため法的効果が同一ではないからです。本件において,母が作成した「今私が住んでいる土地と建物及び預金は,全てAに相続させる」と記載された遺言は,相続させる旨の遺言などと呼ばれ,その法的性質について従来は争いがありました。すなわち,被相続人の遺産を特定の人物に渡すという内容の遺言であることから,(a)遺贈(民法964条)とする見解,(b)遺産分割方法の指定(民法908条 相続の一態様)とする見解に分かれていました。

イ この点,相続させる旨の遺言が「(a)遺贈」であるという解釈を前提にすると,遺言者たる母の死亡以前に受遺者たるAが死亡している本件では,民法994条1項が適用され母の残した遺言は無効となり,あなたとBは,それぞれ1/2の相続分を有していることを前提に,遺産分割協議や調停等を経たうえで,遺産の相続を実現することになります。

ウ これに対し,相続させる旨の遺言が「(b)遺産分割方法の指定」であるという解釈を前提にする場合,上記民法994条1項のような直接の明文規定が存在しないため,母が残した遺言の有効性をどのように扱うべきかという問題が残ります。

エ この点,最判平成3年4月19日判決は,遺言者の合理的意思解釈により,「遺言書の記載から,その趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情がない限り・・・正に民法908条にいう遺産の分割の方法を定めた遺言であり」と判断しました。すなわち最高裁は,相続させる旨の遺言について,(b)の立場に立っていることになります。
  従って本件の場合も,実務上は,遺言の趣旨解釈から遺贈と解すべき特段の事情がない限り,基本的には(b)の立場を前提に,本件遺言の有効性をどのように解するかを検討する必要があります。

(2)(b)の立場による場合に考えうる処理
  ア 本件において,(b)の立場による処理を行う場合,
(@)民法994条1項と同様の処理により遺言を無効とする見解
(A)遺言を有効と扱う見解
(B)遺言の解釈によって有効性を判断する見解,
に大きく分けることが可能だと思われます。

  イ (@)の見解は,相続させる旨の遺言は,相続させる相手の個性を重要視して作成するのが通常であるという理解の下,遺言者の死亡時に当該相続人が既に死亡している場合には,民法994条1項を類推適用するなどして遺言を無効と扱うべきとする見解です。
    
  ウ (A)の見解は,遺産分割方法の指定は遺贈ではない以上,民法994条1項の規定の適用はないとする見解です(最判平成23年2月22日の原審である東京地判平成20年11月12日)。
     遺言によって可能とする財産承継の方式として,相続分の指定(民法902条),遺産分割方法の指定(民法908条),遺贈(民法964条)等をそれぞれ個別に規定しているにもかかわらず,民法994条1項が明確に「遺贈」とだけ定めていることからすれば,民法994条1項の適用場面は遺贈の場合に限るとするのが法の趣旨であると解すべきであるという理由です。
     この見解による場合,遺言を無効と扱わないとしても,本来の相続人の卑属が当然に代襲相続できるのか,という問題が理論的には残ります。この問題点については,代襲相続の法的性質が本来の相続人が有していた相続分を代襲相続人が承継するものではなく,代襲相続人は被相続人から自己の相続分を直接取得するという理解の下,相続させる旨の遺言が遺産分割方法の指定という「相続」の一形態である点に着目し,かかる遺言に対する代襲相続規定(民法887条2項等)の適用または準用が可能であるとするものです(東京高判平成18年6月29日,前掲東京地判平成20年)。

  エ (B)の見解は,本件の様な場合に一律に遺言を有効無効と判断するのではなく,あくまで遺言者の合理的意思解釈によって遺言の有効性を判断すべきとする見解です。
    そして,本件遺言の有効性判断については,下記のとおり考えることになります。
    遺言者は,その者と各推定相続人の経済状況や遺言者との関わりあいの程度等の諸般の事情を考慮して遺言をするものであるため,相続させる旨の遺言をした遺言者は,通常,遺言時における特定の推定相続人に限り当該遺産を取得させる意思であるという理解を前提に,本件の様な場合においては,相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情のない限り,遺言を無効とする見解です。
これは,最判平成23年2月22日において判断された見解であり,今後,実務はこの判例に従って運用されていくことになります。

