新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.909、2009/9/1 13:54

【民事訴訟法・送達・同居人の訴状受け取りと表見代理について・再審】

質問:知人の男性に金銭を貸し付けたときに、その連帯保証人として、その知人の兄の署名と、実印での捺印と、印鑑証明書等をもらって、借用書を作成していました。支払が滞り、その知人と兄の双方に対して、訴訟を起こしましたが、初回期日に欠席し、書面もださなかったので、そのまま判決が出ました。知人と連絡が取れず、半年後、兄とようやく連絡が取れたので、判決を示して支払いを請求したら、自分は署名捺印していない、弟が勝手にやった、訴訟が提起されたことも知らなかった、等と主張し、裁判をやり直すといって、支払に応じません。裁判所で確認してみたら、兄の訴状も、同居人として知人が受け取っていたようです。借用書の時点では住所が異なっていましたが、訴訟の時は同居しているようだったので、双方同じ住所を送達場所としていました。本当に兄が、了承していないのか、訴状を受け取っていないのかも疑わしいし、判決も出ているのに、裁判のやり直しをされてしまうのでしょうか。無断でやったと主張されていますが、もし、裁判のやり直しになったときには、勝てる余地はありますか。

回答:主債務者である本人が、保証人として請求訴訟を起こされた兄に、その事実を伏せたい、ということだけでは、法律上の利害関係には至らず、事実上の利害関係に過ぎないので、訴状送達自体は有効になりますが、主張立証の機会がなかったので、再審の訴えを起こされれば、裁判のやり直しをせざるを得ません。ただ、実印や印鑑証明書を使われてしまうような原因が兄にあると認められれば、請求が認められる可能性もあります。

解説:
1.訴訟の被告に対しては、出席の上、主張立証の機会を確保した上で、被告の義務の確定を行う必要がありますから、訴訟の提起を受けた裁判所は、訴訟の内容を記載した訴状を、被告に送達しなければなりません(民事訴訟法138条)。訴状の送達は、訴訟の被告となった者の住所地等で行う必要がありますが(同法103条)、その場所で、本来送達をすべき人に出会えなかった場合には、同居者であって、書類の受領に対して相当のわきまえのある者に対して書類を交付することができるとされています(同法106条)。本人がその場にいないと言うだけで、いつまでも送達ができないとしてしまうと、迅速な訴訟手続が行えません。送達から逃げて訴訟自体を避ける、ということができないように、最終的には、公示で送達にしてしまう場合もありますが、通常は、それよりは、同居者に渡した方が確実ですから、そのような方法も認められています。

2.もっとも、同居者等は、より法的な理論を考えれば、本人の代理として、送達を受けていることになりますが、法的な利益が対立している場合、例えば、保証人が、既に、主債務者である本人に、何らかの法的請求権を有している場合には、自らの利益を優先させる可能性が生じてしまうことから、双方代理ができない(民法108条)、つまり、送達を受けられない、と考えられています。しかし、本件では、兄は、保証人になっていたことを知らない、と主張している以上、保証債務の履行をまだしていない、つまり、自分の支払った分を、本人に支払うように法的に請求するような段階には至っていない可能性が高いと思われます。ただ、本人は、勝手に兄を保証人にしてしまったことを、兄に知られたくない、と思うでしょうから、事実上は、この送達について、兄と利害関係を有していることになります。この事実上の利害関係の対立のみがあった場合に、兄への訴状を本人に送達したことが、有効になるか、という点が問題となります。また、いずれにしても、兄は、主張立証の機会のないまま、支払義務を負うとの判決を出され、控訴期間も過ぎてしまったのですから、その判決について、再審の訴えで、裁判のやり直しを求められないか、ということも問題となります(民事訴訟法338条1項)。この点、5号の「刑事上罰すべき他人の行為により、自白をするに至ったこと又は判決に影響を及ぼすべき攻撃若しくは防御の方法を提出することを妨げられたこと。」と解すると、訴えができる場合に制限が課されることから、3号の「法定代理権、訴訟代理権又は代理人が訴訟行為をするのに必要な授権を欠いたこと。」と同様に解することができないか、という形で議論されています。

3.この点、訴訟に関して、同居者と、本来の受送達者との間に、事実上の利害関係の対立があるに過ぎない場合には、同居者に交付したことで送達の効力が生じる、というのが判例です(最高裁判所第3小法廷平成19年3月20日判決)。民事訴訟法106条1項が、「同居者であって、書類の受領について相当のわきまえのある者」に書類を交付すれば、受送達者に対する送達の効力が生ずるとしていて、その後、書類が同居者から受送達者に交付されたか否か、事実を告知したか否かは、効力に影響しない、と判断しているからだと思われます。実際上も、事実上の利害関係等の確認まで行うことは難しいだけでなく、本人確認や背景事情の確認まで要求するのであれば、法律が、同居者等への送達も認めた趣旨が失われてしまうという背景があるのだと思います。

4.その上で、上記判決は、実際に、訴訟関係書類が本人である受送達者に交付されず、そのため、受送達者が訴訟を提起されていることを知らないまま判決がなされたときには、当事者の代理人として訴訟行為をした者が代理権を欠く場合と別異に扱う理由はないから、民事訴訟法338条1項3号の再審事由がある、と判断しています。交付されなかったことの証明をする必要があるとは思いますが、今回、もし、兄からのその主張立証が認められた場合には、裁判のやり直しとして、兄への請求が可能なのか、訴訟で具体的内容を争う、本格的な裁判となることも覚悟せざるを得ません。

