新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.925、2009/10/16 15:34 http://www.shinginza.com/qa-roudou.htm

【労働・採用内定取り消し・採用内定により労働契約は成立するか・整理解雇の関係】

質問:私は、新卒採用試験に合格し、秋には内定通知を受けたので、会社へ入社誓約書を提出しました。ところが、入社まで1ヶ月を切った3月になり、突然会社から、不況による業績悪化のため内定を取消す、との連絡がありました。これから就職活動を再開したとしても、新しい就職先を探すのは極めて難しいと思います。入社は諦めるしかないのでしょうか?

回答:入社を諦めるのはまだ早いといえます。採用内定は、すべて一律にではありませんが、ご相談のケースのように、内定通知を受け、入社誓約書を提出している場合には、始期付解約権留保付労働契約の成立が認められるでしょう。つまり、内定を取消すという事は、解雇になるということです。解雇であれば、裁判所に内定取消無効・地位確認訴訟を提起することができるでしょう。もちろん、裁判をやっても、合理的な内定取消しとされる場合もありますが、その判断は、「内定当時知ることができず、また知ることが期待できない」事実が後に判明し、しかも、それにより内定を取り消すことが「客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認できるか」否かによります(大日本印刷事件、最高裁昭和54年7月20日第二小法廷判決)。そして、業績悪化を理由とする内定取消しにおいては、整理解雇の4要件(@人員削減の必要性、A人員削減の手段として整理解雇することの必要性、B被解雇者選定の合理性、C手続の妥当性)も、その判断枠組みへ盛り込んで考えます(インフォミックス事件)。その業績の悪化が、新規採用を不可能・困難とするもので、そのような業績の悪化が、内定を発した当初予測できないものでなければ、違法な内定取消といえるでしょう。法的には、労働者としての地位の保全・賃金の仮払いの仮処分申請や、労働審判、地位確認訴訟や損害賠償請求訴訟などの手段を採ることが可能です。他事例集842番762番参照。手続は、 法の支配と民事訴訟実務入門、各論3、「保全処分手続、仮差押、仮処分を自分でやる。」各論17、「労働審判を自分でやる。」書式ダウンロード労働審判手続申立参照。

解説:
1.就職活動の時期になると「内定」という言葉を耳にするようになります。最近では、「内々定」というものもあるようです。現在では、この正式採用の決定をする前に、この「内定」という手続きを踏むことが慣行となっています。出来るだけ早いうちに優秀な人材を確保したいという企業側と、早めに就職先を決めて安定した地位を確保したいという学生側の意図が合致したことにより定着した採用方法といえるでしょう。そのため、採用内定と実際の就労開始時期まで数ヶ月の間隔があることのほうが通常です。最近では、中途採用の場合においても、就労日の一定期間前に内定が行われることがあるようです。

2.(1)この内定が取り消されてしまうと、時期によっては、もはや就職活動ができず、その年度の就職を断念せざるを得ない場合もあり、内定者にとっては大問題です。そこで、不当な内定取消しから、内定者を保護するための理論が問題となります。 この点、内定の法的性質ですが、判例は次のように判示しました。「本件採用内定通知のほかには労働契約締結のための特段の意思表示をすることが予定されていなかったことを考慮するとき、Yからの募集(申込みの誘引)に対し、Xが応募したのは、労働契約の申込みであり、これに対するYからの採用内定通知は、右申込みに対する承諾であって、Xの本件誓約書の提出とあいまつて、これにより、XとYとの間に、Xの就労の始期を昭和四四年大学卒業直後とし、それまでの間、本件誓約書記載の五項目の採用内定取消事由に基づく解約権を留保した労働契約が成立したと解する……。……(中略)……わが国の雇用事情に照らすとき、大学新規卒業予定者で、いつたん特定企業との間に採用内定の関係に入つた者は、このように解約権留保付であるとはいえ、卒業後の就労を期して、他企業への就職の機会と可能性を放棄するのが通例であるから、就労の有無という違いはあるが、採用内定者の地位は、一定の試用期間を付して雇用関係に入つた者の試用期間中の地位と基本的には異なるところはないとみるべきである。」(最二小判昭和54年7月20日民集33巻5号582頁、大日本印刷事件)。

