新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1077、2011/2/3 14:08 https://www.shinginza.com/chikan.htm

【刑事・逮捕後の勾留請求に対応する弁護人の職務・準抗告】

質問:昨日(早朝),夫(会社員,上場企業)が電車内で痴漢行為をしたため,東京都迷惑防止条例違反を理由に逮捕されたとの連絡を警察から受けました。担当刑事さんから話を聞いたところ,夫は事実を認めているそうです。ただ,夫が逮捕されたのは通勤経路の路線とはまったくべつの場所だそうで,私は,夫が本当にそのような行為に及んだのか,今でも信じられずにいます。また,夫がかつて(約1年前)同様の行為で罰金刑を受けていたことも知らされました。夫はこれからどうなるのでしょうか。会社にはどう連絡した方がいいでしょうか。

回答:
1.今後,あなたの夫は,検察庁に身柄を送られ(本日,午前8時過ぎころ警察署を護送車で出発),検察官が,あなたの夫に対する勾留請求をするかどうか判断することになります(東京地検の場合午前11時以降)。速やかに(理論的には逮捕後48時間以内ですが,実質的には24時間以内,本日中に弁護人選任が必要ですからほとんど時間がありません。)弁護人を選任し,勾留請求せず在宅で捜査するよう検察官に対し具体的に書面等を用意して面談,交渉する必要があります。この場合,示談金を用意して被害者の連絡先開示も併せて請求しましょう。
2.また,勾留請求された場合には,直ちに弁護人と協議して,翌日(東京地裁の場合,その他,地方の地裁の場合は午後即日)裁判官に対し,勾留請求を却下するよう同様に面接を含め具体的手続きを取ることが肝要です。地方の場合は,時間がないので至急準備が必要です。
3.今回のケースの場合,仮に,裁判官が勾留請求を却下する決定をしたとしても,検察官がそれに対し準抗告を申し立てる可能性があります。その場合には,準抗告を棄却するよう要請することになります。検察官の準抗告が認められ,勾留却下決定が取り消されたら,弁護人は直ちに裁判所に向かい,裁判官と面接しさらに取り消し決定に対し抗告(最初の却下決定が取り消されて裁判官により勾留決定されたことになるのでやはり抗告ではなく準抗告となります。)することになります。この場合,勾留請求却下を求めた理由の他に勾留の理由に対応する補充する理由,書面を準備する必要があります。本件でいえば,60条1項2号証拠隠滅の場合,自白を兼ねた謝罪文の補充,電車,通勤経路変更の誓約書,さらに上積みした謝罪金,弁護人自身の保証書等が考えられます。というのは,10日間の勾留は,会社の懲戒解雇問題に発展する危険があり、どうしても引き下がれません。
4.これらの活動が奏功し,身柄が解放された場合には,警察署,検察庁の担当官に連絡面談,書面提出して被害者側情報を確認し速やかに示談を成立させ,検察官による終局処分をより軽いものとする活動をすべきでしょう。会社に対しては,処分が決まったわけではありませんので,刑事事件の点はまだ説明しない方がよいと思います。以下,解説します。
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解説:
1.現在の状況について
 現在,あなたの夫は,逮捕に伴い身柄を拘束されています。刑事訴訟法上,被疑者を逮捕した警察官は,逮捕後48時間以内に,事件を検察官に送致する手続が取らなければならないと定められていることから(刑訴法203条),本日中(東京の場合,午前8時30分ころ護送車で他の警察署を回り多くの被疑者と一緒に霞が関の検察庁に行きます。10時頃検察庁到着。)には,警察官により,事件を検察官に送致する手続きが取られるものと考えられます。

