新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1169、2011/10/19 11:34

【名誉毀損被害者からのインターネット掲示板削除依頼】

質問:インターネットの掲示板に私の氏名と前科が記載されていました。削除してもらうにはどうしたら良いでしょうか。

回答:
1、インターネットの掲示板に記載する行為も、一般社会での「言いふらし行為」「掲示行為」も、媒体が異なるだけで、人の名誉を侵害する行為は、同様に法的に評価されます。民事上は、不法行為に基く損害賠償請求や差止請求の対象となりますし、刑事上は、名誉毀損罪での刑事処分の可能性があります。
2、インターネットの掲示板に氏名や前科の事実が記載されていた場合は、掲示板の管理者に対して、理由を説明して、削除してもらうように交渉することが原則です。
3、管理者の連絡先が不明な場合や、管理者が削除に応じない場合は、ウェブサーバーを提供しているインターネットプロバイダー業者に対して、名誉毀損やプライバシー侵害などを理由として、「送信防止措置」を請求することもできます。
4、これらの交渉がうまく行かない場合は、各法務局の人権擁護課長に対して、被害申告を行い、削除依頼の救済手続をしてもらうことが考えられます。勿論、法律事務所に相談し、弁護士を代理人に依頼してこれらの交渉や手続を行う事もできます。裁判所に訴えて、記事の削除と損害賠償請求を求める方法もあります。名誉毀損罪での刑事告訴をすることが必要な場合もあります。
5、サイトの削除がどうしてもできない場合は、検索サイトの運営会社に対して、検索結果削除請求を行う手段も考えられます。

解説:

1、名誉毀損

名誉とは、人の社会上の地位又は価値を言い(大審院大正5年5月25日判決)、名誉毀損行為は、社会的評価を低下させるような事実を、不特定多数の人の視聴に達することの可能な状況(大審院対象12年6月4日判決)に置く事を意味します。

刑法230条(名誉毀損)公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
2項 死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。

当然、不特定多数人に対して口頭で告知(言いふらし)する行為であっても、不特定多数人の目に触れる場所にポスターや落書きなどで掲出する行為であっても、名誉毀損罪は成立しうるものですが、インターネットが普及した今日では、インターネット掲示板に他人の社会的評価を低下させるような事実を記載した記事を書き込みし、不特定多数の視聴に供する行為を行った場合でも、名誉毀損罪は成立しうることになります。判例も、インターネット上の名誉毀損事案について、他の事例と基本的に同様の基準で犯罪の成否を検討すべきであると判示しています。最高裁判所平成22年3月15日判決は、「インターネットの個人利用者による表現行為の場合においても、他の場合と同様に、行為者が摘示した事実を真実であると誤信したことについて、確実な資料、根拠に照らして相当の理由があると認められるときに限り、名誉毀損罪は成立しないものと解するのが相当であって、より緩やかな要件で同罪の成立を否定すべきものとは解されない」としています。

名誉毀損行為は、民事上も違法な行為となりますので、民法709条の不法行為として、損害賠償請求や差止請求の対象となります。

但し、他人の社会的評価を低下させるような事実を公表したとしても、マスコミの他、一般私人であっても、専ら公益を図る目的で行われた行為であれば、正当行為として違法性が阻却され、刑事処分の対象とはなりません(刑法230条の2第1項)。

刑法230条の2(公共の利害に関する場合の特例)
 前条第一項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
2項  前項の規定の適用については、公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす。
3項  前条第一項の行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。

過去の刑事事件については、最高裁判決昭和56年4月14日で「前科及び犯罪経歴は、人の名誉、信用に直接かかわる事項であり、前科等のある者もこれをみだりに公開されないという法律上の保護に値する利益を有する」と判示されておりますとおり、合理的な必要性もないのに不特定多数に情報を流布することは、違法性を阻却せず、刑事上も民事上も違法性を帯びる行為と解釈されています。従って、事件直後に新聞報道等には一定の合理性があるとしても、事件から何年も経過した場合には、この情報を流布することは法律上認められる行為ではありません。