  オ 遺言者が代襲相続を許容する意図で遺言を作成するのであれば,遺言にその旨明記,もしくはその意図が伝わる記載内容にしているはずであり,本来相続させる相手方が死亡した後に遺言者が遺言を再度作成することも法律上は予定されており(民法1022条,1023条)可能であるため,原則として遺言を無効とし,代襲相続を認めないという結論は妥当であると思われます。
   なお,前記最高裁判例にいう「特段の事情」の判断については,遺言書において表明されている遺言者の意思を尊重して合理的にその趣旨を判断する必要がありますが(最判平成3年4月19日),遺言に代襲相続の許容が直接明記されていなくても,その他の遺産分割方法を指定した,理由,背景事情により,代襲相続を許容する趣旨の記載であったと判断できるケースも十分あるものと思われます。本件のように相続財産のすべてをAに相続させるという遺言の場合,そのような遺言をした理由にもよりますが,他の相続人には相続させないということですから,遺言者の意図を考えるとAの子どもや子孫に財産を譲りたいという趣旨であったと考えられることは少なくないでしょう。但し,この点の立証責任は遺言の効力を主張する代襲相続人の側にあることになります。

4 結論
  以上のとおり,本件において,母がBに対して代襲相続させる意思を有していたと認める特段の事情の主張立証がない限り,母が残した遺言は無効であり,あなたとBはそれぞれ相続財産の1/2ずつ,具体的には2500万円ずつの相続分を有しています。そのため,あなたは自己の法定相続分に基づき,Bと遺産分割協議を行う必要があるでしょう。

5 最後に,本件について,その問題点,実質的理由を再度考えてみます。  
(1)まず,「相続させる」という遺言書の文言は,遺贈,遺産分割方法の指定(相続分の指定)のどちらにでも解釈できます(どの方法でも記載の内容は有効です。)。違いは,死亡という事実による権利移転(相続,包括承継である分割方法の指定,相続分の指定)か,遺言書による法律行為(単独行為という意思表示,遺贈)かという点に現れます。遺贈は,理論上一旦推定相続人に権利が移転し(相続により),さらにその権利が,受遺者に移転するという形になるのに対し,相続分の指定の場合は,相続ですから相続発生時から当該相続人に権利が当然承継され移転するという形式になります。この違いから,法は,相続と遺贈(法律行為)では法的効果,権利移転の手続き等について差異が生じることにしています(例えば,遺贈の994条,分割方法の指定には遺贈のような規定がない。)。他に,登記申請は相続であれば,単独申請,遺贈であれば共同相続人の共同申請となり,当該相続財産を推定相続人から譲り受けた第三者は対抗問題か,無権利者からの取得かという問題(後述します),遺産が農地の場合県知事(農業委員会)の許可が必要かどうか(分割方法の指定は不要,遺贈は必要となるのが理論的です。農地法3条。)。

  遺言書の解釈は,被相続人の最終意思を実現することが目的ですから,文言の解釈に当たっては,その趣旨から成り立っている相続の理論で解釈することが望ましいと思います。遺贈は基本的に単なる法律行為の一形態として規定されているので被相続人の意思を十分反映できない危険があるからです。従って,相続の一態様を定めた遺産分割方法の指定(相続分の指定)と解釈することが妥当でしょう。

  次に,遺言書はA(及び相続人全員)に対して遺産分割方法を指定する内容になっていますが,遺言の効力発生時にAは存在しないので相続財産を引き継ぐ者がいない遺言として効力が発生しないと解釈せざるを得ません。ご質問の趣旨からは遺言書に記載されていないので代襲相続人であるBに対して遺産を相続させる遺言内容であるという解釈は原則としてできないと思われます。又,被相続人が特定人Aとしている以上,当然には代襲相続が発生することにはならないはずです(代襲相続の問題とする説もあります)。相続は,私有財産制の理論的帰結として,遺言自由の原則から,被相続人の合理的意思を解釈することが基本です。被相続人の生前の意思解釈として,記載上Bに対する遺産分割を求めていない以上Bに対しては遺言の効力はありません。ただ,遺言書にBの記載がなくとも,被相続人が,Aが相続開始前になくなった場合にはBに対し遺産分割方法を指定して遺産を相続させる意思(又は,代襲相続させる意思。後述のように遺言書にAという表示がある以上当然に代襲相続ということにはならないはずです。)であると解釈できる特別な背景,事情等をBが証明すれば,Bに対しても効力が生じることになります。

