新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1266、2012/5/10 17:06

【漁業法・違反と対策】

質問:友人と海に遊びに行き、サザエを捕っていたところ、漁業組合の人に通報され、警察に連れて行かれました。警察の話によると、漁業法違反という罪になってしまうそうです。これはどのような罪ですか。サザエはどこで捕っても罪になるのですか。

回答:漁業法143条1項により20万円以下の罰金の対象になります。あらゆる海産物についての採捕が罰金の対象となる違法行為になるわけではなく、場所や海産物の種類によって、漁業権が細かく設定され、その地域の漁業組合が持っている漁業権を侵害している場合に罰金の対象となります。

解説:
1.海に生息している海産物は本来無主物(誰に所有にも属さない物)ですが、地域で漁業を営む人々にとっては大切な生活の糧であり、漁業に関係のない人が無制限に捕ってよいものではありません。日本では古くから、地域の漁民が漁場を独占する慣習上の権利が存在していましたが(江戸時代は各藩の漁場を利用する権利が認められていた事情)、明治以降、この権利が漁業権として法制度化されてきた歴史があります。大まかに言うと明治時代の漁業法(明治34年成立)と戦後昭和24年成立の漁業法ということになります。漁業法の趣旨は、国民の水産資源を将来にわたり適正に確保して、漁業を行う者の公平な権利及び、生活を保護して漁業権利者の個人の尊厳を側面から保障するものです。

2.戦後に整備された現行漁業法では、漁業権は@定置漁業権(大型の網などを設置する漁法に関する漁業権)、A区画漁業権(養殖業等に関する漁業権)、B共同漁業権(その他の一定の海産物ないし漁法に関する漁業権)の3種類に分けられ(漁業法6条)、それぞれ都道府県知事に申請し、免許を付与されることで設定されます(漁業法10条)。サザエやアワビといった貝類は、共同漁業の中の「第一種共同漁業」の対象であり、免許付与の際に漁場の区域も合わせて定められています。サザエが良く捕れる海域ではサザエを対象とした漁が営まれているのが通常ですから、多くの場合、その地域の漁業協同組合による共同漁業権の漁場となっていると考えた方がよいでしょう。以上から、一般人が趣味で魚釣りをすることは漁業権の範囲外の行為となります。

3.共同漁業権の漁場の区域内で、対象の海産物を採捕すると、漁業権侵害になってしまいます。漁業権侵害は漁業法143条1項で20万円以下の罰金という罰則が定められており、犯罪です。同条2項により、漁業権者の告訴がなければ処罰されない親告罪とされていますが、漁業権者である漁業協同組合が告訴をしないケースはあまりないと思われます。告訴しなければ事件の性質上、日常的に漁業が侵害され生活の糧が失われる危険が拡大するからです。

4.営利目的ではない一般人の遊漁者が自家消費目的で少量を採捕することまで漁業権侵害に当たると考えるのはおかしいという見解もありますが、警察実務では漁の多寡や目的にかかわらず立件しており、漁業協同組合もそれらの点を考慮せず告訴状を提出しているのが現状といえます。背景には、悪質な組織的密漁の事例が増えており、漁業資源保護の必要性が高まっていることがあります。

5.このように、漁業法違反(漁業権侵害)の法定刑は20万円以下の罰金なので、事実に争いがなければ略式命令手続への同意を求められ、同意をすれば正式な裁判を経ることなく罰金額が決定され、これを納付して終了することになります(刑事訴訟法461条以下)。

  犯罪事実があったとしても不起訴になる可能性はあり、それがどの程度あるのかについては不明ですが、漁協と交渉して告訴を取り下げてもらうことができれば、検察官は不起訴とせざるをえないので(親告罪ですので告訴が無ければ起訴されることはありません)、できる限り弁償して示談、告訴の取り下げを交渉すべきでしょう。仮に告訴取下げまではいかなくとも、漁協に被害弁償をしたり(例えば弁償金の供託手続きも有効でしょう)、漁業資源維持等に当ててもらうための寄付を受け取ってもらうことで、情状が良くなり、不起訴処分となり罰金刑に処せられない可能性はあります。 

