新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1066、2010/12/8 16:24 https://www.shinginza.com/rikon/index.htm

【親族・離婚と親権を有しない者の面接交渉権の根拠・制限される場合・子が面会を希望しない場合】

質問:私は、昨年、夫と話し合って離婚をしました。私と元夫との間には、11歳になる娘がいるのですが、協議離婚の際、月に1度元夫が娘に会うことができるという約束をしました。これまでは月に1度娘を元夫に会わせていたのですが、娘がそろそろ思春期を迎える頃なのか、最近になって娘が元夫である父に会いたがらなくなりました。離婚の際に娘と元夫の面会の約束をしてはいますが、娘が会いたくないというのであれば、しばらくは元夫には面会を控えてもらいたいと思っています。しかし、元夫は、私が娘を元夫に会わせたくないから娘が嫌がっているなどと言っているだけだろうと、私を責めてきます。元夫は、娘に会わせるように調停を申し立てると言っていますが、私はどうすればよいのでしょうか。

回答:
1.離婚後に、親権者や監護権者にならない方の親が子どもに会うことは、民法などに明文の規定はありませんが、面接交渉権として認められていると考えられています。しかし、その面接交渉権もあくまで子の福祉・利益を害しない限りで認められるものですので、無制限に認められるものではなく、制限される場合があります。子ども自身が面会を望んでいない場合は面接交渉が制限される場合がありますので、調停でその旨を主張するなどして対応すべきでしょう。ご自身では対応が難しいようでしたら、弁護士に相談して代理人になってもらうことも検討してみてはいかがでしょうか。
2.最終的には面接交渉を認める家庭裁判所の調停調書、又は家事審判(家事審判法9条乙類4号)、に基づき間接強制が行われる場合がありますので対応を専門家と相談しましょう。
3.法律相談事例集キーワード検索696番637番395番19番参照。

解説:
1.(面接交渉権の意義)
 離婚後に親権者や監護権者にならない方の親が子どもに会う権利は、面接交渉権いわれ、明文の規定はありませんが、親であることに基づく自然の権利として認められると考えられています。子どもの方からみても、両親の離婚によって受ける精神的なダメージをフォローするために、同居していない親からも親としての愛情を受けることができるという意味もあるといえます。このように面接交渉権は親の権利であり義務でもありまた、子どもの権利でもあります。このような権利ですから、原則として面接交渉は認められますが、無条件で面会できる権利ではなく、子供の福祉、利害を害さないよう面会できる権利として制限があります。理論的には子供が人間として健全に成長し尊厳を確保するため必要不可欠な権利であり、幸福追求権の一つとして位置付けることが可能です。憲法13条、26条(教育の義務)が根拠になり、アメリカ独立宣言の人間が生まれながらに有し他人に譲り渡すことができない基本的人権に由来しています。

2.(面接交渉権の制限)
 面接交渉については、権利者が親権者に対して面会を請求し、両親の話合い・協議で具体的方法を決めるのが原則です。このような協議ができない場合は家庭裁判所での調停や審判で具体的内容を決定することもできます(民法766条を類推適用し、家事審判法9条1項乙類4号の子の監護に関する処分に含まれると考えられます)。
 もっとも、面接交渉は、その権利の認められる根拠からして、あくまでも子の福祉を害さないようにしなければならないとされており、子の福祉に反すると認められる場合には面接交渉権が制限されることになります。

