新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.918、2009/9/30 14:23

【民事・ペット飼育禁止とマンション規約の変更・区分所有法6条、31条】

質問:現在、ペット可の分譲マンションに入居しています。ペットの犬を飼っていて、今8歳です。このたび、管理組合から、ペット不可にするという規約に変更する予定であるというお知らせがきました。他にも犬や猫を飼っている人はいますが、やはり、ペット不可に賛成する人が多数のようです。このまま多数決をとるとペット不可ということになりますが、私としては、ペット可だったので購入を決めたのに、初めと話がちがうのではないか、と納得がいきません。もし、このまま管理規約が「ペット不可」になってしまった場合、今飼っている犬を手放さなくてはいけないのでしょうか?

回答:
1.正当な手続きによるペット飼育禁止の規約変更は一般的に有効と思います。
2.区分所有法上、「ペット飼育可の規約」を変更するには飼育している人の同意が必要です(区分所有法31条1項)。例外的にペット飼育を管理組合が認めていた特別の事情があれば、区分所有法31条1項を類推して飼育権者の同意が必要となるでしょう。
3.「ペット飼育可」の明確な決まりがない(規約で迷惑行為禁止等の決まりしかない)場合は、原則的に規約変更は有効です。
4.尚、ペット飼育禁止の規約変更が有効であっても、現在飼っているペットについては、管理組合側と飼育条件、飼育期間等を話し合い、暫定的例外を求め円満に解決することも必要です。
5.規約変更に違反した場合強制的にペットを取り上げることはできませんが、占有部分の使用禁止、損害賠償の可能性は残されています。

解説:
1.(問題点の指摘)マンション内において、その区分所有者が快適な生活を送るためには、自分で購入したマンションの一室を、自分が思う通りに自由に使用したい、当然、ペット好きの方は、ペットと一緒に生活したいと考えるはずです。憲法29条では私有財産制が認められており、民法206条でも所有権者は所有物を自由に使用することができるのが原則となっています。しかし、マンションは集合住宅であり、土地を共有し、建物は上下左右に接続して建設されます。入り口やエレベーターや共用廊下など、共用部分もあります。それぞれ違った趣味・考えをもった人間が居住する共同的生活ですから、完全な自由が許されるわけではありません。そこで、そもそも管理規約改正(区分所有法31条)によりペット飼育禁止という規約を作ること自体が有効かどうか問題です。<区分所有法6条>は、区分所有者は、建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない。と規定しその具体的内容は区分所有者の規約制定、変更の集会における決議により定められます(区分所有法30条、31条、32条)ので、ペット飼育が「共同の利益に反する行為」に該当するかどうか考える必要があります。もし共同の利益に反するものでなければ規制自体できないからです。又、<民法206条>は、「所有者は、法令の範囲内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分する権利を有する。」と規定していますから、少なくとも自室でペットを飼うことは制限できないようにも考えられます。

2.(ペット飼育は共同の利益に反する)一般的に区分所有者が勝手に行うペット飼育は共同の利益に反する行為であり禁止の規約を設け、改正すること自体は有効と考えることができます。

3.(理由)その理由ですが、法6条の趣旨は、マンションのような一棟の建物内の構造上独立した複数の部分をかなり多人数の集団で所有、利用する集合住宅建物の所有権の保障、共有関係を適正公平に規律するためにあります。従来の民法における所有権、共有の理論、規定は、単独所有建物を対象にしており集合住宅を予想して作られていませんので、区分所有者各自の所有権を実質的に保障するために(フランス人権宣言による所有権絶対の原則。憲法29条)従来の共有、権利関係を修正する必要が生じました。そのため作られたのが昭和37年の区分所有法です。この法律の趣旨はかなりの多人数が有する集合住宅の各区分所有権の実質的保障にありますので、具体的に被害が生じていなくても、一律に前もって、直接、間接的に各区分所有者の共同の利益に影響を及ぼす可能性のある行為を意味すると解釈されることになります。区分所有法では、民法の共有理論(管理は過半数による決議)を修正してマンションの使用、管理について規制することを認めています(4分の3の決議)ので占有部分、共有部分の使用方法は民法より規制が厳しくなります。従って、ペット飼育は、直接、間接に区分所有者の生活する利益を害する可能性があり一般的事前の規制も有効になります。実際上もマンションでのペットの飼育については、悪臭が強かったり、鳴き声が大きかったりしますから、特にその趣味や好き嫌いが分かれやすい部分ですがやむを得ない規制になります。最近では、多くのマンションの管理規約のなかに、ペットについての規制条項が設けられているのが通常のようです。以上の趣旨から利用制限は共有部分だけでなく、区分所有者の専有部分にも及ぶのは区分所有法の趣旨から当然の効果と考えられます(民法206条・区分所有法6条)。