また、刑事事件終了から一定期間が経過した場合は、法的に「刑の消滅」又は「刑の言渡しが効力を失った」状態に至っていることになります。この場合は、法的に、刑事処分の効力が消滅しているため、掲出行為の正当性を法的に基礎付けることが極めて困難と言えます。罰金刑の場合は、納付から5年、懲役刑の場合は執行を終えて10年、執行猶予の場合は猶予期間経過により、刑事処分の効力が消滅することになります。

刑法27条(猶予期間経過の効果)刑の執行猶予の言渡しを取り消されることなく猶予の期間を経過したときは、刑の言渡しは、効力を失う。

刑法第34条の2(刑の消滅)禁錮以上の刑の執行を終わり又はその執行の免除を得た者が罰金以上の刑に処せられないで十年を経過したときは、刑の言渡しは、効力を失う。罰金以下の刑の執行を終わり又はその執行の免除を得た者が罰金以上の刑に処せられないで五年を経過したときも、同様とする。

刑事訴訟終了後の刑事記録の取扱いについて定めた「刑事確定訴訟記録法」では、4条と6条で、刑事事件終結後3年を経過した場合は原則として閲覧させないこと、閲覧した者は「犯人の改善及び更生を妨げ、又は関係人の名誉若しくは生活の平穏を害する行為をしてはならない」ことが規定されています。刑事記録ではなくても、人の過去の刑事事件に関する事実を知った者には、被告人の権利を保護するために、同様の注意義務が求められていると言えるでしょう。

刑事確定訴訟記録法4条(保管記録の閲覧) 保管検察官は、請求があつたときは、保管記録(刑事訴訟法第五十三条第一項 の訴訟記録に限る。次項において同じ。)を閲覧させなければならない。ただし、同条第一項 ただし書に規定する事由がある場合は、この限りでない。
2  保管検察官は、保管記録が刑事訴訟法第五十三条第三項 に規定する事件のものである場合を除き、次に掲げる場合には、保管記録(第二号の場合にあつては、終局裁判の裁判書を除く。)を閲覧させないものとする。ただし、訴訟関係人又は閲覧につき正当な理由があると認められる者から閲覧の請求があつた場合については、この限りでない。
一  保管記録が弁論の公開を禁止した事件のものであるとき。
二  保管記録に係る被告事件が終結した後三年を経過したとき。
三  保管記録を閲覧させることが公の秩序又は善良の風俗を害することとなるおそれがあると認められるとき。
四  保管記録を閲覧させることが犯人の改善及び更生を著しく妨げることとなるおそれがあると認められるとき。
五  保管記録を閲覧させることが関係人の名誉又は生活の平穏を著しく害することとなるおそれがあると認められるとき。
六  保管記録を閲覧させることが裁判員、補充裁判員、選任予定裁判員又は裁判員候補者の個人を特定させることとなるおそれがあると認められるとき。
3  第一項の規定は、刑事訴訟法第五十三条第一項 の訴訟記録以外の保管記録について、訴訟関係人又は閲覧につき正当な理由があると認められる者から閲覧の請求があつた場合に準用する。
4  保管検察官は、保管記録を閲覧させる場合において、その保存のため適当と認めるときは、原本の閲覧が必要である場合を除き、その謄本を閲覧させることができる。

第6条(閲覧者の義務) 保管記録又は再審保存記録を閲覧した者は、閲覧により知り得た事項をみだりに用いて、公の秩序若しくは善良の風俗を害し、犯人の改善及び更生を妨げ、又は関係人の名誉若しくは生活の平穏を害する行為をしてはならない。

