新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1067、2010/12/14 12:52 https://www.shinginza.com/stoker.htm

【ストーカー規制法・制度趣旨・合憲性・迷惑防止条例との関係】

質問:私は,過去に交際していた女性が忘れられず,女性の自宅に花屋さんからバラの花束を2回届け,その後も自分とあって欲しい,という趣旨の手紙を5通ほど出しました。そうしたところ,警察署から連絡が来て,警察署長名義の警告書を渡されました。それでも諦め切れず,再度手紙を出したところ,警察署から呼び出しを受け,取り調べを受けた後,そのまま逮捕・勾留されてしまいました。今後,私は,どうなってしまうのでしょうか。

回答:
1.あなたの行為は,恋愛感情がもとになって行われたものですからストーカー行為等の規制等に関する法律(以下,「ストーカー規制法」と言います)2条2項の「ストーカー行為」にあたります。法定刑は,「6月以下の懲役又は50万円以下の罰金」(ストーカー規制法13条1項)です。警察署長名義の警告書は,ストーカー規正法4条1項が根拠規定となっています。
参考URL:ストーカー事案対応の流れフローチャート(警察庁HP)
http://www.npa.go.jp/safetylife/stalkerlaw/stalkerchart.pdf
2.ストーカー行為が行われた場合すべて処罰されるわけではありませんが,逮捕勾留されている勾留期間満了後に少なくとも罰金(略式命令)となるでしょう。より悪質と認められれば起訴されて正式な裁判となり懲役刑を宣告されることもあります。
3.もっとも,ストーカー行為の罪は親告罪なので(同法13条2項),被害者と示談をして,告訴を取り下げてもらえれば,あなたは処分保留のまま身柄を釈放されて,後に不起訴処分を得ることも可能です。
4.ストーカー規制法は,憲法13条の保障する一般的行為自由及び憲法21条の保障する表現の自由を侵害して違憲ではないかとの主張もありますが,最高裁は,合憲との判断を下しています。
5.なお,あなたの事件とは異なりますが,恋愛感情等により,「電話をかけて何も告げず,又は拒まれたにもかかわらず,連続して,電話をかけ若しくはファクシミリ装置を用いて送信すること」(ストーカー規制法2条1項5号)が「つきまとい等」として,規制の対象とされていますが,連続して電子メールを送信することは,同法2条1項1号の規制対象には含まれません。
6.この法律は,恋愛感情等の好意的感情が原因となって行為を行うことですから,悪意の感情に基づき本件のような行為を行うと,脅迫,各都道府県の迷惑防止条例「付きまとい行為の禁止」違反(例えば東京都迷惑防止条例5条の2,順次改正されていますが規定されていない県もあります。例えば北海道等。)に問われることがあります。一回限りの路上でのつきまとい行為ですと軽犯罪法違反(1条28号)の適用が考えられます。

解説:
1.(ストーカー規制法制定の背景)1990年代後半頃から,特定の女性を執拗につけまわしたり,無言電話を繰り返すなどの「つきまとい」に関する警察への相談件数が急増し,なかには「ストーカー殺人」としてマスコミに大きく報道されるような凶悪事件に発展する例がみられるなど,ストーカーが大きな社会問題になったことから平成12年に制定された法律がストーカー行為規制法です。
(定義)「ストーカー行為」とは,同一人に対し,同法2条1項で定義された「つきまとい等」を反復して行うことをいいます(同法2条2項参照)。あなたは,「つきまとい等」を反復していることから,「ストーカー行為」にあたり,同法13条1項で定められた法定刑である「6月以下の懲役又は50万円以下の罰金」に処せられる可能性があります。恋愛感情が原因となるものではなく,その他一般的悪意の感情によるつきまとい行為は東京都迷惑防止条例等各都道府県条例の改正で禁止されている場合があります。東京都の場合,罰則同じですが,量刑は各都道府県により異なります。例えば,福島県迷惑行為等防止条例(7条,11条)は,3か月以内の懲役,又は罰金20万円です。
 判例では,神戸地方裁判所平成19年7月3日判決ストーカー行為等の規制等に関する法律違反,住居侵入被告事件。判決において,「恋愛感情を充足する目的」は広く解釈されており,離婚した夫が,子供のことが心配になり,元妻を監視,見張り行為について,時折復縁話をしている等の理由で「恋愛感情を充足する目的」を認め執行猶予期間中でもあり懲役9ヶ月の実刑判決を言い渡しています。
 以上のように,ストーカー規制法,各迷惑防止条例の改正の理念は,いうまでもなく,人間としての尊厳を確保,保障するためには(憲法13条)社会生活において生活の平穏を確保するための利益をさらに種々の面から保護することにあります。従来の権利,利益の保護のみでは,社会,経済状態,情報機器の発達が時と共に変化し従来予想されなかった,権利,利益侵害を防ぐことが難しくなってきました。そこで,刑法犯に該当する以前のあらゆるつきまとい行為を網羅,規制し,人間として平穏に生活する権利を擁護し法の理想を実現しようとすることにあります。
 唯,自由主義を採用する社会秩序においては,目的,態様,結果,社会関係から行動の自由との調和を常に念頭に置く必要があるでしょう。