4.(判例)判例でも管理組合の規約で、「ペット禁止」や「事務所使用禁止(居住専用)」などの一般的利用制限を加えることも有効と解釈されています(東京高裁平成6年8月4日判決、使用禁止等請求事件)。「被告(ペット飼育者)は、「区分所有法6条1項の「共同の利益に反する行為」とは、動物を飼育する行為を一律に含むものではなく、動物の飼育により他人に迷惑をかける行為で具体的な被害が発生する行為に限定され、本件マンションにおいて動物の飼育を一律に全面禁止する管理規約は無効であると主張する。しかし、区分所有法6条1項は、区分所有者が区分所有の性質上当然に受ける内在的義務を明確にした規定であり、その1棟の建物を良好な状態に維持するにつき区分所有者全員の有する共同の利益に反する行為、すなわち、建物の正常な管理や使用に障害となるような行為を禁止するものである。この共同の利益に反する行為の具体的内容、範囲については、区分所有法は明示しておらず、区分所有者は管理規約においてこれを定めることができる。そして、マンション内における動物の飼育は、一般に他の区分所有者に有形無形の影響を及ぼすおそれのある行為であり、これを一律に共同の利益に反する行為として管理規約で禁止することは区分所有法の許容するところであると解され、具体的な被害の発生する場合に限定しないで動物を飼育する行為を一律に禁止する管理規約が当然に無効だとはいえない。本件マンションで、改正後の管理規約において動物の飼育を一律に禁止する規定をおいた趣旨は、区分所有者の共同の利益を確保することにあったことがうかがえるから、被告が本件マンションにおいてペットである犬を飼育することは、その行為により具体的に他の入居者に迷惑をかけたか否かにかかわらず、それ自体で管理規約に違反する行為であり、区分所有者の共同の利益に反する行為に当たる。」(東京地裁平成17年6月23日判決、使用禁止等請求事件)は事務所使用を制限し住居使用に限る旨の一般的規約を有効としています。カイロプラクティック治療院は事務所であり規約違反を認定しています。

5.(規約改正手続き)尚、続きですが、マンションの管理規約は、建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)30条に基づいて作成されるもので、「建物又はその敷地若しくは付属施設の管理または使用に関する」事項について、この法律に定めのある事項のほかは、区分所有者の集会によって定められます。
(条文参照、区分所有法30条)「建物又はその敷地若しくは付属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、この法律に定めるもののほか、規約で定めることができる。」
この規約の設定、変更、廃止は区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数決による集会の決議によってなされなければなりませんので定められた手続きにのっとらなければ無効になります。
(区分所有法第31条)「規約の設定、変更又は廃止は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議によってする。この場合において、規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすときは、その承諾を得なければならない。」
ただ、この決議は、代理や書面によってもなされます。(同法45条)。このため、仮に理事長に議決権の行使が委任されている場合や、変更に賛成する書面が集められており、決議の要件を満たしている場合には変更が有効になります。
(区分所有法第45条)「この法律又は規約により集会において決議をすべき場合において、区分所有者全員の承諾があるときは、書面又は電磁的方法による決議をすることができる。ただし、電磁的方法による決議に係る区分所有者の承諾については、法務省令で定めるところによらなければならない。」
管理規約が正式な手続きのもとで変更されていたということであれば、当時議決権を有していた区分所有者のみならず、決議後にマンションに入居した人も拘束されます。これには従わなくてはいけません。