(2)企業による募集が「労働契約の申込みの誘引」、労働者の応募や採用試験の受験が「労働契約の申込み」、採用内定が「使用者による労働契約の承諾」にあたり、採用内定通知の段階で、始期付、解約権留保付ではありますが、労働契約が成立することになります。もう少し説明しますと、例えば、新卒採用においては、内定通知を出した段階ではまだ学生であり、すぐに勤務を開始することはできないので、翌年3月の卒業を待ち、4月1日から勤務を開始するというのが通常でしょう。この「翌年の4月1日」というのが「始期」に該当します。そして「解約権留保」とは、一定の事由が生じたときには契約を解約できる権利を企業側が保持しているということです。

(3)ただ、採用内定といっても、その実態は様々であるので、一様にこのようにいえるわけではありませんが、採用内定通知を受け、入社式の案内通知を受け取ったり、入社誓約書を提出している段階では「始期付解約権留保付労働契約」が成立しているといってよいと思われます。また、内々定であっても、通知の具体的内容や当事者間の認識などから、内定と評価できる場合があります。

3.(1)この留保された解約権を企業が行使する場合が「内定取消し」です。内定取消しは、すでに成立した労働契約の解約であり、解雇に当たります。無制限に自由に内定取消しを認めて良いはずはありませんので、会社に留保されている解約権の行使がどこまで認められるのかが問題となります。 この点、判例は、次のように判示しました。「試用契約における解約権の留保は、大学卒業者の新規採用にあたり、採否決定の当初においては、その者の資質、性格、能力その他いわゆる管理職要員としての適格性の有無に関連する事項について必要な調査を行い、適切な判定資料を十分に蒐集することができないため、後日における調査や観察に基づく最終的決定を留保する趣旨でされるものと解され、今日における雇用の実情にかんがみるときは、このような留保約款を設けることも、合理性をもつものとしてその効力を肯定することができるが、他方、雇用契約の締結に際しては企業者が一般的には個々の労働者に対して社会的に優越した地位にあることを考慮するとき、留保解約権の行使は、右のような解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存在し社会通念上相当として是認することができる場合にのみ許されるものと解すべきであることは、当裁判所の判例とするところである(最大判昭和48年12月12日民集27巻11号1536頁、三菱樹脂事件、筆者注)。右の理は、採用内定期間中の留保解約権の行使に同様に妥当するものと考えられ、したがつて、採用内定の取消事由は、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であつて、これを理由として採用内定を取消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られると解するのが相当である。」(前掲、大日本印刷事件判決)。

(2)内定取消しが認められると考えられるのは、例えば、3月で大学が卒業できなかった場合や、健康診断で健康に著しい異常が見つかり勤務ができない場合、入社の際に必要とされた免許・資格が取得できなかった場合です。判例には、公安条例違反の現行犯として逮捕され、起訴猶予処分を受けたことが発覚したためになされた内定取消しを有効としたものもあります(最二小判昭和55年5月30日民集34巻3号464頁、電電公社近畿電通局事件)。

4.(1)では、経営不振を理由とする内定取消しは有効といえるのでしょうか。中途採用のケースですが、ヘッドハンティングによりマネージャー職にスカウトされた労働者に対する経営悪化を理由とする内定取消しについての判例があります。 始期付解約権留保付労働契約の成立を認め、留保解約権の行使が認められる場合について、前掲大日本印刷事件を引用した上で、次のように判示しました。「採用内定者は、現実には就労していないものの、当該労働契約に拘束され、他に就職することができない地位に置かれているのであるから、企業が経営の悪化等を理由に留保解約権の行使(採用内定取消)をする場合には、いわゆる整理解雇の有効性の判断に関する(1)人員削減の必要性、(2)人員削減の手段として整理解雇することの必要性、(3)被解雇者選定の合理性、(4)手続の妥当性という四要素を総合考慮のうえ、解約留保権の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当と是認することができるかどうかを判断すべきである。……(中略)……