2、プライバシー侵害

プライバシー権とは、個人の人権尊重と幸福追求権を定めた憲法13条から派生し、判例上、解釈上認められた権利で、「私生活をみだりに公開されない権利」とされています(東京地裁昭和39年9月28日判決)。この判例では、プライバシー侵害が不法行為を構成するための条件として、3条件が示されています。@私生活上の事実または私生活上の事実らしく受け取られるおそれのある情報であること、A一般人の感受性を基準にして当該私人の立場に立った場合に、他社に開示されることを欲しないであろうと認められる情報であること、B一般の人に未だ知られていない情報であることが必要である、とされています。一般に、個人の前科に関する情報は、プライバシー権の保護の対象となると解釈することができます。プライバシー侵害が不法行為となる場合は、損害賠償請求や差止請求をすることができる事になります。

国民の権利意識の高まりを受けて、平成15年5月に「個人情報の保護に関する法律」が制定されました。第1条の目的規定を引用します。

第1条(目的) この法律は、高度情報通信社会の進展に伴い個人情報の利用が著しく拡大していることにかんがみ、個人情報の適正な取扱いに関し、基本理念及び政府による基本方針の作成その他の個人情報の保護に関する施策の基本となる事項を定め、国及び地方公共団体の責務等を明らかにするとともに、個人情報を取り扱う事業者の遵守すべき義務等を定めることにより、個人情報の有用性に配慮しつつ、個人の権利利益を保護することを目的とする。

この法律で個人情報は、特定個人を識別することができる情報を指しますが、裁判所は個人情報もプライバシー権の一部として保護されうると判断しています(最高裁平成15年9月12日判決)。

第2条(定義) この法律において「個人情報」とは、生存する個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)をいう。
2項  この法律において「個人情報データベース等」とは、個人情報を含む情報の集合物であって、次に掲げるものをいう。
一  特定の個人情報を電子計算機を用いて検索することができるように体系的に構成したもの
二  前号に掲げるもののほか、特定の個人情報を容易に検索することができるように体系的に構成したものとして政令で定めるもの
3項  この法律において「個人情報取扱事業者」とは、個人情報データベース等を事業の用に供している者をいう。ただし、次に掲げる者を除く。
一  国の機関
二  地方公共団体
三  独立行政法人等
四  地方独立行政法人
五  その取り扱う個人情報の量及び利用方法からみて個人の権利利益を害するおそれが少ないものとして政令で定める者
4項  この法律において「個人データ」とは、個人情報データベース等を構成する個人情報をいう。
5項  この法律において「保有個人データ」とは、個人情報取扱事業者が、開示、内容の訂正、追加又は削除、利用の停止、消去及び第三者への提供の停止を行うことのできる権限を有する個人データであって、その存否が明らかになることにより公益その他の利益が害されるものとして政令で定めるもの又は一年以内の政令で定める期間以内に消去することとなるもの以外のものをいう。
6項  この法律において個人情報について「本人」とは、個人情報によって識別される特定の個人をいう。

個人情報保護法では、個人情報が事実に反する場合や、本人の同意を得ない個人情報の取扱いがある場合には、個人情報の訂正(26条)や、利用停止(27条)を求めることが出来る旨規定されています。

個人情報保護法26条(訂正等) 個人情報取扱事業者は、本人から、当該本人が識別される保有個人データの内容が事実でないという理由によって当該保有個人データの内容の訂正、追加又は削除(以下この条において「訂正等」という。)を求められた場合には、その内容の訂正等に関して他の法令の規定により特別の手続が定められている場合を除き、利用目的の達成に必要な範囲内において、遅滞なく必要な調査を行い、その結果に基づき、当該保有個人データの内容の訂正等を行わなければならない。
2項  個人情報取扱事業者は、前項の規定に基づき求められた保有個人データの内容の全部若しくは一部について訂正等を行ったとき、又は訂正等を行わない旨の決定をしたときは、本人に対し、遅滞なく、その旨(訂正等を行ったときは、その内容を含む。)を通知しなければならない。