 具体的には、以下の場合が考えられます。
 (1)まず、相手方が子どもや親権者・監護権者に対して暴力を振るうなど、子どもに対して危険や悪影響を及ぼすおそれがある場合には、面接交渉権が制限されます。相手方が勝手に子どもに会おうとしたり子どもを連れ去ろうとしたりする場合も同様です。
 (2)次に、相手方が子どもとの面接の際に、離婚した元配偶者に対して無理やり復縁を求めたり、反対に、元配偶者の悪口ばかりを子どもに言ったりする場合には、面接交渉権の濫用として面接交渉権が制限されます。
 (3)そして、子どもが面接交渉を望まない場合には、その真意を確認するなど子どもの意思を慎重に調査した上で、子どもの意思を尊重して面接交渉権が制限される場合があります。思春期の子どもなど、離婚した親と会うことによって精神的に動揺してしまうと考えられる場合に、一定期間面接交渉を停止することも考えられます。子どもを引き取っている方の親が再婚し、子どもと新たな家庭関係が築かれて、離婚した一方の親と会うことが子どもにとって動揺を与えてマイナスになると考えられる場合にも、面接交渉権が制限される可能性があります。
 (4)また、資力があるにもかかわらず養育費の支払いをしない場合には、子どもに対する愛情があるのかについて疑問があると考えられ、面接交渉権が制限される可能性があります。
 
 参考となる家庭裁判所の審判例を紹介します。同居している父親とその両親が母親との確執から面会を強く拒否している事案ですが、結論としては両親の事情から子の面接交渉を否定することは最小限にとどめるべきであり、支障のないような面会方法で面会ができるようにする必要があるとしています。
(名古屋家裁平成2年5月31日審判)
「このような大人の側の事情があって実際上子と母との面接が平穏に実施される可能性が低いからといって、直ちに、本来普通に行われれば子の福祉に適うべき母子面接の機会を子が得られないのもやむを得ない、とす
ることは妥当ではなく、これら大人の側の事情は種々方策を工夫して、出来る限りかかる面接を実施しうるよう図るべきである。
 これに加えて、本件においては、子が自立すべき年齢まで安定して父の側で子を監護養育できるかどうか危惧される部分も残り、場合によっては、将来母側で子の監護養育を引き継ぐような可能性もある程度存するのであり、その為にも、Aと母側との最低限の接触は必要であると考える。」
 本来面接交渉権は、未成熟な子の成長、福祉を根拠として認められるのですから、子の親権者、その家族の事情を重視して相手方の面接交渉権を制限することは、面接交渉権の趣旨から基本的に認めることはできないでしょう。判例の趣旨は妥当性を有すると思われます。

その他の判例
(1)大阪家庭裁判所平成5年12月22日審判(子の監護に関する処分申立事件)
判旨説明
【3】 当裁判所の判断
1 非監護者である親がその子に面接交渉する権利の法的性質については、親の自然権説、親の監護に関する権利説、子の権利説など種々の見解が見られる。
 申立人の主張は、これを全体的に検討すると、申立人が未成年者らの父であり、かつ単独親権者である以上、当然に未成年者らに対する面接交渉権を有する旨の見解に基づくようである。
 しかし、当裁判所は、現代親子法の基本的理念が「子のための親権」という思想に立脚する以上、子の福祉を無視して、単に親または親権者であるからというだけで当然に面接交渉権を有する旨の見解には同調することはできない。
 いかなる子どもも、個人として尊重され、平和的文化国家の有用な構成員として、人格の完成をめざし、心身の健全な発達を求める基本的人権が保障されねばならない(憲法第26条第1項、教育基本法第1条)。すなわち、子は民法上親の権利の客体である以前に、憲法上の権利主体であることが看過されてはならないのである。
 このような精神に照らせば、面接交渉権の性質は、子の監護義務を全うするために親に認められる権利である側面を有する一方、人格の円満な発達に不可欠な両親の愛育の享受を求める子の権利としての性質をも有するものというべきである。
2 本件についてこれを見ると、現在未成年者らは相手方と同居してその監護養育を受けており、その生活状況には特に未成年者らの福祉に反する問題は認められない。
 そして上記に述べた面接交渉権の性質に加うるに、未成年者らの年齢、申立人の離婚歴や相手方との別居・離婚に至った経過、申立人および相手方の生活状況、現在申立人と相手方との間で離婚無効訴訟が係属中であることその他諸般の事情を考慮すると、今直ちに申立人が未成年者らと面接交渉すること(電話による対話・物品の授受を含む。)を認めるのはやや時期尚早であり、藉すにしばらく時を以てし、未成年者らがあと数年成長後に申立人を慕って面接交渉を望む時期を待たせることとするのが、未成年者らの福祉のため適当であると解される。
3 蛇足ながら、相手方においても、申立人との離婚無効訴訟の結末がどうなるにせよ、未成年者らの父は申立人のほかにはなく、かつその健全な成長のためには、申立人の愛情も相手方のそれに劣らず必要であることに思いをいたし、未成年者らの監護養育について関心を寄せる申立人の心情も理解し、時に応じ未成年者らの発育状態について自発的に信書または写真を申立人に送付するなど、きめ細かい配慮をすることが望ましい。申立人がこれに応えて未成年者らおよび相手方を励まし、適切な助言協力を惜しむべきでないことは言うまでもない。
4 よって本件申立はその理由がないからこれを却下することとし、主文のとおり審判する。
 このケースは、申立人である父親が、相手方との同棲により前妻と離婚し、相手方は、申立人との間に長女長男の二人の子供を設けた後、申立人の暴力等の理由で家を出て別居し、申立人が二人の子供を連れだして保育園に預けた後、父を親権者と定め双方が協議離婚したものの(当該離婚無効訴訟中)、申立人が二名の子供を養護施設等に入れてしまったことから、相手方が保護請求をして子供を取り戻し同居して、子供達の福祉に支障がない生活を送っている中で、申立人が面接を求めたケースですので妥当な判断と考えられます。