確かに、本件採用内定を始期付解約留保権付労働契約と解する以上、Xの就労開始前であっても、Yは、人事権に基づきXの職種を変更する権限を有するものである。しかし、前記事実経過によれば、YがXに対し、入社をするのであれば給与はそのままでマネージャーではなくSEとして働いてもらう旨述べたのは、Yが経営状態の悪化を理由にいわゆるリストラをせざるを得なくなり、これに伴い、採用条件提示書にも記載されていたXの配属予定部署が廃止され、マネージャーとして採用することができなくなった状況下で、(1)基本給の3か月分の補償による入社辞退、(2)再就職を図るため試用期間(三か月)Yに在籍し、期間満了後に退職、(3)マネージャーではなくSEとして働くという三つの条件を提示して事態の円満解決を図ろうとしたものと推認されるのである。そうだとすれば、YのXに対する右発言は、事態の円満解決のための条件の一つを単に提示したにすぎず、YがXの職種を確定的に変更する意思でもって右発言をしたとみることはできない。したがって、Yの主張は、職務変更命令の存在という前提を欠くから、職務変更命令違反等を理由とする本件内定取消は無効というほかない。……(中略)……

確かに、YがマネージャーからSEに職種変更命令を発したことでXの給与が下がるわけではないから、経済的な不利益は生じないし、また、XとYとの間で職種をマネージャーに限定する旨の合意があったとは認められないから、Yが職種変更命令を発したことは、それ自体経営上やむを得ない選択であったということができる。しかしながら、前記採用内定に至る経緯やXが抱いていた期待、入社の辞退勧告などがなされた時期が入社日のわずか二週間前であって、しかもXは既にA会社に対して退職届を提出して、もはや後戻りできない状況にあったこと、Xが同月二四日、Bに対し、内容証明郵便を出すなどの言動を行ったのは、本件採用内定の取消を含めた自らの法的地位を守るためのものであると推認することができるから、Yの職種変更命令に対するXの一連の言動、申し入れを捉えて本件内定取消をすることは、Xに著しく過酷な結果を強いるものであり、解約留保権の趣旨、目的に照らしても、客観的に合理的なものとはいえず、社会通念上相当と是認することはできないというべきである。……(中略)……右(1)ないし(4)で検討してきたところを総合考慮すれば、Yは、経営悪化による人員削減の必要性が高く、そのために従業員に対して希望退職等を募る一方、Xを含む採用内定者に対しては入社の辞退勧告とそれに伴う相応の補償を申し入れ、Xには入社を前提に職種変更の打診をしたなど、Xに対して本件採用内定の取消回避のために相当の努力を尽くしていることが認められ、その意味において、本件内定取消は客観的に合理的な理由があるということができる。しかしながら、Yがとった本件内定取消前後の対応には誠実性に欠けるところがあり、Xの本件採用内定に至る経緯や本件内定取消によってXが著しい不利益を被っていることを考慮すれば、本件内定取消は社会通念に照らし相当と是認することはできないというべきである。」(東京地決平成9年10月31日労判726号37頁、インフォミックス事件)。

(2)内定取消しの理由が、経営悪化を理由とする場合には、整理解雇の有効性判断に関する4要素を総合考慮した上で、当該内定取消しが、客観的に合理的で、社会通念上相当と是認できるかを判断する、との見方を示しました。経営悪化を理由とする内定取消しについての最高裁判例はいまだ存在しませんので、別の判断がなされる可能性はありますが、一つの基準が示されました。経営悪化を理由とする内定取消しが合理的とされるためには、経営悪化が新規採用を不可能または困難とするようなもので、内定を発した当初、この経営悪化が予測できないものであることが要求されるでしょう。

(3)ご相談のケースを考えて見ると、あなたが入社を希望する企業が、どの程度の業績悪化なのかが分かりませんので、一概にはいえませんが、上記のような余程の業績悪化でない限り、内定取消しが合理的で有効であると認められることはないでしょう。そもそも、企業は、その採用計画に沿って人材の募集を行うものですが、募集後、1年も経たないうちに採用内定を取り消さなければならないほどに経営が悪化するのは余程の場合でしょう。企業である以上、時には経営が思わしくない時期も当然あるでしょうが、それはやはり、採用計画段階できちんと考慮しておくできことだと考えられます。仮に経営状態が悪化してしまったとしても、恨むべきは自己の経営判断の甘さであり、内定者に、そのしわ寄せが行く事態は避けなければなりません。したがって、単なる不況による経営悪化を理由とする内定取消しには合理性を認めることはできないものといえるのではないでしょうか。

