新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1162、2011/9/28 10:55 https://www.shinginza.com/qa-fudousan.htm

【民事・賃借人は定期借家契約を途中解約できるか】

質問:定期借家契約の期間途中における解約について相談します。私は、2年前に地方から東京に転勤になりました。転勤は5年間の予定だったので、5年の定期借家契約を締結しました。しかし、景気低迷により、会社の業務が縮小になり、私の転勤は2年で終わることになりました。そこで、地元に戻るため、借家の解約をしたいのですが、大家さんからは、5年の定期借家なので、5年間はいてもらわないと困る。どうしても出て行きたいのなら5年分の家賃を払っていってくれ、といわれてしまいました。どうしたらよいでしょうか?

回答:
1.ご相談のケースでは、借地借家法38条5項「止むを得ない事情」があるということで解約が可能になる場合があります。定期借家契約では一般の借家の賃貸借契約と異なり賃借人の中途解約条項が規定されてないことが多く、解約が難しいこともありますので締結には注意が必要です。
2.法律相談事例集キーワード:689番参照。

解説:

1.建物の賃貸借契約では、2年ないし3年の契約期間を定めているのが普通ですが、その契約は判例上「更新」されることが原則であり、更新を拒絶できる場合について様々な制限が設けられていました(いわゆる正当事由)。これは、住宅の確保という国民生活に重要な目的のため、居住用建物の賃貸借契約では借主が不利な立場にならないように保護しようという政策的目的があります。しかし、この制度により、取り壊しが予定されているとか、転勤の間だけ自宅不動産を人に貸したいなど、一定の期間に限って賃貸借契約を結びたくても、一度契約してしまうと出て行ってもらうことが難しいと考え、住宅を貸すことを躊躇するケースも出てきます。そこで、平成12年から、契約で定めた期間が満了することにより、更新されることなく、確定的に賃貸借が終了する建物賃貸借を締結できるようになりました。これを定期建物賃貸借といいます。

2.定期建物賃貸借では、借地借家法第29条に定める1年未満の建物賃貸借を期間の定めのないものとみなす規定は適用されないこととされており、1年未満でもよいこととなっています。定期建物賃貸借は、「公正証書による等書面によって契約する」(借地借家法第38条)必要があり、貸主は借主に対して、契約の更新はなく、期間の満了とともに契約が終了することを、契約書とは別にあらかじめ書面を交付して説明しなければなりません(38条2項)。貸主がこの説明を怠ったときは、その契約は定期借家ではなく通常の(契約更新可能な)借家契約となります。

3.定期借家契約においては、契約期間が1年以上の場合は、貸主は期間満了の1年前から6か月前までの間に、借主に契約が終了することを通知する必要があります。更新はできませんが、再契約等は可能ですので、期間満了前に当事者双方が合意すれば、再契約したうえで、引き続きその建物を使用することは可能です。上記のように、定期借家契約を締結・利用するには様々な制限がありますが、これを遵守すれば、今まで「確実な立ち退き」に悩まされてきた大家さんとしては、不動産の有効な利用ができることになります。
4.定期借家では、契約期間が満了すると、更新はできない、ということにポイントがありますが、契約期間中の解約についてはどうでしょうか。法第38条第5項では、床面積が200平方メートル未満の住宅に居住している借主に限り、契約期間中に、借主にやむを得ない事情(転勤、療養、親族の介護など)が発生し、その住宅に住み続けることが困難となった場合には、借主から解約の申し入れができることとなっています。この場合、解約の申し入れの日から1月経過すれば、契約が終了します。この条文の趣旨は貸主と借主の利益調和です。
    通常、定期借家契約では、期限が来れば目的物が必ず返還されるという賃貸人に有利な契約である上に、期間が限定されているので、一般の賃貸借契約と異なり賃料確保の必要性から期間中の解約権は規定されないことが多いようです。しかし、賃借人の中途解約の条項を定めなかったからと言ってかならずしも一方的に賃借人側に不利益な条項(借地、借家法30条)であるとは言いきれません。従って、この契約を文言通り解釈すると一般の賃貸借契約よりも賃借人を不利益に扱うことになってしますので、借地借家法の本来の趣旨である賃借人側の利益をも考慮し「転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情」の場合という限定を付けて1カ月という短期の猶予をもって契約を解除することができるものとしました。