2.(親告罪)もっとも,ストーカー行為の罪は親告罪です(同法13条2項)。親告罪とは,被害者の犯人の処罰を求める意思等を尊重して,被害者が捜査機関に対して犯罪事実を申告し,犯人の処罰を求める意思表示がなければ公訴を提起できないものとしている犯罪をいいます(公訴提起に被害者側の告訴が必要な犯罪)。そこで,あなたが早期に身柄の釈放を求めたいのであれば,被害者に民法上不法行為(民法709条)に基づく損害賠償金を支払う等して,被害者に許してもらい,和解(示談)を成立させて,被害者に告訴を取り下げてもらう必要があります。被害者に告訴を取り下げてもらえばストーカー行為の罪は親告罪であることから,公訴提起の条件(訴訟条件,訴追が適法となり審理,判決をする前提条件)が欠けることになるので公訴権は消滅し,検察官はあなたを刑事裁判にかけることはできません。従って,勾留が解かれて身柄解放され,不起訴処分になります。もっとも,あなた自身が被害者と和解交渉することは事実上難しいところから,お近くの弁護士に事件をご依頼した方が良いでしょう。

3.(ストーカー規制法の合憲性)ストーカー規制法は,@恋愛感情や怨恨といった憲法19条で保障された内心の自由,A待ち伏せといった憲法13条で保障された一般的行為自由,B粗暴な言動,電話,性的表現といった憲法21条1項で保障された表現の自由を制約し,違憲ではないか,という問題点があります。最高裁は,あなたのような事案において,後掲のように判示して,ストーカー規制法2条・13条1項が憲法13条・21条1項に違反するとの弁護人の主張を退けました。この判例に対しては,ストーカー規制法2条は,粗暴な言動,電話,名誉毀損,性的表現の制限など,憲法21条1項で保障された表現の自由の内容規制を含むので,目的の正当性と,手段の合理性・相当性があれば合憲とする緩やかな合憲性判断基準で審査するのではなく,絶対的に必要な利益を守るための必要最小限の規制であるかどうかを具体的に審査すべきである(厳格審査基準)との批判があります。というのも,表現の自由は,個人の自己実現に不可欠な権利であることから,人格の核心にかかわる重要な自由であり,その制約は必要最小限度に限るべきと考えられているからです。

4.(罪刑法定主義)なお,あなたの事件を離れてストーカー規制法の条文を見てみると,同法2条1項5号は,「電話をかけて何も告げず,又は拒まれたにもかかわらず,連続して,電話をかけ若しくはファクシミリ装置を用いて送信すること」が「つきまとい等」として,規制の対象とされています。けれども,連続して電子メールを送信することは,同法2条1項1号の規制対象には含まれません。
 たしかに,電子メールでも同様の被害が生じうることを考えれば,電子メールを電話やファクシミリと区別する実質的な理由はないとも言えるので,電子メールを規制手段に含めないことは,規制範囲の妥当性の観点からするとバランスを欠いているようにも思えます。
 しかしながら,電子メールの送信が「電話をかけ」にも該当しなければ「ファクシミリ装置を用いて送信する」にもあたらない以上,この条文を適用して処罰することはできません。これは,どのような行為を犯罪とし,その犯罪にどのような刑罰を科すかは,あらかじめ法律で決められていなければならないという罪刑法定主義のあらわれです。連続して電子メールを送信した場合にも,同様の被害が生じることを理由として,同法2条1項5号にあたるとすれば,国民は,何をしたら,どのように処罰されるかについて不安を感じ,自由に行動ができなくなってしまいます。このような事態にならないように,どのような行為がどのように処罰されるかを,あらかじめ法律に決めておくことが必要になるのです。
 もっとも,ストーカー規制法2条1項2,3,4号,及び7,8号の行為については,特に方法の限定はなく,面前で行うものだけでなく,電話,ファックス,電子メール,手紙を利用して行われるものも対象になることは注意して下さい。