2.今後の見通しと身柄解放に向けた弁護活動
(1)勾留請求阻止
 ア 検察官による勾留請求
 そして,事件の送致を受けた検察官は,送致を受けた時から24時間以内に,裁判官に被疑者の勾留(10日間)を請求するか,被疑者の身柄を釈放しなければなりません(刑訴法205条)。たとえ前科があり現行犯であっても,最終的に有罪になるのは刑事裁判が確定した時であり(それまでは無罪の推定が働く。フランス人権宣言,市民的及び政治的権利に関する国際規約14条2項。疑わしきは被告人の利益にという検察官の挙証責任に関する大原則。これは被疑者でも同様です。),大切なことは迅速な捜査により公正な刑事裁判を維持できるかということですから,犯罪事実を認め,勤務先,住居があり今後の捜査に特に支障がないようであれば,被疑者といえども裁判確定までは社会人として生活する権利(憲法13条,31条,33条,人身の自由権)を有するので理由なく身柄を拘束することはできません。従って勾留に必要な要件が規定されています。被疑者にも刑訴207条で準用される刑訴60条は,人身の自由権と公正な裁判手続きの調和として規定されていますから解釈もその趣旨を踏まえる必要があります。
 イ 上記の勾留請求をするか否かの判断は,被疑者を留置する必要があるか否かにより決せられることになります(同条)。したがって,まずは,検察官に対し,被疑者を留置する必要がないと主張し,勾留請求しないよう説得しなければなりません。すなわち,適正,迅速な捜査に身柄の拘束は必要がないという事情を書面で説明することになります。より具体的にいえば,勾留とは,@被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があり,A刑事訴訟法60条1項各号のいずれか(住居不定〔1号〕,罪証隠滅のおそれ〔2号〕,逃亡のおそれ〔3号〕)に該当し,かつ,B勾留の必要性(相当性)がある(60条の解釈から勾留が,適正な捜査のため必要最小限度の手段であり,被疑者の身柄を拘束する公的利益が,被疑者が勾留により被る不利益を比較して均衡を失するものであってはいけないこと。均衡の原則)場合になされるものですから,これらの事情(@ないしB)にあたらないことを主張し,検察官を説得する必要があります。
 ウ ただし,今回のケースの場合,夫が事実を認めていること,そして,被害者の供述も得られているであろうことからすると,@の罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由を否定することは難しいでしょう。
 また,通勤経路とは別の場所で犯行に及んでいるという事情からすれば,計画的な犯行であると推測される可能性が高く,その動機や計画性といった事情について,証拠隠滅のおそれがあると検察官に判断される可能性は高いといわざるをえません。さらに,同種の罰金前科があることから,今回は公判請求も予想されるケースであり,重い処分をおそれて逃亡する危険性が高いと検察官に判断される可能性もあります。したがって,Aの刑事訴訟法60条1項各号該当性を否定することも難しいものと考えることもできます。
 
 ところで,基本的な犯罪事実を認めているのに,今後解明される犯行に至る態様(動機,計画性,手段,共犯関係)の点を理由に証拠隠滅の要件を認めることができるかという問題があります。2号の「罪証」とは基本的構成要件に関する事実のほかにどの範囲までを含むのかを解釈する必要があります。種々の学説がありますが,結論を言えば,抽象的ですがその犯罪の性質上,罪責,刑事責任に直接的に影響を及ぼす事実は犯行の態様であっても含まれるものと解釈せざるを得ないと思います。なぜなら,60条の目的は,公正な刑事裁判手続きの保障を目的としており,犯行の態様でもその内容により罪責,刑責に対する影響が大きく証拠隠滅防止のため人身の自由を制限せざるを得ないからです。殺人の動機,共犯事件の共謀,役割,薬物の入手経路,常習性等はその一例です。そうすると,主張としては,本件は,1年前に同種前科があるとしても常習犯として立件することは不可能であり(量刑からいって数年間にわたり3-4回の前科が必要でしょう),他線利用という計画性があっても刑責(今回は50万円以内の罰金が予想されるので)に直接の影響がないと思われるので,証拠隠滅をしないという誓約書(保証人付き),妻,両親の身元引受書,通常より多額の被害弁償金を用意して,60条1項2号,3号の不存在を主張することが肝要です。
 (判例)単純な公務執行妨害罪で犯行(平手で数回警察官を殴る),氏名住所を黙秘した被疑者について,現行犯逮捕で目撃証人もおり,弁護人の主張により氏名住所が明らかになったとして2号の要件を否定し検察官の準抗告を却下した裁判がありあります。(福岡地方裁判所小倉支部昭和45年6月20日決定,勾留請求却下の裁判に対する準抗告申立事件)
 次に,Bの勾留の必要性に欠けるという点も主なものとなると考えられますので,例えば,勾留されれば上場企業なので解雇される危険性が大であることや,勾留によりあなたを含めた家族が受ける不利益等を具体的に主張する必要があります。いずれにしろ,事件送致後24時間以内に検察官は勾留請求するか否かを判断しなければなりませんから,弁護人としても時間内に検察官と交渉する必要があります(本日の午前11時まで)。弁護人を依頼するにしても迅速な行動が必要になります。
 その他,具体的には,警察署を護送車で出発する前に接見するか(当日午前7時ころまで)検察庁で取り調べ前に接見することになります。実務上検察庁での接見(当日午前11時前)は必ず認められます。ここで,弁選を頂き,弁護方針を確認します。必要書面としては,@被疑者の謝罪文(書く時間はないので本件の場合持参できません。),A和解金の預かり証(揺るがない自白の証拠となります),B身元引受書,C妻の謝罪文(身元引受と罪証隠滅防止,被害者への謝罪に不可欠)D証拠隠滅をしないという誓約書(60条1項2号の関係でこれが重要です。保証人を両親,妻にします。最終的には弁護人も。),被害者との被害弁償交渉のための被害者側連絡先開示要請書等です。

