漁業法・違反と対策
刑事|漁業法違反|弁護活動
目次
質問:
友人と海に遊びに行き、サザエを捕っていたところ、漁業組合の人に通報され、警察に連れて行かれました。警察の話によると、漁業法違反という罪になってしまうそうです。これはどのような罪ですか。サザエはどこで捕っても罪になるのですか。
回答:
漁業法143条1項により20万円以下の罰金の対象になります。あらゆる海産物についての採捕が罰金の対象となる違法行為になるわけではなく、場所や海産物の種類によって、漁業権が細かく設定され、その地域の漁業組合が持っている漁業権を侵害している場合に罰金の対象となります。
漁業法に関する事例集2049番、1755番、1724番、1411番等を参照してください。
その他漁業法違反に関する関連事例集参照。
解説:
1.漁業法の趣旨
海に生息している海産物は本来無主物(誰に所有にも属さない物)ですが、地域で漁業を営む人々にとっては大切な生活の糧であり、漁業に関係のない人が無制限に捕ってよいものではありません。日本では古くから、地域の漁民が漁場を独占する慣習上の権利が存在していましたが(江戸時代は各藩の漁場を利用する権利が認められていた事情)、明治以降、この権利が漁業権として法制度化されてきた歴史があります。大まかに言うと明治時代の漁業法(明治34年成立)と戦後昭和24年成立の漁業法ということになります。漁業法の趣旨は、国民の水産資源を将来にわたり適正に確保して、漁業を行う者の公平な権利及び、生活を保護して漁業権利者の個人の尊厳を側面から保障するものです。
2.漁業権が及ぶ範囲
戦後に整備された現行漁業法では、漁業権は①定置漁業権(大型の網などを設置する漁法に関する漁業権)、②区画漁業権(養殖業等に関する漁業権)、③共同漁業権(その他の一定の海産物ないし漁法に関する漁業権)の3種類に分けられ(漁業法6条)、それぞれ都道府県知事に申請し、免許を付与されることで設定されます(漁業法10条)。サザエやアワビといった貝類は、共同漁業の中の「第一種共同漁業」の対象であり、免許付与の際に漁場の区域も合わせて定められています。サザエが良く捕れる海域ではサザエを対象とした漁が営まれているのが通常ですから、多くの場合、その地域の漁業協同組合による共同漁業権の漁場となっていると考えた方がよいでしょう。以上から、一般人が趣味で魚釣りをすることは漁業権の範囲外の行為となります。
3.漁業権を侵害すると
共同漁業権の漁場の区域内で、対象の海産物を採捕すると、漁業権侵害になってしまいます。漁業権侵害は漁業法143条1項で20万円以下の罰金という罰則が定められており、犯罪です。同条2項により、漁業権者の告訴がなければ処罰されない親告罪とされていますが、漁業権者である漁業協同組合が告訴をしないケースはあまりないと思われます。告訴しなければ事件の性質上、日常的に漁業が侵害され生活の糧が失われる危険が拡大するからです。
4.自家消費目的
営利目的ではない一般人の遊漁者が自家消費目的で少量を採捕することまで漁業権侵害に当たると考えるのはおかしいという見解もありますが、警察実務では漁の多寡や目的にかかわらず立件しており、漁業協同組合もそれらの点を考慮せず告訴状を提出しているのが現状といえます。背景には、悪質な組織的密漁の事例が増えており、漁業資源保護の必要性が高まっていることがあります。
5.その後の処分
このように、漁業法違反(漁業権侵害)の法定刑は20万円以下の罰金なので、事実に争いがなければ略式命令手続への同意を求められ、同意をすれば正式な裁判を経ることなく罰金額が決定され、これを納付して終了することになります(刑事訴訟法461条以下)。
犯罪事実があったとしても不起訴になる可能性はあり、それがどの程度あるのかについては不明ですが、漁協と交渉して告訴を取り下げてもらうことができれば、検察官は不起訴とせざるをえないので(親告罪ですので告訴が無ければ起訴されることはありません)、できる限り弁償して示談、告訴の取り下げを交渉すべきでしょう。仮に告訴取下げまではいかなくとも、漁協に被害弁償をしたり(例えば弁償金の供託手続きも有効でしょう)、漁業資源維持等に当ててもらうための寄付を受け取ってもらうことで、情状が良くなり、不起訴処分となり罰金刑に処せられない可能性はあります。
なお、罰金刑とはいえ刑事事件の他に、社会的地位や保有資格によっては、免許取消等の行政処分や勤務先からの懲戒免職等の処分が下される場合もありますから、できる限り不起訴になるよう努力が必要です。刑事処分が罰金刑で確定後でも、行政処分の段階で漁協に寄付金を受領していただき、不処分の結果に繋げることも理論上は可能性があります。より早い段階で依頼されれば寄付をする等の弁護活動により、刑事事件についても不起訴にできることもありますので、弁護士に依頼するのであれば、刑事事件になった時点でできるだけ早い時期に法的専門家と協議、相談する必要があります。
以上