(2)大阪高等裁判所平成21年1月16日決定。子の監護に関する処分(面接交渉)審判に対する抗告事件
 外国人であり、強制退去を受けている(仮放免中)父親であっても、面接交渉権は、子の健全な成長を保障する権利ととらえられることから、原審判を変更し面接交渉権を認めた判断は妥当であると思います。
判旨抜粋
 主   文
1 原審判を次のとおり変更する。
2 相手方は、抗告人に対し、以下の条件で、未成年者を面接させよ。
(1)面接の日時
 平成21年以後の毎年2月、6月、8月及び11月の各第3土曜日
 初回は午後0時から午後1時まで、2回目以降は午後0時から午後2時まで
(2)待ち合わせの場所
 相手方が事前に指定した場所とする。ただし、相手方から抗告人に対して事前に連絡がないときは、○○駅改札口とする。
(3)面接交渉の方法
 抗告人は、面接開始時刻に上記(2)の場所に赴き、同所又はその近辺で未成年者と面接する。相手方は、抗告人と未成年者との面接交渉に付き添うことができる。
(4)実施日の変更
 未成年者や当事者の事情により上記(1)の面接の日時の変更をするときは、当該事情の生じた者は、他方に対して速やかに連絡をして、双方協議の上、振替日を定める。ただし、未成年者や相手方の事情により日時を変更するときは、その振替日を翌月中に定める。
(5)抗告人は、面接交渉中に飲食費や施設への入場料等の費用を要した場合には、自己と未成年者の分を負担する。
(6)抗告人は、面接交渉に必要なこと以外で、相手方に連絡をしない。
3 相手方は、抗告人が未成年者に対して手紙、誕生日等の贈り物を送付すること及び未成年者が抗告人に対して手紙を送付することを妨げてはならない。
4 抗告費用は抗告人の負担とする。
2 前記の事実関係を前提に、抗告人と未成年者との面接交渉について検討する。