(2)勾留請求却下決定の獲得
 検察官が勾留請求した場合には,直ちに,裁判官に対して勾留請求を却下するよう働きかける必要があります。東京地裁の場合被疑者が多いので翌日勾留質問になりますので,翌日の午前10時頃までに書面を提出して,裁判官面接を要請します。身元引受人のあなたは,裁判官が被疑者の面接を行ったうえで勾留請求を却下する場合,身元引受の書面,証拠隠滅防止,通勤経路変更の誓約書に署名を求めますので弁護人と同行し,裁判所の近くで待機することになります。その他の裁判所では,当日の午後に行われるのでそれに合わせて弁護人と打ち合わせを行います。
 ア 裁判官は,勾留状を発するために,被疑者に対し被疑事件を告げ,その陳述を聞かなければならず(刑訴法61条),上記の勾留の要件(@ないしB)を満たしていない場合には,直ちに被疑者の釈放を命じなければなりません(刑訴法207条4項)。
 イ したがって,勾留請求された場合,直ちに,意見書を裁判官に提出して勾留の理由がないことを主張すると共に,場合によってはあなたも同席のうえ,裁判官と面接し,勾留の理由がないこと(特に,Bの勾留の必要性がないことを起訴づける具体的事情)を書面で裁判官に伝え,勾留請求を却下させる必要があるのです。必要書面としては,検察官に事前に提出した謝罪文(犯罪事実を認めた内容を記載,通常弁護人接見が当日なので書く時間がなく地方の裁判所では間に合いませんので弁護人の書面で代わりとします。)和解金の預かり証,身元引受書,妻の謝罪文,証拠隠滅をしないという誓約書等です。裁判所に検察官が勾留請求に伴い添付してくれますが,念のため提出します。

(3)準抗告に対する対応
 ア 上記の活動が奏功し,勾留請求却下決定を得ることができたとしても,身柄が解放されるとは限りません。勾留の理由がないため,検察官の勾留請求が却下される場合裁判所は,ただちに被疑者の釈放を命じなければなりません(刑訴法207条4項)。しかし,勾留請求却下決定に対しては,検察官による不服申立て(準抗告)が認められています。準抗告とは,裁判官(裁判所ではなく,裁判官の決定なので抗告に準ずる申し立てになります。)が行った裁判の取消や変更を,当該裁判官が所属する裁判所(当該裁判官が簡易裁判所の裁判官である場合には,管轄の地方裁判所)に求める手続です(刑訴法429条)。準抗告に対する判断にあたって,裁判所は,裁判(今回のケースで言えば,勾留請求却下決定)の執行を停止することができますので(刑訴法432条,424条),執行停止がなされている間は,あなたの夫の身柄は釈放されません。
 イ 検察官により準抗告がなされた場合にも,上記(2)イと同様に,勾留の理由がない旨の意見書を再度提出し,準抗告を棄却するよう求める必要があります。
 ウ 検察官の準抗告が認められ,却下の決定が取り消されたら,弁護人としてはさらに準抗告の申し立てができます。却下決定の取り消しによりなされた(裁判官の)勾留決定に対するものでやはり弁護人の(準)抗告になります。上場企業なので10日間の勾留は,解雇の危険があり承服できません。勾留理由に応じて,追加書面和解金の追加,場合によっては弁護人の保証書等もさらに必要です。このような書面で,証拠隠滅,逃亡の可能性を減少させます。

3.身柄解放後の活動
 準抗告が棄却されれば,あなたの夫は釈放され,今後は在宅のまま捜査が行われることになります。今回のケースの場合,既に一度罰金刑を受けていることから,これを下回る処分を獲得することは簡単ではありません。ただし,痴漢のように被害者が存在する犯罪においては,被害弁償がなされ,被疑者の許し(「宥恕」)が得られていることは,あなたの夫に対する最終的な処分を決する際に大きく考慮されます。これを起訴便宜主義(刑訴248条 犯人の性格,年齢及び境遇,犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは,公訴を提起しないことができる。)といいます。公判請求され,公開の法廷において審理されることの不利益を考えると,まずは示談を成立させ,公判請求を避けるとともに,より軽い処分(略式手続による罰金刑,もしくは不起訴)とするよう検察官と交渉することが必要となります。2回目でも事情により不起訴は可能です。
 このように,あなたの夫の身柄を直ちに解放するためにも,その処分をより軽いものとするためにも,弁護人を選任することは必要不可欠です。特に,逮捕から勾留まで,時間的に3日程度の猶予しかないことからすれば,弁護人による十分な弁護活動を受けるためには,逮捕後,速やかに弁護士にご相談されることが重要といえるでしょう。
 