第27条(利用停止等) 個人情報取扱事業者は、本人から、当該本人が識別される保有個人データが第十六条の規定に違反して取り扱われているという理由又は第十七条の規定に違反して取得されたものであるという理由によって、当該保有個人データの利用の停止又は消去(以下この条において「利用停止等」という。)を求められた場合であって、その求めに理由があることが判明したときは、違反を是正するために必要な限度で、遅滞なく、当該保有個人データの利用停止等を行わなければならない。ただし、当該保有個人データの利用停止等に多額の費用を要する場合その他の利用停止等を行うことが困難な場合であって、本人の権利利益を保護するため必要なこれに代わるべき措置をとるときは、この限りでない。
2項 個人情報取扱事業者は、本人から、当該本人が識別される保有個人データが第二十三条第一項の規定に違反して第三者に提供されているという理由によって、当該保有個人データの第三者への提供の停止を求められた場合であって、その求めに理由があることが判明したときは、遅滞なく、当該保有個人データの第三者への提供を停止しなければならない。ただし、当該保有個人データの第三者への提供の停止に多額の費用を要する場合その他の第三者への提供を停止することが困難な場合であって、本人の権利利益を保護するため必要なこれに代わるべき措置をとるときは、この限りでない。
3項 個人情報取扱事業者は、第一項の規定に基づき求められた保有個人データの全部若しくは一部について利用停止等を行ったとき若しくは利用停止等を行わない旨の決定をしたとき、又は前項の規定に基づき求められた保有個人データの全部若しくは一部について第三者への提供を停止したとき若しくは第三者への提供を停止しない旨の決定をしたときは、本人に対し、遅滞なく、その旨を通知しなければならない。

3−1,(掲示板等の管理者に対する削除請求、相手方が国内の場合)

インターネットの掲示板やブログ記事などで、名誉毀損やプライバシー侵害の記事が掲出された場合、その、WEBページの管理者に対して、記事の削除請求をすることが原則となります。掲示板の場合は、WEBページを訪問した第三者が自由に記事を書き込みできるようになっている場合もあり、削除請求の連絡をするまで、管理者は人権侵害にあたる書き込みがあったことすら知らない場合もあります。ですから、最初に連絡する場合は、礼儀を保った態度で通知を行う必要があります。

連絡の相手方を調べるには、ホームページのトップページに記載された連絡先を参照することも必要ですが、ドメインの登録者を確認することも必要です。ドメイン管理団体であるNIC(ネットワークインフォメーションセンター)のwhoisサーバーを利用すると良いでしょう。Whoisサーバーはドメインの登録者や管理者の照会に対してドットコムやドットネットなど、トップレベルドメインを管理するインターニックや、日本のjpドメインを管理するJPNICなどがあります。日本ではJPNICから委託を受けたJPRSがwhoisサーバーを提供しています。各URLは次の通りです。

http://www.internic.net/whois.html ←インターニックのwhoisサービス
http://whois.jprs.jp/ ←JPRSのwhoisサービスhttp://www.telesa.or.jp/consortium/provider/pdf/Whois.pdf ←社団法人テレコムサービス協会による解説ページ

掲示板等の管理者の住所氏名、電話番号、電子メールなどが判明した場合は、本人又は代理人弁護士から、記事の削除要請の連絡をする事になります。弁護士が行う場合は、原則として、内容証明郵便による通知書を用いて連絡する事になります。

連絡内容は、次の通りです。
@通知人の氏名連絡先(代理人の表示)
A問題となっているページのURL(インターネットアドレス)
B問題となっているページ内の、問題となっている部分の特定
C問題となっている部分が、削除されるべき法的な理由
D問題となっている部分を削除請求する旨

掲示板の管理者によっては、削除依頼についても、公開の掲示板への書き込みを要求している場合もありますが、次の理由で、公開掲示板での削除依頼をすることはあまりお勧めできません。

理由@、名誉毀損にしてもプライバシー侵害にしても、公開掲示板に削除依頼の書き込みをすること自体が、人権侵害に関する記事を増大させ、あらたな権利侵害を誘発する恐れがあること。
理由A、公開掲示板に削除依頼を書き込みすることにより、削除依頼対象記事が真実であったという印象を掲示板参加者にもたらし、あらたな人権侵害を誘発する恐れがあること。