理由
(1)面接交渉の可否
 子と非監護親との面接交渉は、子が非監護親から愛されていることを知る機会として、子の健全な成長にとって重要な意義があるため、面接交渉が制限されるのは、面接交渉することが子の福祉を害すると認められるような例外的な場合に限られる。
 ところで、相手方は、抗告人が未成年者との面接交渉を求める動機を疑問視し、仮に未成年者が抗告人と馴染んだ後に抗告人が退去強制された場合に未成年者に与える影響をも懸念して面接交渉に反対している。確かに、抗告人は、前記1(3)の訴訟において、未成年者との面接交渉が抗告人及び未成年者にとって極めて重要であり、抗告人が退去強制となると抗告人と未成年者にとって回復不可能な損害となる旨主張しているが、これは、抗告人が日本での在留許可を求める理由の一つとして主張するものであり、そのことゆえに、抗告人が日本での在留許可を求めるために未成年者との面接交渉を利用しているとまでは認められない。また、抗告人が未成年者との面接交渉の機会を利用して相手方との復縁を求める可能性があるとも認められない。
 抗告人は、上記訴訟の1審で敗訴したことをも踏まえ、仮に退去強制となる場合でも、日本に滞在している間に未成年者と面接交渉し、未成年者に抗告人が父であることを知らせ、母国○○国について話をするなど、直接の面接交渉を実現することに意義があると考えている。確かに、未成年者が抗告人と面接交渉し、抗告人への愛着を感じるようになったのに抗告人が退去強制となった場合には、未成年者が落胆し悲しむことも考えられるが、未成年者が父を知らないまま成長するのに比べて、父を認識し、母だけではなく、父からも愛されてきたことを知ることは、未成年者の心情の成長にとって重要な糧になり、また、父が母国について未成年者に話すことは、未成年者が自己の存在の由来に関わる国について知る重要な機会となる。抗告人が日本を退去強制となると、当面は未成年者との直接の面接交渉は困難になるが、手紙等の交換を通じての交流が続けば、未成年者が成長した後も親子間の交流は可能であることにかんがみると、未成年者の福祉を図るためには、現時点で抗告人と未成年者との直接の面接交渉を開始する必要性が認められる。
 したがって、相手方は、抗告人に対し、抗告人と未成年者との面接交渉をさせる義務が認められる。

(3)横浜家庭裁判所相模原支部平成18年3月9日審判(子の監護に関する処分(面接交渉)申立事件)
 勝手に子供(9歳、6歳)を待ち伏せし話しかけ、連れ去り等した母親(離婚後双方再婚)に対して調停の面接交渉の条件を守らないので子の成長福祉に影響があるとして以後面接交渉権を認めない審判がなされました。那覇家庭裁判所沖縄支部平成15年9月29日審判。父親が面接交渉権を認めた調停条項を守らず、子の福祉に反するような言動をくりかえすので、交渉権を一定期間停止しこれを変更しています。

3.(とるべき対応について)
 上記のように、面接交渉権が制限される場合があります。親権者であるあなたが、合理的な根拠により面接が適切でないと判断すれば面接を拒否することができます。その場合、面接を拒否するのが妥当か否かの判断を求め相手方が家庭裁判所に調停を申し立てることが予測されます。調停が申し立てられた場合には、その調停において面接交渉権が制限されるべきである旨を主張し、そのような主張の根拠となる証拠資料を家庭裁判所に提出する必要があります。また、相手が調停を申し立てずに執拗に面会を強要する場合は、こちらから面接交渉権の停止を求めて調停を申し立てることその他面会禁止の仮処分(保全処分)も考えられます。ご自身ではうまく主張できるか不安であるということでしたら、弁護士に代理人になってもらい、一緒に調停に出席してもらうなどしてサポート受けるとよいでしょう。

4.(家事審判等により面接交渉権が認められた場合)
 万が一、面接交渉権が父親に認められた場合、金銭債権のように直接強制(民法414条1項)はできませんが、間接強制(民事執行法172条)の方法により面接の事実上強制される事になります。岡山家庭裁判所津山支部、平成20年(家ロ)第801号、平成20年9月18日決定間接強制申立事件においては、父親の面接交渉権を認めた審判(決定正本)に基づき面接1回不履行につき5万円の支払いを命じています。又、大阪高等裁判所平成19年6月7日第11民事部決定、間接強制審判に対する執行抗告事件において、面接交渉権を認めた調停調書でも定めが具体的、明確に定めてあり間接強制を認めています。債務名義として強制履行を行うためには、面接交渉の具体的内容(回数、場所、方法等)をなるべく詳細に定める必要があります。強制的に実現する債務(給付内容)の内容が特定できなければ債務名義としての効力を与えることができないからです。