<参考条文>

刑事訴訟法
第60条  裁判所は,被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で,左の各号の一にあたるときは,これを勾留することができる。
一  被告人が定まつた住居を有しないとき。
二  被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
三  被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
○2  勾留の期間は,公訴の提起があつた日から二箇月とする。特に継続の必要がある場合においては,具体的にその理由を附した決定で,一箇月ごとにこれを更新することができる。但し,第八十九条第一号,第三号,第四号又は第六号にあたる場合を除いては,更新は,一回に限るものとする。
○3  三十万円(刑法 ,暴力行為等処罰に関する法律(大正十五年法律第六十号)及び経済関係罰則の整備に関する法律(昭和十九年法律第四号)の罪以外の罪については,当分の間,二万円)以下の罰金,拘留又は科料に当たる事件については,被告人が定まつた住居を有しない場合に限り,第一項の規定を適用する。
第61条  被告人の勾留は,被告人に対し被告事件を告げこれに関する陳述を聴いた後でなければ,これをすることができない。但し,被告人が逃亡した場合は,この限りでない。
第203条  司法警察員は,逮捕状により被疑者を逮捕したとき,又は逮捕状により逮捕された被疑者を受け取つたときは,直ちに犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告げた上,弁解の機会を与え,留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し,留置の必要があると思料するときは被疑者が身体を拘束された時から四十八時間以内に書類及び証拠物とともにこれを検察官に送致する手続をしなければならない。
○2  前項の場合において,被疑者に弁護人の有無を尋ね,弁護人があるときは,弁護人を選任することができる旨は,これを告げることを要しない。
○3  司法警察員は,第三十七条の二第一項に規定する事件について第一項の規定により弁護人を選任することができる旨を告げるに当たつては,被疑者に対し,引き続き勾留を請求された場合において貧困その他の事由により自ら弁護人を選任することができないときは裁判官に対して弁護人の選任を請求することができる旨並びに裁判官に対して弁護人の選任を請求するには資力申告書を提出しなければならない旨及びその資力が基準額以上であるときは,あらかじめ,弁護士会(第三十七条の三第二項の規定により第三十一条の二第一項の申出をすべき弁護士会をいう。)に弁護人の選任の申出をしていなければならない旨を教示しなければならない。
○4  第一項の時間の制限内に送致の手続をしないときは,直ちに被疑者を釈放しなければならない。
第205条  検察官は,第二百三条の規定により送致された被疑者を受け取つたときは,弁解の機会を与え,留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し,留置の必要があると思料するときは被疑者を受け取つた時から二十四時間以内に裁判官に被疑者の勾留を請求しなければならない。
○2  前項の時間の制限は,被疑者が身体を拘束された時から七十二時間を超えることができない。
○3  前二項の時間の制限内に公訴を提起したときは,勾留の請求をすることを要しない。
○4  第一項及び第二項の時間の制限内に勾留の請求又は公訴の提起をしないときは,直ちに被疑者を釈放しなければならない。
○5  前条第二項の規定は,検察官が,第三十七条の二第一項に規定する事件以外の事件について逮捕され,第二百三条の規定により同項に規定する事件について送致された被疑者に対し,第一項の規定により弁解の機会を与える場合についてこれを準用する。ただし,被疑者に弁護人があるときは,この限りでない。
第207条  前三条の規定による勾留の請求を受けた裁判官は,その処分に関し裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。但し,保釈については,この限りでない。
○2  前項の裁判官は,第三十七条の二第一項に規定する事件について勾留を請求された被疑者に被疑事件を告げる際に,被疑者に対し,弁護人を選任することができる旨及び貧困その他の事由により自ら弁護人を選任することができないときは弁護人の選任を請求することができる旨を告げなければならない。ただし,被疑者に弁護人があるときは,この限りでない。
○3  前項の規定により弁護人の選任を請求することができる旨を告げるに当たつては,弁護人の選任を請求するには資力申告書を提出しなければならない旨及びその資力が基準額以上であるときは,あらかじめ,弁護士会(第三十七条の三第二項の規定により第三十一条の二第一項の申出をすべき弁護士会をいう。)に弁護人の選任の申出をしていなければならない旨を教示しなければならない。
4  裁判官は,第一項の勾留の請求を受けたときは,速やかに勾留状を発しなければならない。ただし,勾留の理由がないと認めるとき,及び前条第二項の規定により勾留状を発することができないときは,勾留状を発しないで,直ちに被疑者の釈放を命じなければならない。
第424条  抗告は,即時抗告を除いては,裁判の執行を停止する効力を有しない。但し,原裁判所は,決定で,抗告の裁判があるまで執行を停止することができる。
○2  抗告裁判所は,決定で裁判の執行を停止することができる。
第429条  裁判官が左の裁判をした場合において,不服がある者は,簡易裁判所の裁判官がした裁判に対しては管轄地方裁判所に,その他の裁判官がした裁判に対してはその裁判官所属の裁判所にその裁判の取消又は変更を請求することができる。
一  忌避の申立を却下する裁判
二  勾留,保釈,押収又は押収物の還付に関する裁判
三  鑑定のため留置を命ずる裁判
四  証人,鑑定人,通訳人又は翻訳人に対して過料又は費用の賠償を命ずる裁判
五  身体の検査を受ける者に対して過料又は費用の賠償を命ずる裁判
○2  第四百二十条第三項の規定は,前項の請求についてこれを準用する。
○3  第一項の請求を受けた地方裁判所又は家庭裁判所は,合議体で決定をしなければならない。
○4  第一項第四号又は第五号の裁判の取消又は変更の請求は,その裁判のあつた日から三日以内にこれをしなければならない。
○5  前項の請求期間内及びその請求があつたときは,裁判の執行は,停止される。
第432条  第四百二十四条,第四百二十六条及び第四百二十七条の規定は,第四百二十九条及び第四百三十条の請求があつた場合にこれを準用する。