6.(ペット飼育者の承諾は必要か)しかし、ペット飼育禁止の一般的規約が有効であるとしても、貴女は、禁止の規約改正前からペットを飼育しており突然ペットである犬を手放さなければならいのは酷なように思われますし、「ペット可」と決めていた管理組合が突然規約改正するのも信義に反するようにもおわれます。あなたの飼っている犬は、盲導犬や介助犬ではなく、愛玩動物としてのペットのようですが、あなたにとっては家族同等に大切な、かけがえのない犬だと思います。そこで、ペット飼育を認められていた利益を規約により奪われることが、同法31条1項の「規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。」に該当するか問題となります。すなわち「特別の影響を及ぼすべきとき」とはいかなる場合を指すのかが問題となります。

7.(結論)一般的に、ペット不可にする規約設定は、「一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきとき」には該当しません。しかし、以前からペット可の具体的規約があるマンションにおいては、31条1項に該当しペット飼育している人の承諾を必要となります。

8.(理由)前述のように区分所有法の趣旨、目的は、かなりの多人数が有する区分所有権の実質的保障であり、前もって一般的規制が許される以上、この例外に位置づけられる「特別の影響を及ぼすべきとき」は制限的に解釈されます。そうでなければ、事実上多人数を規制する規約の制定、変更が困難になり区分所有法の目的が達せられないからです。従って、特別の影響とは、区分所有者の生活自体を脅かすような影響を与えるものと解釈せざるを得ません。ペットは、愛着も大きいでしょうが、盲導犬のように日常生活に不可欠なものでない限り生活自体を脅かすものとは評価できないでしょう。ペット自体、家族の一員とする評価は通常難しく、共同住宅でのペット飼育は、防臭、防音設備設置、詳細な飼育細目、飼育する人の調査を事前にする必要があるので一般マンションには適合しませんから、特別の影響を及ぼす時に該当しません。但し、従来からペット飼育可との規約が存在し問題なくペットが飼育されている環境があればこれを変更する場合、又は事実上ペット飼育が認められてきた特別の環境、状況があれば信義則上、公平上既得権、利益を保護しなければならず多数決の議決の他区分所有者の承諾が必要になるでしょう。

9.(判例)法的な判断基準として、判例をご紹介いたします。「また、被告は動物の飼育全面禁止を定める本件規約改正は被告の権利に特別の影響を及ぼすから、区分所有法31条1項の規定により被告の承諾が必要であり、その承諾なくして行われた本件管理規約の改正は無効であると主張する。しかし、マンション等の共同住宅においては、戸建ての相隣関係に比べて、その生活形態が相互に及ぼす影響が極めて重大であるため、他の入居者の生活の平穏を保証する見地から、管理規約により自己の生活にある程度の制約を強いられてもやむを得ない。もちろん盲導犬のように飼い主の日常生活・生存にとって不可欠な意味を有する場合は、当然ながら飼い主の権利に特別の影響を及ぼすといえるが、ペットに関しては飼い主の生活を豊にする意味はあるとしても、飼い主の生活・生存に不可欠のものではない。」(東京高裁平成6年8月4日、使用禁止等請求事件)とし、愛玩動物としてのペットは、その飼育を制限したとしても「特別の影響を及ぼす」とはいえないと示しています。唯この判例は、もともとペット飼育可の決まりもなく(入居案内にはペット飼育禁止と記載されていた)、マンション分譲時から事実上ペット禁止の運営がなされており飼育者の権利がもともと保護に値しないような条件が存在していますのでペット可の規約を変更した事件ではありません。