  本件遺言内容をAに対する遺贈と解釈する説もありますが,遺贈と解釈するとAの死亡により当然に遺言は無効となり(民法994条1項),Bに対する効力を論ずる余地をなくすものであり,結果的に被相続人の合理的意思解釈を狭めることになってしまうのでそのような解釈は妥当ではないと考えられます。判例(最高裁23年判決)も同様の見解と思われます。尚,本件は,遺産分割方法の指定と解釈しても,代襲相続の規定(887条)が直ちに適用されるということにはならないと思います。代襲相続は,被相続人が遺産分割方法等についてなんらの遺言をせずに推定相続人が被相続人より先に死亡した場合に,代襲相続人の期待権を保護して,推定相続人が本来相続する相続分を引き継ぐものです。
  これに対して本件は,被相続人が特にAを指定した以上,被相続人より先に死亡したことによってAに対して遺言の効力が生じていない場合に,被相続人がその代襲相続人Bに対してもその特定財産の相続分を相続させる(代襲させる)意思があったかという遺言書の合理的意思解釈の問題だからです。

(2)尚,本件とは事案が異なりますが,他の推定相続人が,財産を取得した相続人の持分(不動産等)を勝手に第三者に譲渡した場合にも,判例(最高裁平成14年6月10日判決参照 )は,「相続させる」という意味は,遺贈ではなく遺産分割方法の指定と解釈しています。従って,第三者は,無権利者である他の相続人(分割方法の指定により最初から他の推定相続人に相続は発生していないから無権利者となる。)から不動産の持分譲渡を受けたので無効であり,たとえ登記を受けたとしても登記に公信力がない以上権利を取得することはできないことになります。
  これを遺贈と考えると,遺贈は相続(死亡という事実により包括的権利移転が相続開始時から生じている。)と異なり意思表示による法律行為(本来推定相続人の権利について新たな権利移転が発生したと構成することが可能になる。)なので,第三者と受遺者は対抗問題(登記を得た方が優先)となります。財産を取得した相続人の持分を他の推定相続人が勝手に譲渡した場合,遺産分割方法と解釈する実質的理由は,取引の安全(第三者の保護)よりわざわざ遺言によって指定した当該相続人の権利利益を確実にしたいという被相続人の最終意思を尊重したものと考えることができます。

(3)以上,どちらの場合でも,被相続人の最終意思の尊重という立場から判例は「相続させる」という文言の法的性質については「遺産分割方法の指定」で一致しているわけです。

