新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1032、2010/6/9 15:16

【民事・土地の購入契約と瑕疵担保責任、隣人に暴力団風の住人がいた場合契約を解除できるか。損害賠償は認められるか。】

質問:自宅を建設しようと、宅地を購入しました。いざ建設を始めようとご近所にあいさつ回りに行ったところ、一見して暴力団のような隣の住人から「うちが影にならないように建てるんだぞ」「法律とか自治体の判断とか関係ない」「この馬鹿野郎」などと威圧的に言われ、設計の変更を脅迫されています。こんなところに住みたくないのですが、この宅地の購入契約を解除できませんか。

回答:
1.宅地の購入契約の解除については、売主に対して債務不履行を理由とする契約の解除(民法541、543条)と売主の瑕疵担保責任に基づく解除(民法570条)が問題となります。本件の場合売主の債務不履行責任はないと考えられます。そこで売主の瑕疵担保責任が問題となります。瑕疵担保責任に基づき、損害賠償を請求できる可能性がありますが、残念ながら解除まで認められる可能性は低いと思われます。
2.瑕疵担保責任等に関して法律相談事例集キーワード検索993番926番882番815番813番159番参照。

【解説】
1.(契約の解除の根拠 瑕疵担保責任) 自らの意思で締結した契約は守らなければいけませんから、相手の意思を無視して勝手に破棄したりすることは許されません(私的自治の原則)。しかし正当な理由がある場合は、契約自体を白紙に戻すことを法は認めています。法律上これを解除といいます。契約の解除は、有効に成立した契約を解消して初めから契約をしなかった状態に戻すことですが(民法540条)、契約当事者の双方の合意による解除(契約締結、解除の自由)と当事者が合意しなくても認められる法律が定める解除の二つがあります。本件でも売主との交渉で解除の合意ができれば解除が認められることになります。しかし、売主が解除に応じない場合は買主としては法律が定める解除権が認められる事実(学問上これを法律要件事実といいます。)があることを主張立証する必要があります。
 売買契約において法律が定めている解除には債務不履行による解除(民法541条以下)と瑕疵担保責任(民法570条等)による解除の二つがあります。債務不履行を理由とする解除は、契約当事者の一方が自分の債務を履行しない場合です。約束した自分の責任を果たさないのですから契約の解除が認められるのは当然ですが、本件の場合は建物を建てる目的で土地を購入したのですから、売主とすると建物が建てられる土地を引き渡した以上は契約上の責任は果たしているといえるでしょう。従って、債務不履行を理由とする解除の要件は満たさないと言えます。実際上建築に障害があるような土地を引き渡しても責任を果たしたことにならないのではないかという疑問もあるでしょうが、契約上は対象となっている土地の引き渡しとだけ書いてありますから、売主が当該土地を引き渡せば法律上の義務を履行したことになります。土地に事実上建築できるかどうかは土地の価値評価の問題であり、これをもって債務の履行を否定することはできません。
 これに対して瑕疵担保責任(民法570条)とは、売買の目的物である特定物に契約締結当時すでに隠れた瑕疵があった場合において、売主が負うべき特別の責任です。これは、法の理想である公平の観点(民法1条、2条)から特に法律で定めた責任(学問上法定責任説といわれています。)と考えられており、売買契約の際に特に品質を保証するというような特約がなくても当然に売主が負う責任です。瑕疵担保責任の要件としては売買の目的物に「隠れた瑕疵」があることですが、更に解除が認められるためには瑕疵があることにより「契約の目的を達することができない」ことが要件とされています。隠れた瑕疵があっても一応契約の目的を達することができる場合は契約の解除はできず損害賠償が認められるだけです。これは、瑕疵担保責任が買主と売主の公平を実現するために法が認めた責任だからです。どんな瑕疵でも瑕疵があれば常に解除ができるとすると売主に酷な結論となることが予測されるため、解除ではなく損害賠償で公平を図るべきとしたのです。 なお瑕疵担保責任については、当事務所法律相談事例集159番813番882番にも詳しい説明がありますので参考にしてください。本件は事実上建築が難しいと思われる瑕疵がある土地の売買であり、瑕疵担保責任(民法570条)の問題として考えることができます。

2.(隠れた瑕疵) そこで、隠れた瑕疵があること、その瑕疵により契約の目的が達せられないことを理由に解除ができるか検討が必要になります。
 本来の売買目的物に隠れた瑕疵があるというためには、売買の目的物そのものに欠陥があることが原則です。しかし本件では、売買目的物の土地の隣に暴力団風の方が住んでおり、その方の要望であなたの望むような設計により家を建てられない、建てたとしても後日の人間関係で心配があるという心理的負担が売買目的物の土地の「瑕疵」といえるのか問題となります。
 法律上「瑕疵」とは「売買の目的物とされたものが通常有すべき品質を備えないこと」をいい、物理的欠陥に限らず、経済的法律的欠陥も含まれると解されています。さらには「隠れた」瑕疵であることが必要であるところ、「買主が気付かず、また気付かなかったことに過失がないこと」を意味します。本条は公平の理念から法が認めた特別の責任ですから解釈上無過失まで要求されることになります。
 定義から考えると土地自体は建築可能な土地である以上は瑕疵とは言えないのではないかという疑問が残ります。