10.(管理規約に対する具体的対応)ペット飼育可の明確な決まりがないマンションで、管理規約で「ペット不可」と決められてしまった場合には、それに従わなくてはなりませんが、ペットを飼う人にとっては、せめて今飼っている犬だけは最期まで育ててやりたい、という気持ちでいらっしゃると思います。管理組合の決議はこれから採るということですので、現在飼育している他の入居者と、今飼っているペット一代に限って飼育を認めてもらう、という話し合いをしてもよいと思います。この場合には、飼育者の管理と指導のために、ペット飼育者全員で協力してペットの飼育委員会を立ち上げ、飼育細則を作成すべきです。飼育細則の内容としては、@飼育しているペットを管理組合に登録するAペットの種類・頭数の制限B遵守事項、たとえば、予防注射の義務や敷地内での移動方法、飼育場所の制限C罰則規定などを定めることになるでしょう。

11.(まとめ)上記の判例で認められた「ペット禁止の管理規約変更が有効かどうか」という論点と、管理規約変更前から飼育していたペットを一代限りで飼い続けることが出来るかどうか、また、飼い続けた場合に管理組合からの使用禁止等請求が認められるかどうか、は、一応、別の問題です。当職の個人的な見解ですが、ペットと長期間一緒に生活すれば家族同様の愛着が生じるものであり、管理組合の変更は有効だとしても、変更時に飼っているペットについては亡くなるまで飼い続ける事も交渉によっては可能だと考えます。

12.(規約違反に対する管理組合の対応)ペット飼育の停止請求、占有部分使用禁止の請求が考えられます。区分所有法を引用します。区分所有法57条1項 区分所有者が第六条第一項に規定する行為をした場合又はその行為をするおそれがある場合には、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、区分所有者の共同の利益のため、その行為を停止し、その行為の結果を除去し、又はその行為を予防するため必要な措置を執ることを請求することができる。58条1項 前条第一項に規定する場合において、第六条第一項に規定する行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しく、前条第一項に規定する請求によつてはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるときは、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、集会の決議に基づき、訴えをもつて、相当の期間の当該行為に係る区分所有者による専有部分の使用の禁止を請求することができる。

13.(例外的に権利濫用で飼育禁止を請求できない場合、判例)唯、例外的に、他の人に対しても事実上ペット飼育を長期間にわたり認めており、これを放置して誠実な協議対応もしていない特別な事情があれば前述の請求が否定される場合も考えられます。判例を引用します。(事務所使用を禁止した管理規約に違反してカイロ治療院を営業した使用者に対する使用禁止請求事件、東京地方裁判所平成17年6月23日判決)「原告が、住戸部分を事務所として使用している大多数の用途違反を長期間放置し、かつ、現在に至るも何らの警告も発しないでおきながら、他方で、事務所と治療院とは使用態様が多少異なるとはいえ、特に合理的な理由もなく、しかも、多数の用途違反を行っている区分所有者である組合員の賛成により、被告に対して治療院としての使用の禁止を求める原告の行為は、クリーン・ハンズの原則に反し、権利の濫用といわざるを得ない」

14.(本件の検討)貴方としては、入居時からペット飼育可との管理規約がありますので承諾をしないで飼育を続けることが可能です。万が一、規約上飼育可の規定がなくとも「ペット禁止への規約改訂は承知したが、現在飼っているペットは家族同様に愛着があるので、同居できないことは家族を失うほどの大きな精神的な苦痛を生じます。迷惑を掛けないように注意しますので、ペットが亡くなるまで飼いつづける事にご了承頂きたい。」という旨の申し入れをすることが考えられます。通常、ペット動物の寿命は50年とか100年とかにはならず、それほど長くありませんから、妥協案として、現在のペットを最期まで看取ることを認めるとこと又は「期間を限定すること」は可能性があると思います。ご心配であれば、申し入れ書や通知書作成を、弁護士に相談してみましょう。