【参照条文】

<民法>
第八百八十七条  被相続人の子は,相続人となる。
2  被相続人の子が,相続の開始以前に死亡したとき,又は第八百九十一条の規定に該当し,若しくは廃除によって,その相続権を失ったときは,その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし,被相続人の直系卑属でない者は,この限りでない。
3  前項の規定は,代襲者が,相続の開始以前に死亡し,又は第八百九十一条の規定に該当し,若しくは廃除によって,その代襲相続権を失った場合について準用する。
第九百二条  被相続人は,前二条の規定にかかわらず,遺言で,共同相続人の相続分を定め,又はこれを定めることを第三者に委託することができる。ただし,被相続人又は第三者は,遺留分に関する規定に違反することができない。
2  被相続人が,共同相続人中の一人若しくは数人の相続分のみを定め,又はこれを第三者に定めさせたときは,他の共同相続人の相続分は,前二条の規定により定める。
第九百八条  被相続人は,遺言で,遺産の分割の方法を定め,若しくはこれを定めることを第三者に委託し,又は相続開始の時から五年を超えない期間を定めて,遺産の分割を禁ずることができる。
第九百六十四条  遺言者は,包括又は特定の名義で,その財産の全部又は一部を処分することができる。ただし,遺留分に関する規定に違反することができない。
第九百九十四条  遺贈は,遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは,その効力を生じない。
2  停止条件付きの遺贈については,受遺者がその条件の成就前に死亡したときも,前項と同様とする。ただし,遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは,その意思に従う。
第千二十二条  遺言者は,いつでも,遺言の方式に従って,その遺言の全部又は一部を撤回することができる。
第千二十三条  前の遺言が後の遺言と抵触するときは,その抵触する部分については,後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
2  前項の規定は,遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用する。
第千二十八条  兄弟姉妹以外の相続人は,遺留分として,次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合に相当する額を受ける。
一  直系尊属のみが相続人である場合 被相続人の財産の三分の一
二  前号に掲げる場合以外の場合 被相続人の財産の二分の一
第千二十九条  遺留分は,被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除して,これを算定する。
2  条件付きの権利又は存続期間の不確定な権利は,家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って,その価格を定める。
第千三十条  贈与は,相続開始前の一年間にしたものに限り,前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは,一年前の日より前にしたものについても,同様とする。
第千三十一条  遺留分権利者及びその承継人は,遺留分を保全するのに必要な限度で,遺贈及び前条に規定する贈与の減殺を請求することができる。
農地法
第一章 総則
(目的)
第一条  この法律は,国内の農業生産の基盤である農地が現在及び将来における国民のための限られた資源であり,かつ,地域における貴重な資源であることにかんがみ,耕作者自らによる農地の所有が果たしてきている重要な役割も踏まえつつ,農地を農地以外のものにすることを規制するとともに,農地を効率的に利用する耕作者による地域との調和に配慮した農地についての権利の取得を促進し,及び農地の利用関係を調整し,並びに農地の農業上の利用を確保するための措置を講ずることにより,耕作者の地位の安定と国内の農業生産の増大を図り,もつて国民に対する食料の安定供給の確保に資することを目的とする。
   第二章 権利移動及び転用の制限等
(農地又は採草放牧地の権利移動の制限)
第三条  農地又は採草放牧地について所有権を移転し,又は地上権,永小作権,質権,使用貸借による権利,賃借権若しくはその他の使用及び収益を目的とする権利を設定し,若しくは移転する場合には,政令で定めるところにより,当事者が農業委員会の許可(これらの権利を取得する者(政令で定める者を除く。)がその住所のある市町村の区域の外にある農地又は採草放牧地について権利を取得する場合その他政令で定める場合には,都道府県知事の許可)を受けなければならない。