<参照条文>

民法
(離婚後の子の監護に関する事項の定め等)
第七百六十六条  父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者その他監護について必要な事項は、その協議で定める。協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、これを定める。
2  子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子の監護をすべき者を変更し、その他監護について相当な処分を命ずることができる。
3  前二項の規定によっては、監護の範囲外では、父母の権利義務に変更を生じない。

家事審判法
第九条  家庭裁判所は、次に掲げる事項について審判を行う。
甲類
(省略)
乙類
一 民法第七百五十二条 の規定による夫婦の同居その他の夫婦間の協力扶助に関する処分
二 民法第七百五十八条第二項 及び第三項 の規定による財産の管理者の変更及び共有財産の分割に関する処分
三 民法第七百六十条 の規定による婚姻から生ずる費用の分担に関する処分
四 民法第七百六十六条第一項 又は第二項 (これらの規定を同法第七百四十九条 、第七百七十一条及び第七百八十八条において準用する場合を含む。)の規定による子の監護者の指定その他子の監護に関する処分
五 民法第七百六十八条第二項 (同法第七百四十九条 及び第七百七十一条 において準用する場合を含む。)の規定による財産の分与に関する処分
六 民法第七百六十九条第二項 (同法第七百四十九条 、第七百五十一条第二項、第七百七十一条、第八百八条第二項及び第八百十七条において準用する場合を含む。)又は第八百九十七条第二項 の規定による同条第一項 の権利の承継者の指定
六の二 民法第八百十一条第四項 の規定による親権者となるべき者の指定
七 民法第八百十九条第五項 又は第六項 (これらの規定を同法第七百四十九条 において準用する場合を含む。)の規定による親権者の指定又は変更
八 民法第八百七十七条 から第八百八十条 までの規定による扶養に関する処分
九 民法第八百九十二条 から第八百九十四条 までの規定による推定相続人の廃除及びその取消し
九の二 民法第九百四条の二第二項 の規定による寄与分を定める処分
十 民法第九百七条第二項 及び第三項 の規定による遺産の分割に関する処分
○2  家庭裁判所は、この法律に定めるものの外、他の法律において特に家庭裁判所の権限に属させた事項についても、審判を行う権限を有する。