≪条文参照≫

(区分所有者の権利義務等)
第六条  区分所有者は、建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない。
2  区分所有者は、その専有部分又は共用部分を保存し、又は改良するため必要な範囲内において、他の区分所有者の専有部分又は自己の所有に属しない共用部分の使用を請求することができる。この場合において、他の区分所有者が損害を受けたときは、その償金を支払わなければならない。
3  第一項の規定は、区分所有者以外の専有部分の占有者(以下「占有者」という。)に準用する。
第五節 規約及び集会
(規約事項)
第三十条  建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、この法律に定めるもののほか、規約で定めることができる。
2  一部共用部分に関する事項で区分所有者全員の利害に関係しないものは、区分所有者全員の規約に定めがある場合を除いて、これを共用すべき区分所有者の規約で定めることができる。
3  前二項に規定する規約は、専有部分若しくは共用部分又は建物の敷地若しくは附属施設(建物の敷地又は附属施設に関する権利を含む。)につき、これらの形状、面積、位置関係、使用目的及び利用状況並びに区分所有者が支払つた対価その他の事情を総合的に考慮して、区分所有者間の利害の衡平が図られるように定めなければならない。
4  第一項及び第二項の場合には、区分所有者以外の者の権利を害することができない。
5  規約は、書面又は電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものとして法務省令で定めるものをいう。以下同じ。)により、これを作成しなければならない。
(規約の設定、変更及び廃止)
第三十一条  規約の設定、変更又は廃止は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議によつてする。この場合において、規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。
2  前条第二項に規定する事項についての区分所有者全員の規約の設定、変更又は廃止は、当該一部共用部分を共用すべき区分所有者の四分の一を超える者又はその議決権の四分の一を超える議決権を有する者が反対したときは、することができない。