3−2,(掲示板等の管理者に対する削除請求、相手方が外国所在の場合)

なお、権利侵害の記事を掲載しているドメインの、トップページ等に一切連絡先が表示されておらず、whois検索によって、登録者や管理者が外国に所在する法人や個人であった場合や、WEBサーバーの所在地が外国になっている場合があります。

このような場合は、管理者やWEBサーバーが所在する国において、その国の弁護士に依頼して、削除請求の手続を行うことが原則となります。インターネット上の登録者や管理者以外に、日本国内に管理者が存在することを立証することができれば、日本国内でも手続をすることができますが、一般的には困難なことであると言わざるを得ません。

そこで、東京地方裁判所民事9部(保全部)では、外国所在サーバーの管理者である外国法人の代表者に対して、権利侵害状況を確認した上で、仮処分命令として、記事の削除と、発信者情報(IPアドレス及び記事投稿日時)の開示を命ずる運用が試みられています。仮処分の保証金は30〜60万円前後となっているようです。

仮処分の主文は次のような形式になっています。

>債務者は,債権者に対し,別紙発信者情報目録記載の各情報を仮に開示せよ。
>債務者は,別紙投稿記事目録記載の各投稿記事を仮に削除せよ。

現在のところ、外国サーバーの掲示板の管理者も、この裁判所の仮処分命令には従っているようです。仮処分の申し立ては、民事保全法に基づき、非保全権利の存在と、保全の必要性についての疎明(民事訴訟法上の証明までは要求されないが裁判所が一応理解できる程度の法的な説明)が必要ですので経験のある法律事務所にご相談なさると良いでしょう。

3−3,(記事削除後の検索エンジンのキャッシュ更新手続)

掲示板の管理者が名誉毀損記事の削除に応じたとしても、検索エンジンの検索結果(キャッシュ表示)には、最長で2〜3ヶ月程度、名誉毀損記事の抜粋テキストが表示され続けてしまいます。検索エンジンのクロウラー(インターネット記事のデータベースの情報を更新するために情報を収集するプログラム)がインターネットの記事を巡回して閲覧(情報取得)するのに、時間が掛かるためです。このような場合に、検索エンジン運営会社に対して、キャッシュの更新を求める手続きを取る必要があります。

主な検索エンジンのキャッシュ更新手続きの窓口をご紹介します。

https://www.google.com/webmasters/tools/removals (検索エンジン、グーグルの場合)
http://form.ms.yahoo.co.jp/bin/searchfdbk_info/feedback (検索エンジン、ヤフーの場合)

4、プロバイダ業者に対する送信防止措置請求

掲示板等の管理者の所在が不明な場合や、掲示板の管理者が削除要請に応じない場合は、WEBサーバーの情報通信機器(コンピューター)を実際に運用している、インターネットサービスプロバイダ業者に対して、送信防止措置請求を行うことが考えられます。

概念図を示します。

掲示板の管理者の管理操作

WEBサーバー(コンピューター) ← IISやApacheなどのWEBサーバープログラムが起動しているプロバイダ業者のコンピューター

IPルーター ← プロバイダ業者のIPパケットルーター

インターネット

一般視聴者(インターネット閲覧者)

このように、掲示板の管理者も、WEBサーバーにアクセスして、記事の掲載や削除などの管理操作を行うことができますが、そもそも、一般にWEBサーバーのコンピューターを実際に運用しているのは、インターネットサービスプロバイダー業者であり、これらの業者がコンピューターを操作することにより、個別記事の送信を停止することが可能となっています。例外的に、掲示板の管理者がIPアドレスの割り当てを受けて直接WEBサーバーのコンピューターを運用しているケースもありますが、そのような場合は、プロバイダが運用しているのはIPルーターだけであり、プロバイダに対して個別URLの送信停止措置を求める事は技術的に困難と言わざるを得ません。