  なお、罰金刑とはいえ刑事事件の他に、社会的地位や保有資格によっては、免許取消等の行政処分や勤務先からの懲戒免職等の処分が下される場合もありますから、できる限り不起訴になるよう努力が必要です。刑事処分が罰金刑で確定後でも、行政処分の段階で漁協に寄付金を受領していただき、不処分の結果に繋げることも理論上は可能性があります。より早い段階で依頼されれば寄付をする等の弁護活動により、刑事事件についても不起訴にできることもありますので、弁護士に依頼するのであれば、刑事事件になった時点でできるだけ早い時期に法的専門家と協議、相談する必要があります。

≪条文参照≫

漁業法
 第一章 総則
(この法律の目的)
第一条  この法律は、漁業生産に関する基本的制度を定め、漁業者及び漁業従事者を主体とする漁業調整機構の運用によつて水面を総合的に利用し、もつて漁業生産力を発展させ、あわせて漁業の民主化を図ることを目的とする。
(定義)
第二条  この法律において「漁業」とは、水産動植物の採捕又は養殖の事業をいう。
2  この法律において「漁業者」とは、漁業を営む者をいい、「漁業従事者」とは、漁業者のために水産動植物の採捕又は養殖に従事する者をいう。
3  この法律において「動力漁船」とは、推進機関を備える船舶であつて次の各号のいずれかに該当するものをいう。
一  専ら漁業に従事する船舶
二  漁業に従事する船舶であつて漁獲物の保蔵又は製造の設備を有するもの
三  専ら漁場から漁獲物又はその製品を運搬する船舶
四  専ら漁業に関する試験、調査、指導若しくは練習に従事する船舶又は漁業の取締りに従事する船舶であつて漁ろう設備を有するもの
第6条 この法律において「漁業権」とは、定置漁業権、区画漁業権及び共同漁業権をいう。
2 「定置漁業権」とは、定置漁業を営む権利をいい、「区画漁業権」とは、区画漁業を営む権利をいい、「共同漁業権」とは、共同漁業を営む権利をいう。
3 「定置漁業」とは、漁具を定置して営む漁業であつて次に掲げるものをいう。
1.身網の設置される場所の最深部が最高潮時において水深27メートル(沖縄県にあつては、15メートル)以上であるもの(瀬戸内海(第110条第2項に規定する瀬戸内海をいう。)におけるます網漁業並びに陸奥湾(青森県焼山崎から同県明神崎灯台に至る直線及び陸岸によつて囲まれた海面をいう。)における落とし網漁業及びます網漁業を除く。)
2.北海道においてさけを主たる漁獲物とするもの
4 「区画漁業」とは、次に掲げる漁業をいう。
1.第1種区画漁業 一定の区域内において石、かわら、竹、木等を敷設して営む養殖業
2.第2種区画漁業 土、石、竹、木等によつて囲まれた一定の区域内において営む養殖業
3.第3種区画漁業 一定の区域内において営む養殖業であつて前2号に掲げるもの以外のもの
5 「共同漁業」とは、次に掲げる漁業であつて一定の水面を協同に利用して営むものをいう。
1.第1種共同漁業 藻類、貝類又は農林水産大臣の指定する定着性の水産動物を目的とする漁業
2.第2種共同漁業 網漁具(えりやな類を含む。)を移動しないように敷設して営む漁業であつて定置漁業及び第5号に掲げるもの以外のもの
3.第3種共同漁業 地びき網漁業、地こぎ網漁業、船びき網漁業(動力漁船を使用するものを除く。)、飼付漁業又はつきいそ漁業(第1号に掲げるものを除く。)であつて、第5号に掲げるもの以外のもの
4.第4種共同漁業 寄魚漁業又は鳥付こぎ釣漁業であつて、次号に掲げるもの以外のもの
5.第5種共同漁業 内水面(農林水産大臣の指定する湖沼を除く。)又は農林水産大臣の指定する湖沼に準ずる海面において営む漁業であつて第1号に掲げるもの以外のもの
第10条 漁業権の設定を受けようとする者は、都道府県知事に申請してその免許を受けなければならない。
第143条 漁業権又は漁業協同組合の組合員の漁業を営む権利を侵害した者は、20万円以下の罰金に処する。
2 前項の罪は告訴がなければ公訴を提起することができない。

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