≪参考判例≫

(最高裁判例)
最高裁判所平成23年2月22日判決(土地建物共有持分権確認請求事件)
       主   文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。
       理   由
 上告代理人岡田進,同中西祐一の上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について
1 本件は,被相続人Aの子である被上告人が,遺産の全部をAのもう一人の子であるBに 相続させる旨のAの遺言は,BがAより先に死亡したことにより効力を生ぜず,被上告人がAの遺産につき法定相続分に相当する持分を取得したと主張して,Bの子である上告人らに対し,Aが持分を有していた不動産につき被上告人が上記法定相続分に相当する持分等を有することの確認を求める事案である。
2 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1)B及び被上告人は,いずれもAの子であり,上告人らは,いずれもBの子である。(2)Aは,平成5年2月17日,Aの所有に係る財産全部をBに相続させる旨を記載した条項及び遺言執行者の指定に係る条項の2か条から成る公正証書遺言をした(以下,この遺言を「本件遺言」といい,本件遺言に係る公正証書を「本件遺言書」という。)。本件遺言は,Aの遺産全部をBに単独で相続させる旨の遺産分割の方法を指定するもので,当該遺産がAの死亡の時に直ちに相続によりBに承継される効力を有するものである。
(3)Bは,平成18年6月21日に死亡し,その後,Aが同年9月23日に死亡した。(4)Aは,その死亡時において,第1審判決別紙目録1及び2記載の各不動産につき持分を有していた。
3 原審は,本件遺言は,BがAより先に死亡したことによって効力を生じないこととなったというべきであると判断して,被上告人の請求を認容した。
4 所論は,本件遺言においてAの遺産を 相続させるとされたBがAより先に死亡した場合であっても,Bの代襲者である上告人らが本件遺言に基づきAの遺産を 代襲相続することとなり,本件遺言は効力を失うものではない旨主張するものである。
5 被相続人の遺産の承継に関する遺言をする者は,一般に,各推定相続人との関係においては,その者と各推定相続人との身分関係及び生活関係,各推定相続人の現在及び将来の生活状況及び資産その他の経済力,特定の不動産その他の遺産についての特定の推定相続人の関わりあいの有無,程度等諸般の事情を考慮して遺言をするものである。このことは,遺産を特定の推定相続人に単独で 相続させる 旨の遺産分割の方法を指定し,当該遺産が遺言者の死亡の時に直ちに相続により当該推定相続人に承継される効力を有する「 相続させる 」旨の遺言がされる場合であっても異なるものではなく,このような「 相続させる」旨の遺言をした遺言者は,通常,遺言時における特定の推定相続人に当該遺産を取得させる意思を有するにとどまるものと解される。
 したがって,上記のような「 相続させる 」旨の遺言は,当該遺言により遺産を 相続させる ものとされた推定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合には,当該「 相続させる 」旨の遺言に係る条項と遺言書の他の記載との関係,遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などから,遺言者が,上記の場合には,当該推定相続人の代襲者その他の者に遺産を 相続させる 旨の意思を有していたとみるべき特段の事情のない限り,その効力を生ずることはないと解するのが相当である。
 前記事実関係によれば,BはAの死亡以前に死亡したものであり,本件遺言書には,Aの遺産全部をBに 相続させる 旨を記載した条項及び遺言執行者の指定に係る条項のわずか2か条しかなく,BがAの死亡以前に死亡した場合にBが承継すべきであった遺産をB以外の者に承継させる意思を推知させる条項はない上,本件遺言書作成当時,Aが上記の場合に遺産を承継する者についての考慮をしていなかったことは所論も前提としているところであるから,上記特段の事情があるとはいえず,本件遺言は,その効力を生ずることはないというべきである。
6 以上と同旨の原審の判断は,正当として是認することができる。論旨は採用することができない。 

