新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1192、2011/12/2 16:23

【民事・所有権留保付車両の違法駐車に対する明け渡し,及び損害賠償請求の相手方は誰か・信販会社も該当するか・いつから請求できるか】

質問:私は,所有する土地を駐車場として賃貸していますが,Aという人が6カ月間駐車場代金を支払っていません。調査したところAが駐車している自動車は,B信販会社が所有者になっていました。Aには連絡が取れますが,資産はないようです。そこで,所有名義人の信販会社に自動車の移動と未払い賃料や移動までの駐車場代を請求したいのですが可能でしょうか。なお,AとB信販会社との間の,本件車両購入代金の立替払いを内容とする契約(以下「本件立替払契約」といいます。)の要旨は,以下のとおりであることが判っています。

@ B信販会社は,本件車両の代金を立替払し,Aは,B信販会社に対し,上記立替払により発生する債務(以下「本件立替金債務」という。)を頭金のほか60回に分割して支払う。
A 本件車両の所有権は,自動車販売店からB信販会社に移転し,Aが本件立替金債務を完済するまで同債務の担保としてB信販会社に留保される。
B Aは,自動車販売店から本件車両の引渡しを受け,善良な管理者の注意をもって本件車両を管理し,本件車両の改造等をしない。
C Aは,本件立替金債務について,分割金の支払を怠ってB信販会社から催告を受けたにもかかわらずこれを支払わなかったとき,強制執行の申立てのあったときなどは,当然に期限の利益を喪失し,残債務全額を直ちに支払う。
D Aは,期限の利益を喪失したときは,事由のいかんを問わず,B信販会社からの同社が留保している所有権に基づく本件車両の引渡請求に異議なく同意する。
E B信販会社がAから本件車両の引渡しを受けてこれを公正な機関に基づく評価額をもって売却したときは,売却額をもって本件立替金債務の弁済に充当する。

回答:
1.B信販会社に対する本件車両撤去本件土地明渡しの請求について

  Aが駐車場の賃貸借契約の賃借人ですから,まずAに対して駐車場賃貸借契約の解除の通知をし,自動車の撤去と未払い駐車場代金並びに移動までの駐車代金相当の損害金を請求することになります。しかし,Aに資力がない場合,自動車を移動することもできないことが予測されるため,資力のある所有者名義人であるB信販会社に対してこれらの請求をする必要があります。この点,Aが本件立替金債務について分割金の支払を怠って,期限の利益喪失による残債務全額の弁済期が経過した後は,あなたは,B信販会社に対し,本件土地所有権に基づき,本件車両撤去本件土地明渡しを求めることができます。

2.B信販会社に対する賃料相当損害金の支払の請求について
  Aが長期間に亘り賃料を滞納したためAに対し本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をしたこと,及び,その後も本件土地上に本件車両が駐車されたままになっている事実につき(あなたがB信販会社に対しこの事実を告げるなどして),B信販会社が上記事実を知った時以降の分については,あなたは,B信販会社に対し,本件土地所有権に基づき,賃料相当損害金の支払を求めることができます。それ以前の未払い賃料や解除後の賃料相当損害金は請求できません。

3.参考として事例集1061番をご参照ください。

解説
1 Aに対する本件車両撤去本件土地明渡しの請求及び未払賃料支払の請求
  本件土地につき賃貸借契約の当事者はAですから,本件車両撤去本件土地明渡しの請求及び未払賃料支払の請求は,まずはAに対して行うことが考えられます。もっとも,Aがそうであるように,長期に亘って賃料を滞納するような賃借人にはこれといった財産がないことがほとんどでしょうし,そもそも車両を放置したまま行方知れずになってしまっているという場合も少なくはないでしょう(なお,このような場合にも全く手がないというわけではなく,この点については事例集1061番をご参照ください。)。
  そこで,会社としてある程度の財産を有し,また社会的信用の維持に配慮しなければならないであろうB信販会社に対し,本件車両撤去本件土地明渡しや賃料相当損害金の支払を求めることができるのであれば,あなたとしては目的が達せられるわけで,あなたがB信販会社に対する本件車両撤去本件土地明渡し及び賃料相当損害金の支払の可否を質問される理由もこのあたりにあるのでしょう。