<参考判例>

福岡地方裁判所小倉支部昭和45年6月20日決定
理   由
一 本件申立の趣旨及び理由は,別紙準抗告申立書記載の通りであるから,これをここに引用する。
二 本件記録によれば,被疑者が勾留請求書記載の罪を犯したことを疑うに足りる相当の理由が認められる。
 そこで検察官主張の刑事訴訟法六〇条一項各号所定の事由の有無につき判断する。 
 被疑者は本件被疑事実について現行犯として逮捕されたものであるが,右逮捕当時から警察官及び検察官の取調べに対し被疑事実について全く供述を拒否しているほか,その氏名,年令,住居及び職業等についても全面的に黙秘していることが認められ,本件記録を精査しても原裁判の段階においてこれらを認めるに足る資料はない。しかしながら,被疑者の実姉山口藤子(北九州市門司区葛葉二丁目九番一六号に居住)の身柄引受書,右に被疑者の勤務先として記載のある有限会社秀電舎(同区錦町七丁目所在)宛の電話照会の結果,門司警察署警備課長からの電話聴取書によれば,被疑者は同区白木崎八丁目に居住する石井孫一(二三・四才位)であつて前記秀電舎に勤務する者であることを認めるに難くない。そして,右によれば同人は上記場所に両親とともに居住し,中学校卒業後約八年間にわたつて同会社に勤務し,同社では電気工事関係の重要な仕事を担当している者であることが窺われる。また,被疑者についてはその弁護人となろうとする弁護士河野善一郎ほか二名連名の身柄引受書のほか前記のとおり実姉山口藤子も身柄引受書を提出している。これらによれば,現在では被疑者の住居はほぼ明らかであるから前記条項一号に該当しないというべく,また右のような身分,職業関係,引受状況等からみて逃亡のおそれもないというべきである。
 次に罪証隠滅のおそれの有無について検討するに,被疑者が事実関係につき供述を拒否していることは前記のとおりであるが,本件は職務に従事中の警察官一名に対し平手や手拳で殴打したことによる公務執行妨害被疑事件であつて,客観的事実自体は比較的単純なものと認められる上,被疑者は当の相手方たる警察官によつて,その場で現行犯逮捕されたものであり,警察官二名の被害状況,目撃状況についての明白な供述があり,また犯行前後の状況につき写真撮影もなされ,被疑者の行動に関する限り採証は概ね確実に尽されていることが認められる。したがつて,被疑者が引き続き事実を黙秘するか否かは別とし,少くとも関係人と通謀し或いは圧力を加えるなどして罪証を隠滅するおそれは殆んどないと認められる。
三 してみると,本件において刑事訴訟法六〇条一項各号に該当する事由なしとして勾留請求を却下した原裁判は結局相当であり,本件準抗告の申立は理由がないことに帰する。

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