東京高等裁判所平成18年6月29日判決(相続分確認請求控訴事件)
第三 当裁判所の判断
一 本件遺言の内容は,上記争いのない事実等(2)記載のとおりである。そして,その内容には,乙山冬夫に「遺贈する」記載と亡秋子ら推定相続人に「 相続させる」記載が存在すること,そして,別紙遺産目録記載の財産のうち,本件土地建物については,これを被控訴人春夫に 相続させる旨を記載し,特定の遺産に係るものとして 遺産分割方法の指定と認められ,別紙遺産目録第一の一ないし三,六及び七の各(1)記載の土地建物は,亡一郎の相続人である亡夏子,亡秋子及び被控訴人らが相続を原因として共有し,同目録五の建物は亡夏子の単独所有で,同目録第一の九(1)記載の不動産は亡夏子と被控訴人春夫との共有となっているところ,本件遺言は,上記亡夏子の本件土地建物以外の不動産(共有持分を含む。)についてはこれを五等分した上,その二を被控訴人乙山に,その各一を亡秋子,被控訴人丁原,被控訴人戊川に相続させることを記載し,遺産となる不動産(持分を含む。)について同人らに上記割合による共有持分を取得させるものであり,これらについても特定の遺産にかかるものとして分割方法について指定したものと解することができる。また,預貯金についても,特定の遺産に係るものであるから,これについても遺産分割方法を指定したものということができる。
 以上のとおりであるから,本件遺言における「相続させる」旨の遺言は分割方法の指定と認められる。
二 ところで,相続人に対し遺産分割方法の指定がされることによって,当該相続人は,相続の内容として,特定の遺産を取得することができる地位を取得することになり,その効果として被相続人の死亡とともに当該財産を取得することになる。そして,当該相続人が相続開始時に死亡していた時は,その子が代襲相続によりその地位を相続するものというべきである。
 すなわち,代襲相続は,被相続人が死亡する前に相続人に死亡や廃除・欠格といった代襲原因が発生した場合,相続における衡平の観点から相続人の有していた相続分と同じ割合の相続分を代襲相続人に取得させるのであり,代襲相続人が取得する相続分は相続人から承継して取得するものではなく,直接被相続人に対する 代襲相続 人の相続分として取得するものである。そうすると,相続人に対する 遺産分割方法の指定による相続がされる場合においても,この指定により同相続人の相続の内容が定められたにすぎず,その相続は法定相続分による相続と性質が異なるものではなく, 代襲相続人に 相続させるとする規定が適用ないし準用されると解するのが相当である。
 これと異なり,被相続人が遺贈をした時は,受遺者の死亡により遺贈の効力が失われるが(民法九九四条一項),遺贈は,相続人のみならず第三者に対しても行うことができる財産処分であって,その性質から見て,とりわけ受遺者が相続人でない場合は,類型的に被相続人と受遺者との間の特別な関係を基礎とするものと解され,受遺者が被相続人よりも先に死亡したからといって,被相続人がその子に対しても遺贈する趣旨と解することができないものであるから,遺贈が効力を失うのであり,このようにすることが,被相続人の意思に合致するというべきであるし,相続における衡平を害することもないのである。他方, 遺産分割方法の指定は相続であり,相続の法理に従い代襲相続を認めることこそが,代襲相続制度を定めた法の趣旨に沿うものであり,相続人間の衡平を損なうことなく,被相続人の意思にも合致することは,法定相続において 代襲相続 が行われることからして当然というべきである。 遺産分割方法の指定 がされた場合を遺贈に準じて扱うべきものではない。
三 上記のように解することが,亡夏子の遺言時の意思に反するものでないかを念のために検討する。
 本件遺言は,遺産である不動産のうち,本件土地建物を被控訴人春夫に相続させ,その余の不動産を五分し,その持分の一を亡秋子に 相続させるというものであり,亡夏子において,子である亡秋子を他の子と比べて特に有利,不利のない扱いをしようとしたものということができ,亡夏子と亡秋子及び控訴人との関係は親子や祖母と孫という良好な関係にあったもので(甲一二,一三),亡夏子は,亡秋子の死亡後の平成八年一月一六日付けの自筆証書による遺言書(甲一一)を作成しようとして結局はこれを完成させなかったが,それには控訴人を他の子らと同じく遺産の六分の一を与えると記載しており,亡夏子が亡秋子の死亡後に控訴人を本件遺言による相続から排除する意思を有していたとは考えられないのである。また,本件遺言の内容は「五等分し」亡秋子らにその各一を与えるというもので,亡夏子が,自分より先に亡秋子が死亡した場合に,亡秋子の子である控訴人を除外してそのような五等分するとの分割指定を維持するものとは解しがたいのである。本件相続においても,上記のように控訴人が 代襲相続することが亡夏子の意思に合致するものというべきである。
四 したがって,控訴人は,亡秋子の 代襲相続 により本件遺言が定める遺産分割方法により亡夏子の遺産を相続し,遺産中の控訴人主張にかかる共有持分を取得したと認めることができる。控訴人の,被控訴人らに対し,上記持分を有することの確認を求める本件請求は理由がある。
 よって,主文のとおり判決する。