<判例>

大阪高等裁判所平成21年1月16日決定。子の監護に関する処分(面接交渉)審判に対する抗告事件
第2 当裁判所の判断
1 事実関係
 一件記録によれば、以下の事実が認められる。
(1)○○国国籍を有する抗告人(1966年×月×日生)は、平成5年×月ころ、短期滞在の在留資格で来日し、残留期間が経過したまま4年間不法に残留し、その後は日本人女性と2回婚姻し、日本人の配偶者等の在留資格を得て日本に在留していたところ、平成12年ころ相手方(昭和55年×月×日生)と知り合い、平成13年×月×日に婚姻した。抗告人と相手方との間には、同月×日、長男である未成年者が出生したが、平成14年×月末又は×月初めころ別居し、同月×日、未成年者の親権者を相手方と定めて協議離婚した。
 未成年者は、出生以来、相手方の実家で相手方及び相手方の両親とともに生活している。
(2)抗告人は、平成14年×月×日、未成年者との面接交渉を求める調停を申し立てたが、調停は不成立となって審判手続に移行し、平成16年×月×日、抗告人と未成年者が面接交渉する時期、方法等を定めることを求めた主位的申立てが却下され、相手方に対し、〔1〕3か月に1回、3か月以内に撮影した未成年者の写真3枚を送付すること及び〔2〕抗告人が未成年者にクリスマス及び誕生日にカード及びプレゼントを送付することを妨げてはならないとの内容の前件審判がなされ、確定した。
 なお、上記調停事件と並行して、抗告人から親権者変更調停事件及び子の監護に関する処分(養育費支払)調停事件が申し立てられたが、いずれも取り下げられた。
(3)抗告人は、相手方との離婚後の平成14年×月×日に在留期間が満了した後も、日本に不法に残留していたところ、平成18年×月×日、在留特別許可を求めて入国管理局に出頭し、同年×月×日に収容令書が執行されて収容された。抗告人は、○○入国管理局入国審査官から出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)24条4号ロ(不法残留)に該当するなどの認定を受け、○○入国管理局特別審査官から同認定に誤りがないとの判定を受けて異議の申出をしたが、同年×月×日に○○入国管理局長から、上記異議には理由がなく、在留を特別に許可しない旨の裁決を受け、同月×日に○○入国管理局主任審査官から退去強制令書が発せられた。
 抗告人は、平成19年×月×日に上記裁決及び上記退去強制令書発付処分の取消しを求める訴えを提起し、〔1〕抗告人は未成年者との面接交渉権を有し、未成年者の健全な成長のためにも抗告人と面接交渉することは極めて重要であるのに、退去強制となれば、事実上未成年者と面接交渉することはほぼ不可能であり、抗告人及び未成年者にとって回復不可能な損害となり、特に未成年者の最善の利益に反し、児童の権利条約等の条約に抵触すること、〔2〕抗告人は来日して以来約13年間、入管法違反以外に何らの違法行為も行わず、日本でまじめに生活し、十分な日本語能力もあり、日本での生活に十分に馴染み、不法残留は未成年者の養育及び成長を気にかけ、面接交渉を強く望んでいたためであって、その情状は重くないこと、〔3〕抗告人の○○国での稼動経験、経済状況、親族の経済的余力の点から、抗告人が○○国で生活することは困難であることなどを主張した。
 抗告人は、同年×月×日に仮放免され、その後は一時期友人宅で生活し、平成20年×月に現住所に転居した。
(4)抗告人は、前件審判確定後、前記(3)の収容令書の執行を受けるまで、未成年者にクリスマス及び誕生日にカード及びプレゼントを送付したほか、相手方と別居した当初は月額10万円を、その後は概ね毎月1回3万円程度を未成年者の養育費として相手方に送金した。
 他方、相手方は、抗告人に対し、前件審判の約1か月後及び平成18年×月ころに未成年者の写真を送付したが、それ以外には写真を送付しなかった。抗告人は、相手方の実家に電話をかけ、相手方の両親又は相手方から未成年者の様子を聴くことがあった。
 抗告人は、平成18年×月×日、行政書士の立ち会いの下、相手方の父と面談して未成年者の様子について聴き、そのころ、相手方の父から、未成年者の写真並びに○○入国管理局及び法務大臣に宛てた、抗告人の望む処分をすることを嘆願する旨の陳述書の交付を受けたが、未成年者との面接交渉は、相手方の強い反対により実現しなかった。