プロバイダに対する送信防止措置については、プロバイダ責任制限法に基いてガイドラインが定められていますので、適宜参照して検討なさると良いでしょう。

http://www.telesa.or.jp/consortium/provider/pdf/provider_mguideline_20110921_1.pdf

この法律では3条で、被害者からプロバイダに対して削除申出がされた場合、削除に応じた場合でも、@他人の権利が侵害されていると信じるに足りる相当の理由があったとき、又は、A権利を侵害されたとする者から違法情報の削除の申出があったことを発信者に連絡し、7日以内に反論がない場合、には、発信者に対する法的責任を免除することが規定され、削除に応じなかった場合でも、@他人の権利が侵害されていることを知っていたとき、又は、A違法情報の存在を知っており、他人の権利が侵害されていることを知る事ができたと認めるに足りる相当の理由があるときでなければ、法的責任を負わない旨が規定されております。これは、プロバイダの法的責任を一部制限することにより、プロバイダが自由な判断でインターネットの権利侵害トラブルを解決できるようにするための環境を整備する趣旨です。

プロバイダー責任法3条(損害賠償責任の制限) 特定電気通信による情報の流通により他人の権利が侵害されたときは、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(以下この項において「関係役務提供者」という。)は、これによって生じた損害については、権利を侵害した情報の不特定の者に対する送信を防止する措置を講ずることが技術的に可能な場合であって、次の各号のいずれかに該当するときでなければ、賠償の責めに任じない。ただし、当該関係役務提供者が当該権利を侵害した情報の発信者である場合は、この限りでない。
一  当該関係役務提供者が当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知っていたとき。
二  当該関係役務提供者が、当該特定電気通信による情報の流通を知っていた場合であって、当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるとき。
2項  特定電気通信役務提供者は、特定電気通信による情報の送信を防止する措置を講じた場合において、当該措置により送信を防止された情報の発信者に生じた損害については、当該措置が当該情報の不特定の者に対する送信を防止するために必要な限度において行われたものである場合であって、次の各号のいずれかに該当するときは、賠償の責めに任じない。
一  当該特定電気通信役務提供者が当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が不当に侵害されていると信じるに足りる相当の理由があったとき。
二  特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者から、当該権利を侵害したとする情報(以下「侵害情報」という。)、侵害されたとする権利及び権利が侵害されたとする理由(以下この号において「侵害情報等」という。)を示して当該特定電気通信役務提供者に対し侵害情報の送信を防止する措置(以下この号において「送信防止措置」という。)を講ずるよう申出があった場合に、当該特定電気通信役務提供者が、当該侵害情報の発信者に対し当該侵害情報等を示して当該送信防止措置を講ずることに同意するかどうかを照会した場合において、当該発信者が当該照会を受けた日から七日を経過しても当該発信者から当該送信防止措置を講ずることに同意しない旨の申出がなかったとき。

5、法務局人権擁護課長に対する被害申告

基本的に、名誉毀損やプライバシー侵害の事例については、当事者同士や、当事者とプロバイダの折衝による自主的な解決が好ましいと言えますが、どうしても、当事者やプロバイダ間の交渉では解決できない場合もあります。そのような場合には、法務省の人権擁護局が後見的な立場で事件を調査し、削除を勧告する場合があります。

法務局が人権侵害事案に対応する場合の処理方法は、人権侵犯事件調査処理規程(平成16年法務省訓令第2号)に定められています。

http://www.moj.go.jp/content/000002021.pdf

これによれば、事件の管轄(申告先)は、人権侵犯の疑いのある事実の発生地又は人権を侵犯されたとされる者若しくは人権を侵犯したとされる者の居住地を管轄する法務局又は地方法務局において取り扱うこととされています。