最高裁平成3年4月19日判決土地所有権移転登記手続請求事件

三 被相続人の遺産の承継関係に関する遺言については,遺言書において表明されている遺言者の意思を尊重して合理的にその趣旨を解釈すべきものであるところ,遺言者は,各相続人との関係にあっては,その者と各相続人との身分関係及び生活関係,各相続人の現在及び将来の生活状況及び資力その他の経済関係,特定の不動産その他の遺産についての特定の相続人のかかわりあいの関係等各般の事情を配慮して遺言をするのであるから,遺言書において特定の遺産を特定の相続人に「 相続させる 」趣旨の遺言者の意思が表明されている場合,当該相続人も当該遺産を他の共同相続人と共にではあるが当然相続する地位にあることにかんがみれば,遺言者の意思は,右の各般の事情を配慮して,当該遺産を当該相続人をして,他の共同相続人と共にではなくして,単独で相続させようとする趣旨のものと解するのが当然の合理的な意思解釈というべきであり,遺言書の記載から,その趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情がない限り,遺贈と解すべきではない。
そして,右の「 相続させる 」趣旨の遺言,すなわち,特定の遺産を特定の相続人に単独で相続により承継させようとする遺言は,前記の各般の事情を配慮しての被相続人の意思として当然あり得る合理的な遺産の分割の方法を定めるものであって,民法九〇八条において被相続人が遺言で遺産の分割の方法を定めることができるとしているのも,遺産の分割の方法として,このような特定の遺産を特定の相続人に単独で相続により承継させることをも遺言で定めることを可能にするために外ならない。
したがって,右の「 相続させる 」趣旨の遺言は,正に同条にいう遺産の分割の方法を定めた遺言であり,他の共同相続人も右の遺言に拘束され,これと異なる遺産分割の協議,さらには審判もなし得ないのであるから,このような遺言にあっては,遺言者の意思に合致するものとして,遺産の一部である当該遺産を当該相続人に帰属させる遺産の一部の分割がなされたのと同様の遺産の承継関係を生ぜしめるものであり,当該遺言において相続による承継を当該相続人の受諾の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り,何らの行為を要せずして,被相続人の死亡の時(遺言の効力の生じた時)に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継されるものと解すべきである。そしてその場合,遺産分割の協議又は審判においては,当該遺産の承継を参酌して残余の遺産の分割がされることはいうまでもないとしても,当該遺産については,右の協議又は審判を経る余地はないものというべきである。もっとも,そのような場合においても,当該特定の相続人はなお相続の放棄の自由を有するのであるから,その者が所定の相続の放棄をしたときは,さかのぼって当該遺産がその者に相続されなかったことになるのはもちろんであり,また,場合によっては,他の相続人の遺留分減殺請求権の行使を妨げるものではない。
原審の適法に確定した事実関係の下では前記特段の事情はないというべきであり,被上告人が前記各土地の所有権ないし共有持分を相続により取得したとした原判決の判断は,結論において正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく,論旨は採用することができない。

最高裁判所平成14年6月10日判決 (第三者異議事件)
判決
1 原審の認定によれば,本件の経過は,次のとおりである。被上告人は,夫である被相続人Aがした,原判決添付物件目録記載の不動産の権利一切を被上告人に相続させる旨の遺言によって,上記不動産ないしその共有持分権を取得した。法定相続人の1人であるBの債権者である上告人らは,Bに代位してBが法定相続分により上記不動産及び共有持分権を相続した旨の登記を経由した上,Bの持分に対する仮差押え及び強制競売を申し立て,これに対する仮差押え及び差押えがされたところ,被上告人は,この仮差押えの執行及び強制執行の排除を求めて第三者異議訴訟を提起した。
2 特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言は,特段の事情のない限り,何らの行為を要せずに,被相続人の死亡の時に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継される(最高裁平成元年(オ)第174号同3年4月19日第二小法廷判決・民集45巻4号477頁参照)。このように,「相続させる」趣旨の遺言による権利の移転は,法定相続分又は指定相続分の相続の場合と本質において異なるところはない。そして,法定相続分又は指定相続分の相続による不動産の権利の取得については,登記なくしてその権利を第三者に対抗することができる(最高裁昭和35年(オ)第1197号同38年2月22日第二小法廷判決・民集17巻1号235頁,最高裁平成元年(オ)第714号同5年7月19日第二小法廷判決・裁判集民事169号243頁参照)。したがって,本件において,被上告人は,本件遺言によって取得した不動産又は共有持分権を,登記なくして上告人らに対抗することができる。 
3 以上と同旨の原審の判断は,正当として是認することができる。所論引用の判例は,事案を異にし本件に適切でない。論旨は,独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず,採用することができない。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

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