2 B信販会社に対する本件車両撤去本件土地明渡しの請求について
  
 (1)信販会社が自動車の所有となっているのは,自動車を所有者として支配して利用するためではなく,立替えた代金の支払いを担保するためです。そこで,このような所有者を,本来の所有者と区別し「留保所有権者」と呼んでいます。留保所有権者に対する土地明渡請求が認められるか否かは,その,担保としての実質を見るか,所有権という形式を重視するかによって結論が異なります。この点について,最高裁平成21年3月10日判決は以下のように述べ,被担保債権の弁済期が到来している場合は所有権としての形式を重視し,それ以前は担保権としての実質を重視するという立場をとっています。

 「動産の購入代金を立替払する者が立替金債務が完済されるまで同債務の担保として当該動産の所有権を留保する場合において,所有権を留保した者(以下,「留保所有権者」といい,留保所有権者の有する所有権を「留保所有権」という。)の有する権原が,期限の利益喪失による残債務全額の弁済期(以下「残債務弁済期」という。)の到来の前後で上記のように異なるときは,留保所有権者は,残債務弁済期が到来するまでは,当該動産が第三者の土地上に存在して第三者の土地所有権の行使を妨害しているとしても,特段の事情がない限り,当該動産の撤去義務や不法行為責任を負うことはないが,残債務弁済期が経過した後は,留保所有権が担保権の性質を有するからといって上記撤去義務や不法行為責任を免れることはないと解するのが相当である。」

  そして,その理由として,「留保所有権者が有する留保所有権は,原則として,残債務弁済期が到来するまでは,当該動産の交換価値を把握するにとどまるが,残債務弁済期の経過後は,当該動産を占有し,処分することができる権能を有するものと解される」ことを挙げています。

 (2)そして,本判決は,信販会社は本件立替金債務を担保するために本件車両の所有権を留保したものであって,信販会社が有するのは,通常の所有権ではなく,実質的には担保権の性質を有するものにすぎないから,信販会社は所有者として本件車両を撤去して本件土地を明け渡す義務を負わないと判断し,本件立替金債務について,その残債務全額の弁済期が経過したか否かなどを検討することなく,上告人の請求を棄却した原審の判決を破棄しました。
  本件立替払契約によって生じる法律関係を所有権留保というのですが,この所有権留保は,譲渡担保と並んで,非典型担保(民法が定める典型担保[質権,抵当権等]の対義語で,実務慣習上の担保のこと)の一類型として,その性質が問題となります。

  この点,所有権留保は,その形式は所有権ではあるものの,その実質は担保権であるという特徴があります。そして,形式を重視すれば,留保所有権者(本件では「B信販会社」)は所有者であり,この者に対する物権的請求権の行使(本件では「本件車両撤去本件土地明渡しの請求」)は認められることになり,他方で,実質を重視すれば,留保所有権者は担保権者に過ぎず,物権的請求権の行使は認められないこととなります(前掲最高裁平成21年3月10日判決の原審の立場)。そして,前掲最高裁平成21年3月10日判決は,いわばその中間的な立場,すなわち残債務弁済期の経過前後で結論を分けるという立場を採用したわけです。なお,最高裁は,譲渡担保の場合についても,以下のとおり上記所有権留保の場合と同様の立場を採っています(最高裁平成18年10月20日判決)。

