新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.931、2009/11/17 13:29

【民事・平成16年7月16日施行性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律】

質問:私は性同一性障害と診断されています。中学生の頃から自覚していますが、名前は産まれたときから男性名で、戸籍の性別も男性です。現在21歳で、一人暮らしを始めてからは、戸籍上の名前とは別に、通称名は女性の名前をつかっています。性転換手術も考えています。将来、美容師の資格を取得し、いずれは女性として、女性の名前で活躍したいと思っています。名前と性別の変更手続について教えてください。

回答:
法的に戸籍の性及び名を変更する手続がありますが、家庭裁判所の許可が必要です。事務所法律相談事例集キーワード検索で、929番も参考にしてください。

@まず、名前の変更申請手続についてご説明いたします。
名前の変更許可を得るには、正当な事情(戸籍法107条の2)が必要です。正当な事情とは、名の変更をしないとその人の社会生活において支障を来す場合をいい,単なる個人的趣味,感情,信仰上の希望等のみでは足りないとされています。名の変更申立は、申立人の本籍地のある家庭裁判所に申立書類を提出します。家庭裁判所に行くと、申立書を入手することができます。また、インターネットからダウンロードもできます。
http://www.courts.go.jp/saiban/syurui/kazi/pdf/kazisinpanmousitate.pdf

申立書以外に必要書類としては、
・申立人の戸籍謄本 1通
・収入印紙800円 (郵便局などで購入可能)
・連絡用郵便切手(家庭裁判所によって違いますので、申立をする家庭裁判所に問い合わせてください。200〜500円程度のようです)
・正当な事情を証する資料
申立書に必要事項を記入して提出しますが、「名の変更を必要とする具体的な事情」の欄には、「7.通称として永年使用」とすると、少なくとも5年以上はその名前を使っていることの証明(年賀ハガキなど)が必要になりますので、「8、その他」に「性同一性障害のため」と記入すべきです。
正当な事情を証する資料としては、性同一性障害であることの医師の診断書を添付します。

申立書が受理されると、審判官(裁判官)との面接の通知が届きます。面接時、通称名の使用を証明できるものの持参が求められることが多いようですが、なるべく日付の古い郵便物や公共料金の領収書、病院の診察券などを提出すべきでしょう。面接では日常生活において、このまま戸籍上の名前を使用することで生じる不都合や、通称名が周囲に受け入れられている事実などについて審判官(裁判官)にお話することになります。名前の変更が許可されると裁判所から許可書が届きますので、市区町村の役所に持参し、申立人自身が名前の変更届をする必要があります。

A次に、性別の変更についてご説明いたします。
性別の変更についても、名前の変更と同じように、家裁での許可を得なくてはいけません。性同一性障害者の性別の変更に関しては、この障害に悩む人々の存在が社会的に注目されたことに伴い、2004年に「性同一性障害者の性別の取扱特例に関する法律」が施行されました。これによって法律上の要件を満たせば性別の変更が認められることになりました。この法律で、性同一性障害とは、「生物学的には性別が明らかであるにもかかわらず、心理的にはそれとは別の性別(以下「他の性別」という。)であるとの持続的な確信を持ち、かつ、自己を身体的及び社会的に他の性別に適合させようとする意思を有する者であって、そのことについてその診断を的確に行うために必要な知識及び経験を有する2人以上の医師の一般に認められている医学的知見に基づき行う診断が一致しているものをいう。」と定義されました。同法3条によれば、[1]20歳以上であること、[2]現に婚姻をしていないこと、[3]現に未成年の子がいないこと、[4]生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること、[5]その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること、のすべての要件を備える性同一性障害者は、医師の診断書を提出することによって性別の取扱いの変更を家庭裁判所に請求することができます。あなたが現在まだ性転換手術を受けられていないのであれば、性転換手術をされてから、申立が可能になります。勿論、性転換手術を受けるかどうかは、慎重に決める必要があると思います。

申立の方法は、名前の変更と同じく、あなたの戸籍登録がされている地域の家裁に審判申立をします。
必要書類としては、
・申立書1通
http://www.courts.go.jp/saiban/tetuzuki/syosiki/syosiki_01_22_02.html
・戸籍謄本、改製原戸籍、除籍謄本等(出生から現在に至るまでの連続した戸籍謄本)
・住民票の写し
・診断書
・収入印紙800円分
・連絡用郵便切手(家庭裁判所によって違いますので、申立をする家庭裁判所に問い合わせてください。2500〜4000円程度のようです)