5.もっとも、本件においては、兄が、署名捺印を否定しているといっても、印鑑証明書と、印影の一致する実印の記載があるのですから、兄が、やはり、実際には了承していたか、他のことで、自分の実印や印鑑登録カードを使うことを認めていたか(民法110条等)、という主張の余地はあるかもしれません。こちらが善意無過失、つまり、注意義務を尽くした上で知らなかったこと、その一方で、本人に権限があるように見えたことについて、兄にも責任があるということが主張立証できれば、兄が知っていた、ということまで立証できなくても、請求は認められます。まだあきらめてしまうのは早いと思います。

6.判決が出ている、というだけでなく、借用書に、保証人として、兄の実印と思われる捺印があることも兄に伝われば、対応が変わるかもしれません。もちろん、相手も、訴訟をしなければ納得しないかもしれませんし、状況によっては、その時まで、あまり詳細の資料を与えない方がいいかもしれませんが、借用書を締結したときの具体的な事情、その後の分かる範囲での事情を、弁護士に伝えて相談し、対策と方針を定めた上で、もう少し、相手への請求を継続してみた方がいいように思います。

≪条文参照≫

<民事訴訟法>
(訴状の送達)
第138条 訴状は、被告に送達しなければならない。
(交付送達の原則)
第101条 送達は、特別の定めがある場合を除き、送達を受けるべき者に送達すべき書類を交付してする。
(送達場所)
第103条 送達は、送達を受けるべき者の住所、居所、営業所又は事務所(以下この節において「住所等」という。)においてする。
ただし、法定代理人に対する送達は、本人の営業所又は事務所においてもすることができる。
2 前項に定める場所が知れないとき、又はその場所において送達をするのに支障があるときは、送達は、送達を受けるべき者が雇用、委任その他の法律上の行為に基づき就業する他人の住所等(以下「就業場所」という。)においてすることができる。
送達を受けるべき者(次条第1項に規定する者を除く。)が就業場所において送達を受ける旨の申述をしたときも、同様とする。
(補充送達及び差置送達)
第106条 就業場所以外の送達をすべき場所において送達を受けるべき者に出会わないときは、使用人その他の従業者又は同居者であって、書類の受領について相当のわきまえのあるものに書類を交付することができる。
郵便の業務に従事する者が郵便事業株式会社の営業所において書類を交付すべきときも、同様とする。
【則】第43条
《改正》平17法102
2 就業場所(第104条第1項前段の規定による届出に係る場所が就業場所である場合を含む。)において送達を受けるべき者に出会わない場合において、第103条第2項の他人又はその法定代理人若しくは使用人その他の従業者であって、書類の受領について相当のわきまえのあるものが書類の交付を受けることを拒まないときは、これらの者に書類を交付することができる。
3 送達を受けるべき者又は第1項前段の規定により書類の交付を受けるべき者が正当な理由なくこれを受けることを拒んだときは、送達をすべき場所に書類を差し置くことができる。
(再審の事由)
第338条 次に掲げる事由がある場合には、確定した終局判決に対し、再審の訴えをもって、不服を申し立てることができる。ただし、当事者が控訴若しくは上告によりその事由を主張したとき、又はこれを知りながら主張しなかったときは、この限りでない。
1.法律に従って判決裁判所を構成しなかったこと。
2.法律により判決に関与することができない裁判官が判決に関与したこと。
3.法定代理権、訴訟代理権又は代理人が訴訟行為をするのに必要な授権を欠いたこと。
4.判決に関与した裁判官が事件について職務に関する罪を犯したこと。
5.刑事上罰すべき他人の行為により、自白をするに至ったこと又は判決に影響を及ぼすべき攻撃若しくは防御の方法を提出することを妨げられたこと。
6.判決の証拠となった文書その他の物件が偽造又は変造されたものであったこと。
7.証人、鑑定人、通訳人又は宣誓した当事者若しくは法定代理人の虚偽の陳述が判決の証拠となったこと。
8.判決の基礎となった民事若しくは刑事の判決その他の裁判又は行政処分が後の裁判又は行政処分により変更されたこと。
9.判決に影響を及ぼすべき重要な事項について判断の遺脱があったこと。
10.不服の申立てに係る判決が前に確定した判決と抵触すること。
2 前項第4号から第7号までに掲げる事由がある場合においては、罰すべき行為について、有罪の判決若しくは過料の裁判が確定したとき、又は証拠がないという理由以外の理由により有罪の確定判決若しくは過料の確定裁判を得ることができないときに限り、再審の訴えを提起することができる。
3 控訴審において事件につき本案判決をしたときは、第一審の判決に対し再審の訴えを提起することができない。

<民法>
(自己契約及び双方代理)
第百八条  同一の法律行為については、相手方の代理人となり、又は当事者双方の代理人となることはできない。ただし、債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。
(代理権授与の表示による表見代理)
第百九条  第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、その責任を負う。ただし、第三者が、その他人が代理権を与えられていないことを知り、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない。
(権限外の行為の表見代理)
第百十条  前条本文の規定は、代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときについて準用する。
(代理権消滅後の表見代理)
第百十二条  代理権の消滅は、善意の第三者に対抗することができない。ただし、第三者が過失によってその事実を知らなかったときは、この限りでない。
(無権代理)
第百十三条  代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追認をしなければ、本人に対してその効力を生じない。
2  追認又はその拒絶は、相手方に対してしなければ、その相手方に対抗することができない。ただし、相手方がその事実を知ったときは、この限りでない。

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