3.(判例) 同様のケースを扱った判例として、東京高等裁判所平成20年5月29日判決があります。
 この判決の原判決においては、隣人が脅迫的言辞をもって誠に理不尽な要求を繰り返していたという事態について「本件売買と地の宅地としての効用を物理的または心理的に著しく減退させ、その価値を減ずるであろうことは社会通念に照らして容易に推測されるところである。・・・そのような(隣人からの)請求は一時的なものではあり得ず、今後も継続することが予想されるところである。」と判示し、脅迫的言辞をもって建物の建築を妨害する者が隣に住んでいるという事実を「瑕疵」と認めました。またその前提として、「隠れた」瑕疵であることにつき、隣人が脅迫的に建物の建築を妨害するものであることは一般に予想しない事柄であるため、その近隣住民の素性等をあらかじめ調査する義務があったともいえない以上、「隠れた」瑕疵であると認めています(東京地裁平成19年12月25日判決)。
 そして、先ほどの高裁判決も、この判断はそのまま支持しています。

4.(判例の検討) 本来の売買目的物の瑕疵の概念からは外れるようにも考えられますが、瑕疵担保責任の公平の実現という見地からは拡張して解釈し、担保責任を認めたと言えるでしょう。しかしながら、解除が認められるためには瑕疵により契約の目的が達せられないことも主張立証しなくてはなりません。
 先ほどの裁判例では高裁判決も原判決も、このような瑕疵によってもまだ売買契約を締結した目的を達成することができないとはいえないとして、契約の解除までは認めませんでした。つまり、隣人の脅迫的な要求があっても、家を建築するために購入したその土地の上に家を建て、今後居住することは可能と判断したわけです。
 その理由としては 1.隣人の要求は不当なものであってそれに従う義務がないこと 2.脅迫罪や強要罪などでの刑事告訴等の手続により、脅迫的言辞を抑止することも可能であること 3.民事的手続として仮処分により建築の妨害を排除しうること といった原審裁判所が挙げたもののほか 4.隣人の要求するような設計(隣人宅に影がかからないようにするということ)により家を建てることが可能であること 5.民事介入暴力問題に精通した弁護士に依頼して交渉や調停により解決することも可能であること が挙げられています。

5.(判例の問題点) 買主とすると、家を建ててそこに住居を構える目的で土地を購入したことを重視するとそこに建物を建てて生活しなさいというのは酷なようにも思えます。旅行地などでの一時的な滞在とは異なり、反永続的にその隣人と付き合うことを意味します。そのような状況下において、隣人に対し刑事告訴や仮処分、調停といった手続をとることが平穏な生活につながるとは思われません。むしろ、新たなトラブルを招きかねませんし、裁判所による公的手続には費用が必要にもなります。
 平穏な生活を求めて自らの居宅の敷地として土地を購入した、買主の事情を重視し、瑕疵担保責任により売買契約の解除を認めるべき事案であったとも考えられます。しかし、他方で売主の立場も考慮する必要があります。売主が不動産業者か否か、売買代金、売主が住んでいた頃の隣人との関係等具体的な事実関係により売主保護か買主保護か結論が異なってくるでしょう。なお、本件判決では、売買価格の7分の1程度の損害賠償金の支払いが命じられています。
 以上のように、あなたのご相談においては、瑕疵担保責任により契約の解除を主張ことは検討の必要がありますが、一般的には難しいと言ってよいでしょう。

≪参考条文≫

民法
(基本原則)
第一条  私権は、公共の福祉に適合しなければならない。
2  権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
3  権利の濫用は、これを許さない。
(解釈の基準)
第二条  この法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等を旨として、解釈しなければならない。
(履行遅滞等による解除権)
第五百四十一条  当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。
(定期行為の履行遅滞による解除権)
第五百四十二条  契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、当事者の一方が履行をしないでその時期を経過したときは、相手方は、前条の催告をすることなく、直ちにその契約の解除をすることができる。
(履行不能による解除権)
第五百四十三条  履行の全部又は一部が不能となったときは、債権者は、契約の解除をすることができる。ただし、その債務の不履行が債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
(売主の瑕疵担保責任)
第五百七十条  売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは、第五百六十六条の規定を準用する。ただし、強制競売の場合は、この限りでない。
(地上権等がある場合等における売主の担保責任)
第五百六十六条  売買の目的物が地上権、永小作権、地役権、留置権又は質権の目的である場合において、買主がこれを知らず、かつ、そのために契約をした目的を達することができないときは、買主は、契約の解除をすることができる。この場合において、契約の解除をすることができないときは、損害賠償の請求のみをすることができる。
2  前項の規定は、売買の目的である不動産のために存すると称した地役権が存しなかった場合及びその不動産について登記をした賃貸借があった場合について準用する。
3  前二項の場合において、契約の解除又は損害賠償の請求は、買主が事実を知った時から一年以内にしなければならない。

民事保全法
(仮処分命令の必要性等)
第二十三条  係争物に関する仮処分命令は、その現状の変更により、債権者が権利を実行することができなくなるおそれがあるとき、又は権利を実行するのに著しい困難を生ずるおそれがあるときに発することができる。
2  仮の地位を定める仮処分命令は、争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするときに発することができる。
3  第二十条第二項の規定は、仮処分命令について準用する。
4  第二項の仮処分命令は、口頭弁論又は債務者が立ち会うことができる審尋の期日を経なければ、これを発することができない。ただし、その期日を経ることにより仮処分命令の申立ての目的を達することができない事情があるときは、この限りでない。
(仮処分の方法)
第二十四条  裁判所は、仮処分命令の申立ての目的を達するため、債務者に対し一定の行為を命じ、若しくは禁止し、若しくは給付を命じ、又は保管人に目的物を保管させる処分その他の必要な処分をすることができる。

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