 「不動産を目的とする譲渡担保において,被担保債権の弁済期後に譲渡担保権者の債権者が目的不動産を差し押さえ,その旨の登記がされたときは,設定者は,差押登記後に債務の全額を弁済しても,第三者異議の訴えにより強制執行の不許を求めることはできないと解するのが相当である。なぜなら,設定者が債務の履行を遅滞したときは,譲渡担保権者は目的不動産を処分する権能を取得するから(・・・),被担保債権の弁済期後は,設定者としては,目的不動産が換価処分されることを受忍すべき立場にあるというべきところ,譲渡担保権者の債権者による目的不動産の強制競売による換価も,譲渡担保権者による換価処分と同様に受忍すべきものということができるのであって,目的不動産を差し押さえた譲渡担保権者の債権者との関係では,差押え後の受戻権行使による目的不動産の所有権の回復を主張することができなくてもやむを得ないというべきだからである。

  上記と異なり,被担保債権の弁済期前に譲渡担保権者の債権者が目的不動産を差し押さえた場合は,少なくとも,設定者が弁済期までに債務の全額を弁済して目的不動産を受け戻したときは,設定者は,第三者異議の訴えにより強制執行の不許を求めることができると解するのが相当である。なぜなら,弁済期前においては,譲渡担保権者は,債権担保の目的を達するのに必要な範囲内で目的不動産の所有権を有するにすぎず,目的不動産を処分する権能を有しないから,このような差押えによって設定者による受戻権の行使が制限されると解すべき理由はないからである。」

 (3)以上より,本件では,Aが本件立替金債務について分割金の支払を怠ってB信販会社から催告を受けたにもかかわらずこれを支払っていない等の事情が存在し,期限の利益喪失による残債務全額の弁済期が経過した後は,あなたは,B信販会社に対し,本件土地所有権に基づき,本件車両撤去本件土地明渡しを求めることができます。

 (4)なお,本件の場合,契約上期限の利益を喪失するのは信販会社が催告をした時となっていますから,未払いがあっても催告が無い以上はAとの関係では期限の利益を喪失しないことになります。そうすると,いつまでも信販会社に対しては請求できないのではという疑問が生じます。しかし,通常,信販会社は未払いがあればすぐに催告して期限の利益を喪失させることになるでしょうから,問題はないでしょう。仮に催告が無く期限の利益が喪失しない場合の処理の問題が残りますが,未払いがあり,期限利益を喪失されるのが相当と判断され場合は実際に催告が無くても,あったものとして駐車場の賃貸人との関係では信販会社が車両の所有者として扱われることになると考えるべきでしょう。

3 B信販会社に対する賃料相当損害金の支払の請求について

 (1)留保所有権者に対する賃料相当損害金の支払請求について,前掲最高裁平成21年3月10日判決は,前記2(1)のとおり「残債務弁済期が経過した後は,留保所有権が担保権の性質を有するからといって上記撤去義務や不法行為責任を免れることはない」としつつ,次のように述べます。
 「もっとも,残債務弁済期の経過後であっても,留保所有権者は,原則として,当該動産が第三者の土地所有権の行使を妨害している事実を知らなければ不法行為責任を問われることはなく,上記妨害の事実を告げられるなどしてこれを知ったときに不法行為責任を負うと解するのが相当である。」
  この理由については,不法行為責任を負うのは,故意,過失の要件を満たしたときであるところ,本判決は,残債務全額の弁済期が経過しても,妨害の事実が告げられなければ,留保所有権者は,原則として,妨害についての故意過失がないといえるとしたものと解されています。

 (2)以上より,本件では,あなたが,B信販会社に対し,Aが長期間に亘り賃料を滞納したためAに対し本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をしたこと,及び,その後も本件土地上に本件車両が駐車されたままになっていることを告げるなどして,B信販会社が上記事実を知った時以降の分については,あなたは,B信販会社に対し,本件土地所有権に基づき,賃料相当損害金の支払を求めることができます。

<参考条文>

民法
(不法行為による損害賠償)
第709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は,これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

法律相談事例集データベースのページに戻る

法律相談ページに戻る(電話03−3248−5791で簡単な無料法律相談を受付しております)

トップページに戻る