判例@
犬の飼育禁止請求控訴事件
東京高裁平三(ネ)第四四九〇号
平6・8・4第四民事部判決
       主   文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
       事   実
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
主文同旨
第二 当事者の主張〈省略〉
第三 証拠関係〈省略〉
       理   由
一 当裁判所も、本件改正後の管理規約は有効であり、控訴人の本件犬の飼育は、管理規約違反行為であり、かつ、共同の利益に違反する行為であって、被控訴人の本件請求は理由があり、認容すべきものと考える。その理由は、次のとおり付加訂正するほか、原判決の理由説示と同一であるから、これを引用する。当審における証拠調べの結果によっても、右結論を動かすに足りない。
二 区分所有法六条一項の「共同の利益に反する行為」について
 控訴人は、区分所有法六条一項に定める「共同の利益に反する行為」とは、動物を飼育する行為を一律に含むものではなく、動物の飼育により他人に迷惑をかける行為で、具体的な被害が発生する行為に限定され、本件マンションにおいて動物の飼育を一律に全面禁止する管理規約は無効であると主張する。
 区分所有法六条一項は、区分所有者が区分所有の性質上当然に受ける内在的義務を明確にした規定であり、その一棟の建物を良好な状態に維持するにつき区分所有者全員の有する共同の利益に反する行為、すなわち、建物の正常な管理や使用に障害となるような行為を禁止するものである。右の共同の利益に反する行為の具体的内容、範囲については、区分所有法はこれを明示しておらず、区分所有者は管理規約においてこれを定めることができる(同法三〇条一項)ものとされている。そして、マンション内における動物の飼育は、一般に他の区分所有者に有形無形の影響を及ぼすおそれのある行為であり,これを一律に共同の利益に反する行為として管理規約で禁止することは区分所有法の許容するところであると解され、具体的な被害の発生する場合に限定しないで動物を飼育する行為を一律に禁止する管理規約が当然に無効であるとはいえない。
 原審証人小沢茂及び当審証人杉本武司の各証言(いずれも第一、二回)によれば、本件改正後の管理規約において本件マンション内での動物の飼育行為を一律に禁止する規定を置いた趣旨は、区分所有者の共同の利益を確保することにあったことが窺われるから、控訴人が本件マンション(なお、本件マンションは七階建て二六戸の一般居住用分譲マンションであり、動物の飼育を配慮した設計・構造にはなっていないー甲三号証、乙一一号証等)においてペットである本件犬を飼育することは、その行為により具体的に他の入居者に迷惑をかけたか否かにかかわらず、それ自体で管理規約に違反する行為であり、区分所有法六条一項に定める「区分所有者の共同の利益に反する行為」に当たるものといわなければならない。 
(なお、被控訴人は、本件入居案内が管理規約等と同等の拘束力を有すると主張し、更に、仮定的主張として、仮にこれが認められないとしても、改正前の旧規約に基づく旧使用細則三条一二項により、本件マンションにおける動物の飼育は規約改正を待つまでもなく、当初から管理規約により禁止されていたと主張するけれども、本件入居案内がその作成の経緯に照らして区分所有法上の規約と同等の拘束力を有するとは認められないことは、原判決の説示するとおりである。そして、いずれも成立に争いのない甲二号証の一、二によれば、改正前の旧規約に基づく旧使用細則三条一二項は、「公序良俗に反する行為、震動、騒音、臭気、電波等により居住者及び近隣に迷惑を及ぼす行為、又は不快の念を抱かせる行為をすること」を禁止行為として規定していることが認められるけれども、右規定は文言が抽象的であり、動物の飼育をそれ自体として直接禁止している趣旨を含むものと解することは困難であるというほかなく、本件マンションにおける動物の飼育が当初から管理規約により禁止されていた旨の被控訴人の仮定的主張は採用できない。)