人権侵犯の事件は、法務局に対して人権侵犯の申告を行う事により調査が開始され、必要に応じて、プロバイダ等に対して削除要請の連絡がなされる事になります。

第8条(救済手続の開始)法務局長又は地方法務局長は,被害者,その法定代理人又はその親族等の関係者から,人権侵犯により被害を受け,又は受けるおそれがある旨の申告があり,人権侵犯による被害の救済又は予防を図ることを求められたときは,申告のあった事件が,法務局又は地方法務局において取り扱うことが適当でないと認められる場合を除き,遅滞なく必要な調査を行い,適切な措置を講ずるものとする。

6、名誉毀損罪での刑事告訴

解決が困難な場合は、検察庁や警察署に対する刑事告訴を行う手段もあります。但し、インターネットの書き込みによる名誉毀損事案は、膨大な件数が存在するため、警察署においても、事実関係の特定が不十分な事案では、受理することに消極的な対応をされる可能性があります。プロバイダに対して発信者情報の開示請求を行うなど、十分な準備を行った上で手続することが必要でしょう。また、告訴状の記載も詳細かつ法令に則って行わなければなりませんので、弁護士に依頼して手続することをお勧めいたします。

判例上、インターネット上の名誉毀損行為で名誉毀損罪が成立した事例には次のようなものがあります。

判例1、最高裁平成22年3月15日判決、飲食店のフランチャイズを募集する被害会社名を記載し、この会社がカルト集団である旨や、会社説明会の広告に虚偽の記載をしている旨を自ら開設したインターネットホームページに公開し、不特定多数の閲覧に供した事例。

判例2、大阪高裁平成16年4月22日判決、インターネットの掲示板に、被害者の実名を記載し、「教育者であるのに校則を知らない」「うそをうそで塗り固める」という事実を記載し、不特定多数の閲覧に供した事例。

判例3、福岡地裁平成14年11月12日判決、自ら開設したインターネットホームページに、「Bは、数年前、自分の息子にテレクラをやらせ、男性関係で悩んでいる女性を探し出させて、弁護士としての自分のクライアントを獲得していたという。」などと記載した記事を、不特定多数の閲覧に供した事例。

7、裁判所に対する民事訴訟の提起

名誉毀損やプライバシー侵害があった事により、損害を受けた被害者は、民法709条及び民法710条に基き、加害者に対して慰謝料などの損害賠償請求及び、インターネット記事の差止請求をすることができます。

但し、記事の差止め請求については、憲法21条で保障された表現の自由との衝突の問題を生じますので、裁判所も慎重に審理することになります。表現の自由を含む精神的自由は、表現行為を通じて言論を戦わせ、国民の民主的な意思決定にも影響しうる重要性を持つものですから、他の経済的自由よりも優越的地位にあると解釈されています。大阪高裁平成17年10月25日判決では次のように、判示しています。

「一般的に、表現行為によって、差止請求権を根拠付ける物権的な性質を有する人格権としての名誉、情報プライバシーが侵害されたとき又は侵害されるおそれがあるときに、表現行為の差止めが認められる場合があることは否定し得ない。しかし、表現の自由の重要性に鑑みると、表現行為の差止めが認められるためには、単に当該表現行為によって人格権が侵害されたというだけでは足りず、当該表現行為によって、被害者が、事後の金銭賠償によっては回復が不可能か、著しく困難になる程度の重大な損害を被るおそれのあることが必要というべきである。」

つまり、インターネット上の名誉毀損行為により、個人や法人の営業が壊滅的打撃を受けて倒産寸前の状態に至っているなどの事情が一般的には必要と解釈することができます。その他の社会生活上の不都合がある場合も、同様の重大性が要求されていると言えます。弁護士に相談して、差止請求が可能かどうか、よく検討すると良いでしょう。

8、検索サイト運営会社に対する検索結果削除請求

どうしても、掲示板管理者に対する削除請求や、プロバイダに対する送信停止措置請求がうまく行かない場合は、検索サイト運営会社に対して、検索結果削除請求を行う手段も考えられます。これについては、複雑な問題がありますので、別稿で詳細に説明したいと思います。

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