<参考条文>

ストーカー行為等の規制等に関する法律
(定義)
第二条  この法律において「つきまとい等」とは,特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で,当該特定の者又はその配偶者,直系若しくは同居の親族その他当該特定の者と社会生活において密接な関係を有する者に対し,次の各号のいずれかに掲げる行為をすることをいう。
一  つきまとい,待ち伏せし,進路に立ちふさがり,住居,勤務先,学校その他その通常所在する場所(以下「住居等」という。)の付近において見張りをし,又は住居等に押し掛けること。
二  その行動を監視していると思わせるような事項を告げ,又はその知り得る状態に置くこと。
三  面会,交際その他の義務のないことを行うことを要求すること。
四  著しく粗野又は乱暴な言動をすること。
五  電話をかけて何も告げず,又は拒まれたにもかかわらず,連続して,電話をかけ若しくはファクシミリ装置を用いて送信すること。
六  汚物,動物の死体その他の著しく不快又は嫌悪の情を催させるような物を送付し,又はその知り得る状態に置くこと。
七  その名誉を害する事項を告げ,又はその知り得る状態に置くこと。
八  その性的羞恥心を害する事項を告げ若しくはその知り得る状態に置き,又はその性的羞恥心を害する文書,図画その他の物を送付し若しくはその知り得る状態に置くこと。
2  この法律において「ストーカー行為」とは,同一の者に対し,つきまとい等(前項第一号から第四号までに掲げる行為については,身体の安全,住居等の平穏若しくは名誉が害され,又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法により行われる場合に限る。)を反復してすることをいう。
 (警告)
第四条 警視総監若しくは道府県警察本部長又は警察署長(以下「警察本部長等」という。)は,つきまとい等をされたとして当該つきまとい等に係る警告を求める旨の申出を受けた場合において,当該申出に係る前条の規定に違反する行為があり,かつ,当該行為をした者が更に反復して当該行為をするおそれがあると認めるときは,当該行為をした者に対し,国家公安委員会規則で定めるところにより,更に反復して当該行為をしてはならない旨を警告することができる。
2 一の警察本部長等が前項の規定による警告(以下「警告」という。)をした場合には,他の警察本部長等は,当該警告を受けた者に対し,当該警告に係る前条の規定に違反する行為について警告又は第六条第一項の規定による命令をすることができない。
3 警察本部長等は,警告をしたときは,速やかに,当該警告の内容及び日時その他当該警告に関する事項で国家公安委員会規則で定めるものを都道府県公安委員会(以下「公安委員会」という。)に報告しなければならない。
4 前三項に定めるもののほか,第一項の申出の受理及び警告の実施に関し必要な事項は,国家公安委員会規則で定める。
 (禁止命令等)
第五条 公安委員会は,警告を受けた者が当該警告に従わずに当該警告に係る第三条の規定に違反する行為をした場合において,当該行為をした者が更に反復して当該行為をするおそれがあると認めるときは,当該行為をした者に対し,国家公安委員会規則で定めるところにより,次に掲げる事項を命ずることができる。
一 更に反復して当該行為をしてはならないこと。
二 更に反復して当該行為が行われることを防止するために必要な事項
2 公安委員会は,前項の規定による命令(以下「禁止命令等」という。)をしようとするときは,行政手続法(平成五年法律第八十八号)第十三条第一項の規定による意見陳述のための手続の区分にかかわらず,聴聞を行わなければならない。
3 前二項に定めるもののほか,禁止命令等の実施に関し必要な事項は,国家公安委員会規則で定める。
(罰則)
第十三条  ストーカー行為をした者は,六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
2  前項の罪は,告訴がなければ公訴を提起することができない。

民法
(不法行為による損害賠償)
第七百九条  故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は,これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
日本国憲法
第十三条  すべて国民は,個人として尊重される。生命,自由及び幸福追求に対する国民の権利については,公共の福祉に反しない限り,立法その他の国政の上で,最大の尊重を必要とする。
第十九条  思想及び良心の自由は,これを侵してはならない。
第二十一条  集会,結社及び言論,出版その他一切の表現の自由は,これを保障する。