5.内定取消しは、前述のとおり、解雇と解されますから、内定取消しに予告期間が必要かも問題となります。労働基準法20条1項は、解雇する30日以上前にその予告をするか、30日分以上の平均賃金を支払わなければならないとしています。内定取消しも解雇と解される以上、この規定の適用を受けそうです。しかし、労働基準法21条は、試用期間中の場合は、14日を超えて引き続き使用された場合に、解雇予告の規定の適用を受けることとしています。前掲の大日本印刷事件判例は、採用内定者の地位は、試用期間中の地位と基本的には異なるところはないとみるべき、としていますから14日以上使用されていない内定者においては、解雇予告の規定は適用されないと考えられます。

6.では、具体的にどのような対応をして行けばよいのでしょうか。
(1)これまで述べてきたことを念頭に、内定取消しの理由を会社へ求めます。文書で求めるのが良いかもしれません。そして、その理由が、内定通知書や入社誓約書に記載されているかも確認します。その上で、まずは内定取消しを撤回してもらえるよう交渉しましょう。
(2)(1)と並行して、会社に対し、入社予定日からの就労と、賃金の支払いを要求します。これは、内容証明郵便で行うのが、後に役立つと思われます。
(3)内定取消しを受け入れる場合は、会社に対し、他企業への就職あっせんや、逸失利益の補償を求めてみます。
(4)会社が、どうしても内定取消しを撤回しない、内定取消しを受け入れようにも、会社に誠意が全く見られないような場合には、労働者としての地位の保全・賃金の仮払いの仮処分申請や、損害賠償請求、労働審判など、法的手段に訴えることも可能です。会社の対応があまりに不誠実であれば、最寄りのハローワーク(公共職業安定所)や、場合によっては法律事務所へのご相談を検討してみて下さい。

<参照条文等>

労働基準法
(解雇の予告)
第二十条 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
2 前項の予告の日数は、一日について平均賃金を支払つた場合においては、その日数を短縮することができる。
3 前条第二項の規定は、第一項但書の場合にこれを準用する。
第二十一条 前条の規定は、左の各号の一に該当する労働者については適用しない。但し、第一号に該当する者が一箇月を超えて引き続き使用されるに至つた場合、第二号若しくは第三号に該当する者が所定の期間を超えて引き続き使用されるに至つた場合又は第四号に該当する者が十四日を超えて引き続き使用されるに至つた場合においては、この限りでない。
 一 日日雇い入れられる者
 二 二箇月以内の期間を定めて使用される者
 三 季節的業務に四箇月以内の期間を定めて使用される者
 四 試の使用期間中の者
(休業手当)
第二十六条 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。

新規学校卒業者の採用に関する指針(厚生労働省ホームページより)
4 採用内定取消し等の防止
 新規学校卒業者に対しての事業主の一方的な都合による採用内定取消し及び入植時期の繰下げは、その円滑な就職を妨げるものであり、特に、採用内定取消しについては対象となった学生及び生徒本人並びに家族に計り知れないほどの打撃と失望を与えるとともに、社会全体に対しても、大きな不安を与えるものであり、決してあってはならない重大な問題です。
 このため、事業主は、次の事項について、十分考慮すべきです。
@ 事業主は、採用内定を取り消さないものとする。
A 事業主は、採用内定取消しを防止するため、最大限の経営努力を行う等あらゆる手段を講ずるものとする。
  なお、採用内定者について労働契約が成立したと認められる場合には、客観的に道理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない採用内定取消しは無効とされることについて、事業主は十分に留意するものとする。
B 事業主は、やむを得ない事情により、どうしても採用内定取消し又は入職時期繰下げを検討しなければならない場合には、あらかじめ公共職業安定所に通知するとともに、公共職業安定所の指導を尊重するものとする。この場合、解雇予告について定めた労働基準法第20条及び休業手当について定めた同法第26条等関係法令に抵触することのないよう十分留意するものとする。
  なお、事業主は、採用内定取消しの対象となった学生・生徒の就職先の確保について最大限の努力を行うとともに、採用内定取消し又は入職時期繰下げを受けた学生・生徒から補償等の要求には誠意を持って対応するものとする。

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