5.現在の通説では、この条項の反対解釈により、この要件を充足しない場合は、借主からの途中解約はできないと考えられています。期間の定めのある賃貸借契約においては契約で解約について定めのない限り(「解約権の留保」といって通常の建物賃貸借契約書には、借主は3カ月とか6カ月前に通知すれば解約できる旨の定めがあります)、途中解約はできないのが民法の原則で、法第38条5項の解約の申し入れは特別な規定ですから、その規定が適用されない場合は途中解約ができないと考えられます。
    例えば、事業用に建物を借りている場合や、床面積が200平米以上ある場合などは、本条の適用が無いため、途中解約ができません。これを防止するためには、定期借家契約締結のときに、解約に関する特約を設けておく必要があります(借地借家法では、同法の規定に反する特約のうち、「借主に不利な特約は無効」とされていますので、借主に有利になる内容であれば特約は可能です)。

    民法では、540条と541条で、契約の解除権が規定されています。つまり、540条で、「契約又は法律の規定により当事者の一方が解除権を有するときは、その解除は、相手方に対する意思表示によってする」と規定し、541条で、「当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は契約の解除をすることができる」と定めています。また、判例の集積により、契約上の義務違反があり当事者間の信頼関係破壊に至った場合は無催告による解除も有効となりうると解釈されています。このように法律で解除権の行使が債務不履行などの場合に制限されているのは、一度成立した契約の効力をできるかぎり保護し、取引の安全を保護し、取引を促進して社会経済の発展に役立てたい、という制度趣旨です。契約をいつでも解除できるとしてしまうと、社会が混乱してしまう為です。なお、一流デパートなどで、商品の返品に随時応じる姿勢をとっているところがありますが、これは法律上解除に応じる義務がないところを、サービスの一環として、解除に応じているものです。民法の原則は、「解除自由」にはなっていませんのでご注意下さい。

6.本件のケースでは、「転勤のため」ということですから条文上「転勤、療養、親族の介護などやむを得ない事情」が存在すると思われるので、床面積200平米以下の建物であれば、一ヶ月前の予告により、解約ができることになります(転勤のための解約であるということは、借家人に主張立証責任がありますから、仮に訴訟等になる場合には、借家人の方で、証拠を持って証明する必要がありますので、「必ず解除できる」というわけではありません)。まずは大家さんと話し合いの機会をもつべきですが、話し合いが進まない場合には、お近くの弁護士に相談されることをお薦めいたします。

<参考条文>

借地借家法
第三節 定期建物賃貸借等
(強行規定)
第三十条  この節の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものは、無効とする。

(定期建物賃貸借)
第三十八条  期間の定めがある建物の賃貸借をする場合においては、公正証書による等書面によって契約をするときに限り、第三十条の規定にかかわらず、契約の更新がないこととする旨を定めることができる。この場合には、第二十九条第一項の規定を適用しない。
2  前項の規定による建物の賃貸借をしようとするときは、建物の賃貸人は、あらかじめ、建物の賃借人に対し、同項の規定による建物の賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により当該建物の賃貸借は終了することについて、その旨を記載した書面を交付して説明しなければならない。
3  建物の賃貸人が前項の規定による説明をしなかったときは、契約の更新がないこととする旨の定めは、無効とする。
4  第一項の規定による建物の賃貸借において、期間が一年以上である場合には、建物の賃貸人は、期間の満了の一年前から六月前までの間(以下この項において「通知期間」という。)に建物の賃借人に対し期間の満了により建物の賃貸借が終了する旨の通知をしなければ、その終了を建物の賃借人に対抗することができない。ただし、建物の賃貸人が通知期間の経過後建物の賃借人に対しその旨の通知をした場合においては、その通知の日から六月を経過した後は、この限りでない。
5  第一項の規定による居住の用に供する建物の賃貸借(床面積(建物の一部分を賃貸借の目的とする場合にあっては、当該一部分の床面積)が二百平方メートル未満の建物に係るものに限る。)において、転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情により、建物の賃借人が建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となったときは、建物の賃借人は、建物の賃貸借の解約の申入れをすることができる。この場合においては、建物の賃貸借は、解約の申入れの日から一月を経過することによって終了する。
6  前二項の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものは、無効とする。
7  第三十二条の規定は、第一項の規定による建物の賃貸借において、借賃の改定に係る特約がある場合には、適用しない。

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