公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例
(昭和37年東京都条例第103号)
(つきまとい行為等の禁止)
第五条の二何人も,正当な理由なく,専ら,特定の者に対するねたみ,恨みその他の悪意の感情を充足する目的で,当該特定の者又はその配偶者,直系若しくは同居の親族その他当該特定の者と社会生活において密接な関係を有する者に対し,不安を覚えさせるような行為であつて,次の各号のいずれかに掲げるもの(ストーカー行為等の規制等に関する法律(平成十二年法律第八十一号)第二条第一項に規定するつきまとい等及び同条第二項に規定するストーカー行為を除く。)を反復して行つてはならない。この場合において,第一号及び第二号に掲げる行為については,身体の安全,住居,勤務先,学校その他その通常所在する場所(以下この項において「住居等」という。)の平穏若しくは名誉が害され,又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法により行われる場合に限るものとする。
一つきまとい,待ち伏せし,進路に立ちふさがり,住居等の付近において見張りをし,又は住居等に押し掛けること。
二著しく粗野又は乱暴な言動をすること。
三連続して電話をかけて何も告げず,又は拒まれたにもかかわらず,連続して,電話をかけ若しくはファクシミリ装置を用いて送信すること。
四汚物,動物の死体その他の著しく不快又は嫌悪の情を催させるような物を送付し,又はその知り得る状態に置くこと。
2 警視総監又は警察署長は,前項の規定に違反する行為により被害を受けた者又はその保護者から,当該違反行為の再発の防止を図るため,援助を受けたい旨の申出があつたときは,東京都公安委員会規則で定めるところにより,当該申出をした者に対し,必要な援助を行うことができる。
3 本条の規定の適用に当たつては,都民の権利を不当に侵害しないように留意し,その本来の目的を逸脱して他の目的のためにこれを濫用するようなことがあつてはならない。
(罰則)
第八条
次の各号の一に該当する者は,六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。三 第五条の二第一項の規定に違反した者

福島県迷惑行為等防止条例
第7条 何人も,特定の者に対する職場,学校,地域社会,商取引,金銭貸借,係争又は調停の関係に起因するねたみ,うらみその他悪意の感情(これらの感情のうち,ストーカー行為等の規制等に関する法律(平成12年法律第81号)第2条第1項に規定する怨〔えん〕恨の感情を除く。)を充足する目的で,当該特定の者又はその配偶者,直系若しくは同居の親族その他当該特定の者と社会生活において密接な関係を有する者に対し,次に掲げる行為を反復して行い,著しい不安を覚えさせてはならない。
(1) つきまとい,待ち伏せし,進路に立ちふさがり,又は住居,職場,学校その他その通常所在する場所(以下「住居等」という。)の付近において監視し,若しくは住居等に押し掛けること。
(2) 著しく粗野又は乱暴な言動をすること。
(3) 電話をかけて何も告げず,拒まれたにもかかわらず電話をかけ,又はファクシミリ装置を用いて送信すること。
(4) 汚物,動物の死体その他の著しく不快又は嫌悪の情を催させる物を送付し,又はその知り得る状態に置くこと。
軽犯罪法
二十八 他人の進路に立ちふさがつて,若しくはその身辺に群がつて立ち退こうとせず,又は不安若しくは迷惑を覚えさせるような仕方で他人に つきまとつた者

<参考判例>
最高裁平成15年12月11日第一小法廷判決
「所論は,ストーカー行為等の規制等に関する法律(以下「ストーカー規制法」という。)2条1項,2項,13条1項は,規制の範囲が広きに過ぎ,かつ,規制の手段も相当ではないから,憲法13条,21条1項に違反する旨主張する。
 ストーカー規制法は,ストーカー行為を処罰する等ストーカー行為等について必要な規制を行うとともに,その相手方に対する援助の措置等を定めることにより,個人の身体,自由及び名誉に対する危害の発生を防止し,あわせて国民の生活の安全と平穏に資することを目的としており,この目的は,もとより正当であるというべきである。そして,ストーカー規制法は,上記目的を達成するため,恋愛感情その他好意の感情等を表明するなどの行為のうち,相手方の身体の安全,住居等の平穏若しくは名誉が害され,又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法により行われる社会的に逸脱したつきまとい等の行為を規制の対象とした上で,その中でも相手方に対する法益侵害が重大で,刑罰による抑制が必要な場合に限って,相手方の処罰意思に基づき刑罰を科すこととしたものであり,しかも,これに違反した者に対する法定刑は,刑法,軽犯罪法等の関係法令と比較しても特に過酷ではないから,ストーカー規制法による規制の内容は,合理的で相当なものであると認められる。
 以上のようなストーカー規制法の目的の正当性,規制の内容の合理性,相当性にかんがみれば,同法2条1項,2項,13条1項は,憲法13条,21条1項に違反しないと解するのが相当である。このように解すべきことは,当裁判所の判例(最高裁昭和57年(行ツ)第156号同59年12月12日大法廷判決・民集38巻12号1308頁,最高裁昭和57年(あ)第621号同60年10月23日大法廷判決・刑集39巻6号413頁)の趣旨に徴して明らかである。」

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