(5)抗告人は、仮放免された直後である平成19年×月×日、未成年者との面接交渉を求める調停を申し立てたが、相手方が抗告人と未成年者との面接交渉に応じる姿勢をみせなかった。抗告人は、平成20年×月×日付け及び同年×月×日付けの未成年者宛ての手紙を相手方に送付したが、未成年者に会いたいなどと記載されていたため、相手方はこれらを未成年者に見せなかった。同調停は、平成20年×月×日に不成立となり、審判手続に移行し、同年×月×日、抗告人と未成年者との直接の面接交渉を認めず、相手方は抗告人と未成年者との間の手紙のやりとりを妨げてはならないとの内容の原審判がなされた。 相手方は、同年×月になってから、未成年者の写真3枚を抗告人に送付した。
(6)抗告人が提訴した前記(3)の訴訟につき、同年×月×日、大阪地方裁判所は、抗告人の請求をいずれも棄却する旨の判決をなした。同判決において、抗告人が相手方に対して未成年者の養育費を送金したり、未成年者に対してプレゼントを送付して面接交渉の実現を望みながら、面接交渉をめぐる紛争が未解決のまま推移した点で、抗告人の不法残留に至った経緯については酌むべきところがないとはいえないとしながら、抗告人が短期滞在の在留資格で来日して以来、約4年間にわたり不法残留して不法就労を続け、その後、日本人女性2名と婚姻し、2人目の妻と別居して事実上の離婚状態にありながら、婚姻同居が継続しているかのような書類を作出して在留許可を受けるなど、このような抗告人の在留状況が、在留特別許可の許否の判断に当たり、抗告人に不利益にしんしゃくされてもやむを得ないと指摘した。そして、抗告人は未成年者の出生後約半年間同居したのみで、その後、今日に至るまで一度も直接面接交渉していない上、相手方による未成年者の養育状況には特段の問題はうかがわれないことなどからして、退去強制令書発付等の結果として抗告人と未成年者との面接交渉が困難になるとしても、そのことが未成年者の福祉に反するとは直ちに認めがたいことなどをも併せ考えると、前記(3)の裁決において、抗告人の在留を特別に許可しなかった○○入国管理局長の判断に裁量権を逸脱し、又は濫用した瑕疵は認められず、また、同裁決の瑕疵を前提とする前記(3)の退去強制令書発付処分が取り消されなければならない旨の主張は理由がないとして、抗告人の請求を棄却した。
(7)抗告人の生活状況及び意向
ア 抗告人は、不法滞在により就労が禁止されているため収入がなく、在日○○国人の団体や親族から援助を受けて生活している。
イ 抗告人は、未成年者が日本人の両親を持つ子に比べて自らの出生について関心を持つことが予想されるとして、仮に退去強制となっても、一目でも未成年者と会っておく意義があると考えており、未成年者に○○国のことを話したいし、来日してから肌の色のため差別を受けることがあったため、その対処方法についても話しておきたいとの意向である。また、抗告人は、相手方を嫌ってはいないが、未成年者との面接交渉の機会を利用して、相手方との復縁を求めるつもりはないと述べた。
 抗告人としては、相手方が面接交渉の条件とした後記(8)エの条件を概ね了承するが、回数については、相手方の仕事の繁忙期を除いて、毎月1回を希望している。
 なお、抗告人は、相手方が指定する待合せ場所について、抗告人が○○県外に出る場合には、事前に○○入国管理局の許可を得る必要があるため、早めに場所を指定してもらうことを希望している。
(8)相手方及び未成年者の生活状況及び意向
ア 相手方は、抗告人と離婚した後も未成年者とともに実家で両親と生活し、相手方の父が経営する学校教材等の販売をする会社で営業職として働いている。そのため、毎年、新学期が始まる前後の3月から5月及び年末の12月が特に忙しい。
イ 未成年者は、小学校1年生に在籍し、平日の放課後並びに春、夏及び冬の長期の休みの間は、学童保育で過ごしている。
 未成年者は、外国人の親を持つことが分かる風貌であり、3歳のころ、父が○○国人であることを伝えたが、それ以上に詳しい事情は伝えていない。また、自宅には抗告人の写真もないため、未成年者は抗告人のことは全く知らない状態である。相手方は、原審判に移行する前の調停段階で、未成年者に対し、抗告人と会いたいかどうかを尋ねた際、「会いたいかどうかわからない。とりあえず、やめておく。」と答えていたと述べた。