三 規約改正決議の手続の効力について
 控訴人は、本件規約等の改正決議の手続が無効であるとして、その理由につき、白紙委任状による議決権行使が無効であること、動物飼育の全面的禁止への規約改正は理事らの高圧的な姿勢により条件付飼育許可の意見を無視する不公正な方法で行われたもので無効であること等を主張するが、原判決挙示の関係証拠によれば、本件規約改正決議の手続及びこれに至る過程において控訴人の主張するような瑕疵ないし無効事由の存在を認めるに足りないとした原判決の理由説示は是認でき、当審における証拠調べの結果によっても、右結論を動かすに足りない。
四 規約改正と区分所有法三一条一項の「特別の影響」について
 控訴人は、本件マンションにおける動物の飼育の全面的禁止を定める本件規約改正は控訴人の権利に特別の影響を及ぼすから、区分所有法三一条一項により控訴人の承諾が必要であり、右承諾なくして行われた本件規約改正は無効であると主張する。
 しかしながら、マンション等の集合住宅においては、入居者が同一の建物の中で共用部分を共同利用し、専用部分も相互に壁一枚、床一枚を隔てるのみで隣接する構造で利用するという極めて密着した生活を余儀無くされるものであり、戸建ての相隣関係に比してその生活形態が相互に及ぼす影響が極めて重大であって、他の入居者の生活の平穏を保障する見地から、管理規約等により自己の生活にある程度の制約を強いられてもやむを得ないところであるといわねばならない。もちろん、飼い主の身体的障害を補充する意味を持つ盲導犬の場合のように何らかの理由によりその動物の存在が飼い主の日常生活・生存にとって不可欠な意味を有する特段の事情がある場合には、たとえ、マンション等の集合住宅においても、右動物の飼育を禁止することは飼い主の生活・生存自体を制約することに帰するものであって、その権利に特段の影響を及ぼすものというべきであろう。
 これに対し、ペット等の動物の飼育は、飼い主の生活を豊かにする意味はあるとしても、飼い主の生活・生存に不可欠のものというわけではない。そもそも、何をペットとして愛玩するかは飼い主の主観により極めて多様であり、飼い主以外の入居者にとっては、愛玩すべき対象とはいえないような動物もあること、犬、猫、小鳥等の一般的とみられる動物であっても、そのしつけの程度は飼い主により千差万別であり、仮に飼い主のしつけが行き届いていたとしても、動物である以上は、その行動、生態、習性などが他の入居者に対し不快感を招くなどの影響を及ぼすおそれがあること等の事情を考慮すれば、マンションにおいて認容しうるペットの飼育の範囲をあらかじめ規約により定めることは至難の業というほかなく、本件規約のように動物飼育の全面禁止の原則を規定しておいて、例外的措置については管理組合総会の議決により個別的に対応することは合理的な対処の方法というべきである。
 これを本件についてみるに、控訴人の原審における本人尋問の結果によれば、控訴人は昭和五八年一〇月ないし一一月ころから本件犬を飼育していたが、昭和六〇年三月三〇日本件犬を伴なって本件マンションに入居したこと、控訴人の家族構成は控訴人夫婦、長女及び長男の四人であって、本件犬は家族の一員のような待遇を受けて可愛がられていたことは認められるが、控訴人一家の本件犬の飼育はあくまでペットとしてのものであり、本件犬の飼育が控訴人の長男にとって自閉症の治療効果があって(控訴人は入居当初このことを管理組合に強調していた)、専門治療上必要であるとか、本件犬が控訴人の家族の生活・生存にとって客観的に必要不可欠の存在であるなどの特段の事情があることを認めるに足りる証拠はない。したがって、本件規約改正は控訴人の権利に特別の影響を与えるものとはいえない。
 結局、控訴人の本件規約改正が区分所有法三一条一項に違反する旨の主張は理由がない。
五 よって、被控訴人の本訴請求は理由があり、これを認容した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