診断書については厚生労働省で「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律第3条第2項に規定する医師の診断書の記載事項を定める省令」によって記載事項が決められています。また、性同一性障害の診断を的確に行うために必要な専門的な知識・経験を有する精神科医など2人以上の医師の一致した診断が必要です。そのような医師に依頼して作成してもらわなければなりません。
http://www.mhlw.go.jp/general/seido/syakai/sei32/dl/040713a.pdf

これら全ての書類を揃えて申立書類が受理されると、申立て後数週間で家庭裁判所への呼び出しがあります。性別の変更に関しては、名前の変更に比べて、書面での審査がより重要とされますので、審問そのものより申立書類の整備を確実にするべきです。
性別の変更について家裁から許可が出ると、自動的に性別の変更と、新戸籍が作成されます。名前の変更と違い、性別の変更に関しては調査官嘱託扱いとなりますので、自分で役所に届出をする必要はありません。

Bあなたは性転換手術を受けていないということですので、現時点で性別変更はできませんが、性同一性障害者であるという診断がなされていれば、今すぐにでも名前の変更申立ができます。戸籍上の氏名が変更されれば日常生活上の多くの不都合は解消できると思います。性別の記載の変更を求めるかどうかは、将来子供を持つかどうか、性転換手術を受けるかどうかの判断を含みますので、慎重にお考えになってお決めになると良いでしょう。(性転換手術を受けていない)性同一性障害を持った者同士が結婚して妊娠出産している事例もあります。申立から許可までがスムーズに進むかどうかは申立書類の揃え方で大きく変わってくることと思いますので、まずはお近くの弁護士にご相談されてみることをおすすめいたします。

<参考条文>

戸籍法第107条 やむを得ない事由によつて氏を変更しようとするときは、戸籍の筆頭に記載した者及びその配偶者は、家庭裁判所の許可を得て、その旨を届け出なければならない。
2、外国人と婚姻をした者がその氏を配偶者の称している氏に変更しようとするときは、その者は、その婚姻の日から六箇月以内に限り、家庭裁判所の許可を得ないで、その旨を届け出ることができる。
3、前項の規定によつて氏を変更した者が離婚、婚姻の取消し又は配偶者の死亡の日以後にその氏を変更の際に称していた氏に変更しようとするときは、その者は、その日から三箇月以内に限り、家庭裁判所の許可を得ないで、その旨を届け出ることができる。
4、第一項の規定は、父又は母が外国人である者(戸籍の筆頭に記載した者又はその配偶者を除く。)でその氏をその父又は母の称している氏に変更しようとするものに準用する。
戸籍法第107条の2 正当な事由によつて名を変更しようとする者は、家庭裁判所の許可を得て、その旨を届け出なければならない。

性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律
第一条  この法律は、性同一性障害者に関する法令上の性別の取扱いの特例について定めるものとする。
第二条  この法律において「性同一性障害者」とは、生物学的には性別が明らかであるにもかかわらず、心理的にはそれとは別の性別(以下「他の性別」という。)であるとの持続的な確信を持ち、かつ、自己を身体的及び社会的に他の性別に適合させようとする意思を有する者であって、そのことについてその診断を的確に行うために必要な知識及び経験を有する二人以上の医師の一般に認められている医学的知見に基づき行う診断が一致しているものをいう。
第三条  家庭裁判所は、性同一性障害者であって次の各号のいずれにも該当するものについて、その者の請求により、性別の取扱いの変更の審判をすることができる。
一  二十歳以上であること。
二  現に婚姻をしていないこと。
三  現に未成年の子がいないこと。
四  生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること。
五  その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること。
2  前項の請求をするには、同項の性同一性障害者に係る前条の診断の結果並びに治療の経過及び結果その他の厚生労働省令で定める事項が記載された医師の診断書を提出しなければならない。
第四条  性別の取扱いの変更の審判を受けた者は、民法 (明治二十九年法律第八十九号)その他の法令の規定の適用については、法律に別段の定めがある場合を除き、その性別につき他の性別に変わったものとみなす。
2  前項の規定は、法律に別段の定めがある場合を除き、性別の取扱いの変更の審判前に生じた身分関係及び権利義務に影響を及ぼすものではない。
第五条  性別の取扱いの変更の審判は、家事審判法 (昭和二十二年法律第百五十二号)の適用については、同法第九条第一項 甲類に掲げる事項とみなす。

法律相談事例集データベースのページに戻る

法律相談ページに戻る(電話03−3248−5791で簡単な無料法律相談を受付しております)

トップページに戻る