ウ 相手方は、抗告人が日本での在留資格を得る手段として未成年者との面接交渉を求めていると考えており、その動機が信用できないとして面接交渉には反対している。また、抗告人が、未成年者との面接交渉の機会を利用して相手方に復縁を求めてくる可能性があるとも考えている。さらに、相手方は、未成年者が抗告人に馴染まない可能性があるし、仮に馴染んでも、抗告人が退去強制されると、未成年者にショックを与える可能性があるから、このまま抗告人に未成年者を会わせないのが一番よいとの意向である。
エ 相手方は、どうしても抗告人と未成年者との面接交渉をさせなければならないのであれば、面接には相手方が付き添いたいし、頻度は半年に1回程度とし、仕事の繁忙期は避けてほしい、曜日は土曜日とし、昼間の1時間から2時間程度とし、抗告人は、相手方に対し、面接交渉に必要なこと以外に連絡をしないでほしいし、相手方の了解なく、未成年者と直接約束事をしないでほしいなどと述べた。 
2 前記の事実関係を前提に、抗告人と未成年者との面接交渉について検討する。
(1)面接交渉の可否
 子と非監護親との面接交渉は、子が非監護親から愛されていることを知る機会として、子の健全な成長にとって重要な意義があるため、面接交渉が制限されるのは、面接交渉することが子の福祉を害すると認められるような例外的な場合に限られる。
 ところで、相手方は、抗告人が未成年者との面接交渉を求める動機を疑問視し、仮に未成年者が抗告人と馴染んだ後に抗告人が退去強制された場合に未成年者に与える影響をも懸念して面接交渉に反対している。確かに、抗告人は、前記1(3)の訴訟において、未成年者との面接交渉が抗告人及び未成年者にとって極めて重要であり、抗告人が退去強制となると抗告人と未成年者にとって回復不可能な損害となる旨主張しているが、これは、抗告人が日本での在留許可を求める理由の一つとして主張するものであり、そのことゆえに、抗告人が日本での在留許可を求めるために未成年者との面接交渉を利用しているとまでは認められない。また、抗告人が未成年者との面接交渉の機会を利用して相手方との復縁を求める可能性があるとも認められない。
 抗告人は、上記訴訟の1審で敗訴したことをも踏まえ、仮に退去強制となる場合でも、日本に滞在している間に未成年者と面接交渉し、未成年者に抗告人が父であることを知らせ、母国○○国について話をするなど、直接の面接交渉を実現することに意義があると考えている。確かに、未成年者が抗告人と面接交渉し、抗告人への愛着を感じるようになったのに抗告人が退去強制となった場合には、未成年者が落胆し悲しむことも考えられるが、未成年者が父を知らないまま成長するのに比べて、父を認識し、母だけではなく、父からも愛されてきたことを知ることは、未成年者の心情の成長にとって重要な糧になり、また、父が母国について未成年者に話すことは、未成年者が自己の存在の由来に関わる国について知る重要な機会となる。抗告人が日本を退去強制となると、当面は未成年者との直接の面接交渉は困難になるが、手紙等の交換を通じての交流が続けば、未成年者が成長した後も親子間の交流は可能であることにかんがみると、未成年者の福祉を図るためには、現時点で抗告人と未成年者との直接の面接交渉を開始する必要性が認められる。
 したがって、相手方は、抗告人に対し、抗告人と未成年者との面接交渉をさせる義務が認められる。
(2)面接交渉の条件
 前記のとおり、抗告人と未成年者との面接交渉を認めるとしても、その条件については、未成年者の年齢やこれまで未成年者が抗告人を知らなかったこと、相手方の生活状況や意向等にかんがみると、面接交渉の頻度は3か月に1回として相手方の仕事の繁忙期を外し(平成21年2月以降、毎年2月、6月、8月及び11月)、開始時間は午後0時とし、初回は1時間、2回目以降は2時間とし、相手方が付き添うことなどを内容とする主文第2項のとおりとするのが相当である。
3 以上のとおり、相手方には、抗告人に対し、主文第2項の条件で、抗告人と未成年者との面接交渉をさせる義務があると判断する。
 よって、本件抗告は、上記説示に沿う限度で理由があるから、家事審判規則19条2項により、原審判を変更することとし、主文のとおり決定する。

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