判例A
東京地方裁判所平成16年(ワ)第6060号
平成17年6月23日民事第13部判決  使用禁止等請求事件
争点(1)について
(1)原告は,住戸部分である本件居室を治療院として使用する被告乙山の行為は,本件管理規約12条に違反する旨主張し,被告らは,これを否認する。そこで,「治療院」としての使用は,「住戸使用」に含まれるかについて検討する。
(2)「住居」とは,居住者の生活の本拠であり,「住戸使用」とは,居住者の生活の本拠としての使用であるか否かによって判断されるべきものである。そして,その使用方法は,生活の本拠というに相応しい平穏さが求められるところ,被告乙山の経営するカイロプラクティック治療院は,上記認定のとおり,〔1〕入居者は被告乙山1名,〔2〕設備はベッド2台,〔3〕営業日は月曜日から土曜日(日・祭日休業)まで,〔4〕営業時間は午前9時から午後7時(ただし,土曜日は午後1時まで)まで,〔5〕利用者は完全予約制,〔6〕治療方法は施術者被告乙山の手による方法で営業しているというものであり,治療院の使用態様は,その規模,予想される出入りの人数,営業時間,周囲の環境等を考慮すると,事業・営業等に関する事務を取り扱うところである「事務所」としての使用態様よりも,居住者の生活の平穏を損なう恐れが高いものといわざるを得ず,到底住戸使用ということはできない。
(3)そうだとすると,「治療院」としての使用は,「住戸使用」には含まれず,住戸部分である本件居室を治療院として使用する被告乙山の行為は,本件管理規約12条に違反するものと解するのが相当である。
3 争点(2)について
(1)原告は,本件居室を治療院として使用することは,区分所有法57条1項,6条1項の「建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為」である旨主張し,被告らは,これを否認する。そこで,治療院としての使用が,区分所有者の共同の利益に反する行為か否かについて検討する。
(2)ところで,一般に,「共同の利益に反する行為」とは,建物そのものの保存・管理・使用に関するものだけではなく,敷地や付属施設の保存・管理・使用に関する有害行為又は区分所有者の共同の利益に反する行為(ニューサンスを含む。)であれば広く区分所有法6条1項により禁止されると解されるところ、その判断基準としては,当該行為の必要性の程度,これによって他の区分所有者が受ける不利益の態様,程度等の諸事情を勘案して判断すべきものであると解するのが相当である。
 そこで本件について検討するに,本件マンションのような複合住宅においては,使用態様に関する管理規約を遵守しなければ,居住者の良好な環境を維持することはできなくなるところ,前記2に判断したとおり,被告乙山の本件居室の使用態様は,「事務所」としての使用態様よりも,本件マンション居住者の生活の平穏を損なう恐れの高いものである上,被告乙山が原告の承諾を得ることなく本件マンションに面した道路に置き看板を設置して千代田区や警察の警告を受けていることに鑑みれば,区分所有法57条1項,6条1項の「建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為」であるといわざるを得ない。 
(3)被告らは,本件マンションは,住戸専用部分と事務所専用部分との区画が曖昧であるうえ,入居しているテナントの大部分は,管理規約に基づく区分どおりに使用されているわけではなく,本件管理規約上の専用部分についての用途制限は,無いに等しく,全く有名無実化・形骸化している旨主張する。確かに,前記認定の事実によれば,住戸部分に多数の会社等の事務所が入居していることを認めることができるが,前記2に判断したとおり,被告乙山の本件居室の使用態様は,「事務所」としての使用態様よりも,本件マンション居住者の生活の平穏を損なう恐れの高いものであり,被告らが主張するように,本件管理規約上の専用部分についての用途制限は,無いに等しく,全く有名無実化・形骸化しているとまではいうことはできず,その他これを認めるに足りる的確な証拠はない。
 また,被告らは,被告乙山のカイロプラクティック業による本件専用部分での治療院としての使用状況からして,何ら区分所有者の生活上障害を生じるものではなく,区分所有者の共同の利益及び良好な住環境の確保に違反しない旨主張する。しかしながら,いかに利用者は完全予約制であるといっても,他の住戸部分の区分所有者からみれば,治療院に来訪するのは不特定多数の患者であり,住戸部分に不特定多数の患者が常に出入りしている状況は,良好な住環境であるとは言い難く,住戸部分の区分所有者の共同の利益に反することは明らかである。
3 争点(3)について
(1)上記に認定判断したとおり,被告乙山の本件居室の使用態様は,区分所有者の共同の利益に反する行為であり,原告は,原則として,治療院としての使用の禁止を求めることができることになるが,被告らは,これに対し,本件訴訟の請求は権利の濫用である旨主張するので,この点について検討する。
(2)前記1に認定の事実によれば,〔1〕本件マンションの5階から9階までは,住戸部分29戸と事務所部分10戸とが並存しており,住戸部分29戸のうち住居として使用されているものが2戸,不明が3戸であり,その余の24戸はいずれも会社等の事務所として使用されていること,〔2〕そして,これらの用途違反については,これまで原告から改善の注意や警告が発せられたことはなかったが,平成15年10月になって初めて,原告は,正式に被告乙山ら3件の治療院についてその使用の禁止を求めていること,〔3〕被告丙川の夫である丙川夏男は,本件居室を取得した当時から,本件居室を事務所として賃貸してきており,平成13年10月に,同被告が被告乙山に対し,本件居室を治療院として貸与したときも,被告丙川は,特に用途違反につき認識をしていなかったこと,〔4〕平成16年2月10日の原告の臨時総会において,用途違反に対する行為差止請求の法的手続き実施に関する件につき,総会成立のための有効議決権数838(議決権総数1000)のうち,賛成議決権788,反対議決権13で,反対票を投じたのは,被告丙川だけであり,上記のとおり,住戸部分29戸のうち,用途違反を行っている24戸の区分所有者である組合員は,棄権をしたものを除いて,すべてが被告乙山及び丁原の各居室の治療院としての使用禁止を求める上記案件に賛成票を投じた結果可決されたものであることを認めることができる。そうだとすると,原告が,住戸部分を事務所として使用している大多数の用途違反を長期間放置し,かつ,現在に至るも何らの警告も発しないでおきながら,他方で,事務所と治療院とは使用態様が多少異なるとはいえ,特に合理的な理由もなく,しかも,多数の用途違反を行っている区分所有者である組合員の賛成により,被告乙山及び丁原に対して,治療院としての使用の禁止を求める原告の行為は,クリーン・ハンズの原則に反し,権利の濫用といわざるを得ない。
 なお,前記認定のとおり,被告乙山が原告の承諾を得ることなく本件マンションに面した道路に置き看板を設置して千代田区や警察の警告を受けていることや,被告丙川と同乙山との間の本件居室についての賃貸借契約更新の際に,原告から用途違反についての警告を受けていたという事実はあるものの,上記認定のとおりの原告の本件請求に至る態様に鑑みれば,何ら上記判断を左右しない。
第4 結論
 以上によれば,原告の請求は,その余の点につき判断するまでもなく、いずれも理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担につき民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。 

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